二次創作小説(映像)※倉庫ログ

林間学校の終わりに ( No.377 )
日時: 2015/08/06 19:54
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: /9RVPCwZ)

夜、氷海、鈴花、りせ、直斗のいるテント内。

「いやー、いいお湯だったね!」
「そうね。何だかんだで楽しかったけど…烈と陽介先輩、大丈夫かしら…。」
「桜坂先輩が治療に行ったので、大丈夫だと思います。」
「駄目なら、私が怪我によく効く薬草持ってくよ…。」

温泉内での出来事を話しながら、りせ、氷海、直斗、鈴花がのんびりとくつろいでいた。

「…そうだ、氷海さん。今まで聞くのをすっかり忘れていましたが…。」
「…。分かっているわ。私がテレビに入れられた時の事を聞きたいんでしょう?」

直斗が躊躇いがちに訊ねると、氷海は一つ頷き、微笑む。
りせと鈴花が心配そうに見つめてくるが、氷海はそんな二人を見て微笑み、「大丈夫。」と答えて、直斗に向き直った。その表情は、真剣だ。

「…あの日は、入れられる二日前に来てくれた雪子先輩のお陰で少し元気を取り戻したから、病院を手伝ったの。それで、お父様にそろそろ帰って休んだらどうだと言われて、着替えて帰ろうとしたら…。」

そこまで言ってから、氷海は俯いてしまった。

「…ごめんなさい。その後の事は、霧がかかったようにぼやけてよく覚えていないの。気が付いた時には、既にテレビの中で…。でも、眠らされたりとかはしていない筈よ。」
「…そう、ですか…。」
「でも…ちょっと待って。…確か、“声”が聞こえた気がしたわ。」
「“声”?」

全員、氷海に注目する。

「ええ…。誰かに言うような感じで、『再び我が舞台で踊って貰う。』と。」
「再び、ですか…。(まさか…いや、それはない筈…。)」

氷海の言葉に、直斗はある人物を過らせるも、すぐに考えを打ち消した。

「…とにかく、僕はこのままこの事件が終わるとは、到底思えません。…久慈川さん、僕は、警戒を怠らぬようにした方がいいと思います。」
「うん。私も、考えてた。…でも、大丈夫。何があっても、絶対に、私がみんなを導くよ。…カンゼオンと一緒に。」
「カンゼオン? 久慈川さんのペルソナはヒミコだった筈じゃ…。」
「由梨センパイと昴さんのお陰で、強くなったの。あの日…私と、昴さんの誕生日に。」

りせはいつものように、ペルソナを召喚する。
現れたのは、直斗が見た事のないペルソナ…カンゼオン。

「久慈川さんも…覚醒を?」
「うん。…もう、絶対に、みんなを危険な目に遭わせたくない。烈のように、誰かを死なせそうになるのはもっと嫌。だから、迷いたくない。そう願ったら、カンゼオンが応えてくれたの。」
「…僕も、強くなれるでしょうか…。スクナヒコナは、応えてくれるでしょうか…?」
「きっと、応えてくれるよ。」

りせはそこまで言ってから、ニヤッと笑った。

「千枝センパイも、花村センパイも、互いに思って強くなれたしー、きっと凪君を思えば強くなれるんじゃないのー?」
「なっ!?」

直斗の顔が一瞬にして真っ赤になる。もう茹で蛸状態だ。

「ななな何でそこで凪君が出てくるんですかっ!!」
「直斗君、顔真っ赤ー♪」
「かっ、からかわないで下さい鈴花さん! そういう鈴花さんは、巽君の事をどう思ってるんですかっ!?」

からかってきた鈴花に、反撃と言わんばかりにそう問うと、今度は鈴花の顔が真っ赤になった。

「なっ、かっ、完二は関係ないよね!? そっ、それに、完二はライバルだもんっ! ライバルなんだもんっ!」
「あら、顔が赤いわ、鈴花。」
「ほほーぅ。鈴花ちゃんもあながち満更でもないんだぁー。」

ニヤニヤ笑うりせに、鈴花はむくれた。

「むーっ! 酷いよりせちゃんっ!」
「酷くないよーだ。ね、鈴花ちゃん。完二も満更じゃないみたいだし、思いきって告白してみれば?」
「えっ…!? なっ、何でそんな事分かるの!?」
「氷海ちゃんのシャドウが言ってたの。ねー、直斗君ー。」
「はい、それは確かです。僕も聞きました。」
「えっ、えっ…!?」

