二次創作小説(映像)※倉庫ログ

実食 十三番 前書き ( No.648 )
日時: 2015/12/05 23:39
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: bn3dqvGS)

前書き de 注意事項と…。



—さあて、今回も試食をしていくけど、試食者のキャラ崩壊、厳重注意ね。


「おい、一つ聞きたいんだが。」


—何よ。


「一人って事は…。」


—ええ、お約束のフラグです。ちなみに、前回の前書きで今回の試食者が一人だって予告していたんだけど、気付いた人いた?


「前回の俺達の会話の頭文字をつなげると…。」





私—次に更〜
昴「回数が〜〜
私—一番こ〜
昴「人によ〜
私—だけど〜
昴「よーし〜






「んで、これの頭文字を縦読みにすると…。」


—“次回一人だよ”、となるわけ。まぁ、そんな情報は置いておいて、本編スタートー。

実食 十三番 ( No.649 )
日時: 2015/12/05 23:45
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: bn3dqvGS)

採点方法
六段階評価を下す。内訳は以下の通り。

五:いい意味で何をしたらこうなったか教えてほしい。貴方、もう店を開いた方がいいよ。

四:まだまだレシピ寄りだけど、ちゃんと遊び心はあるのがわかる。店レベルにはもう一歩。

三:完全にレシピ見て作りましたレベル。次はアレンジに挑戦してみよう。

二:レシピに沿ったのはわかるけどちょっと失敗が目立つ。高評価から聞いたりして修行をしよう。

一:反省してるし、改善しようとしているのはわかるレベル。まずは高評価のメンバーの簡単なお手伝いから始めましょう。

零:こいつに料理を教えた奴、前でろ。前だ。


±要素
・+…あともう一歩で上位のレベルに上がれるくらいにおしい品。五+は五段階評価じゃ足りません。

・無印…妥当なレベル。惜しい部分もなければ、マイナス要素も特になし。

・−…ミスが多いのでお情けでこの評価に。零−? もう知らん。


お題:『パンに合うもの』
普通の料理でもスープでもジャムでも、パンに合えばok。
ただし、パンは理乃と由梨が作ったパンに固定する。
トーストさせたり挟んだりと、簡単な調理をさせる物や、パンに塗る物もok。要するにパンに自分達での細工は許可しないが、審査員に簡単な調理をさせる物は許可。

※注意
・既製品やレトルトは許可。しかし、既製品をそのまま料理として出したり、温めるだけで出すのは不可。材料を何か加えるなり焦げ目をつけるなりする事。
・ガイストのアンドゥで一発でバレるので、不正は行えないものと思え。


役割
固定審査員:
昴、パステルくん、ジョーカー、にゃぐわ、MZD

変動審査員兼挑戦者:
烈、風雅、氷海、鈴花、茜、大牙、タクト、ミチル、ニコラ、イオ、ロア、トア、桐生、美結、弓弦、乱麻、ラーズ、ヴァイス、まどか、ジェイド、ジェダイト、ファントム、エクリプス、ヴォルフガング、ハーピア、ゼルハルト、ラズリ、翠里

救援:
黒、紅、アイギス、ガイスト、風花

材料・成分分析:
ガイスト、アイギス

通信:
風花

医療班:
冷一、クマ、理乃、由梨、ユウ、アニエス、ホーリー、ヴィクター、ニコライ
ユマ(YUMAさんから)
ディミトリー、青年トゥーン、レイトン、大人テトラ、ジョージ(Haruさんから)
ヴァイス、風雅、パステルくん、美結(りゅーとさんから)
チョッパー(Ehさんから)
ディアブロ、G.S、エルフィ、ノア、グレン、サヤ、リヴィオ(ユウカロードさんから)
留衣、零寿(暁桜さんから)



