二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 手を延べる悪意 ( No.61 )
- 日時: 2015/05/28 23:00
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: .usx6F8Y)
「…。」
食事が終わり、部屋に戻った昴達。
その間、誰も何も話そうとはしなかった。目の前で起こった出来事が強烈すぎて、何を言っていいか分からないのだ。
「…あの船長、横暴ですよね…。」
「…。」
直斗の呟きに、全員は頷いて答える。
そう、 その場にいた船長により、部屋の出入りを禁止された。何をしていいかも、分からない。
探偵の自分には事件を解決に導く能力があるのに、何もできない歯がゆさが、直斗を襲う。
「…ねぇ、りせちゃん、大丈夫かな?」
「あ、そうだな…。今あいつ、一人なんだっけ。」
千枝の心配に、烈が呟く。
そう、一緒に泊まっていたマネージャーは船酔いが酷く、明日、由梨と撮影の相手をする人物の船に一緒になって帰っていった。今頃は陸地に上がっているだろうか。
故に、りせは今、部屋で一人なのだ。
「部屋の移動を禁止されてるし…電話、してみっか。」
「そういや、ここ海の上だよな? 何で電波あるんだ?」
「航海ルートから考えると、創世島が近くにある筈ですね。恐らく、そこからの電波でしょう。」
「あぁ、多分な。」
そんな事を言いながら、昴はりせに電話を掛ける。
『あ、昴さん…。』
「りせ、大丈夫か? 心配で掛けたんだけど…。」
『…大丈夫なのは大丈夫。泣き喚く事はしてないよ。…ポケットがね、暖かいの。一人じゃないって、言ってくれてるの。』
「(…アイツの干渉、か…。アイツには後で礼を言わなきゃな。)…そうか。…何とか部屋の移動出来ればこっちに来て貰えるんだがな…。不安だろうし…。」
『うーん、それは難しいかも知れませんね…。でも、ペルソナを召喚して皆とは繋がれるよ?』
突然、脳裏に風花の声が聞こえ、全員驚いて顔を見合わせるも、ペルソナ組はどこか納得していた。
「あ…そっか。風花さんもりせちゃんと同じ力だっけ…。」
『忘れちゃ駄目だよー、千枝ちゃん。…誰か、パソコンを持ってないかな? さっき桐条先輩が言っていた男の情報を送りたいんだけど…。』
「あ、僕が持っています。アドレスは多分、美鶴さんが知っている筈ですので、美鶴さんから転送させて貰って下さい。」
『分かった。一旦通信切るね。』
その言葉の後、風花からの通信が切れた。
『…ペルソナの事、すっかり忘れてたよ…。』
次に聞こえたのは、りせの声。彼女もカンゼオンを召喚し、通信機能を使ったのか。
「それ程頭が回らなかったんだろ。…もう、大丈夫そうか?」
『うん。みんながいるの、分かる。感じる。…怖いけど、平気。』
「…よかった。りせ、暫くペルソナ出してろ。疲れたら、電話掛けてこい。」
『…うん、そうする。』
暫く、気を紛らわせる為に、他愛のない話を続ける。
- 手を延べる悪意 ( No.62 )
- 日時: 2015/05/28 23:05
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: .usx6F8Y)
『みんな、大変!』
が、それは風花の声により打ち破られた。
「どうした? 風花。」
『船長が桐条先輩を連れて行ったの! 氷結属性の能力者が犯人だろうって…!』
「! そう言えば、紅葉さんは氷の柱に貫かれていた…。でも、たったそれだけの事で…!」
何の証拠もなく、美鶴を捕らえるのは横暴すぎる。そう考えた直斗だが、すぐ横にいる人物について思いだし、焦りを覚えた。
「里中先輩、隠れて下さい!」
「! そうか、里中も氷結持ち…! 里中、どっかに隠れてろ!」
「…。」
後輩と恋人に促されるも、千枝は動かない。
「…千枝?」