りせと直斗の言葉に、鈴花は開いた口が塞がらなかった。ただ、顔を真っ赤にして、俯くだけだ。

「(あーあ、鈴花ちゃん黙っちゃった。)直斗君、ちなみに凪君とはどこまでいったの? デート…は、いつも行ってるから、チュー?」
「何でこっちばかり攻撃するんですか! ひっ、氷海さんだって烈君と今はどうか聞いてみては!?」
「あら、直斗。どうせまだ恋人じゃないからとか言うオチだと分かっているから、りせも聞かないのではなくて?」
「…ぐっ。」

氷海から返された正論に、直斗はぐぅの音も出ない。
そう、まだ烈と氷海は恋人同士ではないのだ。とは言っても、友達以上恋人未満の状態だろうが。

「さーって、夜はまだあるし、直斗君と鈴花ちゃんの恋バナ、たーっくさん聞いちゃおう!」
「おー♪」
「何でノリノリなんですか氷海さん! 貴方生徒会長ですよね!? 異性の恋愛は風紀が乱れませんか!?」
「氷海ちゃん…酷い…。」

完全に乗っている氷海に、直斗はツッコミを入れ、鈴花は半分泣いた。

林間学校の終わりに ( No.378 )
日時: 2015/08/06 20:00
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 0JVd9KgH)

所変わって、烈、風雅、完二のテント内。

「…はい、終わりです。」
「サンキュ、理乃先輩。」
「いいんです。元はと言えば、私がやり過ぎたのが原因ですから…。」
「いや、俺達も裸、見ちまったしお相子だって。」

現在、理乃がやって来て、烈の治療をしつつ、先程吹き飛ばした事を謝っていた。だが烈も、湯煙で裸は見えなかったが、女湯に乗り込んだ時点で悪いと分かっているので、自分からも謝罪する。

「…けど、元はと言えば、あの変態センパイが悪ぃんだろ? 烈と花村センパイは悲鳴に心配して行っただけだし。」
「完二、君って然り気無く毒吐くよね。」

悠の事を名前で呼ぼうとしない完二に、風雅は思わず口に出してしまった。

「そうですね…。一番は、あの変態が原因でしたね。」
「ほんと参ったよ、あの変態には…。」

理乃の後ろから、誰かが入ってくる。
烈達のテントにやって来たのは、陽介だった。

「あれ? 陽介先輩。」
「花村さん、何故こちらに? 今、そちらへ治療に伺おうと思ったのですが…。」
「あ、もうへーき。俺も回復スキル使えるし、疾風…理乃ちゃん達で言う風属性は俺には効かないしな。…変態と一緒に寝るのが嫌で、こっちに来たんだよ。つー訳で、いいか?」

どうやら、もうあの変態と一緒にいるのが嫌で、烈達のテントに逃げてきたようだ。

「構わないって。二人は?」
「僕も構わないよ。皆で話しながら眠ったら楽しそうだし。」
「オレも、花村センパイなら大歓迎ッスよ。」

三人は快く受け入れるようだ。

「サンキューな。」
「ふふっ、良かったですね、花村さん。…じゃあ、私は自分のテントに戻りますね。」
「ああ、心配してくれてありがとな、理乃ちゃん。」
「元はと言えば私がやり過ぎたのが原因ですから…。では、失礼します。」

理乃は陽介に謝罪し、律儀にお辞儀をしてから、テントを後にした。

「はー、理乃ちゃんは律儀だな…。」
「うーん、でも、何かよそよそしい感じがする。何だか、僕らと一線を引いてる感じ…。」
「由梨先輩が言ってたけど、理乃先輩が心から仲間と認めるまで、あんな感じなんだってさ。ほら、その証拠に、由梨先輩らには全く気遣いしてねぇだろ?」
「あ、確かに。」

そんな話をしながらも、全員、就寝準備にかかる。

「あ、そだ。なぁ、風雅。ちょっと聞きたい事あるんだけど。」
「何?」
「何かさ、俺と陽介先輩が付き合ってるって噂があるんだけど…。」
「!?」

烈のその言葉を聞き、風雅と完二は顔を歪めた。
心当たりは、ある。ありすぎる。

「あ、俺もそれ聞いた。誰だよそんな噂流した奴…。完二、何か知らねぇ?」
「え、い、いや、知らねッスよ!? そんな噂、初耳だ! な、なぁ、風雅!」
「えっ!? う、うん!」