—ちなみにね、私、何か作品を作る時に、載せたタイトルと別のタイトルで作っている事があるのよ。こっちだと『実食 ○○番』だけど、執筆作業中は別タイトルって形ね。


「そういや、今まで言ってきてなかったけどそうしたよな。で、何でここで言った?」


—いや、ここで付けたタイトルがなかなか自分で面白かったから。



「ちなみに、その時につけたタイトルが『歪なる思念 その名は…』だ。曲名をちょっと変えただけだと、あいつにツッコまれたが気にしない。ちなみに、もうちょっと言葉が続くんだが、それは最後に話そう。…そうだな、ブレイブリーシリーズをやってる人ならこういえばピンと来るかな。…魔王戦の曲、と。」

実食 十三番 ( No.650 )
日時: 2015/12/05 23:54
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: bn3dqvGS)

「はぁ、酷い目に遭った…。」

料理の残りを、いつの間にか近くにいたメンダコのような生き物に処理を任せ、昴達は次なる審査員を待っていた。

「ねぇ、あの料理人、お仕置きすべきかな? それともスルーすべきかな?」
「あの料理は悩むよな…。見た目は最悪だけど、味はなかなか行けてたんだろ?」

唯一料理を食べていなかったMZDが訊ねると、食べた全員頷いた。

「ああ。今まで食べた事ない味。多分由梨やクマみたいな特化型の連中でもあの料理は作れない。うちのエース的存在である理乃でもまず無理だろうな。」

昴がそう、本当に悪気もなくそういうと、アニエスのペンダントが光りだして、由梨とクマの姿を映し出した。

『そいつは聞き捨てならねぇな。』
『クマ達やリノチャン達の料理に敵わないって、ドンダケクマ? ちょっとクマ達も食べてくるクマ。』
「おおっ、びっくりした。」

自分の腕に絶対の自信を持っているからだろうか、二人はその言葉にカチンと来たようだ。

「だが、あれはほんの興味本位で食っちゃいけないし、勝っても駄目な気がする。下手したら帰れなくなる。頼むから、お前達は王道を外れないでくれ。」
『うむむー…。でも、そういわれたら気になるクマ。』
「食うな。頼むから食うな。わかったか? 念を押してもう一回言う。食 う な 。」
「食べない方がいい料理って何なんですか…。」

そんな話をしている間に、誰かがやってきた。弓弦だ。どうやら次なる審査員は彼のようだ。

「食ったらキャラ崩壊する。以上。」
「あ、あの…ミミズといい、キャラ崩壊するという料理といい…何を作ったらそんなものができるんですか…。」

苦い顔を浮かべる弓弦。

「お、弓弦か。大丈夫、そのうち慣れる。」
「そ、それ、笑顔でいう事ですか!?」
「慣れる。取ってくる。」

昴は色々とごまかし、料理を取りに行った。

「慣れるって…。あんなミミズみたいなのには流石に慣れませんって…。」
「大丈夫だよ、弓弦! 本当に回数こなしたら慣れるから!」
「嫌ですね…。」

笑顔で怖い事を言うパステルくんに、弓弦が引いたのは言うまでもない。

「ああ、回数をこなすうちに料理じゃないものが出てきた時は覚悟ができるものだぞ。それに、生物料理が出た時は大体の展開が読めるようになってくる。」
『うむ。それに、どんな料理が来たらどんな展開が待っているか、何が起こるか、大体わかってくる。』
「そうは言いますが、ミミズの件は予測できなくて、結局ほとんどの女性が呑みこまれたじゃないですか。」
「それは言うな。生物料理は日々進化してるんだ。予想外の展開に持ち込まれてもおかしくないくらいに。」

実際、奇跡や裸族といった他の料理なら大体こういったことが起これば、ああ、この展開が待っているなーというのが出てくるが、生物料理にだけ関しては、ちょっと予測がしづらい。

