二次創作小説(映像)※倉庫ログ

コウドウ-green maneuver- ( No.167 )
日時: 2017/04/11 20:29
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: xV3zxjLd)

ミッション1を終えたリングアベルは、微妙な気持ちを抱きつつもエイゼンへと急ぐ。

(メールによれば、奴等はミッション3前に何らかのアクションをとる。それまでに俺と陽介は手分けして仲間を集めないとならないな。)

理乃が捕まっては元も子もないため、三人で相談した結果、彼女は密林地帯のユルヤナ地方に隠し、陽介と二人で手分けをして仲間を集めることにした。
そして陽介にフロウエル側を任せ、自分はこうしてエイゼンへと向かっているのだ。

(黒幕の狙いはわからない。だが、どう考えてもろくなことじゃないのは十分わかる。あの写真のように…手遅れになる前に、できればみんなに話をしなければ! …今の俺は、強さを知った。…あの時のイデア達が殺された時のように、震えて見ている俺じゃない!)

自分のいた世界で起こった、耐えがたい喪失。それを思い出し、震えが襲いかかるが、それもすぐ治まる。
今のリングアベルには、沢山の仲間がいる。守らなければならない存在がいる。恐怖は誰の心にもある。だが、今のリングアベルは、その恐怖に立ち向かえる強さを、仲間達から教わった。仲間達からもらった。

(…あの時のように、一人じゃない。今は、陽介や理乃がいる。不安ながらも名乗り上げてくれた理乃のためにも、俺はやりとげなければ!)

そんな事を考えながら、海上を滑っていくと、やがて、見慣れた荒れ地が見えた。エイゼン地方だ。

(エイゼンが見えた! 誰かがいればいいが…!)

できれば、自分がよく知る仲間達がいい。最愛の恋人なら、尚更。そう考えながら、リングアベルはエイゼンへと降り立った。

コウドウ-green maneuver- ( No.168 )
日時: 2017/04/11 21:07
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 2QWuZ1bi)

エイゼンに辿り着いたリングアベルは、すぐに誰かいないかと探していた。

(せっかくここまで辿り着いたんだ。できればイデアに会っておきたいな。まぁ、ここにいるかはわからんが。)

しばらく、ハンターに警戒しながらプラプラと歩く。

(うーん、やはりこの広いエイゼンでいきなり第一村人ならぬ第一逃走者の発見はならない…ん?)

ふと、見覚えのある姿を見た気がしたリングアベルは、その方向に走った。

「あ、やはりそうか。おーい、ティズー! ガイストー!」
「…ん? あ、リングアベル。」
「む、リングアベルか。」

姿—ティズとガイストは、いつもの調子でリングアベルの方に向き直った。

「二人もまだ逃げ切れてたんだな。」
「まぁ、裏切り者が怖いけど割と楽しんで逃げてるよ。」
「そういや、アニエスが捕まったが…。」
「うん、ちょっと残念だったね、アニエスの確保は。」

大切に思っているアニエスが確保されたと知り、ちょっとだけ悲しそうな表情を浮かべるも、すぐにいつもの調子に戻った。

「まぁ、アニエスの事だし、結構楽しんで逃げられたんじゃないのかな? あるいは散々迷って辿り着いた街でご飯食べてる最中に確保でもされて」
「ティズ、残念ながらその通りらしい。ジャンの証言によるとだが。」

的確に言い当てるティズに、リングアベルは(お前はエスパーか。)と言おうとしたが、何か言ってもいつもの調子で返されそうだったのでやめた。

「そういえば、リングアベルは裏切り者なんかじゃないよね?」
「期待させて何だが、俺は違う。」

どうやらリングアベルは裏切り者ではないようだ。ティズはまっすぐ彼を見て、頷いた。

「別に期待していたわけじゃないんだけど…。でも、嘘を言ってる目じゃなさそうだね。まぁ、リングアベルは僕同様、酷い裏切りにあったし、裏切り者になんかならないか。」
「まぁ、そんなところだ。」

