二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- ゼツボウ-Beginning of the end- ( No.87 )
- 日時: 2016/01/22 22:42
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: ASXV1Vux)
エイゼン・グラープ砦前…。
「…。」
アルテミアは黙って、ガイストの話を聞いていた。
「アルテミア、難しいこと、わからない。」
(失礼だろうが、だろうなと思った。)
野生児であるアルテミアは、正直そんなに学はない。
だが、学がないからこそ、わかる事もある。
「でも、アルテミアの力、役立てる。それだけは、わかった。それと…。」
「それと?」
「裏切り者、裏切ってない。誰も、裏切ってない。裏切り者、言葉、違う。」
「ああ。裏切り者など、最初からいなかった。」
何を話していたかはわからないが、アルテミアは裏切り者はいなかったと言った。それを聞き届けたガイストも、どこか嬉しそうに頷いた。
「この逃走中に渦巻く真の悪意、それが、私達が本来相手にすべき元凶だ。」
「逃走中、してる場合じゃない。ガイスト、何故、中止にならない?」
本来、倒すべき敵がいるのに、この逃走中を続けている意味が分からない。アルテミアが訊ねると、ガイストは難しい顔で俯いた。
「恐らくだが、既に運営は真の悪意に乗っ取られていると見ていいだろう。私達は気づかぬうちに、奴等の手の内に転がされているのだ。」
「…アルテミア、悪意に縛られる、嫌だ。」
「ああ。だからこそ、私達は…!」
■
とある地方。
「…アルテミア・ヴィーナス、ガイスト・グレイス。エイゼン地方、グラープ砦前にいます。」
裏切り者は、静かに告げた。
「…アルテミアさん、ガイストさん…。」
端末を切り、空を仰ぐその目は…わずかに、濡れていた。
「未来を…お願いします…!」
■
エタルニア・不死の塔前…。
(ミッションをしにここに来てみたはいいけど、もう既に誰か入ってるみたいね。…何事もなければいいけど。)
気の向くままここに来たのは、ヴィーナス三姉妹の次女、メフィリアだった。
今までずっとナダラケスで身を潜めていたが、少し嫌な予感がして、ここまでやってきたようだ。
「…ん?」
ふと、端末が鳴り響いている事に気付き、メフィリアは届けられていたメッセージを見て、愕然とした。
「そ、そんな、アルテミアが!?」
メッセージには、『裏切り者の通報により、ガイスト・グレイス、アルテミア・ヴィーナス確保。残り12人。』と書かれていた。そう、末の妹アルテミアが裏切り者の手により捕まった。その事実が、メフィリアを愕然とさせたのだ。
「あぁ、アルテミア…!」
末の妹が心配で、気が気じゃないメフィリア。ふつふつと、心の中に沸き立つ感情があった。
「裏切り者…! 見つけたらタダじゃおかないわよ!」
それは、怒り。メフィリアはそう、まだ見ぬ裏切り者に対して吼えた。
- ゼツボウ-Beginning of the end- ( No.88 )
- 日時: 2016/01/22 22:48
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: ASXV1Vux)
エイゼン・火のクリスタル前…。
今、火のクリスタルはどす黒い闇に包まれており、見る影もない。
「だあぁっ! やっとついた!」
バタバタと走りながらやってきたのは、烈だった。
「リリィ、時間は!?」
「ミッション終了まであと五分。お兄ちゃん、遅すぎ。」
「誰のせいでここまで遅くなったと思ってんだ?」
途中にあった源泉洞で思わぬ時間を食ってしまい、何だかんだ時間があった割にあと五分となっていた。
『遅ーい! 何してたの烈君!』
「わ、わりぃわりぃ、鈴花。源泉洞で思わぬ時間を…って、鈴花?」
どこからか鈴花の声が聞こえ、どこだろうと烈は辺りを見回す。
『目の前目の前。』
今度は風雅の声が聞こえて、言われた通りに目の前を見る。
すると、目の前に台座があり、その上に自分達が持っている端末があった。よく見るとテレビ電話のようになっており、鈴花、風雅、氷海が映っている。その隣には、ローズ、フランシス、セシルが控えていた。