「直斗君…。あたし、直斗君の事、信じていいよね? この事件、解決してくれるって、信じていいよね?」
「なっ…! も、勿論です! この事件、解決してみせますよ!」
頼れる後輩に、千枝は一つ頷いた。
程なくして、鍵がかかっている筈のドアが乱暴に開かれた。
「えぇーいっ! 出てこい氷の能力し」
「随分横暴な船長だな。部屋に入る時はノックくらいしたらどうだ?」
「あと、鍵勝手に開けてんじゃねぇよ。プライバシーはどうしたプライバシーは。」
小太りの男—恐らく、船長だろう—は指を突き刺しながら入ってくるが、彼の台詞を遮るように昴と由梨が言い放った。
「プライバシーなんぞ知った事か! わしの可愛い船員が殺されたんだぞ!」
「それでロクな調査もせずに氷属性の能力者を疑うのはお門違いかと思いますけどね。」
「ふんっ、ガキが息巻いて…! ここに氷属性の能力者がいる事は調べがついている! 大人しく投こ」
「あたしだけど。」
直斗の切り返しに憤慨しているところで、千枝があっさりと名乗り出たので、完全に調子を狂わせる船長。
「な、な…!?」
「だから、あたしがそう。あたしは大人しく連れてかれるよ。抵抗はしない。」
「里中、何言って」
「陽介、ちょっと待て。…千枝、まさか…。」
何かを悟った由梨に、千枝は笑ってから船長に向き直る。
「その代わり、りせちゃんをこっちに連れてくる事を許可して。」
『えっ…!? ちっ、千枝センパイ!? そんな…!』
千枝の考えがようやく読めたりせは、愕然とする。
自分が寂しさを解消する代わりに、先輩が一人になってしまうのだ。
「いーよ、りせちゃん。あたしならへーきへーき。」
『だっ、駄目だよ! 千枝センパイが一人になっちゃう!』
「大丈夫だよ、ほんとに。あたしは、みんなを信じて待ってるよ。」
「里中先輩…!」
自分を犠牲にして他人の寂しさを紛らわせようとする千枝。
だが、
「フンッ! 犯罪者の言う事なんか聞けるか!」
船長はそう、一刀両断した。
「何でだよ! 人一人の移動くらいいいだろ!?」
「例外は認める訳にはいかん! それに、お前達が集まってこの小娘の脱獄を考えているとも限らんからな!」
「事件の事をよくわかっていないのに、里中先輩を犯罪者に仕立て上げないでいただけますか?」
「犯人じゃないとも限らんだろう! さっき捕らえた美鶴とか言うガキだってそうだ!」
烈と直斗が食って掛かるも、船長は聞く耳を持っていない。
「…ねぇ、船長さん。」
「何だ!」
そんな中で昴はゆっくりと立ち上がり、船長を呼ぶ。
その目は、完全に据わっていた。そしてその言葉は、女子化…素に戻っていた。
「五月蝿いよ。ウダウダ言わずにそれくらい認めなよ。」
「誰が認めるか!」
「それが神様からのお願いでも?」
「まぁ、神様のお願いだったら認めなくもないがな!」
それを聞いた昴は、クスリと笑う。
「じゃあ、神様からお願いが二つ。」
「待て待て! 貴様が神様だと言うのか!?」
「ええ。」
「じゃあ、証拠を見せてみろ! そうだな…。この海を時化らせろ!」
穏やかな海域。ここを今、時化らせろと言う船長。
簡単な事だ、と昴は笑う。そして、葉月のスキルをコンバートさせた。
「(葉月、力を借りるぞ。)みんな、何かに掴まっていて。揺れるから。」
「へ? うわぁっ!」
船が大きく揺れ、雷鳴が轟く。突然の揺れに、全員驚きはしたが、冷静に何かに捕まって対処した。
が、それもすぐに治まり、元の穏やかな海が広がった。
「…で? お願い、聞いてくれる?」
「はい、聞きます!」
これには流石の船長も二つ返事で了承する程態度を改めた。
「一つ、久慈川りせをこちらの部屋に迎える事を許可する事。そして、もう一つ。彼女を桐条美鶴と同室にする事。」
「えっ!? す、昴さ…!」
「知り合いと同じ部屋にいた方が安心できるだろ。不安なのはお前も一緒だろ?」
「…。」
千枝は一瞬驚いた表情を浮かべるも、黙って頷いた。
「千枝、お前は俺達を信じて待ってろ。美鶴共々、無実を証明してやる。だから…。」
