二次創作小説(映像)※倉庫ログ

セブンスエンカウンター 前書き ( No.550 )
日時: 2015/10/31 21:51
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: j62VnjSr)

前書き de 注意事項



—料理対決のネタがうまく浮かばないから、ちょっとまた別ネタだよー。今回からまた新しいメンバーを加えるよ。セブンスドラゴン3のメンバーですっ! とはいっても、エデンやアトランティス組は加えるか未定だけど。理由はエンディングまで行った人なら察せるでしょう。いや割と本気で。


「あー…。」


—とりあえず確定してるのは、ナガミミ様、ジュリエッタさん、澪ちゃん、那雲博士、頼友のおじさん、かな。アリー? ユウマ? ごめん、察して。


「あー…。」


—まぁ、長々と話をするのも何だし、本編行こうか。セブンスドラゴン3のエンディング後っていう設定だから、未クリアでネタバレ嫌な人は逃げてね。では、どぞ。

セブンスエンカウンター ( No.551 )
日時: 2015/10/31 21:58
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: j62VnjSr)

事の始まりは、ある告知が大々的に発表されたところからだった。

“ノーデンス社の代表的体感ゲーム、セブンスエンカウントがパワーアップして全国のゲームセンターへ進出!”
“全国一部の店舗で試遊会が決定! 君もチケットを当てて一足早くセブンスエンカウントをプレイしよう!”

以前は、ノーデンス本社でのみ遊べたセブンスエンカウント。圧倒的な臨場感がプレイヤーを襲うこのゲームを遊びたがる者は多数存在したが、ごく限られた者しか遊べなかった。
先程の朗報を見た者達が、こぞって試遊会のチケットをゲットしようと躍起になったのは言うまでもない。











もちろん、昴達のいる場所でもそれは例外ではなく…。

「凪、ヘッドフォン買ってあげるから試遊会のチケット、(俺/アタシ)名義で応募しておいてくれないか?」
「なんか一番興味持たなさそうなのがきたー。」

現在、幸運少年凪の前に、フランシスと由梨が訪れていた。おい、自分名義だと確実に当たらないからって幸運に頼るな。凪も凪で興味持たなさそうとか言わない。

「珍しいねー。二人がこういうのに興味を持つなんてー。」
「意外か? たまにはこういうものも面白そうだと思ってな。」
「最近、めっきりモンスター討伐とかに行ってないから何か久々に大暴れしたいんだよ。バーチャルでもいいから。」
(あぁ、戦闘狂が出ちゃったかー。)

どうやら二人はゲームそのものというよりは、その内容に興味を持ったようだ。

「わかったー。一応、二人名義でも応募しとくよー。」
「頼む。成功報酬は後日渡すから。」

もうチケットを当てた気でいるフランシスと由梨は、ワクワクしながら帰っていった。

(ふー、由梨さん達でもう十人目…。幸運なのも問題だよねー。)

…おい凪、他の人達からも頼まれていたのか…。

セブンスエンカウンター ( No.552 )
日時: 2015/10/31 22:03
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: j62VnjSr)

そして、チケットの抽選日…。

「あ、当たったー!」

スマホの表記を見て、凪は手放しで喜ぶ。どうやら試遊会のチケットを当てたようだ。

「え、凪当たったの!? いいなー…。」
「あー、鏡は外れちゃったのかー…。」

スマホを眺めながらしょんぼり顔の鏡を見て、凪はそう察した。

「じゃあ、一緒にいくー? これ、どうやら三人一組みたいだからー。」
「え、いいの!? やたー!」

そんな鏡を見かねた凪は、鏡にそう薦める。自分も特に一緒にいく人がいなかったので、好都合だ。

「なんだ、鏡。お前もチケットに応募していたのか。」

不意に、遊びに来ていたフランシスが、そう訊ねた。

「う、うん。遊んでみたかったんだ、ちょっと。」
「ははっ、そんなゲームに興味を持つなんて、鏡もお子さまだな。」
「あ、フランシス名義で頼まれたチケットも当たってたよー。」
「うわあぁぁぁぁっ!!」

どうやら内密に頼んだようで、凪にばらされて焦るフランシス。

「え? フランシス名義って?」
「ななな、何でもない! 何でもない!」

こてんと首を傾げる鏡に、フランシスは慌てて言い放つ。

「ほら、これ!」
「わーっ! 見せなくてもいいだろう、凪!」
「えっと…フランシスの名前がある。なんで?」
「フランシスに自分名義でチケットの抽選に参加するように頼まれたのー。多分、自分で頼むとハズれると思ったんだろうねー。」
「あはは、フランシスは馬鹿だなー。自分の力でチケットくらい引き寄せろよ。」

そう言いながらキッチンから出てきたのは、由梨だった。手には美味しそうな抹茶ケーキがある。

「あ、由梨さんの分のチケットも当たっ」
「言うな。後にしろ。」

由梨が出てきた瞬間、凪が何かを言おうとしたが、鬼のような形相に阻まれ、凪はそれ以降何も言わなかった。

「もしかして、由梨姉も」
「言うな。ケーキやらんぞ。」

どうやら、由梨名義で応募したチケットも当たったようだ。
つか凪の運がかなり半端ない事になってるんですが。ちなみに競争倍率、かなり高いです。多分オークションで出品したらかなり法外な値段がつくプレミアチケットと化しそうです。それを三組分当てるって何。

「まぁ、いいやー。あ、チケットは明日郵送で届くってー。」
「わかった。」

そんなこんなで、チケット抽選日のお話は終わった。

(さて、鏡は誘うのを決定したから、後一人誰誘おうかなー。)
(三人一組か…。誰か一緒に行ってくれるのいるだろうか。)
(あの馬鹿以外に誰か二人か…。誰にすっかなー。)

各々、誰を誘おうか悩みながら…。

セブンスエンカウンター ( No.553 )
日時: 2015/10/31 22:26
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: j62VnjSr)

そして数日が過ぎ、ついに試遊会の日がやって来た。
凪は鏡を引き連れ、会場となる都内のゲームセンターへと向かっているが…。

「何で牡丹までついてくるのー?」
「酷くありませんの? 凪が後一人探していると聞いて、馳せ参じたまでですわ!」

どうやら、牡丹までが勝手についてきたようだ。まぁ、後一人に困っていたので、正直丁度よかったが、どうせなら昴や他の人を誘えばよかったと後悔していた。だが、目的のゲームセンターまでもう少し。ここで追い返すのも可哀想だし…。

「まぁまぁ、凪。みんなで一緒に行こうよ!」
「…まぁ、いいかー。牡丹も結構強いしー。」

鏡が完全に乗り気なので、ここで追い返したら鏡が悲しむと思い、そのまま一緒に連れて行く事にした。
そして会場となるゲームセンターに着くと、そこには既に由梨とフランシスがいた。その後ろにはリリィとローズ。理乃と紅刃がいた。更に見学兼付き添いだろうか、風花も一緒にいた。

「やっほー、フランシス、由梨さん。そのメンバーで来たんだ。あれ? 風花さんも?」
「ダブルウルウル目攻撃をされたから仕方なく。」
「理乃を誘った時に運悪くいたから仕方なく。」
「あ、あはは…。私は見学だよ。ノーデンス社って結構有名なゲーム会社だから、その技術を見てみたくて。それに、このセブンスエンカウントはかなりの最先端技術を使ってるから、余計に興味があってね。聞くと、見学は構わないみたいだから、来ちゃった。」

やや半場強制的にメンバーが決まって不満そうな二人を他所に、アイギスという最先端技術の塊が同室にいるのにまだ物足りないのか、風花が嬉々と語る。

「うーん、まぁ、いいや。まずはみんなで中に入ろー。」
「そうだな。」

とにかく、一同は何だか微妙な空気を醸し出しながらも、中に入っていった。

セブンスエンカウンター ( No.554 )
日時: 2015/10/31 22:32
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: j62VnjSr)

中に入るなり、左右違う長さの金髪ツインテールの少女が凪達に近寄ってきた。ノーデンスの社員なのか、フリル付きのスカートと黒タイツが特徴的な制服をまとった可愛らしい女の子だ。

「ようこそ、セブンスエンカウント試遊会場へ。お客様はチケットをお持ちですか?」
「持ってるよー。はい。」

凪はチケットを少女に渡した。横ではフランシスと由梨も、少女にチケットを差し出していた。

「はい、確かに試遊会のチケットですね。では、プレイヤーの方はこちらへ。見学にいらした方は二階へとお上がりください。」
「じゃあ、私は二階だね。」

風花はそう言って一同から離れようとしたが…。

「ところで、ナビゲーションはどうしますか?」
「ナビゲーション?」

全員、こてんと首を傾げる。

「どうやら皆さん、チケットの裏をよくお読みになっていらっしゃらないようですね。このセブンスエンカウントでは、一チームに一人、ナビゲーションをつける事ができます。なので、チケットには最大四人までのプレイヤーが参加する事が可能、と書かれていたのですが…。」
「実際にプレイするのは三人で、一人は外で地形やモンスターの強さをナビゲートするって事?」

凪が聞くと、少女は頷いた。

「一枚で三人プレイできると書いてあったから、ナビゲーションをつけられるなんて知らなかったぞ。」
「昴さんやりせも誘えばよかったな。アイツ等、それ専門だし。」

フランシスも由梨も、難しそうな顔をして困り果てていた。ナビがいるのといないのとでは、探索や戦闘においてかなりの違いが生まれる。

「今から呼ぶって手もあるけど、時間もないし、残念だけど今回は呼べそうにないね。」

紅刃は頭をバリバリ掻きながら、ちらりと風花を見る。風花は紅刃の言いたい事に気づいたのか、小さく頷いた後、少女を見た。

「あ、あの。」
「なんでしょう?」
「私がこの九人のナビをするのは可能でしょうか?」
「あ、そっか。風花もナビ専門だっけ。」

そう、りせ以上の力を持つ風花に、三組のナビゲーションをさせようと考えたのだ。

「申し訳ありませんが、ナビゲーションは一人一組しかできません。」
「では、九人一組はどうでしょうか? 丁度マシンも九台分ありますし…。」
「申し訳ありませんが、プレイヤーは一組三人となっておりまして…。」