リングアベルはそう言って信じてくれたティズに頷いた。ガイストもティズの言葉を信じるようだ。

「…そうだ、ティズ、ガイスト。その…。」

急に、真剣な表情で話始めるリングアベルに、ティズの顔色が変わった。

「(リングアベルのこの顔は…!)裏切り者に関して、何かあるんだね。」
「お前はエスパーか。」
「伊達に一緒に旅をしてないでしょ。リングアベルのその顔は、何か真剣な話があるんでしょ? だから、いつもの悪ふざけを抜きにした。」
「自覚あったのか…。それはさておき、流石だな。俺達パーティの調停者やってるだけあるよ。」

ティズの仲間を見る目に、リングアベルは少しだけ表情を緩めた。だが、すぐに真剣な表情へと変わる。

「単刀直入に言おう。裏切り者は、理乃だ。」
「えっ、理乃が!?」
「彼女は、裏切り者などしそうにないと思えたが…。そもそも、何故お前が知っているのだ?」

理乃が裏切り者だと言う事実に衝撃を受けた二人だが、すぐにガイストの放った言葉でティズは彼の言葉に同意する。確かに何故、リングアベルが裏切り者は理乃だと断定できたのか、わからなかった。

「簡単だ。俺は陽介と一緒に、“その場で彼女が裏切り者になる瞬間を見ていた”からだ。」
「見ていたのならば、何故止めなかった? 裏切りなど、お前達は一番許せない事柄だろう。二年前のルクセンダルクでの話を、忘れたわけではあるまい?」
「もちろん、忘れてないさ。だが、これを見て放ってはおけなかった。ただそれだけさ。」

リングアベルは端末を二人に渡した。
ティズが慣れないながらも動かし、あるメールと添付された写真を見て、絶句した。

「なっ…えっ…!?」
「…。」
「二人は、これが届けられたら…止められるか?」

これ以上見せるのは酷かと思い、リングアベルは端末を自分の手に戻した。
その後に問われた彼の問いに、ティズもガイストも首を横に振るしかできなかった。

「あんな写真やらを見せられちゃ、僕だって名乗りを上げるよ…。裏切りは嫌だけど、でも、僕が裏切って、通報していって、誰かが助かるなら…僕は、彼女と同じ道を選ぶと思う。」
「私も同じだ。そうか…それならば、裏切り者という言葉は間違いだな。」
「ガイスト?」

ガイストがぽつりと呟いた言葉を聞き届けたティズは、彼を見た。

「彼女は、かの妖精や腐敗した正教の輩の如く、自分の目的を遂げたり、私利私欲のために我々を欺く訳ではない。ただ、未来へと飛ばされたであろう昴達を救うために、自らが汚名を被ることを覚悟し、我々を欺いた。それは、裏切りではないと私は思う。」
「…ああ、そうだな。彼女が今やろうとしていることは、私利私欲とは全く無縁のことだ。自分が犠牲になり、全てを救おうと…最悪の結末から、全てを救おうと奮闘しているからな。」
「ならば、裏切り者という言葉で罵るべきではない。さしずめ…“救済者”とでも呼ぶべきか。」
「あ、じゃあ、リングアベルはこれに協力してるから、“協力者”ってところかな。」

“救済者”と“協力者”。その言葉を聞いた瞬間、リングアベルの中で、何か深い納得を感じた。
それと同時に、ガイストがそんな言葉を放つ存在とは思えずに、ちょっとだけ驚いていた。

「でも、そんなどこかの犯罪者みたいな格好をしたガイストから、そんな言葉が出るなんてね。ちょっとビックリだよ。」

それはティズも同じだったようで、かなり笑顔でそんなことを言いのけた。これには思わずリングアベルも(失礼だろ!)と思ったが、自分も同じことを思ったので、スルーを決め込んだ。
ちなみに、改めてガイストの姿を説明しておくと、血まみれ法衣に骸骨みたいな痩せ細った生気のない顔。さながら、そう。殺人事件を起こした直後の指名手配犯や、ホラー映画の悪霊が現実に出てきたかのような風体なのだ。正直ティズがこう思うのも無理はない。

