二次創作小説(映像)※倉庫ログ

茜色の焔 ( No.200 )
日時: 2015/07/07 17:43
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: g9MFapnu)

茜は、昴の元に近付くと、その頬をぺちぺちと叩いた。

「ほーれ、そろそろ起きんか。」
「…ん…。」

ぺちぺち、と何かが頬を叩くような、そんな感覚を感じた昴は、ゆっくりと意識を浮上させた。

「おぉ、起きたか。」
「…あ、れ…? 俺…どうしたんだっけ…。」

そしてゆっくりと起き上がり、視界に先程自分を眠らせた男—明羅の姿を入れた時、すべてを理解した。

「お前さんはあの男に隙を突かれて眠らされたんじゃよ。覚えとらんのか?」
「あぁ、そうだった。(もう少し警戒すべきだったな…。)」

自分自身の失態に悪態をつき、傍らに控えていた少女—茜を見る。

「お前が助けてくれたのか?」
「うむ。眠らされて服を引き剥がされそうになっているのを見て、放っておけなくての。」
「引き剥がっ…!? まぁ、いい。ありがとな、助けてくれて。」

昴は茜の頭を撫でる。が、すぐに険しい表情を浮かべた。

「けど、危険な真似をしたのは許せないな。」
「大丈夫じゃよ。わしは強いんじゃ。」
「強くても子供が無茶をするんじゃない。親御さんが心配するだろ?」
「へーきじゃよ。それにわしはひゃあっ!」

反論する茜の服を、昴は後ろからひょい、と持ち上げた。
茜はぷらーんと吊るされたまま、じたばたと暴れだした。

「なっ、何をする! 離せ! 離さんかーっ!」
「無茶しないようにぷらーんさせとくんだ。お前も閉じ込められた子供達の一人だろ? 案内してくれ。」
「その前に離さんか!」
「だーめ。そのまま案内しなさい。」

昴がそう諭すと、茜は観念したように暴れるのを止め、昴を案内した。

「このまま直進してくれんか。」
「了解。」

そして二人は歩き出した。
子供達が捕まっていると言う部屋へ向けて。

茜色の焔 ( No.201 )
日時: 2015/07/07 17:44
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: /9RVPCwZ)

その頃、烈達の部屋にやって来た風花達は、すぐにチーム分けをする。

「俺と陽介先輩、それから明彦さんが昴さんの救出か。」
「地下には恐らく、子供達もいる筈です。子供達の救出も、合わせてお願いします。」
「こっちは、私がバックアップするね!」

烈、紅、陽介、明彦が昴と子供達の救出に向かい、りせが彼等のナビゲートを、

「では、私と直斗さん、由梨さんが魔物の中を突っ切って美鶴さんと千枝さんの救出を。」
「事件も解決しないと行けませんね。」
「危険な道だけど、頑張って。私もナビゲート、頑張るね。」

由梨、直斗、アイギスが美鶴と千枝の救出及び紅葉殺人事件の捜査に向かい、風花がナビゲートをする事になった。

「そうだ。りせ、風花。これやる。」

由梨は分厚い本を、りせに渡した。

「これは?」
「色々な絵が描いてあるね。あっ、もしかしてこれ…魔物図鑑?」
「ああ。多分、さっきの奴等はアタシの世界にいた奴等だ。これには魔物の特徴と、弱点及び耐性等のデータが載ってる。参考にしてくれ。…りせ、アタシ達の属性相性は大丈夫か?」

そう、由梨が問うと、りせは頷いた。

「大丈夫。こんな日が来るかと思って、理乃センパイに教わって頭に叩き込んどいた。」
「後で風花にそれをリークしてやれ。風花はお前みたいに馬鹿じゃないからすぐ覚えるだろ。」
「むっ! ひどーい! 由梨センパイ! 私バカじゃ」
「…中の下くらいの俺より成績低くて毎回赤点ギリギリ、下手すれば赤点教科がある中で馬鹿じゃないって言う方がおかしいだろ、りせ。」

