二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 悪魔の歯車 ( No.52 )
- 日時: 2015/05/26 18:49
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: /9RVPCwZ)
翌朝…。
「ふあぁ…。」
昴は大きく伸びをし、固まった筋肉を解す。そして辺りを確認すると、ゆっくりと布団から出た。
(…こいつらはまだ夢の中、と。)
全員、慣れない環境で遅くまで起きており、まだ夢の中のようだ。
昴はそんな彼等を起こさぬよう、静かに外に出ようとしたが…。
「う…うぅ…!」
(…? 烈…?)
後ろから烈の呻き声が聞こえ、昴は振り向いた。
「や…めて、くれ…! もう…俺は、俺はっ…!」
「…。」
うなされている烈の側に寄った昴は、彼の頭を撫でてやる。
すると、ふっ、と、声が止み、寝息も穏やかになる。
(…烈、お前は一人じゃないよ。だから、安心してお休み…?)
暫く、烈の頭を撫でながら過ごしていたが、やがて烈が起きたようで、ゆっくりと目を開けた。
「おー、起きたか。」
「あ…すばる、さん…?」
目をぐしぐしと擦り、出てきていた涙を拭う。
「もしかして俺…起こしちゃったか?」
「いや、自然に目が覚めたよ。鏡達の朝飯用意するから、いつもこのくらいの時間だからな。」
「そっか…。」
昴を起こしたのではないかと心配したが、それが杞憂だと知り、ほっと安堵の息を漏らす。
「…なぁ、昴さん。」
「ん?」
「…あの、さ…。」
烈は何かを言いたそうにしたが、急に口をつぐんで頭を振った。
「(…やめよう。昴さんはあの笛吹男事件で相当参ってるし…。これ以上、何かを背負わせちゃ駄目だよな。)ごめん、何でもない。」
「そっか。」
昴はただそう言ってから、烈の頭を撫でた。彼は少し照れ臭そうにそれを受ける。振り払う事はしなかった。
「烈、外の風浴びてこないか? 気分転換にさ。」
「…だな。」
二人はそう言い合ってから、外に向かおうとドアに手をかける。
が、その直後、ドアをノックする音が聞こえた。
「ん? 誰だ?」
昴がドアを開けると、そこにはりせがいた。
「おっ、りせか。おはようさん。」
「おー、おはようさん、りせ。」
「おはよっ、昴さん、烈。みんなはまだ寝てるの?」
「ああ、みんなぐっすり。起きてるのは俺と烈だけだ。どうかしたのか?」
そう昴が問うと、りせの表情が変わった。アイドルとしての、仕事の顔だ。
「えっとね、今からこの辺りで撮影を始めるから、部屋から出ないで欲しいんだ。勝手だって分かってるけど、なるべく一発でOKにしたいから。…主役が凄く足引っ張ってさー…。ちょっと、現場がピリピリしてるの。協力して貰ってもいい?」
「ああ、構わないよ。烈もいいな。」
「ああ、大丈夫。」
二人の快い承諾に、りせは笑顔を見せる。
「ありがとう、二人共! 無理言ってごめんね。」
「気にすんなって。仕事、頑張れよ?」
「うんっ! じゃあ、また朝御飯の時にねっ!」
りせは手を振りながら、タッと駆け出した。
昴は扉を閉め、鍵をかけてから烈と共にベッドに腰かけた。
「…さて、これからどうするかな。」
「ここで待機しかねぇだろ。りせの仕事の邪魔になるしよ。」
「だよなぁ…。」
待機するしかない二人は、溜息をついた。
- 悪魔の歯車 ( No.53 )
- 日時: 2015/05/28 23:26
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: .usx6F8Y)
暫くする事もなく、二人してスマホをいじっていると…。
—ガタガタガタッ!
