二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- コウドウ-blue maneuver- ( No.172 )
- 日時: 2017/04/11 21:40
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 2QWuZ1bi)
時が進み、ミッション2が発動された。
だが、グラープ砦付近にいたガイストはミッションへと行こうとは思わなかった。
(きな臭いな…。そもそもクリスタルは、巫女でなければ干渉できないはず…。)
ガイストは元正教の悪魔払い師—エクソシストだ。元司祭であったブレイブのように、クリスタルについて何か聞いていてもおかしくはない。
本当にこれが昴達が作りたかった逃走中ではないならば、このミッションは行かない方がいいと判断したのだ。
(さて、リングアベルから見せてもらったメールでは、刻限はミッション3前まで。リングアベルとティズが捕まった以上、それまでにまた誰かに私から声をかけねば。仲間は多いに越したことはな…ん?)
ふと、ガイストは視界に誰かの姿を捉える。
「…。」
(あれは、ヴィーナス三姉妹の…アルテミアか。何をしているのだ?)
それは、アルテミアだった。彼女はじぃっ、と遠くを見ている。しかも手には弓を持ち、なんか引き絞ろうとしている状態で。
彼女の視線の先を見ると、そこには遠くてよくわからないが、黒い何かが立ち止まってキョロキョロと辺りを見回しているのが見えた。…十中八九、ハンターだろう。
(まさか、アレを狩ろうとしているのか?)
嫌な予感を感じたガイストは、アルテミアに近付いた。
「何してるんだお前は。」
「!」
アルテミアは叩かれて驚いたのか、弓を引き絞って今にもガイストを射抜こうとしていた。
「ハンターに攻撃したら強制失格とお前の姉達から散々言われていただろう、アルテミア。」
「あいつ、いなくなる。お姉様達、捕まらなくなる。ガイスト、邪魔するな。」
完全に獲物を狩る狩人の目をしたアルテミアは、どうあろうともハンターを射抜こうとしているようだ。
「いや、やめておけ。あいつ一人射抜いた所で、昴がまた新しいハンターを投入するだろう。(…まぁ、今は昴が出すかはわからぬがな。)」
「むぅ…。」
新たにハンターを投入されるなら、こうしてあのハンターを射抜いても無意味だろう。そう判断したアルテミアは戦えなかった不満なのか、不服そうに得物を下ろした。
「ガイスト、何故ここにいる?」
「…同じ戦闘狂でもできれば由梨と会いたかったが、仕方ない。アルテミア、少し話を聞いてくれ。」
ガイストはやや呆れながらも、話し始める。え、できれば由梨に会いたかった理由? まだ彼女の方が理性的だから。
「この逃走中は、既に昴がやろうとしていた逃走中ではない。誰かが意図的にシナリオを書き換えたのだ。」
「?」
あ、アルテミアが完全に首を傾げている。どうやらわかっていなかったようだ。
「…どう、説明したものだろうか…。」
流石のガイストも困り顔で悩んだ。
簡単な言葉に置き換えたり、喩えを交えながら、ガイストは苦戦しつつも説明した。(他者に通じる話し方が、こんなにも難しいものであったとは。)と思いながら、根気よく話す。
「…。」
アルテミアはわからないなりにも、黙って話を聞いていた。ガイストの真摯な眼差しに応え、途中で寝る事もなく、黙って真剣に聞いていた。
「アルテミア、難しいこと、わからない。」
(失礼だろうが、だろうなと思った。)
確かに失礼な事だが、学のないアルテミアには無理難題だった。でも、アルテミアでもわかる部分はあったようだ。
「でも、アルテミアの力、役立てる。それだけは、わかった。」
この悪意に立ち向かうには、自分の力が大いに役立てるだろうということ。今は、その時だということ。それから…。
「それと…。」
「それと?」
「裏切り者、裏切ってない。誰も、裏切ってない。裏切り者、言葉、違う。」
