二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- セントウ-null- ( No.141 )
- 日時: 2016/02/05 22:46
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: FaTZyWHd)
時を戻し、セシルとフランシスの訃報から、少し前。
ユルヤナ地方・祈祷衣の洞窟。
「…どこだろうね、その、じくーのナントカバン。」
「時空の羅針盤よ。貴方、ミネットさんと同じレベルの脳なの? 本当にもう…。」
呆れる理乃と、いつものように話しながら歩みを進める七海。
逃走中が誰かに乗っ取られているにもかかわらず、こうして話し込んでいるのは、まだわずかの余裕があるのだろう。
「帰ったら勉強いっぱいしましょうね。」
「嫌だ!」
「しましょうね?」
「はい。」
力説をしながら否定するも、すぐに理乃の威圧に承諾する七海。
あまりのいつも通りの二人に、当時は誰も思わなかっただろう。二人が、死を迎えることなど。
「ふいー、ねー、理乃。ここ地下何階?」
「階層で言うのかわからないけど、随分下ってきたわよね。そろそろ最下層じゃないかな?」
「むー、どこなの、じくーのナントカバンー。」
「じ・く・う・の・ら・し・ん・ば・ん、だってば…。」
溜息をつきつつも、理乃は先に進む。どうやらいつしか、この祈祷衣の洞窟最奥である、地下三階にやってきたようだ。
「あれ? 何か紙がある。」
ここには、七海が言った通り辺りに紙が散らばっている。七海は手に取り、見てみるがすぐに首を傾げる。どうやら何が書いてあったか、わからないようだ。
だが理乃は、この紙の意味を知っており、驚いていた。
「…凄い、こんな綿密な計画を練っていたのね、ブレイブさんは…。というか必要のない場所なのにここも再現したんだ…。」
「理乃、これ何?」
「ここは、ブレイブさんと老師様、レスター卿の三人が、エタルニア奪還のために計画していた場所。ここに散らばっているのは、当時の計画書とかいった資料ね。」
「ふーん、何かよくわかんないけど、ブレイブが凄いのはなんとなく察した。」
何となくだけ察してくれただけでもありがたいと感じていた理乃は、とりあえず七海をスルーして先に向かう。
程なくして、行き止まりに行きつくも、理乃は目の前にあったものを…本来、ここにあるはずのないものを見た。
「うひゃー、でっかい結晶。真ん中になんかあるけど、あれってもしかして…。」
「ええ、あれこそ、時空の羅針盤よ。」
そこにあったのは、巨大な水晶。そしてその中心には、羅針盤のようなものがあった。理乃達が探している、時空の羅針盤だ。
「んじゃ、手堅く私のパンチで行く?」
「砕けると思えないんだけど…。ひとまずお願い、七海。」
「あいさー!」
七海は理乃の願いに答えるかのように、結晶に向かってその自慢の馬鹿力を繰り出した。
が、結晶は僅かに欠けるだけで、特に変化はないようだ。
「理乃、無理。」
「でしょうね。」
見てわかる事を即座に言いのける七海に、理乃はただそれだけを言うのみで、特に言う事もないようだ。
「むー、でも、どうしたら壊れるの、これ。」
「んー、魔法でも壊れるとも思えないし…。色々試してみるにも時間がないし…。」
思案している時間はないのだが、壊す方法がわからない以上、ここで立ち止まるしかない。
そんな時、七海の端末が鳴り響いた。
「およ、メールだ。」
七海は自然な動作で端末を取り出し、確認する。
『祈りを捧げよ。さすれば結晶は砕け、羅針盤を得られるだろう。』
理乃は七海の端末を覗き見てから、七海を見る。
「どうやら、あのクリスタルに祈りを捧げればいいみたいね。」
「祈るって、ただ祈るポーズしてればいいのかな?」
「多分ね。とにかく、やってみましょう。」
「うん。」
二人は、結晶の前に立つと、静かに手を組み、目を閉じた。
- セントウ-null- ( No.142 )