「!?」
急にドアノブが盛大な音を立てガタガタ揺れ、二人は何事かと思い、身構えた。
「や、やめてっ! いやあぁぁっ!」
「りせの声っ…!?」
りせの悲痛な叫び声が聞こえ、昴と烈は警戒した。
そして昴は創世ノートを構え、烈はポケットから警棒を取り出して顔を見合わせ、頷くも…。
「カーット!」
その声が直後に響き、二人はがっくりと崩れ落ちた。
「いやぁ、迫真の演技だったね、りせちゃん! 一発OKだよ!」
「えへへ…。」
「でも、ノブを回す扉、間違えてない? 確か、その隣辺りだった筈だけど…。」
「えっ? カメラさんがここにいたからここだと思…あぁぁぁっ!」
どうやら、演技の一貫でドアノブを思いきり回していたようだが、隣の部屋とこの部屋を間違えたらしく、気付いたりせは慌ててしまった。
「すみません! カメラの位置間違えましたっ!」
「バカ野郎! ちょ、ここ誰もいないよな!?」
「…あ、あれ? ここって確か…。」
「え、りせちゃん、ここ、誰かいるの? やべぇ、どうしよう…。」
恐らく、監督であろう人が今真っ青になっているであろう姿を想像し、昴と烈は再び顔を見合わせ…。
「…ぷっ。」
「あっはっはっはっはっ!」
二人で大笑いし出した。その内にノックの音が聞こえたので、昴は鍵を開けた。奥にいたのは、りせだった。
「や、やっぱり昴さん達の部屋だったんだ…。」
「り、りせちゃん、知り合い?」
「はい。私の同級生とセンパイ方と…友達です。」
「いやー、びっくりしたよ、りせ。思わず身構えちまった…。」
「うぅ、ごめんね…。」
「すみませんでした…。」
りせを筆頭に、撮影スタッフ全員謝る。
「気にしてねぇよ。確かにビックリはしたけど。それに、丁度いい目覚ましになっていいんじゃねぇの? なっ、みんな。」
烈がそう声をかけると、眠っていた筈の一同がゆっくりと体を起こした。どうやらドアのガチャガチャやる音で目が冴えてしまったようだ。
「ガチで敵襲あったかと思ったぞ…。思わず武器作ろうとしたアタシの焦りを返せ。」
「ご、ごめん、由梨センパイ…。みんなも…。」
「いやぁ、面目ないっ! でも、協力してくれてありがたいよ! 撮影が押してるからここでのりせちゃんの一発OKはありがたいんだ。」
「確か、主役が足を引っ張っているってりせが言っていたな。そんなに悪いのか?」
昴が問うと、りせと監督は盛大な溜息をついた。
「悪いも何もって感じくらいにひでぇよ…。正直、別の人に頼もうとしたんだが…上からの重圧が酷くてよ…。」
「ほら、昴さんも昨日会ったよね。アイツ。」
「あぁ…。烈の曲を勝手に歌ったって言うアイツか。」
「あのライブの時も圧があったってウィザウさんが言ってた。はぁ…もぅ、やんなっちゃう…。」
りせは本気で呆れているようだ。それこそ、あからさまに嫌そうな表情を浮かべる程に。
「殺陣は初心者だって抜かすから練習して来いっつったのにまったくやってないから相手に怪我させちまうし…。ただでさえ撮影で足引っ張ってんだからいい加減にしてくれよ…。」
「あっ、そうだよ! それで由梨センパイにお願いがあったんだ!」
監督の言葉にりせはぽんと手を打った。
「アタシに?」
「うん、あのね、さっき監督さんが言った通り、主役ともう一人の、殺陣のシーンがあって、その相手が怪我しちゃったの。怪我は大した事ないけど、撮影続行させるのはちょっと考え物で…。」
「手首を痛めたらしくてさ。本人はやるって言ってるが、こっちはいいっつったんだ。大会も控えてるって話だし…。」
「そうか…。それなら、大した事がない怪我でも休ませた方がいいな。わかった。協力する。」
由梨がそう答えると、りせは体全体で喜びを露にした。
「ホント!? よかった…。ダメなら桐条さんに頼もうと思ってたけど…。」
