二次創作小説(映像)※倉庫ログ

ぼくとおれ ( No.264 )
日時: 2015/12/30 23:52
名前: マルガリータ ◆Ywb2SqBO2Q (ID: caCkurzS)
参照: 大晦日まで書き終わりそうにない……ブログで書くしか……!

 もう一人の僕──カルムが繰り出したのはピカチュウ。メンバーの紅一点である。あのピカチュウには見覚えがあるが、僕のピカチュウとは違ってあのピカチュウは余裕のある笑みを浮かべていない。ポケモンの性格も変わっているようだ。
 だったら僕は、彼でいこうかな。
 ニャスパー、GO! 掛け声と共にモンスターボールを投げる。ポン、と勢いよくボールから飛び出して来たニャスパーは相変わらず掴みどころのない無表情だ。
 ニャスパーはピカチュウともう一人の僕を見ても驚きや戸惑いといった表情を見せない。相変わらずクールだなぁ、ニャスパーは。僕は頼んだよと声を掛けると、ニャスパーはニャァと鳴き声を上げた。

カルム VS もう一人のカルム
ニャスパー/ピカチュウ

「ニャスパー、ねこだまし!」

 タッとニャスパーの短い両足が勢いよく動き出す。ニャスパーはピカチュウとの距離を縮めて立ち止まる。そして、ピカチュウの眼前に両手を見せて叩いた。ねこだましは素早さ関係なく先制攻撃出来る技で、相手を怯ますことが出来るのだ。最も、特性が精神力のポケモンにはただのダメージでしかないけど。
 ニャスパーは僕の元に戻る。
 ピカチュウは怯みから立ち直り、いけないと言わんばかりに頭を横に振った。

「ピカチュウ、エレキボール!」

 ピカチュウはハート型の尻尾から電撃の塊を作り出し、それをニャスパー目掛けて投げる。エレキボールは自身のスピードが相手より高い程威力が増す技だ。ピカチュウはニャスパーよります。素早さが高い。

「躱せ!」

 しかし、エレキボールのスピードはニャスパーより勝っていて、ニャスパーはエレキボールを食らう。

「ニャスパー!」
「かげぶんしん!」

 ニャスパーの周囲から、数え切れない程の無数のピカチュウが出現する。囲まれているではないか!
 どうしようと焦る僕だが、唐突に思い付いた提案に任せるしかなかった。

「サイコパワーで本物のピカチュウを探れ!」
「無駄だよ、10まんボルト!」

 ニャスパーは目を閉じてピカチュウの居場所を探知する。が、幾多のピカチュウが10まんボルトを繰り出し、ピカチュウたちの攻撃がニャスパーを襲う。頼む、間に合ってくれ……!
 ニャスパーはアメジストの瞳孔を勢いよく開かせ、サイコパワーで姿を消し、ピカチュウたちの10まんボルトを避けた。
 ニャスパーはどうやら本物のピカチュウを当てたらしく、本物であろうピカチュウの背後に立っていた。

「大合唱の時間だよ、チャームボイス!」

 ニャスパーは口を開けて、容姿とは不釣り合いの大きな鳴き声を上げた。しかし、それは人間である僕にも魅力されてしまう程の声だった。
 チャームボイスにより、かげぶんしんで作られたピカチュウは消えていき、最後には本物のピカチュウが当たった。本物のピカチュウはチャームボイスを受けて、その場に倒れ込んだ。

WINNER カルム!!

「……お疲れ様、ゆっくり休んでくれ」
「サンキュー、ニャスパー!」

 僕たちは戦ってくれたポケモンに礼を述べ、それぞれのモンスターボールの中に戻っていく。この勝負は僕が勝利したんだから、もう一人の僕も認めてくれるよね? 僕なんだし。
 もう一人の僕は顔を上げる。ニャスパーとは違う無表情。いつもの僕なら絶対しない顔。

「……俺もニャスパーを持ってるし、君が勝ったんだから……君のことを信じてあげるよ」
「さっすが僕!」

 その前に、と言うもう一人の僕の視線の先には、別世界のセレナ。セレナはえ?と首を傾げている。もう一人の僕はセレナのところに寄り、訊ねた。

「俺は別にお隣さんのことが嫌いじゃない。無茶する君がほっとけないだけだから。わかった?」
「え、えっと……」
「わかった?」
「わ、わかった! わかったよカルム」

 顔をずいと迫られ、赤面するセレナ。此処の僕とセレナって、立場が逆なんだなぁ。此処の僕は僕の知っているセレナみたいにクールで寡黙、此処のセレナは僕みたいに明るい。そう言えば、以前セレナに言われたな。『貴方がほっとけない』って。あそこのセレナはお母さんみたいだけど、此処の僕は此処のセレナの兄、というよりお母さんみたいだ。
 そんな二人の会話を凝視していると、セレナと目が合った。

「とにかく……このカルムはアタシたちとは別のカルムだってわかったけど……どうして、別のカルムが……?」
「そうだよ聞いてよ、さっきまでは映し身の洞窟っていうところにいたんだけど、その洞窟にある鏡に触ったら鏡が僕を飲み込んで……それで気が付いたら此処にいたんだ」

 映し身の洞窟? 鏡? 怪訝そうに首を傾げる二人。此処の世界には、映し身の洞窟はないのだろうか。頼む、何か反応をくれ……。
 数秒後、もう一人の僕が何かを思い出したかのように声を上げた。
 もう一人の僕によれば、この先にある洞窟─恐らく映し身の洞窟だろうか─に伝説があり、その鏡に触れると、別世界に入り込まれてしまうらしい。その仮説なら、僕がこの世界に来たことも納得がいくし、道理でみんなの性格が真逆な訳だ。
 関心してる場合じゃないだろ、ともう一人の僕に突っ込まれた。やっぱり、もう一人の僕はしっかりしているんだな。
 その洞窟は、僕が別世界に来たところにあるらしい。そこに行けば、僕は元の世界に戻れるっていう訳だ。簡単じゃないか!
 そんな軽い調子でいる僕に、もう一人の僕はポツリと呟いた。

(そう簡単にいくとは思わないけど)