二次創作小説(映像)※倉庫ログ

あるアイドルの一日 ( No.75 )
日時: 2015/05/30 00:45
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 4BMrUCe7)

翌日、五月三十一日。時刻は既に、夜の八時だ。
そんな都内の某ホールにて。

「…ふぅ、こんな感じ、ですか?」

りせは右隣にいたVENUSのボーカル、ウィザウに声をかけた。

「そうそう。うん、やっぱりりせちゃんに頼んで正解だよ。歌が上手いし、それに、ちゃんとBEMANI魂がわかってるね!」
「(び、BEMANI魂?)あ、あはは、そうですか? まぁ、鈴花ちゃんと風雅君は同じクラスですし…。」

そう呟いてから、りせは笑顔を見せた。

「この歌を歌えるようになったのは、協力者のお陰ですから。」
「…うん、そうだろうね…。担当者がいると、厳しい指導とかされるだろうし、実力は上がるね。」
「はい! 凄く厳しくて、泣きそうになりましたよ…。」
「それだけ、自分の担当曲に誇りを持ってるんだよ。アイドルであろうとなかろうとさ。」

りせの左隣にいた赤いウサ耳帽子を被ったタイマーがにっこり笑いながら言う。

「ポップンパーティーはみんなにとって、憧れの場所。担当曲を貰って、MZDに招待されるのって、凄く栄誉な事なんだ。だから、パーティーに招待された人は、自分の担当曲に誇りを持ってる。…それ故に、彼は熱血指導になったんじゃないかな?」
「…かも、知れません。」

タイマーの言葉に納得を見せたのか、りせは頷く。
どんな形であれ、自分の曲は誇り。その誇りを汚されるのは、許せない。りせはアイドルとして、その気持ちは十分わかった。だから、どんな熱血指導にも、泣き言を言わなかった。いや、誇りである事がわかったからこそ、言えなかった。

「…でも、いいのかな? 私がこの曲歌って。」
「いいんじゃないかな? 寧ろ君だから、彼はこの曲の指導をしたと思うよ?」

後ろでシンセサイザーの調整をしていた小さな少年、アイスはにっこり笑って語り出す。

「君なら、この曲をいい形で歌ってくれる。それを感じたから、君にこの曲を託したんだよ。」
「…そう、かな…? そう、だといいな。」

自分に熱血指導してくれた彼を思いながら、りせはリハーサルを続けた。

あるアイドルの一日 ( No.76 )
日時: 2015/05/30 00:50
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 4BMrUCe7)

一通りのリハーサルを終え、楽屋に戻る最中、同じような赤い制服コーデの女子グループとすれ違う。
彼女らは最近人気急上昇のアイドルグループで、りせ達とは今回のライブで共演する事になっている。

「…あ、りせちーじゃん!」

りせに気づいたのか、女子の一団が騒ぎ始めた。

「りせちー、何歌うの? 明日。」
「…。」

女子の中の一人が声をかけると、りせは嫌そうな顔を隠し、笑みを見せた。

「VENUSの二人とアイスさん達のグループと合同で、何曲か歌うよ? 今までリハしてたんだけど、見てなかった?」
「んー、見てないや。アタシ達、さっき来てリハやって一回帰ったし。」
(…最初から来てリハ見ないんだ。ホント頭に乗ってるから嫌い、こいつら…。)

りせはこっそりと溜息をつき、肩を竦めた。

「あ、そろそろ帰んないと! じゃありせちー、またね!」

グループはりせに手を振りながら、奥に消えていった。

「…頭に乗ってるね、あの連中。」
「共演者の僕達に挨拶もなしか…。」

後ろを歩いていたアイスとタイマーが、溜息をつく勢いで言った。

「本当に頭に乗っているな。普通は共演者に挨拶くらいはあるだろう。」
「何で売れたか不思議だよ、あいつら。」

グラサンをかけた金髪の男、ショルキーは頭を掻きながら溜め息をつき、アイスが疑問を投げ掛ける。

「だから、前座にしたんだよ。」
「BEMANI魂がわからない人間は、僕達と同じステージに立たせたくないからね。…あのグループのお偉いさんから圧が来なきゃ、こっちは遠慮してたのに…。仕方がないからシークレットゲスト扱いにしてやったよ。情報も一切漏らさないよう注意してね。」
「あのグループのファンは、狂信者が多いからね。」

そんな話をしていたら、後ろから打ち合わせに行っていたVENUSの二人がやって来る。

「それに比べて、りせちゃんはポップンパーティーの参加者じゃないのに、きちんとわかっているから、本当に招いてよかったよ。」
「えへへっ、クラスメイト達のお陰ですっ!」

BEMANI学園に来るまで、BEMANI系のゲームは眺めているだけだったりせだが、烈達と触れ合う中で、BEMANIについて興味を持った。研究もした。
それがまさかこんな形で生かされるとは思ってもみなかったが。