昴が言い終えるかぐらいのところで、千枝が昴に飛び付く。
「うんっ…。あたし、信じてるから…! だから、だから…!」
「ああ。真犯人挙げて、お前と美鶴の無実を証明してやる。…それまで少し、寂しい思いさせるが、二人で大人しく待ってろ。」
「うん!」
そして、千枝はそのまま船長に連れられ、他の船員と共に出ていった。
それを確認した昴は、由梨に向き直った。
「…おい由梨。」
「ん?」
「雷鳴はお前の仕業だろ。俺、葉月の力しか使ってないぞ。」
葉月の力では雷は反属性。相性が悪い筈なのに轟いたそれ。だが昴にはそれを放てる人物がいる事を知っていたので、問いかけた。
「海を荒らすだけじゃ面白くないかと思ってな。近くに雷雲あったし、ちょっとだけ力を貸して貰った。理乃がいりゃ、暴風雨を起こせたんだけどな。…あ、でも、あの船長の顔見てちょっとスッキリした。」
「確かに。」
悪魔のように微笑む二人に、周りの人間は何も言えなかった。
- 手を延べる悪意 ( No.63 )
- 日時: 2015/05/28 23:14
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: .usx6F8Y)
程なくして、りせが別の船員に引き連れられてやってきた。
「昴さん! みんなぁっ!」
部屋に来るなり、りせはすぐに泣きじゃくりながら、昴の胸に飛び付いてきた。
「りせ、よかったな。」
「花村センパイ…!」
そんなりせに、陽介は労いの声をかける。りせは一層涙の量を多くし、崩れ落ちた。
「ごめんなさい…! わ、私のせいで、千枝センパイが…!」
自分のせいで恋人が連れていかれた事に関して謝罪をするりせ。そんな彼女の頭を、陽介はポンポンと叩いた。
「りせのせいじゃねぇよ。里中は俺が止めたってああしてただろうしさ。」
「セン、パイ…。」
「事件、解決してやろうな? みんなで、さ。」
「…うん! 絶対、解決しよっ!」
陽介の優しさに触れ、りせは涙を拭って笑顔を見せた。力強い決意を秘めた、笑顔だった。
「…ん?」
ふと、またノックの音が聞こえた気がして、昴はドアの方を見た。
「誰だ?」
「すみません、神様が乗船していると船長に伺って…。少し、お願いしたい事がありまして。」
昴がドアを開けると、そこにはここの船員の服を着た男が立っていた。
「俺がそうだけど、何の用だ?」
「貴方が…。」
一瞬だけ、男が恍惚とした表情を浮かべた気がした。が、一瞬の事だったので、誰もその表情を見ていなかったようだ。
「実は、先程の揺れで船にトラブルが起こりまして…。直すにもどうしても足りないパーツがありますので、是非、神様にお力添えをと…。」
「(揺れって、さっきの船長をギャフンと言わせたあれか? うわ…やべ。)あ、あー…。わ、分かった。案内してくれ。」
自分のせいで船の航海に支障が出たらまずい。昴は、何の疑いもなく男の言葉を信じた。
「では、こちらです。」
「ああ。んじゃ、俺ちょっと行ってくるから。」
昴は男と共に、部屋を出ていった。
「先程の揺れくらいで壊れるなんて、柔な船ですね。」
「だな。…ん? どうした? 烈、紅。」
直斗と共に船について話していたが、考え込むように腕を組んでいた烈と、俯く紅を見て、話を中断させて彼らに問いかける陽介。
烈は顔をあげ、首を捻る。
「いや…。さっきの、昴さんと話してた奴の声、どこかで聞いた気がしてさ…。」
『我も烈と同じだ。…それがどうも歯痒くてな。』
暫く、二人してうーん…と唸りながら首を捻っていた。
『今考えて出なくても、後に思い出すよ。それまで待ってみたらどうかな?』
『…そうだな。風花の言う通りかも知れん。烈、今は考えを中断させよう。あの事件を何とか解決させんとな。』
「だな。…そうだ、直斗。風花さんから情報、来たか?」
「あ、そうでした。里中先輩のバタバタで忘れていましたが、来てますよ。」
直斗はパソコンを開き、風花から送られてきたファイルを立ち上げた。
