二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- セントウ-eins- ( No.132 )
- 日時: 2016/02/03 22:50
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: Lswa/LrZ)
空間が、徐々に凍りついていく。
風の唸りと、既に足元が凍りついたルサルカの悲鳴に似た奇声が響く。
どうやら大切な存在を奪われ、止め処なく膨れ上がった氷海の冷気が、ルサルカの吸収能力に勝ったようだ。
「…。」
この空間で、氷海は一人、色々なことを思い出していた。
家族は忙しくて、いつもひとりぼっちだったこと。
両親がパステルくんをつれてきて、はじめての友達ができたこと。
高校に上がり、烈や鈴花と出会ったこと。
一年の途中で、風雅が転校してきたこと。
つぎドカ!バトルで烈に負けて悔しい思いをしたこと。
(色々、あったわね。)
いつしかひとりぼっちだった時の自分はいなくなり、彼女の周りには、いつだって誰かがいてくれるようになった。
「うわっ! 何だよこの結界!」
「あ、オミノス! 遅い! 事情は後で話すから、今はこれを壊して!」
「わ、わわわわかったよ!」
外では、ようやくオミノスが来たようだ。
だが、既に手遅れ、だろう。氷海は自分の死を感じていた。
(氷属性の私でも、こんな寒いところにいたら凍死するわ。)
自分の死を感じ取った直後、様々な人物達の顔が浮かぶ。
(…さっきのも、今のも…走馬灯というものかしらね。)
浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。
ルサルカが完全に凍りついた時、その体内に浮かんできた顔で、思い出す。
(セシル…。そうだわ。セシルがあの中に閉じ込められてる。)
スッ、と音もなく立ち上がり、ルサルカに近づく。
(姉さんを、返してもらうわよ。)
そして、その足を振り上げ、ルサルカを砕いた。完全に固まったルサルカは、容易に砕けた。美しい水色の欠片を散らしながら。
そして、現れたセシルの体を、氷海はいとおしそうに抱き締めてから、倒れた。
(…姉さん。一緒に、逝こう。)
薄れていく意識の中で、氷海は一人そんなことを思った。
(烈…。私も今、そっちにいくわね…。天国で…一緒に、なれたら…いいわね…。)
向こうで待っている最愛の赤。彼の笑顔が最期に浮かんだ時、氷海は深い眠りについた…。
39.57
青柳氷海 強制失格
残り6人
「氷海ちゃん!」
バンッ! と大きな音を立ててドアが開かれる。アヤメとオミノスが、ようやく扉を開けられたようだ。
「な、何だよこの寒さ…!」
「ほ、ホントに寒い…。氷海ちゃん、どこ…!?」
「…!」
二人は氷海がどこか探していると、クー・フーリンが走る。
「あ、クー!」
「あ、どこ行くんだよ馬!」
二人はクー・フーリンを追いかけ、寒い中走る。が、
「アヤメ殿とオミノス殿は外にいてくだされ! そして、炎の魔法の準備を!」
「えっ、ほ、炎ってどう言うこと!? クー!」
「! わ、わわわわかった! アヤメ、ぼさっとすんな!」
クー・フーリンが言いたいことがわかったのか、いまだ分かっていないアヤメを引き連れ、オミノスは部屋の外へと向かった。
「オミノス、どういうこと? 何でクーは炎なんか…。」
「分からないのか!? 今の祭壇の間の温度は、生物が平気でいられるものじゃない! 氷海は早く暖めないとダメなんだよ!」
「あっ…!」