- 日時: 2016/02/05 22:52
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: FaTZyWHd)
しばらく経ち、強く祈り続けていると、結晶が眩い光に包まれた。
「っ、ぐっ、うぅ…!」
突然、抜けていく力に、二人は思わずよろめきそうになった。
「り、理乃、これ…!」
「図られ、た、わね…! これが、黒幕の、用意していた、罠…!」
二人の顔色は、すこぶる悪くなる。
疲れの色が大きくにじみ出ていた。
「あいつ、らは…私達の、魔力を、奪うつもり、だったのね…!」
「魔力、空っぽになったら、元気でないし、ね…。」
そう、祈りを捧げているだけだと思われていたこの儀式は、彼女達二人の魔力を大幅に削っているのだ。
魔力がなくなる事は、二人にとって体力がなくなる事と同じ。ここで力尽きても、おかしくないのだ。
「…もしかしたら、このミッション…。」
「ほぇ? 何、理乃…。」
「…ううん、何でも…。七海、もう一息、よ…!」
何か、嫌な予感が想像ついてしまった理乃だが、そんなことに構っている暇はない。
結晶は既にひびを大きくし、あと一息で割れそうなところまで来ていた。
「う、っしゃー…! がんば、る…! ぞーっ!」
七海が気合を入れ、理乃も感化されてか、強く手を握る。
その思いが通じたのか、ガラスが割れるような大きな音が響き、結晶が崩れ落ちた。
同時に、二人共崩れ落ちる。
「っ、ふぁー…。つ、疲れた…。」
「ほ、ほんとにね…。でも、何とかミッション、クリアには、一歩近づいたかな…。」
理乃はふらふらとする体で、結晶から出てきたものに近づいた。そう、時空の羅針盤だ。
「これが…時空の、羅針盤…。現物は、始めて、見た…。」
「何か、方位磁石、みたい…。」
「だから、羅針盤、だってば…。」
こんな時でも、いつもの様子は崩さない二人。だが、目に見えて顔色が悪い。かなりの魔力を奪われたのだろう。
「七海…行けそう…?」
「ん、まぁ…理乃、担いで、出るくらいなら…。」
「悪いわ、ね…。私、難しい、かも…。」
どうやら理乃は動けず、七海はなんとか動けるくらいのようだ。
こうして話している間にも、刻一刻と時間が過ぎる。七海は理乃を負ぶさり、地上へと歩き出した。
- セントウ-null- ( No.143 )
- 日時: 2016/02/05 22:58
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: FaTZyWHd)
一方、マグノリアはジャンと共に祈祷衣の洞窟入口に来ていた。
「でも、ここって立ち入り禁止区域だったはずよね? 何で開いてるのかしら。」
「大方、誰かが結界を開いたんだろうよ。行くぞ、マグノリア。」
「ええ。」
二人は中に足を踏み入れる。結界なんてものはなく、特に弾かれたりすることなく中に入れた。
「第一、何でここが必要だったのかしら。」
「さぁな。それはここの結界を解いた奴に聞いてくれ。」
「それは無理ね。だって聞く耳持たないし。その前に武器取り出して振り上げるわ。神であろうと、容赦はしない。」
(まだ疑ってんのかよこいつは…。)
いまだに昴達のことを疑いの眼差しで見るマグノリアに、ジャンはもう何を言っても無駄だと悟ったのか、これ以上何か言うことはしなかった。
(こいつ、実際に昴達が被害者になった姿を見なきゃ信じねぇタイプだよな。はぁ、何でユウもこんな奴に惚れたんだか…。アイツ等の結婚生活、マジで不安なんだが。)
もう呆れて物も言えないジャンは、めんどくさそうに頭を掻きながら、先に進む。こっそりと、親友の今後を心配しながら。
「(…はぁ、どうすっかなぁ…。何とかして昴達の誤解とかねぇ、とっ!?)うわっ!」
「きゃっ!」
ジャンがどうしようかと考えていると、突然物凄い地震が起き、二人して体勢を崩した。
「な、何、地震!?」
「(何でいきなり地震がっ!? って、所々崩れてやがる!)まさか、この地震で生き埋めにする気か!?」