どうにか風花一人で三組のナビゲーションをさせようと考えたが、どうにもならなさそうだ。

「いいじゃないの。想定人数自体は超えてないのでしょう?」

そこへ、鍔付き帽子を被った癖っ毛とちょび髭が特徴的な“おじさん”がやって来た。

「チッ…。元はといえば、テメエがきちんと、応募サイトにナビの事がはっきり書かれているのを確認しなかったのがいけねぇんじゃないのか、十郎太。」
「ちょっとナガミミ! 今は営業モードよ! あとそっちの名前で呼ばないでくれる? ジュリエッタでお願いと何度言えば」
「あー…コホン。お話の続きは後ほどお願いします。つか、後にしやがれ。」

めんどくさそうに、ナガミミと呼ばれた少女は話を打ち切る。それに十郎太…いや、ジュリエッタは何かを言うも、ナガミミは一切無視した。

「コホン…。まぁ、仕方がないでしょう。こちらの、主にこの馬鹿の不手際でしたからね。それでは、今回は特別に九人一組で参加いただくという事でよろしいですか?」
「まだ素が残ってるし! と、とにかく、その通りよ。サポートにバディ、ユニゾンシステムのテストも完璧だしね。」
「やや不安ですが、特例として流しておきましょう。何か問題が発生した場合は、彼を殴って結構ですから。では、あちらのマシンで職業の登録を行ってください。ナビの方はこちらへ。ノーデンス社随一のナビから説明がありますので、お聞きになってお待ちください。ジュリエッタ、テメエはソイツ等を案内してやれ。」
「わ、わかりました。じゃあみんな、また後でね。」
「ナガミミ、ちゃんと営業モードに戻りなさいってば!」

最後まで素のモードを出すナガミミに、ジュリエッタは何かを言うも、彼女はさっさと風花を連れて行ってしまった。

「まったくもぅ…。ごめんなさいね、バタバタしちゃって。アタシはジュリエッタ。このセブンスエンカウントの開発者で、ノーデンス社の取締役よ。」
「よろしくねー、十郎太さん。」
「んもう! 可愛い顔して意地悪なんだから! ジュ・リ・エッ・タ! ジュリエッタよ!」

凪がわざとらしく間違って言ったあと、ウインクなんかしながら言うもんだから、由梨とフランシスは背筋が凍るような寒気を感じた。

「はーい、じゅう…じゃなかった、ジュリエッタさん。」
「と、とにかくさっさと職業決めようぜ。」

由梨はこれ以上話すと純粋組が変な興味を持ってしまう可能性を危惧し、さっさと次に進もうとしたが…。

「ジュリエッタさん、男の人なのに女の人みたいな言葉遣いするの、なんで…?」
「ボク知ってる! あれ、“オネェ”っていうんだよね? 初めて見た!」
「いいから、早く決めるぞ!」

時既に遅し。リリィとローズが興味を示してしまった。フランシスが制止するも、

「へー、あーいうのがオネェなんだ!」
「オカマとは違うのでしょうか?」

更に犠牲者が二人生まれました。鏡も理乃も、初めて見るオネェに興味津々のようだ。

「はいはい、オカマとかオネェ談義は後にして、まずは職業決めようねー。」
「はーい!」

が、更なる興味を持たれる前にすかさず紅刃が先に進むよう促したので、純粋組は彼についていった。

(ナイスこう兄!)
(ただのシスコン馬鹿かとおもったら、ああいう気配りができるんだな。流石は妹の面倒を見てきただけはあるか。)

そんな紅刃に、由梨とフランシスは心のそこから感謝しつつ、凪やオネェについて説明をしようとしたが凪に殴られて止められた牡丹と共についていった。

セブンスエンカウンター ( No.555 )
日時: 2015/10/31 22:37
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: j62VnjSr)

「じゃあ、職業について簡単に説明するわね。職業はサムライ、エージェント、ゴッドハンド、デュエリスト、ルーンナイト、フォーチュナー、メイジ、バニッシャーの八つがあるの。それぞれの特徴は、この簡単にまとめた説明書を見て。」

登録用のポットの前に来た時、ジュリエッタは凪達に紙を渡しながら説明をする。
その紙には、


サムライ
・武器は刀。一刀(一刀流)と双剣(二刀流)があり、それぞれ使えるスキルが異なる
・攻守のバランスがとれた剣士

エージェント
・武器は二丁拳銃
・身を隠しながら射撃をしたり、【ハッキング】で敵の弱体化や同士討ちを誘発したりできる

ゴッドハンド
・武器は拳
・特定のスキルにより敵に付加させるゴッド深度によって繰り出す技と、カウンター技を主軸として戦い、簡単な回復スキルや補助スキルも扱える

デュエリスト
・武器はカード
・毎ターン追加される手札のカードを使って戦う為、やや運要素が絡む

ルーンナイト
・武器は短剣
・色々な効果を持つ魔法を短剣に宿らせて攻めたり、全体回復スキルや味方への攻撃を自身へ引き付けるスキルで味方を守る

フォーチュナー
・武器は鎌
・状態異常攻撃が特徴。また、補助スキルも豊富

メイジ
・武器は杖
・様々な属性魔法攻撃や体力や状態異常を回復させる魔法を覚える、魔術のスペシャリスト

バニッシャー
・武器は機甲槍(槍と臼砲を併せ持つ槍。簡単に言えば、槍のついたバズーカ砲のようなもの)
・爆薬を消費して、高火力の攻撃を繰り出す事が可能


と書かれていた。

「ふむ、九人だから、一人一つの職に就いたら、一人誰かが被るのか。」
「だったらサムライを二人に分けたらいいんじゃないかなー? 丁度一刀と双剣で分かれてるみたいだし。」

紅刃の提案に、全員頷く。

「なら、紅刃さんと由梨さんが一刀と双剣のサムライになりますの?」

剣術道場出身の野上兄妹がサムライに決定するかと思いきや…。

「いや、俺はバニッシャーやろうと思うんだー。」
「へ? 意外。双剣の使い手である兄貴なら双剣サムライになると思ったのに。」
「いやー、確かに慣れてる獲物は持ちたいけど、たまには別ので大暴れしたい気分なんだよねー。それにこの機甲槍っての、面白そうだし。」
「この兄貴は…。じゃあ、双刀サムライはどうするんだよ。」

なんと、紅刃が辞退したのだ。
一刀は自分がやるとして、双剣が辞退した以上、別の誰かがやるしかない。由梨は前にいる一同に訊ねた。

「あ、あの、オレやってみたい! この中でなんか、できそうなのってサムライくらいだろうし…。」
「他のもできそうな気がするけど、じゃあ、双刀サムライは鏡に、一刀サムライは由梨さんに任せよっかー。じゃあ、他のはどうするー?」

ここでサムライは鏡と由梨に、バニッシャーは紅刃に決定したので、他のをどうするか一同に凪が訊ねた。

「あのさ、どう考えてもメイジとゴッドハンドは一択だと思う。」
「意義なし。」

全員、由梨が見た方角を見る。そこにいたのは、理乃と牡丹。これには全員納得してしまう。

「納得されると断りきれないですね…。わかりました。メイジは私が引き受けますね。」
「ゴッドハンドは私ですわね。」

そんなこんなで、メイジは理乃に、ゴッドハンドは牡丹となった。

「あとは…エージェントにルーンナイトにデュエリストにフォーチュナーかなー。」
「理乃がメイジをやるならば、エージェントも一択になるだろ。」
「誰にー?」

フランシスが言うと、凪は首を傾げてしまう。どうやらわかっていないようだ。

「お前だ、凪。理乃がメイジをやる以上、機械に長けているのはお前しかいないからな。」
「それもそっかー。じゃあ、残りはそっちで決めちゃってー。」

凪が言うと、フランシスは頷いて紙とにらめっこをした。が、

「ボク、デュエリストやりたい!」
「私、フォーチュナーやりたい!」
「意外にも即座に決定したなおい。」

即座にリリィとローズが立候補したので、フランシスは余ったルーンナイトになる事になった。
まとめると最終的に、


鏡:サムライ(双剣)
凪:エージェント
牡丹:ゴッドハンド

フランシス:ルーンナイト
リリィ:フォーチュナー
ローズ:デュエリスト

理乃:メイジ
紅刃:バニッシャー
由梨:サムライ(一刀)


となった。

「あらあら、きちんと分かれたわね。さて、それじゃあ次はこれを三チームに分けて貰いましょうか。」
「あれ? 九人一組じゃないの?」

凪が聞くと、ジュリエッタは首を横に降った。

「残念だけど、前衛で戦えるのは三人までって決まっているの。他の二組は、前衛のサポートをお願いするわ。」
「じゃあ、前衛は変えられないの? ダメージを受けて戦闘不能が近くなった時とか。」
「チームメンバーを変える事は不可能だけれど、戦闘中でない時に前衛のチームを変更する事は許可するわ。暴れたくなったら前に出してもらうもよし、体力がなくなったから休ませるもよし。そこは、アナタ達の采配次第ね。それと、前衛が全滅したら、後衛が元気でもゲームオーバーよ。」

どうやら、チームメンバーは変更できないが、一チームで前衛後衛を変える事はできるようだ。もっとも、戦っている最中は許可できないようだ。

「じゃあ、職業を登録したら、チームメンバーの登録も一緒にしちゃって頂戴。」

ジュリエッタはそう言ってひとまず凪達から離れた。

セブンスエンカウンター ( No.556 )
日時: 2015/10/31 22:43
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: j62VnjSr)

「チームメンバーの登録する前に、リリィ、擬人化した方がよくないかなー?」

いざ、チームメンバーの登録となった時、凪がそうリリィに提案した。

「どうして?」
「リーチの問題だろう。俺は刃を浮かせる事ができるし、ローズも多分カードを浮かせて操る事になるだろうが、流石に鎌を浮かせられないだろう?」

首を傾げるリリィに、フランシスが説明した。
この中で唯一擬人化できるリリィならば、少しでもリーチは長い方がいいとフランシスは判断したようだ。

「擬人化?」

話を聞いていたのか、ジュリエッタが首を傾げて訊ねる。

「見ればわかるよー。リリィ、僕もそうした方がいいと思う。」
「わかった。」

そしてリリィの体が煙に包まれ、ぽんっ、と音を立てると、擬人化リリィが現れた。これにはジュリエッタもびっくりだ。

「え、さっきの子猫ちゃんは!?」
「さっきの子猫ちゃんです。」

戸惑うジュリエッタに、リリィがはーいと手をあげて宣言する。

「まぁ、慣れている私達からすれば普通ですが、初めて見た方は驚きますよね…。」
「え、ええ。かなり。(ビックリしたわ…。でも、リリィちゃん、だったかしら。擬人化した後もする前も可愛いわね…。あの擬人化の仕組みも調べてみたいけど、何より…。)」

理乃にフォローを入れてもらったジュリエッタは、改めて理乃達を見る。

(あのローズって子も従順な子供みたいで可愛らしいし、理乃ちゃんって子も知的な感じを見せているけど、何か振る舞いが純粋な子供みたいだし、そして何よりあの鏡って子…!)