「…さてと。じゃあ、私はそろそろホテルに帰らないと…。」
「ホールも閉まるしね。僕らも帰ろうか。」

ウィザウよりは露出の少ない服を着た彼の相方、チュナイが言うと、全員頷き、その場は解散となった。

あるアイドルの一日 ( No.77 )
日時: 2015/05/30 00:55
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 4BMrUCe7)

翌日、六月一日。

「…。」

りせは真剣な表情で、iPodに入れておいた楽曲を聞く。

(…他の人にとっては、この曲は普通の楽曲。だけど、アイツに…烈にとっては、この曲は、誇り。それをいい加減に歌っちゃいけない。歌ってほしく、ないはず。)

iPodの画面には、『紅焔』の文字が表示されていた…。











ライブより二週間前。氷海の一件が片付き、烈が再び通学してきた時の事。

『はぁっ!? 紅焔を次のライブで歌いたいだぁ!?』

突然のりせの願いに、烈は面食らった。

『う、うん。色々考えたんだけど、やっぱりどうしても、烈の紅焔がいいんだ。』
『…何で俺の曲なんだよ。』
『…。』

りせは少し、考える。どう言っていいかわからないのだ。

(ライブの日は、スバルお姉ちゃんの誕生日。そのお姉ちゃんが、好きな曲だから。とは言えない。うぅ、烈が事情を知ってれば、言い易いのに…。)
『…まぁ、いいや。何か話したくなさそうだし。』
『…うん、ごめん。でもね、烈。私、生半可な気持ちでその曲を歌うつもりはないよ。』

決意の強い眼差しを浮かべるりせに、烈は一つ頷いた。

『…りせ、音楽室に来い。今なら葉月先輩もまだいんだろ。』
『えっ?』
『歌え。今から、音楽室で。歌っていいかはそん時に決める。』
『あ…。』

烈は自分を試している。それも、真剣に。
この時、りせにはわかった。この曲は、烈の誇りだと。

(烈の目…あれは、真剣だ。私を真剣に試そうとしてる。私と、同じ…曲に誇りを持ってる目。)

それがわかった瞬間、胸が熱くなった。
逃げてはならない。向き合わなければ。あの歌を歌いたいなら。そう、思っていた。

『わかった。行く。言っておくけど、まともに歌うのは初めてだから、手加減はして。』
『へっ、逃げねぇだけでも上出来だ。』

そして、烈はりせを伴い、葉月のいるであろう音楽室に向かう。











(烈は私の歌に何か感じてくれたのか、すぐに認めてくれたけど…。そこから、地獄の特訓が始まったんだよなー…。烈も厳しかったけど…は、葉月センパイがメチャメチャ怖かった…。)

りせはガタガタと震え出す。
…あのほえーんとした葉月から繰り出された、怒声の数々を思い出して…。











『ぜんっ、ぜん違う!』

急にピアノをバーン! と勢いよく叩き、葉月が立ち上がる。これには烈もビックリだ。

『は、葉月先p』
『ここはもっと力強く歌え! それでいてこっちはこうもっと声低く! ただでさえ元々男声の曲なんだからもっと低くしろ!』
『は、はひぃっ!』
(こ、怖ぇっ!? 葉月先輩の音楽に対する情熱は由梨先輩に聞いてたけど、ここまで変わるのか!?)

この豹変っぷりには、りせだけでなく烈も思わず涙目になった。

『まったく…。もう一回最初から! 烈君、君も歌って!』
『は、はひぃっ!』

…烈は思う。何故俺は、ここまで一緒に付いて来たのかと。まぁ、思っても遅いが…。











(…まぁ、そのお陰で、自信はついたけど…。しかも葉月センパイの音楽の感性は高いし指摘は全部合ってるし、私の気づかない部分も把握してくれるから、下手なトレーナーよりいいんだよな…。今度からも頼ろうかな…。怖いのは嫌だけど…。)

りせは曲を聞き続けながら、回想を続ける。
ふと、膝の上で振動するスマートフォンに気が付き、受信していたメールを見る。
差出人は、烈だった。

『お疲れさん。今日、ライブだろ? 色々教えられたろうけどさ、楽しんで歌えば、俺は満足だぞ。アイドルに自分の楽曲歌って貰えるなんて、滅多にねぇしな。』
「…あはは、確かに滅多にない事だよね。」

烈からのメールを、嬉しそうな表情を浮かべながら読む。
が、ある部分まで来ると、急に動きをピタリと止めた。

『んじゃ、今日、聞きに行くから。あ、由梨先輩と千枝先輩とローズとリリィも一緒だから。』

…まさかの、自分行きます宣言。
何故? チケットは誰にも渡していない筈。当日券を買うつもり?
色々思案が駆け巡る。

『チケットなら、さっきMZDがくれたから心配すんな。じゃ、また会場で。』

メールはそこで終わっている。

(…あ、あ、あ…。)