「…わかってはいたさ。そう言われることはな。」

少々落ち込みモードでガイストは悲しそうに言う。あぁ、これはかなり傷ついたかもな、とリングアベルは思うも、どうフォローしていいかわからなかったので、
またもスルーを決め込んだ。

「と、とにかく、二人も協力してほしい。それから、二人の端末にも、これをコピーさせてほしい。それから、今の話を出会った仲間にしてほしいんだ。今から彼女に、この場所を伝える。その道中で誰が逃げられてもいいように、保険みたいなのとして持っていてもらいたい。」
「そうだね。その方がいいと思う。喜んで協力するよ、リングアベル。」
「レヴの未来を守るため、私も協力しよう。」
「ありがとう。では、早速。」

リングアベルはすぐに二人の端末を借り、先程の自分と同じように端末に写真やメールをコピーした。

「じゃあ、理乃に連絡するぞ。」

全てを終えると、リングアベルは自分の端末を操作し、理乃の番号を呼び出した。

『はい。』
「あぁ、理乃。俺だ。君の愛しのリングアベ」
「おふざけしてる場合じゃないでしょ。僕が話すからリングアベルは黙ってて。」
「ハイ。」

ティズに何故か制止され、かつ何か怖かったのでリングアベルは素直に端末をティズに渡した。

「ごめんね、リングアベルが変なこと言って。」
『は、はぁ…。あ、あの、ティズさん…。』
「大丈夫。聞くべきことはちゃんと聞いたよ。僕達も協力する。遠慮なく未来に飛ばして。僕達はガイストも一緒に、エイゼン大橋にいる。」
『わかりました。…ティズさん、ガイストさん、すみません、巻き込む形になってしまって…。』
「巻き込まれたなんて思ってないよ。…これはもう、お遊びなんかじゃない。誰かに乗っ取られた時点で、もうその時間は終わったんだ。だから、僕達はその脅威と戦いに行く。理乃、お願い。」
『はい。…皆さん、未来をお願いします。』

その言葉を最後に、理乃との通話は切れた。











「…。」

ユルヤナ地方・カプカプの里にいた理乃は、静かに目を閉じ、端末を握った。

(どうやら、黒幕は通報のための話は別に構わないみたいね。通話はうまくいってたし。)

たまたま会話を拾わなかっただけかもしれないが、通話を切られることがなかっただけ安心した。

「(ティズさん、ガイストさん、リングアベルさん。未来をお願い!)リングアベル、ティズ・オーリア、ガイスト・グレイス。エイゼン地方のエイゼン大橋にいます。」

理乃は静かに告げ、端末を切った。

Re: お試し逃走中!〜世界崩壊への序曲〜 ( No.169 )
日時: 2017/04/11 21:12
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 2QWuZ1bi)

「…。」

全てを聞いたあと、理乃への連絡を済ませてから、ティズとガイストは互いを見合い、頷く。

「どうなるかわからないけど、改めて気を引き閉めないとね。」
「様々な可能性があるが、いずれにせよ、一筋縄ではいかぬな。」

黒幕は誰か、そして、どんなことが待ち受けているのか、今はまだわからない。だが、全てが手遅れになる前に、手を打たなければならない。
最悪の結末になっては、遅いのだから。

「ああ、油断しないようにしないと、なっ!」

そんな時、リングアベルの視界の端に、ハンターをとらえた。反射的に、リングアベルは逃げ出す。

「だぁっ、クソッ! ティズ、ガイスト、走れ!」

リングアベルの一喝で、ティズもガイストも走り出す。











だんだん近づくハンター。ガイストは別方向に逃げ、視界から免れたが、リングアベルと一緒の方角に逃げていたティズは、ふと、何かに気づく。

「ねぇ、リングアベル。僕達、何で走ってるの?」
「はぁ!? ハンターが来たら走って逃げろと言われなかったか!?」
「いや、そうだけどさ、冷静に考えてみてよ、リングアベル。」