『何かテレビ電話があったから、折角だし、四人で合わせてクリスタルの解放をしてしまおうと思ったの。』
「本音は?」
『クリスタルってどう解放するの?』
三人、口を揃えて烈に訊ねる。どうやらクリスタルの解放をどうやるか、わからなかったようだ。なので、ゲーム好きの烈にそれを聞いてみようと踏んだのだろう。
「…確か、えっと…。ローズ、フランシス、リリィ、セシル。お前達はクリスタルに祈祷を…つまり、祈りを捧げ続けろ。それによってお前らの命の息吹とクリスタルの波動が同調して、覚醒励起していくらしい。励起が進めば、元の状態に戻るが…これ、暴走させんのかな…?」
『暴走?』
烈が言う、暴走。その言葉の意味が分からない烈とリリィ以外の三人と三匹は、首を傾げた。
「クリスタルが元の状態に戻った後も、更に祈り続け、クリスタルが壊れる一歩手前まで励起させた後に一気に開放すれば、広範囲に想いの力が拡散する…らしい。だがこの状態は、クリスタルのエネルギーが暴走している状態なんだ。詳しい事はアニエスさんがよく知ってるだろうけど、その状態まで祈祷するのかなって。」
『うーん、どうなんだろう…。』
『暴走って言うからには、色々とやばいよね。その手前で止めた方が…ん?』
ふと、端末を見ると、四分割されてる画面の中の一つが、ある文字を映し出した。
「“暴走するまで祈祷しろ”…?」
どうやら、暴走するまで祈祷するよう指示する文面のようだ。
(大丈夫なのか、これ…。暴走したクリスタルのエネルギーが四つって…!)
(暴走まで祈祷したら…あれが発動する…! 多分、世界を繋げるわけじゃないだろうけど…。)
暴走したクリスタルが四つ、それが意味する結末を知っている烈とリリィは、このまま祈祷していいか悩んだ。
『どうしたの? 烈君。』
「…いや…。でも、指示されてるし…何か意味があんだろ。で、注意点がいくつかある。まずは、セシル達はクリスタルから光が漏れるまで祈祷をやめない事。アニエスさん達を裏切ったあいつ、えっと…。名前何だっけな。」
「エロリー。」
名前をど忘れした烈に、リリィがそう答える。
「そう、エロリー。エロリーいわく、クリスタルの波動が逆流し、お前ら四人の身に影響が出るらしいからな。で、光が漏れたらすぐにやめろ。強引に続けたら逆にクリスタルが壊れるからな。…あとリリィ、今、思い出したが違う。エロリーじゃない。エアリーだから。確かにあいつの究極の体はちょっと卑猥だけど。」
「セロリー。」
「飯は後でな。」
「パセリー。」
「後でな。」
「ブロリー。」
「おいやめろ。」
何やらふざけたことを言い出すリリィにツッコミを入れる烈。すぐに、そんなことをしている場合ではないと気を取り直し、説明を続けた。
『え、えーっと…光が漏れたら…ですね。わかりました。氷海、タイミングを計ってくださいね。』
『祈祷に集中すれば、そんな余裕はないだろうからね。わかったわ。』
祈る事に集中し、判断を見誤ってクリスタルを壊したら元も子もない。その時点でミッション失敗は確実だろう。
「タイミング計るのはいいが、声をかけるのは止める時だけな。奴いわく、儀式中はこいつらの体に大きな負担がかかる。どんなに苦しそうでも、祈祷中の奴等には近づくな。」
『え、負担がかかるって、大丈夫なの…?』
「…多分、大丈夫…だと、思う。アニエスさんも、無事だった。みんなが止めてくれれば、多分…。」
「とにかく、時間がない。儀式を始めよう。」
鈴花が不安そうだが、時間がないのは確かだ。烈が促すと、全員配置についたようだ。
「リリィ…。」
「…あれが発動する危険性は、ある。でも、あれを次のミッションに繋げる確率も、ある。」
「…。」
「大丈夫。やらないと、いけないなら、やる。」
リリィはきっぱりと烈に訴えると、少し不安そうな顔を解かないまま、烈は頷いた。
- ゼツボウ-Beginning of the end- ( No.89 )
- 日時: 2016/01/22 22:53
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: ASXV1Vux)
烈達が祈祷をしている頃、エイゼン・グラープ砦前…。
「…。」
今ここに、一人の存在がいた。いや、ずっとこの場所で身を潜めていた。
(…やっぱそうだったか。アタシ達の中に、裏切り者なんか最初からいなかったのか。)