「なっ、ジャン、急ぐわよ!」
「わぁってる!!(裏切り者の口封じって奴か!? んなことさせっかよ!)」
二人は急ぎ、最奥まで向かう。手遅れにならぬよう、中にいる人達の無事を祈りながら。
- セントウ-null- ( No.144 )
- 日時: 2016/02/05 23:03
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: FaTZyWHd)
「…!」
異変は、理乃と七海も感じ取っていた。
そして崩落する岩盤も、見えた。
「…徹底的に、私を潰す気ね…。大方、内部分裂、狙い…かな。」
「これ、ただの、地震じゃないよ…。多分、魔法、だと思う…。」
息も絶え絶えに、七海が告げると、理乃は小さく頷き、笑った。
「あら、珍しい…。それが、わかるなんて…。」
「むー、ただの、馬鹿じゃ、ないもん…。私だって、理乃達と、おんなじだもん…。」
「…試練の時、知力を使うのに、そっちのけで、大地の、砂漠を…破壊しまくって…何が、司なんだか…。」
理乃がそう言うと、七海は「うぐ。」と小さく唸った。
「…何で、んな昔のこと、持ち出しちゃうかな…。」
「さぁ、ね…。もしかしたら、悟ってるから、かな…。」
「あはは、奇遇…。私も、そう。」
「伊達に、旅、してないもんね…。自分の死期、くらい…悟っちゃう、よね…。」
どうやらこの二人は、察してしまったようだ。
奇跡でも起きない限り、誰かが迎えに来ない限り、自分達は助からないと。この疲労度では、まず脱出は不可能だと。
だが、死ぬ前にやらなければならないことがある。
「せめて…この羅針盤、届けないと…。」
「だね…。この世界、救うには…そうしないと、ね…。」
そう、今理乃の手にある、時空の羅針盤を誰かに託すこと。
ディアマンテが不死の存在である以上、この世界を救うには、かつてデニーがやったように、未来へと飛ばす。この方法しかない。
「…?」
ふと、風がある気配を運ぶ。見知った気配に、理乃は少し、安堵した。
「…どしたの?」
「ジャンさんと、マグノリアさんの、気配…。私達に、少しは、ツキが、回ってきた、かな…。」
「あははー…。まぁ、ほんとに、少しっぽい、けどね…。」
七海は少し悲しそうに、膝を折りながら言った。
「…そうね…。」
理乃もポツリと呟く。
二人の目の前に見える道が、途切れていた。恐らく、崩落したのだろう。
理乃ならば抱えて飛ぶことは造作もないが、今の彼女は魔力がほぼ空。魔力で風を操って飛ぶので、今の状態では不可能だ。
「まさか、最期の時間を、貴方と…過ごす、なんてね…。」
「まー、運命、ってやつ…?」
七海が言うと、二人して笑った。
「…まぁ、正直…貴方が、一緒で…よかった…。何だかんだで、いて、楽しいし…。」
「にゃはー…。それは、どもども…。」
普段は馬鹿でどうしようもなくて、度々自分を困らせる存在。
でも、心の底では、どうしても頼ってしまう存在。自分を救ってくれた恩人。再び力を使う決意をさせてくれた恩人。
(最期の時間を…七海と、過ごせてよかった。)
理乃は思わず、涙ぐむ。死に直面してなお、彼女のことを突っ返せない自分に気がついた嬉しさに。最期まで、共にいてくれた親友に。
- セントウ-null- ( No.145 )
- 日時: 2016/02/05 23:09
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: FaTZyWHd)
「理乃! 七海!」
穏やかな時間の中に、声が響く。
ジャンと、マグノリアがやって来たのだ。
「おー、ジャンと、マグノリア…。」
「お前ら、何してんだよ! 早くこっち渡ってこい!」
「頑張ってジャンプすれば届くはずよ! 早くしないと、埋もれるわよ!」
確かにジャンプすれば届くだろうが、七海はしなかった。
(流石に二人分はね…。)
理乃を置けば、一人ならば、恐らく渡れただろう。だが、歩けないほどに削られた彼女はどうなる。ここに置き去りにするのか?
