二次創作小説(映像)※倉庫ログ

クマにできるコトしたいコト ( No.23 )
日時: 2015/05/20 16:40
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 8NwmyZQz)

林間学校も終わり、笛吹男が子供達を誘拐した事件が解決を見せてから、数週間。

「〜♪」

クマはいつものように、アルバイトに精を出していた。

(これはこっちに陳列するクマ。それからそれから…ん?)

ふと、声が聞こえた気がして、クマは手を止めた。

「わーんっ!」

そこには、小さな女の子が泣きじゃくっていた。迷子だろうか。
周りの大人達は声をかけるも、女の子は泣きじゃくるばかり。話にならないようだ。

「あれ…?」

クマは、その子供に見覚えがあった。

(あの子は…やっぱりそうクマ!)

商品の陳列を他の人に任せ、自分は女の子に近寄る。

「ひっぐ、お、おかーさん…!」
「あ、やっぱりそうクマ!」
「ふぇ…?」

女の子は、ちらりと声が聞こえた方を見て、笑顔を見せた。

「クマちゃん!」
「久し振りクマね。おかーさんと一緒じゃないクマか?」
「は、はぐれちゃったの…。」
「そうクマか…。よしっ、じゃあ、クマと一緒にお母さんを探しに行くクマ!」

クマがそう言って、女の子に手を差し伸べた。

「うんっ!」

女の子はクマの手を握り、一緒に歩いていく。

(…まだ、あのジケンから日が経ってないクマ…。すごく、不安だったクマね…。)

そう、この女の子は笛吹男事件の被害者だったのだ。それを知っていたクマは、放っておけなかった。

(おかーさんと会わせてあげるクマ。きっと店にいるクマ。)

暫く、二人で楽しい話をしながら歩いていく。

「クマちゃん、かのじょとかいないのー?」
「まっ、おませさんクマねー♪ クマの好きな人はー、ヒーチャンとー、リンチャンとー、セッチャンとー、ボタチャンとー、アリチャンとー、ユキチャンとー、チエチャンとー、リセチャンとー、ナオチャンとー、ナナチャンとー、リリチャンとー、セシチャンとー、リノチャンとー、ユリチャンとー、ツキチャンとー、ナミチャンとー、何と言っても忘れちゃイカンのが」
「お前の事だからどうせ昴さんだっつーんだろ?」
「つか、氷海は完全に烈に思いを寄せてるから無理だし、千枝だって陽介と付き合ってるし、直斗だって凪に一途だし、鈴花だって完二と満更でもないし、アリシアだってエージェントと恋仲だし、菜々子ちゃんに会うの堂島さんから禁止されてるだろお前。あと、リリィまで狙うかこのロリコン。ストライクゾーン広すぎだろ。」
「グマァッ!」

とてつもなく鋭い言葉の刃が、クマを貫いた。その鋭さに、クマはがっくりと膝をついて項垂れてしまった。

「ううぅ…シドイクマ…。」
「クマちゃん、だいじょうぶ?」

クマは女の子によしよしされて、少し元気になったようだ。

「俺達は事実を言っただけじゃねぇか。なぁ、昴さん。」
「だよな、烈。」

どうやら鋭い刃は、昴と烈によってもたらされたようだ。

「それよりも、その子の親、インフォメーションセンターで待たせてるんだから、さっさと行くぞ。」
「えっ、そうクマか?」
「ああ。母親からの依頼でその子を探していたんだが、お前に会っていたとはな。…一緒にいたのがお前でよかった。」

そう言ってから、昴は少し屈んで、女の子と同じ目線になった。

「もうすぐ、お母さんと会えるよ。だから、クマさんやお姉ちゃん達と一緒に行こうね?」
「うんっ! ありがと! かみさまのおねーちゃん!」

昴は笑顔を浮かべ、女の子を撫でてあげた。
そして三人はインフォメーションセンターへと向かっていった。そこには、心配そうな表情を浮かべた女性がいた。女の子の母親だろうか。

