二次創作小説(映像)※倉庫ログ

希望 ( No.289 )
日時: 2016/01/21 23:24
名前: マルガリータ ◆Ywb2SqBO2Q (ID: 0v5zLN0X)
参照: 別端末からの投稿です

 えーん、えーん。ポケモンの瞳から、雨が降っていた。いつも紅玉のように爛々と光る、あの輝きは、今のポケモンには、ない。
 ポケモンが流している雨は、仲間たちに対する懺悔と後悔で出来ている。その雨は洪水となり、やがて大雨となる。その大雨は、ポケモンの心の、大雨洪水警報を発生させる。
 全部、わたくしのせいだ。わたくしが、もっと真面目に大臣の言う事を聞いていえば。道草なんかしてないで、彼等を探していたなら。わたくしが、もっと、姫としての自覚を持っていたならば……こうならなかった。助けたい。だけど、今のわたくしは弱い。今のわたくしが彼等を助けたところで、結局どうなるというの? 最終的には捕まって、王国は滅びるだけだ。今のわたくしを視て、仲間たちは失望するだけだ。そして、こう言うだろう、出来損ないと。
 仲間たちの苦しむ姿が、ポケモンの頭に横切る。それが、ポケモンの雨を、より一層強くさせる。助けたい、だけど、今のわたくしでは、どうすることも出来ない。
 ただ今、ポケモンの心の、大雨洪水警報発生中。





 かなり、気を落としているようだ。アイニスとロザリーは、ソファに腰掛けているディアンシーを見た。二つの紅玉を、水分でいっぱいに溜め込んでおり、それをポタリポタリと溢れ流している。
 ディアンシーは先程からこの状態である。無理もない、愛する王国、愛する仲間たちを、フレア団に占領されてしまったのだ。その悲しみは、アイニスやロザリーも、図り知れない程大きい。
 人々やポケモンたちは皆、悲しむディアンシーを見て、困惑の表情を浮かべていた。誰かが悲しめば、その誰かも悲しむ。
 ロザリーは知っていた。だから、私はこうするんだ。
 唐突にロザリーが立ち上がり、顔を上げ、ディアンシーを見据えた。
 ロザリーの傍らに座っていたアイニスが、ロザリーの様子に反応し、彼女を見つめた。その表情は、何かを決心しているようだ。
 ロザリーはスタスタと、ディアンシーの元へ歩き出した。その足音に反応し、顔を上げた、その瞬間

——PAN!

 乾いた音が、周囲に響き渡り、周囲の人々やポケモン、そしてアイニスまでもが、驚愕をした。勿論、ディアンシーも。
 ディアンシーの、心の大雨が、ピタリと止んだ。状況が読めないと言わんばかりに、困惑している。その頬は、赤い。
 ロザリーを見る。今の彼女の表情は、長い銀髪によって遮られている。よく見ると、ロザリーの拳が震えていた。
 顔を上げたロザリーの表情は、鬼の形相となっていた。

「いい加減にしなさいよッ! アンタ、それでもお姫様なの!? 国を救うんじゃなかったの!? こんなところでメソメソしてる場合じゃないでしょ!? 国民はアンタの助けを待ってるのよ!!」
「で……でも、今のわたくしじゃ、国は——」
「この意気地なし!! こんな状況だからこそ、気持ちを強く持たないといけないのよ! どんな時でも、国民を助けるのがお姫様ってものでしょ! アンタがやらなくちゃ、誰が国を救うのよ! 希望を持って、戦いなさい、ディアンシー!!」

 沈黙が流れる。ロザリーの叱責に、ディアンシーはそれをどう感じて、それをどう捉えているのだろうか。
 今、国民を救うことが出来るのは、他でもない、わたくし。仲間たちが、助けを待っているのだ。わたくしは王国のプリンセス、国や国民を導く、道しるべ。わたくしがやらなければ、愛する国も、国民も、崩壊してしまう。わたくしが、残された希望なのだ。それを裏切る訳にはいかない。
 静かな空間の中、それを、ディアンシーは打ち破った。

「……ロザリーの言う通りですわ。此処で立ち止まってはいられません。どんな時でも、前を向いて、立ち向かわなければなりません。ありがとう、ロザリー。もう……迷わない!」

 ディアンシーの、大雨洪水警報は解除された。大雨のち、晴天。





 ディアンシー一行は、王国を目指して歩いていた。ディアンシーは、仲間たちのフェアリーオーラを感じることが出来るようで、道は、ディアンシーの能力に賭けられていた。
 山を越え、谷を渡り、何度も試行錯誤を重ねていった。
 そして、今。

「……本当に、此処なんだな」
「ええ、間違いありません」
「入る前に聞くけど……覚悟は出来ているんでしょうね?」
「もう、迷いはありません。覚悟は、決めています」
「……そう、じゃ、行くわよ」

 目標、国民の救済、フレア団の打倒。
 ミッション、開始。