「うーん、格ゲーだけの知識で見た見解だけど…殺陣の内容によるけど、あの人って得意なのはレイピア…突剣だろ? 殺陣ってどっちかっつーなら西洋刀とか日本刀なイメージがあるんだけど…。」
「そちらの方も出来なくもないがな。」
烈の言葉に答える声がして、昴達はドアの方を向く。
ドアを潜ってきたのは、美鶴だった。後ろには明彦やアイギス、風花もいる。
「あ、師匠達! おはようございますっ! 朝の散歩ですか?」
「まぁ、そんな所だ。この辺りを歩いていると、君達の声が聞こえてな。…野上君は剣術の有段者なのか?」
「ん、まぁ、そんなとこ。アタシの実家が剣術道場でさ、ちっちゃい頃から鍛えられてたって訳。監督さん、撮影押してるんだったらさっさと始めようか。演技の概要だけ教えてほしいんだけど。」
乗り気な由梨に、監督は嬉しそうに頷く。
「ああ、殺陣の内容だが…。」
「いや、そっちはいい。」
「えっ!?」
だが、演技の説明をしようとしたら拒否されたので、思わず驚く監督や撮影スタッフ。
「相手は殺陣の練習をしてない初心者なんだろ? 基礎が身に付いていない奴には好き勝手振らせりゃいい。…アタシが全部見切る。」
「で、でもでも! こっちにはハンデがあるんだよ!? いくら由梨センパイでも心配だよ!」
「ハンデ?」
りせの言葉に首を傾げる由梨に、撮影スタッフの一人—恐らく、衣装係の人だろう—が近付いた。
手には、黒いローブと白い仮面があった。
「やって貰いたいのは、主役を襲うローブの剣士っていう役なんだが、この仮面を見て分かる通り視界が悪いんだ。見切るなんて芸当は難しそうだけど…。」
「ふーん…。うん、確かに動きづらくなるしハンデだな。…烈、美鶴、少し付き合ってくれ。」
「おぅ、分かった。」
「構わないが…何をするんだ?」
「これ着て視野とか色々どんなもんか確かめる。監督さん、ちょっと時間貰っていい? あまりかからないようにするから。」
「構わないぞ。おーい、本番用の模擬刀用意してやれー。…場所は…甲板でいいか? 準備ができたらそのまま撮影に入っちまいたいから。」
監督が由梨に聞き返すと、彼女は頷いた。
「野上君、本番では一対一の筈だが、二対一でいいのか?」
「二人捌ききれないようじゃ一人なんて無理。あ、昴さんも加わるか?」
「俺はパス。あの二人で十分だろ…。」
昴はそう言って、やんわりと断った。
- 悪魔の歯車 ( No.54 )
- 日時: 2015/05/26 19:08
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: oq60GVTK)
そんなこんなで、甲板には衣装に着替えて模擬刀を持った由梨と、模擬刀を握りしめた烈と美鶴が揃った。
周りには、見学に来た昴達と、主役の女とそのマネージャーがいる。
「まだアタシ来なくてよくなーい?」
「見学してろガキ。これも勉強だ勉強。…烈、美鶴。本気で来い。…殺す気でな。」
由梨は構え、相手の出方を伺った。
殺気のようなものが、由梨から放たれる。どうやら、本気だ。
「相当の手練れだな…。」
「美鶴さん、油断しない方がいい。今の由梨先輩、かなり本気だ。」
「この殺気で分かっていたさ。…行くぞ!」
美鶴は地を蹴り、同時に烈も駆け出す。
(…美鶴を捌いてから、烈を受け流すか。)
由梨は剣を美鶴のいる方に構え、彼女の剣撃を受け流した。
が、すぐに次の一撃が飛ぶ。
(美鶴の剣は理乃と同じタイプだな。一撃は軽いけど…次の攻撃に転じるのが早い。手数でダメージを与えるタイプだ。)
由梨は冷静に分析しながら、次の一撃も受け流した。
その横から、烈の一撃が迫る。由梨はそれがわかっているかのように、美鶴の剣を受け流したその動作で烈の剣を受けた。
(烈はアタシと同じパワーファイター。攻撃から攻撃に移る早さは遅いが、その分一撃が重い。)
そして烈の剣を力で弾き、迫ってきていた美鶴の剣をバックステップで避ける。
