二次創作小説(映像)※倉庫ログ

【壁】 ( No.119 )
日時: 2016/01/28 18:47
名前: マルガリータ ◆Ywb2SqBO2Q (ID: 8R/poQo9)
参照:

 海沿いにある街ショウヨウシティ。自転車レースのコースや高台にジムがあることから、スポーツが盛んになっている。
 砂浜では裸足でポケモンと共に走るトレーナーや、自転車レースではコースを通っているトレーナーがよく見られる。
 そして、高台にあるのが……ポケモンジム。見上げるポケモンジムは遠く感じる。まるで道を遮る壁のようだ。
 いいや、此処で屈するもんか。
 カルムは首を振り、ショウヨウジムに向けて歩き出した。

「あら、お隣さん」

 声をかけられ、振り返る。
 セレナだ。ハクダンにもこういうパターンはあった気がする。
 オーク色のポニーテールを揺らしながらセレナは歩み寄る。

「お隣さんもジムに挑戦かしら?」
「そのつもりだけど、セレナも?」
「ええ、ポケモンも鍛えたし、パフォーマンスの練習もバッチリだから、ジムに挑戦しようと思ってね」

 カルムと目を合わせて話すセレナだが、何かを見つけたかのようにカルムの服装に視線を移す。
 連れてカルムの自分の服に目を落とす。よく見れば、汚れている。

「お隣さん、どうしたの?その服装……」
「ああ、草むら漁ったり、コウジンタウンでサイホーンに乗ったりしてたからかな、気付かなかったよ。でも、この位なら大丈夫だよ」

 セレナに見られて気付く。服が汚れている理由は思い出せたが、気に留めてはいなかった。カルムからすれば、叩けばとれると軽い考えでいたのだ。
 セレナは眉間に皺を寄せ、カルムの腕を掴む。

「こんなに汚れているのに大丈夫な訳ないじゃない!ちょっと付いて来なさい」
「え?」


 ◆


 ショウヨウシティにもブティックがあるらしく、この街はスポーツが盛んな街なので、活発に動きやすい洋服や帽子などが売られている。
 マネキンも、Tシャツにズボンといったスポーティーなコーディネートがされており、街に合わせている。
 セレナは此処で待ってて、とカルムを待機させ、客に紛れて消えていった。
 暇なのでカルムは当たりを見回すと、客はサーファーやレーサーといったスポーツマンが訪れている。ショウヨウシティはスポーツが盛んであるので、スポーツマンが来てもおかしくはない。
 暫くしていると、服と帽子を抱えてセレナが戻って来る。
 はい、とカルムにそれを渡す。

「これを着てみて」
「……どうしても?」
「どうしてもよ。その服装じゃこの後大変だわ。それに、その汚れた服で行くと、貴女が笑われてしまうわ。貴方の為よ。さ、着替えて」

 わかったよ、と膨れっ面になりながら試着室に向かい、カーテンを閉める。
 セレナはよくよく、カルムを気にかけている。服についても、プリズムタワーなんかでは自分を唐突に揺さぶったりして、安堵したかと思いきや泣いたりして……まるで、母親みたいだ。サキもそうだったから、よくわかっていた。何故セレナは、自分を気にかけてくれているのだろうか。
 ……何だか、気分が上がらない。きっと、8番道路で親子を見たせいだ。
 すると、カーテンからまだかしら?と落ち着いた声が飛んで来た。セレナだ。
 現実に引き戻されたカルムは急いで、服を着替えた。

「いいよ」

 カルムの承諾を貰い、セレナはカーテンを開ける。
 其処にはスポーティーな少年がいた。
 グレーのピンズを黒いキャップで留めていて、服装は青い半袖のTシャツに黒のカーゴパンツ、黒の靴下に青のスニーカーといった、青と黒を基準としたコーディネートをされている。
 カルムは青や黒といったダークカラーがよく似合っている。優れた容貌に幼さの残るイケメンな顔立ち、そんな彼はモデルと言っても過言ではない。ファッション雑誌を見ているような気分だ。

「似合っているわね、今までの貴方もかっこいいけど、スポーティーな服装も素敵じゃない」

 頷きながら微笑むセレナ。やはり、彼女は何だか、母親みたいだ。
 先程の憂鬱な気持ちが吹き飛んだ。
 カルムは不意にこう言った。

「……セレナってさ、何か母さんみたい」
「え?」
「僕のことを気遣うしさ、プリズムタワーでも僕のことで泣いてたし、今も何だか、子供の為に洋服を飼う母親って感じで」
「……迷惑かしら?」
「否、何だか嬉しい。僕の為に気を使ってくれるなんてさ。……サンキュー、セレナ。これからもよろしくね、"お母さん"?」

 薄ら笑いを浮かべるカルム。それを見て、セレナも笑い返した。

「貴女を産んだ覚えはないのだけれど」