二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 秋の長雨 ( No.279 )
- 日時: 2015/07/23 16:35
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: q9qYGNqH)
やっぱり期待するだけ無駄だった。もう知らん。
さて、暗い話題はここまでにして、短編を一つ。移植物。
何で移植物かって? 小説書く気が失せ、モチベが上がらないから。
☆
「パステルくん、寒くない?」
「ぼにゅっ!」
ある日の商店街、そこを全速力で駆けていく氷海。
どうやら夕立に襲われ、慌ててどこかの軒下に避難したようだ。
「それにしても、困ったわね。これじゃ帰れないわ…。」
「ぼにゅ…。」
「パステルくんのせいじゃないわ。あんな所にインクを置いていた私が悪かったのよ。」
肩の上で落ち込むパステルくんに、氷海は優しく声をかけ、そっと頭を撫でる。
その体は、どこか黒ずんでいた。
■
事の起こりは数時間前。氷海は一人、生徒会の仕事をしていた。
別に急ぎと言うわけではなかったが、早めに仕上げて後々負担を減らそうとしていたのだ。
「ふぅ…。パステルくん、ごめんなさいね、待たせてしまって。」
「ぼにゅっ!」
気にしてないかのように振る舞うパステルくん。
「…!」
その後、何を思い至ったかはわからないが、ぽてぽてと氷海に近づく。
そして、自分よりも大きな万年筆を持った。
「パステルくん…?」
「ぼにゅっ!」
どうやら手伝う気らしい。
目をキラキラと輝かせ、氷海を見つめている。
「手伝ってくれるのね。フフッ、ありがとう。でも、気持ちだけ受け取っておくわ。」
「ぼにゅっー!」
が、そんな氷海の言葉とは裏腹に、パステルくんは氷海の手掛けている書類の側にあったインクのボトルに万年筆を垂直に突っ込んだ。
…だが、それがまずかった。
「ぼにゅ?」
自分よりも大きな万年筆。勿論パステルくんに支えられるはずもなく、行き着く先は…。
「あっ!」
ボトルごと、あらぬ方向に倒れる事だった。
しかも、運が悪い事に、その先が、よりによって氷海が書いていた書類の上。
勿論書類は真っ黒。パステルくんもインクにより真っ黒に染まってしまった。
「ぱ、パステルくん! 大丈夫!?」
「ぼにゅー…。」
ごしごしと体を拭くパステルくんだが、どうにもならないようだ。
「こ、困ったわ、どうしましょう…。」
「チィーッス、氷海、いる…って、うぉっ!?」
困り果てている氷海の元に、何故かやって来たのは、完二だった。
「ど、どうしたんだよこの状況!」
「あ、か、完二!? パステルくんがインクをかぶっちゃって…!」
「あー、黒いのはインクか。とにかく、水かなんかで洗ってやれ。服の換えは、これでいいか。」
そう言って完二が取り出したのは、小さな服だった。恐らくパステルくん用に作られたものだろう。
完二は恐らく、これを完成させる為に学校に残り、完成させたところで氷海に渡しに来た、と言ったところか。
「ありがとう、完二! パステルくん、取り敢えず手洗い場に行きましょう?」
「ぼにゅ…。」
「あぁ、氷海、パステルくんが今着ている服、オレが洗濯して明日渡すから、貸してくれや。」
完二の申し出に、氷海は驚いた表情を浮かべる。
「えっ、い、いいの…?」
「構わねぇって。」
「…ありがとう。」
「別にいいってーの。ほら、早く洗ってやれ。こっちはオレが掃除しとくから。」
「ええ、パステルくん、行きましょう。」
そして氷海は手洗い場にパステルくんを連れていき、その後、ある程度汚れを落として完二に服を預け、帰り支度をした。
- 秋の長雨 ( No.280 )
- 日時: 2015/07/23 16:37
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: g9MFapnu)
が、その途中に雨に降られ、運悪く折り畳み傘を家に置いてきてしまい、現在に至る、と言うわけだ。
「困ったわ…。」
「…ん? 氷海じゃねぇか。うちの軒下で何やってんだ?」
聞きなれた声が横からして、氷海は思わずそちらを向く。
見慣れた赤い色が、一番に目に映った。
「烈! えっ? うちって…あ、あら?」