「慣れの意味がないですね。」
「でも、他の料理に対しての覚悟は取りやすいと思うぞ。」

そんな他愛ない話をしている間に、昴が戻ってきた。今回も蓋つきのお盆だ。

「あわわ…昴さん、お帰りなさい!」
「女性が苦手なのは相変わらずか。」

弓弦はMZDの後ろに隠れながら、昴を出迎えた。彼が女性が苦手だとは知っているので、昴はそれを咎める事はしなかった。
そして昴は紅をちらりと見る。

『…弓弦、もう何の意味もなくなりつつある胃薬と心の準備はいいか?』
「せめて偽薬効果に期待します…。」
「つまり、『この薬は効果がある!』と思い込むんだね。」

もう早くも胃薬の効果はないと、あっても無駄だと、思い込み程度でようやく効く程度の物だといった感じだが、まあいい。昴は蓋を開け…そっと締めた。

「すまん、今俺の頭の中で"地平を喰らう蛇"がループ。」
「奇遇だな昴。私も今頭の中で“バトルオブプロビデンス”がループ再生中だ。」
「ボクも"onslaught"がループ再生中だよ〜。」
「我は“Miseria”だな。」
「オレは“L-an!ma”。」

おい、昴のはブレイブリーデフォルト、ガイストのはブレイブリーセカンドのラスボス戦で、パステルくんが幻獣イベントのラストであるバハムートの楽曲、そしてジョーカーが混沌と化した自分の担当曲で、MZDは自分のラピストリアでの担当曲かい。またみんなして何でボス曲を思い浮かべる。しかもラスボス系。

『黒、何を思い浮かべている?』
『多分同じだ。せーので言ってみるか?』
『ああ。せーの。』
『"暴レ焔"。』

そこの鴉共はよりによって色違いの相棒の担当曲ですか!

「私は“全ての人の魂の戦い”が流れているであります。」
『私は"The Infinite"かなー…。あれ? この展開前にもあったよねー…。』

アイギスはP3での、風花はPQでのラスポス曲が浮かんでいるんですね分かります。

「風花、それはあのミミズん時だな。」
『こんな短期間で生物料理が二品って何ですか。しかも二品続けて料理と呼べない料理って何ですか。九番から十一番までの料理が本当にかすみますよこれ。一応避難準備と警戒をするよう連絡しておきます。』
「頼んだ。さて…。」

昴は覚悟を決めて、一同を見まわしてからもう一度蓋を取る。
そこにあったのは、禍々しい気配を放つ、黒くて四角い…紅い筋の入った箱。それが、しっかりと七つ。

「せ、生物料理…という定義でいいのでしょうか、これ。」
「ああ、構わないと思う。もう料理と言えない料理は生物料理でいいんじゃないかな、これ。」
「見た目は無機物だけど…。」

時間を動かし、パステルくんが近づく。

「一体何が含まれているのだ…。悍まし過ぎて【アンドゥ】するのも怖いのだが…。」
「分析不能であります。危険な物質が含まれているかすら、サーチできませんでした。」
「何…。アイギスでさえも駄目だったのか。ならば私がするしかないか…。」

ガイストは覚悟を決め、手をかざした。

「【アン】」

今まさに【アンドゥ】をしようとしたその時、バターン! という音が部屋全体に響いた。

「…え?」

驚いたガイストは、音の出所を見た。

「ちょ、馬鹿神が倒れた!?」
「何で安全が確立されてないのに食べたの!?」
『というか、倒れる時点で危ない料理だろ!? そもそも箱で出てきた時点でおかしいだろう!』
「しかもどう考えても宝石にしか見えない何かってアウトだろう!?」

どうやら、ガイストが【アンドゥ】をする前に、MZDがフライングして食べてしまったようだ。
ガイストが箱を開けると、多面体の宝石が真ん中に鎮座していた。どうやらこれが食べられる部分…なのだろうか。