「…どうやら、その男は何人もの子供達の命を奪い、何らかの能力を得たそうです。」
「ひ、酷い…!」
「ああ、ひでぇ事しやがる…!」
『今回の、船にいる子供達もきっと、実験体にするつもりだと思われます。…部屋の移動が制限されていなければ、助けに行けるのですが…。』
苦々しげに呟くアイギスに、
「…きっと、その期は訪れるさ。それまで焦らないこった。」
由梨が、そう、デンと構えながら言った。
その大物っぷりに、アイギスは何故か安心した。
『…由梨さん、太っ腹であります。』
「アイギスさん、使い方間違ってる気がするし、由梨先輩は肝っ玉小さいいふぇふぇふぇっ!」
烈が要らぬ事を言ったので、由梨は彼の頬を思いきりつねった。
「何か言ったか?」
「ふぁんふぇふぉふぁふぃふぁふぇん!(何でもありません!)」
笑顔で烈の頬をつねりながら片手で烈を持ち上げる由梨を見て、この場にいた全員、誰も彼女には勝てない事を痛感した。
「は、話を戻しましょう。」
『うむ、頼む、直斗。』
何とか話を戻すようにパソコンに目を移す直斗。
「…職業は研究員。研究内容は…製薬関係となっていますが、偽りでしょうね。…共同研究者もいるんですか…って、ん?」
「どうしたの? 直斗君。」
何か気になる記述を見つけたのか、中断して資料を見る直斗に声をかけるりせ。
直斗は難しい顔を解かずに、資料をスクロールさせた。
「(…気のせいでしょうね。同じ名字なんて、沢山いますし。)いえ、何でもありません。話を続けましょう。」
「…? なぁ、その男の名前って何だ?」
烈が問いかけると、直斗は今まで忘れていたかのように、「あ、そうでした。」と呟いた。
「その男の名前は—…。」
直斗の口から放たれた男の名前。
「…あ…!」
『…!』
その名前を聞いた瞬間に、烈と紅の表情が血の気を引いたように青くなった。
「っ、紅!」
『うむ、神が危うい!』
「どっ、どうしたんだよ二人して! 昴さんが危ないって」
『言ったままの意味だ! っ、もう少し早く思い出すべきだった…!』
いつになく焦りの色を濃くする紅に、全員、ただならぬ何かを感じた。
『先程神と出て行った奴こそ、今話している男だ! 彼奴め、神をも研究するつもりか!』
「ちょっ…! それ、凄くまずいよ! …!?」
突然感じた何らかの気配に、りせは驚きつつもペルソナを出した。
- 手を延べる悪意 ( No.64 )
- 日時: 2015/05/28 23:20
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: .usx6F8Y)
「みんな、構えて! シャドウ…じゃないけど、何か来る!」
「!?」
『アイギス、真田先輩! お二人も戦闘準備を! こちらにも来ます!』
「つっても俺ら武器ねぇよ!」
そう、陽介と直斗は武器をあのエントランスに置いてきており、今手元にない状態なのだ。
「いや、むしろ武器持ってきてる方がおかしいからな? 陽介と直斗は無理しない範囲でペルソナ出して牽制しろ! 烈、行くぞ!」
「ああ!」
烈は警棒を伸ばし、由梨はイヤリング—火の欠片を使って大きな剣を作り出し、身構えた。
同時に、扉の隙間からにゅるん、と、水色のスライムのような物体が入り込んできた。それも、沢山。
「な、何あれ!? あんなの見た事ない!」
「アイススライムか。焦らなくていい、雑魚中の雑魚だからな。」
「ざ、雑魚なの? というか由梨センパイ、あれと戦った事あるの?」
「前にアタシの通ってた、あの学園付近にウヨウヨいるぞ? ああいったモンスターと戦うの、アタシにとっちゃ日常茶飯事だしな。」
「…キモッ!」
水色のスライムがウヨウヨいる光景を想像し、りせは思わず震えた。
『由梨ちゃん、こっちには青いスライムが現れたんだけど、何かわかる!? シャドウと比べて色々違うから、アナライズに時間がかかりそうなの!』
「青ならウォータースライムだ! 色付きスライム全体に言える事だが、物理攻撃は一切通用しない!」