「…ごめん、ジャン、マグノリア…。私達、ここで、おしまいみたい…。」
「馬鹿! 馬鹿が諦めんじゃねぇ! 昴との…アイツとの約束、どうすんだよ! 今が“有事の際”じゃねぇのかよ!」
「お願い! 早くこっちに渡って!」
「…せめて、渡すもんは、渡しとかないと、ねっ!」
七海は理乃の懐から端末と創世手帳を取りだし、自分の端末と一緒に、ジャンに向けて投げた。直後、時空の羅針盤をマグノリアに向けて、投げる。
「おわっ…!」
「きゃっ!」
二人はしっかりと、それをキャッチした。そして、七海の姿をとらえる。
「ジャン、マグノリア、信じて。理乃は、みんなを裏切りたくて、裏切ったんじゃない。昴さんは、こうしたくて、したんじゃない。」
「わかってる! んなこと、みんなわかってるよ! この逃走中がおかしなことになったのも、理乃が金のために裏切ったわけじゃねぇのも! つか、言いたいことあるなら、直接弁解しろよ!」
ジャンは叫ぶ。だが、その間にも崩落は進み、いつしかジャンプしても届かないくらい、穴が広がった。
「…行って、下さい、ジャンさん。マグノリアさんも。」
「だ、だけど! 二人を助けないと」
「駄目、です…。行って、下さい。…羅針盤がなければ、あいつを、倒せない…あいつの、驚異から、逃れられないのは、マグノリアさんが、一番、わかってる、はずです…。」
「あ…。」
ディアマンテと直接対面したマグノリアは、躊躇っていた。
奴を暴れさせないためには、この羅針盤で、遠い未来に飛ばさなければならないと、知っているから。だが、ここで二人を失ったら、後悔することも感づいていた。だから、理乃の説得にも、躊躇いを見せていた。
「マグノリア。」
「!」
「世界を救えるのは、今はマグノリアだけなんだよ。だったら、私達を切り捨てて、行って。」
「あ、あぁ…!」
「行って! 行け! ここで震えてる場合じゃない! 世界を救いたいなら、私達を切り捨てて、行け!」
七海の強い言葉に気圧されてか、その手にしっかりと抱き締めた時空の羅針盤を持つ手が震える。
何が最善の決断か、言わなくても、わかった。
「っ、ちく、しょうがあぁぁっ!」
「うあぁぁぁっ!!」
悔しい気持ちを押さえ、ジャンとマグノリアは、来た道を戻る。
「そう…。それで、いいんだよ、二人共…。」
七海はそう呟いて、理乃と共に、壁際に座る。
「…。」
瓦礫の崩れる音が響く。
だが、その音さえ、二人の耳には届かなかった。まるで、この空間だけ時が止まったかのようだ。
「…ねぇ、覚えてる? 理乃。私が崖から落ちて、瀕死の重傷を負った時。」
「覚えてる。…思い出深いよ。だって、私はそこで七海を治してなかったら、ここにはいなかったもの。」
「そうだったね。で、あれよあれよと言う間に司に選ばれちゃって、異世界旅して…。」
「…こうして、私達を生み出してくれた人が作った世界で、終わりを迎えようとしてる。…数奇な運命よね。」
理乃はポツリと呟く。自分達が生まれる切っ掛けであるスバルの世界で死ぬなんで、何の縁なんだろうと考えていた。だが、嫌悪感はなかった。むしろ、どこか晴れ晴れとしていた。
「…ね、理乃。生まれ変わってもさ、また、こうしていてもいい?」
「何よ、藪から棒に。…でも、悪くないわね。」
二人は、そっと手を重ね合わせる。
来世も、また共に生まれることを願い、二人は静かに、目を閉じた…。
37.21
金杉七海、(裏切り者)桜坂理乃 強制失格
残り3人
- セントウ-null- ( No.146 )
- 日時: 2016/02/05 23:14
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: FaTZyWHd)
崩落する祈祷衣の洞窟から、なんとか脱出したジャンとマグノリアは、二人して泣き崩れていた。
確かにあの場では二人を切り捨てることが最善の策だったかもしれない。だが、後ろめたさと、罪悪感。そして、助けられなかった後悔が立ち込めた。
「もう少し…もう少し早く、私達が踏み込んでいれば…!」
「…マグノリア。悔やむのは、すべて終わってからだ。」
「ジャン…。」