「毒が含まれたりしてはいませんが、完全にアウトなのは証明されました。」
「だな…。【アンドゥ】。」

改めて、ガイストは【アンドゥ】を使い料理の時間を巻き戻した、が、そこには何もなかった。

「えっ? 何もないって…ガイスト、戻し過ぎたのか?」
「馬鹿な! 私はほんの少し戻しただけだぞ!」
「はぁっ!?」

ほんの少しだけ巻き戻したはずの時間。だが、それにもかかわらず材料が出てこない。

「室内に黒魔術的な成分が充満しているであります。きっと、それが材料でしょう。」
「え、こいつも黒魔術したの? つかどう考えたって有害じゃねぇかそれ!」
「いえ、加工しない限りは無害であります。喩えるならば、ゲームで言うところの“マナ”等に該当するでしょうか。念の為、もう少し戻してみて下さい。」
「どこに向ければ良いのか判らぬが…やってみよう。【アンドゥ】。」

あちこちに【アンドゥ】を使うと、ナマコやキノコ等、様々な食材がポロポロと落ちてきた。

「あと、薬草にリンゴに水入り瓶、等々…。」
「多分全部食べられるんだろうけど黒魔術をしたから最悪になったんだね。」
「とりあえず作った馬鹿には後で話し合い。…。」

昴は目の前に握られた謎の多面体の宝石らしきものを見た。
数分前、MZDが食べていきなり倒れたものである。

「…。」

他の二人と二匹も、宝石らしきものを手に持った。

「さぁ、みんな…。逝くぞ!」
「おう!」

昴の宣言の後、まるでリンゴをかじるかのように食べる。
その途端、どこか頭がぼんやりして、焦点が一気に合わなくなり、そして…。

—バッターン!

全員、机に突っ伏して倒れてしまった。

「昴うぅぅぅっ!」
『い、医療班、医療班呼んでえぇぇぇぇぇっ!! みなさんが睡眠のバステにかかってますうぅぅっ!!』
『久々の医療班が出動だあぁぁぁぁぁっ!!』

その光景を見てから、ガイスト、風花、紅は慌てて医療班を呼んでいたが…。

「気絶する宝石は見た事ないであります。」
『ふむ、あの方に持っていこうと思ったが、これは危険すぎるな。リリィにも何の宝石だかわからないだろうな。』

この一体と一羽は通常通りだったとか…。

実食 十三番 ( No.651 )
日時: 2015/12/05 23:59
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: bn3dqvGS)

気が付くと、弓弦は深い森の中に来ていた。

「あ、あれ、ここは…。そ、それにこの剣は…!?」

見知らぬ森。手には赤く染まった剣。返り血を浴びた服。
全く見覚えのない場所、見覚えのないものだが、どこか手になじみ、そして、沸き立つ何かを感じる。

「…斬りたい。」

唐突に湧き上がる、欲求。自分自身では有り得ない考えに怯え、同時に衝動の解放をその身体に勧めそうになる。
衝動を抑え、森の奥へと進むと、緑の服を纏った子鬼たちが視界に入った。

「…!」

それを好機とばかりに、弓弦は笑みを浮かべ、そして、手に持った剣で…。

「御免。」

振り下ろす。

「安らかに。」

刻む。

「冥福を。」

幾度も幾度も振り下ろし、刻み、そして、道を染める。

「ありがたき幸せ。」

命の色の道は、彼の生の証として佇む。永遠に。

「…心地良い。」

快楽に溺れ、苦しみに絞められ、制御できない身体を見守ることしかできない。
弓弦が半ば意に反し歪んだ笑みを浮かべると、辺りから無数の茨が湧いてきた。驚きながらも、行く手を阻む茨を切り裂こうと剣を振るう。
面白いように茨は次々とバラバラになるが、新しい茨が無限に生え、やがて弓弦の視界を奪い、肉体を縛り、意識を刈った。

実食 十三番 ( No.652 )
日時: 2015/12/06 00:04
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: bn3dqvGS)

目覚めると、生垣の迷路に佇んでいた。花のない緑の壁は、弓弦よりもやや背が低い。
狂気のままに凶行に及んだ時のことはすっかり忘れ、「寂しい生垣だな」と呑気に考えていると、何もしていないのに理解した。