反論するりせも、この烈の言葉には黙り込んでしまった。

「…りせちゃん、お勉強はした方がいいよ?」
「い、いいもんっ! いざとなったら通訳つけるもんっ! ほらっ、みんなさっさと行く!」

急かすようなりせの言葉に、全員外に飛び出していった。

「…風花さん。」
「うん。」

りせは恋愛のアルカナが描かれたカードを出し、風花は銃型の召喚器をこめかみに当てた。

「カンゼオン!」
「ユノ!」

カードを手で破壊し、引き金を引けば、りせの前にはカンゼオンが、風花を纏うようにドレスを着て翼のようなものを生やしたペルソナ—ユノが現れた。

「ヴォルトさん、護衛、よろしくお願いしますね。」
『…。』

風花が声をかけると、ヴォルトは頷く。その表情は、どこか頼もしい。

「…さぁ、救出作戦、開始だよ!」
「うん!」

りせの手に力が籠る。頼もしそうな表情を浮かべ、風花と共に周囲のサーチを開始した。

茜色の焔 ( No.202 )
日時: 2015/07/07 17:48
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 0JVd9KgH)

その頃、地下…。

「ここじゃ。ここに、子供達が閉じ込められておる。」
「ここか…。」

昴と茜は、子供達が閉じ込められていると言う場所にやって来た。

「部屋は、このカードキーで開く筈じゃ。」

茜は懐から先程明羅から盗んだカードキーを出し、昴に渡す。
昴はそれを受け取り、カードリーダーにスキャンさせた。
ピッ、という電子音の後、扉が開かれ、寄り添う子供達がこちらを一斉に見た。

「あかねちゃん!」
「おー、元気そうで何よりじゃ。もう大人の人を連れてきたから、大丈夫じゃよ。」

子供の一人が茜に抱き付き、仲睦まじく話をする。他の子供達も、茜に向かって集まってきた。
その姿に、昴はホッと安堵の息を吐いた。

「よかった、元気そうで。…みんな、怪我とかはないか?」
「うんっ! みんな、げんきだよ! おはなしとか、じゃんけんとかして、いっぱいあそんでた!」

恐怖を紛らわせる為に、色々な事をして遊んでいたのか、子供達はみんな笑顔だ。

「…何にせよ、元気そうでよかった。(…けど、流石に俺一人でこの大量の子供達連れ歩くのもな…。)」
『昴さんっ!』

困り果てた昴の脳裏に、りせの声が響く。

「…! りせか!?」
「…?」

突然声をあげた昴に、茜は首を傾げている。どうやらりせの声は彼女には聞こえていないらしい。

『よかった! 無事だったんだ! あのね、昴さんを連れてった男、風花さん達が追っている男だったの!』
「そうだったのか…。悪いな、心配かけて。そうだ、りせ。誘拐されていた子供達を見つけた。けど、結構な人数だから、俺一人で護衛できる自信がないんだ。誰かこっちに呼んでくれるか?」
『大丈夫! 昴さんと子供達を救出しようと、烈と紅、花村センパイと真田さんが向かってるよ!』

呼ぶ手間が省けて良かったと思う半面、自分が油断したせいで烈達の手を煩わせる結果になり、昴は申し訳ない気持ちになった。

「…。」
『んな気負うなよ、昴さん。思い出せなかった俺も悪いんだしさ。』
「(…烈?)思い出せなかったって…?」
『俺、アイツに会った事あるんだ。詳しくは、後で話すけどさ。…俺が思い出してれば、昴さんをこんな目に遭わさずに済んだのに…。』

悔しそうな烈の声に、昴は少し微笑みを浮かべた。

「(十二年前の事、話してくれる気になったのか、烈。)気にすんなって。無事でいられたし、いいよ。」
『…ああ。』
『仲良く会話してるとこゴメン! 昴さんのいる場所の近くにモンスターの反応!』
「モンスター!?」
『上に急に大量に現れたんだ! 由梨ちゃんが言うには、自分の世界から来た奴等だろうって!』