「(…服の動き難さも、視界の悪さも問題ない範囲だ。…こういう時を見据えて理乃と手合わせしていてよかった。)おっと!」
背後からの烈の一撃に反応できた由梨は、横に飛んで避ける。
「…舞姫。」
「えっ? 舞姫? 確かそれって、由梨センパイのアカウントに入ってたよね?」
そんな光景を見ていた直斗が呟き、それを聞いたりせが訪ね返す。
「ええ。以前、野上先輩からTwitterアカウントの由来を教えて貰ったんです。舞姫は、自分につけられた二つ名…称号だと伺いました。…いまいちその時は実感できませんでしたが…あの姿を見て、納得してしまって…。」
「あぁ…うん、分かるかも。今の由梨ちゃん、何か、踊ってる。そんな感じがする。二人の剣を捌いてるだけなのに、凄い、魅せられる。」
「剣舞、という言葉を聞いた事があるが、まさしく今の由梨は、剣を使って舞い踊ってるよな…。」
ただ、特性の違う二人の剣を受け流しているだけなのに、この場にいる一同を感激させるには十分だった。
「よし、止めっ!」
由梨のこの言葉に、二人の動きがピタリと止まった。
「監督さん、問題無さそうだ。これなら多分見切れる。殺陣以外の演技の内容、教えてくれないか?」
「あぁ、問題は確かになさそうだな。…十回くらい打ち合って、最後に剣を弾き飛ばしてくれ。言葉は発しなくていい。無口な男の設定だからな。」
「了解。簡単簡単。」
「ほいじゃ、撮影を始めるぞ! りせちゃん、悪いけどその人達を少し向こうに連れてってくれないかな?」
「わかりました! じゃあ、センパイ、頑張ってね!」
「ああ。」
りせ達は奥へと向かい、甲板には撮影スタッフ達と由梨、そして相手の女が残った。
「アタシぃー、殺陣が上手いから起用されたんだよー? こう見えてぇー、有段者なのぉー。」
「嘘言うな。相手に怪我させた初心者だって聞いたけど? とにかくお前は適当に打ってこい。アタシが全部受け流してやる。」
「生意気ぃー。」
「準備はいいか、よーい、アクションッ!」
監督の言葉が聞こえたと同時に、女は駆け出した。
「やぁっ。」
そして模擬刀を叩きつけるように降り下ろすも、由梨は難なくそれを防ぐ。
(緊張感ねぇな…。もっと真面目にやれよ…。しかも何が有段者だよ…。型の一つもなってないし…。これなら実家の門下生や烈と打ち合ってた方が楽しいんだけど。さっさと終わらせよ…。)
ある程度打ち合ったところで、由梨は相手の剣を弾き飛ばした。
「カット! OKだ!」
そこで、制止の声がかかった。
「こんな感じでいいのか?」
「何の問題もねぇよ! いやぁ、ありがたい! ホント助かった! …出来れば次のシーンもお願いしたいが…。」
「構わねぇよ。次のシーンも殺陣なのか?」
「今回みたいな大がかりじゃねぇけど、殺陣だ。またそれを着て、今度は手練れの剣士とやり合って船の奥に行って貰いたいんだ。まぁ、勝ち目ないと見て逃げるっつー訳だな。」
「手練れの剣士か。そりゃちょっと楽しみだな。一体誰が…。」
「何か、どこかの国のお偉いさんらしい。今日はもうすぐ別の船に乗って帰るって連絡あったみたいだから、明日になるけど、いいか?」
監督の言葉に、由梨は快く頷いた。
「ありがてぇ! さてと、飯もうすぐだし、アンタ等も着替えてきたらどうだ?」
「もうそんな時間か…。着替えて少し化粧して丁度いいかな。」
「じゃ、また後で、だね。」
りせがそう言うと、その場は解散になった。
- 悪魔の歯車 ( No.55 )
- 日時: 2015/05/26 19:14
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: FYh/B0LU)
そして昴達もお色直しを終え、全員で食堂に集まる。昨日とは違い、テーブルを囲んでの食事のようだ。
昴達は美鶴達やりせと合流し、席に座った。
「…。」
目の前に置かれたナイフやフォークを見て、昴、由梨、美鶴、直斗以外のメンバーは固まる。
