二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 運命の船出 ( No.32 )
- 日時: 2015/05/23 18:37
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: mSRzWlsB)
「おーっ! 海だ海だー!」
千枝ははしゃぎながら、目の前に広がる大海原を見ていた。
「ほら千枝、はしゃぐな。あんまりはしゃいで海に落ちても知ら」
「わ、ととっ…! きゃあっ!」
「ちょ、おま、掴むうおわあぁぁっ!?」
—バッシャーンッ!
昴が注意を促した時には既に遅かった。
千枝がバランスを崩したが、とっさに陽介を掴み、彼女は難を逃れたものの、掴まれた陽介はバランスを崩し、哀れ海へ…。
「花村あぁぁっ!」
「陽介えぇぇっ!」
「花村先輩!」
「ちょ、陽介先輩!」
突然の事に慌てる一同。
「って、慌ててる場合じゃねぇって! 誰か助けにいかないと!」
「アタシ無理。泳げない。」
即座に拒否したのは、由梨だった。
雷と水は相性が悪く、故に、由梨はカナヅチなのだ。
『我もその、翼を濡らしたくはない。飛べなくなるからな…。』
紅も、翼の性質上遠慮した。
残った千枝、直斗、烈だが、彼らの体重で陽介を引き上げられるかと問われたら、難しいと答えるだろう。
最終的に残ったのは、昴だった。
「…俺が行くっきゃないか。スキルコンバート、凪。」
昴も小柄な方だが、空を飛んで一気に引き上げれば問題ないと踏み、凪のスキルでふわりと浮いた。
そして、堤防のテトラポットに掴まる陽介の元まで向かう。
「陽介、大丈夫か?」
「ふえぇ…。大丈夫っちゃ大丈夫だけど…全身びしょびしょ…。」
「部屋に行ったら着替えろよ? んじゃ、掴まっとけ。浮くから。」
「助かった…。」
陽介の腕を掴み、昴はふわりと浮き上がった。
そして、二人して陸地に上がる。
「チケット、僕が預かっておいて正解でしたね…。」
「ああ…。直斗、サンキューな…。」
完全に濡れた陽介を見て、直斗は思わずそう言った。
確かに今直斗が預かっていなければ、ここで全滅していただろう。
「とにかく船に乗ろう。しっかしクマの奴、粋な計らいしてくれたなまったく。」
「だな。直斗、悪い。俺の分も一緒に出してくれねぇか?」
「構いません。…そこまでずぶ濡れの人に出させる訳にもいきませんから…。」
「…。」
直斗の言葉に苦笑いを浮かべる陽介の横で、千枝が小さく萎縮してしまった。
「…ランドリー、あるといいが…。」
『神、心配するのはランドリーか。いや確かに今心配するところだろうが。』
「駄目ならアタシの力で乾かすよ…。」
陽介の服をどうするかの話をしながら、一同は船の中へと向かった。
- 運命の船出 ( No.33 )
- 日時: 2015/05/23 18:36
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: ijyp/C.M)
昴達が乗り込んだところで、船は出港した。
ひとまず陽介の着替えと、自分達ものんびりしようと部屋に向かう。
が、しかし。あろう事か通された部屋が…。
「まさかの男女一緒かよ。」
六つのベッドに囲まれ、トイレと風呂場が個室にある上級の部屋。
そう、全員同じ部屋で寝なくてはならないのだ。
男子二人はげんなりとしていたが、
「いいんじゃないの? 花村と烈君と紅君だし、心配してないよ。」
「僕も、皆さんなら大丈夫だと思っています。」
「アタシも別に心配しないかな。」
「陽介はちょっと危ういとこあるけど、あのコミュ厨変態ワイルドよりは月とスッポンくらいにマシ。」
「ああ、それは言えてる。」
意外にも、女子からの評価はいいようだ。
ちなみに、最後の昴の台詞には全員が同意した。余程信用無いんだなあの変態。
「っと、陽介。トイレでタキシードに着替えてこい。濡れた服は俺がランドリーに持っていく。来る途中で見つけた。」
「えっ、いいのか? 悪いな、昴さん。」
「これくらいは別に構わねぇって。お前らもドレスになっておけ。もうすぐご飯だろうしな。」
「食堂だけドレスコードって、どんだけ堅苦しいんだよ…。(しかし、ドレスをあのアホ神子に貰っておいてよかった…。)」