りせの次に聞こえた陽介の言葉に、昴は疑問符を浮かべた。

(由梨の…桜学がある世界からか? 同じノートの世界とは言え、あっちとこの世界は別物だから、世界を越える力でもない限りモンスター達が来る訳ない筈…。)
『昴さん、考えるのは後!』
「…だな。」

思案に明け暮れていたが、りせの声で打ちきり、茜をむんずと掴んだ。

「あかね、つったか。これから、お姉ちゃんは怖いお化けとドンぱちやらなきゃいけないんだ。だから、ちゃんといい子に閉じ籠ってろよ?」
「へ?」
「そっちにいる子達ー。今からあかねちゃん投げるから受け取ってやってなー。」
「はーい!」

子供達が元気よく返事をすると、昴は頷いて茜をぽーいと投げた。

「おわあぁぁぁぁっ!?」
「よい、しょっと!」

少し大きい子供が茜を受け取ったのを確認すると、昴は再びカードキーを使い、扉を閉めた。

『昴さん、俺達もすぐに向かう!』
『それまで耐えていてくれ!』
「なるべく早く頼む。正直…。」

陽介と明彦の声に答えると同時に、右側からやってきた茶色のスライム—アーススライムに蹴りを食らわす。だが、衝撃を吸収され、大したダメージはなかった。

「ここまで多いとキツイっつーの!」

大量の蠢くスライム達を前に、昴は大声で悪態をついた。

茜色の焔 ( No.203 )
日時: 2015/07/07 19:26
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: g9MFapnu)

『敵、えっと、アーススライム! 七海センパイと理乃センパイだから…風属性が弱点だよ! 一体一体は弱いけど、数が多すぎるから注意して!』
「ざっと何体だ!?」
『…聞きたい?』

絶対微妙な表情を浮かべているであろうりせに、昴は「いや、いい。」と答える。聞いたら一気に戦意喪失しそうだと気づいたのだろう。

『りせ、昴さんとこにいるのはアーススライムだけか!?』
『あ、うん! 他の種類はいないみたい!』
『昴さん、俺が【スクカジャ】使ってそっちに行く!』
「頼む! あ、安全運転で来いよ? タマぶつけて戦闘不能状態で来たら逆に足手纏いだから。」
『』

昴のその願いに、陽介からの声が聞こえなくなった。

『何だ、花村。タマを打っただけで戦闘不能か。情けない。もっと下半身を鍛えろ。』
『いや、誰だってタマぶつけたらそうなるだろ明彦さん!』

呆れる明彦の声に、烈が盛大なツッコミをいれる。普通はそうだろう。うん。

(…陽介の思いはありがたいが、大丈夫だろうか…。)

不安はあるが、一人よりも二人。手が増える事は昴にとってありがたい事だった。

(俺はその間に何としてでも耐えないとな。)

ノートを握る手に、力がこもる。
その脳裏には、絶えず以前起こった、笛吹男事件が出てきていた。

(あんな怖い思いを、子供達に抱かせたくない。もう二度と、絶対に…!)

恐怖心を子供達に抱かせたくない。昴はその一心で、ノートを構えた。

「(理乃のスキルの方が威力は高いが、その分詠唱中の隙もでかい。ここは高めの威力を保ちつつ隙が小さい方を選ばないとな…!)スキルコンバート、花村陽介! 行くぞ、スサノオ!」

現れた魔術師のカードを、思い切り砕く。そして、背後に現れた陽介のペルソナ、スサノオに、高らかに命ずる。

「【マハガルダイン】!」

命令を聞き届けたスサノオは、昴の周りに突風を吹かせた。
その突風に巻き込まれたアーススライム達は、弾けるように膨れ上がり、破裂して消えた。小さな子供の、骨を残して。