落ち着いてよく見てみると、そこは確かに、烈の住む酒屋だった。
「って、お前、ずぶ濡れじゃねぇか!」
「え、ええ…。雨に降られて…。」
「そのままじゃ風邪引いちまうぞ! ほら、中に入れ! タオルぐらい貸すから!」
「あ、ちょっと烈!」
氷海の体が濡れている事に気がついた烈は、無理矢理氷海を中に招き入れた。
氷海はそれに、成す術もなく従うだけだった。
■
事情を聞いた烈の母親は、居間に氷海を通し、タオルを渡して制服を預かっていった。
「ごめんなさいね、そんなのしかなくて。寒くない?」
「大丈夫です。すみません、何から何まで…。」
彼女は今、烈の母から借りたTシャツ+下着姿だった。
制服は現在、烈の能力で乾かしているらしい。
「いいのよ、気にしないで。いつもご両親には得意にしてもらっているし、事後処理もしてもらっているし、烈に勉強を教えてもらっているしね。」
「は、はぁ…。」
「ぼにゅ…。」
二番目の事柄について、だろう。氷海とパステルくんはひきつった表情を浮かべる。
「氷海ー、制服乾いたぞー。」
そんな会話をしている最中、烈の声がドア越しに聞こえる。
ちゃんといきなり開けて入らないのが偉い。
「ご苦労様、烈。ちょっと待っていてね。…はい、氷海ちゃん。」
「ありがとうございます。」
氷海は制服を受け取り、着替える。
彼女はすぐに着替え終わり、部屋の外へと出た。
「ありがとう、烈。」
「構わねぇよ。だけど、もう外は真っ暗だぜ?」
「えっ!?」
氷海が外を見ると、確かに外は既に日が落ちていた。
「流石にこの状態で返すわけにはいか…あ、そうだ。」
何か妙案を思い付いたのか、烈は母親を見た。
「母さん、今日、氷海んちにいつもの届けるよう頼まれたよな?」
「えっ?」
烈の母は、暫く何かを考える。
(…頼まれた覚えはないのだけれど…あぁ、成程ね。烈ったら、いい事考えるわね。…素直じゃないこと。)
確かに、頼まれた覚えなどない。これは烈がついた嘘。
だが、その嘘の裏にある思いを悟った母は、その嘘に便乗する事にした。
「ええ。お昼頃に、お母さんから頼まれたわ。ちょっと待っていてね。あぁ、なら一緒に氷海ちゃんを送ってあげなさい。こんな暗い中、女の子一人は危ないわ。」
「わかってるって。あ、そうだ。氷海。玄関に俺の傘があるから、使えよ。」
「ありがとう、烈。」
「ぼにゅっ!」
氷海とパステルくんのお礼に、烈は顔を赤くしながら、そっぽを向いた。
- 秋の長雨 ( No.281 )
- 日時: 2015/07/23 16:54
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 0JVd9KgH)
そして二人は今、氷海の家までの道を、並んで歩いていた。
「ごめんなさい、原付あるのに、歩かせてしまって…。」
「気にすんなって。ほら、肩濡れてるからお前が自分で差せよ。」
自分の方にまで傘を持ってこようとする氷海の腕を、烈は押し止める。
「でも、烈が風邪を引いてしまうわ。」
「ダイジョブだって。いざとなったら炎出して暖まるからよ! それに、俺、バカだし! バカはなんちゃら、って言うだろ?」
「…。」
迷信まで出して傘を拒否する烈に、氷海は少しだけ、胸が暖かくなるのを感じた。
(…あの時のヒウミの気持ち、もしかしたら、こんな感じだったのかしらね…。)
「…どうしたんだよ。俺の顔なんかじっと見て。」
「いいえ、何でもないわ。(…これ、烈に言ったら苦い顔をされるだけね。)」
「ふーん…。」
二人は静かに、家路を歩く。
(…何故かしら。家に帰るのが、少し惜しい気がする…。)
こんな静かな時間が、もう少し続けばいいのに、と思いながら…。
■
「今日はありがとう、烈。」
「気にすんなって。じゃあ、また明日な。」
「ええ、また明日。」
家についた氷海は、母親に出迎えられ、烈へのお礼もそこそこに家の中に入ってしまった。
「…さてと、烈君。お母さんから聞いたわよ? 氷海を送ってくれた事にはお礼を言いたいのだけれど、嘘はいけないわね。」
「うぐっ、すみません…。」
「…でも、優しい嘘だったから、許しましょうか。はい、お酒の代金よ?」
氷海の母は、烈に茶封筒を渡した。
「えっ!? ちょっ、これ受け取れないですって!」
烈はそれに驚き、封筒を突き返そうとしたが、また戻された。