話ながら走る二人。かなり器用である。

「あれ、理乃が呼んだハンターじゃないの?」
「あ。」

ようやくその事に想い至ったのか、リングアベルはピタリと止まる。

「ああぁぁぁぁぁぁぁっ! な、何で逃げたんだ俺えぇぇぇぇっ!!」
(うわー、気持ちいいほどの大絶叫だなー。)

冷めた視線を送りながらリングアベルを見ているティズと、自分のアホさに絶叫しかできないリングアベル。その二人の肩に手を置かれたと同時に消えたのは、その数秒後だったとさ。


85.25
(裏切り者の通報により)ティズ・オーリア、リングアベル 確保
残り20人











一方、逃れたガイストは…。

(二人が捕まったか…。これで事情を知るのは、私と陽介のみ。協力者はこれで二人減ったわけか…。)

ふと、ガイストの中で何かがふっ、と湧き出る。
そして…そのホラー顔に笑みを浮かべた。

「リングアベルが捕まったそうだな。」

なんか無駄にかっこいいポーズを決め、笑みを浮かべる。

「ククク…奴は協力者の中でも最弱。」

そして、位置を移動し、更に無駄にかっこいいポーズで別の台詞を吐く。

「ハンター如きに捕まるとは、協力者の面汚しよ。」

最後にまた無駄にかっこいいポーズで決めると、冷たい風が一つ、ガイストの一人芝居に答えた。

「…虚しいな。実に虚しい。」

誰かにこんな恥ずかしい姿を見られなくてよかったと心の中で想いながら、ガイストは仲間を求めて歩き出した。だがすまん、ガイスト。全部スバルに見られてた。

コウドウ-green maneuver- ( No.170 )
日時: 2017/04/11 21:19
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 2QWuZ1bi)

一方、リングアベルがエイゼンでガッカリを出していた頃、陽介はフロウエルまで来て散策していた。

(多分、リングアベルさんもうまくやれているだろうし、俺も誰かを見つけて…。)
「んぁー? あそこにいるのは…ヨースケー!」
「フブォッ!」

考え事をしながら歩いていると、突然腹部に強い衝撃を感じた。
自分をヨースケなんて呼ぶ人物は、一人しかいない。

「ごほっ、ごほっ…。く、クマ、朝に食ったラーメン、ひゅるって出そうだったから腹はやめい…。」
「上からのリバースは勘弁してよヨースケー。というより油断してるヨースケが悪いんだよー。」

自分の弟みたいな存在である、クマだ。中身の状態で腹目掛けて頭突きしてきたらしい。

「嫌なら腹目掛けての頭突きはやめろ! まったく…。」
「ヨースケ、ヨースケは裏切り者やってないクマよね?」
「聞けよ! つかまず謝れよ!」

完全に話をすり替えられ、陽介はもう突っ込みしかできない。が、話をすり替えられたまま謝罪をしないと見てわかった陽介は、話を続けることにした。

「…裏切り者はやってねぇよ。」
「よかったー。ヨースケが裏切り者なんかしてたら、今度ベッドの下にあるナースさんの本をごっそりチエチャンの部屋に置いてくるトコだったクマ。」
「ちょっ、待て! 里中と同室は理乃ちゃんなんだぞ! それはまずいっつーの!」