「なっ…えっ…!?」

カラン、と音を立て、落ちるソレを見て、昴は混乱した。

『あ…す、昴さん、ごめん…! 伝え忘れてた…!』
「り、りせ! これはどういう…!」
『このスライム達、倒れると子供くらいの骨を残すの…。理由は分かってないんだけど、アイギスさんが言うには、死んでから十年以上経っているみたい。』
「…十年以上前の骨…?(いや、まさか…それはないな。)」

脳裏に過らせたのは、昨日見た新聞記事のデータ。
十二年前の火災事件と何か関係があるのでは、と一瞬だけ考えたが、それは杞憂ではないかと悟る。それに、今はそんな事を考えている場合ではない。

「(後で理乃にでも調査をさせればいい。魔物関連の事案は、アイツの方が専門だ。今は、この場を何とか切り抜けないと…!)あーもぅっ、早くこい陽介!」

泣き言を言った瞬間、突風が吹き荒れた。
昴はすぐに、この攻撃を放った人物が分かった。

「おまたせっ、昴さん!」
「おせーぞ陽介!」

上空から、【スクカジャ】で飛ばしてきた勢いそのままに、昴目掛けて飛んでくる陽介。
ここで上手く昴の横に着地…。

茜色の焔 ( No.204 )
日時: 2015/07/07 19:35
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: /9RVPCwZ)

「へぶぅっ!!」

出来ればよかったのだが、昴を通り越し、彼女の近くにあった資材置き場に盛大に突っ込んだ。
…流石ガッカリ王子。期待を裏切らない男だ。

「…。」

昴も、スライム達も、ピクリとも動かない陽介を見たまま、固まる。
…一瞬、時間が止まったこの世界。そして…。

「…昴、さん…スンマセン…。」
「…うん、その先の絶望を齎す言葉を敢えて聞こうと思う。…打ったんだな。」
「はい…打ちました…。盛大に…タマを…。」

昴を絶望に叩き落す言葉を、苦悶の表情で吐き出した。
…この言葉に、敵を含む全員、止まった。

「…はぁ…。」

昴は盛大な溜息をつき、そして…。

「馬鹿野ろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

盛大に叫んだ。ええ、もう本人も驚く程、盛大に。辺りに聞こえる程に。

「おい、安全運転で来いっつったよな!? あぁっ!? 何でこんな状況でタマ打って戦闘不能になってんだよ!! あぁっ!?」
「す、スンマセン…。(うぅ…返す言葉が無い…。)」

助けに来たつもりが、逆に足手纏いになってしまった事に、陽介は痛むタマを押さえ悶絶しながら、全力で怒りをぶちまける昴に謝罪をした。
怒りの色を濃くする昴目掛け、水色のスライム—アイススライムが飛びついた。
そのまま倒れこんだ昴は、ノートを取り落としてしまった。同時に、スサノオも消える。

「! しまっ、うわっ!!」
「昴さ、うわあぁっ!」

陽介の下にも、残っていた大量のアーススライムが飛びつき、身動きが取れなくなった。
スライムに押し倒された昴は、のしかかる重圧に顔をゆがめる。

「お、重っ…!(ま、マズイ、このままじゃ、圧死する…!)」

このままスライム達が乗られていると、スライム達の重量に体が潰されてしまう。
陽介も、このまま無事に行くとは思えない。死を覚悟した昴は、思わずぎゅっと目を閉じた。

茜色の焔 ( No.205 )
日時: 2015/07/07 19:38
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: g9MFapnu)

「まったく、情けないのぅ。」

その言葉が聞こえたと同時に、突然、熱が昴を襲った。

「え…炎…!?(でも、これは烈じゃ、無い…!?)」
「まぁ、多勢に無勢という言葉もあるし、それにそっちの坊やは今動けないから仕方無いかの。」
「! お前…!?」

そこにいたのは、茜だった。左手には、赤々と燃える焔がある。またダクトを伝って抜け出したのだろうか。

「危険だから中に入ってろって言ったろ!?」
「わしに助けられたお前さんが言う台詞かの?」
「ぐっ…。」

茜の言う通り、助けられたのは事実だ。昴はノートを拾い、陽介の周りにいるアーススライム達を、再び召喚させたスサノオの【マハガルダイン】で退け、【ディアラマ】で回復してやる。