急に振られた風雅が、慌てつつも同調する。

「ふーん…。まぁ、いいけど…。いーや、取り合えず、寝るわ。」
「俺も…。少し、疲れた。」

陽介と烈は、そう言って寝袋に包まった。
どうやら余程疲れていたようで、二人はすぐに眠ってしまったようだ。

「…ねぇ、完二。多分、先輩達が噂になった原因って、この間の…。」
「ああ…天城センパイと金杉センパイのアレだろ…。風雅、これ…。」
「…大丈夫。二人には言うつもりはないよ…。」

風雅と完二はそう語り合いつつ、陽介と烈を見た。
二人共、向かい合ってよく眠っている。まるで兄弟のようだと、風雅と完二は思った。

「…でも、何かこれ見ちゃうと、付き合っているって言う噂が立つのも、無理がないかなって思うよね。」
「そうだな…。ホント、この二人の仲の良さは羨ましいぜ…。」

仲の良い二人を見てほっこりとしながら、完二と風雅は寝袋に包まった。



※完二と風雅の言う心当たりは流石にBL色が強いので持ってこれません、悪しからず。

林間学校の終わりに ( No.379 )
日時: 2015/08/06 21:17
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 0JVd9KgH)

更に所変わって、由梨、理乃のいるテント。
烈達と別れ、ここに戻ってきた理乃は、由梨と共にくつろいでいた。

「はー…。静かだな、ここ。」
「本当ね。…こんな静かな夜…何だか、久し振りな気がするわ。」
「…ここ数日、氷海の一件やら何やらでバタバタしてたからな…。」

氷海の噂が広がってマヨナカテレビを見たり、昴とりせの誕生会と、ここ数日は慌ただしかったので、ゆっくりする暇はなかった。
なので、こんなにゆっくりできるのは久し振りだ。

「…あら?」

静かな夜に微睡んでいると、理乃はある気配がこちらに来るのを察知した。

「どうした?」
「この気配は、葉月と里中さんかな。こっちに向かってくるの。」
「葉月と千枝? …あ。」

何故、この二人がここに、と由梨は考えていたが、それはすぐ考え付いた。

(同室のあの二人か…。)

本来、葉月と千枝は雪子と七海と同じテントで過ごす。
大方、腐った二人が嫌になったのだろうと考えた由梨は、溜息をついた。

「大方、あの馬鹿と雪子の話についてけなくてこっちに来たんだろ…。」
「そうなの? じゃあ、迎えてあげた方がいいかしら?」
「かもな…。」

再度盛大な溜息をついた由梨は、寝袋を二つ分用意した。
程なくして、千枝と葉月が仲良くやって来た。

「…由梨ちゃんなら想像ついてそうだけど…。」
「大丈夫だ。理乃がお前らの気配を察知した瞬間、全て分かった。」

千枝と由梨のツッコミ属性持ちコンビは、そう言って互いにがっちりと握手を交わした。

「…理乃、やっぱビンゴだわ。」
「話についていけなくなったってものだったのね。でも、二人はどんな話をしていたのかしら…。」
「理乃は気にしなくていいから。」
「そうそう、気にしちゃダメだよ、理乃ちゃん。」
「お前にはまだ早い。」

雪子と七海の会話が気になったのか、理乃は首を傾げて問いかけるも、他三人に止められた。

「…?」

理乃はただ、首をこてんと傾げるだけしかできなかった。

「(これ以上、理乃ちゃんが気になり出す前に話変えないと。)あ、ねぇ、前から気になってたんだけどさ。」

話題を変える為に、何かないかと探した千枝は、由梨のイヤリングを見る。

「由梨ちゃん達って、綺麗な色の宝石がついたアクセサリーいっつもしてるよね?」
「ん? あぁ、宝珠の事か。」
「いいなー、あたしもそう言うの、学校にしていきたい。あの学校、何気に校則緩いし、してこようかなぁ…。ね、どこに売ってるものなの? それ。」
「残念だけど、売ってはいないよ。ある意味、オーダーメイドみたいなものだし。」

葉月は指輪を外し、千枝に手渡しながら、答える。

「これはね、私達の魔力を増幅する装置であり、武器であり、異世界の人達と瞬時に話ができるようになる翻訳機であり、旅路の記録をするビデオカメラであり…私達の暴走を抑えてくれる制御装置なの。」
「え、武器!? 暴走!?」
「そ。武器にもなるし、暴走を抑える事も出来る。鍛え上げられたアタシ達の魔力から放たれる魔法は、普通の奴等が放つ魔法より、強いんだ。それこそ、制御しきれなくなるくらいな。」