どこか恍惚な表情を浮かべながら、純粋組を値踏みするように見つめるジュリエッタ。その視線が、鏡に止まる。

(犬耳猫耳ウサ耳なんでもござれな愛くるしい表情なんかしちゃってっ! あぁ、もう我慢できない。その頭をナデナデしたい…! 後ろからギュッと抱き締めてナデくり回したい!)

おーい、脳内でかなりヤバイ事考えてるぞこのおっさんー。

(はっ、ダメよ、ジュリエッタ。今は営業モードの時間よ…。)

ブンブンと首を振るも、再び鏡に目を移した瞬間、プルプルと何かを堪えるように震える。

(あぁぁ…。でも、ウサミミつけてナデ回したいわ…!)
「ジュリおね…おじちゃん?」

様子がおかしいジュリエッタに気がついたのか、鏡、リリィ、ローズの純粋組がジュリエッタの顔を覗き込んだ。

「ん、あぁ、どうしたの? カワイコちゃん達。」
「チーム分け、終わったよー! こうなった!」

そう言って、鏡はジュリエッタをぐいぐいと引っ張り、登録用マシンの前までつれていった。
その画面には、


1st:鏡、リリィ、ローズ
2nd:フランシス、紅刃、由梨
3rd:理乃、凪、牡丹


と映し出されている。


「うまい具合に分けられたわね。じゃあ、全員そのポットの中に入ってね。」
「はーい!」

全員、人一人分横になれそうなポットに寝そべる。

「ナビの子は後で合流するから、先にそっちで待っててね。じゃあ、行くわよ…。セブンスエンカウント、ログイン!」

ジュリエッタの言葉を最後に、全員の意識が遠退いた…。

セブンスエンカウンター ( No.557 )
日時: 2015/10/31 22:48
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: j62VnjSr)

その頃、風花は…。

「とまぁ、ナビの役割はこんな感じです。」
「ありがとう、澪ちゃん、分かりやすかったよ。」
「風花さんこそ、理解が早くて凄いです!」
「えへへ…。ナビなら慣れてるからね。」

別室にて、緑髪の小柄な少女…那雲澪から説明を受けていた。

「コムスメにしちゃ上出来じゃねぇか。こりゃ、ナビの仕事が板について来たか?」
「あ、ナガミミちゃん。」

一通りの説明を受けた後、ナガミミが部屋に入ってきた。

「駄目だよ、お客様の前なんだからそんな言葉遣いしちゃ。」
「うっせーな。もう営業モードは疲れたんだよ。何だよ客の前では愛想笑いとか丁寧な言葉遣いとか。やってらんねーぜ。」
「あ、あはは…。澪ちゃん、私は気にしてないよ。」

もう何度かナガミミの素を見ているからか、こんなものだと思ってもう何も気にしない事にした風花に、澪は申し訳なさそうに「すみません…。」と謝罪をした。

「あっちも多分終わった頃だろ。コムスメ共、本番、行くぞ。」
「もうっ、ナガミミちゃん、私はいいけどお客様を小娘扱いはまずいって!」
「本人が気にしてねえんだから、いいだろーがよ。オレサマにとってはお前もそっちのもコムスメだっての。」

澪とナガミミのじゃれ合いに、風花は思わずクスリと笑ってしまう。
普段、ペルソナを使用してのナビゲートをしているが、ここでは勝手が違う。そのせいか、知らぬ間に緊張していた事に気づいたが、どうやらそれがこのやり取りで緩和されたようだ。

(ゲームとは言え、ナビの重要性は私が一番よくわかってる。いい加減にしちゃ、みんなに迷惑がかかっちゃう。大丈夫。ペルソナ無しでも、ナビゲートはできるはず。)

風花はポケットに入れていたお守りがわりに持ってきた召喚器にそっと触れる。

「早くいかないと、あの野郎、客に何するかわかんねぇからな。」
「うん、ごめん、ナガミミちゃん。それには私も同意。というか何であっちについてかなかったの。」
「一応アイツを信じたんだけど、今更ながらやっぱり滅茶苦茶不安になってきやがった。あっちには何かアイツのこう、性癖を刺激しそうなのがちらほらいやがったからな。」
(あぁ、あの人、そういう人だったんだ…。)

ナガミミと澪の会話を聞いて、風花は遠い目を浮かべる。
それを聞いてしまったからには、風花も自然と急ぎ足になった。やがて、凪達のいるポットに到着するも…。

(あぁぁ…。眠っている姿も可愛いわ! ここで見てるしかできないのが残念…。)
「」

いの一番に飛び込んで来たのは、鏡のいるポットにベッタリと張り付いて息を荒くするジュリエッタの姿だった。
これには澪と風花は完全にドン引き。一方のナガミミはというと…。

※しばらくお待ちください。

「おい。営業モードはどうした営業モードは。変態モードしか出してねぇじゃねぇか。客までドン引きしてるぞ、この変態。」
「人聞きの悪い事言わないで頂戴! アタシはカワイイ子の寝顔を愛でているだけよ!」
「ちったあマシな言い訳を考えろ。変態度が加速してんぞ。」

どこからか出したウサギのようなぬいぐるみでジュリエッタを殴り付けました。ぬいぐるみにはわずかに血が滲んでます。

(あのぬいぐるみ、どれだけ重かったのかな?)

風花はそう思うも、それ以上ツッコミを入れたら終わりな気がしたので、思うだけにしておいた。

「ご、ごめんなさい、風花さん。うちの重役がその、とっても変わり者で…。悪い人じゃないんですけど、いわゆる、変態で…。」
「ちょっとミオちゃん! 変態じゃないわよ! アタシはただカワイイ子に弱いだけよ! カワイイ子やカワイイ猫ちゃんとか見たら後ろから抱き締めてナデ回したいだけよ!」
「行動に移す事が問題なんです! 度が過ぎると捕まっちゃいますよ! 身内だけでなくお客様にまで手を出すなんて…!」
「失礼ね! まだ指先すら触れてないわよ!」

そういう問題じゃない、と風花は思うも、突っ込んだら負けな気がしたので、思うだけにしておいた。

「その辺りの話は後で議題にして吊し上げてやるから、今は客の案内をするぞ。」
「あ、とと、そうだったね。他の皆さんはもうログインしちゃったみたいだね。風花さん、こっちに。」
「うん。」

澪に指示された場所につくと、風花はひとつ息を吸い込んで、吐いた。
モニターには、見知った姿が映し出されている。既にもう、暴れたくてウズウズしているのが約三名。他は辺りを見回していた。

「みんな、お待たせ。」

風花は、そんな一同に声をかけた。
同時に、自分の仕事が始まったと、実感した…。

セブンスエンカウンター ( No.558 )
日時: 2015/10/31 22:53
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: j62VnjSr)

赤黒い花が咲き乱れる世界。
目の前には見慣れた感じのタワーがある。

『みんな、お待たせ。』

ここがどこなのか、どのような敵が出るか、早く戦闘したい等、各々考えていると風花の声で通信が入った。

「ふー姉、ここはどこ?」
『ここは東京スカイタワーって所だね。ひとまずその正面に見える入り口から中に入ろっか。』

風花の指示に、全員中へと入る。
中にも赤黒い花が咲き乱れていた。

「綺麗な花だよね。でも、なんで建物の床にも咲いているの?」
「…亀裂とか入っているならまだしも、普通だったら考えられませんわね。でも、この花…どこか、普通ではない感じがしますわ。」

花を扱う能力を持つ牡丹がその花に何か感じ取ったのか、手を翳して少し苦しそうな表情を浮かべる。

「確か、サイトには『終焉の象徴の花、フロワロが咲き乱れる世界』と書いてあったね。」
「終わりの象徴か。綺麗で恐ろしい世界観だな。」
『何だか悲しいね…。滅びの象徴の花が咲いてるって事は、この世界はもう滅びちゃったって事だよね?』
「“予兆”の可能性もあるけどねー。ゲームなんだし、あんまり気にしなくてもいいんじゃないかなー。」
「そうだ! とにかく暴れてとにかく敵を蹴散らせばそれでいいじゃないか!」

凪がサイトで見た情報を話していると、フランシスと風花が悲しい気持ちになるが、すぐに凪がフォローをし、紅刃がワクワクした表情で機甲槍を振り回していた。

「このバトル馬鹿兄貴は…。」
「そういう由梨も既に抜き身で剣を握ってるじゃないか。」
「フランシスだって完全にナイフを浮かせてるその手がワキワキしてるじゃねぇかよ。」
『(あはは、みんな戦いたいんだね…。)っ、みんな、敵が来るよ!』

風花のこの言葉に、先程までワクワクしていた一同が一斉に目を輝かせるも…。

『あのー、楽しみにしてるところ悪いけど、今回戦うのは、今1stユニットになってる鏡君とローズ君とリリィちゃんだからね?』
「そうだったあぁぁぁぁぁっ!!」

すぐにまるで心を読んだかのように告げられた風花の言葉に、ワクワクしていた三人ががっくりと項垂れた。

「まあまあ、途中で交代しながら進んでいこうよ、ね?」
「今は赤羽さん達を応援しましょう。へこまないで、ねっ?」
「それに、ユニゾンというのを行えば、私達も攻撃に参加できるのでしょう?」

励ましをかける凪と理乃の言葉には耳を貸さなかったが、牡丹の言葉に再び三人の目が光る。

「Let’s ユニゾンタイム! カモン!」

あぁ、生気を吹き返したかのようにまたうるさくなった…。

『おいチビスケ共、あれらうっさいから一ターンで撃破しろ。』
「い、いきなり無理難題言わないでよー…。」

通信に乱入してきたナガミミに、鏡は困り果てるも、敵は目前に迫っていた。
目の前に現れたのは、出っ歯のウサギのような敵が二体だ。

『敵、ラビ二体。大丈夫、鏡君達なら勝てるよ。初めてだし一ターン撃破は無理かもしれないけど…。』
『まぁ、少なくともユニゾンできるまでには片付くだろ。』
「時間かけてもいいんだぞ?」
「よーっし、ローズ、リリィ、いっくよー!」
「おー!」