「えっ!? じゃあどうやって倒すんですか!?」
「アタシ達の属性関係と同じなら、反属性である魔法を当てれば消滅する! なければ浮いている小さな玉を狙え! そこがスライム達の核であり、核を突き刺せば同じように消える! 誰かそっち雷使えるか!?」
『雷なら、カエサルがいる! 【ジオダイン】を放てば良いんだな!?』
「ああ!」
明彦の問いかけに、由梨は自信ありげに頷いた。
『カエサル! 手加減無しで【マハジオダイン】!』
召喚器の引き金を引く音が、風花の通信越しに聞こえた。
『やりました! 敵、数体の消失を確認! …あれ? って、きゃあぁぁっ!』
どうやらうまく倒せたようだが、風花は何故か疑問符を浮かべている。
「どうした!?」
『たっ、倒したスライムから、ほっ、骨が…!』
『子供くらいの人骨を確認。死後何十年と経過していると思われます。』
「骨!? …りせ、直斗、目を閉じてろ! 烈、陽介、少しの間、アタシを守れ!」
「了解!」
何がなんだかわからないまま、烈と陽介は由梨の前に立った。
「デカイの行くぞ!」
そう言いながら、由梨は剣を構えて目を閉じ、集中した。
「焔の御志(みし)よ、災いを灰燼と化せ!」
「ちょ、いきなり上級魔法!?」
『りせ、直斗! 我の後ろに! 陽介は烈の背後に避難しろ!』
詠唱だけで何が来るかを察知したのか、烈は慌てて陽介を背後に庇い、紅は直斗とりせに自分の後ろに来るよう促した。
「【エクスプロード】!」
部屋を多い尽くすかのような熱い爆発が起こる。
「うわあぁぁっ!」
「きゃあぁぁっ!」
『ぐっ、ぬぅっ…!』
その熱波に、烈達は思わず悲鳴をあげるも、烈と紅のお陰で何とか耐えたようだ。
やがて熱波が治まり、そこにいたのはスライムではなく…。
「…風花が言っていたのはこれか。」
無数の、小さな子供のような古ぼけた人骨だった。
アイギスが言った通り、死後十年以上は経っているだろう。
「っ…!」
烈は何かを思い出したのか、後ろにいた陽介に震えながら寄りかかる。
「…大丈夫だよ、烈。」
陽介はそんな烈に、優しく声をかけてあげてから、その 頭をそっと撫でてあげていた。
すると、烈の震えが治まる。撫でられて安心したのだろう。
- 手を延べる悪意 ( No.65 )
- 日時: 2015/05/28 23:25
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: .usx6F8Y)
「由梨センパイ、どうやらこのスライム達、私達の所にしか来ていないみたい。」
そんな中で、話を変えようと、りせがそうサーチの結果を報告する。それが本当なら、自分達以外は部屋に閉じこもっている以上、無事でいられるだろう。
「能力者の匂いみたいなのを感じ取ってきたのか? …スライム達にはそんな器官無かった筈だが…。」
『でも、私達の所にしか来ていないのは本当だよ? 私のユノでも、そう感じてる。』
「…まぁ、一般人に影響が無いならいい。風花、アイギス、明彦。一度合流できないか? 聞いていただろうけど、こっちもまずい事になったんだ。」
『昴さんの事ですね。それに、見た事の無い生物が出るとなった以上、美鶴さん達も心配です。ここは、二手に分かれて救出に向かう事を提案します。』
アイギスの言葉に、由梨は全員の顔を見渡した。
「僕も、そうした方がいいと思います。一度合流し、昴さんを救出に向かう組と、里中先輩達の救出に向かう組と分けて、同時に救出をした方がいいと思います。」
「だな。どっちかに集中させちまうと、どっちかが危うくなりそうだ。幸い、風花さんとりせ、二人のナビがいるから、サポート体制はばっちりだな。」
『だが、まずは由梨の言った通り、どちらかが合流した方がいいだろう。話し合うのはそれからでも遅くあるまい。神も、千枝達も、そうそう簡単にやられるタマではない。』
『話は纏ったようでありますね。では、私達がそちらの部屋に伺います。一度、通信を切りますね。』
