二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- ヘンドウ-calm before the storm- ( No.31 )
- 日時: 2016/01/03 21:31
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: PMN5zCv8)
葉月が確保されて数分、イデアはいつしかエタルニア地方の中心街、エタルニアまでやってきていた。
「わー、凄い…。結構細かいところまで再現されてるよ…。これ、寒かったら完全にエタルニアじゃん…。」
ハンターを警戒しつつ、自分の故郷によく似た街を探索する。あまりの再現率の高さに、イデアは開いた口が塞がらないようだ。
見て回るうちに逃走中であることもやや忘れ、いつしか観光気分で散策していた。
「む、イデアか。」
「あ、お父様。」
そんな彼女の前に、同じく観光気分で見回っていた父、ブレイブが現れた。
すみません、警備頼んだはずなのにその手に持っている田楽は何ですか。完全に観光気分じゃないですかおい。
「ここは素晴らしいな。私の好物まで再現するとは。」
「ねー。終わったらしばらくそのままにしてもらって、ここをお母様と一緒に歩こうよ! リングアベルも誘ってさ!」
イデアがにこやかにブレイブと会話をする物陰で、こっそりと覗く黒いフルフェイスの鉄仮面をかぶった兵士。
(イデア…俺は…?)
物悲しそうにイデアを見るその兵士は、いつしかシクシクと泣き出してしまった。
(ちくしょう! 認めたくはないが、一応、奴と俺は同一人物なのに、何であいつばかりがイデアにモテるんだ!)
だが、その声は届かない。多分届いてもイデアに一刀両断されそう。
さて、話し込む父子に戻ろう。
「ところでイデア、ポーションは足りているか?」
「へ? いや、そもそもこの逃走中で使う機会がないと思うから持ってこなかったけど?」
「甘い、甘いぞイデア! ポーションを軽んずる者はポーションに泣く! 備えあれば患いなしだ!」
「いや、どう考えても使わないでしょ…。」
(元帥殿、それは“1ピークを笑う者は1ピークに泣く”と“備えあれば憂いなし”です…。)
何故か必死でポーションポーション連呼する父に、娘はちょっとだけ引き、兵士は心の中でツッコミを入れた。
「昴から聞いた逃走中での災厄、それが本当ならば、備えておいても損ではないだろう。」
「いや、田楽持って楽しんじゃってるお父様にそれ言われたくないんですけど…。」
「というわけで、持って行け。とっておきのポーションだ。」
娘のツッコミを完全にスルーし、父は勝手に娘にポーションを持たせた。
「生温かっ! なにこれ!」
「寒いと思って温めておいたぞ。」
「今、寒くないじゃん! え、しかもどこで温めたの!?」
「私のハートだ。」
そう言ってブレイブは自分の胸部を指した。
「胸だけにハート!? オヤジギャグやめてよ、もう!」
「そ、そうか…ならば、この世界に伝わるコヤジギャグとやらを会得するか…。」
「何でもいいから、つまらないギャグはやめて! おっさん臭い!」
イデアがそう言った時、ガーン! というような効果音と電撃が走るような顔をしたブレイブ。
「お、おっさん臭い…だと…!」
どうやら娘に「おっさん」と言われて、かなりショックを受けたようだ。
「…確かに私は気遣いが得意な方ではないが、うまくやろうと努めてきた…が、まだ精進が足りないというのか…。」
「お父様は年頃の娘との付き合いに慣れてないだけだと思う…。」
「でも、」と言って、イデアは続ける。
「まぁ、頑張ってるのは認めてるし、ぶっきらぼうでもちゃんとあたし達の事を思ってるのはよくわかってる。じゃ、ポーション貰ってくね!」
そう言って、イデアは立ち去った。懐にそっと、父親からもらったポーションを忍ばせて。
「イデア…。最後まで諦めるなよ…。」
そんな娘の背中を、ブレイブは優しい目で見送っていた。
- ヘンドウ-calm before the storm- ( No.32 )