由梨はイヤリングに触れながら、そう話す。

「それって、あたし達のシャドウの暴走みたいなもの?」
「いいえ、里中さん達のシャドウの暴走など、赤子のようだと思えるくらいに恐ろしいと思います。」

理乃も不安そうにペンダントを握りしめた。

「この宝珠を外した状態で魔法を使えば、確実に暴走します。暴走すれば、自我が消え去り、敵味方の区別なく破壊します。…葉月達が暴走すれば、国一個は消滅します…。」
「くっ、国一個…!?」
「…はい。暴走は、宝珠を再び身に宿すか、魔力が尽きれば収まるので、魔力の量が少ない葉月達ならば、国一個で済みますが…。」
「…生まれながらにして魔力の量が多い理乃はそうもいかないんだ。…多分、この世界を滅ぼしても、止まらない。実質、理乃の暴走を止めるには、もう一度宝珠を身に付けるしか、方法はないんだ…。」

テントの中が、静寂に包まれる。

「…葉月ちゃん、これ、返すね。」

千枝は、葉月に指輪を返した。

「身に付けてないと、ダメなの? でも、武器って言ってたよね?」
「はい、このペンダントの鎖、葉月の指輪、由梨のイヤリングの金具…こちらは、私の場合は風の欠片と言うのですが…。」
「宝珠と欠片は、同じ一つの大きな結晶から出来ているんだ。私達の世界では、それが学校に一つずつあって、勿論、私達のいた桜蘭学園も例外じゃないの。で、これを、私達四人が守ってるの。魔法の威力を示すこれを壊されたら、その周辺の魔法使いはただの人になっちゃうからね。あ、今は私達の後任が守ってるの。私達が今魔法を使えるのも、後任の子達のお陰なんだ。」
「へー。結晶で魔法の威力を決めてるんだー。」

理乃達の世界の不思議を知り、感心する千枝。

「…こほん。話を戻しますね。」
「あ、ごめん、理乃。お願い。」
「…とにかく、元は一つのこの欠片は、様々な形に変化させる事ができます。私は今、ペンダントの鎖に形取り、身に付けてはいますが…。」

そう言いながら理乃はペンダントを外した。

「風の欠片よ。風の司(ウィンド・コンダクター)、桜坂理乃の名においてその形を我が望む姿に変えよ。」

理乃がそう唱えると、ペンダントが光り出した後、すぐに理乃の背丈以上の大きな杖が現れた。
よく見ると、杖の下の方に、先程ペンダントの先についていた緑色の宝石が見えた。

「わ、すごっ! いちいち武器買わなくていいね、それ!」
「あはは、その点は便利だって思ってた。」
「無駄な金使わなくて済んだしな。」

千枝の言葉に、葉月と由梨は同意した。

「…とにかく、宝珠の効力は欠片を通じて伝わるので、武器を握っていれば、魔法を使っても暴走する事はありません。」
「そっか…。魔法って便利だけど、そんな危険も孕んでるんだね…。」

そこまで言うと、千枝は俯いた。

「…あたし達もペルソナが暴走する事もありそうだし…それに、きっと烈君達も、暴走する危険がありそうな気がする…。」
「…。」
「能力って、怖いね…。」

千枝がポツリと呟く。
また、テント内が静まり返った。

「…能力を持った自分が、怖いか? 千枝。」

静寂を打ち破る由梨の問いに、千枝は首を横に振った。

「…この能力で誰かを助けられるなら、誰かを守れるなら、あたしは…スズカに会えて、良かったって思う。」
「里中さん…。」
「スズカがいたから、雪子や完二君、りせちゃんに直斗君、菜々子ちゃんやマリーちゃん。そして、氷海ちゃんを助け出せた。」

自分に能力が…ペルソナがいなければ、雪子はどこかに吊るされて、絶命していただろう。
そしてその後に誘拐された後輩達も、可愛がっている女の子も…シャドウに食い殺されていただろう。

「確かに、由梨ちゃんの言うように怖い。怖いけど、持ててよかった。そう思ってる。」
「強いね、千枝ちゃん。」
「強くなんかないよ、葉月ちゃん。…あ、そうだ。葉月ちゃんにお願いがあるんだ。」
「何? 私に出来る事だったら、何でもするよ?」
「…氷の力、あたしに…あたしとスズカに教えて!」