そのアイギスの宣言の後、通信は切れた。
「…りせ、昴さんの位置、サーチできるか?」
「うん、もうやってる。…ここは…船の地下だね。まだ、無事みたい。」
りせの言葉にほっとする一同。昴の無事が聞けて、ほっとしているのだ。
「…地下にはまだ、モンスターがいないみたい。」
「なら、アタシは千枝救出組だな。戦い慣れしてる奴が行った方がいいだろ。」
「では、僕も同行させて下さい。あの事件の謎を解いて、里中先輩の無実を証明してみせます。」
『我は烈と共に地下へ行こう。神が心配だし何より…。』
「俺達が思い出してたら、止められたのに…。」
「悔やんでも仕方ねぇって。烈、紅。…俺も地下に行く。何か、嫌な予感がするんだ。」
見事に二手に分かれる事が出来たようだが、問題が一つ。
「なぁ、二手に分かれるのはいいけど、りせと風花さんの護衛、どうすんだ?」
そう、りせと風花の問題だ。彼女達は非戦闘系のペルソナなので、戦う手段が無い。
陽介の言葉に、由梨は困ったようにポリポリと頭を掻く。
「…戦力をこれ以上割けられないから…ヴォルトに頼むか。脳筋イフリートよりも何十倍もマシだし…。」
が、すぐにその結論に至り、再び剣を構えた。
「ヴォルトって…ライブの時に由梨センパイが呼び出したって言うあの紫色の球体?」
「ああ。りせもあの後会ったのか? アタシ、烈とウィザウの前で喚んだ筈だったけど。」
「うん! 何言ってるか分かんなかったけど、笑顔で何となく何が言いたいかが分かったよ!」
「ヴォルトの言葉は特殊だからな。…猛き神が振るう紫電の槌よ。火の司、野上由梨の名において命ずる! 出でよ、ヴォルト!」
由梨が詠唱を締めくくると、雷を纏う球体、ヴォルトが出てきた。
「こ、これが、野上先輩の使役する精霊の一体…!」
『同じ精霊のせいか、分かる。…我以上の、凄まじい力を…!』
「す、すげぇ…。近くに寄ったら本気で痺れそうだ…!」
彼の姿を初めて見る直斗、紅、陽介は、その姿に息を呑んだ。
「陽介、電撃弱点だからあんまり寄るな。…ヴォルト、火の宝珠を通じて聞いていたな?」
『…。』
ヴォルトは縦に体を振った。どうやら了承済みのようだ。
「本当にあの脳筋馬鹿とは違って話が早いから助かるよ。」
『…。』
「は? あの脳筋が出番増やせって? …アイツがこっちに来ると話しがややこしくなるし、風花とりせを狙わないとも限らないだろ?」
『…。』
「…だろ? お前もそう思うだろ?」
何だか勝手に話が進んでいるようだが、由梨以外は首を傾げていた。
「…紅、分かるか? ヴォルトの言葉。」
『うむ、分からん。ヴォルト殿は精霊であって、動物ではないからな。流石に動物以外の言葉は…。』
どうやら紅にもお手上げらしい。それに気付いた由梨は、面目なさそうに頭を掻いた。
「あ、えーっと、話をまとめるとな、アタシの使役するもう一体が、ヴォルトに『オレにももっと出番増やせー!』って訴えてきたんだと。だけどアタシは女子がいる前じゃアイツ出したくないんだ。…陽介の相棒並みに酷い女誑しだからな。…何度理乃が狙われた事か…。」
「心中お察しします。」
同じ変態の相棒を持つ身として何かを分かち合ったのか、陽介はそう言ってそれ以上言葉を続ける事はしなかった。
- 手を延べる悪意 ( No.66 )
- 日時: 2015/05/28 23:32
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: .usx6F8Y)
シエルアーク号、地下…。
「…ん?」
「どうかしましたか?」
ふと、騒音が聞こえて、昴は上を見上げた。
「…上が騒がしいなって思っただけだ。で? トラブルがあった場所って?」
「こちらです。」
男は昴を地下の一室に通すと、扉を閉めた。
「…別に変わった所なんてなさそうだけど?」
「おかしいですね…。私の気のせいでしょうか。」
「じゃないのか? 見た感じ変な場所は見あたらな」
—私、後ろ!