裏切り者は金の為に裏切ったわけではなく、本当は裏切りたくて裏切ったわけではないこと。
自分と全く同じ事を言うアルテミアに、ガイストは思わず笑みを見せた。救済者と名付けた、理乃のことを思いながら。
「ああ。裏切り者など、最初からいなかった。」
そう、裏切り者など、最初からいなかった。裏切り者の真実の姿は、最悪の未来を見せられ、その結末を変えるために仲間を集める、救済者だった。
そして本当に恨まなければならない相手は、未だに連絡の取れない昴達でも、裏切り者の理乃でもない。こうなった、全ての元凶…彼女達を未来へと飛ばし、その絶望の写真を理乃に送り付け、今この瞬間にもどこかであざ笑っている…黒幕だ。
「この逃走中に渦巻く真の悪意、それが、私達が本来相手にすべき元凶だ。」
「逃走中、してる場合じゃない。ガイスト、何故、中止にならない?」
その黒幕を倒さなければならないのはわかっている。だが、それならば一度このゲームを中止し、一丸となって立ち向かわなければならないのではないか。アルテミアはそう訴えたが、ガイストが首を横に振る。
「恐らくだが、既に運営は真の悪意に乗っ取られていると見ていいだろう。私達は気づかぬうちに、奴らの手の内に転がされているのだ。」
「…アルテミア、悪意に縛られる、嫌だ。」
「ああ。だからこそ、私達は…!」
ガイストとアルテミアは、互いに頷きあった。
黒幕との戦いを決意し、早速行こうというのだ。
「…そうと決まれば、理乃に連絡をしよう。」
ガイストは不慣れながらも、端末を操作して理乃を呼び出そうとしたが…。
「あ、違う。これじゃない。」
開いたのはメール画面。どうやら押し間違えたらしい。
「つ、次こそは…ぐぬぬ…。」
次に開いたのは地図アプリ。ご丁寧に現在地が表示された。
「…。」
何とか閉じて次こそは通話機能を取り出そうとするも、またもメール画面を開いてしまったようだ。
「ガイスト、理乃からかけてもらう。時間、かかる。」
「そうしよう…。」
今度、詳しい人に操作を聞いておこうと思っていたガイストは、開きっぱなしのメール画面から理乃のアドレスを呼び出してメールを打っていた。かなり手つきが遅い。
「えーっと…“ぱ・ぱ・で・す・。・れ・ん・ら・く・く・だ・さ・い”、っと…。」
「ガイスト、それ、誰に送る?」
どう考えても文面が息子のレヴナント宛てである。しかも声に出して文字を打つとかどれだけ機械音痴の父親なのガイスト。
「む、確かにレヴに送る文面だな。いつもの癖が出てしまったようだ。消して…あ。」
なんと、文面を消そうとしたら、誤って送ってしまったようだ。取り消そうとしてももう遅い。理乃はこの文面を受け取ってしまったに違いない。
「…。」
「目で訴えても、困る。アルテミア、知らない。」
何か悲しげな表情でアルテミアを見ると、つっけんどんに返された。
程なくして、ガイストの端末に電話がかかってくる。勿論理乃からだ。
「む、理乃から来たな。では…。」
ガイストは端末を操作し、耳に当てる。
「理乃、私だ。」
『…。』
通話口からは、何も聞こえない。
「む、聞こえんな。」
「…アルテミア、出る。きっと、もう一度、かかってくる。ガイスト、間違えて、切った。」
「なっ…! ぐっ、くぅっ…!」
声を絞りだすようにして唸るも、確かに自分が間違えて切ってしまったのは事実だ。自分より年下の子供に指摘され、ガイストはちょっと悔しいらしい。
程なくして、再びガイストの端末に電話がかかってきた。次こそはと意気込むガイストだが、アルテミアに端末をすかさず奪われた。
「理乃、来た。」
『あ、アルテミアさん…。まさかとは思いますが、ガイストさん、先程間違えて切ってませんでした?』
「ガイスト、切ってた。」
『まぁ、メールの文とかも併せてそうだろうと思っていました…。アルテミアさん、ガイストさんから事情は』
「理乃、早く、未来、飛ばす。アルテミア、強い奴、戦う、ガオ!」
早くも目をギラギラさせて興奮状態のアルテミアに、理乃は恐らく通話口の奥で呆れてるに違いない。
『(あー、どっかの戦闘狂もこんな感じだったわねー。)は、はい。では、現在地を』
