二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 人間未満の聖杯戦争[Fate] ( No.16 )
- 日時: 2015/08/28 17:11
- 名前: 明星陽炎 ◆EaZslsthTk (ID: TQ0p.V5X)
〝至って平和な朝〟
時雨の目を覚ましたのは、鳴り響く携帯電話の着信音だった。アップテンポで流れる曲は寝起きの頭には少々ばかり不愉快で半覚醒のままぐるりと視界を巡らせて音源を探す。見慣れたリビングルーム、炬燵に埋まった半身、目の前の電源が入りっぱなしのPSPの狭い画面の中では重そうな鎧を来た女性が退屈そうに腕組みをしている。どうやら昨夜は寝落ちしてしまったらしい。
自分を挟むような位置で各々が死屍累々──失敬、思い思いの姿で自由に寝落ちる二人を見て徐々に昨夜の記憶が蘇ってきた。そこそこ疲弊していた人間の自分を他所に、嬉々としながらモンスターをハントする人外系男子二人──完全に思い出した辺りで無性に腹が立ち、如何にも幸せそうな顔で眠る金色の王の鼻先に蛇の玩具を3匹程設置しながら音源を探す。
それは思ったよりもあっけなく見つかった。明滅する赤いランプは自身の愛用するターコイズグリーンの携帯のものであり、ただ自分は不愉快に響く曲をダウンロードした記憶はない。恐らく人外系男子のどちらかが勝手に携帯を弄ったのだろうと結論付け、時雨は携帯を開いて通話ボタンを押した。
「──うい、七紙」
がりがり、と頭を掻きながらだらしなく胡坐をかく。気を抜くと欠伸が漏れそうになるのは、電話の相手にも勘弁していただきたい。
『漸く電話に出たな、時雨』
通話用スピーカーの向こう側から響いたのは低い声。聞き慣れたその声に時雨はビッ、と背筋を跳ねさせた。
「き、ききき綺礼さんんんん!?」
『声が大きいぞ』
「うへ、ごめんなさい……どうしたのさ」
驚きのあまり声のトーンが跳ねあがる。スピーカー越しに聞こえた嗜め声に、電話の向こうでの彼の顰め面を描き出しながら再び声のトーンを下げて問いかける。
『いや、早朝に睡眠を邪魔するとどのような反応をするのか気に──失敬、昨夜の成果を訊こうと思って、な』
「前半が本題と見た。まあいいや、昨日の成果なら午後にでも教会に行こうと思ってたからその時話すよ」
前半部分の言葉に思わず眉をひそめる、が、別段不快感を感じることはない。彼はいつだってそうだし、そういうものなのだとしか時雨には思えない。後半部分の建前については昨夜連絡する予定だったが、人外系男子1号、もといギルガメッシュに阻まれたのでついでとばかりに報告する。
『分かった。ではその際に此方も報告がある。お前の作戦に生かせればいいがね──おっと、すまないが時間だ。私は此処で』
「はーい。また午後にでも」
簡潔に用事のみを伝えられた電話をあっさりと切ると立ち上がって伸びをした。身体中のあちこちから何かが軋むような、耳に優しくない音が響き渡る。やはり炬燵で寝るのは良くないな、と思いながら未だに眠り続ける二人の人外系男子を蹴り起こす作業へと移行するのだった。
【やることはなんだっけ】
(起きろクソ共)
((うべっ!?))