震える声で、マグノリアに言うジャン。それに答えるかのように、マグノリアは立ち上がった。
そんな二人の耳に、足音が聞こえた。
「な、何かあったの!?」
本を抱えたツインテールの少女が、ジャン達に聞いてくる。その後ろから、白いペガサスに乗った女性と、風もないのにマントを翻した青年と、まるで呪術師のような服を着た青年がやってくる。
「あなた達は…?」
「俺はクロム。こっちが妹のリズで、その旦那のフルーレ。それから、俺の妻のスミアだ。」
「クロム…あぁ、もしかして、マスハンから警備を頼まれたって言う…。」
“クロム”の名を聞いたジャンは、青年にそう尋ねた。青年—クロムは頷いた。
「ああ。…何があったんだ?」
「話してる時間はねぇ。…ただ、言えることは…中にいた奴等は、既に、手遅れだ。」
ジャンが冷たく告げると、クロムは苦い表情をしながら、「そうか…。」と返す。そして、ジャンは説明を続ける。
「詳しいことは、俺らもよくわかってねぇ。ただ、あんたらが頼まれた警備は、既にそれ以上の仕事をしなきゃならねぇのは確実だ。なんせ、この企画の発案者らが、既に何者かの手にかけられ、乗っ取られちまったんだからな。恐らく、マスハンも一緒だ。」
「そうか…。マスターハンドに詳しい話を聞かせてもらいたかったが…。」
「ところで、お前らん中で空飛べるのは…いるな。」
ペガサスに乗った女性—スミアに目を向け、ジャンは頷く。
「あ、あの、どうかなさいましたか?」
「…あの馬みてぇなバケモンを、未来に飛ばすために、こいつを連れてあの光の柱に近づかなきゃならねぇんだ。…手を貸してやってほしい。」
「スミア、手を貸してやれ。」
「わ、わかりました。」
そう言ってスミアはマグノリアをペガサスの背に乗せ、飛び立とうとした…所で、風を感じた。
「うぉ〜い、マ〜グノ〜リアァ〜!」
「え、この声…ベアリング!? てか湯船!?」
マグノリアは、風を運んだものを見て、驚く。そこにあったのは、自分達が世話になった、空の足。湯船があったのだ。
「マグノリアさ〜ん、乗ってくださ〜い。今、デニー陛下からマグノリアさんを乗せてなんとかぴらーの前にいけって言われましたので〜。」
どうやら、マグノリアが羅針盤を持っていることをデニーがどこからか知り、空を飛び回っていたサクラ達に恐らくアニエスのペンダントを用いて、連絡したのだろう。
「助かったわ! あなた達もひとまず一緒に。色々と、話さなきゃならないこと、あるでしょ?」
「わかった。」
湯船に乗り込むマグノリアと、クロム達。そして、ジャンが乗ったと同時に、湯船は発進した。
「…まずは、何から聞いたらいいんだ?」
「とりあえず、こっちの状況を話さないとな。」
ジャンはかいつまんで、今の状況をクロム達に話す。
この逃走中のあらまし。既に犠牲者は出てしまったこと。そして、これはすべて運営の意思ではないこと。それから、あのディアマンテのことや、時空の羅針盤を使って遠い未来に飛ばそうとしていること。
「…。」
「私達が遅くなったせいで、こんなことに…。う、うぅっ…!」
呪術師のような青年—フルーレは、泣き出したツインテ少女—リズをそっと支えた。
「…。」
マグノリアは、空気を読んでか昴達のことには黙ったままを貫き通した。それが、ジャンにとってはどれだけありがたかったかわからない。
「…とにかく、今はなんとかホーリーピラーまで向かう。手遅れになる前にな。」
「…。」
「ん? フルーレ、どうした。」
フルーレはクロムに何かを話しかける。だが、言葉として表に出ておらず、ジャン達には何を言っているのかはわからない。
「…なぁ、ジャン。」
「ん?」
「ここは、再現された世界なんだよな?」
「ああ。それが?」
「あのホーリーピラーっていうのも、形だけ再現して、その性能まで再現してないんじゃないかって、フルーレが心配しているんだが。」
「!」
クロムの言葉に、ジャンはビクリと体を震わせた。
(そうだ…! 何で、今まで気づかなかったんだ! ホーリーピラーを形だけ再現した可能性もある…! あのディアマンテはホーリーピラーなんかなくても、この世界を滅ぼすなんざ、容易い! これでホーリーピラーがただの光る柱だったら、アイツを未来に飛ばせねぇ!)