それは、今までずっと影を潜めていた、由梨であった。
(ガイスト達が言ってたな。事情ある裏切り…か。名ばかりの裏切り者であり、さしずめ“救済者”ってところか。)
どうやら、アルテミアとガイストの話を全て影から聞いていたようだ。
(…烈達がミッションをやってるはずだろうから、アタシはアタシなりに動いてみるか。どうにもきな臭い匂いがする。)
旅の経験がそうさせるのか、由梨なりに感じていた何か。それを調べるために、動く必要がありそうだ。と考えた彼女は、一歩踏み出した。
「…あ、由梨ちゃん!」
「ん? 陽介?」
と、同時に、背後から誰かに声をかけられた。陽介だ。
「こんなところにいたのか。」
「ああ、ずっとこの辺りに隠れてたよ。陽介、ミッションは行かないのか?」
何だかんだでミッションの為に動きそうな陽介が、ここにいるなんて珍しいと感じていた。だが、それは由梨に対しても同じだ。
「由梨ちゃんこそ、ミッションは行かないのか? ミッション1の時から名前見なかったけど。」
「ん、ああ…。まぁ、ミッションやって楽しんで逃げたかったんだけどさ…。」
由梨は腕を組み、少し考え込む仕草をした。
「何か、この逃走中…始めからきな臭い匂いがプンプンしてな。」
「え…。」
「色んな世界旅してきたからか、何かそういう悪意に対しては色々と感じ取れるっつーか、そっち方面で割と勘は冴えてるっつーか。まぁ、早い話が…これは本当に昴さん達の作り上げた舞台なのか疑問に思ったから、動かずに調べてみようと思ったわけ。」
そこまで動かなかった理由を由梨が語ると、陽介はわずかに微笑んだ。
「すげぇよ、由梨ちゃん達。やっぱ由梨ちゃん達はみんな、何かを感じてんだろうな。」
「何か知ってるな、陽介。話せ。まぁ、恐らくはこの逃走中…。」
「ああ。」
陽介は、まっすぐに由梨を見つめた。
「この逃走中は“昴さんとMZDが作り上げたものじゃない”。既に“誰かにぶっ壊されてる”んだよ。」
■
とある地方。
「…!」
突然、端末から音が鳴り響いた。
「…はい。」
『よっすー。“救済者”さん。』
自分の事を救済者と呼ぶ声は、自分がよく知る声。
「…。」
『陽介から全部聞いた。まさか“救済者”に“協力者”がいるとは思わなかったぞ。』
「協力者がいないと成功しない事例だったからね。二人が快く引き受けてくれなかったら、今頃…。」
『へへっ、嬉しい事言ってくれんじゃねぇか、“救済者”さん!』
次に声をかけてきたのは、裏切りに加担させた“協力者”である、花村陽介だった。
『一人で背負い込むなんて辛いだろ? それに、一緒にあのメールを見た以上、俺も協力しなきゃって思った。リングアベルさんもそうだと思うんだ。そして、リングアベルさんに事情を聞いたガイストさんも…。』
「…。」
『逃走中が乗っ取られている以上、陽介から見せられた“それ”も、もしかしたら本当なんだろうと思う。だから…アタシも、手伝うよ。陽介もそろそろ時間切れだろうから、一緒に行くってさ。アタシと陽介がいる場所は…さっきアルテミア達が捕まった、グラープ砦前だ。』
「うん、わかった。…二人共、未来を、お願い。」
『有事の際は世界を頼むって頼まれてるから当たり前だ。…お前も無理すんなよ、“裏切り者”…いや、“救済者”の桜坂理乃さん。』
由梨からその言葉が告げられると、裏切り者…否、救済者である理乃は微笑んだ。
「そっちも…死なないでね。」
『当たり前だ。』
由梨達からの通話を終えると、理乃は別の場所にかけた。
「…野上由梨、花村陽介。…エイゼン、グラープ砦前にいます。」
そして端末を下すと、しばらくして…。
「…『裏切り者の通報により、野上由梨、花村陽介確保。残り10人。』…由梨、お願い。この世界の未来を…。」
届けられたメッセージを眺め、祈りだした。
「どうか…救って…!」
- ゼツボウ-Beginning of the end- ( No.90 )
- 日時: 2016/01/22 22:59
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: ASXV1Vux)
一方、祈祷を続けるリリィは…。
「…っ。」
祈り続けるうちに、ドッと疲労感に似たものが溜まる。一瞬ふらつくも、何とか踏みとどまる。
(! リリィ!)