「でも今ので敵さん、粗方減ってきたみたいだな。りせ、状況は!?」
『烈達はまだ来れないみたい! でも、敵もその分減ってるから大丈夫! 個体としてはアイススライムが増えたけど、アーススライムは全滅したよ! 後は烈か由梨センパイか雪子センパイのスキルでやっちゃえ!』
「了解! あかね、子供のお前に頼るのも悪いが、今はお前が頼みの綱だ。炎属性の力を使える仲間が今向かっているんだが、こっちに到着するのは時間がかかる。」
「うむ。最初からそう言えばいいんじゃよ。」

茜は再び焔を出し、昴もノートを構える。

「スキルコンバート、赤羽烈!」
「(!? 烈、じゃと…!?)お主…まさか、炎属性の仲間って…。」
「ん? ああ。あかねもポップンやるのか? そいつのつぎドカ!ってイベントで登場したあいつ。」
「(やはり、こやつらも烈の仲間か…。烈も、この船に乗っておったのだな…。)知っておるよ。烈については、ポップンで出ている知識以上にの。」

少しだけ、茜が嬉しそうな表情をして、アイススライム達に向かっていく。
昴はその態度にちょっとだけ疑問に持つが、左手から焔を出し、駆け出した。

「…なんか、俺、ダメダメだな…。」

一人、タマの痛みと戦いながら、呟く陽介だった。

茜色の焔 ( No.206 )
日時: 2015/07/07 19:42
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 0JVd9KgH)

昴と茜の特攻により、何とかアイススライム達を全滅させ、一息ついていた。

『…うん、昴さん、敵、全滅したよ! 烈達ももうすぐ来るみたい。』
「さんきゅ。…ふぅ…。」

緊張が解けたのか、昴は腰を落とし、座り込んだ。

「張り詰めておったようじゃの。じゃが、お主らのお陰で子供達は全員無事じゃよ。」
「あかねも、ありがとな。子供ながらに凄いな、お前。」
「わしはもう子供じゃないぞ?」
「は?」

茜が告げた言葉に、昴と陽介は思わず面食らう。

「い、いやいや。その外見で子供じゃないっておかしいだろ?」
「こう見えても、わしには孫がいるんでの。」
「孫おっ!?」
「え、お前って、結構なばーさんなの!?」

驚く二人が面白いのか、茜はコロコロと笑い出す。
口を開けたままぽかんとしている二人に、後ろから声がかかった。

「昴さん!」
『神! 陽介!』
「二人共、無事か!?」

待ちわびた、烈と紅と明彦だった。

「明彦! 烈!」
「おせーぞ二人共!」
「タマ打って戦闘不能になっていた先輩に言われたくないんだけど。りせから聞いたぞ。」

痛烈な烈の言葉に、陽介はがっくりと項垂れてしまった。

「昴さん、子供達は!?」
「安心しろ、全員無事。今は、この中にいるよ。このカードキーで開く。」

昴は明彦にカードキーを渡し、明彦は受け取ると、すぐに子供達がいる扉を開けた。

「でも、無事でよかったよ。まぁ、そうそうやられるタマじゃないって分かってたけど、やっぱり…心配だったから。」
「お前に心配されるなんて、俺もヤキが回ったかなー。」
「ひでぇ! 折角心配してやったのに!」