どうやら、陽介が仮に裏切り者だとしたら、酷い仕打ちをしようとしたらしい。が、その方法は千枝に大いに迷惑がかかるし、確実に由梨からも電撃技を一発食らう。

「つかお前だって実行班として由梨ちゃんに電撃食らうぞ!」
「はっ! 考えてなかったクマ! ビリビリはいやクマー!」

しばらく騒いでいると…。

「そもそもヨースケがナースさんなんかに興味を抱くからイカンクマ!」
「いやいやいやいや! 論点すり替えんなし! つかナースは男のロマンだろ!?」
「なーす?」

突如、第三者の声が聞こえた。嫌な予感がして、二人は振り向く。
そこにいたのは、元リーダーと同じ声をした、同じ名前の、奴とは違って純粋組である…ユウ。

「なーすって何ですか? そのなーすさんが男のロマンなんですか?」
「フッ、よくぞ聞いてくれた、ユウ。ナースこそ、看護師…いや、看護婦さんこそ男のロマンだ!」
(何言っちゃってるクマヨースケ! ユウユウはナルカミと違ってピュアピュアクマよ!? パニクっておかしくなったクマ!? というかこんな話をしたって知ったらジャンに殺されるクマよ!!)

突然、何かを語り出す陽介。クマはそんな陽介を、驚きの後に冷めた視線で見つめた。
しばらく、ナースさんに対して熱弁を振るう陽介。誰か突っ込んで! 純粋な子にちょっとR18なナースさんを語るガッカリに突っ込みいれて!

「わ、わわわ…! こ、この世界の看護婦さんはそんなことするんですか!? ま、まさか氷海さんや雪花さんや由梨さんもそんなことするんですか!?」
(なんか変な誤解が生まれチッタクマよ!? ヒーチャンやセッチャンやユリチャンまでとばっちりクマ!?)

赤面しつつも、明らか変な方に理解しているユウ。クマ、それは声に出して! このままだと陽介はジャンだけでなく氷海と雪花と由梨にも殺されるぞ! 特に由梨は陽介と相性の悪い雷属性持ちだから!

「どうだ! ナースさんこそ、男のロマンだ!」
「お、おおお男のロマンはそんな不埒なものにはありませんよ! 男のロマンは、メカにあるんです!」

その後、ユウは純粋に、変形メカや合体メカについて熱弁を振るう。
かなり熱弁なので、クマも次第に納得してしまう。

(ユウユウは純粋に、オトコノコとしてオトコのロマンを語ってるクマねー。それに比べてこのケダモノは…。後でカンケイシャ全員に殺されればいいクマ。)
「そういうわけで、男のロマンはメカにあります!」
「いいや、ナースさんだ!」
「メカです!」
「ナースさんだ!」

水を掛け合うが如く、不毛な言い合い。そこへ…。

「いい加減にしなよ!」
「ふぐおっ!」

突然、陽介のド頭に、杖がめり込んだ。

「まったく、何なんだい、この低レベルすぎる醜い争いは…。クマ、アンタもさっさとコレ止めときな。」
「あ、ホーリーさん!」

彼のド頭に杖を降り下ろしたのは、ホーリーだった。会話を聞き、彼女の武器を遠慮なく降り下ろしたのだろう。

「ふぎゃっ!」
「ユウ、アンタもこんな不健全野郎に張り合って熱弁しなくていいんだよ。女のアタシにはメカの良さはあまりわかんないけど、少なくともこの不健全な野郎よりいいと思うよ。」

ホーリーは最初の一撃で伸びた陽介を椅子にすると、ユウにそう告げる。流石物理的ドS。椅子にすべき相手に対して容赦ない。

「は、はい! やっぱり男のロマンはメカですよね!」
「そうクマそうクマ。ところで、ヨースケそのままでいいクマか?」
「しばらく反省させとくよ。まぁ、一応、頭に打撲傷がないか調べとくから、病院には連れていこうかねぇ。」
(頭に一撃与えたの、ホリチャンクマよね? ありー? これ、気にしちゃダメなヤツクマ?)
「エタルニアの病院ですね! 行きましょう!」

何だかんだで不毛な争いは終結し、三人はエタルニアまで向かった。陽介を引きずって。

コウドウ-green maneuver- ( No.171 )
日時: 2017/04/11 21:28
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 2QWuZ1bi)

何だかんだで、エタルニアの病院までやって来た…いや、連れてこられた陽介は、ホーリーにより手当てを受けていた。

「うん、まぁ、打ち所悪くないからコブができたぐらいで大丈夫だね。打ち所悪かったら大変だったよ。」
「殴った本人が言いますかそれ!」
「殴られる原因作ったアンタが何言ってんのかねぇ?」
「スミマセンデシタ!」