そう、ホーリーピラーの再現率がどれほどか、わからないのだ。
ただの光の柱として再現されているなら、そのエネルギーを利用して力を発揮させる時空の羅針盤は使えない。つまり、どのみちミッションは失敗。世界は滅亡する。
- セントウ-null- ( No.147 )
- 日時: 2016/02/05 23:19
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: FaTZyWHd)
「その心配はなさそうよ。」
マグノリアは、羅針盤を取り出す。針は振れ、光が帯びる。時空の羅針盤が動く証拠だ。
「どうやら、ホーリーピラーは完全に再現されてるみたいね。まぁ、確実にミッション失敗させるような鬼畜な案を与える訳じゃないみたいで安心したわ。」
「よかった…。」
そんな話をしている間に、ホーリーピラー内に辿り着く。時空の羅針盤は、光を強めていた。
「さぁ、あとはディアマンテが来るのを待つばかりね。」
「ああ。…。」
ジャンは一人、ルクセンダルクを眺めた。
ミッションクリアまで、世界を救うまで、あと一息。だが、この間に十人もの人間が死んでいる。
(犠牲のない平和なんてねぇ。だが、こんな平和なんか、嬉しくねぇよ…! なぁ、昴、プレア。お前達はこんな結末を思い描いた訳じゃねぇよな?)
—当たり前でしょ。他人を蹴落とし、切り捨て、失う平和なんてあってたまるもんですか。
ぽんっ、と創世手帳が飛び出す。
ジャンはなぜかその言葉に、安堵を覚えた。
—悔しいよ。誰がこんな馬鹿な真似したかはわからないけど、そいつを消去するまで、気がすまないよ…!
創世手帳に、僅かな染みができる。泣いているのだ、と直感でわかった。
(一番辛いのは、お前だよな…。みんなが楽しめるようあの馬鹿神と作ったゲームが、こんなんなっちまった上に…最愛の娘や息子とも呼べる、この世界の奴等を失っちまったんだからな…。元気だせ、とは言えねぇけど…あまり、気負わないでくれ?)