- 日時: 2016/01/03 21:37
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: PMN5zCv8)
アニエスは、陽介と別れて砂漠のオアシスまで来ていた。
「ふぅ、ふぅ…。暑くないとはいえ、やはり全力疾走はこたえます…。」
「おいおい、法皇サマ、運動不足か? ほら、水。」
誰かから差し出された水を、一気に飲み干す。そして放った一言が…。
「う、運動不足ではありません! …多分。」
「あんまり運動しないと、丸々太ってその服入んなくなるぞ?」
「う、うぅぅ…! じょ、女性に失礼ですよ、ジャッカル!」
むー、と膨れ面を浮かべながら、アニエスは目の前にいた男、ジャッカルを睨みつける。
その当の本人は、あははと屈託のない笑顔を見せた。
「わりぃな、いつもオレの飯うまそうに沢山食うから、ちっと心配になっちまってな。あんまり丸々太ると、ティズに何言われっか分かんねぇから適度な運動しとけよなー。」
「ふ、太ってなんかいません! …ジャッカルのご飯が美味しくてついつい食べ過ぎちゃうのは認めますが、菜食中心です!」
「野菜中心だろうが、たらふく食ったら太るだろうが。」
ジャッカルの反論に、アニエスはこれ以上何も言えなくなった。目に見えて落ち込んでいる。
「今度から、運動します…。」
「それがいいな、うん。しっかし…。」
不意に、ジャッカルは空を仰いだ。
「なー、アニエス。今はガテラティオにいる事が多くなったが、お前もはナダラケスは長いんだろ?」
「ええ、かつてはこの地方の風の巫女でしたから。」
「何か不思議だよなー。オレらが知ってるここってさ、焼けるように暑い砂漠…だよな。」
「そう、ですね。でも、ここはあくまでナダラケスを再現しただけで、気候そのものはこの世界のままなのでしょう。違和感を覚えるのは当たり前ですが、あくまでナダラケスの形をとった、別の場所と思っていただく方がいいと思います。」
「へえ…。」
じっとアニエスを見るジャッカル。そんな彼に、彼女は首を傾げた。
「いや、お前って、意外と冷静なんだなって思ってよ。おっとりしていて頼りないイメージだったからよ。あと方向音痴だし、何時の間にか食い意地張るようになったし。おっと、こっちは小食の食い意地だったな。」
「そ、そんなに頼りないですか!? あと方向音痴と食い意地は余計です!」
頬を膨らませぶーたれるアニエス。だが、その表情はすぐに戻り、わずかに笑みを浮かべた。
「でも、世界を救う旅をして、ティズ達を始め、素敵な出会いをしました。こうして私がここにいられるのも、皆さんのお陰なんです。」
旅を通して人は変わるというが、アニエスはそのいい例だったようだ。
「私、皆さんと出会えて、本当に良かった。」
『あはは、嬉しい事言ってくれるね、アニエス! さーて、そろそろおしゃべりもその辺にしたら? もうじきミッションも来るだろうし、それに、ハンターが来ちゃうよ?』
「あっ、そうでした。では、ジャッカル、私はラクリーカに急ぎますので、ここで。」
「おう。」
そう言ってアニエスはジャッカルと別れ、立ち去った。
…ラクリーカとは反対方向に位置する、ジャッカルが根城とするナダラケス遺跡へ。
「…おーい、そっちは逆だぞー。ラクリーカに行くならここから西だから。」
「はうっ! ほ、ほんの冗談ですっ!」
「だよな。あんなでかい時計、見えないはずないよな?」
「(あうぅ…実は見えていませんでしたなんて言えない…。)も、勿論です! では、また!」
ラクリーカを象徴する、巨大なからくり時計。それを目印にすれば、真っ直ぐラクリーカへと行ける…はずだった。
「こ、ここはどこですかー!」
…彼女の方向音痴っぷりは、最初の旅から二年経った今でも健在である…。というか、地元で迷うな元巫女様。
- ヘンドウ-calm before the storm- ( No.33 )
- 日時: 2016/01/03 21:43
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: PMN5zCv8)