「あっ、おかーさん!」
「…! あぁ、よかった! 無事だったのね!?」

女の子はクマの手を離し、母親に駆け寄っていき、その体に小さな腕を回した。
母親はしっかりと女の子を抱き締めてから、昴とクマに向き直った。

「ありがとうございました! なんとお礼を言っていいか…!」
「かみさまのおねーちゃん、クマちゃん、ありがとー!」

母親と女の子の礼に、昴とクマは笑顔を見せる。

「これが仕事ですから、気にしないで下さい。」
「そうクマ! 困った時はお互い様クマ! …お母さんと会えてよかったクマね。」
「うん!!」
「もう、お母さんの手を離しちゃ駄目だぞ?」
「うん! ぜったい、おかーさんといっしょにいる!」

女の子は満足気に、昴に向けてそう言った。昴も思わず笑みを見せ、頷いた。
そして親子は手を振りながら、その場を後にした。

「…ところで、何でレツとスーチャンは一緒にいたクマ? まさか、デート?」
「ちげーよ馬鹿。昴さんの気分転換に付き合ってやってくれって鏡に頼まれたんだよ。」
「それをデートというクマ! レツ、ずるいクマ! クマだってスーチャンのバインバインなおムネをクマのおムネに当てながらよしよししたかったクマ!」
「…クマ、寮に帰る前に神殿寄れ。説教部屋で話し合いしような? なっ?」

創世ノートを構えて準備万端な昴に、クマはびくりと体を震わせた。

「す、スーチャン、冗談クマ! だからノート構えないでほしいクマッ!」
「お前が構えさせる原因作ったんだろうが。…ふぅ…。」
「…? レツ、どしたクマ? 何か、元気がないクマ…。」

烈が溜息をついたのを見て、クマは心配になって尋ねた。

「ん、あ、いや…。ここ数日、何か、寝付けなくてさ…。」
「みたいだな。目の下にくまができてるぞ。」
「それに、最近何だかゲンキがないクマ…。いつもは、ウヒョーイ! みたいなカンジなのに、今はしょんぼりなカンジクマ…。」
「どんな感じかよくわかんねぇよ。」

クマの表現に烈は苦い顔を浮かべるも、自分でも分かっていた。元気がない事も、その理由も。

「…。」

烈の浮かない表情を見て、クマは胸をグッと押さえるも、何も声をかけられなかった。

クマにできるコトしたいコト ( No.24 )
日時: 2015/05/20 16:51
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: FYh/B0LU)

夜、クマは一人、寮のベランダでぼんやりとしていた。

「どーしたんだよ、クマ吉。一人で黄昏てよ。」
「ヨースケ…。」

そんなクマを見た陽介は、隣のベランダから声をかけた。

「…クマ、最近チョットシンパイクマ…。」
「何が?」
「レツとスーチャンクマ。二人共、最近何か…ゲンキがないクマ。何か、大きなものを抱えてて…潰されそうになっている。そんな気がするクマ…。」
「…。」
「スーチャンはまだこの間の笛吹男事件を根に持ってるって言うのはわかるクマ…。同じようなコトがあったら、きっと壊れちゃうクマ…。レツは、何があったか分からんクマ…。でも、きっと、ヒーチャンのシャドウが言っていたあの炎の建物に関連すると思うクマ…。」

陽介は、クマの言葉を黙って聞いていた。そして、考えた。

(風雅が調べてくれた、烈の過去…。それで、最近元気がないんだとしたら…。)
「あとシンパイなのは、キョウクマ。」
「鏡?」

特に変わった事がないように思えた陽介は、クマの言葉に思わず聞き返した。

「キョウ、クマが見た限りだと、スーチャンにトクベツな思いを寄せていると思うクマ。…その思いがヒーチャンのように歪まないとも限らんクマ…。だから、シンパイクマ…。」
「…昴さんへの感情か…。俺は同じくらいに、理乃ちゃんも心配だ。」
「リノチャン? 何でクマ?」

首を傾げるクマ。陽介のその感情が全くわからないのだ。

「…林間学校の時に、烈が理乃ちゃんと話をしていたんだ。その時にアイツが、“似た者同士”って言っていた。…烈の過去が本当なら、理乃ちゃんもとてつもなく重い何かを背負って来たんだろうな…。」
「…レツのように、その過去を思い出したら…きっとリノチャンも苦しむクマね…。」
「多分な…。」