「早く、早く連れてけ! 強い敵、戦いたい! 狩りたい!」
『わ、わかりましたから場所を』
「ガウーッ!」
このままでは埒が明かない。アルテミアは場所を言わずにただ連れてけ連れてけと連呼するばかりで、彼女らの場所がわからない理乃には通報しようがない。
「…エイゼンのグラープ砦だ。」
ガイストはアルテミアの頭を殴りつけ、端末を取り戻してからそう言った。
『わ、わかりました…。では、今から通報を。』
「ああ、頼む。それから…お前は、裏切り者ではない。それは侮蔑を現す言葉だ。だから…“救済者”、と私は呼びたいのだが、構わないか?」
『…ありがとうございます、ガイストさん。そう言われると、気が楽になります。では、すぐに通報しますので、お二人はその場で待機をお願いします。特にアルテミアさんをおとなしくさせておいてください。興奮のあまりハンターにとびかかって攻撃し、強制失格となってしまっては元も子もないので。』
「…一応、私の拳骨で大人しくさせておいた。今のうちに通報してくれるとありがたい。」
『では即座に通報させていただきます。』
理乃との通話は、そこで終わった。
「ガイスト、痛い!」
「お前はもう少し落ち着け。あまり理乃を困らせるな。」
「強い敵、目の前! 落ち着く、無理!」
「狩人の本質はどうした。」
ガイストはもう、何も突っ込まない事に決めた。
■
ユルヤナ地方・カプカプの里。
「(さて、早くアルテミアさんを通報しないとハンターを攻撃しかねない。)あ、またカプカプが来た。」
そこにあったカプカプ工場を見ていた理乃は、端末を持ちながらしばらく眺めていた。やがて相手が出たのを確認すると、一つ呼吸を整えた。
「…アルテミア・ヴィーナス、ガイスト・グレイス。エイゼン地方、グラープ砦前にいます。」
そう、静かに告げて、空を見た。未来へと飛ばすこの行為。皆も同意してくれるこの行為に、わずかながらも感じる罪悪感。それが、その瞳を濡らした。
「…アルテミアさん、ガイストさん…。未来を…お願いします…!」
その願いを、一陣の風に乗せて運んでから…すぐに、カプカプ工場へと目を移した。
(うわぁ、あのギンカプ凄い筆遣いがうまいわね。あっちのキンカプも中々のモノね。って、あの、どう考えても色が変なカプカプがいるんだけど。あのカラバリ…くすんだ白と…赤?)
くすんだ白と、そこに染み付いた赤のコントラストが不気味で、理乃は何だか追及するのが怖くなった。
■
しばらくして、二人の目の前にハンターが現れる。
「ガウーッ! はやく、早く連れてけー!」
「お前は落ち着け! 敵を目の前にして興奮するな! そこのハンター! 早く私達を捕まえてくれえぇぇぇぇぇぇっ!!」
『…。』
残っていたNAGIプログラムが働いているのか、ハンターは暴れるアルテミアを抑え込むガイストの肩に手を乗せるのを躊躇っていた。
『…。』
(あれ? 何だか物凄くこのハンターに同情された気がした。)
ガイストは、その静かに置かれた手に何だか、同情されているような気がしたが、すぐにアルテミア共々転送されてしまったので、言及はできなかった。
57.23
(裏切り者の通報により)アルテミア・ヴィーナス、ガイスト・グレイス 確保
残り12人
- コウドウ-blue maneuver- ( No.173 )
- 日時: 2017/04/11 21:54
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 2QWuZ1bi)
仲間を求めてエイゼン地方までやってきた陽介は、誰かいないかと探し回りながら、グラープ砦までやってきた。
(さっき、リングアベルさんがこっち周っていたから、もう仲間はいないと思うけど…。)
リングアベルがある程度の人間に話していると思い、陽介はここでの仲間確保は見込めないと踏んでいた。
ミッション2の制限時間は、あと少し。駄目そうなら自分一人でも未来へと飛ぼうと考えていた。
(あと一人、誰か腕の立つ奴が見つかれば…ん?)