オミノスの言葉でようやく察したのか、アヤメはすぐに準備を始めた。
程なくして、クー・フーリンは横抱きにした何かを持ってきた。
「!」
「やっぱり…!」
その何かにアヤメは息を呑み、オミノスは苦痛な表情を浮かべた。
それは、完全に凍りついた氷海と、セシルだった。
「アヤメ!」
「! う、うん!【ブレイジングミスト】!」
「(本当は、別の機会に使いたかった奴だけど、覚えておいてよかった…。)【ファイジャ】!」
アヤメは炎系精霊魔法【ブレイジング】に毎ターン修飾した魔法が放たれる修飾句【ミスト】を使い、オミノスは覚えておいた炎系最上級黒魔法【ファイジャ】で生み出した炎を氷海の周りに漂わせる。
二人の炎魔法により、部屋は熱気に包まれた。にも関わらず、氷海の体は熱を帯びるばかりで、生気を取り戻すことはなかった。
「クソッ、クソォッ!」
「そ、そんな…! 嫌…!」
オミノスは嘆きながらも魔力を炎に注ぐことをやめない。アヤメも目から涙をこぼしつつも、諦めたくないのか、人形を強く握りしめながら、祈り続けた。
- セントウ-eins- ( No.133 )
- 日時: 2016/02/03 22:56
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: Lswa/LrZ)
「!?」
クー・フーリンは何かを感じたのか、銃を取り出して入り口の方を見た。
「クー!?」
「誰か来ます! アヤメ殿とオミノス殿はそのまま氷海殿を!」
「わ、わかった!」
アヤメとオミノスは入り口から来る誰かをオミノスに任せ、自分達は氷海を暖め続ける。
しばらくして、二つの足音がクー・フーリンの耳に届いた。
「止まれ!」
クー・フーリンは銃を構え、影に向けて叫ぶ。
「わぁっ! ぐ、グレゴグレゴ! お馬さんがしゃべったよ!!」
「いやー、あれ、馬か? 上が人で下が馬って聞いたことねぇぞ? っと、奴が何を持ってるか知らんが、なーんか敵視されてる気がするな。」
現れた影は、幼い少女と、グレゴと呼ばれたちょっと間の抜けたおじさん。端から見ると、まるで親子のようだ。
「お前達は何者だ? 幼子が何故ここにいる。」
「むっ! ノノ、子供じゃないもん!」
「いやー、わりぃが俺から見ても子供にしか見えねぇわ。おっと、俺らは敵じゃねぇ。クロムに雇われて来た、お前らの仲間だ。」
クー・フーリンはおじさん…グレゴの目を見てから、銃を下ろした。
「…嘘を言っている目ではなさそうだな。すまなかった。そなた達を信用しよう。」
「わかってくれりゃあいい。…自己紹介はあとにした方が良さそうだな。」
グレゴは急に表情を変え、クー・フーリンの後ろを見た。少女…ノノも気づき、素早く駆け寄った。
「大変! グレゴ、この人、息してないよ!」
「ノノ、お前は何とかして息を吹き返す手伝いをしてやれ! 竜にはならなくていい! …何があったか説明しちゃくれねぇか?」
ノノに命じたグレゴは、クー・フーリンに事情を聴くために、彼に話しかける。
「我らにも、正直何がなんだか…。ただ、普通に警備を頼まれていただけなのだが、いつの間にかあのディアマンテは現れ、氷海殿がああなってしまったのだ…。」
「俺らも、クロムにただ警備を頼まれただけだ。人は多い方がいいって言われてな。…まぁ、遠方にいる仲間を招集してて、異世界に行く為に潜る“異界の門”っつー場所の前にいくのが遅くなった上に、そこが理由はわからんが塞がれて、ナーガっつー竜を頼りに行ったがそこでも時間を食っちまってな。こうして遅れちまったわけだが。」