由梨の訴えを無視し、鏡達は戦闘態勢に入る。

「まずは私がっ!」

先に動いたのは、リリィだった。

「おやすみなさい。えいっ。」

リリィは一方のラビに向かって鎌を叩きつけ、敵一体を眠らせる技である【レベレーション 眠】を発動させた。
うまくいったのか、ラビの一体は眠りについた。

『ラビの一体、睡眠状態を確認! リリィちゃん、ナイスだよ!』
「うまくいった…。」
「次はオレが繋げるね!」

そう言って鏡は残りの一体に向かって剣を構えながら走った。
何が来るか予測できたのか、ラビは後ろに下がってしまった。

「逃げたつもり?」

ラビを上空に打ち上げるように切りつける、【飛天斬り】を使った。手応えが大きい。
が、反撃と言わんばかりに、ラビはローズに向かって突っ込んできた。

「うわっ!」
「ローズ、大丈夫!?」

いきなりの反動にローズは怯むも、そこまで大きな怪我ではなさそうだ。

「お返しだーっ!!【召喚:雷のマモノ】!」

ローズは浮かせていたカードの中から雷のカードを手に取り、掲げた。
するとカードが光り輝き、黄色い羽を持つ蛾のような蝶のようなモンスターが現れた。

「雷パワーだー!」

ローズがモンスターに命じると、モンスターは痺れ粉を飛ばしつつ羽ばたく。それをまともに吸い込んだラビは、プルプルと体を震わせたあと、花弁を散らせながら消え去った。

「やった、倒せた!」
「油断なさらないで! 眠っているとは言え、もう一体います!」

勝利の余韻に浸っていると、後ろから理乃の激が飛ぶ。そう、相手は眠っているとは言え、まだあと一体残っているのだ。
その言葉に、鏡達は再び各々の武器を握る。

『ラビ、未だに睡眠状態。大丈夫、さっきみたいにやれば勝てるよ!』

風花の言葉に三人は頷き、もう一度同じ攻撃を繰り出した。
当然、先程のラビのように即座に花弁を散らせながら消え去っていった。

「やった、勝った!」
『お疲れ様。さぁ、探索に戻ろう!』

勝利の余韻もひとしおに、風花は先に進むよう促す。…項垂れる約三名を、一切無視して。

『特にこれといった障害物も見当たらないから、道なりに進んでも大丈夫だよ。』

風花のナビに、全員頷いて先へと進む。

「…。」

その道中、戦闘狂…もとい、2ndメンバーの三人は…。

「なー、次の戦闘で俺達にやらしてくれねぇ?」
「腕がなまっちまうよー。」
「頼む、俺達に戦わせてくれ。」

三人揃ってぶーぶーと不満を漏らしていた。

「仕方ないねー。鏡、前衛交代しよー。一回しか戦ってないけど。」
「うん、いいよ! フランシス達、そんなに戦いたかったんだね!」

そして鏡達は2ndに周り、戦闘狂の三人が前衛に出る。

「まだちょっとしか戦ってない…。」
「後でまた交代して貰おうね。」

あまり楽しめていない事に不満げなリリィだが、鏡に宥められて渋々下がった。
そして代わってもらった戦闘狂達はというと…。

「さぁ…。パーティーの始まりだ!」

あぁ、ギラギラ目を輝かせていますはい。

『敵、また来るよ!』
「よっしゃー!! ウサギ鍋にしてやらあぁぁぁぁぁっ!!」

その後、現れたラビ達は物の数秒、一ターンくらいで片付けられたとかいないとか。

セブンスエンカウンター ( No.559 )
日時: 2015/10/31 22:58
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: j62VnjSr)

ナビ専用のモニター前にて、風花は顔を覆っていた。

「あの子達、破竹の勢いで撃破しているわね。」
「うわー…。何か、敵に同情しそうになっちゃった…。」
「日頃から鬱憤溜まってんのか? 本社ので同レベル程度の人間の敵一体にかかる撃破時間の最速記録更新したんじゃねぇのか?(第一、ウサギ鍋って美味いのか?)」
(あぁ、もう、何かここにいる皆さんが遠い目浮かべちゃってる…。)

完全に遠い目を浮かべるジュリエッタ、澪、ナガミミに、風花はもう申し訳なくなる気持ちで一杯だった。

「おい、何かそうこうしている内に中ボス、ヘルクラウドが出る場所についたんだけど、あいつら。」
「あらやだほんと。凄いじゃないの。」
「うちのデバッガーもビックリじゃないかな?」
「あー、アイツ等もこれ聞いたら確実に腰は抜かさないにしても驚きそうだよな…。おい、あそこまで到達するのにかかった時間が社内記録を抜いたぞ。うちのデバッガー抜いたぞおい。」

どうやらあの三人が無双したお陰で、新記録が生まれたようだ。

「これ、ヘルクラウドも秒殺されるんじゃないかな?」
「だとしたら初期能力値どんだけ高ぇの? おい、こっそり数値上げといた方がいいんじゃねえの?」

何だか死んだ目を浮かべている澪とナガミミに、風花はもう何も言えませんでした。











戻って東京スカイタワー内。
由梨達は今まさに、そのヘルクラウドと呼ばれた眉毛のような形を取る炎が噴き出る、雲のようなモンスターと対峙していた。

「先手必勝! 食らえ!」

フランシスは素早い動きで氷の力を刃にまとわせ、【アイスソード】をヘルクラウドに向けて振るった。
ヘルクラウドはよろめく。どうやら致命傷を与えたようだ。そこでヘルクラウドの体は消えかけるも…。

「次はアタシが続くぞ!」

あの、消えかけてるの確認したの? と言いたくなるくらいに間髪入れず由梨が続いた。
由梨は既に抜き身の剣を大きく振るった。刃から風圧のようなものを感じた。サムライの抜刀スキル、【旋風巻き】だ。

「次は俺ーっ!!」

だから“消えかけてる=戦闘終了”なのに、何してるのこの兄貴も。
隙を1ミリたりとも許さないと言わんばかりに、紅刃は砲口をヘルクラウドに向け、砲弾を3連発した。炎属性の攻撃、【バーストアタック】だ。ヘルクラウドにはあまり効かないのだが、消え逝く定め故に無関係であった。

「はー、よし、中ボスは倒したし…。」
「またパーティーの始まりじゃあぁぁぁぁぁっ!!」

あーあ、もうこの先も進む気だよこいつら…。
そんな時、由梨めがけて炎が飛んだ。

「うわっち!」

由梨はすんでの所で避け、炎の出所を見た。

「」

が、見ない方がよかったかもしれない。だってそこには…。

「い・い・加・減・に・し・な・さ・い?」

いーい笑顔を浮かべて二発目の【フレイム】を準備している理乃がいたのだから。
これには同じように見てしまったフランシスと紅刃も固まるしかない。

「交代しなさい。」
「ハイ。」

年上である紅刃でも、黒理乃には勝てなかったそうな…。










再び戻って現実世界。

「ふえぇ…! こ、怖いよ…!」
(デスヨネー。)

澪が風花にくっつき、ガタガタと震えていた。

「おい、あのコムスメ何モンだ? あのチビっこい体からなんっつー殺気出してんだよ…。」
「モニター越しからも伝わってくるなんて、相当ね…。」

ナガミミもジュリエッタも、理乃の放つ殺気にもう怯えるしかなかった。
風花は一度通信を切り、死んだ目をモニターに向けながら言った。

「…理乃ちゃんを怒らせると死ぬから、あんまり逆鱗に触れる事はしない方がいいよ。特に、ナガミミちゃん。さっきのは禁句ワードだから、そこも気を付けといた方がいいかも。理乃ちゃん、身長を気にしてるから。」
「おう、もう二度と言わねぇ。」

モニター越しに伝わる殺気と死んだ目をした風花に、ナガミミは素直に言う事を聞く事にした。

セブンスエンカウンター ( No.560 )
日時: 2015/10/31 23:04
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: j62VnjSr)

さて、再び戻って東京スカイタワー。
現在は3rdメンバーが前線に立っているようだ。

「でも、本当に僕達が前線に出ていいのー?」
「うん、だって、凪達はまだ一度も戦ってないでしょ?」

そう、ここに来るまで3rdメンバーは一度も戦っていない。一度戦った1stメンバーは快く凪達に前線を譲った。

「この子達とバトル馬鹿、どちらが大人か判りませんわね。」
「普段大人げない事する牡丹がそんな事言うなんて意外ー。明日は雨かなー?」
「失礼ですわね!」
「はいはい、次々ー。」

牡丹と凪はそんなやり取りの後、苦笑を浮かべている理乃と共に先へと進む。他のメンバーも、理乃達についていった。

『おっと、忘れてた。オマエ等が…いや、一部の馬鹿共が強すぎるから、セーフモードを解除した上で、敵の能力を上げといたぞ。フヒヒヒ、お手並み拝見だな。』
「何余計な事させてくれたのよ戦闘狂共。」
「さっきの奴ら手応えなかったし、丁度いいじゃん。」
「戦いが得意なのは君達だけじゃないんだけどねー。」

先程からひしひしと感じる敵の気配に、凪は銃を取りだし、牡丹はグローブをはめる。理乃も戦闘狂共を睨み付けてから、メイスを取り出した。

「山岸さん、敵の数は。」
『三体だね。うち一体は強そうだよ、気を付けて。』
「了解。」

風花との通信を終えた直後、中に浮いたミサイル砲のようなマシンと、青い蛾のような蝶のようなモンスター、それからラビが現れた。

『敵、出現! 新規の敵がスカウトポッドとブルーグラス! それからお馴染みのウサギ鍋…ラビだね。』
『ナガミミちゃん、ラビと一緒に煮込まれてみる?』
『コムスメ、後で本社裏来い。(※自主規制)してや』
『わーっ!』

澪の余計な一言に反応したナガミミがあらぬ事をいったので、風花は慌てて通信を切った。

「…? (※自主規制)とは…。」
「気にしなくてい」
「(※自主規制)とは、(※自主規制)や(※自主規制)をする事であって」

※しばらくお待ちください

「君が自主規制してよねー。」
「」

先程の通信を聞いていた理乃に要らぬ知識を教えようとした牡丹は、即座に凪によって銃を乱射され、戦闘不能にさせられました。ちなみに他の純粋組は戦闘狂によって耳を塞がれていたので会話は聞いていなかったようだ。