—…ありがと、ジャン君。さぁ、そろそろ時間だよ。
(ああ。)
ジャンは手帳を閉じ、ホーリーピラー内に侵入してきたディアマンテを見た。
「さぁ、これで最後よ、ディアマンテ!」
マグノリアは、その手に持った時空の羅針盤を、ディアマンテめがけて投げつけた。
「サクラさん、全速力!」
「はい〜! 振り落とされないよう気を付けて〜!」
ここにいては、自分達もジャンプに巻き込まれるとわかっていたマグノリアは、すぐにサクラにここを抜けるよう願う。サクラもそれに答え、すぐにホーリーピラーを脱出した。
同時に、ホーリーピラーが強く輝いた後、儚く消える。そこに、ディアマンテはいなかった。時空の羅針盤も、ない。
「や、やっ、た…?」
へたりこむマグノリアの耳に、端末の鳴る音が響く。
『マグノリア・アーチの活躍で、ミッションクリア。ゲームオーバーは阻止され、通常通りゲームを進行する。』
「…何が、通常通り進行する、よ…。」
思わず端末をへし折りそうになるマグノリア。ここまでに至る道での犠牲を思えば、素直に喜べない。
「とにかく、戻ろう。俺の仲間にも合流したい。」
「そうだな。サクラさん、頼む。」
「はい〜。」
湯船は一路、ルクセンダルクまで飛んだ。
- セントウ-null- ( No.148 )
- 日時: 2016/02/05 23:25
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: FaTZyWHd)
牢獄…。
ここでは今、理乃が恐れていたことが起こっていた。
「絶対、理乃がリングアベル達をどうにかしたに決まってる!」
「それはないよ! いくらイデアちゃんでも怒るよ!」
「だったら、なんでリングアベルがここにきてないの!? 裏切り者に通報された人は、どこいったの!?」
イデアと千枝が、真っ向からぶつかり合っていた。理由はもちろん、理乃の裏切り行為について、だ。
理乃を信じる千枝と、理乃を疑うイデア。情報が少ないがゆえに疑うのも無理はないが、完全に頭に血が昇っており、手がつけられない。
「…。」
他の一同も、その少なすぎる情報のせいで、疑いも、信じることもできない。
「やめてよ…。」
葉月はこの争いを見て、この争いを見て嘆いている理乃の姿を見て、ポツリと呟いた。
だが、葉月の声が聞こえてないかとでも言うように、二人はまだ争い、他の人々は悩む。
「…や、やめてよイデア! 千枝! 理乃が、理乃が泣いてる!」
同じように見えていたレヴナントも二人を止めるが、止まらない。それどころか、ヒートアップするばかり。
『…。』
そして、理乃は声もかけられずに、嘆くばかり。
恐れていたことが起こり、だが、どうすることもできずに、嘆くしかできない。
「…いい加減に、してよっ!」
葉月は、弓矢を取りだし、二人の間に突き立つよう、放った。
「うわわっ! 何するのさ葉月!」
「は、葉月ちゃん…?」
「…理乃がなんで裏切ったかわからない。でも、金なんかのために裏切ってないのはわかる。」
静かに、怒りを奥底に抱きつつも、それを表に出さぬようにしながら語る葉月。
自分の知る彼女は、金のために裏切るはずはない。だとしたら、なんのために裏切るか。それは、ひとつしかない。
「理乃は、この世界のために裏切った。この世界の営みを守るために、裏切った。この世界を乗っ取ろうとする、あるいは滅ぼそうとする悪意から、この世界を守るために、私達を裏切った。…全部、憶測でしかないけど、私はみんなより、理乃とは長くいるからわかる。金のために裏切るような人じゃない。仲間を守るために、仲間を欺くような人。それが、私の知る彼女だよ。」
凛とした葉月の声に、言葉に、千枝もイデアも争うのをやめた。
「…理乃さんが裏切った理由は、私達にもわかりません。ですが、この状況も踏まえ、争っている場合ではないことくらい、私にもわかります。」
葉月が黙ったのを見て、アニエスが続く。
「イデア、疑うのも無理はないことは、よくわかっています。私も、ティズが牢獄に戻ってこないことに不安しかありません。ですが、今私達がすることは、ここで争うことですか?」
「アニエス…。」
「…なぜ裏切ったかは、後にわかると思います。だから、今は理乃さんは“黒”ではないと信じ、この結界を破壊することこそ、最優先ではありませんか?」
「…。」
アニエスの説得に、イデアは頷き、千枝に謝罪してから結界の破壊作業に戻った。
「…ああは言いましたが、やはり理乃さんの裏切りの理由を知らなければならないのは事実です。知らないと、後悔しそうで怖い…。」
「…聞いてみる? …きっと、あの人も干渉してると思う。」
「ええ。」
そっと、胸の辺りに手を当てるアニエス。
知らなければ、後悔する、理乃の裏切り。それを知る方法は、葉月が理乃の魂を宿す以外にも、もうひとつ。全てを見てきた、スバルに頼ること。
「…聞くなら、早い方がいいじゃろう。」
「! え、老師様!?」
今まさに手帳越しに聞こうとしたら、ユルヤナが近寄る。
「…この世界の、本当の神様なら、裏切りの理由もお見通しじゃろう。」
—あーらら、やっぱ老師様には私のこと悟られてたか。この分じゃ、レスター卿もわからないかな。
「伊達に長く生きとりゃせん。…この老いぼれにも、話してくれんかの? 彼女の裏切りの理由。…そして、この世界に何が起ころうとしているか。」
—残念だけど、未来については私の管轄外なの。でも、理乃ちゃんの裏切りの理由は話すことができる。…葉月ちゃん、辛いけど、大丈夫?