「〜♪〜♪〜♪」

脈絡もなく、弓弦は歌った。すると、生垣に少しずつ花が咲き始めた。
赤、青、黄色、色とりどりの花が咲き乱れる。その花は形を変え、人の形をとり、弓弦の周りに集まっていた。
それは男の姿もあれば、女の姿もある。弓弦の苦手な女の姿もあったが、彼は気にしないかのようにふるまっていた。

「〜♪」

弓弦は観客達に向けて歌い、舞い、紡ぐ。その観客達はそよ風に煽られるように揺れ、弓弦の紡ぐ歌に心を委ねた。

「〜♪」

心地良い思いをしていたのは、弓弦も同じだった。歌う度に、観客が揺れる度に、弓弦自身も狂ったように歌い続ける。
そして世界が、弓弦を中心に狂っていった。

—パンッ!

混沌に響いた、一つの銃声。それは、弓弦の左胸に、真紅の薔薇を咲かせた。

「素敵な歌をありがとう! その花は君にとってもよく似合うよ!」

誰かの声が聞こえたが、そちらを見て確認する力はもう、ない。
観客たちの歓声と拍手に見送られ、弓弦は枯れる身体と共に眠った。

実食 十三番 ( No.653 )
日時: 2015/12/06 00:10
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: bn3dqvGS)

甘い香りに包まれ目を覚ますと、そこはビスケットの形の天蓋の、ベッドの上の布団の中。

「おはようございます、王様。」

声のした方を見ると、そこには見覚えのない、親しい人々が弓弦の周りを囲んでいた。

「お目覚めの時間でございます。目覚めの紅茶とスコーンを用意しました。」
「うん、ありがとう、じいや。」

幼子のような声と言葉で、弓弦は当然のように返事をした。そのことにほんの僅かしか違和感を持てないまま、小さな手で紅茶のカップを手に取った。
周囲の者は誰も彼もが、好意と愛情を以って、弓弦を見つめている。心酔しているようにさえ、見える。

「ささ、お召替えを。国民達がお待ちかねです。」
「うん。」

メイド達の持っていた服に着替え、鏡で自分の姿を確認する。
綿あめみたいな帽子に、何枚も重なったクッキーのような洋服。そこから漂う甘い香りが、幼い弓弦の心を沸き立たせていた。

「さぁ、国民に朝の挨拶を。」
「うん!」

弓弦は言われた通り、テラスから外へと出る。朝日が眩しい。

「みんなー、おはよー! あさだよー!」
「おはようございます、国王様!」
「うんうん、みんな、きょうもしごとがんばってねー!」

朝の挨拶を終えた彼は、そのまま部屋へと戻り、また眠くなってきたのか、目を擦り始めた。

「ふわぁ…。ねむい…。」
「お疲れ様でございました。では、朝食の時間になったら起こしますので、それまでゆっくりとお休みください。」
「うん、おやすみー…。」

弓弦はパジャマに着替え、そのままベッドに入り、ゆっくりと眠りについた。











弓弦は、夢を見ていた。
目の前にあるのは、幼い自分を映した鏡。

「これは…ぼく?」

手を伸ばし、鏡に触れる。
刹那、鏡がまるで水のように揺れたかと思うと、それは別の姿を映し出す。

「あ、あぁ…! うわあぁぁぁぁっ!!」

まるで、時が急速に進んだかのように、老いた…自分の姿を。











「うわぁっ!!」

あまりの夢の衝撃に、弓弦は勢いよく飛び起きた。

「おはようございます、王様。」

声のした方を見ると、そこには眠る前と同様に、じいやとメイド達が弓弦を囲んでいた。

「お目覚めの時間でございます。目覚めの紅茶とスコーンを用意しました。」
「(あ、あれ…さっきあいさつしたとおもったんだけど…。それにあれは…ゆめ?)う、うん、ありがとう、じいや。」