正直、烈本人の目の前では歌いたくなかった。歌ったらどう思うだろう。幻滅したらどうしよう。その考えがあるからこそ、烈だけには来てほしくなかった。

「あんっ、のバカ神いぃぃぃぃっ!」

りせはその時、心底恨んだ。件の馬鹿、MZDを…。

あるアイドルの一日 ( No.78 )
日時: 2015/05/30 01:00
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 4BMrUCe7)

開場二時間前。当日券を求めてやってきた客がごった返す中、

「うっひゃー、でっけぇコンサートホール。」
「聖域一個分は楽に入るかな…。」

烈と由梨の火属性コンビは、会場であるコンサートホールを見上げながら、その大きさに驚いていた。

「ね、りせちゃんに会えるかな? 楽屋とか行けば。」
「難しいんじゃないかー? 警備とか厳しそうだけど…。」
「いや、今回の共演者の誰かに会えれば、会えるんじゃないかな?」
「えっ、何で?」

自信満々に言う由梨に千枝は疑問を持ち、尋ね返す。
由梨はゆっくりと、その指で烈を指した。

「俺!?」
「今、パンフ見たが、粗方ポップンパーティーの参加者なんだよ。だから、こいつと引き合わせれば、会えるんじゃないかな?」
「あ、成程!」

千枝はその説明で納得する。確かに、烈はこのメンバーの中で唯一のポップンパーティー参加者。彼と他の参加者を引き合わせれば、話を聞いてくれるかも知れないと予測した。

「うーん、タイマーさんに会えれば一番希望はあるかもな。」
「確か、烈君の曲、作った人が、風雅君の曲を作った人と、二人で組んで作った、楽曲の担当…。」
「ああ。いねぇかな、タイマーさ…。」

烈は視線を何気なく前方に向けた。
そこには、ウサ耳帽子の男が、慌ただしくドアから出てきた姿が。間違いなく、タイマーだった。

「いたあぁぁっ!?」
「へ? あっ、烈君!」

タイマーは烈の声で気が付いたのか、彼に駆け寄ってきた。

「タイマーさん、どうしたんだ? 何か、慌ててたみたいだけど。」
「た、大変な事になっちゃって…。あっ、確か君は、りせちゃんのお仲間さん!」

次に、千枝に目を移し、彼女の肩をぐっと掴んだ。

「えっ、り、りせちゃんがどしたの!? まさか、怪我!?」
「い、いや、怪我とかはしてない。…実は、楽屋が…楽屋が荒らされたんだ!」
「はぁっ!?」

タイマーの言葉に、全員驚きを隠せなかった。

「僕らのも、VENUSさん達のも、りせちゃんの所も…。衣装もメイク道具もメチャメチャで…。今、警察に連絡したけど…。ねぇ、みんなはりせちゃんとは親しいんだよね?」
「あ、ああ。同じ学校だし、千枝先輩は…。」
「長い事一緒にいるしね。」
「いきなりメチャメチャな楽屋を見せられて参ってるから、安心させてあげてほしいんだ。ショルキーが中にいる。今、無線で彼に事情を話すから、中に入って。君達なら特別に許可するよ。」

楽屋にいる共演者を心配するタイマーに、全員頷いて中へと入っていった。

あるアイドルの一日 ( No.79 )
日時: 2015/05/30 01:05
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 4BMrUCe7)

中にいたショルキーに楽屋へ通じる場所に掛かっているロックを解除してもらい、烈達はりせの楽屋まで案内してもらう。

「りせ!」
「りせちゃん!」

楽屋の扉を開けた烈達は、愕然とした。

「うわ、何だよ、これ…!」
「ひ、ひでぇや…。」

鏡は破壊し尽くされ、衣装は切り裂かれ、中は原型を留めぬ程荒らされていた。
その中心には、呆然と立ち尽くすりせがいた。

「りせ!」
「りせちゃん、大丈夫!?」

声に気がついたりせは、ゆっくりと千枝達の方に振り向いた。
その顔は今にも泣きそうで、弱々しい。

「せん、ぱ…烈…! ふぇぇ…!」

見知った顔に会って安心したのか、りせは泣き出した。
千枝はその体を抱き締め、あやしてやる。

「…。」
「リリィ?」

その間に、リリィがふよふよと烈達から離れ、どこかに飛ぶ。ローズはその後ろをついていく。

「…!」

やがて、何かを見つけたのか、リリィは唐突に目の前にあった、無惨にも壊された機械をいじる。

「お、おい、リリィ、何やって!」
「…! やっぱり、カメラ…。」

無惨に壊されたそれは、監視カメラだった。

「そうか、監視カメラに何か映ってるかもな。」
「リリィ、でかした。千枝、お前はここでりせを宥めててくれ。アタシ達より長い年月一緒にいるお前の方が安心するだろ。…ローズ、お前も一緒にいてやれ。何かあったら、アタシ達を呼びに来い。」
「わかった。」
「任せろ!」