烈は何とかエイゼン地方のもう一つの街、ハルトシルトまでやってきた。
「ふぇー、ハンターこえぇ…。」
葉月確保の一報を受け、烈は少し竦んでいた。実際に確保された人が出てきて、ようやく始まった実感が出ているのだ。
「別に酷いことされる訳じゃねえけど、なんかこえぇな…。」
ハンターに警戒しながらも、中に入る烈。
町は今、とても賑やかだ。まるでお祭りのような雰囲気を醸し出していた。
「ふぇ? 祭り?」
烈が辺りを見回していると、急に背後から気配が感じた。驚いて振り向くとそこには、キキョウがいた。
「うひゃあっ! お、驚かすなよキキョウさん!」
「…。」
申し訳なく思っているのか、ちょっとだけ申し訳なさそうな顔を浮かべるも、すぐに居住まいをただす。
「えっと、なぁ、キキョウさん。これって何だ? 何か祭りみたいだけど。」
「…。」
烈の問いに、キキョウは煙玉を使い、ドロンと変化した。その姿は、どこか秘書を思わせる。
「エイゼンベルグへは任務の際に行ったきりで詳しい内容は私にも分かりませんが、これは年に一度ハルトシルトで行われる“ハルト祭”を再現したものと思われます。様々な出店があり、これには決まった店はないようです。特に前回のハルト祭においては“旅の菓子職人”パネットーネがケーキ店を開いたそうです。その味は天上へ昇る程。彼の美貌と相まって店を訪れたスイーツ好きの女性をメロメロにしたのだとか。その他、ルクセンダルクの一部地域でしか行われていない珍しい遊びである金魚すくいや、色とりどりの花を売る花屋など、出店の種類は多岐に渡ります。ひとまずは、出店を巡る楽しい祭りと認識してはどうでしょうか。興味があれば本物のルクセンダルクへ赴き現地の者に話を聞くと良いでしょう。」
一息で長い話を言い終えると、キキョウは再び煙玉を使い、元の姿に戻った。
「ああ、うん。わかった。ありがとう。よくわかったよキキョウさん。つまりはあれなんだな。これがあのハルト祭なんだな。」
延々とノンブレスで教えてもらったので、ちょっと凄いと思いつつも、何とも言えない表情を浮かべた。
「まぁ、楽しんでくるよ。ここならハンターにも見つかりにくいだろうしな。」
キキョウが一つ頷いて手を振ったのを確認すると、烈はハルトシルトの奥まで走って行った。
- ヘンドウ-calm before the storm- ( No.34 )
- 日時: 2016/01/03 21:48
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: PMN5zCv8)
本物のハルト祭さながら、一歩踏み込んだだけで凄い賑わいを見せているのがわかった。
「ふえー、すげー賑わってるな。もしかして人まで再現してんのか?」
「いや、町並みだけ再現して、あとはここの兵達がやっているようだ。」
烈の疑問に答えるかのように、後ろから声が聞こえた。振り向くとそこには、仮面の剣士メタナイトと波動の格闘ポケモンであるルカリオ、そして、星の戦士カービィがいた。
「カービィにメタにルカリオじゃねぇか。お前達も来てたのか。」
「ぽよー!」
「おっと、ははっ、カービィはいつも元気だな。」
烈は飛び付いてきたカービィを受け止め、そのまま胸に抱き締めながらメタナイト達を見た。
『マスターハンドにここの警備を頼まれたのでな。スマブラメンバーほぼ全員集合だ。新しく入った奴等も一緒だ。』
「つーことは、俗に言うforのメンバーも来てるんだ。」
『ああ。とはいっても全員じゃなくて、一部のメンバーだがな。何だか、自分の世界で用があるとかで。』
ルカリオがテレパシーのようなもので烈と心を通わせ、新しい人達と共にここを守っていることを伝える。烈が納得して頷いた。
「だが、今のところ特にこれといった危険はなさそうだが…。」
「まぁ、起こらない方がいいとは思うぜ。…また、リリィや昴さんが危険な目に遭うような悲劇は起こらない方がいいんだ。絶対。」
「…異世界の悲劇は私も色々とマスターハンドから聞き及んでいる。そうならないよう、お前達の安全は確保しなければな。」