ゆらりと、しなやかな黒髪が見えた気がして、陽介はそちらに駆け寄る。
見間違いではないなら、その黒髪を持つのは…。
「…あ、由梨ちゃん!」
理乃の仲間である、由梨だった。彼女は陽介の姿を見つけるなり、ちょっと驚いたような表情を浮かべた。
「ん? 陽介?」
「こんなところにいたのか。」
「ああ、ずっとこの辺りに隠れてたよ。陽介、ミッションは行かないのか?」
由梨がそう訊ねると、陽介は首を縦に振る。自分も本来ミッションに行きたいが、事態が事態なので向かえない、と言った方が正しいだろうが、ここで話してしまっては混乱を招きそうなのでやめた。
だが、由梨もめんどくさいとか言いつつもミッションへと行きそうな存在である。それがここに隠れていたなんて、おかしいと思った陽介は訊ねてみる。
「由梨ちゃんこそ、ミッションは行かないのか? ミッション1の時から名前見なかったけど。」
「ん、ああ…。まぁ、ミッションやって楽しんで逃げたかったんだけどさ…。」
由梨は腕を組み、考え込むような仕草をしていた。
「何か、この逃走中…初めからきな臭い匂いがプンプンしてな。」
「え…。」
陽介はここで確信を持った。彼女も、理乃と同じように目には見えぬ“悪意”を感じ取っているのだろうと。
「色んな世界旅してきたからか、何かそういう悪意に対しては色々と感じ取れるっつーか、そっち方面で割と勘は冴えてるっつーか。まぁ、早い話が…これは本当に昴さん達の作り上げた舞台なのか疑問に思ったから、動かずに調べてみようと思ったわけ。」
同じだ、と陽介は思った。改めて、同じ歳の彼女達と自分達の差を、大きく感じ取った。
「すげぇよ、由梨ちゃん達。やっぱ由梨ちゃん達はみんな、何かを感じてんだろうな。」
陽介のその言葉に、由梨は陽介が何か知っていると確信を持った。まずはその正体を見定めなければ。そう思い、陽介に聞くことにした。
「何か知ってるな、陽介。話せ。まぁ、恐らくはこの逃走中…。」
「ああ。この逃走中は“昴さんとMZDが作り上げたものじゃない”。既に“誰かにぶっ壊されてる”んだよ。」
そう言いながら、陽介はポケットから端末を取り出した。
由梨はその端末を軽く操作し、あるメールと写真を見て、溜息をついた。
「成程な。確かにこれはもう、あの二人が作ったものじゃない。」
それは、最初に届けられた宣言と、悲惨な添付写真。由梨はこれを見た瞬間、何が起こっているかが大体察しがついた。
「リングアベルさんは、これが事後の写真だって言ってたから、多分まだあの人達は無事だ。」
「リングアベルもかなりの猛者だ。信用はできそうだな。」
由梨はリングアベルを信用し、まだ昴達が無事である事に安堵を覚えた。
「だが…何かを起こすとしたら、何だ? 何故ここじゃなくて未来に飛ばしたんだろう。」
「そこまではわからねぇけど、何とかして仲間を集めねぇとこの写真の通りになるって危惧してたんだ。その…裏切り者、が。」
「気を使わなくっていいっつーの。正体はわかってる。どーせまた無茶していそうだと思ったよ。自分から汚名被って人を助けるの、前にもあったし。」
その言葉で、由梨は誰が裏切り者かを察しているのがよくわかった。ある意味これも、度を経て培った仲間同士の信頼と呼べるものか。
「…考えても仕方がない。未来に行く。」
「ああ。もう時間だし、俺も今行こうと思ったんだ。由梨ちゃん、彼女に連絡、いいか?」
「構わないって。話もしたかったしな。」
由梨は自分の端末を操作し、そっと耳に当てた。
『…はい。』
「よっすー。“救済者”さん。」
『…。』
「陽介から全部聞いた。まさか“救済者”に“協力者”がいるとは思わなかったぞ。」