グレゴはこうなるならもう少し早く来てれば、と心の中で一人思う。
(来る最中にンンともはぐれちまうし、いったい何に首突っ込んだんだ? 聖王様は。)
「グレゴー!」
一人思案している間に、ノノが自分を呼ぶ。その声がどこか上ずっているのを感じ、悟った。
「…。」
グレゴは小さく溜息をつき、ノノに近づく。
(…まるで、寝てるみてぇだが…。)
そして、ノノを素通りし、氷海の首辺りにそっと触れる。
「…もう、手遅れだ。」
「! そ、そんな…!」
「嬢ちゃん、辛いかも知れねぇが、事実だ。この嬢ちゃんと、そっちの犬みてぇな奴はもう、死んでる。…そっちのボウズも馬みてぇな奴も、気づいてたんだろ?」
グレゴの問いに、クー・フーリンとオミノスは頷いた。
ようやく、アヤメも諦めがついたのか、がっくりと膝を落とし、泣き出した。クー・フーリンはそんなアヤメの側により、支えた。
「…何が、炎の魔道士だ…。その炎が人を“救う”時に、なんにも役に立ちやしなかったじゃないか! クソッ、チクショウッ!!」
オミノスも杖を取り落とし、泣き崩れる。
「グレゴ…。」
そんな様子を見て、ノノはグレゴに近づく。少し、潤んだ目をしながら。
「ノノ、これはもう、クロムに言われた通りの警備だけじゃすまなさそうだ。」
「ノノ達、どうなっちゃうの? ンンともはぐれたし、不安だよ…。」
「…わからねぇ。だが…。」
氷海の遺体と、泣き崩れるアヤメとオミノスを見て、グレゴはノノの頭をポンポンと撫でた。
「今は…しばらく、こうさせてやろう。」
「うん…。」
ノノはグレゴの服の裾を、ぎゅっと握りしめた。その手が不安そうに震えていたのは、グレゴしか知らない…。
- セントウ-eins- ( No.134 )
- 日時: 2016/02/03 23:02
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: Lswa/LrZ)
「えぇ〜っとぉ〜。」
エイゼン・ユノハナにて、ベアリングはうろうろしていた。
「ホーリーピラーは歩いていけねぇ〜しぃ〜、船もねぇ〜しぃ〜。」
そう、ホーリーピラーは海の上。飛行船でもなければ、近づくことさえできない。
仮に時空の羅針盤が見つかったとしても、いくまでの方法が見つからなければ水の泡だ。
「なぁ〜んかいい方法ねぇ〜かなぁ〜。」
うろうろしつつも、入ったのは、ユノハナ名物である全快の湯がある温泉だ。
「いらっしゃいませ〜。」
中に入ると、桃色の着物が似合う女将らしき人が挨拶をしてきた。
「あいにく、全快の湯は本日臨時休業しておりまして〜、ご利用できないのですが〜。」
「あ〜、ここが噂の、全快の湯がある旅館かぁ〜。残念だなぁ〜。全快の湯に入ってみたかったのによぉ〜。」
女将がそう言うと、ベアリングはしょんぼりと項垂れた。整体師の資格を数多く持つ彼は、全快の湯のことも聞き及んでいたのだろう。一度でいいから入ってみたいと考えたが、逃走中に使わないので利用不可能なのだろう。
「その代わり〜、皆さんを運ぶ“湯船”としてなら、ご提供できますよ〜。」
「“湯槽”かぁ〜。風呂釜はいいやぁ〜。」
湯船と湯槽を聞き間違えたと言うか、これが船だと思ってないベアリングは、素直に遠慮した。
「違いますよ〜。お風呂釜じゃないですよ〜。空飛ぶ温泉“湯船”として、ご提供できますよ〜。丁度、お客様が探していた空飛ぶ船ですよ〜。」
「なぁんだ、飛行船だったのかぁ〜。よくオレが船探してるってわかったなぁ〜。」