千枝とローズは、由梨の指示に頷く。

「烈、リリィ。お前達はアタシと一緒に守衛室に。あのカメラの映像、見ないとな。」
「ああ、わかった。」
「うん。」

そして烈、リリィと共に、由梨は守衛室へと向かった。











「昨日の監視カメラの映像なら、全部壊されちまったぞ。」
「はぁっ!?」

守衛室に辿り着くなり、そう言われる由梨達。勿論これには同時に驚くばかり。

「朝来たら、守衛室に置いてあるディスクが全部割られてるんだよ…。まったく、誰だよ…。」
「早期解決は無理だったか…。」
「まぁ、監視カメラの存在を知ってるなら、カメラだけでなく映像も消しちまおうとか考えるだろうからな。」

烈は悔しそうに悪態をつく。その横で、由梨は胸元に手を当てた。

(すー姉、かなり怒ってんな、こりゃ…。何か、何かできないか? アタシの力で、何か…。)

自分は何かできないか、それを思案する由梨。だが、現段階では、何も浮かばなかった。
トボトボと、三人は守衛室を後にする。

「…あ。」
「どうした、リリィ。」

その途中、リリィが声をあげた。

「…りせさん、サーチ、できるかな? 犯人の、痕跡とか…。」
「あ。」

烈も由梨も、それを聞いて口を開けた。
すっかり、忘れていたのだ。りせの能力を。

「…け、けど、かなり動揺してっし…難しいんじゃないかな? ペルソナって、心の力だろ?」
「…それなら、難しい。」
「いや、でも、落ち着いたら…しっ!」
「むぅっ!?」

何か言葉を聞き届け、烈の口を塞ぎながら、物陰に潜む由梨。

「せ、先輩、何すっ」
「静かにしてろ。…ちょっと、気になる単語が聞こえてきたんだ。」
「えっ?」

烈は、リリィを自分の元に引き寄せながら、注意深く耳を済ませた。

あるアイドルの一日 ( No.80 )
日時: 2015/05/30 01:10
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 4BMrUCe7)

「…や、よかったよかった。うまくいったみたいでさー。」
「今売れっ子のアタシ達を前座にしたからさー。腹いせ腹いせ!」
「見た? りせちーの泣き顔! あれウケルー!」
「次は電源だっけ? センパイ達、うまく壊してくれてるといいけど。」

由梨はそこまで聞いて、ゆっくりと物陰から顔だけ出す。

「赤い制服…。」
「なぁ、先輩、それって…。」
「今話題の、何とかってグループ…。興味ないから、忘れた。」
「何だっけか、俺も覚えてねぇや。って、先輩、あいつら、電源がどうとか…!」
「ああ。まだ何かやるつもりだな。楽屋破壊も、あいつらの仕業だ。」

物陰からこっそりと移動しながら、烈達は話す。

「だが、物証がないのが痛い。何か証拠があれば言及できるが…。」
「私達の話だけじゃ、難しい。何とか、ならないかな?」
「…あいつらをギャフンと言わせるには、ライブを成功させるしかない。だが、衣装は…。」
「それなら心配無用だよ。」

楽屋まで戻った所で話しかけてきたのは、ウィザウだった。
由梨は初めて見る彼に、ちょっと驚きつつも、リリィの目を塞いだ。塞がなければいけない気がした。

「えっと、ウィザウさん、何で?」
「実はね、以前にも、あいつらが関わったライブで被害があったと聞いたから、衣装をわざと遅らせたんだ。楽屋にあったのは、使う衣装に近い素材で作った、偽物だよ。」
「じゃあ…!」
「うん。ライブはできる。今、りせちゃんも支度中だよ。」
「だから、ボクはこの人と一緒にいるんだー♪ 千枝に追い出されたよ…。」

ウィザウの頭の上から、ローズがひょっこりと出てくる。
ローズはふよふよと漂い、由梨の肩で落ち着いた。

「メイク道具とかは、何とかなったのか?」
「うん! 連絡を受けたりせの事務所のスタイリストさんが、自分用のメイク道具持って来てさ、それで代用してる!」
「良かった…。次は、電源破壊か。」