裏切り者、いや、“救済者”がいるのはわかるが、それに加担する存在は予想だにしなかったのだろう。由梨はちょっと笑いながらそう話す。
『協力者がいないと成功しない事例だったからね。二人が快く引き受けてくれなかったら、今頃…。』
「へへっ、嬉しい事言ってくれんじゃねぇか、“救済者”さん!」
陽介は突然由梨の横に来て、通話口に向かってそう話す。由梨は話したい事があると察し、陽介に端末を渡した。
「一人で背負い込むなんて辛いだろ? それに、一緒にあのメールを見た以上、俺も協力しなきゃって思った。リングアベルさんもそうだと思うんだ。そして、リングアベルさんに事情を聞いたガイストさんも…。」
『…。』
「逃走中が乗っ取られている以上、陽介から見せられた“それ”も、もしかしたら本当なんだろうと思う。だから…アタシも、手伝うよ。陽介もそろそろ時間切れだろうから、一緒に行くってさ。アタシと陽介がいる場所は…さっきアルテミア達が捕まった、グラープ砦前だ。」
『うん、わかった。…二人共、未来を、お願い。』
「有事の際は世界を頼むって頼まれてるから当たり前だ。…お前も無理すんなよ、“裏切り者”…いや、“救済者”の桜坂理乃さん。」
今頃、この通話口の奥で理乃が笑ってるんだろうなと思いながら、由梨は告げる。実際、笑っていたわけだが、今の彼女達は知らない。
『そっちも…死なないでね。』
「当たり前だ。」
その言葉を最後に、二人は同時に通話を切った。
■
ユルヤナ地方・カプカプの里。
「…野上由梨、花村陽介。…エイゼン、グラープ砦前にいます。」
恐らく、これが最後の通報になるだろう。そう察していた理乃は、静かに告げる。
そして、自分が通報した存在達を思い出していた。
「…ティズさん、リングアベルさん、ユウさん、ホーリーさん、クマさん、アルテミアさん、ガイストさん、花村さん。…由梨。」
未来を託し、自分が送り届けた存在。
彼らの大切な存在である、アニエス、イデア、マグノリア、ベアリング、メフィリアとエインフェリア、レヴナント、千枝が、自分が裏切り者だと知ったら何というだろうか。恋人や家族を死地に向かわせた自分を見て、何と言うだろうか。ふと、それがよぎった。
だが、後悔はしていない。それが未来へと消えた昴達が、唯一助かる方法なのだから。
「未来を託せるのは、貴方達だけ…。お願い、どうか、この未来を…この世界を…!」
祈りの言葉は、風に乗って緩やかに消え去った。
■
そして、グラープ砦…。
「奴等が…いや、単体かもしれないけど、黒幕が何をしてくるかわからない以上、用心した方がいいな。」
ハンターが来るまでの間、二人は話し込んでいた。
「ああ、だな。…。」
陽介の体が、わずかに震える。
「怖いのか?」
「そりゃ…正直、怖ぇよ。どんな実力かもわからねぇ、どんな相手なのかもわからねぇ敵と戦争をおっぱじめに行くんだからさ…。下手をすれば、死ぬって時…だし。由梨ちゃんは怖くねぇの?」
「…怖いさ、そりゃ。」
そういった由梨は、陽介の手を取る。その手がわずかに振動しているのに気が付いた陽介は、驚いてた。
「…人をバケモノかなんかだと思ってねぇ? アタシだって怖いものは怖いさ。」
そこまで言った由梨は、陽介の手を放した。
「…死地に行く恐怖。何度味わっても、やっぱり怖いさ。強がって虚勢張ってるけど、それでもやっぱり、震えが止まらないんだよ。」
「…だよな。」
足音がする。どうやら時間切れのようだ。
程なくして、ハンターがやってくる。運命の刻限と言わんばかりに、こちらに向かって、ひたすら走ってくる。
「…陽介。」