千枝の言葉を予測出来ていたのか、葉月は一つ頷く。

「理由、聞かせて貰っていい?」
「…根本は、強くなりたい。ただ、それだけなんだけど…。」
「強くなりたい理由は?」
「…多分、勘なんだけど、この事件、まだ終わってないと思う。氷海ちゃんだけ入れられてそのままって言うのは、絶対にない気がする。それに、氷海ちゃんのシャドウは、イレギュラーな存在だったってりせちゃんが言ってた。だから、どんなシャドウが来ても、対抗出来るような自信を持ちたいんだ。だから、その…。」

そこまで聞いた葉月は、また一つ頷いた。

「…分かった。私で良ければ、鍛練の相手、勤めるよ。」
「! ありがとうっ!」

千枝は喜びを露にし、葉月に礼を述べた。

「…さて、もう寝ようぜ。そろそろ消灯時間だろ。」
「そうね。見回りの先生が動き始めたわ。…事情を話せば、納得してくれるかしら…。」
「葉月と千枝の事か? …ハジメ先生辺りなら許してくれそうな気がする。」

そんな話をしながら、理乃達は寝袋を用意し始めた。

林間学校の終わりに ( No.380 )
日時: 2015/08/06 21:20
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: g9MFapnu)

「…う…。う…うわあっ!!」

朝日が昇ってきた頃、烈はいきなりガバッと起き上がった。
その顔色は、どこか、悪い。息も荒く、震えている。

「はぁ、はぁ…。(ゆ、夢、か…。)」

出てきていた汗を拭い、烈は辺りを見る。

(良かった、起こしてはいないみたいだな。)

安堵の溜息をついた後、烈はもう一度横になる。
だが、睡魔は一向に襲ってこない。

(…ここんとこ、昔の事を思い出してばかりだったからな…。夢に見ちまうのも、無理はないか…。)

ワンダークロック事件の際、ジョーカーに問われた時、そして、氷海の一件。
烈の過去を…思い出したくない思い出を呼び起こすのに十分すぎる程だった。

(…駄目だ、眠れない…。眠るのが、怖い…。)

体を抱え込み、目を閉じて一人で震える烈。
心に植え付けられた恐怖…そして、“贖罪”の思い。
それが悪夢となり、烈を追い込んでいた。

(…。)

眠っている三人を起こさぬよう、烈は一人、テントから出ていった。

「…烈…?」

それを見る影がいたとは知らずに。











川縁まで出た烈は、顔を水に付け、すぐに上げる。
水面に映った自分の顔は、見るに耐えない酷いものだった。

(…はは…。こんな酷い顔じゃ、帰るに帰れねぇな…。)

水を掬い上げ、顔を洗う。

「…ふぅ…。」

顔を洗って一息ついた烈の瞼から、水滴と共に、一滴の涙が零れた。

(あ、やべ…。悪夢で泣くなんて、俺はガキかよ…。)

何度顔を洗っても、涙は止めどなく溢れる。
誰もいない上に、水滴に混じっているせいか、涙とバレる心配はない。
だが、戻る前には止めないといけない。止めないと、今同じ部屋にいる三人が心配する。

「…はい、どうぞ。」

ふと、横から声が聞こえ、驚いた烈は振り向いた。
そこには、真っ白でふわふわなタオルを差し出した、理乃がいた。

「あ…理乃、先輩…。だっ、大丈夫だよ。ジャージで拭くし…。」
「駄目です。…折角の先輩の好意を、無下にする気ですか?」
「うぐ…。」

にこりと笑う理乃に、烈は何か負けた気がして、素直にふわふわのタオルを受け取り、水気を拭き取った。
完全に水気を拭き取れた事を確認した烈は、顔をタオルから離す。

「あ…!」

そんな時、だった。再び一滴の涙が烈の頬を伝った。
堰を切ったように、涙は止めどなく溢れ、何度拭っても、止まらない。

「(くそっ…! 止まれよ…! 止まってくれよっ…!)ご、ごめん、理乃先輩…!」
「何故、謝るのです?」
「だっ、だって、みっともないって…!」
「みっともなくなどないですよ。…今は、思う存分、泣いて構いません。…辺りに、私以外気配は感じません。私も、何も見なかった事にしますから。…強がって隠したら、苦しいだけですよ。」

そう言って、理乃はそっと、烈を抱き締めた。

「あ…! う…うぅっ…!」

その暖かさに安堵したのか、烈は嗚咽をあげながら、理乃の腕の中で、泣き出した。

林間学校の終わりに ( No.381 )
日時: 2015/08/06 21:34
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 0JVd9KgH)