安堵も束の間、先程聞いた、更なる問題。それを口に出すと、ウィザウは困ったように頭を掻いた。

「やっぱり僕ら用の電源壊したのもあいつらか…。困ったな、それは僕らじゃどうしようも…。」
「…そっちは、アタシが何とかできる。」

由梨の発言に、ウィザウと烈は驚いた。

「えっ!?」
「本当かい?」
「ああ。…壊された電源の電圧が分かれば、微調整できる。」
「あ、そっか! 由梨先輩は雷属性も…!」

由梨達は、二種類の属性を操る事ができる。そして由梨は炎の他にも、雷属性を扱う魔導師なのだ。

「ああ。…だが、アタシもライブ終了まで魔力が持つとは限らない。だから、アタシの代わりにアイツにやって貰うさ。」

アイツ? と言いた気に首を傾げる烈。

「…とにかく、電源前に案内してくれ。そこで呼ぶから。」
「わ、わかった。こっち。」

ウィザウの案内で、由梨達は舞台袖へと向かった。

あるアイドルの一日 ( No.81 )
日時: 2015/05/30 01:15
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 4BMrUCe7)

「ここ。アンプとかの方のコンセントは無事だったけど、ここがこうじゃ、流石にこれじゃ使い物にならないよ…。」

ウィザウが指差した場所には、原型を留めていないコンセントの差し込み口。完全に破壊されており、今から修復するのは難しそうだ。

「…うん、アンプとかが無事なら、行けそうだ。」
「由梨さん…何、するの?」
「“精霊召喚”さ。」
「まさか、確か…ヴォルトを?」
「ああ。全員、危ないから少し離れてろ。」

由梨の指示で、全員少し離れる。
それを確認した由梨は、目を閉じた。

「威き神が振るう紫電の鎚よ。火の司(ファイア・コンダクター)、野上由梨の名において命ず。」

由梨の周りに、魔力だろうか、輝きが放たれる。

「出でよ、ヴォルト!」

そう締め括ると同時に、由梨の背後に紫電を纏った球体が出てくる。恐らく、これがヴォルトだろう。

「す、凄い力…!」
「分かる。こいつの力、半端ないよ…!」

リリィとローズは、ヴォルトの出す力の流れを感じ取ったのか、烈の後ろに隠れてしまった。

「由梨先輩、こいつ…!」
「ああ。雷の精霊、ヴォルト。アタシの使役する精霊の一体だ。ヴォルト、悪いな、戦闘以外で呼んで。」
『…。』

ヴォルトは体を横に振り、由梨に向かって何かを言っているようだが、全く分からない。
が、恐らく、気にしてないと言ったような旨だろうか。それは何となく分かった。

「ありがとな。…“火の宝珠”を通じて聞いてたな? お前はライブ終了まで、ちょっと頑張って貰いたいんだ。頼めるか?」
『…。』

今度は、体を縦に振る。了承の合図だろう。

「電源の供給は、ヴォルトに頼む。本来なら、アタシの魔力で具現化するが、こいつ、今は自分の魔力で具現化するよう切り替えてくれた。遠慮なく使ってやれ。ヴォルトも、お前達のライブ、楽しみにしているそうだ。」
「よくわかるな、先輩。何言ってるか俺らにはさっぱり…。」

由梨は耳についた赤い宝石のイヤリングに触れた。

「この“火の宝珠”のお陰。詳しい事は後で話すさ。さて、そろそろ開場じゃないのか?」
「あ、う、うん! そうだった!」

開場時間の事を思い出したのか、ウィザウは慌てて楽屋へと戻っていった。

「アタシ達も行こうか、烈。」
「おう! MZD、何気にいい席用意したよなー。」
「何の計らいだろうな。まぁ、いい。あ、リリィ、ローズ。ヴォルトの魔力が辛いなら、アタシの鞄に入るか? 魔力を遮断する効果あるから、少しは楽だと思うが…。」

由梨は小さなショルダーバッグを指差し、未だに後ろに隠れるリリィとローズを気遣った。
が、彼らはふるふると首を横に振った。

「りせのステージ、見たいからいいや!」
「同じく、見たいからいい!」

魔力に当てられるよりも、りせのステージが大事らしい。
そんな二人に、烈と由梨は顔を見合わせ、微笑んだ。

あるアイドルの一日 ( No.82 )
日時: 2015/05/30 01:20
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 4BMrUCe7)

「あ、烈くーん! 由梨ちゃーん! こっちこっちー!」

先に行っていたらしい千枝が二人を招く。
烈が先に座り、その横に由梨が座る。簡単に言えば、烈を挟むように千枝と由梨が座っている。そしてローズは由梨の頭に、リリィが千枝の頭に乗った。

「…お前、これ氷海に見られたら凍らされるな。」
「えっ? 何でだ?」
「…ほんとお前って…。」
「由梨ちゃん、多分、何言っても無駄。」

千枝がそう言うと、由梨はそれ以上何も言わなかった。

「…?」

烈はただ、首を傾げるしか出来なかった。

「…あ、始まった!」

舞台の幕が上がり、早速前座であるアイドルグループが現れる。
だが、盛り上がりはいまいちな気がする。BEMANI楽曲を聞きに来たファンか、りせのファンか、どちらかが楽しみで、所詮前座には興味がないのだろう。

