二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 生と死の狭間で【ポケモンXY】 ( No.11 )
- 日時: 2016/01/28 18:16
- 名前: マルガリータ ◆Ywb2SqBO2Q (ID: 8R/poQo9)
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良いにおいだと思った。
建物や花壇に飾られ、咲き乱れる花の香り、注がれるコーヒーやショコラの香ばしい香り、ポケモンの形を象った像の噴水からのマイナスイオン。まるで甘い蜜に誘われてやって来た虫ポケモンの気分だ。
カルムが感じた、ハクダンシティの第一印象だった。
ハクダンシティはアサメやメイスイとはまた違った街で、初心者トレーナーの為に建てられたポケモントレーナーズスクールという施設があり、此処でポケモンを学ぶトレーナーが数多い。そして此処には、セレナが挑もうとしている──ポケモンジムがある。カルムも勿論挑む予定だ。
ハクダンシティに到着後、アイニスは疲れたと呟き、ベンチに寝転んでいる。面倒くさがり屋で怠惰な性格である彼には、ハクダンの森を歩いただけでも疲労を感じるのだろうか。同い年であるカルムは、まだまだ元気だ。
アイニスはケロマツを繰り出し、ケロムースを出すように指示を送ると、ケロマツは少し呆れた顔で、ケロムースを出す。とてもふわふわで触り心地は良さそうだ。
アイニスはケロムースを枕代わりにして、一秒も経たないうちに爆睡に落ちる。それをケロマツは見つめている。こんな怠け者が主であると、そのポケモンは大変そうだ。
その様子を見た後、カルムはポケモンセンターへ向かおうとした瞬間。
「待って、お隣さん」
振り返ると、セレナと目が合った。その表情は、微笑みでも眉間に皺を寄せている訳でもなく、無表情である。一体、何の用だろうか。
セレナはカルムの方へ歩む。
「ちょっと良いかしら?」
「え?良いけど」
返答すると、ついて来て、と踵を返して歩き出し、何処かへと向かおうとしているセレナ。
セレナの背中を見つめながら、カルムはセレナの後を追う。
◆
店のウィンドウに飾り付けられたマネキンと、その服。そのコーディネートは、バッジのついた帽子に半袖パーカーとハーフパンツといった、駆け出しトレーナーに似合いそうな服装でファッションに鈍感なカルムでさえ惚れてしまう程のセンスである。
店舗の中は、何人かの男女が服を装着させたマネキンを眺めていたり、棚に置かれた帽子や羽飾りを眺めている。
ブティックである。
カロス地方の各地には幾多のブティックが建設されており、街に合わせた服装や帽子、そして、羽飾りなどが販売されてあるのだ。だからあのマネキンのコーディネートは、ハクダンシティの特徴に合わせてチョイスされたのだ。
しかし、何故セレナは自分を此処に連れて来たのだろうか。どの服が自分に似合うかとカルムに尋ねさせるのか。しかし、クールである彼女はそんなことは少なくともしないだろう。
セレナは棚に置かれた帽子や羽飾りを触れたり、じぃっと見ていたりする。やはり、彼女のショッピングだろうか。
にぎやかなBGMと人々の話し声が聞こえる中、セレナは黙ったままで、一言も喋らなず、カルムに目もくれない。流石にそれは気まずいし、自分に何をさせたいか聞きたいので、カルムは切り出した。
「なぁ、セレナ。僕を呼び出したのって、一体何──」
「少し黙ってくれない?集中出来ないわ」
振り返らず、帽子や羽飾りに視線を送る中、カルムの問いを棘のついた言い方で遮る。その口調に対してカルムは怒ったり、悲しんだりもせず、彼女の言う通り、口を閉じる。
それが続く中、セレナは帽子と羽飾りを取り出す。
「はい、お隣さん、これ被ってみて」
「え?」
渡されたのは、今身に付けているハンチングと色違いの黒い帽子に、チェック柄の赤いピンズと小さな灰色のピンズだ。男性向けのファッションである。
受け取った後、さ、早くとセレナに背中を押され、試着室に入るカルム。
一体何なんだ、としぶしぶ思いながら、鏡と向き合い、ハンチングを外し、帽子とピンズを付けた。
開けて良いよ、と許可を出すとセレナはカーテンを開け、カルムを見つめる。
青と黒を基準としたシックなコーディネートは、何処か都会人を連想させる。 性格とは裏腹の、ダークカラーの衣装は彼をクールな雰囲気にさせていて、まるでファッション雑誌を読んでいるような気持ちになる。
セレナは微笑む。
「似合ってるじゃない」
「それはどうも。……だけど、何で僕を呼び出したのさ?」
「サナから聞いたわよ。貴方、ピカチュウにサングラス壊されたんでしょ?そのままでも素敵だけど、アタシはオシャレに煩い方で、そのままだとイマイチだと思ったの。だから貴方を直接呼んで、何が似合うか調べていたのよ」
小悪魔ピカチュウに壊されたお気に入りのサングラス。今は帽子に付けておらず、バッグの中にしまい込んでいる。ピカチュウもカルムのポケモンとなったので、あまりしないと思うのだが、少しだけ気にしていたのだ。セレナはそれを察していたのだろう。気遣いのある優しい少女だ。
カルムは微笑む。
「サンキュー、セレナ!」
「……!」
それを見てセレナは目を見開いている。カルムはどうしたと問うと、セレナはいつもの表情に変わり、何でもないと踵を返した。