二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- ぼくとおれ ( No.263 )
- 日時: 2015/12/29 16:23
- 名前: マルガリータ ◆Ywb2SqBO2Q (ID: CjSVzq4t)
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ヌメリとしたものが肌を伝い、粟立つ。その感触で瞳孔は開いたのと同時に、今僕がいる場所に驚愕した。僕は先程まで映し身の洞窟の中にいたのに、何故だか外にいる。緑色の奇妙な空、緑色や黄色といったカラフルな葉っぱを生やした木……今まで旅をしてきた中で最もおかしい場所だ。こんなところ、見たことないよ。
口の中に何かが入り込んでいることに気付く。あのヌメリとした粘り気の味がする。うぇぇっと僕は舌を出して吐いた。気持ち悪い、水で口を濯ぎたい。水が欲しい。
水を探しに歩いていく。こうして一人で不気味な場所を彷徨うなんて、今の僕は不思議の国のアリスだ。チョロネコもミミロルもいないけれど。だけど、もし此処にチョロネコがいたら、僕は訊くだろう。チョロネコさんチョロネコさん、教えて下さい。此処は何処ですか?
暫く歩いていると、湖畔を見つける……のは良かったんだが、その色は緑色。何とも気持ち悪い水だ。落ちたり飲んだり口に含んではいけない、と僕の本能がそう叫んでいる。少しでも接触してしまえば、某蝙蝠男の道化王子になってしまいそうだ。飲、飛び込み、接触、ダメ、絶対。
水なら、水タイプのカメールがいるが、その為にわざわざ呼び出すのもあれなので、暫くは我慢するか。それより今は、此処が何処だか知らないと。
湖畔から離れると、少女と目が合った。オーク色の髪と碧眼には見覚えがある。服装は……ショウヨウシティの時と変わっていない。
僕が口を開こうとしたら、先にセレナが言葉を放った。
「カル……ム?」
違う、セレナは僕を名前で呼んだりしない、そんな高い声で話したりしない。そんなの、僕の知っているセレナじゃない。君は……本当にセレナなのか?
戸惑う僕を余所に、セレナは僕が今まで見たことのない可愛らしい笑みを浮かべてこちらに駆け寄る。
「カルム、此処で一体何をしてるの?」
「え……否、その……何も」
「そっか!」
会話はそこで途切れ、暫しの沈黙。ニコニコ笑っているセレナに、僕は戸惑いを隠せなかった。今までのセレナは僕に冷たい──というより、クールで、でも僕に気遣いをしてくれて、あまり感情を表に出すこともあまり少なかった。そんなセレナが今、僕の目の前で、明るく、笑顔で僕に接しているのだ。これは夢だろうか? だとしたら、早く覚めて欲しい。
僕が呆然とセレナを見詰めていると、セレナの笑顔は悲しげな表情に変わり、俯いた。
「ねぇ、カルム……。カルムはどうして、アタシに冷たいの?」
「え?」
「話し掛けてもそっぽ向いたり、話しても目を合わせたりしないし、ポケモンには優しいのに、アタシの前だと不機嫌そうな顔をするし……。それに……名前で呼んでくれない。……カルムは、アタシのこと、嫌いなの?」
What do you meanが、僕の頭の中に入り込み、支配していく。どういうことだ、僕は君に対していつも明るく接しているのに、一体何が不満だっていうんだ? 僕はセレナに、一体何をしたっていうのさ?
疑問で頭がいっぱいな僕はセレナに尋ねる。
「えっと……一体何のことだか……」
「とぼけないで! いつもアタシに冷たいじゃない!」
「え、あの」
「アタシ……カルムと仲良くなりたいだけなの。それなのに……カルムは、どうしてアタシに……」
アタシのこと、嫌いなの? そう顔を上げたセレナは拳を握り締め、真剣な顔をしていた。しかし、今の僕は謝罪することも、セレナの質問に対する返す言葉も、何も無い。どう返せば良いかわからないし、僕がセレナに何をしたか思い当たるようなところもない。やっぱり、このセレナは、僕の知っているセレナじゃない──!
口を開こうとしたその瞬間だった。
「──君、お隣さんに何してるの?」
聞き覚えのある声に、僕とセレナは声の方角に顔を向けた。伸ばした黒髪、ダークブルーの瞳が特徴的な──。あ、あれ……? 今日は本当におかしい日だ、クレイジーデーなんてあったっけ? "実際にいる人物が二人もいる"なんて、どうかしてるよ。
もう一人の僕は、何処か不機嫌そうな表情をして、こちらに歩み寄り、セレナを抱き寄せ、こちらを睨み付けた。セレナは呆然ともう一人の僕を眺めている。
「お隣さんに何かしたら、俺がただじゃおかないから。それに……俺の成り済ましだなんて、君は一体何なのさ? オリジナリティが全くないね 」
「君は……カルム?」
「へぇ、俺のこと知ってるんだ。まさかだと思うけど、君はカルムだなんて言わないよな?」
「その、図星なんだけど……」
僕と違って声質は低くて、性格も真逆。一人称も「俺」になっている。だけど、目の前にいるのが、もう一人のカルム─僕─であることには変わりない。
カルムの眉がピクリと反応し、セレナを抱き寄せた手を放した。ああ、怒っているなこれ。だけど、僕は僕に怒られるなんて……何とも不思議な気分だ。
「じゃあ、バトルで示しなよ。本物の俺なら、手持ちポケモンも一緒な筈だし、もしも君が勝てたら、君のこと、認めてあげても良いけど?」
手持ちポケモンも一緒……そうだな、性格は違えど僕であることには変わりないんだし、ポケモンバトルで怖じ気付くような僕じゃない。僕と僕がポケモンバトルするなんて何か変だけど……信じてもらえるなら、受けて立つよ!