二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 虚の旅路 -Story of TERRA BATTLE- ( No.7 )
- 日時: 2015/08/08 22:04
- 名前: 霧桜 ◆U7aoDc6gZM (ID: K3Hf956n)
「何であんた手伝ってくれないんだよ!」
「何故お前の手伝いなどしなければならない!?」
「曲がりなりにも仲間になったろオレは! 仲間なら助けてくれたって良いだろ!?」
「背を預けるに足らない者が軽々しく仲間を口にするなよ!?」
場所は先ほどの酒場に戻る。
ぎゃんぎゃんと、まるで犬の喧嘩のような騒々しさで響き渡るのは、弓使いの男とバルの喚き声だ。テーブル席に着いた彼らは、注文を取るや否やこの様である。店主は注文を持っていこうにも持って行けず、唯一止められる槍使いと老師でさえも、叫ぶ声の苛烈さに近づけない。実力行使を持ち出さないことが唯一の良心だった。
酒場の人々は喧嘩を興味津々の体で眺めている。そして、ソーマニア達を知る幾人かの客は彼らの方を見て、憐みを込めた視線を少し送ってから、またバル達を見ることを繰り返すばかりだ。
「儂が止められなば良いのだが……」
「止めろ爺さん、あんなの絶対殺されちまう」
客の目に配慮したのか、ぽつりと零したソーマニアの声を、男は首を振りながら抑止する。分かっている、と何とも言えず哀愁の籠った声で返しつつ、老師はひょいと椅子から降りたかと思うと、ふらりと酒場の外へ歩いて行った。爺さん何処行くんだ、と焦った声で言いながら、男もその背についていく。
酒場の外、数メートル。石畳の真ん中まで歩みを進めたところで、老師はふっと足を止める。そこまで来ると男も何かを感じたのだろう、ただ黙って立ち止まり、ソーマニアよりも早く空を仰いだ。
麗らかで、雲一つない蒼穹——その色が、くすんでいる。
常人の眼では感じられないその変化を、彼等は感じ取る目があった。それは決して、一般人と旅人の違いと言うだけに留まるものではない。彼等には“資格”があるのだと、余りにもはっきりとした空の昏さが物語っている。
「空が、暗い」
底知れぬものに選ばれた。その事実を直感的に感じたか、男の声が掠れる。
対する老師は、至って飄々としたものだ。
「そろそろ儂等を見つける頃だの。現れたらば、喧嘩も収まるだろうて」
「あのな爺さん、そんな呑気してる場合か? アレが何かも分からんっつうのに」
「そう無碍にするでない。そのアレとやらは儂等の助けになる」
断言したソーマニアは、珍しく無表情だった。普段にこやかな老人が纏った気迫に、男は気圧されつつも、それを声色や言動に見せはしない。ぐっと強く槍を握り込み、平静を繕って答えるだけだ。
「俺らの助けになるって確証は? 却って害にならない可能性はどうなんだ」
「根拠を示せと言うことかね。そんな無理難題を解決できるものがあるなら教えてくれないか?」
「おい、爺さん!」
男が声を荒げるのも無理のない話だろう。仮令意図したものではないにしろ、ソーマニアの口調はいつ何時も飄々として、時と場所次第では人を馬鹿にしているようにも聞き取れる。その声で根拠はないなどと言われれば、非難したくなる気持ちは否定されるものではない。
だが、ソーマニアは真面目だ。かっ、と手にした杖で石畳を一突き、老師は声色低く告げる。
「此処で儂が千万の言葉を尽くしたところで、そんなものはただの言葉だよ。御主の疑問に答えられる本当の根拠になど決してならん。儂が齟齬も偽りもなく言葉に出来るのは結論に限る」
詩句を詠うように紡がれた、厳かさすら覚える嗄れた声に、男は声も出ない。無言の騎士に、ソーマニアは「それに」と一言接続詞を添えて続けた。
「御主とて確信しておろう?」
絶句。男のボキャブラリに、今の言葉への的確な返答はなかった。
一度は技術と蒐集の極致に達し、今尚その片鱗を残すこの世界で、心だけは未だその正体が曖昧なまま。言葉にすることも形にすることも叶わない、所謂第六感はこの男も持っている。
勘の全てを言葉にすることなど出来ない。だからこそ男は沈黙するしかなかった。
「……分かってるよ。それでも、不気味すぎる」
「御主がそう思うからそうなる。仲間の一人二人くらい信じてはどうかね?」
兜越しの視線と、光に乏しい視線と。二つの視線が、両者の真ん中で火花を散らす。
その緊張感が最高潮に達したとき——
それは、来た。