夢の衝撃と、記憶が混同して戸惑う中でも、小さな手で紅茶のカップを手に取った。

「ささ、お召替えを。国民達がお待ちかねです。」
「う、うん。」

メイド達の持っていた服に着替え、鏡で自分の姿を確認する。
綿あめみたいな帽子に、何枚も重なったクッキーのような洋服。先程挨拶した時に来ていた服と…幼い自分の姿。
その事に、安堵をする弓弦。だがメイド達はそんな彼の姿に一切不信感を抱いていないようだった。

「さぁ、国民に朝の挨拶を。」
「う、うん!(あいさつ…したよね…? まぁ、いいか…。)」

弓弦は言われた通り、テラスから外へと出る。国民達の笑顔が一斉に自分に向けられた。

「みんなー、おはよー! あさだよー!」
「おはようございます、国王様!」
「うんうん、みんな、きょうもしごとがんばってねー!」

朝の挨拶を終えた彼は、そのまま部屋へと戻り、また眠くなってきたのか、目を擦り始めた。

「ふわぁ…。ねむい…。(でも、ねむりたくない…。怖い…。)」
「お疲れ様でございました。では、朝食の時間になったら起こしますので、それまでゆっくりとお休みください。」
「(だめだ…ねむい…。)うん、おやすみー…。」

弓弦はパジャマに着替え、怯えつつもベッドに入り、ゆっくりと眠りについた。
そして、再びあの老いる夢を見て、じいやに起こされる。そんな事が、幾度か繰り返された。

実食 十三番 ( No.654 )
日時: 2015/12/06 00:16
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: bn3dqvGS)

次に気が付くと、自分は赤い小道にいた。

「ここは…さっきの…。」

自分が遠慮なく、小鬼を切り裂いた場所だ。
もう、こんな世界は嫌だ。そう思い、終わらせる為にできることを探しに足を進めようとすると、後ろから声をかけられた。

「そっちじゃないよ!」

振り向くと、弓弦に瓜二つの男がそこにいた。弓弦は、彼を双子の姉と思った。男なのに、何故かそう思った。

「ごめんごめん、間違えちゃった。」
「もう、ほら、僕の手を掴んで。」

もう一人の弓弦は、弓弦の手を引き、小道をずんずんと突き進んでいった。
様々な扉を潜り抜け、辿り着いたのは薔薇の咲く生垣。そう、ここは自分が歌を歌っていた最中に何者かに殺された場所。

「はぁ、何だか疲れちゃった。あ、ティーセットがあるよ。」
「本当だ、一息つこうよ。」

こんなことしている場合ではない。自分は早くこの悪夢を終わらせたい。そう考えているのだが、もう一人の弓弦と共にティータイムを楽しんでいた。

「この紅茶とスコーン、美味しいね!」
「う、うん…。(紅茶とスコーンって…。まさかね…。)」

何か嫌な予感がする。そう思うも、スコーンをかじる手は止まらない。
ふと、誰かの気配がする。振り向いた弓弦が見たもの、それは、ループする夢で見た、じいやだった。
あまりの衝撃に声を出せずにいると、じいやは自分達に近づいてきて、そして、一通の招待状を差し出した。

「国王陛下からの招待状でございます。」

じいやはそう言うと、煙のように消え去った。

「わぁ、招待状だって! 中、見てみようよ!」
「あ、駄目…!」

もう一人の弓弦は弓弦の制止を無視し、手紙を開けた。
中に入っていたのは、ハートのエースが描かれた、トランプだった。

「トランプ? 何だこれ?」
「ね、ねぇ、もう帰ろう? もう、この夢から覚めよう?」
「夢から覚める? 何言ってるの? ほら、変な事を言ってないで行くよ!」
「あ、ちょっと!」

もう一人の弓弦は、弓弦を引っ張り、目の前に現れた扉をくぐった。
そこからは、様々な扉を潜り抜けてはまた扉の中に入り、そしてまた扉を潜り抜ける。そんなことが何度も何度も続いた。