仲がいいのか悪いのか。烈と昴はじゃれあいを始める。だが、二人共笑顔だ。こうして無事に会えた事に、笑みを浮かべずにはいられなかったのだろう。

「それよりも、あかねっつったか? 孫がいるってどう言う事だよ。」
「ん? そのままの意味じゃよ? のう、烈や。」
「へ?」

陽介の影から呼ばれた自分の名前に、思わず陽介の方を見る烈。陽介も昴も、茜に注目した。

「…ばっ…ばっ…!」
「ばっ?」

茜の姿を確認した烈は、彼女を指差し、わなわなと震えた。そして、衝撃の一言を放つ。

「“ばーちゃん”!?」
「ばーちゃん!?」

いきなりのばーちゃん宣言。これには陽介と昴も思わず聞き返した。

「え、ちょっと待てよ! 何でばーちゃんがここにいるんだよ!?」
「子供の能力者として捕らわれの身になっとったんじゃよ。」
「ばーちゃん、それ、母さんが聞いたら嘆きそうだぞ。…連絡が取れなくなったと思ったら、それが原因かよ…。母さんも親父もアイツも心配してたぞ。」
「やー、すまんのー。まさか子供に見られるとはのー。」
「ごめん、どう見ても孫の俺からしてもばーちゃんは子供にしか見えないんだけど。」

昴と陽介を無視し、話し続ける烈と茜。
疑問に答えてくれそうに無いので、二人は昴の肩に止まっている紅を見る。状況説明をお願いしてほしいという、懇願の目で。

『…黒の記憶でしか会った事はないが…。彼女の名は赤羽茜。…烈の、母方の祖母にあたる。正真正銘、烈は茜の…孫だ。』
「…。」

紅の説明に、昴と陽介はもう一度茜を見、紅を見、茜と烈を見…そして…。

「う、う、う…嘘だろおぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

二人して、船の外に響くんじゃないかというくらいに叫び出した…。

茜色の焔 ( No.207 )
日時: 2015/07/07 19:44
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: g9MFapnu)

改めて、自己紹介をした後は、外に出る事に決めた。

「ふむ。あ奴の記憶と力を元に生み出された存在とな…。世の中は不思議な事もあるものじゃの。」
『まぁ、そう見えぬかもしれないが、彼女は確かに神だ。それくらい、造作もあるまい。』
(…造作も無い訳じゃないけど…まぁ、いいや。)

紅は自分の事を話し、茜と意気投合していた。

「しかし、わしに新しい孫がのー。あの子が産んだ訳ではないが、その鏡とやらも、孫同然じゃ。会ってみたいのー。それに、リリィと言ったかの。居候と言っているが、ゆくゆくは酒屋を継いでくれるんじゃろ? なら、孫も当然じゃよ。それに、烈の彼女を見てみたいのー。」
「お、俺はまだ氷海とはそんな関係じゃねぇよ!」
「ほー、氷海と言うのか。お前の彼女は。」
「病院の院長の娘さんだ。あっちも一人っ子だから、多分烈が婿養子になるな。それと、烈から惚れた訳じゃなく、向こうから好きになったんだ。あっちの親も認めてる。」
「院長の娘とな!? ほぅ…なかなか好条件じゃの…。」

昴の話にニヤニヤし出す茜。それに烈が食って掛かる。

『けど…烈にあんな子供みたいなお祖母ちゃんがいたなんてねー。ポップンで確か茜さん出てたけど、本当に烈のお祖母ちゃんだったなんて…。』
「そんなに驚いたかの?」

ちなみに、りせは既に茜に聞こえるよう通信を繋げている。

『だって、私の思うお祖母ちゃんじゃないから、ビックリだよ…。私、暫くお祖母ちゃんのお豆腐屋に住んでたから、お祖母ちゃんってよく分かってる方だと思ったけど、まだまだ奥が深いねー。』
「うちのばーちゃんが特殊なだけだと思う。…そうだ、ばーちゃん。聞きたい事があったんだけど。」
「なんじゃ?」

烈は、茜の戦いを見て、ある疑問が心に生まれた。

「…この、力の事。」

ポッ、と左手に焔を宿す烈。
黒によって与えられたこの力。そう、思ってきたが、茜はこの力を扱っていた。

「この力って一体何なんだ? 俺、ずっと黒に貰った力だって思ってたけど、ばーちゃんもこの力使えるよな?」
「…。」
「なぁ、ばーちゃん、教えてくれよ…。この力って、何なんだ? 何で、ばーちゃんも使えるんだ? …黒って一体、何なんだ?」
「…。」