どれくらい経っただろうか、いつしか烈の涙が止み、落ち着いたのを見計らった理乃は、彼をそっと放した。

「…ごめん、理乃先輩。…その、ありがとな。」
「ふふっ、構いませんよ。…恐ろしい夢を見たのですか?」

理乃が問うと、烈は首を縦に振る。

「…昔の夢。思い出したくもない、辛い…昔、俺が起こした、言い逃れの出来ない、事件の夢さ。」
「…。」

烈の悲しそうな言葉を聞き届けた後、理乃は川縁に向かう。

「…昔々、あるところに。」
「…?」

突然、理乃が語り出したので、烈はちょっと驚いて、理乃を見た。

「小さな小さな子供がいました。子供は、生まれる前にも拘らず、とある預言者に、世界を変える程の力を持つ存在と予言されました。」
「えっ、う、生まれる前に予言を…?」
「…その予言を聞き届けた世界の人々達は、まだ生まれてもいないその子供を、躍起になって探しました。そしてある日、ある国の男が、生まれたばかりの自分の子供を、その予言の子供だと語りました。」
「…。先輩、本当にその男の子供は…。」

烈が何かを聞こうとしたが、理乃が一度自分を見たので、「…いや、いい。続けてくれ。」と、言葉を飲み込んだ。

「…その子供を巡り、私の世界で戦争が起きました。」
「なっ…!?」
「長い、長い…その戦争は、いつしか魔法戦争と呼ばれるようになり、百年以上も…私達が生まれるくらいまで、続きました。長い長い戦争。いつしか、目的も忘れ、ただただ、人を殺しあうだけの戦争が長々と続きました。」

理乃の言葉に、烈は口を開けたまま、何も言えなくなった。

「…長い、長い時間が経ちました。戦争は、精霊に認められた四人の子供達が治めました。その戦争を終わらせた子供達は、それぞれ得意属性である火、水、風、地の司る者と呼ばれ、その風習が、各学校に受け継がれているのです。各学園の最強の魔導師を、司と呼ぶようになりました。…私は、桜蘭学園の風の司。風の精霊、シルフに認められた、桜蘭学園最強の風使いなのです。」
「…。」

烈は、理乃の話にただ、無言でいた。何も、言えなかった。

「…理乃先輩。その子供…その、男が言った子供は…。」
「ええ、嘘です。男が言った子供は、二種類の属性を扱う、普通の子供でした。」
「…。」

なんとなく、だが、烈は心に引っかかっていた。
理乃の話に出た男の子供は、嘘だった。ならば、予言された子供は一体誰なのだろうか。

「…理乃先輩。」
「はい。」

烈には、その子供が誰か、何故か分かった気がした。

「…いや、いいや。」

だが、これは聞くべきではないだろう。そう思って、烈は話を打ち切った。そして、

「…理乃先輩には、話してもいいかもな。」
「えっ?」
「…俺の、昔の話。何か、理乃先輩になら、話していい。いや、聞いてほしい。そう思ったんだ。…聞いて貰っていいかな?」

自分の胸に縛りついて離さない呪縛を、理乃に話す事を望んだ。

「…はい。話してすっきりするなら、私でよければ。」

理乃がそう言うと、烈は理乃の隣に立ち、小さく頷いた。

「…昔の…俺が、小学生に上がらない時の、話。」

烈は、ゆっくりと話し始めた。
自分の内に宿る、恐怖と贖罪の話を…。

林間学校の終わりに ( No.382 )
日時: 2015/08/06 21:46
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: /9RVPCwZ)

「…。」

烈は理乃に全て話し終えた後、一つ溜息をついた。

「…。」

理乃は黙って、水面に視線を移した。

「…理乃先輩は、俺の事、怖がったりしないのか?」
「怖がる理由などありません。私達も、そのような危険を孕んでいますから。」
「…そっか。」

烈と理乃の間に、静寂が訪れた。

「…理乃先輩。アンタも…同じなんだな。俺と同じように、ずっと苦しんでいたんだな。」
「…やはり、烈さんは勘がいいですね。貴方の考えている通りです。」
「…俺達って、似た者同士なんだな。」
「そう、かも知れませんね。」

温和な理乃の笑みに、烈もつられて、笑みを見せる。

「…何か、ありがとな、理乃先輩。先輩がここに来てくれて、良かった。」
「ええ。…烈さん、苦しかったら、いつでも泣いたりしていいんですよ? 貴方を心配する方は、他にもいらっしゃいます。その方を心配させてはいけませんよ? …そうですよね、“花村さん”。」
「えっ!?」