二人の間に、微妙な空気が流れた。

「心配ないさ、二人共。」

そんな空気を打ち破るかのように、クマのいるベランダに続く窓から、悠が出てきた。

「どういう意味だよ、相棒。」
「フッ、陽介。俺を誰と心得る。」
「もうただの変態としか心得てねぇんだけど。」

陽介のこの鋭い返しに反応せず、いい笑顔を見せた。

「俺は、全コミュマスターだ。そんな傷くらい癒してみせる! ただし昴さんと理乃限定で!」
「…。」

流石にこの言葉には、陽介はおろか、クマさえも黙り込んだ。

「…センセイ。」
「何だ? クマ。」
「…ちょっと、本気で黙っててほしいクマ。クマ、ヨースケとお話ししてるクマ。センセイがそんなんだから、レツもスーチャンもヒーチャンもリンチャンも、センセイとコミュを戻そうとする気がないクマ。クマ、わかるクマ。」
「ぐはあっ!」

悠は変な奇声をあげながら、倒れ込んだ。
どうやら戦闘中の時に砕かれた絆は、普通に話は出来る程に回復はしたらしいが、まだ再びコミュ活動を出来る程は回復していないようだ。

「…ヨースケ、クマは、レツやスーチャンに何が出来る?」
「えっ?」
「クマね、最近、クマに出来るコトを探してるクマ。あのジケンの時、子供達と遊んで、思ったクマ。シャドウであるクマにも、出来るコト。」

自分は人間ではない。テレビの中にいるシャドウと同等の存在。
そんな自分でも、出来る事。クマはそれを模索していた。

「クマ、スーチャンがスキクマ。レツがスキクマ。キョウも、リノチャンも、みんなダイスキクマ。だから、泣いてほしくないクマ。苦しんでほしくないクマ。みんなが苦しまないように、クマが出来るコト。それはなんだろうって、ずっと考えてるクマ。」
「クマ…。」
「ヨースケやナナチャンが教えてくれた。クマのいていい場所。その場所に、スーチャン達が入ってきてくれた。だから、スーチャン達はもう、クマ達のナカマ。ナカマが泣いていたら、みんなで助けたい。そう思うのが自然だと思うクマ。だから…クマ、スーチャン達を、何とかしてあげたい。」

気付かぬ内に大人びた表情をするクマに、陽介は思わず手を伸ばした。
そして、ぽんぽんと頭を撫でる。ベランダとベランダの間の距離は近いので、こういう事が出来るのだ。

「…クマ、お前、成長したな…。」
「クマがセイチョーしたのは、ヨースケのお陰クマ。」

そう言ってクマは陽介に向けて、ぺこりとお辞儀をした。

「アリガト、ヨースケ。」
「…礼を言われる筋合いはねぇよ。クマ、この成長は、お前が望んだ事だろ?」
「…望むだけじゃ、セイチョーできないクマ。望んで、ヨースケ達から色々学んだから、セイチョーしたんだクマ。」

クマは夜空をあおぎ、

「クマ…強く、なりたいクマ…。」

そう、ポツリと呟いた…。

クマにできるコトしたいコト ( No.25 )
日時: 2015/05/20 16:57
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: FYh/B0LU)

夕焼け空、クマは一人、鼻唄を歌いながら河川敷を歩いていた。

(今日は早く仕事が終わったクマ。珍しいコトもあるクマ…。)

いつものキグルミ姿なので、ピョコピョコと可愛らしい足音が鳴り響く。

(…オヨー?)

音は、突然止む。
クマの視線の先には、見慣れた赤い髪が、風に揺らいでいた。

(あれは…レツクマ。一人で何して…ん?)

風に流れて、烈からキラリと光る何かが、横切っていった。

(レツ…? 泣いてるクマか?)