そう、テーブルマナーなど習った事のない彼等は、どうしていいか分からないのだ。
「まぁ、普通固まりますよね…。」
「(…テーブルマナーの基礎を習ったアイツの記憶共有していて本当によかった…。)んな難しく考えなくてもいいんだけどな…。外側から順に使うって事を覚えてれば。…あ、駄目そうなら美鶴を見ればいい。令嬢だし、こういうパーティーには出なれてるだろうし。」
「まぁ、桐条グループのパーティー等に出ているからな。」
そんなこんなで、食事が運ばれてきた。どうやら本当にコース料理のようだ。
「…ところで美鶴。」
「どうかしたのか? 昴さん。」
「…お前達がこの船に載っている理由、そろそろ教えてくれないか。」
「…観光と言った筈だが?」
あくまでも観光と言い張る美鶴に、昴はナイフとフォークを置き、彼女に向き直った。
そして、創世ノートを持つ。
「…俺はこんなナリだが、一応神様だ。お前達の嘘くらい、見破れる。それに、烈と風花の会話を聞いて、ただ事じゃないと思った。…観光なんて建前だろ?」
図星を突かれたのか、美鶴は一瞬表情を驚きに変えるが、すぐに元の端麗な表情に戻した。
「…君には勝ち目はないようだな。」
「ご、ごめんなさい、桐条先輩…。」
自分のせいで見破られるきっかけになった風花は申し訳なさそうに謝罪をする。
美鶴はそんな風花に「構わない。」と返してから、昴達を見て、声を潜めながら話をしだす。
「一般人を巻き込む訳にはいかなかったが、君達の耳にも入れさせた方がいいだろう。我々は、ある男を追っているんだ。その男は元桐条の研究員で、能力開発の研究に魅入られた危険な奴だ。」
「風花さん達がこの間話していた男って…。」
「はい、烈さんに話した男と、先程美鶴さんが語った男は同一人物です。」
「この間、犠牲者がどうとか言ってたけど…。」
烈が問うと、美鶴や風花の表情が暗くなった。
「…奴は、十二年前に火災事件が起こった後も、秘密裏に子供達を誘拐して、実験体にしていたんだ。あの研究所も、また稼働していたそうだ。」
「なっ…!?」
『何だとっ!?』
美鶴の言葉に驚いたのは、烈と紅。美鶴はそんな彼らを一度見てから、溜息をついた。
「残念だが、山岸とアイギスが実際に生きていた機械達を見ている。大方、新しく新調したのだろう。まったく、そんな無駄な金と労力を他に使ってほしいくらいだ…。」
「と、とにかく、そこでちょっと調べて、男が昨日からこの船に乗る事を割り出したんです。」
「この船に? 何があるんだ?」
昴が聞くと、それはアイギスが答えてくれた。
「この船に、各地から誘拐した子供達を乗せ、研究所に運び込むそうです。ですので今、この船には大勢の子供達がどこかに隠されている筈です。」
「!?」
「子供を、誘拐!? しかも、ここに…!?」
「我々は、誘拐された子供達を助けだし、そして、その男を捕らえる。桐条に潜んだ悪しき芽を摘み取る為にな。」
美鶴達が船に乗った目的に、ただただ絶句するばかりの昴達。
「…よければ、俺達にも協力させてくれないか?」
が、それも束の間、昴がそう申し出、全員顔をあげる。その目に強い光が宿っている事を悟った美鶴は、生半可な気持ちでそう言った訳ではない事を感づいていた。
「君達には何の関係もない筈だが?」
「そこまで聞いちゃ、放っておけるわけないだろ。」
「私達にも協力させて、桐条さん。風花さんには劣るけど、私もサーチ、できるよ?」
「おいおい、りせ。仕事はどーすんだよ。」
「あれで私の出番終わりだもーん。だから、手伝えるよ! あ、このスープおいしー♪」
「え、マジ!?」
「おい千枝、器持つなスプーン使え。スープは音を立てて飲むもんじゃない。」
そして、次のスープが来た頃には、いつもの調子を取り戻すメンバー。
そんな彼らが面白くて、美鶴は思わず笑みを見せた。
「…美鶴さん、私も、彼らに協力して貰う事に賛成です。」