- Re: 人間未満の聖杯戦争[Fate] ( No.17 )
- 日時: 2015/09/01 15:19
- 名前: 明星陽炎 ◆EaZslsthTk (ID: TQ0p.V5X)
〝至って不愉快な朝〟
眠る必要のない身体というのは便利だが、やはり物事の利便には大概欠点があるものだ。全てを忘れさせる睡眠を丸ごと取り去られ、鈍る事のない思考により要らぬ考えが絶えることなくランサーの脳裏をぐるぐると巡っている。
教会の周辺で再会したあの少女。名は知らない。ただ本人曰く──あの翡翠の男、アヴェンジャーとやらのマスター。結局彼女については何もわからない。分からぬことを報告など出来ぬ──そして何より、何故だか彼女のことは己の内にだけ秘めておけばいいような気がしていた
結われた長い黒髪、夜を溶かし込んだように黒く暗い色をした眼差し。瞼を閉じればはっきりとその顔を思い出せる。小生意気に細められた半眼、長い前髪に顔の右半分を隠し、口角を吊上げるあの表情。少女の残した淡い緑──裏柳色というらしい──の襟巻をぎり、と握りしめて何度目かもわからない舌打ちをする。
「──ランサー」
ふと、降ってきたのは低い声。諸々の事情により主に成り変わった忌々しい男の声と知ると苛立ちはさらに募った。とはいえ、また令呪の強制などをつかわれては堪らない。憤りをぐっと飲み込み、声の主のもとに馳せ参じた。
「何の用だよ。もう粗方のサーヴァントとは一戦交えたじゃねえか」
低い声で唸るように吐き捨てれば、件の主は相変わらず、闇を溶かしこんで固めてしまったように淀んだ瞳をゆるゆると歪めて笑っている件の男──言峰綺礼。相変わらず何考えてるか分かんねぇ奴だ、と思ったところでふと、その瞳の色……いや違う、その底知れない瞳の奥がアヴェンジャーのマスターの少女に似て────
「いやなに、今日は私の──我々の協力者を紹介しておこうと思ってな」
逸れかかっていた思考はその一言で現実に引き戻された。こんな奴に協力者なんているのかよ──あるいはその協力者とやらも自分と同じように、卑劣な手で協力を余儀なくされているのかもしれない。そちらに一度思考が動いてしまえば、先程浮かんだ妙な違和感にも似た感情の霧はすっかり霧散してしまってた。
「てめえに協力者がいたなんざ驚きだな。それとも何か、脅しにでもかけているんじゃあないのか?」
「随分な良いようだな、ランサー。アレは自ら進んで私の駒に志願したのだが──」
心の底から心外だ──と言わんばかりに溜息を吐き出した綺礼はまあいい、と言葉を切った。
「とにかく、まずは顔合わせだろう。お前にはアレの役にも立ってもらわねばならんからな」
その言葉が、ランサーのなかでぐるぐると渦巻いているのは──英雄としての直感、だったのかもしれない。そう遠くない後に、ランサーはそれを悟る。
【やることが多い】
(ところで)
(俺はさっき、あのクソ神父と誰が似ていると思ったんだったっけか)
- Re: 人間未満の聖杯戦争[Fate] ( No.18 )
- 日時: 2015/09/10 17:48
- 名前: 明星陽炎 ◆EaZslsthTk (ID: XQp3U0Mo)
〝 雨降って 〟
厳かな空気に包まれているようにも思う教会に足を踏み入れる。冬の晴れた空は抜ける様な青い色をしており、眩しすぎて時雨は目を細めた。二日続けてあの我様を自宅に独り放置するのはかなり危険だが、まあ流石に暴れることはないだろう、と結論付け──重厚な扉を押し開けた。
「綺礼さ──」
「何でてめえが此処にいる」
降ってきたのは耳慣れた低い声ではなく、ただ馴染みがないといえば嘘になる声。
「こっちの台詞だよ、ランサーさん」
昨日嫌というほど聞いたその声に半歩下がり身構える。時雨を庇うように、霊体化を解いたディルムッドが前へと躍り出る。襤褸切れのような布に覆われた二槍をその手に携え、低く腰を落としたその姿はいつでも応戦が可能だという合図だ。その後ろで、どうやら竹刀袋に突っ込んであったらしい鉄パイプを構え、毅然として此方を睨む少女。此方も戦闘準備は万全の模様だった。
「そそるねェ、随分熱烈な誘いじゃねえの。昨日はあんなにそっけなかったのによ」
「アハハ変態ですかやだなあ。神代の英雄も形無しだ」