ノートが開かれ、ザッ、という何かが近づいてくる音に気が付いた時には、もう遅かった。
「ムグッ!?」
昴の口元に何か布のような物が当てられ、そのまま後ろに来ていた男に寄りかかるように倒れ込んでしまった。
呼吸は安定している所を見ると、どうやら眠っているだけのようだ。先程の布には睡眠薬が染み込まれていたのだろう。
「神様…。随分といい素材が手に入りました。子供達よりも研究の役に立ってくれるでしょうね…。クク…クククッ…!」
男は昴を丁寧に床へと転がした後、その体をまじまじと見た。
「なんと美しい体…! これは実験のし甲斐がありそうだ…!」
「年端もいかぬ子供だけではなく、幼気な娘まで研究対象にするか。嘆かわしい。」
「! 誰だ!」
昴の服に手をかけたところで、男の背後から声がかかる。
そこにはオレンジ色の髪をたなびかせた赤い目の少女—茜がいた。
「あの子だけではなく、そこの娘さんまで苦しめるつもりか。九条明羅。」
「何故、私の名を…ん?」
男—明羅は一瞬動揺するが、茜の姿をまじまじと見た後、笑みを見せた。
「ああ…十二年前の関係者の家族でしたか! 貴方のご家族は今でもご息災ですか?」
「元気じゃよ。あんな事があったのにも関わらず、思ったよりまっすぐ育っておる。愛い奴じゃ。貴様があの子を誘拐なんぞしなければ、もっと素直な子に育っていたかと思うと、嘆かわしいわい。」
「ククク…。貴方のご家族には研究を台無しにされましたからね…。せめてもの仕返し、ですよ。」
「…それにも拘らずまっすぐ育ってくれて、わしは嬉しいがな。」
ザッ、と茜は構えを取る。
「悪いが、わしは気が長い方ではないのでな。とっととその娘を解放し、子供らを閉じ込めている扉のカードキーを渡せ。」
「嫌ですよ。折角手に入れた物を何故渡さないといけないのですか?」
いつでも逃げられるように、昴を持ったまま扉に向かう明羅。
「…そう言うと思っとったよ。」
交渉は無理と判断した茜は、タンッ、と地面を蹴ると、その姿を消した。
「なっ、どこに!?」
茜の姿が急に消えた事により、狼狽える明羅。
「ここじゃ。」
「!?」
なんと、茜は明羅のすぐ後ろにいた。
「寝てろ!」
「がっ!」
そして茜は明羅の背中を思い切り蹴り飛ばした。明羅は何も出来ぬまま、壁にぶつかってずるずると落ちてきた。
明羅はピクリとも動かない。どうやらそのまま気絶してしまったようだ。
「フン、鍛え方が足りんわ。…さてと。」
茜は明羅の元まで行き、そのポケットを家捜しした。
目的の物は、すぐに見つかった。
「…これかの。」
赤い、ICカードのような物を取り出した茜は、それを丁重に懐にしまう。
そして、未だに眠り続ける昴を見た。
「…神、か。」
茜は明羅を縛り付けてから、昴の方へと向かった…。
軋み出し、回りだした歯車は、もう止められない。
歯車が止まる時…その時は来るのだろうか。
今はまだ、知る由は無い…。
■
「お前って、何気にヒロイン気質じゃねぇか?」
ここまでを振り返り、ジャンがそう言うと、昴が思いっきりその頭を殴りつけた。
「気にしてんだから言うな。」
「わ、悪かった…。」
伸びながらジャンはうめくように謝罪をする。流石に自分が悪いと分かっているのか、反論はしなかった。
いや、寧ろその方が正解だろう。…したらしたで絶対に昴からもう一発拳骨が飛ぶので。
「とにかく、俺は何とか茜に助けられたからよかったようなものの、あの時茜がきてくれなかったらもしかしたら今頃…。」
「まぁ、それは今考える事じゃねぇし、それに…考えたって無駄だ。次行こうぜ。」
そう言って昴を気遣ったジャンは、ページをめくった。
☆
私
—今日はここまで。募集は明日いっぱいまでだよー。それと、目次で書かれてるから何となく予測できる通り、亜空間事件も移植しようと思うけど…興味ある人いるかな? こっちもこっちでシリアスなんだけど。
ジャン
「すみません、プレアの戯言に付き合ってくれ。感想等どうぞ。」