メタナイトはそこまで言うと、仮面の下に笑みを見せ、「だが、」と話を続けた。
「今回の逃走者達も、ここに集まった警備のエキストラ達も、猛者ばかりだ。特に心配はいるまい。」
そう、メタナイトの言う通り、ここに集まった逃走者、エキストラ全員、戦いに慣れた者達ばかりだ。なので、メタナイトは特に心配していないようだ。
「だな。まあ、起こったら起こったでみんなで何とかしておけばいいし。さて、折角だし俺はそのまま逃げつつ辺りを見てるよ。」
『とても面白そうな催しばかりだ。そうだ、ついさっき大食い大会なるものが始まっていたな。』
「へー、何か面白そうだから見に行ってみようぜ!」
「そうだな。折角だし見てみるか。カービィ、乱入は禁止だからな? 烈、そのままカービィを抱いててくれ。」
「ああ、うん、了解。」
「むー。」
大食い大会と言う行事に、カービィは目をキラキラさせて期待していたが、メタナイトに禁止されて頬を膨らませた。
そんなこんなで、一同は大食い大会会場までやって来た。
「ひゃー、すげー賑わい。」
『さぁ、いよいよこの大食い大会も残すところ決勝戦のみだ! ここまで勝ち進んだ猛者達を、紹介しようではないか!』
「って、司会はハインケルのおっさんかよ!(いや、確かにあの人確かここ出身で、ここに住む司令官とライバルとかなんとか…。それでここに抜擢されたか。)」
なんと、その大食い大会の司会をしていたのはナイトのアスタリスク所持者のハインケルだった。
『まずは、段ボールに隠れてウン十年、KONAMIは音ゲーだけじゃない事を伝えるためにやって来た…スマブラファイター、ソリッド・スネークウゥゥッ!』
「待たせたな!」
「ワアァァァァァッ!!」
「いや何やってるんだスネークウゥゥゥッ!!」
ハインケルの紹介と共に現れた一人目、スマブラファイターの一人であるソリッド・スネークは段ボール姿で現れ、指定の位置まで来るとポイッとその愛用の段ボールを投げ捨てた。
突然現れた人物に、同じスマブラファイターであるメタナイトとルカリオが叫ぶ。警備に来たはずが、まさかこんな行事に参加しているとは思わなかったのだ。
だが、そんな声を一切無視し、舞台では次なる人物の紹介が入った。
『続いて、BEMANIの看板を背負ってやって来た四次元胃袋を持つにゃんこ…!』
(い、嫌な予感…。)
何かを悟ったのか、烈が表情筋をおかしくさせた。
『ジョーカー一味のダイヤの子、リリィ・ダイヤアァァァァッ!』
「ワアァァァァァァッ!!」
「何しとんじゃリリィィィィィィィッ!!」
嫌な予感が当たった烈は先程の二人同様叫ぶ。そう、ハインケルが紹介したもう一人は、あろうことか妹同然の居候、リリィだった。これには叫びたくなります。
あ、ちなみに、観客は盾派と剣派のみなさんです。みんなで手を取り合って一緒に盛り上がってます。
『くしくもKONAMI社の対決となった今回の大食い対決。これはどっちが勝つかわからんな。解説のバルバロッサ、貴殿はどう思う?』
『うむ、わからんな。ダァ〜ッハッハッハ!』
「おい海賊のおっさんも何してんだあぁぁぁぁっ!!」
『こ、この大食い大会、凄く、カオスだ…。』
「ルカリオ、スルーしとけ。」
しかも解説が海賊のアスタリスク所持者であるキャプテン・バルバロッサ。こいつに解説が務まるかは微妙だが、スルーしておこう。
『さて、決勝戦の料理は…これだ!』
もう何を突っ込むべきかわからない一同がスルーし始めたと同時に、決勝戦の料理が提示されたようだ。
『ラーメン作り続けてウン十年、ハルトシルトの名物老舗ラーメン店である“ラーメン・ハルシル”の…味噌ラーメンだ!』
「ワアァァァァァァァッ!」
『なお、やけど防止にスープは飲まなくて結構だ。』
「うん、忠実に大食いのを再現してるんだな。」
烈はもう遠い目を浮かべていた。突っ込みはしたいが突っ込むべき事柄が多すぎるのだ。
「しかし、ラーメンか…。」
「何かあるのか?」
「リリィ、猫舌なんだ。だから極度に熱いのは冷まさないと食えないんだよ…。」