不躾に相手を上から下まで観察すれば、怒気すら籠った声で返答があった。殺意には殺気を。挑発には嘲笑を。敵意には悪意を。織り交ぜて溶かして丸ごと全部をぶつけ合う。
「ハッ、そっちの誘いも魅力的だが──やることは分かってんだろ?」
「冗談に決まってら。生憎、此処でてめえを野放しにする気は全くないんで、そこんとこちゃんと理解してよね」
ヒュウ、と漏れた呼気に合わせて────刹那、翡翠の影と蒼い残像が混じり合う。乾いた高い音が二度、三度と続き、弾かれるようにまた二つの色が離れた。辛うじてそのやり取りを視界に収めた時雨はカチカチと思考で計算を練っていく。
手数は圧倒的に二槍のディルムッドが有利だ。だが、いくら教会が下手な家よりも広いとはいえ、障害物の多い屋内ではその手数を十分には活かせない。対して青のランサーは一本の朱槍を突きに集中させることでその不利を補っているらしい。長期戦に持ち込まれれば、本来はサーヴァントではないディルムッドの低いステータスも相まって押し負けてしまうだろう────ならば。
「庭先におびき出すぞ相棒。此処じゃ不利だ」
「了承した」
手短に指示を伝えると一気に庭に躍り出て、横並びに陣を構える。握りしめた鉄パイプには既に魔力を通し『硬化』の魔術を付加しているため、霊体への攻撃や二、三度程度ならば武器を相手に打ち合いも可能だ。
自然にぎゅう、と握りなおしたそれを見て、ほぼ同時に飛び出してきた青い槍兵は目を細める。
「健気なこった、その棒きれで俺の槍を受けきれるとでも?」
「完全 ( パーフェクト ) に、とは言えないけどね。それでも数回はもたせる」
にい、と口元を歪めれば相手も満足そうに舌なめずりをするのを確認し───飛びかかろうとしたところで────
「何をしている」
低い声が、その場に響いた。瞬時に足を止め、時雨は音の付きそうな勢いで顔を上げる。視線の先にはやはり、見知った彼……言峰綺礼の姿があった。危ない、そう思った時雨は目の前にいる青い槍兵の驚愕に見開かれた目には気付かずに叫ぶように言葉をつづけた。
「綺礼さん! 下がってて──」
「安心しろ、時雨。それは私の駒だ」
──慌てたような声の時雨を遮り、何事もなかったかのようにその言葉を告げる綺礼。ゆっくりと、だが力強い足取りで彼はその歩みをランサーへと向けている。
「それはそうと──質問の答えがまだだな。今一度問おう、ランサー。私のいもうとに何をしている?」
一字一字を区切るように強調しながら言葉を発するその姿からは、ちり、と空気を炙るような怒りが滲み、さしものランサーも気圧されたように後退る。しかし彼の緋色の瞳から苛烈な光は消えてはいなかった。ぎっ、とその漆黒に淀んだ瞳を睨み返し、吐き捨てるように言葉をひねり出す。
「──っ、てめえのマスターの陣地内に別のマスター、それも得体の知れないのが紛れ込んでんだ。交戦しねえ訳にいかないだろう。第一貴様の妹の顔なぞ知るか」
「ではアレはサーヴァントとしての義務であった、と。まあよかろう。客人をいつまでも待たせてはいられないからな。時雨、此方に来なさい」
先程の怒りはすう、と身をひそめ、薄ら笑みを再び纏った綺礼は時雨を呼びつける。その直前まで放心していた彼女は一足先に我に返っていたディルムッドに肩を軽く叩かれて漸く現実に帰ってきたようで、背中を跳ねるように伸ばすと綺礼の傍らへと歩み寄った。
「改めて紹介しよう。双方、君らがこの陣営の要だ。双方、名を」
「──ランサー、クー・フーリンだ」
「七紙時雨。あっちはディルムッド・オディナ」
どちらからともなく差し出された腕を握り、握手をする。敵対しない相手だとわかるや否や、彼女──シグレと言ったか──は一気にランサーへの警戒を解いたらしい。へら、と相好を崩し、ランサーを見上げている。 無警戒に此方を仰ぐ彼女を見ていると、やはり年相応、もしくは少し幼い少女そのもので、ランサーは溜息を吐き出しながら青い髪をガリガリと掻いた。
──調子狂うぜ、ほんと。内心でそんなことを呟きながら彼は「少し待ってろ」と彼女をその場に残して聖堂の中に置き去りにされた『それ』を手に取った。
「──これ、嬢ちゃんのだろう?」
「! 僕のマフラー!」
手にした『それ』に少女の顔が明るくなったのを確認し、改めて男──ランサーは肩をすくめて、厄介なことになったと溜め息を吐くのだった。
【地固まる】
(お気に入りだったんだ、これ)
(……そうかい)