「ん?」
「生きて帰るぞ。」
「おう!」
互いに生きて帰る約束をした二人は、ハンターに手を置かれ、同時に消え去った。
53.56
(裏切り者の通報により)花村陽介、野上由梨 確保
残り10人
- コウドウ-blue maneuver- ( No.174 )
- 日時: 2017/04/11 22:09
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 2QWuZ1bi)
現在、ユルヤナ地方・ユルヤナの仕立て屋…。
—…これが、裏切りの真相。
全てを語り終えたスバルは、静かに告げた。
—見てわかる通り、彼女は決して金ほしさに裏切ったんじゃない。ただ、最悪の未来を変えるために、みんなを欺かざるを得なかったの。
「…なるほどのぅ。それを知るのは、ミッション3の時点で残っているのは自分自身のみ。黒幕は捕まった後の内部分裂を狙い、こうして彼女の親友を利用し、二人を殺害した…。」
「…ゲスい黒幕だね。」
ユルヤナが呟いた、理乃の殺害動機を知った葉月は、怒りに荒ぶる心を押さえ、静かに言い放った。
「…。」
「アニエスちゃん? どうしたんじゃ? 微笑んで。」
「あ、いえ、リングアベルやティズらしいなと思いまして…。」
お節介焼きの二人らしい協力の申し出に、アニエスは思わず微笑んでしまったのだ。
「…私、話してきます。最初の協力者の、大切な人達に。」
「それがええじゃろう。」
アニエスはユルヤナの言葉に頷いてから、手帳を持ってパタパタと走っていった。
「…。」
「不安かの、葉月ちゃん。」
「ちょっとね…。黒幕がどんな奴なのかは大体わかったけど、このままこれで終わるわけない、そう思って。それに…あのディアマンテっていうの、本当に未来に飛ばしてよかったのかな。」
「どういうことかの?」
葉月の言葉に、ユルヤナが怪訝そうな顔を浮かべる。
「…嫌な予感がするの。さっきのミッション…本当に、クリアしてよかったのかな?」
「…! ま、まさか、葉月ちゃん…!」
何かに思い至ったユルヤナに、葉月は頷く。
「昴さん達が飛ばされたのも“未来”。理乃が昴さん達を助けるために飛ばしたのも“未来”。…そして、ディアマンテを飛ばしたのも“未来”。全部どこの“未来”かはわからないけど…もし、この予感が当たっていたら、恐らくこのミッションは」
「ふざけないでください!」
葉月が言おうとした言葉を遮るかのように、怒声が響いた。アニエスだ。
「ふざけてなんかないじゃん! あたしはただ、そんな話を信じられないだけ! リングアベルが裏切りに加担したなんて、絶対に信じない!」
「イデア、信じるか信じないかは別として、これは紛れもない事実なのです! 最悪の結末を…恐らく、エンドレイヤーのような結末を避けるために、理乃さんを助けようとしたリングアベルの思いを踏みにじるつもりですか!」
「信じないったら信じない! 裏切りなんて真っ黒なこと、あいつがする訳ない!」
「イデア、“裏切り”という言葉に惑わされないで下さい! 言葉がどうあれ、リングアベルが私達の為に行動したことに変わりはないのです!」
どうやら、アニエスが理乃の裏切りの経緯を説明したはいいが、肝心のイデアが全く信じてくれない事に腹を立てたようだ。
「アニエスだって忘れたわけじゃないでしょ! あたし達が経験した、あの裏切り! あんな目に遭いたくないのはあいつも重々承知してるはずだよ!」
「ですが、これは事実なのです!」
「だったらその証拠を見せてよ! 理乃が裏切った時に来たっていうメール!」
「そ、それは…!」
「いい加減にせんか!」