「旅館の中までよ〜く聞こえましたよ〜。昴さんがこの湯船だけ、本物を持ってきたので、すぐに飛び立つことは可能ですよ〜。運転はこの私、この旅館の女将でありますサクラが勤めさせていただきます〜。」
この全快の湯がある旅館兼、飛行船“湯船”は、以前ユウ達が空の足として使っていた船であり、どうやらこの湯船だけは、実際に使っていたものをそのままルクセンダルクから転移させたようだ。この船の舵を握っていた女将、サクラと一緒に。
「おぉ〜! 助かったぜぇ〜! しっかし、湯船たぁ誰が名付けたんだぁ〜? ややっこしいなぁ〜。」
「ユウさんが名前を付けてくれました〜。」
ちなみにこの湯船という船の名付け親はユウであり、彼曰く、他にも候補があったが、いずれも団栗の背比べであった為か、マグノリアが強制的に湯船と決定付けたのだ。
「では〜、時間もなさそうですので、サクッと出発しましょ〜。」
「おぉ〜!」
ほんわかとした会話を繰り広げた後、サクラは上に向かう。露天風呂を抜け、最上階へと辿り着くと、そこには温泉宿にあるのはおかしい、操舵輪があった。
「では〜、湯船、しゅっぱ〜つ!」
「おぉ〜っ!」
サクラが操舵輪を操作すると、少しの揺れと共に、湯船が浮き上がった。
温泉のお湯を循環させ、熱を与えてサジッタで採れた鉱石に作用させ、浮き上がる仕組みなのだ。
そんな仕組みを知らずに、ベアリングは湯船と共に空へと飛び立った。
「ところで、目的地はどこですか〜?」
「あ、ナントカバンがねぇ〜から、このままホーリーピラー向かっても無駄だなぁ〜。」
「そうですね〜。」
…湯船内で、しばらく笑い声が響いた。
- セントウ-eins- ( No.135 )
- 日時: 2016/02/03 23:07
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: Lswa/LrZ)
ナダラケス・風のクリスタル前…。
風雅はヨーヨーを操り、冷気を纏った青い首に巻き付ける。
「グアッ!」
突然絡まった細い糸を凍らせようとしていたのか、青い首は冷気を放出させる。
これが、風雅の狙いだった。
「セオリー通りなら、正直烈と氷海がいてくれた方がありがたいけど、僕だって方法がないわけじゃないもんね。」
風雅はにやりと笑うと、冷気を風で絡め取り、そして…。
「自分自身の攻撃で、落ちろ!」
もう一方の首に、勢いよくぶつけた。
「グアァッ!!」
オルトロスの首の一方、熱気を纏っていた赤い首が、だらりと下がった。弱点である冷気をまともに食らい、それ以上もたげる事はなかった。
風雅はそれを見ると、ヨーヨーを外してオルトロスと距離を取る。これであとはもう一つの首だけだ。
(さっきの戦法はもう使えない。あとは、地道に削っていくだけ…!)
相手の様子を伺い、油断なく身構える。
オルトロスは唸り声をあげ、一気に風雅に詰め寄った。風雅はとっさの事で反応できず、接近を許す。
「なっ!(まずい、懐に…!)」
一気に風雅の懐に飛び込んだオルトロスは、その風雅の細首目掛け、大きく口を開いた。
「っ、うっ…!」
鋭い痛みが、喉に、首全体に走った。
風雅はその時、自分の敗北を確信した。同時に、自分の死も。
(こんなところで、負けたくない…! せめて、せめて、フランシスの、仇だけでも…!)
どうにかできないかと考えた風雅は、最後の希望を込めて、手を伸ばす。
すると、その手にある物が触れた。
(! これ…!)
風雅は意を決し、その何かを引き抜いた。
そして振り上げ、未だに自分に噛みついているオルトロスの頭まで持っていくと…。
(お前が葬ったフランシスの刃だ。とくと、味わえ!)