「ふむ、それならばスネークの方が若干有利か。まあ、体格の点でもスネークが有利だろうが…。」
「リリィの胃袋を甘く見るなよ? あいつ、普段は抑えてるけど…遠慮なしで食う時はペロリと平らげるんだ。あの愛屋の雨の日スペシャル肉丼をさらっと完食した後に更にもう一杯のスペシャル肉丼を頼む程にな。」
もう解説に回る烈とメタナイト。おい、烈。あんたハンターに追われてるんだから自覚して。
『それでは、試合…開始ッ!』
大きな銅鑼の音と、「いただきます。」の挨拶と共に、大食い大会決勝が始まった。
「これ、どちらが勝つのだろうな。」
『猫舌の点から若干あの少女が不利だな。』
「ああ、やっぱり熱いのが…やべっ!!」
視界の端に何かを捉えた烈は、カービィをルカリオに投げ捨てると、すぐに人混みに紛れた。
『…。』
現れたのは、ハンターだ。だが、どうやら気づかれなかったようで、そのままスルーして町の外に出てしまった。
「ふぃー、あぶなっ…。呑気に観戦してる場合じゃないんだよな…。」
『あのハンターとやらはもう外に出たようだ。だが、いつまた戻ってくるともわからん。』
「のんびりしてる暇はないんだな…。」
ハンターは神出鬼没である。いくら一体しかいないとは言え、油断は禁物だ。
- ヘンドウ-calm before the storm- ( No.35 )
- 日時: 2016/01/03 21:56
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: PMN5zCv8)
一方その頃、エタルニア地方の不死の塔。土のクリスタルが祀られている神殿より遥か上。
「あー、やべぇ、道に迷っちまった…。」
完二は現在、ここに一人上ってきていた。だが、道に迷ってしまったようだ。
「あ、完二だ!」
「ん? うおっ、と…。ローズか。」
そんな彼に声をかけたのは、ローズだった。ローズは完二の姿を見つけるなり、飛び付いた。
「オメェ、何でここに?」
「えっとね、MZDからこのエタルニア地方から出なかったらどこにいてもいいからって言われてたから、お散歩してたんだ!」
どうやら、ローズはMZDの命令でこの島を出られないようだが、本人はそれでも楽しんでいるようだ。まぁ、ちょっといけばガテラティオやエタルニア、公国軍総司令部、そしてここ不死の塔もある。飽きてしまったらガテラティオやエタルニアで誰かと遊べばいいだろう。
「そっかそっか、オメェはオメェなりに楽しんでんだな。こっちは必死に逃げてっけど。」
「黒い凪に追いかけられるってどんな気持ちなのー?」
「まだ追いかけられてねぇけど、多分スゲェ恐ろしいと思う。オメェだったら泣きじゃくって逃げ回るんじゃねぇの?」
「むっかー! そんなことないよ!」
そんな他愛ない話をしていると、後ろから足音が聞こえた。
「ん? 足音…やべっ!」
「え、完二、どし、うわぁっ!」
何かに気づいた完二は、ローズをいきなり引っ掴み、走り出した。
『!』
足音の主であるハンターは、その姿を見逃すはずがなかった。完二をロックオンし、追いかける。
「か、完二、なんでボク掴んだのー!?」
「バカッ、逃げねぇと捕まんぞ!」
(いや、ボク、エキストラなんだけど…。)
どうやら完二は逃げるのに必死でローズが逃走者ではなくエキストラだという事を忘れているようだ。
それほどまでに必死なのか、すぐに忘却してしまったか、あるいは両方か…。それは当人のみぞ知るが、多分どちらも、だろう。
「ハァ、ハァ、だ、ダメだ、追い付かれるっ!」
そんな間にも、ハンターは完二との距離を積める。
「チィッ、仕方ねぇ…!」
「え、完二、どし、うわぁぁぁぁぁぁ…。」
逃げ切れないと感じた完二は、何を思ったか、ローズを不死の塔の窓から…。
投げた。
ためらいもなく。
思いっきり。
…投げた。
と、同時に、ハンターは完二に追い付いてしまった。
113:30
巽完二 確保
残り25人
「ローズ、オレの分まで逃げ切れよ…。」
ハンターを背後に、完二は窓の外を見てそう呟いた。
『…あのさ、完二。』