「お母さんから自分持ちにしてくれって頼んでいた事も聞いたの。まったく、子供が何を考えてるの? どの道、もうすぐ切れそうだったから、助かったわ。だから、これは受け取りなさい。お母さんにもそう話をつけておいたわ。」
「…な、なら…いただきます。」
「よろしい。」
氷海の母は、満足そうに微笑む。
烈はこの時、
(母さんと言い氷海と言い氷海のお母さんと言い…。女ってのは、強いな、まったく。)
と、失礼な事を思っていた。
口に出したら何されるかわからないので黙っておくが。
「じゃあ、風邪に気を付けるのよ?」
「あ、はい。失礼します。」
烈は挨拶をそこそこに、原付にまたがり家路を急いだ。
- 秋の長雨 ( No.282 )
- 日時: 2015/07/23 17:20
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 0JVd9KgH)
「成程。昨日、そんな事があったんですか。」
翌日、学校にて、直斗と氷海が話し込んでいた。
「ええ…。」
「それで…。」
直斗はちらりと、烈の机を見る。
そこにはいつもいるはずの赤が、見えなかった。
「烈君は物の見事に風邪を引いてしまい、学校を欠席しているわけですか…。」
そう、案の定、烈は風邪を引いてしまい、熱が高い為、学校を欠席していた。
「…烈を信じた私が馬鹿だったわ…。」
「…放課後、みんなを誘ってお見舞いにいきましょうか。」
「そうね。…鈴花に何か作って貰おうかしら…。」
「はちみつレモンとかどうですか?」
そんな他愛のない話を直斗としながら、氷海は早く放課後にならないかと、ずっと考えていたそうな…。
■
「んな事もあったなぁ…。」
ずずー、とストローで飲み物を飲みながら、烈は目の前にいる氷海に向けてそう呟く。
ちなみに二人は今、最近できたと言う大型のショッピングセンターにいた。なんの用かって? みんなで海にいく準備兼…後は察して。
「つー事は何? あん時から俺を意識し始めたの?」
「ええ。打ち明けられない長ーい片想いだったわー。しかもあんな事があるまで気付かれなかったしねー。セシルは出会ってすぐに気づいてくれたのにー。」
クスクスと笑う氷海に、烈はばつが悪そうな表情を浮かべていた。
「まぁ、あの時は貴方の抱えるものがなんなのかわからなかった、いえ、そもそも何かを抱えている事もわからなかったから、まだ朧気な片想いだったけどね。」
「…もしあん時に俺の事知ってたら、お前はどうしていたつもりだよ。」
ストローから口を外し、少し不安そうな表情を向けて氷海に聞く烈。
だが当の本人は…。
「そうね…。仮に知っていたとしても、同じ思いを抱いていたのかもしれないわね。」
クスクス笑いながら、そう打ち明けた。
「過去の貴方も、今の貴方も、私は受け入れるつもり。その覚悟がなきゃ、あんなシャドウが私から生まれないと思うけれど?」
「あぁ…うん。お前らしからぬ独占欲たっぷりのシャドウだったもんな…。」
「あまり思い出したくない過去だけれどね。」
遠い目を浮かべる氷海に、烈はなんだか申し訳なくなった。
あの一件がきっかけで、氷海を意識するようになった転換期ではあるが、当の本人はどうやら忘れたい過去の一つのようだ。
「私が…私が、恋愛相談って…。千枝先輩ので手一杯なのに…。」
(やっぱり千枝先輩、氷海に相談してたんだ…。)
陽介が自分のところに千枝との事を色々相談しに来たのと同様に、氷海のところにも千枝が相談しに行っているようだ。きっと、何か互いに近しい何かを感じたのだろうか。
だが、それは烈や氷海にとっても、大助かりだった。付き合ってはいないとは言え、何だか周りが既に結婚前提なので、このまま付き合うのも悪くはないと互いに思い始めていて、その際にどうすればいいか悩む事もある。そんな時に陽介や千枝は頼れる相談相手だ。
「…まぁ、うん、ごめん、変な話振って。」
「いいのよ。さて、烈。そろそろ覚悟を決めて、行きましょう? 水着売り場。」
「別々に見て後で合流でいいじゃねぇか! 何で俺が女物の水着売り場にいかなきゃいけないんだよ!」
「やっぱり駄目なの?」
「駄目だ!」
そんな会話をしながら、二人仲良く店を出ていった。
☆
氷海のある意味初恋話。今朝の愚痴の件やその他諸々含め、何かあればどうぞ。