理乃が前を向きながら話していると、烈達の背後にある草がガサッ! と盛大な音を立てた。
そこから、陽介が出てきた。どうやら心配して追いかけてきたのだろうか。

「ッ…!?」
「大丈夫ですよ、烈さん。花村さんが来たのは、つい先程ですから。貴方や私の話は、まったく聞いていません。」

話を聞かれたかと思い身構える烈だが、理乃の小声で囁かれた言葉で警戒を解いた。

「…いつから気付いてたんだよ、理乃ちゃん。」
「貴方がここに来た時から、です。そうですね…。丁度烈さんが、私の事を似た者同士と言った辺りですね。」
「…完全にここに来た時に気付いたんだな…。」

そう、丁度陽介が到着したのは、その辺りだ。どうやら本当に、烈達の話は聞いていなかったようだ。

「烈が出て行くのを見てさ、心配になって追いかけようとしたんだけど、何か考えているようだったらまずいかと思って、留まってたんだけど、やっぱり心配になって追いかけてきたの。さっき、大分うなされていたみたいだしな。」
「…ごめん、ちょっと、嫌な夢見てさ。その後も寝付けなくて顔を洗ってたら、理乃先輩がこっちに来て。」
「私は、烈さんの気配を感じ取って、何だか心配になってこちらに来たまでです。そして、暫く二人でお話を。」
「…何話してたんだ?」

陽介がそう問いかけると、烈と理乃は顔を見合わせ、笑みを見せる。

「内緒。」
「内緒です。」

そして、二人同時にそう言い放った。

「…さてと、戻ろうぜ、理乃先輩、陽介先輩。そろそろ朝食の材料が配られるんじゃないのか?」
「やっぱり自炊かよ…。なぁ、朝飯って何だ?」
「おにぎりだとさ。」
「」

昨日のトラウマが残っているのか、陽介はそこで絶句する。

「あ、安心して下さい、花村さん。私と由梨とで作りますので…。」
「それに、中の具も用意してあるから変な物は出来やしないから安心していいと思うぞ。」
「そ、そうなのか? …いや、でも油断は出来ないしなぁ…。」

そんな話をしながら、三人は仲良くテントに向かっていった。

林間学校の終わりに ( No.383 )
日時: 2015/08/06 22:15
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: /9RVPCwZ)

朝食も終わり、後は各自帰宅となった頃…。

「あっ!」

七海が急に声をあげ、鞄を漁り始めた。

「どうしたの? 七海ちゃん。」
「うーん、やっぱないや…。」

隣にいた雪子が声をかけると、七海は困ったような表情を浮かべる。

「何がないの?」
「いや、実はさ、雪子に描いて貰ったあの本がないんだよ…。」
「えっ? あの?」
「どっかに置いといたのかなぁ…。あの、花烈の薄い本。」

七海のその発言に、前にいた千枝と葉月が吹き出した。

「ちょ、ちょっと雪子。ホントに描いたの!? 烈君と花村の如何わしい妄想!」
「うん。帰りに牡丹ちゃんの所に寄って三人で来週のイベントではこれを出そうって話をしようとしたんだけど…。ゴミに紛れて捨てちゃったのかな?」
「かも…。ごめんね、雪子。」
「ほぅ、この薄い本はお前のだったのか、金杉。」

ポンッ、と七海の肩に置かれた手。背後に殺気を感じたのは、その直後。
ギギギ…。とロボットのように振り向き、その目に映したのは…。

「ゴミに紛れて置かれたものの中でシートに利用できそうだから尻に敷いたが…内容を見て誰が描いたか気になってたんだよなぁ…。」
「流石に当人達には言ってないが、これはまずいよなぁ、雪子、七海。」
「は、ハジメ先生…。DTO先生も…。」

にっこりと笑顔を浮かべたハジメと、DTOだった。
目は、当たり前だが笑っていない。

「…お前ら、帰る前に学校寄れ。」
「着いたら職員室直行な? あ、逃げられると思うなよ? 逃げたら更に酷い昴さんのオシオキが待ってるからな。」
「」

もう最早この二人に選択肢は、一つしか残されていないも同然だった。

「は、はい…。わかりました…。」

観念し、素直に謝る二人だった。











「はー、昨日は散々だったよ…。」

翌日、雪子は七海と共に、聖域へと向かっている。あの後、こっぴどく叱られたのか、げんなりとしていた。
そんな二人を余所に、後ろには嬉しそうな表情で由梨と話す悠と、浮かない顔を浮かべた陽介と烈がいる。
由梨から昨日、昴から話したい事があると言われ、こうして六人で向かっているのだ。