「何故だ?」
「ペルソナ能力者の皆さんとは実際に手合わせをして、その強さはわかっています。…美鶴さんと烈さんを同時に捌いていた由梨さんの強さ。そして、烈さんも由梨さんには敵わないとはいえ、あの強さは、彼を思い起こされました。」
「…ああ、私も少し、それは思った。」
「…それと、実力は未知数ですが、恐らく強いであろう昴さん…。協力を仰ぐには、いい相手かと思います。」
アイギスの分析に、美鶴は再度マナーを教えつつ食事を続ける一同を見た。
「…桐条のゴタゴタに巻き込みたくない気持ちはある。だが、彼等なら、協力を申し出ても構わない、そんな気がするんだ。…山岸、食事が終わり次第、彼等に私達が得た情報をリークしてくれ。」
「わかりました。あ、えっと、烈君、最後の方は器を持って掬い上げていいんだよ?」
「えっ!? そうなのか!? さっき由梨先輩が持っちゃダメって…。」
「悪かった、烈。言い方が悪かった。千枝みたいに器に口つけて飲むのは駄目だがそういう風に器を持つのはいいんだ。」
マナー講座をしながら、食事を続ける一同。
「…フッ…。」
美鶴はそんな光景に、笑い声を漏らした。
- 悪魔の歯車 ( No.56 )
- 日時: 2015/05/26 19:19
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 8NwmyZQz)
その後も…。
『神っ! ワインだワイン! しかも年代物っ…! 早くっ、早く飲ませろっ!』
「お前な…もちっと落ち着けよ…。」
「今度、うちにももっとワインを仕入れるよう母さんに頼んでおくよ…。」
「…? 赤羽君の家はもしや…。」
「あぁ、こいつんち、商店街にある酒屋なんッス。昴さんもよくこいつんちで仕入れた酒を買ってるみたいッスよ?」
「成程…。では、君の家にシャトー・オー・ブリオンやロマネ・コンティは置いているか?」
「おい美鶴、商店街の酒屋レベルでそんな高級ワインを置いている訳」
「あぁ、たまに入ってくるけど? でもやっぱ希少だから滅多には来ないけど。しかも入ったら入ったで親父とあの馬鹿鴉が飲んじまうし…。」
「…お前んちどんだけ分厚い仕入れルート持ってんの?」
『今度焼いてやろうかあの馬鹿共。いや、絶対焼く。焼いてやる。』
ワインで烈の家の謎を垣間見たり、
「あ、すみませーん、肉おかわりー。」
「こちらにも肉追加だ。」
「明彦、追加とかはない。諦めろ。」
「千枝、聞いた通りだから諦めろ。」
「がーんっ!」
肉好きの師弟二人がショックを受けていたり、
「…コーヒー美味いな…。」
「コーヒーよりも緑茶が飲みてぇ…。欲を言えば抹茶…。茶菓子と一緒に飲みてぇ…。」
「…後で買いに行けよ…。」
和物が大好きな由梨のぼやきがあったものの、食事は終わったようだ。
「はー、美味しかった! 予は満足じゃー!」
「古くせぇよ千枝。」
「でも、確かに美味しかったです。これは、クマ君にお礼を言わねばなりませんね…。」
「…君達は本当に観光だったのか…。」
何か期待していた風な美鶴の物言いに、全員何だか恥ずかしくなった。
「まぁ、とにかく食い終わったし、部屋行こうぜ。」
そう言って烈が席を立とうとしたそんな時。
『…皆様、食後の休息中にすみません。』
「…? 先輩、この声…。」
「ああ、昨日会った紅葉って言う奴の声だな。」
昨日、烈に礼を述べた男、紅葉の声がして、烈と由梨は顔を見合わせ、着席をした。
いつの間にか、食堂にあったステージらしき場所に、紅葉が立っていた。
『…この船…シエルアーク号について、皆様にお伝えしておきたい事があります。』
「…?」
会場内がざわつく。突然の話に、みんな着いていけていないようだ。
『皆様を運ぶこの船の地下には…大勢の能力者と呼ばれる子供達が、狭い部屋に閉じ込められています。』
「!?」