由梨の呟きはさておき、豪華客船らしく、ドレスコードを纏っていないと食事ができないようで、由梨以外は慌てて仕立てに行ったのはつい最近の話。
その間、陽介はタキシードを持ってトイレに入った。
「あ、烈。お前は紅と一緒に風呂場で着替えろ。流石に部屋は構わないが、着替えはまずいだろ。」
「了解。昴さんはランドリー向かってから着替えるだろうから…由梨先輩、終わったら声かけてくれないか?」
「ああ。…信頼してるが言っておく。陽介、覗いたら電撃な?」
「やめて由梨ちゃん電撃だけはやめて!?」
理由は、言わずと知れた弱点属性だからである。
無印以前ならば弱点は消えたが、ゴールデン基準ならば第三覚醒でも弱点は消えない。そしてゴールデン基準で考えている為、陽介は一生電撃が弱点なのである。
「ちなみに烈君は僕から【ガルダイン】行きますのでそのつもりで。」
「やめて直斗疾風だけはガチでやめて!? あと氷結もやめて!?」
つぎドカ!メンバーの相性は負けアニメで攻撃を与えた方が強いと考えている。烈は風雅に焔を消されたので、疾風属性が弱点なのだ。
…ちなみに、最近では氷結属性にも苦手意識がある。氷海のシャドウに氷の中に閉じ込められたトラウマだろうか。
「今回、【ブフダイン】は忘れさせましたよ。代わりに【ガルダイン】を入れました。鳴上先輩と行きたくもない海へと向かって。」
「ほっ…。」
「残ー念♪【ブフダイン】ならスズカに覚えさせといたよ! 鳴上君と行きたくもない海に行って。」
「ぎゃあぁぁっ! 千枝先輩がいたあぁぁぁっ!」
バイクで出掛けると新たな技を覚えたり、以前の技を思い出したりする事が出来るようになったようだ。しかし、あの変態とバイクで海か温泉に出掛けないと行けない。それが嫌なのだが、定期的にスキルは変えたいのだ。特に全ての属性を覚える事の出来る直斗は。
「でも、それは必要ないでしょ? 烈君なら余程じゃない限り覗かないだろうし。」
「この間の林間学校のは不問ですからね。」
「ま、まぁ、お前らが悲鳴でもあげない限りは…。じゃ、着替えてくる。紅、蝶ネクタイつけてやっから来い。」
『うむ♪』
どこか嬉しそうな紅と共に、烈は風呂場へと消えていった。
「ははっ、紅、うまい飯が食えるからって喜んでんな。さて、陽介、もう脱ぎ終わったか?」
「ああ、籠ん中に入れといてドアの前に置いといた。」
「んじゃ、俺は洗濯してから着替えるから。」
籠の中にある濡れた服を持ち、昴はランドリーへと消えていった。
「しかしこのドレスも久し振りだなー。」
「うわ、綺麗なドレス…。誰かから貰ったの?」
「ああ、知り合いにちょっと、王家に顔が利くのがいてな。ちゃっかり貰った。」
「由梨ちゃんの友好の幅ってどれだけ広いの。」
由梨の顔の広さに、千枝は思わず驚く。
「そうだな…。一国の王様に、一国の王様の右腕的存在な軍のお偉いさんに、どっかの大企業の会長に…。」
「あ、もういい。凄いのはよくわかった。」
あまりにも凄すぎる同年代に、千枝は話を中断させた。
「って、直斗。ドレスなのにさらしは巻いたままかよ。」
着替えている最中、さらしをしたまま着替える直斗を見て、由梨は思わず問いただした。
直斗は恥ずかしそうに胸を押さえながら呟く。
「ま、まだ胸を出す事に抵抗が…。」
「こういう時くらい外そーよ直斗君! えいっ!」
「わっ! やっ、やめてください里中先輩!」
「いいじゃんか。ここ、今は女しかいないし。」
「いや扉越しに烈君達がいますから! きゃあっ!」
千枝がさらしを奪い取り、結果、直斗の豊満な胸が露になる。
「はいブラジャーつけてー。」
「ちょ、野上先輩! 何で僕のブラジャーを持ってるんですか! それに、自分でつけられます!」
「…あのさ、静かに着替えられないかな? そこの女子三人。」
会話が聞こえて恥ずかしいのか、烈が扉越しにそう懇願した。
「お、何々? 烈ったら想像しちゃってるわけー? 変態。」
「ちげーよ! 紅があまりにもうるさいからキレかけてんの!」
『…。』
「すみませんでしたっ!」
扉越しに感じる威圧感に、女子三人は土下座で謝ったそうな。
- 運命の船出 ( No.34 )
- 日時: 2015/05/23 18:45