「ね、ねぇ、今、僕達どこにいるの?」
「さぁ?」
「さぁって…。ねぇ、これ僕達迷子になってるんじゃないかな?」
「えー? そんな事ないよ。ほら、行くよ!」

弓弦は、もう一人の弓弦に引かれるがまま、奥へ奥へと進んでいく。目的地もわからないまま、今どこにいるかもわからないまま。

「お願いだから止まって! このままだと僕達、帰れなくなる!」
「必要ないよ。だって…。」

もう一人の弓弦は、にこりと笑った。そして、弓弦に向けてある言葉を放つ。

「帰る必要はないから。」
「え…?」
「君はもう、不思議の国そのものだから。」

ここで弓弦は、自分がもう帰れない事を、もうこの世界の一部と化している事を悟った。

「でも…。」

弓弦は、もう一人の弓弦の手をはねのける。そして、力強い目を、もう一人の弓弦に向けた。

「僕は、帰る。大切なみんながいる、あの世界に!」

そう言って、弓弦はもう一人の弓弦に背を向けた。

「それじゃあ、望み通り帰ればいいよ。」

もう一人の弓弦がスッ、と消えると、周りが森になった。手には赤く染まった剣。返り血を浴びた服。
そして、沸き立つ何か。











「…斬りたい。」

実食 十三番 ( No.655 )
日時: 2015/12/06 00:22
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: bn3dqvGS)

「…弦…弓弦…! 弓弦っ!!」
「はっ!」

目を覚ますと、目の前には燃えるような赤い何かが見えた。一瞬、夢の事を思い出しかけたが、落ち着いてよく見てみると、それは自分の知る姿だと認識できた。

「あ、あぁ、烈君…。」
「っ、はぁ…。よかった。傷とかはついてないみたいだな。大丈夫か?」
「う、うん…。大分怖い夢見たけど、大丈夫。でも、どうやって目を覚ましたんだろ…。なんか、悪夢に囚われて無限ループしかけてた気がする。」
「お前らがぶっ倒れた後にみんなして駆け付けたんだ。んで、ガイストさんが【アンドゥ】使って、お前達が料理を食べなかった事にすればいいってレイトン教授が発案してきてさ、それ使った後に全員でお前らを叩き起こしてたってわけ。で、何の夢見てたんだよおい。」

烈が問いかけると、弓弦はかぶりを振った。

「ごめん、本気で怖かったから話したくない。」
「うん、わかった。無理には聞かねぇよ。」
「ありがとう。ところで他のみんなは…。」
「何とか目ぇ覚めたよ。」

弓弦が辺りを見回すと、丁度昴達も叩き起こされたようで、全員でゆっくりと立ち上がり、箱を見た。

「しっかし、何なんだこの箱は。食ったら悪夢を見せる宝石が納められた箱ってマジでない。」
「えっと、それなんだけどね、昴さん。」

発言をしたのは、こちらの風雅だった。

「まず、宝石の名前が“輝くトラペゾヘドロン”って言ってね、箱を閉じて暗闇にすると、輝いてナイアルラトホテップの化身“闇をさまようもの”を召喚できるんだ。その姿は…。」
「とにかく、ろくでもないものを呼び出すアイテムだな。」
「う、うん…まだ説明の途中なんだけど…。」
「お前の説明なげーんだよ。」

風雅の説明をさえぎり、昴はもう一度箱を見た。

「とりあえず、作った奴後で話し合いな。」
「異議なし。」

全員、評価用紙へと向き直り、書き始めた。なお、箱の処理はガイストが全部【アンドゥ】でなかった事にさせたとさ。










総評:零−


昴:評価…零−
あのさ、悪夢を見せる料理なんて見た事も聞いた事も食った事もないんだが。いきなり結婚式場みたいな教会みたいなところに俺がウエディングドレス着て周りには修羅場同然の男達がこぞって俺の事でもめてるだけでも悪夢なのに、BGMが“歪なる思念 その名は魔王”で男達の奥に花嫁さんのベールをかぶった骨の鳥がいてマジで更に悪夢だわ。
わかんない事は聞 け 。もう一度言うぞ。わかんない事があればその場で聞 け !