一気に、頭を貫通させるように、突き立てた。
オルトロスの残った頭は、ブルブルと震え、風雅を放し、いつしか動かなくなった。
(あ、はは…。なんてもの、遺してくれたんだよ、フランシス…。まぁ、お陰で、勝てたけど。)
喉をやられたからか、声が出ない。だが、それでもフランシスに感謝したかった。
最後にその手に触れたのは、フランシスの遺した刃。その手に触れた刃を掴んだ瞬間、風雅は思わず、安堵したのを覚えている。
(この血の量じゃ、時間の問題、かな…。)
動脈をやられたのか、出血が激しい。風雅は自分の残り時間を悟り、目を閉じた。
(ごめん、昴さん、凪…。みんなが無事か、確かめたかったけど…僕は、ここまでみたい。)
昴達に悔いていると、背後の扉が勢いよく開かれた。
「風雅!」
ジャッカルの声が響く。だが開かれた扉の奥に、感じ慣れない気配がして風雅は疑問に思うが、振り返る余裕はない。
背後から、二人程駆け寄ってくるのが分かった。一つはナジット。そしてもう一つは、感じ慣れない気配。
(…なんとなく、大丈夫。あの人は、敵じゃ、ない…。あぁ、やばい、眠くなって、来た…。烈…。鈴花…。フランシス…。僕も、今、そっちに…。)
風雅は安心して、意識を風のように散らせた。
38.03
緑谷風雅 強制失格
残り5人
- セントウ-eins- ( No.136 )
- 日時: 2016/02/03 23:13
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: Lswa/LrZ)
「…。」
傾く風雅の体を受け止めたのは、兎のような長い耳を持った女性。
「よく、頑張ったわね。」
「…。」
女性は、ただそれだけを呟いた。
隣ではナジットも、今の風雅の状態を察したのか、目を閉じ、黙って俯いてしまった。
「た、大変! すぐに手当てしなきゃ!【リカバー】!」
その様子を見た魔法使いのような姿をした男の子が、杖を取り出して必死に風雅に回復術をかける。だが、風雅の目が開かれることはなかった。
「死んじゃだめだよ!【リカバー】!【リカバー】!」
「やめなさい、リヒト。…既に、手遅れよ。」
兎の女性は静かに男の子…リヒトに告げる。
「だって! だって!」
「彼は独りで戦ったわ。勇敢にね。そして、私達の障害を取り除いてくれた。その想いを無駄にしてはならないわ。」
「ああ、友を失い、それでも一人ここに残り、勇敢に散った。今、ここですべきことは、効果のない回復術をかける事じゃない。…ニコライ、お前もそう思ったから、お前の得意な神聖魔法を使わなかったのだろう?」
「…。」
ナジットに問いかけられ、ニコライは苦悶の表情で頷いた。
「そ、そんな…! う、嘘だろ…!?」
「あ、あわわ、あわわわわわわわ…! ど、どどどどうしたらいいである!? どどどどうすれば…!」
「…。」
風雅の死にショックを受けたのか、ジャッカルは茫然と首を振って呟き、マヌマットは完全に狼狽えている。そんな横で、ニコライは兎の女性を見た。
「…ベルベット殿。申し訳ないが、彼をあの祭壇の所までお願いします。何もできなかった償いとは言いませんが、せめて、祈りを。」
「わかったわ。」
兎の女性…ベルベットは、風雅の体を横抱きにし、祭壇まで運んだ。
「…。」
その横では、ジャッカルがそっと離れ、ある場所まで行った。
「…? ジャッカル殿?」
「…フランシスも、横で寝かせてやりてぇって思ったんだよ。」
そこは、フランシスの亡骸がある場所。ジャッカルはせめて、最期くらいは二人でゆっくり眠って欲しいと考えたのだろう。
「意見がすれ違ってもさ、心のどっかでは繋がってるって凪が言ってたんだ。だから、普段憎まれ口叩いてても、二人はホントは、仲が良かったと思うんだ。だから…。」
「…そうだな。ジャッカル、フランシスを風雅の横に寝かせてやれ。」
ナジットに言われ、ジャッカルは頷き、そっと風雅の横にフランシスを寝かせた。
「…。」
ニコライは静かに、目を閉じる。ナジットも、ジャッカルも、静かに目を閉じた。
マヌマットもようやく平静を取り戻したのか、目を閉じて静かに祈り始めた。
「…ベルベットさん、僕達も祈ろう?」
「そうね。」
リヒトもベルベットも、静かに目を閉じた。
暫しの間、勇敢に戦い、散った仲間に、冥福を祈る。
しばらく、そうしていたが、一斉に目を開ける。