陽介は土下座で、杖を弄ぶホーリーに謝罪した。
その後、ユウとクマが待っている病院入口へと出る。

「あ、あの、さっき聞き忘れましたけど…お二人は、あ、ホーリーさんも、裏切り者じゃないですよね?」

揃ったのを確認すると、ユウはおずおずと訊ねる。疑いたくはないのだが、どうしても聞いておかねば不安だったのだ。

「ああ、ここの奴等は裏切り者じゃねぇよ。裏切り者は、理乃ちゃんだからな。」
「そうだよ、裏切り者は理乃…って、ナ、ナンダッテー!」

乗り突っ込みをするホーリー。お約束な驚き方は、三人に総スルーされた。
仕方なくホーリーも(突っ込めよ!)と思いつつ、通常に戻った。

「よ、ヨースケ、何言ってるクマ! リノチャンが裏切り者な訳」
「いや、クマ、悪いが事実だ。俺は彼女が裏切り者になった瞬間を見ていたからな。」

陽介の衝撃の言葉に、三人は動揺する。二人よりも理乃とは長くいるクマが陽介に言うも、彼はすぐに否定した。

「裏切り者になる瞬間を見ていて、何だって止めなかったんだい?」
「止めなかったんじゃない。“止められなかった”んだ。こんなもんを見ちまったからな。」

ポケットから端末を取り出した陽介は、三人にあるメールを見せた。

「な、なにこれ、クマ…?」
「っ…!」
「あぁ…そうだね。コレじゃあ…“止められない”ね…。」

最初のメールと、添付されていた写真に、陽介が何故、彼女を止めなかったか、完全に理解できた。仮に自分が陽介の立場だったら止めることはできないし、理乃の立場だったら裏切るだろうという考えに思い至った。

「リングアベルさんは、これは事が起こった“後”だって言っていた。だから多分、まだみんなは無事だと思う。」
「いつ事が起こるかわからないから不安ですね…。」

その場にいた全員、沈み込む。ホーリーはその時、難しい顔をしていた。それにユウもクマも、少しだけ不安を覚えた。
やがて、ホーリーが頭をポリポリと掻きながら溜息をついた。

「…成程ね。アンタの話はよーく分かった。」

陽介に向かって、ホーリーは言い放つ。ユウもクマも、陽介に向かう。

「“逃走中の悲劇”は…もう起こってたんだね。」

まだ事が起こってないのに、ホーリーはそう言い放った。

「え、でもまだ何かは起こってないってリングアベルさんが…。」
「裏切り者が出ちまった時点で、些細な疑いが生まれただろ? その些細な疑いは後に疑心、疑惑になって、しまいにゃ誰も信じられなくなっちまう。アタシらは話を聞いたからそうだって分かった。けど、話をされてない奴等は?」
「あ…! そ、そうです! 下手をすると誰も信じられなくなって、仲間がバラバラになってしまいます!」
「特にイデアなんかはリングアベルが捕まったから、今頃逆上してるだろうよ。正しいことをしている理乃を、疑いの目でしか見られない。牢獄じゃなくて未来に飛ばすって点でも、危うくなると思うんだよ。だって、自分よりも前に捕まった恋人が牢獄に帰ってなかったらなんて思う? 裏切り者を疑わないかい? 今は元帥としての自覚からか丸くなったけど、あの白黒つけたがる性格のアイツに正しい判断ができるとは思えないんだよ。」

ホーリーの言い分は、確かにもっともだった。自分よりも早くに捕まった大切な人が牢獄にいなかったら、通報した裏切り者を疑うのが普通だ。裏切り者が金を得るために、仲間をどこかに連れ去ったと考えるのが筋だろう。
疑心は更なる疑心を生み、次第に仲間が分裂する。そんな想像ができた陽介は、そこまで気づかなかった自分に怒りと呆れを覚えた。
仲間の内部分裂という悲劇は、理乃が裏切り者に名乗りをあげた時点で、既に始まっていたのだ。