証拠を出せと言われて困った時に、また別の方角から怒声が聞こえて、全員鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして驚いた。
声を発したのは、意外にも、ユルヤナだった。
「お主ら、これが、この内部分裂こそが黒幕の狙いだとわからんのか! 今もこの姿を見て、黒幕は嘲り笑っておるのじゃぞ!」
「だ、だけど…!」
「…。」
ユルヤナの剣幕に、イデアは反論する言葉を飲み込んだ。
黙り込んだイデアを見て、ユルヤナは千枝とレヴナントに歩み寄った。
「千枝ちゃん、レヴナント。お主らの力で、試してみたい事がある。」
「え? う、うん、いいよ。レヴ君もいい?」
「だいじょーぶだよ? それで、ローシさま、なにすればいいの?」
「レヴナントは千枝ちゃんに【憑依】を。お主の力を上乗せした千枝ちゃんの最大物理攻撃で壊せんか、試してみたい。それでも駄目ならば、皆で少しこの結界について調べてみようと思う。」
「あ、そっか! その手があった! 千枝、早速いっくよー!」
(え、オバケに取り憑かれるって…! い、いや、でも今は緊急事態だし、相手はレヴ君だし、大丈夫、大丈夫…!)
オバケ嫌いの千枝が、レヴナントに取り憑かれることを想像しただけで一瞬震えるも、そんな場合ではない上に、子供のレヴナントに怯える必要もないと悟ったのか、すぐに受け入れ態勢を取った。
- コウドウ-blue maneuver- ( No.175 )
- 日時: 2017/04/11 22:18
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 2QWuZ1bi)
一度、湯船はガテラティオに降り立った。メフィリアに連絡したところ、丁度その辺りにいるという話だったからだ。
「メフィリア!」
「うぉ〜い、メ〜フィ〜リア〜ッ!」
「あれは…! マリアベル! ヘンリー!」
降り立つなり、メフィリアと、その後ろにいたマリアベルとヘンリー目掛けて駆け寄ってくるマグノリア達。
「クロムさん! リズ!」
「よかったー! マリアベル、無事だったんだね! この世界に降り立ったらフルーレさんとお兄ちゃん達しかいなくてびっくりだよー!」
「まあ…やはり皆、バラバラになってしまったようですわね…。」
「だが、無事合流できてよかった。…事態は把握してるか? 二人とも。」
クロムの問いに、マリアベルは首を横に振る。
「ただ…わたくし達はもっと早く集まるべきで、もっと早くにこの世界に来ているべきでしたわ…。」
「そっちも…間に合わなかったんだね…。あ、そうだ。ねぇ、マリアベル。ウードとマークを見なかった?」
「いえ、二人とも見ておりませんわ。リズも、ブレディがどこに行ったかご存知ではなくて?」
「あ、そっちもはぐれちゃってたんだ…。」
互いの子供が心配なのか、リズもマリアベルも不安そうに肩を落とす。
「だったら、みんなとの合流を急いだ方がいいと思うよ〜?」
「ヘンリーの言う通りだな。ジャン、もう少しだけこの湯船とやらを借りていいか? 空から探した方が効率がいいだろう。」
「構わねぇよな、サクラさん。」
「はい〜。整備もばっちり、いつでも飛び立てますよ〜。」
サクラのほわーんとした何かに、ジャンは何故かすごく癒されている。が、そんな場合ではないと悟ったのか、すぐにクロム達を湯船に入れた。
「じゃあ、クロム達は合流を急がせるとして、だ。」
湯船に乗り込むクロム達を見送った後、ジャンはマグノリア達の元に来る。
「…残りは、オレ達だけかぁ〜…。」