『みんなー! 今日は私達の為に来てくれて、ありがとー!』
「…私達の為、か。自分のライブと勘違いしてんじゃねぇよ、ブスが。」

リーダーらしき人の挨拶に、ぼそりと返す由梨。
周りの人々も、口々に何か言っている。表情はみんな、嫌そうだ。

「まぁまぁ、由梨先輩。前座だし、一曲だけらしいから、許してやろうぜ。おっ、始まっ…!?」

鳴り響いた音楽を聴いて、烈は驚愕する。
流れていたのは…そう、このライブでりせが歌うはずの、“紅焔”だった。

「ね、ねぇ、これ、烈君の!? りせちゃんが歌うんじゃなかったの!?」
「ああ、その筈だ。葉月から今日の為にボイトレしてたって聞いた。くそっ、あいつら、ライブをすると分かって楽曲を被せてきやがったな!」
「嫌がらせかよっ! 最悪だなあいつら!」
「…。」

周りの客に迷惑にならぬよう、小声で怒りを露にする千枝、由梨、ローズ。そして、静かに怒りの感情を見せるリリィ。

「…。」

烈は黙ってそれを聞いていたが、歌い出した直後、左側にいる由梨の手を握った。

「烈?」
「先輩には、炎は効かないんだよな?」
「ああ。」
「…そのまま、握ってくれねぇか? じゃねぇと俺…暴走、しそうだ。」

必死で、昂る心を抑えているのか、息が荒い。
無理もない。彼女らの歌は、心のこもっていない、下手くそな歌だった。
自分の中では誇り高い楽曲を、こんな形で汚されるとは思わなかった。
りせは、自分の楽曲を汚さずに歌ってくれる、そう思ったから、烈は彼女に歌う許可をした。それなのに…。

「…千枝、少し離れろ。お前は炎が苦手だろ?」
「う、うん…。」
「…リリィ、いざとなったら烈を宝石に閉じ込めろ。一時的でいい。烈が怒りをぶつけたら、出していい。」
「わかった。」

もしもの保険を掛けながら、由梨は自身の昂る感情を抑える。
この曲は、由梨にとっても大好きな歌。まさかこうして最悪の形で聞くとは思ってもいなかった。

あるアイドルの一日 ( No.83 )
日時: 2015/05/30 01:25
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 4BMrUCe7)

そう思っているのは、由梨だけじゃなかった。

—…自分の好きな歌が、変な人に歌われるのって、最悪だよね。それが、一番好きな歌なら、尚更だよ。
(お姉ちゃん…。)

楽屋にて、創造者は、りせの手帳越しに静かな怒りをぶちまける。

—りせちゃんは、私の誕生日を覚えていて、プレゼントになればと、烈君に頼んで、葉月ちゃんと頑張って…。楽しみにしてたんだよ、りせちゃんの紅焔。それを…っ!
「熱っ…!」

怒りに呼応し、手帳が熱くなる。りせはその熱に、思わず落とした。

—あっ…! ご、ごめん、りせちゃん!
(大丈夫。火傷とかはしてないよ。…でも、困ったな。これじゃ私が歌うと…。)
—楽曲かぶり、って言われそうね…。ん?

何かを見つけたのか、創造者は暫くりせの言葉に答えなかった。

—…りせちゃん。
(何?)
—外、出てみてよ。舞台袖。
(えっ? わかった。)

りせは手帳を閉じ、舞台袖へと向かった。











舞台袖に出ると、騒がしい事に気がつく。

(えっ!?)

あまりの騒がしさに、りせは思わず舞台袖から舞台を見る。

「よく担当してる本人を前にそんな下手くそな歌が歌えるな!」
「耳障りだ! 前座の癖に出しゃばるな!」
「烈に謝りなさいよ!」

開場では今、観客とアイドル達が一触即発の状態だった。
烈が来ていた事に気が付いた観客達が不満を爆発させ、アイドル達を責め立てていた。

『わっ、私達はこの曲、初めて歌ったんです〜。だから、下手なのは仕方』
「言い訳すんじゃねぇよ!」

烈の声が、よく通る。分かる。誰が聞いても分かる。これは相当、怒っていると。

「俺は、この曲をりせに歌ってほしかった。厳しい先輩と一緒に頑張っている姿を見る内に、こいつの歌を、実際にライブ会場で聞きたい、そう思った。」
「烈…。」
「だから、俺はこのライブ、楽しみにしてたんだ。それなのに…。」

悲しげな烈の声が響くと同時に、突然、紅焔の出だしが鳴り響く。

「りせちゃん、行くよ!」

鳴らしたのは、チュナイだった。彼は走りながらシンセサイザーを弾き、りせを促す。

「あんな友達の顔、見たくないだろ!? 歌ってやろうよ、りせちゃん!」
「い、いきなり…!?」

狼狽えるりせ。そんな彼女の背を、ウィザウがぽんと叩いた。

「いきなり歌うのが怖い? ばっかお前、“俺達がついてるだろ!”」
「! …はい!」

心を突き動かされたりせは、マイクを持つ。

『烈っ!』

マイクで拡声されたりせの声が、前奏に乗せて響き渡る。

『そこまで言うなら歌ってあげるよっ! 烈の誇りである、この曲を!』

不思議と、不安はなくなっていた。
今はただ、烈に聞いてほしかった。

『さぁっ、いっくよー!』

りせは舞台に立ち、歌い始める。
観客のボルテージは最高潮だ!