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: ijyp/C.M)
やがて、ランドリーで陽介の服を乾かしてきた昴は、早々に着替えを済ませた。
「うわ…。」
「わぁ…。」
『ふむ…。』
女性陣の正装した姿を見て、男性陣は思わず呟く。
昴は白いケープ付きの黒いワンピース。直斗は青いフレアスカートタイプのワンピース。千枝は緑色のスリットドレス。由梨は胸元が大きく開いた赤いワンピースだ。
「馬子にも衣装?」
「だからそれ誉めてないから!」
陽介の言葉に、千枝のツッコミが鋭く突き刺さる。
「まぁまぁ、落ち着け、千枝。」
「いや、でも、ギャップすげぇな、ドレス着て少し化粧しただけなのに…。特に昴さんと直斗。」
「胸も出してるからギャップは当たり前だろ? 烈。」
「あ、そっか。でもみんなギャップでかいなー…。」
『うむ、我もそう思う。女という生物は化けると聞くが、まさかここまでとはな…。神がさらしを外した姿は何度も見ているが、着ているものと少しの化粧でここまで変化するとは思わなかった。』
紅は烈の肩から昴の肩に移りながらそう言った。
あまりのギャップの大きさに、烈はもとより、昴と過ごす時間が長い紅でさえも驚きを隠せない。
そんな烈と紅に、昴は思わず顔を赤くした。
「あ、あまり言うなよ。照れる…。」
「いや、事実だしさ…ん?」
ふと、知り合いの声が聞こえた気がして、陽介は辺りを見回した。
そして見つけたのか、表情を明るくさせて目の前にいる四人めがけて駆け寄っていった。
「アイギスさん!」
「おや、その声は…ガッカリ王子の花村さん。」
陽介は盛大にズッコケ、プルプルと震えた後、目の前にいた金髪蒼眼の女性…アイギスに指を突きつけた。
「何でガッカリ覚えてるわけ!?」
「あと、なかみゃの花村さん。」
「やめてそっちも忘れてえぇぇぇっ!」
盛大に泣き崩れる陽介。周りの昴達は、ただただ笑いを堪えるばかりだった。
「君達もこの船に乗船していたとはな、白鐘君。」
「僕も驚きましたよ、美鶴さん。…観光ですか?」
「まぁ、そんなところだ。あと、君をようやく女と認識できそうだ…。」
「どっ、どこを見ていっているんですかっ!?」
いかにもお嬢様な感じの赤い髪の女性…桐条美鶴が、直斗の言葉に答える。ちなみに、彼女の視線は直斗の胸に注がれていたり。
「あっ、師匠もいたんですね!」
「元気そうだな、里中。どうだ? 久し振りに今から鍛練を一緒に」
「明彦、その格好でやるつもりか? 今お前かなりギリギリだろう。」
美鶴の嗜めに、白髪で筋肉質の男…真田明彦はしょんぼりと項垂れてしまった。
「あ、君は、この間の…。」
「どーも。男の手がかり、見つかったのか?」
「うん、あの教会にしっかり残ってたよ。」
「山岸、知り合いか?」
美鶴が烈と話す緑色の髪の女性…山岸風花に、首を傾げながら声をかけると、風花は「あっ。」と小さく呟いて、美鶴に向き直った。
「はい、例の教会で会った、地元の子です。」
「成程な。地元の子供だったか。ならば、十二年前の誘拐事件や火災事件については知っていたりするのか?」
「!?」
淡々と尋ねる美鶴の言葉に、陽介の表情が硬くなった。
「…?」
昴と由梨と直斗はそんな陽介の様子を見て疑問に思うも、表情には出さずに彼を見るだけだった。
「…結構、地元じゃ有名な事件だったし、知ってるのは、知ってる。」
「山岸達は詳しく聞かなかっただろうが、私には聞かせて貰っても構わないか? 君の知っている範囲で構わない。…特に、火災事件の方を聞かせて貰いたい。私が調べた所だと、あれは実験の失敗ではなく、誰かが意図的に火災を引き起こし」
『話す事など何もない!』
突然、紅が昴の耳元で美鶴に向かって吼えた。
昴は思わず耳を押さえ、うずくまった。結構煩かったようだ。
「紅、急に大声出すな…!」
『! す、すまない…!』
慌てて紅が謝罪をする。その周りでは、突然話をし出した紅に驚きを隠せない美鶴達がいた。
「と、鳥がしゃべってる…!」
「あ、ああ。僕等は慣れてしまっているので別に普通ですが…。」
「あの鴉…紅って言うんだけど、一見すると体が赤い鴉だけど、実はテレパシーみたいなもので話が出来る精霊なんだって。」