『って、戦う前から何で味方同士で争ってるのと言いたいところだけど、今回ばかりはナイスだよ、凪君。』

何故、凪が牡丹を戦闘不能にしているのか。その理由を察した風花は、そうとだけ言っておいた。

「え、えーっと…。【リザレクション】、かけておきますか?」
「僕達だけで大丈夫だよー。それに、いい夢見てるみたいだし。」

凪がちらりと牡丹を見ると、かなりのいい笑顔で眠っていた。

「ノーデンス…クトゥルフ神話…うふふ…。」
(あんな事やこんな事を期待して来たんだねー。そんなもの、全然ないのにー。)

ノーデンスとは、クトゥルフ神話の旧神であり、比較的人間の味方である。尤も、神の尺度でものを考えている為、完全に人間の味方という訳ではない。
牡丹の企みは完全に破綻した事を、彼女は後に知る事だろう。今は、戦闘の方が重要だ。

「数的に不利だねー。でも、なんとかしちゃうのが僕達なんだよー。見てみるー?」

そう言いながら、凪は鈍く光る二つのキーボードを出現させ、カタカタと操作した。

「操らせて貰うよー。」

プログラムコードの鎖が目の前の敵全てに絡みつく。【ハッキング】完了だ。

「行きます、着火!」

続いて理乃がブルーグラスに向かって【フレイム】を放つ。ブルーグラスは炎に包まれ、燃え尽きた。
攻撃を終えた後、敵は反撃した。ラビは勇敢に理乃に噛みついて来たが、スカウトポッドは何もしないでボーっとしていた。

『ハッキングの影響で攻撃の手が止まったね! チャンスだよ!』
「はいはーい。それじゃあ…。」

凪はラビに向かって指差した。

「全部出しなよー。」

【スケイプゴート.x】により、ラビからエネルギーのようなものが放出され、凪と理乃に入り込んだ。ラビにダメージを与え、スキルを使うのに必要な“マナ”を取り込んだのだ。
ラビは耐え切れず、消滅した。

「どう? 魔法使えそう?」
「はい。…とどめですっ、落雷っ!!」

残ったスカウトポッドに向かって、理乃は雷魔法【ショック】を放った。スカウトポッドは弱点を突かれ、何も出来ぬまま消滅した。

「わーい、勝ったー。」
「ほ、本当に黄木さん無しで何とかなりましたね…。」

凪は喜びつつも、指先で拳銃をくるくると回しながら遊んでおり、理乃は本当に二人だけで何とかなるとは思わず、ちょっとだけ驚いていた。

「さー、先に進もー。」

眠ったままの牡丹をズルズルと引きずりながら、凪はずんずんと先に進んだ。

『…さっきの中継地点で生き返らせる事ができるって教えてやった方がいいか?』
『言ってもどうせ凪君、寄らないからいいよ。』

ナガミミと風花の、その会話を聞き流しながら…。

セブンスエンカウンター ( No.561 )
日時: 2015/10/31 23:09
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: j62VnjSr)

しばらく二人きりの前線のまま道なりに進むと、展望台のような所なのか、空が一望できる場所までやって来た。
途中にあった中継地点で回復し、ようやく牡丹も合流(?)となった。

「うぅ、背中が痛みますわ…。女の子を引きずるなんてどういう神経してますの、凪…。」
「え、牡丹って女の子だったんだー。熟し過ぎて腐っちゃったお姉さんだと思ってたよー。」
「いちいち言動が酷くありません事!?」

ここでまともな戦闘狂と通信をしている風花は、心の中で(自業自得だ。)と呟いたが、これ以上グダグダさせるわけにもいかないので、思うだけにしておいた。

「…。」

そんな中、理乃は一人その輪を離れ、外を見た。
外は落雷が鳴り響き、建物は朽ち、そこかしこにフロワロが咲き乱れていた。

(まるで、滅んでしまった世界みたい。)

そんな外の様子を見て、理乃は思わずそう思ってしまった。

「(まぁ、これはゲームだし、本当にある世界が滅んだ訳じゃないよね。でも、本当に凄い再現力ね。本当に滅びた世界だと思っちゃうくらいリアルすぎて…。)さぁ、休憩は終わりにしましょう。山岸さん、この先は…。」
『うん、とても強い反応があるよ。』

風花の言葉に、全員警戒を強めた。
そして、外周を道なりに進むと、そこには青くて小さな、どこか可愛らしいドラゴンがいた。

『敵、リトルドラグ! 見た目は可愛らしいけど、結構素早くて強いから気を付けて!』
「今までの敵とは違うものと捉えた方がいいですね。黄木さん、緑谷さん、来ます!」

理乃が警戒を高めるよう言ったのとほぼ同時に、リトルドラグが襲い掛かって来た。

「くっ…!」

辛くも避ける一同だが、リトルドラグは更なる猛追を理乃にけしかけてきた。

「(早っ!? 二回行動する敵なの!?)くっ、このっ!!」

何とかメイスで防ぐも、少しばかり深手を負ってしまった。

「理乃さん!?」
「牡丹、回復は次だ! 今は少しでもこいつの体力を削らないと! 理乃さん、それでも行ける!?」
「は、はい、あと一撃くらいなら何とかしのげるかと…。」

牡丹は理乃を心配するが、凪の激と理乃の言葉に後押しされ、すぐにリトルドラグに向き直った。

「えいっ!」

そして懐に飛びかかり、【ジャブ】を繰り出す。
リトルドラグは仰け反り、わずかにふらついたが、まだ元気なようだ。

「(かなりの強敵だねー。理乃さん自身が打たれ弱いとは言え、ここに来るまでにあの戦闘狂共の暴走でかなりの敵を倒したから、後ろにいた僕達も経験値を貰ってるからかなり強くなってるはずだけど…。やっぱ一筋縄じゃいかないって事かな。【ハッキング】は効くかわからないから…。)よーっし。」

【ハッキング】が必ず効くとは限らないと判断した凪は、拳銃を一挺のみ握りしめた。

「狙い撃ちー!」

相手に狙いを定めて一発の銃弾を放つ。銃スキルの【エイミングショット】だ。
それは見事にリトルドラグに当たるも、まだ元気そうだ。

「(やはり一筋縄ではいかないわね。さっきあの馬鹿共が戦ったヘルクラウドとはまったく違う強さのようね。)氷結!」

理乃は痛む体を押さえ、氷魔法の【フリーズ】を放った。
致命傷を与えたわけではないが、かなりのダメージを削れた。

「よし、このまま押しきりましょう!」
「はい! ですがその前に…!」

リトルドラグが再び攻撃してくる前に、牡丹は気を高め、それを放出する。

「しっかり!」

その気は理乃を纏い、その傷を癒した。ゴッドハンドの回復スキル、【カイロプラクティク】だ。

「ありがとう、黄木さん。」

理乃はお礼もそこそこに、迎撃に備えて体制を整えた。凪も油断なく構える。
すぐにリトルドラグが再び二回攻撃を仕掛けてきたが、油断なく構えていたので、今度は避けるなり受け流すなりする事ができた。

「もう一発、狙い撃ちー!」

リトルドラグが油断している隙に、凪はすかさずその銃口から銃弾を放った。

「行きます、落雷!」

とどめの一撃と言わんばかりに、理乃は持てる力を出しきり、【ショック】を放った。
だが、まだ倒れない。

「うー、しぶとーい!」
「やはり、一筋縄ではいかない相手のようですね。」
「ですが、次の一撃で終わりにして差し上げますわ。」

牡丹から、力強い何かを感じとる。それを信じた凪と理乃は、防御をしてリトルドラグの攻撃に備えた。
リトルドラグはうまく牡丹を標的から外してくれたようで、彼女に怪我はなかったが、流石の攻撃に理乃が片膝をついた。

「理乃さん!」
「くっ、私に構わず奴を!」

かなり深手なのが見てとれるが、治している暇がない。
牡丹は深く深呼吸をし、気を高めた。

「内なる力を…!」

そしてすばやくリトルドラグの懐へと飛び込む。

「本気のパンチ!」

リトルドラグの体内に抉り込むような感じで繰り出されたその【正拳突き】は、リトルドラグに致命傷を負わせ、消滅させた。

「お疲れさまでした! 何とか倒せましたね…。」
「いやー、今回は本当に冷や冷やしたよー。理乃さん、大丈夫?」
「はい、どうやらレベルが上がったのか、一気に傷が塞がりました。もう立てます。」

どうやらリトルドラグを倒した経験でレベルが上がり、理乃の傷はすっかり癒えていた。他の二人もすっかり元気になったようだ。

「よし、じゃあ先に進むとしよー! あ、こっから鏡達にバトンタッチするよー。」
「え、いいの?」
「まだまだ遊び足りないでしょー? レベルが上がって傷が癒えたとは言え、僕達三人も正直言ってクタクタだし、遊んできなー?」
「私達は後ろで休んでいますね。」
「大暴れしていらっしゃいな、鏡、リリィ、ローズ。」

だが、丁度切りが良さそうなので、このまま1stメンバーに先まで進ませるつもりのようだ。
鏡達はその申し出をありがたく受け取り、大喜びで先へと進んだ。

セブンスエンカウンター ( No.562 )
日時: 2015/10/31 23:16
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: j62VnjSr)

戻って、現実世界。
いつの間にか、ギャラリーが増えている気がする。

「わわ、凄いお客さん…。」
「他ブースで途中でゲームオーバーになった客がまだ続いているこいつらを見に来たみたいだな。」

余談だが、セブンスエンカウントの試遊ブースはここを含めて三つあり、それぞれ手分けしてやっていたのだが、どうやらそれほど実力のない客ばかりが集まったようで、すぐにゲームオーバーになったのだろう。

「…だが、それが普通なんだが…こいつらの戦闘能力半端ねぇな。」
「本社の方でも、何度か周回プレイしてるならまだしも、ここまで初回で来る人なんていなかったよね。3rdパーティまで特例で解放しているとは言え…。」