「…それで、何があったか説明して貰えるかしら。私達は詳しい説明もないまま警備を頼まれたのだけど。」
「それは、私達の方でも同じです。恐らく、本当に、他意はなく、最初はただ気楽な気持ちでの警備を頼んだのでしょう。ですが、状況は一変しました。」
ベルベットの問いに、ニコライが静かに答える。
「まるで二年前のルクセンダルクに起こった災厄の再現。そして、魔王ディアマンテの出現…。いくら昴殿が神でも、ここまで大掛かりな事をするとは思えません。」
「ああ。この逃走劇は、既に昴達があずかり知らぬところまで奪われたのかも知れない。その逃走劇を奪った奴が、あのディアマンテを喚んだのだろう。そして、風雅達が死ぬ原因を作ったのも、恐らく…。」
「私の仲間の一人が、何かを感じて警備を離れました。恐らく、この一件について、何か悟っているのでしょう。できれば彼と合流したいのですが…。」
ナジット、そしてニコライは、静かにそう説明した。ベルベットはそれを聞き、静かに頷いた。
「私達も、クロムと合流した方がよさそうね。これはもう、単なる警備じゃないわ。」
「うん、僕もそうした方がいいと思う。」
「では、行きましょう。行動は早い方がいいですからね。」
一同は静かに、風の神殿を後にした…。
- セントウ-eins- ( No.137 )
- 日時: 2016/02/05 23:35
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: GlabL33E)
ユルヤナ地方・仕立て屋内の牢獄。
「…。」
全員、今届けられたメールに、衝撃を受けていた。
『青柳氷海、緑谷風雅。死亡による強制失格。残り5人。』
「そ、そんな…! 氷海ちゃんと風雅君まで!?」
「嘘、だよ…! そんなの、そんなの嘘だよ!」
千枝とイデアは突然の訃報に衝撃が大きすぎて、信じたくないのか、必死に拒絶する。
他のメンバーも、その内容を信じまいとしていた。
「…。」
だが、レヴナントは違っていた。何故なら、彼には見えていたから。
みんなの側で、申し訳なさそうに俯く、半透明な烈達の姿が。それに寄り添うように、リリィ達の姿も見えてしまっていた。
「…。」
このメールは本当の事だ、と言うのは容易かった。だが、レヴナントはそれをしなかった。子供心に、言わない方がいいと判断したのだろう。
恐らく、それは正解だったと思う。この場で真実を言ってしまうと、ショックが大きすぎる。早いか遅いかの違いでしかないが、心が強く揺れた状態の人物にかける言葉としては相応しくない。
(…葉月も、見えて辛いって時、あったのかな? 死んじゃった人間の魂が見えて、辛いって思った時、あったかな…。)
レヴナントは一人、心の中で思った。
そんな中で、葉月と完二が戻ってくる。完二のその表情は、どこか生気が戻ってきていた。
「あ、完二君…!」
「ただいまッス。心配、かけました。」
完二はぺこりとお辞儀をして、謝罪をする。いくら動揺が大きかったとはいえ、心配をかけたのは事実だと、そう思っていた。
「巽君、あの…。」
「大丈夫だ、直斗。葉月センパイから聞いてる。…あいつらも、死んだんだろ?」
そう告げた完二の後に、直斗は小さく頷いた。
この時、葉月からはリリィ達も死んだと聞かされたが、その先を告げるのが怖くて、完二はあえて触れずにいた。いつか知る話題だとはいえ、烈達の死でここまでショックが大きいのだ。話すのは得策ではないと、完二は考えたようだ。
「…そして、今…また、二つの魂がここに現れた。」
葉月はぽつりと、空を仰ぎながら呟いた。
「え…! だ、誰が…!」
千枝の言葉に答えず、葉月は続ける。
「…お願いだから、そんな顔しないでよ…。見えちゃってるの、わかってるでしょ…!」
涙を堪えるようにして、誰かに話す葉月。いつしかその目から、涙が伝い落ちてきた。
「悲しそうな顔しないでよ! 見えてるこっちも辛いんだよ! 何で、何でそんな目で見つめるの…!」
葉月の言葉で、誰が来たか、察してしまった。
ここまで彼女が感情的になる人物。仲間を思う彼女が、長年連れ添った、仲間。
「お願いだから、そんな顔しないでよ! 理乃も、七海も!」
葉月が叫び、膝を折る。
同時に、メールが届いた。
『金杉七海、(裏切り者)桜坂理乃、死亡により強制失格。残り3人』
彼女達をより深い絶望へと叩き落す、非情なる通告が…。