茜は何も答えずに、歩き出した。

「…ばーちゃん、俺、知りたいんだ。だから…。」
「今は、子供達を外に出す事が先決じゃ。…後で、無事に家に着いたら話してやる。…本当は、お前が二十歳になってからこの事を話をしたかったが…。これだけは最初に言っておく。…この力は、あの子も…お前の母親も徐々に扱えるようになる。ゆくゆくはお前も使えるようになる…筈だった。筈だった、のじゃ。」
「…。」
「一族に伝承される力、だったって事か?」

唐突に知った力について、何も言えなくなった烈に、昴が訊ね、茜が頷いた。

「…話の続きは、後にした方がよさそうじゃ。」
『そうだな。物凄い熱量を感じる。』

何かを感じた茜と紅が、警戒を始めた。扉越しに伝わる重圧を感じたのか、全員、身構えた。
明彦は子供達を下げさせ、身構える。

「りせ、敵は?」
『その扉越しに、強い力を感じるよ! 気をつけ…きゃあっ!』

りせが突然悲鳴を上げたので、昴は驚いた。

「りせ、どうした!?」
『ゴメン、昴さん! そっちに集中できない! 敵が私達のいる部屋に入ってきたの! 今、ヴォルトさんが何とか凌いでるけど…!』

どうやらりせと風花のいる部屋に敵襲があったようだ。そして、りせもナビどころでは無いようである。

「りせは何とかそこから逃げろ! こっちのナビは俺がやる!」
『ご、ゴメン! お願い!』

その言葉を最後に、りせの通信が切れた。

「くそっ、どうしてこんな時に…。」
「りせも心配だが、この先にいる奴を倒さないと、俺達も危ない。」

昴はじっと、扉の先を見つめた。
熱量はどんどん、上がっていく。そんな気がした。

茜色の焔 ( No.208 )
日時: 2015/07/07 19:45
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 0JVd9KgH)

風花達の異常は、由梨達にも伝わっていた。

「…通信が切れましたね。」
「だな。流石に敵に囲まれれば通信どころじゃない。…ヴォルトの奴、上手く立ち回ってくれるといいが…。」
「早く美鶴さん達を救出して、事件を解決させて合流しましょう。」
「…そうだな。だがその前に…。」

由梨はちらりと、前方を見た。
そこには大量のスライム達が蠢いている。個体はどれも、バラバラだ。

「…このスライムの難所を通り抜けないとな。」
「こんな時に限って…。」
「嘆いている暇はありません。早々に敵を殲滅しなければ…。」
「直斗、アイギスの言う通りだ。…ここでアタシ達がもたもたしてたら、りせ達が危ない。それに、昴さん達だってもしかしたら…。」

アイギスと由梨の喝に、直斗は一つ溜息をついた。

「嘆くつもりはありませんでしたよ。…一気に切り抜けましょう!」
「ああ!」
「了解であります!」

直斗はスクナヒコナを出し、由梨は剣を構え、アイギスは腕の機関銃に弾を装填し、駆け出した。





狂い出し、軋み出しても尚回り続ける歯車。

(…由梨、みんな…! 無事でいて…!)

その歯車をあるべき姿へ導かんとする者達が、集まろうとしていた…。











「なぁ、茜って何者? 本当に烈の婆さんなわけ?」

ここまで振り返ってから真っ先にジャンが口にしたのはそれだった。

「烈本人がばーちゃん言ってるんだし、本当なんじゃないか? あるいは、祖母のように慕ってるとか。」
「いまいちよくわからねぇんだけど、あの家。酒の仕入れルート含め。」
「それは同意。」

若干目を死なせながら、昴が同意してくれたので、ジャンはここで話を打ち切った。

「しかし、同時に三ヶ所で絶賛ピンチ中とか大変だったな。」
「うん、まぁ、割と大変だったが、大丈夫だったよ。心強い救援が来たからな。」

昴はそう言いつつ、創世ノートのページを捲った。







感想ok