『…驚かせてすまない。それと、先程は怒鳴って悪かった。改めて、紅だ。』
神妙な面持ちで紅は自己紹介を始める。
「アタシは野上由梨。よろしく。」
「うん、由梨ちゃんだね、よろしくね。」
由梨が差し伸べた手を、風花は握り返す。
その時に何か気がついたのか、一瞬ハッとした表情を浮かべ、由梨を見た。
「あ、あの、由梨ちゃん。君は…能力者だよね?」
「おお、流石はりせ以上のサーチャー。ペルソナなくても分かるなんてな。…その通り。アタシは炎と雷を操れる。」
由梨はポッ、と炎を指先に宿した。
「凄い…! 能力者って本当にいたんだ…! じゃあ、君もそうなの?」
風花は興味津々に烈に聞く。
烈は黙って一つ頷いて、左手に炎を宿した。
「まぁ、こんな感じだ。あ、俺は烈。宜しく。」
「…本当に能力者と言うものがいるとはな…。そちらの方も、何か能力を持っているのか?」
美鶴は、目の前にいた昴に訪ねた。
「んー、まぁ、一応。」
「昴さんはこう見えても神様だし、俺達の力をすんなり使えたりするよな。あとは、空間から物出したり。」
「神、だと?」
陽介の言葉に、美鶴達の表情が怪訝そうな物に変わる。
「ああ。俺は奏月昴。烈ん家の近くにある聖域って呼ばれてる森に住む、しがない神様さ。」
「神様…。あ、神様と言えば、一年くらい前に話題になりましたよね? 確か、どこかの森を一瞬にして消した爆弾を作」
「わあぁぁぁぁぁぁっ!!」
風花が何かを言おうとした瞬間、陽介、千枝、直斗、烈は叫び出した。
「…? 何だよ、みんなして叫んで。」
「由梨先輩、ちょっと。」
「は?」
「いいからちょっと!」
「な、何だよ! っておい! 引っ張るなよ烈!」
その後、烈は由梨を伴ってどこかに行き、
「美鶴さん達も、ちょっと来てください。」
「お、おい、白鐘君…?」
「いいから来てください!」
直斗も美鶴達を伴ってどこかへといってしまった。
「…森を、消した…?」
『神、森を消した事はあったか?』
「いや、ないけど…。それに爆弾って…?」
「きっ、気にしなくていいから! 昴さんも紅も気にしなくていいからっ!!」
「…? まぁ、いいか…。あ、俺、ちょっと紅と話してくるから、先に食堂行っててくれ。」
慌ただしい千枝の言い方に、昴は首を傾げつつも、千枝達にそう言い残してから紅を伴って部屋へと戻った。
「…俺。」
—悪いけど、私からも話す気はないから。
部屋に戻るなり、創世ノートを開いた昴が目にしたのは、その一文だった。
『何故だ? 意外に口が軽いからすんなり話しそうだと思ったのだが…。』
—おいちょっとこら紅君それどういう意味。…みんなの頑張りを無駄にしたくないの。それに、言っちゃったら余計に傷付くだろうし。だから、言わない。言いたくない。悪いけど、この件に関して私に聞こうとしても無駄だから。
どうやら創造者は何も話す気はないようだ。
『ふむ…。神、どうやら彼女からは何も得られんだろう。』
「意外に頑固なとこあるからな…。分かったよ。」
—意外に頑固とはなんだ頑固とは。
意外に頑固者の創造者から話を聞く事を諦め、昴は創世ノートを閉じ、みんなの待つ食堂へと向かう事にした。
- 運命の船出 ( No.35 )
- 日時: 2015/05/23 20:11
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 68ht.95d)
食堂には既に、大人数がひしめき合い、上等の料理を見つめていた。
どうやらビッフェ式の立食パーティーのようだ。
「うっひゃー。有名人著名人沢山いるなー。」
『神、美味そうな豚の丸焼きっ! 向こうには鯛のお造りもあるぞ! おおっ! 年代物のワインの香りもっ…!』
「紅、興奮すんなよ。それに涎。」
『むっ!? …す、すまん。あんなに美味そうな物を目の前にして、つい…。』
「まー、無理もないよね。こんな豪華なパーティーなんてそうそう呼ばれないし…あ、紅はポップンパーティーに呼ばれてるか。」
「!?」
聞きなれた声に振り向くと、そこには、綺麗なドレスで決めたりせがいた。
「りせ! お前も乗ってたのか!」
「うん! ちょっと、お仕事で。明日にここでドラマの撮影するんだ! 私、ちょい役だけどね。」
「そっか…。」
