二次創作小説(映像)※倉庫ログ

【すべてはここから始まる】 ( No.2 )
日時: 2015/06/20 18:57
名前: マルガリータ ◆Ywb2SqBO2Q (ID: DUUHNB8.)
参照:

 今日もカロスに新しい朝が来た。
 ヤヤコマたちが空を飛び、人々を起床へ誘う。眠りについていた人々やポケモンたちは目を覚まし、今日を大切に過ごそうとしている。一度きりの人生を精一杯生きている。
 アサメタウンには、引っ越して来た親子がやって来た。未だ新しい生活に慣れていないのか、息子は眠りについていた。
 そんな中、少年の部屋に一匹のヤヤコマが飛んで来た。このヤヤコマは野生のヤヤコマではなく、少年の母親のポケモンであり、少年の目覚まし時計でもある。
 ヤヤコマは少年の部屋をくるくる飛び周り、少年のベッドに止まって、チュンチュン、と天使の囀りを発した。
 だが、少年は未だに目覚めず、寝息を立てたまま。いつもこうなのだ。
 それに苛立ちを覚えたヤヤコマは再び羽ばたき始め……そして、少年の頭を叩いた。

 「いっ……いったあぁぁぁぁぁ!!!」

 少年の叫び声がアサメ中に響き渡る。
 ヤヤコマのつつく攻撃に悶絶する少年。つつくによって意識は覚醒しているようだ。
 
 「もう少し優しい起こし方をしてよ!とっても良い夢見てたんだから」

 つつかれた黒髪を右手に押さえ、ヤヤコマに文句を言う。
 ヤヤコマは、君が起きないから悪いんだよ、と言わんばかりに鳴いた。
 少年とヤヤコマは決して不仲な訳ではなく、これが起床のワンパターンなのである。
 
 「うう……母さんも母さんだ。息子である僕をこんな酷い起こし方をするなんて、せめておはようのキスの方がまだマシだ……」
 「聞こえてるわよ!!」
 「はっ、はいっ!」

 少年の独り言が母親の耳にまで届くなんて、地獄耳である。
 少年はベッドから起き上がり、リビングへと向かう。

 ◆

 香ばしい香りが広がる。朝食の匂いだ。母が作ってくれたのだろう。
 テーブルに食事を乗せた皿を置こうとする母親と、母親のヤヤコマがいた。

 「母さんおはよう!」
 「カルム、おはよう!ちょうど朝食が出来ているから、冷めないうちに食べなさい」
 「はーい」

 少年──カルムはテーブルの椅子に座り、テーブルに置いてある皿とコップが置かれてある。
 ジャムのついたトーストと、ミルクの入ったコップである。

 「いただきます!」

 紅玉に光るジャムのトーストと、キラリと光るミルクを平らげるカルム。
 それを見て母、サキの表情が綻んだ。元気に食べる息子の様子を見て微笑まない母親なんて、いないだろう。

 「あ、そうそうカルム。朝食を終えたら、お隣さんに挨拶してきたら?」
 「お隣さんに挨拶?」
 「昨日するの忘れちゃったでしょ?新しいお友達も出来るかもしれないし、行ってきたら?」

 情報交換が出来るので、隣人関係は大事だ。それにカルムは引っ越してしてから、まだ友達が出来ていない。聞いた話だと自分と同い年の少女が住んでいるらしいので、隣人に訪れた方が良いだろう。

 「うん、わかった!僕行ってくるよ」

 ごちそうさま、と両手をパンと叩き、テーブルから離れる。
 そして、自分の部屋へと向かい、着替えを済ませる。

 「これでよしっと!」

 青いジャージに黒いサングラスを乗せた赤いハンチングに黒のブーツ。カルムのお気に入りコーデである。
 階段を下りて、玄関の扉を開けようとした瞬間、

 「カルム、待って!」

 ハンカチを右手に掴んだサキがやって来た。
 何をするのかと思いきや、サキはハンカチでカルムの口元を吹いた。

 「ミルク、ついてたわよ」
 「ありがとう、母さん」

 カルムは今度こそ、扉を開き、アサメの朝の空気を浴びる──。