「あん? んだよ影。」
『別にローズ抱えて逃げなくてもよかったんだよ? だってローズ…エキストラだもん。』
「あ。」
必死で逃げていたので頭になかっただけなのか、影に言われて気づいた完二だった。
「ろ、ローズすまねえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
完二は外に向かってそう叫んでいる最中に、風花の手により転送されたとか…。
- ヘンドウ-calm before the storm- ( No.36 )
- 日時: 2016/01/04 00:11
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: PMN5zCv8)
不死の塔、外…。
「…ぁぁ…!」
「ん?」
「どうかしましたか? 鈴花さん。」
完二がローズを投げて確保されるほんの少し前、鈴花は途中で出会ったユウと共に、ここに来ていた。
「あ、ううん。何か、声が聞こえた気がして…。」
「声、ですか? まさか中で誰かが確保でもされたのでしょうか?」
「うーん、どうだろう。上から聞こえた気がしたけど…。」
「上、ですか? …あ。」
ユウは何かに気づいたのか、上を見たと同時に声を漏らした。
「う、うわわわっ! り、鈴花さん! 空から女の子…じゃなくて、ローズ君が落ちてきます!」
「え、ええっ!?」
鈴花はユウの言葉に驚き、一緒に上を見た。
「…ぁぁぁぁぁああああああっ!!!」
「って、ホントに落ちてきてたあぁぁぁっ!!」
なんと、鈴花目掛けてローズが落ちてきたのだ! これには鈴花も一瞬驚くも、すぐに受け止める体勢に持っていき、ローズを受け止めた。
「ローズ、大丈夫!?」
「うわーん! 鈴花ぁーっ! 怖かったよぉーっ!!」
鈴花が受け止めるなり、ローズは彼女に飛び付いて泣き出した。
「ど、どうして空から落ちてきたんですか? ローズ君。」
「か、完二が、ボクをいきなり窓から投げたのー!」
「ええっ!? 完二が投げた!? もーっ、なんでそんな酷いことするの!」
完二が犯人と聞いた鈴花は、頬を膨らませてプンプンと怒った。いくら恋人と書いて好敵手であれ、大事な弟同然の居候を危険な目に遭わせたので許さないのだ。
「完二なんか、さっさとハンターに捕まっちゃえー!」
と、鈴花が叫ぶと同時に、ピリリと端末が鳴り響いた。
音にハンターが気づくと思い、ユウと共に慌てて止め、内容を見た。
「えっと、何々…『巽完二、確保。残り25人』…。」
「…ホントに捕まりましたね、完二さん…。」
偶然だろうが、鈴花はそのメッセージを見て真っ青になった。
「…。」
『あー、鈴花。他のみんなも聞いて。今、完二がローズと一緒に逃げたんだけど、別にエキストラと逃げなくていいからね。ハンターは逃走者だけを追い回すから。』
『その辺りのプログラムはきちんとしているので安心してください。あと、完二君はあとで鈴花ちゃんに謝った方がいいよ。事故とはいえ不死の塔からローズ君を投げたんだから。あと、言わせて。完二君、いくら頭の中色々必死だからって、逃げる必要のないローズ君と逃げなくてもいいんだよ…。悪いとは思ったけど、お馬鹿さんなの? と思っちゃったよ?』
影と風花のこの通信に、鈴花とユウは死んだ目を浮かべた。
「あの、鈴花さん。これは貴方の前で言う台詞ではないでしょうが、言わせてください。」
「うん、甘んじて聞くよ、ユウ君。」
「では、お言葉に甘えて。…あの、完二さんってその、頭が…。」
「…。」
ユウの言葉に、鈴花はもう何も言えなかった。
そんな時、もう一度端末がピリリと鳴り響いた。ユウも鈴花も慌てて止める。
「もうっ、一体何!? 時間的にミッションか…えっ…!?」
「そ、そんな、これって…!?」
突如現れた通達。
それは、逃走者を混乱の渦中に、更に沈めるものだった…。
「どうして…どうして“裏切り者”なんか募る通達が…!」
■
確保者の言葉
二人目:完二
完二
「あー…。恥ずかしい…。オレ、何でローズと一緒に逃げちまったんだろ…。鈴花に殺される…。」