(お姉ちゃん、見てる? 私、烈の誇りを、お姉ちゃんが大好きな曲を、歌ってるよ。えへへっ、何か、ドキドキする。)

りせは歌う。下手かも知れない、ただ、気持ちは込められていた。

(…おめでとう、神様。私達の為に生まれてきてくれて、私達を生み出してくれて、ありがとう…。)

彼女の言葉は、創造者に届いたのか…。
それは、創造者のみぞ知る…。

あるアイドルの一日 ( No.84 )
日時: 2015/05/30 01:30
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 4BMrUCe7)

「っ、はぁーっ、楽しかった!」

りせは満足げな表情で、大きく伸びをした。
只今、聖域近くの駅で話し込んでいる最中である。

「こっちも楽しめたよ。前座以外はな。」
「うんっ! …あ、でも…ウィザウさんからツッコめって指令来た時にはどうしようかと思ったよ…。」
「あぁ、『俺が憑いてるだろ?』だっけか。…いきなりボード出されたから、それに面食らって、どうツッコんでいいか分からなかったぞ…。」
「あはは…。」

りせは苦笑いをしながら、歩く。

「…おっと、そうだ。俺、先行くな。」
「あたしも。」
「えっ? みんな、一緒に帰ってくれないの?」
「アタシが一緒に帰ってやるって。」

由梨がそう申し出ると、りせはちょっと考えて、頷いた。

「うんっ! 由梨センパイと一緒に帰るー!」
「お、おい、くっつくなって。」

そう言う由梨だが、振り払う事はしない。

「じゃ、由梨先輩。また後で。」
「ああ。」

烈はそう言うと、千枝と共にどこかへと向かった。

「…?」
「ほら、りせ。聖域行くぞ。みんな待ってるから。」
「う、うん。」

りせは由梨と共に、聖域へと歩き出す。

「…由梨センパイ。」
「ん?」
「…少し、お話ししてもいい?」
「ああ。」

その際、りせが声をかけてきたので、由梨はりせの話を聞きつつ、歩幅を彼女に合わせる。

「私、氷海ちゃんの一件で、少し自信なくしちゃったんだ。私のサーチが弱かったから、千枝センパイが怪我しちゃったし、烈も危険な目に遭った。」
「…。」
「イレギュラーな存在だから、力が及ばないのは仕方がない。そうも思うけど、でも、私がそれじゃ、みんなに迷惑がかかる。」
「…。」
「私、強くなりたい。でも、強くなる方法が分からないの…。」

由梨はそこまで聞くと、足を止めた。

「なぁ、りせ。お前の力ってなんだ?」
「えっ?」
「お前の力は、どんな力だ?」
「…私の、力…?」
「ああ。お前の力。その本質。」

由梨は徐に、炎を出す。

「アタシの力は、生まれ持った魔力の素養に、精神力と宝珠の加護を上乗せした形になる。だからアタシは理乃に魔力の量じゃ、絶対に勝てない。威力で勝つには、精神力でどーにかするしかない。それを理解しているからこそ、力の事を分かってあげているからこそ、アタシは努力する。」

そして炎を消し、りせを見た。

「ペルソナの力は心の力。精神力って点では、アタシ達と似たようなものだけど、何となく、違うってわかる。」
「…。」
「…なぁ、りせ。お前はこの世界に住む人達を守りたい、そう思うか? 例え…“この世界の住人が、作られた人形とわかっていても”。」
「!?」

りせは思わず驚く。何故、彼女がこの世界の事を知っているのか、分からなかったのだ。

「…由梨も、所持者だからだよ。」

ざり、と音がした方を見ると、そこには昴がいた。

「そ、そうなの!?」
「ああ。アイツとも会ってる。ちなみに言うと、理乃も所持者だ。葉月と七海も、手帳は持っていないが事情は知ってる。なっ、由梨。」
「ああ。」

由梨は懐から創世手帳を取り出した。

「悪いな、言わなくて。下手に言って所持者じゃなかったらヤバイからな。」
「あ…た、確かに…。」

りせは言われてみれば、と納得する。

「さて、話の続きだ。りせ、お前はこの世界の住人を守りたいか?」
「守りたいよ。守りたいから、強くなりたいの。サーチの精度を高めて、みんなを平和な日常に導きたいのっ!」