「けど、裏切り者に名乗りをあげなかったら、更なる悲劇が舞い込むのも確かです。」
「ああ、そうだね。確かにそれも正しかった。別に理乃に名乗りをあげるなって言ってるんじゃないよ。…ただ、黒幕は最初からアタシらをはめようとしている、アタシらを手のひらの上で転がして、嘲り笑ってんだよ。」

ホーリーがそう話すと、全員、腹立たしさを覚えた。
最初から黒幕が仕組んだ罠に気づかなかった自分への怒り。そして、楽しみにしていた逃走中をこんな風に乗っとり、仲間の絆を引き裂こうとしていた黒幕への怒り。

「…陽介。アタシを未来に飛ばしな。」
「陽介さん。オレもお願いします。」
「ヨースケ、クマもお願いクマ。」

ただならぬ感情を込めた声色で、ホーリーとユウとクマはそう告げた。

「目が血走ってるぞ、お前ら。あと飛ばす権限は理乃ちゃんしかないから。ちなみに聞いとくが、理由は?」

一応、そう尋ねる陽介。

「黒幕ぶん殴って(くる/きます/くるクマ)。」
(うわー、いい笑顔で杖持ってるなホーリーさん。後で椅子にする気満々だな。ユウもモンクになって殴る気満々じゃねぇか。ジャンやマグノリアちゃんが見たら泣くぞ。クマ、お前トゲトゲグローブ磨くな。艶出しに由梨ちゃん調合のハブの毒塗るな。)

既に準備万端な三人に、陽介は本人達には口に出して突っ込まずに、理乃へと連絡した。

「あー、理乃ちゃん。ホーリーさんとユウとクマを未来に飛ばしてくれ。大至急。」
『何故、大至急飛ばして欲しいかはもう何も突っ込まずにスルーしたいのですが、構いませんか? あと、何だか恐らくそのお三方の殺気がひしひしと伝わるのは気のせいですか?』
「うん、多分触れちゃダメなヤツ。俺はもう少し誰かに声をかけてみるから、通報しないでくれ。今俺達がいるのは、エタルニアの病院だ。」
『わかりました。三人にそこから動かぬよう言っておいてください。すぐに通報します。』

その言葉を最後に、理乃との通話を終えた陽介は、ポケットに端末をしまった。

「じゃあ、すぐハンターが来ると思うから、そのままそこを動くなと。」
「了解。」

完全に目が血走っているが笑顔の三人を見て、陽介は目を死なせたままそそくさとその場を後にした。











ユルヤナ地方・カプカプの里。

(…何故だろう。花村さんと話していただけなのに、凄い殺気を感じた。あれ絶対今花村さんが言ったホーリーさん達三人のだ。というかあのユウさんまでああなるって何があったの!?)

通報のために端末を持った右手が震える。端末越しに感じた謎の殺気に、流石の理乃も怖かったようだ。しかも、元々勝ち気な姉御肌であるホーリーや、仲間に許せない無礼を働かれてキレたであろうクマはまだわかるが、普段は温厚で涙もろく、敵に対しても、敵対していた親友に対しても情けをかけるようなユウもああなった理由が不思議で仕方がなかった。

「ほ…ホーリー・ホワイト、ユウ・ゼネオルシア、クマがエタルニアの病院にいます。…ふぅ。こ、怖かった…。」

そして、端末を下ろす。下ろしながら、思う。

(黒幕、死んだわね。)

もしあの三人の目の前に現れたら確実にフルボッコされるであろう黒幕に、思わず合掌をした。











程なくして、やって来たハンターに確保された三人。
消える寸前に放った言葉は…。

「黒幕、ぶっ潰す。」

だったそうな…。


81.11
(裏切り者の通報により)ホーリー・ホワイト、ユウ・ゼネオルシア、クマ 確保
残り16人