クマは一歩を踏み出す。が、その足はすぐに止まった。

「悪いが、もう少し一人にさせておいてくれんかの?」

誰かが、クマの腕を掴みながら、そう言ったからだ。
クマが振り向くとそこには、オレンジ色の髪をひとつに結った少女がいた。
烈と同じ赤い目が、クマをまっすぐに射抜く。

(レツと同じ目クマ…。)

力強く揺らめくその目に、クマは思わず緊張した。

「昔を思い出して辛いんじゃ。だから、暫くはあの子の気の済むままに、泣かせてやってくれ。あの子はああ見えて、プライドは高いからの。」
「わかるクマ。レツは、人一倍我慢強くて、負けず嫌いで…壊れそうクマ。」
「…烈の、お友達かの?」

少女が問うと、クマは大きく頷いた。

「レツとはナカマのカンケイクマ! お嬢ちゃんこそ、レツの知り合いクマか? おメメがレツそっくりクマ!」
「あっはっは! まぁ、そんなところじゃよ。」

愉快そうに笑う少女に、クマも笑顔になった。
が、少女は突然笑い声を止め、少しだけ溜息をついた。

「…こんな愉快な仲間が一緒ならば、烈も大丈夫かの…。」
「ん? 何か言ったクマ?」
「ん、いや、何でもない。…これからも烈を頼む。あの子はまだ、弱くて…とても不安定じゃからの。」
「何だかよく分からんけど、任せるクマ!」
「…うむ。」

少女の心に何が宿ったかはわからないが、優しい、穏和な笑顔でクマを見てから、坂道で座り込み、膝を抱えて震える烈の姿をみる。
そしてクマを掴んでいた腕を離し、たっ、と駆けていった。

「あっ!」

クマは追いかけようとしたが、その姿はすでにない。

「行っちゃったクマ…。」
「誰がだよ。」

不意に、下から聞きなれた声が聞こえた。烈だ。

「あ、レツ。今ね、レツそっくりなおメメの女の子がいたクマ! レツの知り合いクマ?」
「俺そっくりな目? んー…あ。」

烈は暫く考えていたが、思い出したのか、ぽんと手を打った。

「あ、あー…女の“子”、ねぇ…うん。」
「どしたクマ?」
「あ、いや、何でも。確かに知り合いっちゃ知り合い。」
「そうクマかー。今度紹介してほしいクマ!」
「あー…うん、出来たら、な。」

凄く微妙そうな顔を浮かべる烈。それにクマが「キャッホーイ!」と喜んだので、ますます微妙な顔を浮かべる烈だった。

「…なぁ、クマ。」
「ん?」
「…俺がさ、今…下で、その…。」

言い出しづらいのか、口ごもる烈。
そんな烈に、クマはにこりと笑った。

「クマは何も見てないクマ。クマ、女の子とお話ししてたクマ。」
「…そ、そっか…。」

ホッとしたような表情を浮かべる烈を見て、クマは急に真剣な表情を浮かべた。

「でもね、レツ。無理だけは、しないでほしいクマ。」
「無理…? いや、別にしてねぇけど」
「してるクマ。…最近のレツ、本当に見ていられないほど、辛そうクマ。」

きっぱりと言い切るクマに、烈はグッと拳を握った。

「…俺が無理してるからって、何なんだよ。お前に話して、何かなんのか!?」
「! そ、それは…! クマじゃ、どうしようもならんクマ。」
「だったら、これ以上」
「でも、クマ以外なら…! キョウやリノチャンなら話を聞くくらいは出来るはずクマ!」

声を荒げる烈に、反論するように声をあげるクマ。

「レツのキオクを持ってるキョウならレツの気持ちはわかってるはずクマ! それにっ、ヨースケから聞いたクマッ! リノチャンとレツは、似た者同士だって! 似てるならきっと、何か分かってくれると思うクマ!」
「あ…。」
「それにっ、クマ達だって話は聞けないけど、側にいるのはできるクマ! 一人でうだうだ悩むくらいなら、クマ達を頼ってほしいクマ! クマだって、レツがシンパイクマ!」

クマは急に蹲り、肩を震わせ泣き出した。

「レツは…昔のクマみたいに…ひとりぼっちじゃないクマ…! 頼れるナカマが…いるクマ…! そのナカマを放って、一人で悩むなんて…イヤクマ…! ヒッグ、ウウゥ…!」
「…。」