直斗と美鶴が、互いに顔を見合わせた。先程美鶴から聞いた証言の裏付けが、思っても見ない形でとれたのだ。
『子供達を誘拐した奴は、今もこの船におり、そして、研究所に運び込もうとしています。十二年前の、僕と同じように。』
(あいつも、十二年前の関係者? なら、話を聞きたいな。十二年前、烈に何があったか…。)
—…悪いけど、そう上手くは事が運びそうにないみたい。
不意に膝の上でパラリと開かれたノートには、不吉な文字が書かれていた。
(…? 何で)
「! 伏せろ!」
昴がどう言う事か聞こうとしたが、何かを感じた由梨に頭を掴まれ、そのまま顔面を強打した。
ガラスが派手に割れるような音が聞こえた後、悲鳴が響いた。
「っ…! おい由梨! 何すん」
「あげるな。…そのまま、伏せてろ。」
「は?」
「…見ない方がいい。…見ない方が、幸せだと思う。」
由梨の悲しそうな声が、昴の胸に嫌な予感を過らせた。
「きゃあぁぁっ!」
「駄目です! 久慈川さん、見てはいけません!」
「っ…!」
「里中、見るな! …っ、見ない方が、いいに決まってる…!」
「あ…!」
『…烈、お前も見ない方がいい。』
仲間達は必死に、他の仲間の目を塞ぐ。それがより一層、昴を不安にさせた。
「由梨、見ないから教えろ。」
「…。」
「アイツが上手く事が運ばないと言った理由。この悲鳴。それから、ガラスの割れる音。だが、お前は武器を作る事はしていないから、敵襲じゃない。…考えられるのは、俺の中じゃひとつしかない。」
「…。」
「お前が必死に見せないようにしているもの。それは…。」
頭に置かれた由梨の手が震えているのがわかる。この先を言ってほしくないのだろうが、言わなければならない。
「…紅葉の…“死体”、だな。」
「…ああ。」
由梨の目の前に移るもの。
それは、腹部を巨大な氷の柱に貫かれた、紅葉の…遺体、だった…。
- 悪魔の歯車 ( No.57 )
- 日時: 2015/05/26 19:26
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: FYh/B0LU)
揺れる船内。明かり取りの窓から、薄明かりが指しているだけの一室。
「…始まったようじゃの。」
そこにいた少女のような風貌の人物が、オレンジ色の髪を揺らした。
少女の元に、別の少女が近づく。
「おねえちゃん…。ほんとに、だいじょうぶなの? おそと、こわいおじちゃんがいっぱいだよ…?」
「大丈夫じゃよ。わしは強いんじゃ。あんなのケチョンケチョンじゃよ。…お主は心配せずに、ここでみんなと一緒に、わしが戻って来るのを待っておれ。よいな?」
「う、うん。」
そう言ってオレンジ色の髪をした少女は、近寄ってきた少女を撫でると、その体からは想像できない跳躍力を見せ、ダクトに飛び付き、金網を壊す。
「あ、まって!」
「どうしたのじゃ?」
「おなまえ、おしえて!」
先程の少女の問いかけに、オレンジ色の髪をした少女はニッ、と笑って、魅入られそうな赤い、焔のような眼を少女に向けた。
「わしは茜。茜、じゃよ。」
そう名乗ってから、少女—茜は、ダクトの中へと飛び出していった。
■
「…。」
突然の事件に、ジャンは口を閉ざしてしまった。
「これが…休日をぶち壊した第一の事件か。」
「ああ。…これがなかったらきっと、平和だったと思う。」
「た、確かにこれは…その…。」
無理して何かを言おうとしたジャンだが、言葉が見つからなかった。
「その後、俺達は部屋に無理矢理戻された。…つか茜の野郎、ここで初めて知ったが、完全に一人で行動する気満々だったのかよ。」
「すげーな、あのばーさん。」
「関心する所じゃないっつーの。…続き、行くぞ。」
昴は再び、ページをめくった。
■
私
—今日はここまで! …乱入者これ以降いなさそうならすぐに締め切ろうかな。
昴
「まぁ、いなさそうならな。感想どうぞ。」