ベアリングがぼそりとぼやく。そう、この逃走中において、確保されていない逃走者は、ベアリング、メフィリア、マグノリアの三人だけだ。
「もう、ゲームなんて関係ないわ。ここに来るまで、何人死んでると思ってるの! もう、こんなの、ゲームじゃない!」
苛立ちを押さえきれず、マグノリアは叫ぶ。
確かに、ここに来るまでに多大な犠牲を払った。もうこれはゲームなんかじゃない。ただの命を懸けた戦争だ。
「…。」
ジャンは、そんな三人を眺めているだけだった。なんと声をかければいいか、わからないようだ。
「…中止にさせましょう。」
そんな中、メフィリアはそう呟いた。
「これはもう、このまま続けているべきものじゃないわ。運営が不死の塔にあるって、聞いたの。だから、直接乗り込んで、意地でも終わらせるの! もう、こんなゲームで誰かが死ぬのは嫌!」
「ああ、それが一番いい。」
メフィリアの言葉に賛同したのは、ジャンだった。
「既にあいつらの範疇を越えた殺戮ゲームになっちまってる以上、終わらせた方がいい。」
「じゃあ、さっそく不死の塔に…!?」
全員で不死の塔に乗り込もうとした時、三人の端末が鳴り響いた。
「『ミッション4』…! まだ続けるつもりなの!?」
「いや、待てマグノリア! これは…終わらせるつもりだ!」
『ミッション4:無限に湧き出るハンターから逃げ切れ
残り時間いっぱい、ハンターが無限に現れるようになる。
無限に湧き出るハンターを掻い潜り、ミッションクリアと逃走成功を目指せ。
なお、ガテラティオ以外の街に結界を張り、侵入不可能とした。今回の逃走フィールドは、街以外とする。』
ミッション4は、まさかの時間いっぱいまで逃げ回るミッションだ。しかもその相手が、無限に湧き出てくるハンターからというもの。
「そんな…! これは、確実に逃げ切れないわ!」
「時間はぁ〜…。残り30分だぜぇ〜っ! 逃げられっこねぇ〜よぉ〜っ!」
絶望するメフィリアとベアリング。マグノリアは端末を強く握りしめた。
「こんな…バカなゲーム、あってたまるもんですか!」
そう叫ぶと同時に、ハンターが様々な場所から現れた。
「とにかく、お前ら三人は逃げろ! 運営には俺が行ってくる!」
「ジャン、お願いね! メフィリア、ベアリング、今は逃げることを考えて!」
「わ、わかったわ!」
「お〜っ!」
四人はそれぞれの場所へと散り散りになった。
互いの武運を、祈りながら。
- コウドウ-blue maneuver- ( No.176 )
- 日時: 2017/04/11 22:29
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 2QWuZ1bi)
「裏切り者…いや、救済者は、本当にみんなを救おうとしていた。」
全てを語り終えると、君は安堵の表情を浮かべる。
やはり嬉しいのだろう。裏切り者なんて、いなかったことが。
ここまで語っても、彼女を罵る輩がいるのだとしたら、その人の神経を疑うよ。…あ、イデアちゃん、疑ってたか。
「そして、最後に通達された指令は、最早絶望のどん底に叩き落とすようなものだった。」
さらっと言うなら、敗北確定のイベントボス戦かな。と言うと、君は苦笑していた。ごめん、例えが悪かったかな?
「そして…この通達を最後に、長いようで短かったこの逃走劇は終わりを迎えるんだ。」
ついに、この遊戯を語り終える時が来て、僕は寂しいような安心したような気持ちを抱いた。
「さぁ、終わりを語る準備はできた。君が聞く準備ができたら、話し始めるよ。」
君が頷いたのを確認すると、僕はノートのページを開いた…。
■
今日はここまで。続きはまた明日