ナガミミと澪は風花を疑いの眼差しで見る。
風花はただ、静かに、

「…ちょっとした事情で、戦いに慣れてるだけだよ。ここにいるみんな…死線を越えてきた、戦士みたいなもの、と捉えてくれればいいよ。」

と、言うだけだった。

「ふーん、歴戦の戦士、みたいなものねぇ…。」
「なんだよジュリエッタ。ニヤニヤしやがって。気持ちわりぃ。」

何かを思い付いたかのようなジュリエッタの顔に、変態的な笑みが浮かんだ。

「最後のステージでアレを出しましょ。」
「アレをか!? デバッグどころか調整すら済んでねえよ!」
「数値をいじれば大丈夫よ。」
「で、でも危険じゃないですか!? まだあの人達にデバッグというか、テストプレイをさせてないし…。いや、アレが実際に動いているところを見れるなら嬉しいですけど…。」

後ろでなにやら不穏な会話を繰り広げるノーデンス社員。風花はそれに嫌な予感を感じとるが、今は記憶にだけ止めて聞き流す事にした。

(…流石にこれ使う事態にならなきゃいいけど…。こんな大勢の前でペルソナ呼んだら…考えたくない。)

ポケットにしまってある召喚器を、不安そうに触れる。できれば、そんな事態にならないようにと、願いながら。











戻って、東京スカイタワー内。

「逃げたつもりっ!」
「【召喚:氷のマモノ】!」
「おやすみなさい。…私もこたつで眠りたい。」

各々スキルを放ちながら、敵を蹴散らしていく。使い慣れない獲物にもようやく慣れてきたようで、不自由なく振るえていた。だがおい最後。

「リリィ、飽きたのかー?」
「ううん。おやすみなさいばっかり言ってたら、こたつが恋しくなってきた。お布団でもいい。」

どうやらリリィはぬくぬくお布団かこたつの中で眠りたくなっただけで、飽きてはいないようだ。

「あはは…。あ、エレベーターがあるよ!」
『あのエレベーターを上れば、ゲームクリアみたいだよ。』
「ついにゴールかー。」
「まだまだ暴れたりないな。」
「貴方達はいい加減にしてちょうだい。」
「ハイ。」

戦闘狂が何かを言おうとしたが、即座に理乃の有無を言わさぬ圧にて黙った。
そしてエレベーターに乗り込み、最上階へと上り詰めた。

「はー、長かったー。」

そこから見える景色はやはり滅びた世界のようだったが、今はそんなのを気にせず、達成感を溢れさせていた。

「…!」

そんな時、だった。とてつもない威圧が、一同の肌に突き刺さった。

「な、なに、これ…!?」
「きょ、鏡、怖いよ…!」
「ジョーカー様のともまた違う…! なんだ、この威圧感は…!」

突然の出来事に、リリィとローズは怯えて鏡の後ろに隠れ、フランシスは油断なく短刀を構えた。

「何なんだよ、この鋭い殺気は…!」
「この出口と反対方向に、強い気配を感じます。」
「こんな装備で勝てるのかよ…。」
「大丈夫だ、問題ない。…といいたいところだけど、今回はこの殺気から察するに、多分無理かもね。」

鏡達よりも戦闘慣れしている理乃達は、相手の力量がその殺気だけで判別できたのか、会話はいつも通り繰り広げているが、余裕のない表情を浮かべている。

「あのタブー並みの緊張感ですわね…。」
「これもゲームの内なの…?」
「風花さーん。敵の正体、判るー?」

凪は武者震いしている牡丹と怯える鏡を他所に、風花に敵の正体を問いただした。

『敵は…確かに理乃ちゃんの言う通り、今君達のいる反対側にいるけど…。駄目…! 今の凪君達じゃ、勝ち目がないよ!』
「それは何となく察してましたが、あれを倒さない限り、ステージクリアにはならないんですよね?」
『その通りよ。アナタ達には悪いけど、ちょっとしたテストも兼ねてまだ調整中のモンスターを入れさせてもらったわ。』
「つまり、僕達は実験台なんだねー。ゲーム的にはテストプレイヤーって言った方がいいのかなー?」
『ボウヤはよくわかってるじゃない。安心なさい、死ぬ前にはちゃんと起こしてア・ゲ・ル。』

不安が残るジュリエッタの通信に、全員腹を括った。

「『死ぬ前』って…負けたら死んじゃうの…?」
「喩えだよ。多分…。」

喩え話である事を信じつつ、奥まで進む。
そこには、悪趣味な金色を持つ、巨大なドラゴンがいた。リトルドラグなんて目じゃないくらいの大きさを持ち、その威厳から放たれる威圧感が、まるで重圧のように鏡達に襲いかかった。

「まるで、王様がドラゴンになったみたい…。」
「クァハ、クァハ…巧い喩えを口遊むな、家畜の分際で。」
「あれれ? 風邪引いたのー?」

凪のその発言に、その場にいた全員ずっこけ、ドラゴンは固まった。

「挑発なのか素なのかわかんねぇなおい。」
「あれって、咳なのかな? 笑い声に聞こえたけど…。」
「どちらともとれるな。」

由梨が苦笑を浮かべつつ起き上がりながら、リリィと紅刃の会話を聞いていた。いや、聞き流していた。

『あれは竜王ニアラ! 病気に罹っていたとしても油断しないで!』
「風花まで何言ってる。」

フランシスは風花の通信に思わずツッコミをいれてしまうが、そんな場合ではない。

「クァハ、クァハ。家畜の分際で生意気だな。」
「そっちこそ、猫の癖に生意気。」

今度はリリィの発言が味方を転ばせ、ドラゴン—ニアラを困惑させた。

「え? 家畜、答えろ。どういう意味だ?」
「あれ? さっきと雰囲気が変わったぞ。こいつ、プログラムだよな? 仕様か?」

軽いキャラ崩壊が起こったであろうニアラを見た紅刃は、別の意味で困惑した。

「“にゃあ”って割には堅そうな身体。重くないの?」
「溶かして招き猫を作ったら御利益ありそうだね。」
「にゃあにゃあ! にゃあん!」

そんな紅刃を他所に、純粋な子供達が罵倒(?)する。これには全員固まりました。ええ、ニアラも固まりました。

『これが、ノーデンス社の人工知能なのかな? 様子が変わるなんて凄いです!』
「いや、風花ちゃん? これが本当に人工知能だったら俺色々と研究したくなるけど。つか様変わりしすぎっしょ!?」
(兄貴も適度なキャラ崩壊起こしてんな…。)

普段はセクハラをするギャグカオス大好物な兄も、これには妹同様ツッコミに回るしかない。

「く、クァハ、クァハ…。面白い家畜達だ。それでこそいたぶり甲斐があ」
「“にゃあ”って弱そうな名前。」
「ボク知ってる! あれって“死亡フラグ”だよね!」
「実は身体が“ふにゃあふにゃあ”って事はないよね?」

次々と罵倒(?)する純粋な子供達に、

『オイ、先に進めねえからさっさと戦いやがれ。』

流石のナガミミ様も先を促しました。

「はーい! さぁ、にゃあ! にゃあって鳴いてみろー!!」

鏡はすばやく剣を振るうも、まったく攻撃が効いているような気がしなかった。

「え、き、効かない!」
「クァハ、クァハ! さぁ、鳴くのはどちらの方か、思い知らせてやる!」

すっかり機嫌を取り戻したにゃあ、もといニャア…あれ?

「喧しく囀る家畜よ、後で貴様も喰らってやろう。」

名前忘れられたからってナレーターにも八つ当たりしないの、ニャア様。

「誰に向かって喋ってるんだ? あいつ。」
「バグでしょうか?」
「脳みそが金でできているんじゃないのか?」
『テメエ等そろそろその罵倒やめてやれ! 戦闘が進まなくなるだろうが!』

挑発なのか素なのかわからない罵倒が続いているので、流石のナガミミもそう叫んだ。

セブンスエンカウンター ( No.563 )
日時: 2015/10/31 23:20
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: j62VnjSr)

現実世界…。

「ったく…。何なんだよアイツ等。あれは挑発なのか? 地なのか?」
「う、うーん、この場合は無邪気故の残酷さかな?」

呆れて溜息をつくしかできないナガミミに、風花は苦笑を浮かべながらそう言った。

「まぁいい。あのチビスケの攻撃が効いてないんだ。どう考えたって無謀な戦闘だろうが。」
「そうねぇ、やっぱり強すぎたかしら。」
「それなんだけど、ニアラの能力値が何故か設定を大きく上回っているみたいです。」
「どういう事だ?」

ナガミミが聞くと、澪が困った顔をしてナガミミに話す。

「本当は、能力値はもっと低く設定していたし、データを入れる時も設定通りのはずだったの。でも、今のニアラの能力値は上限すら超えていて、その…。」
「ハッキリ言え。問題が分からなければ対処のしようがねえ。」
「バグが起きたの。ニアラの能力値が大きくなるバグが。」
「ごめん、それ確実に無理ゲーだよね。レベル1の勇者がいきなり隠しボスに挑むくらいに危険だよね。」

澪からハッキリと告げられた言葉に、風花は思わずツッコミを入れてしまう。

「これ、アイツ等連れ戻した方がいいんじゃねえのか? 強制的にログアウトさせるなりよ。じゃなきゃヤベェぞ。」
「そうね。今回ばかりはショックも大きいだろうし、ログアウトさせて…あら?」
「どうかしましたか?」

困惑するジュリエッタに、風花は不安になる。まさかまた問題がと、疑ってしまう。

「まずいわ! バグの影響か、強制ログアウトも無理になってる!」
「え、ええっ!?」

どうやら、強敵を前にして完全に逃げられない状況に陥ってしまったようだ。

「オイ! ログインはできるのか!?」
「う、うん! ログアウトはできないけどログインなら…。」

澪のその言葉を聞いたナガミミは、一瞬だけ考えた後に、告げた。

「…13班を呼ぶぞ。」
「! …そうだね。こうなった以上、あの人達に頼むしかないね。」
「13班?」

焦る風花の耳に聞こえた、“13班”という単語に、風花は首を傾げ、ナガミミに訊ねた。

「ノーデンス社の特別テストプレイヤーだ。アイツらなら、ニアラの脅威を退けてくれるだろう。安全を確保した後で、どうにかログアウトさせるしかねえ。」
「でもナガミミちゃん、13班が来るまで時間がかかるよ! その間にあの人達が…!」
「…攻撃が効かないなら、避け続けるしかないよね。」