「でも、話って何だろうな、由梨。何か聞いていないか?」
「いや、アタシは何も。(…陽介と烈は感づいてるな、これ。まぁ、この二人に関してはアタシやすー姉が弁明したからあまり被害は被らなさそうだけど…。)」

どうやら、林間学校の一件に関しての話のようだ。

「やっほー。来たようだねー。」
「ん? パステルくん?」

神殿に辿り着き、そこに待っていたのは、赤い機体に乗ったパステルくんと、笑顔の昴だった。
昴の笑顔が若干引きつっているのは、気のせいではないだろう。

「由梨から事細かに聞いたよー? さぁ、悠ー、雪子ー、七海ー。ボクと一緒にイイコトしよーよー!」
「!?」

雪子はそこでパステルくんの異変に気がついたのか、背筋を凍らせ、震え出す。

「あ、天城?」
「…パステルくん、逃げちゃダメ?」
「ダメー♪」

懇願するように訊ねたら、パステルくんに笑顔で却下される。

「おにぎりを馬鹿にする奴は、痛い目見てもらうよー? それと悠ー。君にはそれ以上のオシオキ、必要だよねー?」
「いや、あれは、その」
「言い訳ダメー♪」

パステルくんは目の前に赤いスイッチ—ダンガンロンパでモノクマが叩くアレ—を取りだし、にっこり笑ってスパナを持った。
そして、スイッチを叩く。

『ナルカミサン、アマギサン、カナスギサンガ“クロ”ニキマリマシタ。オシオキヲカイシシマス。』

その文字が表示された後、悠達の真下に、穴が開いた。

「…へ? うわあぁぁぁぁっ…。」
「きゃあぁぁぁぁっ…。」

悠、雪子、七海はその穴に落ち、パステルくんが機体を操作して下に行くと、穴が塞がった。

「…パステルくん、また、魔改造してたのか。神殿。」
「触れるな。さて、烈、陽介。お前達は事故とはいえ、女湯を覗いたのは事実だ。そんな訳で、こっちに来い。正座で少し、お説教だ。」
「はい…。」

烈と陽介も、神殿の中に消えていった。
一人残された由梨は、ポケットから創世手帳を取り出した。

(…なぁ、すー姉。)
—何? 由梨ちゃん。
(…下、どうなってんだ? 何か凄い悲鳴聞こえるんだけど。)

穴の空いた場所から、悲鳴が聞こえる。由梨は下の様子が気になり、創造者に訊ねた。
急に、手帳が冷たくなる。恐らくこれは、恐怖の感情だろう。

—地獄、かな。知りたいなら手帳に同期させるけど、見る?
(いや、いい。何か分かっちまった。聞かない方がいいって事が。)
—それが正解…。とにかく、パステルくんさん様には逆らわない方がいいって言っておくね…。
(ああ…。)

由梨は下の悲鳴を無視し、神殿へと入っていった…。





こうして、林間学校は幕を下ろす。
明日から、また平和な日常が始まる。
…そう、平和な、日常が…。











「ふーん、去年の林間学校はんな事があったんだ。」

神殿のリビングにて、お茶を飲みながら、昴は目の前にいた理乃にそう語る。
どうやら今はお茶会がてら、昨年の林間学校を振り返っていたようだ。

「はい…。私達がいない間にそちらでも色々起こっていたみたいですが…。」
「あー、あの事件の顛末はまた今度な。」

昴の言う事件は、後に語る事にしよう。

「…お前は直で聞かされたんだな。」

急に、昴は話を変える。何の事かわかった理乃は、頷いた。

「はい。直接本人から過去を伺いました。…話は、しませんし…昴さんもご存知ですよね? 彼の過去。」
「…。」

風という情報網を味方につけている理乃に、隠し事は不可能。それを知っている昴は、ただ頷くだけだった。

「だが、話すつもりもないさ。紅も、話してほしくないみたいだったし。」
「その方が烈さんのためですからね。さて、このお話はこれくらいにして、ご飯の支度に取りかかりましょうか。」
「さんきゅ。んじゃ、行くか。」

二人は夕食の用意をするために、キッチンへと消えていった…。







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