烈は駆け寄りたい衝動に駆られるが、ぐっとこらえる。他の三人も同様に駆けだそうとしていたのが見えたが、ぐっとこらえたようだ。
(クリスタルはようやく闇が取り払われた…! だけど、暴走までまだまだ…!)
現在、クリスタルは闇が崩れ落ち、本来の光が戻ってきただけだ。ここからもう少し祈らねば、暴走は引き起こせない。
(…本当にいいのか?)
烈はずっと、思案していた。
このままクリスタルを解放させ、暴走させ…アレを発動させていいものか、と。
(途中で…ここで終わらせた方がいいんじゃないか?)
ここでリリィを止めて、普通に闇を取り払い、解放させた方がいいのではないか、とずっと思案していた。
だが、そこで止めてしまったら、ミッションがどうなるかわからない。でも、この先に起こる事を知っているからこそ、止めた方がいい。その考えが、ぐるぐると頭を駆け巡っていた。
その間にも、クリスタルはどんどん輝きを増している。どんどん、光が溢れだしていく。その輝きは、本来の光よりも数段輝きが強く、眩い。
「(…! きた、暴走!)リリィ、やめろ!」
『ローズ、ストップ!』
『セシル、そこまでよ!』
『フランシス、止まって!』
同時に四人が叫ぶ。そして同時に、四匹は祈りをやめる。同時に、四匹の体はふらりと倒れこみ、駆け寄った四人の手にすっぽりと納まった。
「…暴走…した…。」
「ああ。だけど、これで…これで、いいんだ。恐らく今頃、外ではホーリーピラーが出てるだろうな…。アニエスさん達、きっと…驚いてる。」
当事者たるアニエスやイデアがホーリーピラーを見たらどう思うか、そう、不安になるが、ミッション成功のためには仕方がない。
烈はアニエス達にどう話を切り出そうか悩んでいると、端末が鳴り響いた。
『ミッション情報
赤羽烈、青柳氷海、緑谷風雅、黄木鈴花の活躍でミッションクリア。以降、ハンターは五体のままとなる。』
「…ミッションはクリアしたけど、何か嬉しくない。」
端末を見て、溜息をついた烈はリリィと共に来た道を戻ろうとしたが…。
「…あれ?」
「扉…閉まってる…。」
神殿とこのクリスタルの台座を分ける扉があるのだが、それがいつの間にか閉まっているのだ。
「きっと、多分振動かなんかで閉まったんだと思うぜ。開けて出れば問題…あれ?」
ガチャガチャと、烈はノブを回すも、扉は開かない。
「え、ちょっと待て! 閉じ込められた!?」
「え…!?」
どうやら、この部屋に閉じ込められたようだ。
『え、え? 何で開かないのー!?』
『鍵が開かないわ!』
『この扉、壊していいのかな?』
他の三人のいる場所も、同様に扉が開かないようだ。
「えっ、一体何で…!?」
- ゼツボウ-Beginning of the end- ( No.91 )
- 日時: 2016/01/22 23:04
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: ASXV1Vux)
烈達がクリスタルを開放する、少し前。
「アルテミアが確保されたか…。」
フロウエル・サジッタで、エインフェリアは溜息をついた。
(何だろう、このミッションと言い、何だか、嫌な予感がする。本当に、あのクリスタルを解放していいのか?)