「えへへ、こーいう日でも昴さんやみんなに会えるの嬉しいなっ!」
りせは昴をぎゅっと抱き締めた。
「お、おい、くっつくなって。恥ずかしいなぁ、もぅ…。」
『神、顔がそう言っておらんぞ?』
「るさい。料理に興奮していた奴に言われたくない。」
『ぐっ…! わ、忘れてくれ…。』
恥ずかしかったのか、紅は顔を赤らめて俯いてしまった。
「ね、昴さん! 後で部屋に遊びに行っていい? みんなと遊びたいな!」
「おーおー来い来い。トランプくらいしか持ってきてないけど。あ、ババ抜きは止めてやろう。陽介泣くから。」
「あー…。」
理由を理解したのか、りせはそれ以上何も言わなかった。
「ところで、昴さん達は何でこの船に?」
「クマの奴が陽介にチケットを渡したんだ。自分は貰ったけど使わないから、折角だからツッコミ属性持ちで遊びにいけってさ。」
(クマ、烈や昴さんが元気がないのを気にしていたからな…。成長、したみたいだね…。)
クマの成長に、りせは驚くと同時に、嬉しく思えてしかたがなかった。
「あー、りせちーだー。」
が、次の瞬間響いた声に、りせは一瞬だけ表情を変えたものの、すぐに笑顔に戻った。
そこにいたのは、ドキツい色をしたドレス姿の…はっきり言って昴が苦手そうなキャピキャピしているタイプの女がいた。
「こんばんは。奇遇ですね。」
「こーんばーんはー。あれ? 隣、お友達ぃ?」
「はい。偶然、会ったんです。」
「どーも。(うわ、好きになれないタイプだな…。)」
嫌そうな顔を浮かべそうになるも、そこは堪える。
「あ、そーだりせちー、あたしぃ、今度のライブでまたあの曲歌うんだー。」
「あの曲?」
「あのぉ、あつっくるしい厨二的な歌詞のぉ…“紅焔”だっけぇ?」
「…は?」
『…。』
だが、この言葉にはりせも昴も、表情を変えた。紅も、わずかに熱量をあげる。
そう、この女は、りせと昴の誕生日の日にあったライブの、前座グループの一人だったのだ。
「またって事は…。」
「私と昴さんの誕生日の日に、VENUSさん達が主催のライブがあって、その時に烈の曲を歌ったの。まぁ、結果は昴さんや紅が想像してる通り、大ブーイングだったけどね。…担当者を目の前にしてあの歌声じゃ、お客さんからも反感が来るの、予測してなかったの?」
「私の歌をぉ、分かるようなお客さんじゃなかっただけぇ。それにぃ、担当しているのもりせちーと同い年のガキでしょぉ? 誰が歌ったって一緒一緒。」
「…よくそれを本人目の前にして言えるな。」
女の背後から、物凄い熱量を感じる。
そこにいたのは、烈と由梨だった。彼等の怒りに呼応するかのように、周りの熱が高くなる。
「あー、いたんだー。有名人でもないのに乗ってるのっておかしーでしょー?」
「りせ達も俺も、結構有名人なんだけどな。その話はいい。また紅焔を歌うってどういう事だ? 俺はお前らにあの歌を歌ってほしくないんだけど。」
「えー、何でわざわざアンタの許可取らなきゃ駄目なのー? 私達のライブなのにぃー。めんどくさー。」
「…その曲の担当者に許可を得るのは当たり前だろ。そんなのも分かんないなんてお前は“クソガキ以下”だな。」
由梨の嘲笑混じりの言葉に、流石の女もカチンと来たようだ。
「いーい? 私はアイドルなのー。歌って踊れる超人気アイドルー。凡人とは出来が違うのよ、出来がー。」
「…何の経験もないガキが何粋がってんだか。」
ぼそりと呟いた由梨の言葉に、僅かに怒りと侮蔑の感情が篭っていたのは、気のせいではないだろう。
「りせ、烈、紅、昴さん、行こうぜ。こんなガキに何言っても無駄だ。こっちの気分が悪くなる。」
「だな。どうせあのガキは俺がここで何言っても絶対歌うだろうし。」
「だねー。んじゃ、とっとと退散しよっか。行こっ、昴さん! あっちに美味しいショートケーキあったよ!」
「何ぃっ!? りせ、それを早く言え! 行くぞ紅!」
(ショートケーキで目の色変えるんだったら先程の我と変わらんぞ、神。)
そんな騒ぎを起こしながら、昴達はその場を後にした。
「なんなのぉ、あの女ー。マジムカつく。」
女はただそう呟くだけだった。
- 運命の船出 ( No.36 )
- 日時: 2015/05/23 20:11
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: ijyp/C.M)