烈はそっと屈み、クマの頭を撫でた。

「悪い、クマ…。少し、言い過ぎた…。」
「…レツ、もう、無理はしないクマか? ゼッタイ、誰かに相談するクマか?」
「…ああ。限界来る前に、鏡に言うよ…。話して、何か変わる訳じゃないだろうけど…。」
「…わかったクマ。クマこそ、泣いちゃってごめんクマ。」

クマはゆっくりと立ち上がり、烈を見た。

「…!」

ふと、急にクマの胸が熱くなるのを感じた。

「クマ?」
「おムネが熱いクマ…。」
『お前は、シャドウだ。ただのシャドウ。そんなお前に、何が出来る。』
「!?」

聞き覚えのある声が、クマの奥底から響いた。
クマのシャドウ…いや、クマのシャドウに干渉した、アメノサギリの声。

「確かに、クマはただのシャドウクマ。でも、ただのシャドウだからって、出来るコトを諦めたくないクマ!」
『シャドウに出来る事など、何もない。空虚なお前に何が出来る。』
「クマはもう、空っぽじゃないクマ! 中身も出来たし、クマをクマと認めてくれるナカマもいるクマ!」
『仲間…?』
「そうクマ! クマは一人じゃないクマ! 空っぽじゃないクマ!」

そしてクマは胸の辺りを強く握りしめた。

「お前もいい加減クマから出ていくクマ! お前の干渉なんてイランクマ!」
『…。』
「クマはもう、一人で何とか出来るクマ! お前なんかいなくても、クマは強くなれるクマ! 一人で出来なくても、みんなでやれば出来るクマ!」
『…よく言ったクマ。』

アメノサギリの声がどこかへと行き、今度は可愛らしいクマの声が。

「クマ…?」
『そうクマ。シャドウである君の、シャドウクマ。自我を持つシャドウである君の、シャドウクマ。』
「クマの…シャドウ?」
『そうクマ。アメノサギリの干渉を受けていない、本当の君のシャドウクマ。』

クマのシャドウの声は、ころころと笑い出す。

『クマ、君は、何がしたいクマ?』
「クマのしたいコト?」
『そう、君のしたいコト。君は、何がしたいクマ?』
「…うまく、言えないクマ…。でも、レツやスーチャンのように、ゲンキがないナカマ達を、助けたいクマ。クマの力で何が出来るかはまだ分からんクマ。でも、クマの力で出来る範囲で…助けたいクマ。」

胸を握り締めながら言うクマの決意に、クマのシャドウは小さく頷いた…気がした。

『変わりたい気持ち、強くなりたい気持ち。出来るコトは確かに分からない。でも、それでも助けたい人達がいる。』
「だから、クマは強くなりたいクマ。…クマに、力を貸してほしいクマ。」
『もちろん、オッケークマ!』

クマの前に、カードが下りてくる。いつものようにそれを砕くと、愛らしい丸いフォルムに、顔が描かれたペルソナが現れた。

「カムイ…!? クマ、お前…!」
「カムイって言うクマか…。これからもよろしクマ、カムイ!」

カムイは一つ頷くと、青い粒子と共に消えていった。

「クマ…。」
「レツ、クマは、何が出来るか分からんけど、でも、この力でレツやみんなを守りたいクマ。この力しかないけど…この力でみんなを守る事は出来るクマよ。」
「…。」
「残念だけど、今のクマじゃ、力にはなれないクマ…。でも、レツには、別の人が力になってくれると思うクマ。…みんなを心配させる前に、誰かに頼るといいクマ。今のクマじゃ、それしか言えないクマ。」
「…。」

烈はぽん、とクマの頭に手を置いた。

「レツ…?」
「…心配してくれてありがとな、クマ。…でも、な。俺はこれを誰かに知られるのが怖いんだ。誰かに知られて…拒絶されたり、非難されたりするのが怖い。…俺は、それだけ酷い事をしたんだ。」
「…。」
「…いつか、お前も知っちまうかもな。そん時に何を思うかはお前次第だ。…俺は、それを受け入れるよ。」