クリスタル解放…いや、暴走の末路は、イデアから少し聞いていた。
アニエスによる解放の儀式、そして、クリスタルの暴走が引き起こす、世界と世界の境界の破壊。
(本当に…この逃走中、このまま続けていいのか?)
エインフェリアは僅かながらも、この逃走中で何かが起こっていると感じていた。
『…!』
その思案のせいで、ハンターが近づいてくるのに気付くのが遅れた。
「! しまった!」
エインフェリアが気付いた時には、もうハンターは目と鼻の先。
無慈悲にその肩に置かれる、ハンターの手。
51.01
エインフェリア・ヴィーナス 確保
残り9人
「っ、クソッ! …えっ…!?」
悔しさを露わにするエインフェリアだが、転送する前にあるものを見て、息をのんだ。
「ば、馬鹿な! ホーリーピラーが…!」
エインフェリアの姿は、その場から消え去った。
■
突如、天まで伸びる光は、牢獄からも見えていた。
「あ、アニエス、あれ!」
「う、嘘…! 何故、何故ホーリーピラーが!?」
このホーリーピラーを何度も見ているイデアとアニエスは、光が天に伸びた瞬間、何が起こったかを即座に理解した。
「と、いう事は、今回のミッションであるクリスタルの解放がされた…?」
「ですが、ホーリーピラーまで再現されてるなんて…。」
「むぐぐ〜! 昴さん達が何したいか、わかんないよー!」
「だからイデア、昴さん達は既にこの逃走中に関与できない状態にあるんですよ…。」
先程から牢獄で散々この話をしたのだろう、イデアの頭があまりにも悪いのでアニエスの顔がちょっとげんなりしていた。
「あ、アハハ、ごめん…。」
イデアは申し訳なさそうに、ポリポリと頭を掻いた。
「ホーリーピラー…。あれが出たからには、何か嫌な予感がしますね。」
「早いとこ何とかこの結界をぶち壊さねぇとな…。って、ん!?」
直斗の言葉に同意した完二だが、突然動きを止めた。
「巽君?」
「な、なぁ、お前ら。何か聞こえないか?」
「え?」
完二に言われ、全員耳を澄ます。確かに、遠くから何かの嘶きが聞こえる。
「馬の嘶きのようにも聞こえますが、これはいったい…?」
「こ、これ…! う、嘘…!」
アニエスが首を傾げる横で、イデアはガタガタと震えていた。かぶりを振り、何度も「嘘だ、嘘だ。」と呟いている。
「い、イデア、知っているの?」
「…知ってるも何も、あたしは前にこいつと…”戦った”から。」
全員、イデアに注目した。この現れた更なる異常事態について、聞きたいのだ。
「レヴも覚えてるでしょ? 昔、封印されていた魔王と呼ばれる存在で移動していたんだからね。」
「え? 何のこと?」
イデアが何を言っているのか解らないレヴナントは、首を傾げた。
「忘れたの!? レヴ達が乗ってた浮遊城の中心。あれが魔王だったのよ!」
「そ、そうだったの!?」
「イデアさん、近くにいたからと言って、全てを聞かされていたとは限りませんよ。」
関係者故に全てを知っているに決まっている。そう決めつけるイデアを窘める直斗。
「あ、アハハ、だよねー。(そうだった…。しかもレヴ、子供だから聞いてないか…。誰かが聞かせようとしても、親であるガイストが止めたろうし。)」
イデアは直斗の窘めに乾いた笑いで返したが、次に振り向いた先にいたユルヤナに見せた顔は、真剣だった。
「…でも、老師様なら覚えてるよね。だって、あいつをあの地に封印したのは老師様だって聞いてるけど…。」
「…今は、この結界を何とかして、皆と合流が先じゃ。その話は後でいいじゃろう。」
話をはぐらかすようにユルヤナが言うと、全員その通りだと頷き、再び結界の破壊作業に戻った。
- ゼツボウ-Beginning of the end- ( No.92 )
- 日時: 2016/01/22 23:09