仲間がなぜ裏切り行為をしたか、気にはなるが、知るのが怖いと思っていた葉月は、スバルの問いに暫し考え、頷いた。
「怖い、かな。でも、知らなきゃいけないのはわかる。理乃が何を思い、なぜ、私達を裏切ったか。スバルさん、話して。包み隠さず、全部…!」
—わかった。それから、これを後で、イデアちゃんと千枝ちゃんにも話して。彼らの恋人であるリングアベル君と陽介君も荷担したから。
「…わかりました。」
まさか、リングアベルまで裏切りに荷担していたとは思いもよらなかったが、彼がそうまでして理乃に協力した理由を知り、イデアに話さねば納得しないだろうとアニエスは感じていた。
—じゃあ、同期させるよ。裏切り者が、ううん、救済者が、なにしようとしたか。何故、その道を歩んだか…。
スバルは、静かにアニエスの手帳へと同期を始めた…。
- セントウ-null- ( No.149 )
- 日時: 2016/02/05 23:30
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: FaTZyWHd)
「何とか、ディアマンテを退けることはできた。だけど、その間に、いくつもの命が塵芥のように消えてしまった。」
僕がここまで語り終えると、君は信じられないとでも言うように、狼狽える。無理もないけど、全て、事実なんだ。
「あのクリスタルの魔物も、昔ティズ達が戦った時より、強化されていたんだ。それに一人で勝ったリリィ達は、本当に奇跡としか言いようがなかった。」
あとで調べてわかったんだけど、黒幕のせいかな? あの魔物達は、全員強化されていた。
オルトロスは、爪と牙が長く鋭くなっていて、筋肉は厚くもしなやかになっていた。並の冒険者は一息で肉塊にされるだろう。
ルサルカは、より艶めかしい【嬌声】により認識を混乱させた。本来の【嬌声】は仲間への攻撃や自身への回復行動を誘発するものだけどね。
チャウグナルは、【エナジーバースト】に必要なエネルギーを効率よく使えるようになった。あの強力な波動を短時間で連発できるなんて、魔物の範疇を超えている。
ギガースリッチは、溢れ出る【負の力】による破壊力の増幅に歯止めはなくなっていた。鈴花ちゃんに当たった最後の【クエイガ】は、彼女にはオーバーキルとでもいうくらい、強力だった。
「…そして、裏切り者の騒動は様々な影を落とし、結果、疑心が生まれた。」
何も語る事の出来ぬまま、死んでしまった彼女が蒔いてしまった種は、イデアに疑心を生んだ。他の人達をも、信じたい気持ちと、疑う気持ち、両方の狭間で揺らしてしまった。
「…さて、今度はみんなの様子を少しお休みして、その裏切り者が、何故、何を思い、どう行動したか。そして、その裏切り者に加担した二人はどう行動したのか、そこを話していこうと思う。」
流石に、こう暗い話ばかりでも、疲れると思い、僕は別の話を語る事にした。
そう、裏切りの理由。そして、裏切り者に通報された人達の思い。
僕はゆっくりと、創世ノートのページを開いた。
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私—泣ける曲を聞きながら書いたら、二人の最期でガチで涙腺崩壊した…。しかも店先の休憩スペースで。できれば皆さんも泣ける曲かけながら見てください。そして泣いてくれると嬉しい。
???「何してるの;というか勧めないで;あ、感想OKです…;」