風花は覚悟を決めたような表情を浮かべ、ポケットから召喚器を取り出した。

「みんな、聞いて。」

そして、通信を使い、一同に語りかけた。

「多分、通信を通じて状況は理解できたよね。」
『かなり絶望的な状況だって言うのは理解できたよー。バグで強くなったボスに、強制ログアウトも不可能。これ本当に詰みゲーだよねー。』
「うん。それで、助けを呼んでくれるみたいだけど、その人達がいつ来るかわからない。」

こうなってしまった以上、やる事は、ひとつ。

「テレビの外から中の干渉ができたから、多分今回もうまくいくと思う。…バックアップの仕方を切り替えるよ。」
『いつも通りにやるんだな。了解。』

由梨の声が通信越しに響いた後、

『僕にも、少し考えがあるんだ。時間頂戴。その間にみんなは風花さんの指示通りに避けてー。』
『私も、内側から敵の攻撃を読むのに専念します。何か変わった事があれば、山岸さんにお知らせしますね。』
「頼んだよ、凪君。それからありがとう、理乃ちゃん。心強いよ。」

何か考えがあった凪と、簡易的な察知能力を持つ理乃の声に安堵し、風花はこめかみに召喚器を当てた。

「オ、オイ、何をして」
「大丈夫。心配しないで。これが私の…ナビゲートの仕方だから。」

拳銃で自殺でもしようとしていると思ったナガミミは風花を止め、ジュリエッタは澪の目を塞いだ。
だが、何も心配はいらない。

「来て、ユノ!」

躊躇いもなく引き金を引くと同時に、風花の体がユノの球体の中に包まれた。

「え…!?」

始めてみるその光景に、全員呆然としていた。

「ナガミミちゃんと澪ちゃんはその人達を呼んでいて。ジュリエッタさんは何か変化があれば知らせてください。」
「わ、わかった! コムスメ!」
「うん!」

澪はナガミミに言われるがまま、携帯を持って走った。
ジュリエッタもパソコンの前にスタンバイする。

「みんな、これはもうゲームなんかじゃない。当たったら即死の実戦だと思って。」
『何を今さら。』

由梨の言葉に、風花は確かに、と心の中で思う。

「そうだね、数々の修羅場を潜り抜けてきたみんなだし、今更だよね。…来るよ!」

風花の言葉が響いた時、ニアラとの鬼ごっこが開始された…。

セブンスエンカウンター ( No.564 )
日時: 2015/10/31 23:25
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: j62VnjSr)

東京スカイタワー内…。

「うわわっ!!」

ニアラの翼が鏡に当たりそうになったが、辛くも避け、体勢を立て直す。

「一撃当たったら即死って、どんなゲームだし。アタシ等アクションゲームやりに来たんだよな? ツインビーとかグラディウスとか、スーパーマリオじゃねぇんだから勘弁しろよな。あ、スーパーマリオはアクションだったわ。」
「あ、帰ったらツインビーやろっと。」
「私、グラディウスやってみたい。鏡君、持ってない?」
「お前ら、何、変な余裕ブッこいてんの!?」

由梨のぼやきに、ただいま前衛に出ている鏡とリリィが余裕そうな会話を繰り広げたので、思わずツッコミを入れてしまう由梨。

「あと一分かなー。あ、鏡、リリィ、僕、最近スーパーマリオメーカー買ったんだ。よければ僕とコース作らない?」
「あ、ボクもやりたーい!」
「お前達二人も変な余裕を見せるな! 戦闘中だぞ戦闘中!」

リリィや鏡と同じように余裕の表情を見せる凪とローズに、フランシスも由梨と同じようにツッコミを入れてしまう。

(…あの悪趣味な金を溶かして招き猫を作ったら、一体何体分の招き猫ができるかな。)
(…あの悪趣味な金を溶かして延べ棒を作ったら、一体いくつ出来ていくらで売れるでしょうか。ちょっと来月のイベント、軍資金的にピンチなんですよね…。)
「ねぇそこのお二人さん。何、考えてるか知らないけど、今、戦闘中だからね? 特に理乃ちゃん、君、集中しなきゃいけない立場でしょ?」

もう紅刃も十分なキャラ崩壊を起こしており、妹同様ツッコミをいれてしまった。
というか戦闘狂のみが真面目に避けてるって一体何。

『あのニアラを前にして余裕ブッこき過ぎだろアイツ等。』
『あ、あはは…。ほら、みんな、この手の修羅場に慣れてる人達だから…。』
『どれだけ物騒な修羅場を経験してきたらこうなるんですか。この光景見たらあの人達もビックリものですよ。』
『まぁまぁ、余裕のある戦いって言うのも大切なんじゃないの? …あら?』

あまりにも余裕過ぎるほど余裕のメンバーを見て苦笑を浮かべる通信班だが、ジュリエッタの様子がどこかおかしい。

『えっ!? ニアラの能力値が初期値に戻ってる!?』
『えっ、あ、本当だ! それに皆さんのスキルもいくつか増えてます!』
『マジかよ!? って、マジだった!?』
『凪君、君だね。何したか聞いてもいい?』

なんと、突然ニアラが弱体化し、更には鏡達の使えるスキルが増えたのだ。こんな事を出来るのは一人しかいない、そう考えた風花はその犯人に問いただした。

「ただちょーっとハッキングしてー、ちょーっとこのセブンスエンカウントのプログラムをいじってー、僕らに優位になるよう仕向けただけー。」
『オイコラ。こっちにこれ開発した技術部長がいるのにさらっと犯罪を暴露すな。』

確実に捕まりそうな事をさらっと言い放つ凪に、ナガミミは思わず突っ込む。だが、これでまともに相手ができるようになったのは確かだ。

「さー、今までやられた仕返しにー。」

そして、凪はその指をニアラに向けた。

「思いっきりやっちゃえー!」
「おー!」

ちびっ子達は嬉しそうな表情を浮かべながら、ニアラへと突っ込んでいった。

セブンスエンカウンター ( No.565 )
日時: 2015/10/31 23:32
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: j62VnjSr)

仕切り直しの先制をとったのは、リリィだった。

「呪ってあげる。えいっ。」

リリィが鎌を降り下ろすと、紫色の煙が辺りに放たれる。【レベレーション 呪】だ。
攻撃は普通に通ったが、残念ながら呪いの状態異常にする事はできなかったようだ。

「ちっ。」
「でも、攻撃が通るって知れただけでも十分だよ!」

舌打ちするリリィを宥めてから、鏡はニアラに向かって素早く突っ込んでいった。

「でやあぁぁぁっ!!」

まずニアラに双剣で突きを繰り出し、更に抉るように左右に広げる。【双剣 大一文字】だ。

「グアアァッ!!」

これにはかなりの手応えを感じ、ニアラもよろめいた。

「よろめいてる暇なんて与えないぞー!」

鏡が攻撃している最中に背後に回ったのか、ニアラの後ろにはローズがいた。中には既に、雷が描かれたカードを三枚待機させていた。

「そろそろいくよー! 【召喚:雷のドラゴン】!」

ローズが叫ぶと同時にカードが光に包まれ、その光が収まると目の前には黄色い翼竜がいた。

「雷パワーだー!」

翼竜が吠えると同時に、雷がニアラを襲った。ニアラはそのせいで体が痺れて思うように動けなくなった。

『うん、みんなの攻撃、効いてるよ!』
「よーっし、もう一押しだ!」

鏡が鼓舞すると、全員おーっ! と拳をあげた。

「そうだ、鏡。ユニゾンやってみないー?」
「ユニゾンって、さっきジュリおね…おじちゃんが言ってたあれだよね。」

ここで説明しよう。ユニゾンと言うのは、前衛三人だけでなく、後衛の六人と共に一斉に行動できる究極奥義である。

「うん、多分もうみんなスタンバイOKだろうし、やってみようよ!」
「そうだね! やってみよう!」

鏡が言うと、戦闘狂の目がキラーンと光った。あぁ、うん、戦いたいんですね貴方達。

「せーのっ!」

全員の準備が済んだのを確認した鏡は、合図を出す。
合図の後すぐに動いたのは、リリィだった。

「せいっ。」

リリィは鎌を回転させ、白い鎌鼬を生み出して、未だに麻痺が解けていないニアラを切り裂いた。

「グゥッ!」

鎌鼬に切り裂かれたニアラは体勢を崩し、よろめいた。対してリリィはどういう理屈かわからないが、その傷を癒した。【魂のオラクル】だ。

「やった。」
「次はオレがいく!」

隙を与えないまま、鏡が動く。

「絶対決める!!」

鏡は気合いを入れるかのように、踏ん張った。

「さぁ、全力!」

そして、双剣を構え、地面を蹴って飛び出す。
何度も何度も、ニアラを切りつけ、そして、飛び上がった。

(落ち着いて…。)

背面で体勢を整えながら、ニアラに狙いを定める。そして、

「でやあっ!」

落ちた。双剣をニアラの頭に突き立てながら。
その後、剣を抜き、ローズ達のいる場所まで飛んできた。サムライの双剣奥義、【乱れ散々桜・双】が決まった。

「やりきった!」
「ぐああぁぁっ!!」

これにはニアラもかなりのダメージを受けたが、まだ撃破には至っていないようだ。

『ローズ君!』
「わかってるよ、風花! ボクを本気にさせたなー!」

ローズも気合いを入れるかのように、踏ん張った。
そして伏せた五枚のカードを目の前に浮かせた。

「巨神よ、ボクの声に答えて!」

ローズの叫びに、三枚のカードが開かれ、光が天へと上ると同時に、雲を切り裂き、無機質なように見える1体の巨神が落ちてきた。
更に伏せられたカードがもう一枚開かれる。そこには腕のような絵が描かれていた。カードが開かれると、巨神の腕が光った。

「世界を砕けー!」

ローズが命じると、巨神はその腕を何度も何度もニアラに叩きつける。今のニアラはサンドバッグ状態だ。
しばらくラッシュが続いた後、伏せられた最後のカードが表になる。そこにあったのは、爆弾のような絵。
巨神は急に上空へと上がったかと思えば、ニアラに向かって飛びかかり、そして…ニアラを巻き込んで爆発した。デュエリストの奥義、【巨神召喚】だ。