食事も終わり、約束通りりせが部屋に遊びに来ると、七人はトランプを使って平和的に遊んでいた。
「はい、花村また上がれずー。」
「何で俺のカードだけこう後の方が多いんだよおぉぉぉっ!!」
ただいま、絶賛七並べの最中。…昴の気遣いでババ抜きはしないが、これはこれで運の悪さを発揮しているようだ。
「ある意味陽介の運の最悪さは笑えないレベルだな…。」
「だな…。」
由梨はカードを集めて混ぜながらそう呟き、昴がそれに同調する。
「…ん?」
そんな折、烈は何かを感じ取ったのか、ドアの外を見た。
その後に、ノックが聞こえた。
「ん? 誰だこんな時間に。はーい。」
昴はパタパタとドアまで行き、開く。
「夜分遅くにすまないな。」
「あれ? 師匠。どうしたんですか?」
そこにいたのは、明彦だった。ご丁寧に、ジャージ姿である。
「里中、さっきは出来なかったが、今度はどうだ? 走りこみでも。あぁ、トレーニングルームもあったから、そこで一汗流してもいいしな。」
「おー、いいですね! じゃあ、昴さん、あたし、行ってくる!」
「程々にしとけよー?」
千枝はそう言い、昴からの注意を頷いて答えてから、明彦と共に何処かへと行った。恐らく、遅くまで戻ってくるまい。
「千枝達、トレーニング好きだなー。さて、烈、あの警棒持ってきてんだろ?」
「ん? ああ、あるけど?」
烈はポケットから警棒を取り出し、伸ばした。それを見た由梨は、一つ頷く。
「剣道場があったから、今からアタシと打ち合いしないか? どれくらいまで成長したか、師匠として見てやるよ。」
「いいのか? よっしゃ! んじゃ、行こうぜ!」
そう言って烈は由梨と共に出て行こうとしたが、
「あのさ、由梨ちゃん。何で警棒なんか持ってんの?」
それを陽介が止めた。そう、未だに聞くのを忘れていたが、この謎の所持品の説明をお願いしたかったのだ。
「…企業秘密。んじゃ、昴さん、アタシ達もちょっと出てく。」
「寝る前には戻るから。」
烈と由梨も、剣道場へと向けて歩いていった。そしてこの場には、昴、直斗、陽介、りせ、紅が残った。
「みんな、強くなりたいんだね…。」
「氷海ちゃんの一件から、余計にそう思うようになったんだろうな…。」
「まさか、あの事件がこちらで起こるとは思いませんでしたからね…。」
りせ、陽介、直斗は少しだけ、沈み込む。また大切な存在が事件に巻き込まれて怪我をするなど、耐えられない。そしてもし、死なせそうになったら…。
「…とにかく、警戒は怠らないようにした方がよさそうだな。」
『うむ。第二、第三の事件が起こらんとも限ら…ぬ?』
不意に、ノックの音が聞こえた気がして、紅は黙り込んでドアを見た。
「またお客さん?」
「あ、あのー、山岸ですけど…りせちゃん、いますか?」
「あれ? 風花さん?」
りせは座り込んでいたベッドから立ち上がり、ドアを開けた。そこには、私服姿の風花がいた。
「夜遅くにゴメンね、りせちゃんとお話したくてサーチしたら、ここだって…。」
「(風花さん、まさか…。)あー、ここじゃ何ですし、ちょっと人気のない所に行きませんか?」
「えっ? …うん、分かった。」
風花はりせの言葉に何かを察したのか、一つ頷く。それを見たりせは、昴の方をちらりと見た。
「…。」
昴はただ黙って、頷くだけだった。
「じゃあ、私もちょっと行ってくるね! あ、でもこのまま遅くなりそうだなぁ…。」
「そのまま部屋に帰った方がいいんじゃないか? 多分、長丁場になりそうだし…りせ、お前は明日早いんだろ?」
「まーね。…このままここで解散になりそうだね。じゃあ、お休みなさい、昴さん、直斗君、花村センパイ、紅!」
「おう、お休み。また明日の朝なー。」
りせは手を振りながら昴達に挨拶をし、風花と共に部屋の外へと出て行った。
「みんな、思い思いに過ごしますね…。」
「流石に三人と一羽じゃ何もする気にならないし…。聞いちまうか。」
「何を?」
首を傾げる陽介に、昴は鋭い目を浮かべ、彼を見た。
「…陽介、隠しても無駄だ。…“十二年前の火災事件”。お前は何か知ってるな?」
「!?」
図星を突かれた陽介は、思わず体を震わせた。
「あ、あー、そ、それは…。」
『…陽介、神に隠し事はできんだろう。』