そう言って、烈はクマから離れ、家路へと向かっていった。

「…レツが何していようが、クマはレツを嫌う事はしないクマ…。」

クマの切なさそうな声は、風に乗って溶けて行った。

クマにできるコトしたいコト ( No.26 )
日時: 2015/05/20 19:04
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: kXLxxwrM)

その夜、クマは再びベランダで一人黄昏ていた。

「まーた黄昏てんのか、クマ吉。」
「ヨースケ。」

隣の部屋のベランダから、再び陽介が声をかける。

「でも、昨日よりは少し元気になったみてぇだな。」
「えっ?」
「顔つきが少しだけど、大人っぽくなった感じがするんだよな。何か、悟りを得たって感じな。」
「…クマが、出来るコトを探し始めたからだと思うクマ。そしたら、カムイが答えてくれたクマ。」
「…お前のペルソナも覚醒したのか。」

陽介は手を伸ばし、クマの頭をわしゃわしゃと撫でる。

「あ、そだ。ヨースケ、これあげるクマ!」

クマはポケットから六枚の紙を取り出し、陽介に手渡した。

「これ…!? ちょ、今予約キャンセル待ちのあの豪華客船ツアーのチケットかよ!?」

受け取った陽介は、驚きを隠せない。
そう、これは、今話題の豪華客船で巡る二泊三日のクルージングの旅のチケットなのだ。現在はキャンセル待ちの状態で、予約は困難を極めているはずだが…。

「パートのおばちゃんが行く予定だったけど、急遽用事が入っていけなくなっちゃたから、クマにあげるって言われて、もらったクマ! 丁度六人分あるし、レツとスーチャンとヨースケとナオチャンとチエチャンとユリチャンのツッコミメンバーでいってくるといいクマ! あ、ベニは鳥かごで何とかしてクマ。」
「い、いいのか? クマ…! いや確かに、烈や昴さんの気分転換にはなりそうだけど…!」
「クマが持っててもどーせ使わないクマ。だから、ヨースケにあげるクマ。」
「サンキュな、クマ。よっしゃ、これはえっと…今度の金曜からか。おっ、放課後に港に向かっても十分間に合うな。ありがとな、クマ。」
「楽しんでくるといいクマ! その間に、クマはキョウとリノチャンと一緒に、三人で遊んでくるクマ! こっちは任せるクマー!」

クマの心遣いに、陽介は改めて、弟のように思っているクマの成長を驚かずにはいられなかった。
そして、同時に、頼もしく思えて仕方がなかった。

「…いい船旅になるといいな。」

陽介の願いは、どこか期待に満ち溢れていた。





しかし、この時はまったく予想だにしなかった。
船で、あんな事件が起こるなどとは…。











クマの行動に、ジャンは少し意外そうな表情を見せた。

「へー、アイツ、色欲だけじゃねぇんだな。アニエス様を口説いて来た時はマジで切り刻んだが、悪い事しちまったかな?」
「いや、それは切り刻んでいい。…何だかんだで、アイツもいい奴なんだよ。」
「人は見た目だけじゃねぇんだな。…ところで、この前に林間学校ってのがあったんだな。」
「ああ。理乃も烈の過去を知ってるんだが、こいつはここで烈から話されたそうだ。…その同時期ぐらいに、もう一つ、笛吹男事件っていう、子供達の集団誘拐事件も起こってるんだ。クマはどうやらその時に、何かを見いだしたみたいだ。…どこぞの裸族が介入しなければ、いい子に育っていたろうに…。」

昴の言葉に、ジャンは微妙な表情を浮かべていた。

「で、俺達はクマの誘いに乗って、船に向かったんだ。…最初は、平和だったんだ。平和な休日に、なると思ったのに…。」
「…。」

ジャンは何も言わずに、ノートのページをめくった。








—今日はここまで! 感想あればどうぞ! …やっぱり色々な人に見てもらうには交流しかないのかな? でもコメントしてくれたから見てあげるっていうのもなんか違う気がするんだよね。他の人へ私からコメントしないのはそれも理由だけど。


「自分の作品を見てもらう為に交流っていうのは、何か違うよな。そういったことをせずに、実力で、みんなが見たいって思われる作者になりたいよな。」