パステルくん:評価…零−
あのー、お菓子パーティー楽しんでたらいきなり謎の手が現れてお菓子をグシャッって潰しにかかってて軽く戦慄したんだけど。これゼルが見なくてよかった…。
というか何で箱ができるの。料理を作って。

にゃぐわ:評価…零−
正常オイラが平和を満喫してたら、ドアガチャリと共に異常オイラが現れて狂気パンチを喰らった夢を見たニャ。引っ掻き回されて大変だったニャ。
君はまず料理というものの正しい概念を知るニャ。

ジョーカー:評価…零−
我は、見も知らぬとはいえ、“親友”を刺した後に、世界をじわじわと破滅させる邪竜になる夢を見た。違う。そうじゃない。破滅程度で絶望を語るのは痴がましい。
ではなく、我流か師事する者を間違えたかのどちらかだろう。これからは我々に訊いてくれ。

MZD:評価…零−
あのクリスマスセーター野郎、今度会ったら凹ませてやる。
何の夢かって? 爪みたいにナイフをつけたグローブを右手に着けたおっさんが、街中を追い回す夢だよ。神パワーも効かないって、どんだけチートなんだよ。
腹いせに帽子を奪ってやったんだが、何故か夢で奪った帽子が手元にあるんだよな。
頼むから料理を作ってくれ。あとこいつに料理を教えた奴、オレと話し合いな。

弓弦:評価…零−
料理のことが抜け落ちそうになるくらい、恐ろしい目に遭いました。二度と経験したくありません。
一口かじった瞬間に意識を失ったので、料理自体の評価はできません。ごめんなさい。
貴方はまず、料理の何たるかを知りましょう。二度とあんな悪夢を見せないためにも。






今日はここまで。ではヒント。

十三番:問題児と言われた人その二。悪気はない。お暇なら全員の夢の元ネタを当ててみるのも面白いかも。

実食 十三番 後書き ( No.656 )
日時: 2015/12/06 00:28
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: bn3dqvGS)

後書き de 雑談



「えー、この夢の話を見て気付いたろうが、最初に言っていたのは、“歪なる思念 その名は悪夢”、だ。」


—元ネタにした“歪なる思念 その名は魔王”はブレデフォ(FtS)、ブレセカで使われているから、何人かは聞いた事があるんじゃないかな? 私個人としてはかなりお気に入りです。

ジャン
「雲丹怖い。食べられない雲丹ちゃん怖い。って、ユウが言ってたな。」


—あーあははー…。でも個人的には管付が一番怖い。さて、脱線したけど、夢の出来事、ちょっとヒントでも出そうか。まぁ、暇なら考えてみてって話だけど、ヒントくらいはあってもいいかな。


・昴:BDFtSやBSELの敵。

・パステルくん:弐寺のとある曲のムービー。

・にゃぐわ:ギタドラのとある曲コメント。

・ジョーカー:ときめきエムブレム。

・MZD:有名なホラー映画。

・弓弦:ボカロのある楽曲。


かな。全部わかった人多分凄い。

『昴が、全部分かった方のリクエストを受け付けてくれるそうですよ。』


「と、書かれた紙を見つけたんだが、その気はあるのか?」


—ない。


「一刀両断かよ。それから、今回の料理は絶対に食うな。食ったら


・一瞬ぼんやりした後、深い眠りにつく

・例外なく悪夢を見る


から、絶対に食うなよ。食 う な よ 。」


—あと、一応答え知りたいって人は、次回に答え合わせするから安心してください。んじゃ、今回はこの辺で。まったねー。







感想OK