「だけど紅!」
『…遅かれ早かれ、知っておいた方がいい。唐突に知って、驚かぬように、な…。』
紅は翼を広げ、陽介の肩に飛び乗りながら、そう悲しそうに言った。
「紅、お前も何か知っているんだな?」
『知っているも何も…我が、原因だからな。…我というよりは…黒が、だな。直斗、すまないが十二年前の新聞記事を調べてくれんか? 当時騒がれた事件だから、すぐに出てくるだろう。』
「わかりました。」
直斗はノートパソコンを取り出し、調べ始めた。
『…神、直斗。何を知っても、烈には何も言わないでほしい。烈には…非がないからな。』
「わかった。というより、元から胸の内に秘めるつもりだった。…お前がそんな顔をするくらいだ。相当、悲惨な事があったんだろう。」
『…。』
「…悲惨、どころではないかもしれません。」
カタ、とキーボードを打つ手を止め、直斗は表情を変えた。その表情は、驚きと、そして…どこか、悲しみが混じっていた。
昴はそんな直斗の隣に行き、画面を見る。そして、同じような表情を浮かべた。
「…烈…。まさか、過去にこんな…。」
「俺も、風雅から聞いた時は信じられなくて…なんか、ムカムカして…悲しくなった。」
「烈君はずっと、こんな重いものを背負ってきたんですね…。」
部屋の中に、静寂が訪れた。誰も、何も発しようとはしない。ただ、時計の秒針が痛いくらいに響くだけだ。
『まだ幼かった烈には、能力を操る程の力はなかったのは分かっていた。だが、烈を覚醒させねば、烈自身が危うかった。黒は…そう、考えたのだ。』
「だから…烈に、こんな重い物を背負わせる覚悟をし、自分もその罪を背負って…烈を、助けたのか。」
『…。』
紅は昴の問いかけに、小さく頷いた。
「…みんな、この事は、誰にも言わないでおこう。…誰にも…。」
昴の言葉に、その場にいた一同は全員頷いた。
- 運命の船出 ( No.37 )
- 日時: 2015/05/23 20:30
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: mSRzWlsB)
「…そう…。やっぱり、あの人は神様じゃなかったんだ…。」
「うん…。あの人は、神様の分身なんだ。…やっぱり、風花さんには分かっちゃったか…。」
船内にある誰も居ない小さなカフェテラス。そこでりせと風花は紅茶を飲みながら話をしていた。
内容はもちろん、昴の事。そして、この世界の事だ。
—はぁー…。流石に風花ちゃんみたいな力の持ち主は欺けないからなぁ…。
「うーん…。昴お姉ちゃんも、何か対策考えたら? 流石にこれ以上バレるのまずくない?」
—残念だけど、そこまでこのノートは万能じゃないんだよ…。
創世手帳を開きながら会話を進めるりせと創造者に、風花は小さく微笑んでいた。
「ふふっ。」
「? 風花さん?」
「…こんな面白い人が作ってくれた世界で、私達は生きているんだなぁって。そう思ったら、何だか面白くて。」
「あ〜…。それは言えてるかも。昴お姉ちゃんって何か憎めないし。何か自分に素直だし。烈の体操着姿に萌えたり、ポップンの新しいキャラにヒャッハー烈氷ーキターとか言ってハッスルした」
—(#´∀`)<ねぇねぇりせちー、金ダライ十個程落としていい? ガチで。
「すみませんでしたっ!」
土下座で謝罪をするりせに、隣にいた風花は震えてしまった。
—っと、金ダライ落とす前にしなきゃいけない事しないと…。
「落とすの、決定事項なんだ…。」
突然話を戻した創造者は、風花の呟きを無視し、彼女の目の前に創世手帳を出した。
「これ、りせちゃんも持ってる…。」
—私との連絡用として持っていてほしいの。あと、今聞いた話は他言無用。約束できる?
「…はい。私の胸にしまっておきます。…きっと、みんなも今自分が持っている記憶はでっち上げだったって言うのは、ショックだろうから…。」
—ありがとう、風花ちゃん。それと、これからもよろしくね。
「はい、よろしくお願いします、スバルさん!」
にこやかに会話を楽しむ創造者と風花。そんな二人を見ていたりせは、そっとその場を離れ…。
—おいどこ行く気だアイドル。
「ビクッ!」
ようとしたが、彼女から逃げられる訳がなかった。
—ここではやらないが、部屋行ったら覚悟するように。…ねっ?