そう言ったりせの心が、暖かくなる。

「私なら、みんなを日常に戻せるから! 私が敵を見破って、弱点を知らせて、危険を知らせて、みんなを導けるから! だから、私、強くなりたい!」

りせは由梨を力強い瞳で見る。

「由梨センパイ、強くなる為なら、私、何でもする! だから、教えてほしいの! 精神力を強くする方法! 滅多な事で狼狽えない方法を!」
「…。」
「私が迷ったら、みんなも迷うから! だから、迷わないように…強くなりたい! みんなを正しく、平和な日常に連れ戻す為に、強くなりたいの!」
『迷わない。それはどんなに難しい事か、わかってる?』
「!」

心の中から響いた声に、りせは驚いて胸に手を当てた。

『迷いを捨てるのは、簡単な事じゃない。』
「わかってるよ。迷わないなんて、できない。けど、私が迷えば、みんなが迷うから。少なくとも戦いの場では、迷わない、強い心がほしい! 自信が持てるサーチ能力がほしい!」
『…どこまでも、仲間の為に、か。』
「仲間がいるから、私は頑張れるから。ライブでもそうだよ。」

りせは、その手にオレンジと黒のリストバンドを持った。

「それ、烈の…?」
「返しそびれちゃった。烈がお守り代わりにって、貸してくれたの。」

その手にある烈のリストバンド。そして、応援してくれた烈達。

「あの時の烈の悲しそうな声、聞きたくなかった。だから、私は歌ったの。前座が歌おうが関係ない。私は、烈と、お姉ちゃんを思って歌った。」
「成程な。仲間を思っていたから、お前はここ一番の最高の歌が歌えた訳か。」
「えっ? …うん。そう、かも。…誰かが楽しみにしてくれるから、私は頑張れる。歌える。」
『そんな仲間を導きたい、か。ホント、アンタは強くなったよね。』

心が熱くなる。優しい声と共に、りせは確信を持ち、ペルソナを呼び出した。

『ようやく、アタシも強くなれそう。アンタが弱さを認めてくれたから。弱い事を認め、強くなるのは、恥じゃない。誇りなさい。』
「…うん。」
『我は汝、汝は我。我が名はカンゼオン。汝に宿る仮面なり。』

アンテナを持ち、スリットドレスを着たペルソナ、カンゼオンがりせの背後に現れ、消える。

「…カンゼオン、これからもよろしくね。」

りせは胸に手を当てながら、ポツリと呟いた。

「…さーって、帰るぞ。向こうも準備できたろ。」
「準備?」
「…行けば分かるさ。」

由梨はずんずんと、聖域に向けて進む。

「…?」

昴とりせは首を傾げながら付いて行った。











聖域は今、宵闇に包まれていた。

「…なぁ、由梨。準備って何だよ。」
「来れば分かるって。着いたぞ。」

二人は何も知らずに立ち尽くす。
そんな二人を横目に、由梨は炎を灯した。

「さぁ、出番だ、お前ら!」
「うんっ!」
「おうっ!」

ポッ、と由梨の声に呼応するように、炎が灯る。声から判断するに、雪子と烈だろう。
そして炎はゆっくりと中心に集まり、そして、弾けた。
同時に、明かりが点く。目の前には、大きなホールケーキが二つ。

「昴さん、りせ! 誕生日おめでとう!」

聖域の宵闇に、生誕を祝う、明るい声が響いた…。

鏡の部屋にて ( No.85 )
日時: 2015/05/30 01:37
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 4BMrUCe7)

(オレ達がお仕事してる間に、あっちも大変だったみたいだね。)

全ての物語を同期し終えたのを見た鏡は、ポツリと呟いた。

—まぁ、でも、前座以外は凄く楽しめたよ。前座以外はね。
(オレも行きたかったな、ライブ…。)
—次で行くんじゃないの? 昴の誕生祝に開かれる、りせちゃん主催のライブ。それも…観客の振りした演奏者としてさ。

そう、彼も昴の誕生日に行われるライブの、関係者なのだ。

(もっちろん! MZDもよくこんなの考えたよね。お客さんを巻き込んでやるライブなんて。)
—乱入者まで募ったしね。何だかんだであいつも考えてるのねー。

まるでお茶でも飲んでいそうな雰囲気の創造者に、鏡は苦笑を浮かべた。

「おーい、鏡ー。衣装届いたよー。」

そんな時、凪の声が一階から聞こえる。

「うん、今行くー! じゃあ、すー姉さん、またね!」
—はいはい、まったねー♪

その言葉を最後に、手帳は閉じられ、鏡は丁重にポケットにしまい、一階へと向かった。
神様の聖誕祭に、胸躍らせながら…。







本日はここまで! 感想等あればどうぞ!