「こいつを止められる奴なんていないのさ!」

はしゃいでキメ台詞を言うローズ。そんなローズの視線の先では、ニアラが僅かに光輝いていた。

「グ、にゃあーん♪」

おかしな断末魔(?)を上げ、ニアラは消滅した。

『ちょっ、悲鳴が、つか、あれ、悲鳴なのか!? ブハァッ!』
『あ、遊びすぎだよ、プフッ! やばい、今のでニアラが可愛いとか思っちゃった!』
『絶対ハッキングした時に何かいじったでしょ!? でも、アタシも笑いが、ぶふぅっ!!』

ニアラの叫び声がおかしな事になっていた為、その場にいた一同は笑いを堪えられなかった。犯人は酸欠で今にも戦闘不能になりそうだ。

「死にかけるくらいなら、初めからいじらないでよー!」
「ご、ごめ、あははははははははは!」

本当に最後まで馬鹿にされたな、ニアラ…。
ちなみに余談だが、戦闘狂ががっくりと項垂れていたのは、理乃達後衛のメンバーしか知らない…。

「…最後まで暴れ足りなかったのね。」

ぽつりと、理乃は呟くも、誰も聞く耳は持たなかったとさ。
ユニゾンにより、直接戦闘に参加できると思って張り切っていただけに、出端を挫かれた格好となった。

セブンスエンカウンター ( No.566 )
日時: 2015/10/31 23:40
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: j62VnjSr)

そんなこんなで、ニアラを倒した影響か、ログアウトが可能となったので、一同は再び入り口まで戻り、脱出地点を使ってログアウトした。
意識を取り戻した一同に聞こえてきたのは…。

「スゲーぞお前ら!」
「ゲームクリアしやがった!?」
「かっこいー!」
「つかあれ骸姫様じゃね!? 腐ってて戦える姫様すげぇ!」
「隣にいるのは姐さんじゃね!? あのBEMANI学園の番長!」

見学客の歓声だった。

「何でお前の認知度高いんだし。」
「あら、由梨さんこそ有名になって。」

名指しされた由梨と牡丹は苦笑をしつつも、その声援に答える。他のメンバーも恥ずかしそうに答えた。

「おい、ここにいると歓声に呑まれてロクな話もできねぇだろ。色々と積もる話もあるし、何よりこの馬鹿に関して言いたい事もあるだろうから、落ち着いて話ができる場所に移動してぇんだが、こいつらいつまで騒ぐんだし。」

ギャラリーの勢いに呑まれ身動きできないでいると、背後から男の声が聞こえてきた。

「こっちだ。早く来いよ。」

突如聞こえた謎の声に、辺りを見回す一同。だが聞き覚えのないその声に、一同はついていっていいものか迷った。

「心配すんな。オレ達が呼んだ救援がついたみてぇだ。まぁ、無意味だったけどな。」
「もしかして、13班?」
「無駄話するな。もみくちゃにされたいなら、話は別だがな。」

男の方もそう言うので、ナガミミの言葉を信じ、男についていった。
そしてこっそりと裏口へと回り、風花がナビの説明を受けていた部屋まできた。そこで、ようやく声の主が姿を現した。黄色のサングラスが特徴の、いかにも都会の若者といった風貌である。

「仕事放り出してまで助けに来たってのに、全くの無駄足だったじゃねえか。」
「無事ならなんだっていいだろうが。」
「まあまあ…。」

男は不機嫌な顔をして、ナガミミはしかめっ面をしたので、澪が宥めた。

「ごめんね、カーソル。折角駆けつけてくれたのに…。」
「気にするな。面倒事よりはマシだ。で? 結局どうやって収拾つけたんだ?」
「それがね、ゲームでエージェントになった人がセブンスエンカウントにハッキングして、プログラムを書き換えちゃったんだ。」

澪の説明を聞いた男—カーソルは、大層驚いた。

「マジかよ!? ゲームの中からプログラムにハッキングしたのかよ!?」
「うん。私も信じられないけど…。」
「やっちゃいましたー。」

驚くカーソルの背後から、凪はほえーんと言い放つ。

「なっ!? いつの間に…。」
「えへへー、ごめんねー。つい気配隠すの癖になっちゃってー。」

にこー、と笑いながら、まるで悪気のないように言い放つ。実際悪気はないわけだが。

「もう、駄目だよそんな事して驚かせちゃ。その所為でいつもオレの寿命が縮まるんだよ。」

鏡が凪に怒るので、凪も「ごめんなさーい。」と謝るも、反省しているかは謎だ。

「そんな事より…。」

和やかな雰囲気に、ジュリエッタが割り込んだ。そして凪に向かって衝撃的な告白をした。

「アナタが…欲しい!」

純粋組はわかっていなかったのだろうか、こてんと首を傾げるも、他の一同は目が点になった。ナガミミは殺気を込めて、

「この馬鹿野郎! 変態! 気色悪いんだよ!」

と、叫びながら、ペーパーナイフでジュリエッタの顔を執拗に引っ掻いた。

「イタイイタイ! ちょっとナガミミ、引っ掻かないで頂戴!」
「ウルセエよこの変態! つかまずあのバグニアラについて謝りやがれ! あと、んな告白を男にするんじゃねえよ! テメエ、自分が男だって自覚あんのか!?」
「それくらいはあるわよ! というかそういう話じゃないから! あとアタシがそっちの意味で欲しいのはそっちの銀髪の男の子」
「それ以上言わせねえよ?」

とどめと言わんばかりに、いい笑顔でペーパーナイフをジュリエッタに突き立てるナガミミ。ジュリエッタはすっかり黙り込んでしまった。

「それで、本当は何が言いたかったのー?」

凪の問いにより、ナイスタイミングと言わんばかりに、ジュリエッタの顔が輝いた。

「いえね、ちょっと、うちの会社で新しい取り組みをしているの。本当はゲーム開発をしていたのだけれど、何がどう間違ったか、あるものの理論ができそうなのよね。後はそれを実行するプログラムを組むためのプログラマーが欲しいわけ。で、アナタのあのハッキング技術。あれはアタシも驚いたわ。できる事なら、その力を貸して欲しいの。」
「ある物って何? ジュリおじちゃん。」
「詳しい事は本社でゆっくり話したいわ。だから、えっと…名前は何かしら?」

そういえばロクに自己紹介をしていない事を思い出した凪は、いつもの笑顔で自己紹介を始めた。

「僕は凪だよー。」
「凪っていうのね。それで、アナタたちは?」

続けて、ジュリエッタは鏡、リリィ、ローズに話題を振る。

「オレ、鏡!」
「私、リリィ。」
「ボクはローズ! よろしくね、ジュリエッタ!」
「(あぁ、何ていい子達の集まりなのかしら!)よろしくね。じゃあ凪、本題に戻るけど」
「オイコラ待てや。」

他のメンバーをさらっと流そうとしているジュリエッタに、ナガミミは思わず咎めた。

「他の奴等にも聞いてやれよ。それが筋ってもんだろうが」
「そろそろビジネストークがしたいのよ。関係のある子の名前だけでも聞かないと。」
「チビスケ共は何の関係があるってんだ。」
「ワタシのくたびれた心を癒す天使よ。」

断言するジュリエッタの顔面が、数秒後にどこにあったかはわからないが分厚い何かのマニュアルによってめり込まれたのは、まぁ、当然の事だろう。執行人? ナガミミに決まってるだろうが。

「痛いじゃないのよナガミミ! あんな分厚いマニュアルを投げるなんて酷いじゃない!」
「テメエの思考が痛えんだよ!」
「あのー、話が全然進まないんだけどー。」

このまま口論へと発展するかと思いきや、それを止めたのは凪だった。確かにこのまま口論されていては、話が進まない。話を進めたのは、先程から退屈そうにやりとりを見ていたカーソルだった。

「とにかく、凪…といったか。そいつ連れて本社に戻ればいいんだろ? 本人にその気があればの話だがな。…で、どうなんだ? この胡散臭い話を詳しく聞く気、あんのか?」
「うーん…。(昴さんやこの世界に害をなす何かだったら、阻止する必要があるよねー。そのためにも詳しく聞いておかないとなー。)」

悩む凪だったが、もう既に心は決まっていた。
神様である昴やこの世界に害をなすものは、排除しておかないとまずい。そう、考えたのだ。

「いくよー。本社にー。詳しく聞いてみたいしねー。」
「そうかよ。じゃ、駐車場に俺たちが乗って来た車がある。それに乗って行くぞ。」
「それじゃあ、早速…。」
「ジュリエッタが乗るなら、もうスペースはねえぞ? 俺とブランとリオナ、あと凪が乗るからな。」

どうやら車は五人乗りのようで、既に乗る五人が決まってしまった以上、鏡達はこのまま帰る事になってしまうようだ。

「えーっ! オレ達ついてっちゃダメなの!?」
「駄目も何も、満員だからな。諦めな。」

凪が心配でついていきたいと思った鏡だが、カーソルの言葉にがっくりと項垂れてしまった。あの、横でジュリエッタも残念そうな顔しているんですけど。

「そういうこった。マア、どうしてもついていきたいなら、タクシーを使うしかねえな。ジュリエッタのポケットにおねだりでもしてな。」
「ちょっとナガミミ! 何でワタシのポケットマネーを」
「ワガママには責任がつきものなんだよ。」

自分のお金が勝手に使われる事を頑として拒むジュリエッタに、ナガミミはピシャリと言う。

「ワタシが出すのは天使達の分だけよ! ついでに一緒に本社までのランデブーを楽しみ」
「天使を連れて行くなら、大天使も着いて行っていいよな? うちの純粋組に余計な事させないためにも。」

指をポキポキと鳴らしそうな顔で、由梨が訴えた。あぁ、後ろでフランシスもかなり殺気を放ってるよ…。

「…ああもう、分かったわよ! アナタたちみんな本社にご招待よ!」
「やったー!」

全員一緒に本社まで行けると知り、純粋組の三人は喜んだ。そんな様子をジュリエッタはうっとりした表情で見ている。

(ああ、本当に可愛いわー。タクシーの中であんなお話やあんな事ができるだけでも良しとしましょう。)
「コムスメ、チビスケ共はオレサマとオマエで分けるぞ。」
「ナガミミちゃん、それはもう十分にわかってる。流石に今のジュリエッタさんにあの子達を近づけたら危険すぎる。」
「フヒヒヒ、いい子だ。客の身に何かあったら評判にキズがつくからな。」

ナガミミと澪が変態対策を立てているとは知らずに。







ノーデンスエンカウンターへ続く…

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