「は、はひぃ…。」
りせは泣きながら、がっくりと項垂れ、風花はそんなりせに言葉をかける事はできなかった…。
■
所変わって、剣道場の外では、烈と由梨が夜風に吹かれていた。
「いやー、やっぱ強ぇな、由梨先輩。」
「小さい頃から鍛えられてるからさ。それに、烈も飲み込み早い方じゃないか。教えてるアタシも楽しいよ。」
「いやそれ嘘だよな。俺が一撃与えた時に無茶苦茶攻撃厳しくなるよな?」
「き、きーのせーいだー。」
どうやら自覚はあるのか、由梨は烈から目を逸らし、冷や汗を垂らした。
「自覚あるならやめてくれよ…。ガチで上級魔法とか食らうのやなんだけど俺…。」
「うっ、す、すまん…。今度から気を付ける…。」
由梨は申し訳なさそうにそう呟く。が、出来るかどうかは分からないが。
暫く、他愛ない話をする。話題は、特に決まっていないが、楽しい話を。
「あの…。」
「ん?」
そんな雰囲気の中を、おずおずと入ってくる青い髪をひとつに揺った青年がいた。
ここの船員が着ている制服を身に纏っている所を見ると、どうやらこの青年はここの乗組員のようだ。
「あ、すみません、もしかして、騒がしかったですか?」
由梨はこの人がうるさいと注意しに来たかと思い、烈との話を中断させ、青年に訪ねた。
「あ、いえ。すみません、少し、そちらの方に用事があって…。」
「俺に?」
烈は首を傾げつつ、青年を見た。
「…あの、貴方は…十二年前に、教会の形を借りた研究所にいませんでしたか?」
「!?」
「…?」
青年の言葉に、烈の表情が変わる。それを見た由梨は一瞬訝しむも、あえて訪ねる事はしなかった。
「…あ、ああ、いた…けど…。」
「やはり、そうだったんですね…!」
「それが…何? どうか、したのか?」
烈が訪ね返すと、青年はにこりと微笑んだ。
「“ありがとう”。ただ、それが言いたかったのです。」
「えっ…?」
「貴方は私達を助けてくれた。だから、ありがとうと、ずっと言いたかったのです。貴方がいたから、私達は助かりました。貴方のお陰で、今の私がいるんです。」
「お前は、あの…。」
「はい、私はあの誘拐事件の生き残りの一人です。…貴方と同じ、ね。」
青年の言葉に、烈はただ、動揺しかできない。そんな烈の心境を知らずに、青年は続ける。
「あっ、申し遅れました。私はクレハ。紅葉と書いて、クレハと読みます。」
(…! 紅…葉…!?)
青年…紅葉の名前を聞いた瞬間、動揺したのは、由梨だった。
何とか表情を変えずに勤めつつ、烈達の会話を聞く。
「貴方は、私達を助けてくれた。だから、私と、残りの二人で、ある“約束”をしたのです。あぁ、それが叶えられてよかった…。」
「やく、そく…?」
「ええ。大切な約束です。本当は三人揃ってから貴方に言いたかったのですが、生憎行方も分かりませんし、それに…記憶も曖昧で…。」
「そう、か…。なぁ、あの」
「おーい! 紅葉ーっ!」
烈の話を中断するかのように、先の方から、紅葉を呼ぶ声が聞こえた。
「あ、はーい! すみません、私、もう行かないと…。」
「あ、ああ…。」
「では、また明日。よい船旅を。」
紅葉はそう言い残し、タッとかけていった。
烈は紅葉を見送った後、俯いた。
「(…何で、お礼を言われなきゃいけないんだ…? 俺は、俺は…!)あ、由梨先輩、ごめん、変な話して…ん?」
由梨をおいてけぼりにしていた事に気がついた烈が由梨を見ると、彼女は紅葉が去った方角をぼんやりと眺めていた。
「…先輩?」
「! あ、あぁ、悪い、烈。…話は終わったのか?」
「あ、ああ。…先輩、その…。」
「…。」
烈が何事かを言おうとするも、由梨はそんな彼から背を向けた。
「…今は、何も聞かない。お前から話してくれるまで、何も言わない事にするさ。」
「…ありがとな、先輩。」
「過去に色々あった奴なら、アタシは嫌と言う程見てるからな。だから、何も聞かないだけだ。さて、帰るぞ、烈。」
「ああ。」
静かに揺れる波の音を聴きながら、烈と由梨は無言で帰っていった。
ゆっくりと、歯車が軋みだしている事も、予測できずに…。
■
ジャンは、ここまで見終えると、溜息をついた。
「嵐の前の静けさ、か。」
「ああ。この時までは何もなかったんだ。本当に、俺達は休日を満喫してた。」
昴は遠い地平線へと目を移す。
静かに、波の音がする。
「そんな平和を打ち破るかのように…第一の事件が起こった。」
昴は再びページをめくった。
■
私
—関係ない話するけど、今、昴とりせちゃんの誕生記念ライブ回を執筆中だが…。
・ゲストとして誰かを招くために募集をかける
・身内のみで行う
の二つで悩んでて、もしゲスト招くってなったら、
・BEMANIライブという設定なので、コナオリ曲を歌ってもらう
・ホールでばったり出会う等のちょい役
のどっちかになるけど、どっちがいいかな?
ジャン
「…出来たら答えてやってくれや。感想どうぞ。」