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: ASXV1Vux)
「嘘…!」
フロウエル・フロウエルの花園前にて、マグノリアは見えてしまった存在に、愕然とした。
ここにいるはずのない存在。ここにいてほしくない存在。
…月の民の、人類の、敵である存在。そしてマグノリアにとって、故郷を滅ぼされた、憎むべき、仇。
「何で…何でディアマンテがここにいるの!?」
全身ガラス張りの、馬に乗った人物を象った…魔王、ディアマンテ。
その姿は忘れもしない。憎い存在。ポップンパーティに現れる優雅な男と同じ名前ではあるが、彼とは異なり、ヤツは邪悪の塊。
「この逃走中…本当に、昴達が考えたの…?」
ディアマンテの出現で、マグノリアはそう考えた。身体は熱を帯び、頭には沸騰しそうな血が上った。
「許さない…! 昴、殺してやるわ!」
自分の仇である存在を関与させ、黙っていられないマグノリア。そんな彼女の耳に、音が響いた。端末にメッセージが入ったのだ。
「『ミッション3:ゲームオーバーを阻止せよ』…? やはり、あいつを関与させるつもりなの!?」
『ミッション3:ゲームオーバーを阻止せよ
フロウエル北の魔王封印区から、魔王ディアマンテが出現した。残り35分にはホーリーピラーへと侵入し、そのエネルギーを使ってこのルクセンダルクを破壊してしまう。
それまでにこのルクセンダルク内のどこかにある“時空の羅針盤”を見つけ、ホーリーピラーに侵入したディアマンテに向かって投げ入れ、遥か未来へと送らなければ、ゲームオーバーになってしまう。
なお、今回のミッションではハンターを一時的に消失させる。』
「…いいわ。昴の前に、ディアマンテ! お前を殺す! 何度でもね!」
完全に憎しみに捕らわれたマグノリアを…。
「テメェは少し、頭冷やしやがれ!」
「きゃあっ!」
バシャンッ! という音と共に、冷たい冷気が襲った。どうやら、冷水をかけられたようだ。
「つっ、冷たっ、な、何するのよジャン! と言うか何でここにいるの!?」
水をかけたのは、ジャンだった。どうやら今は一人のようだ。
「馬鹿! 非常事態だから警備から離れたんだよ! あと…!」
どうやらジャンは、ただならぬ予感がし、イスタンタールの警備を放り出して、ここまで来たようだ。
「お前、これが昴達の仕業だって言うんだったら、後で後悔するんだな。」
「え…?」
「こんな馬鹿げた逃走中をホントに昴達が考えたんだったら俺が謝る。だけどな、こんな馬鹿げた逃走中を作る奴等じゃねぇってわかってるからこそ、これはあいつらの手を離れて改悪された逃走中だってのが俺にはわかる。お前にはそれがわからねぇのか!」
「だから、何?」
ジャンの言葉も、マグノリアは一蹴する。それに、ジャンもカチンときた。
「何だと!?」
「考えてみてよ。昴もMZDも神なのよ。この世界をどうとでもできる力を持つのよ。そんな奴らが、悪だくみしないとでも!?」
「あいつらは確かに神だが、そんなこと考えるわけねぇだろ!」
「じゃあ、何故、作り物のルクセンダルクにディアマンテは現れたの? 本物のルクセンダルクの遥か未来へ行ったあいつが。余程の力と意思がなければ、ここに喚ぶのは不可能だわ!」
マグノリアの言い分に、ジャンは一瞬考えた。
(…確かに、そうだ。何であいつがここに来たんだ? だが、プレアも昴もMZDも、この世界に害をなすものを許さないはずだ。それはこの世界について聞いた俺がよく知ってる。じゃあ、何で…。誰がアイツを喚んだんだ?)
次々と出てくる謎。それが解けない限り、マグノリアとこうして議論しているしかない。だが、そんな猶予はない。
「…いや、それは昴に後で直接聞けばいい。もしかしたら、昴じゃない誰かが喚んだかもしれない。だけどよ、ここでこうして言い合ってる暇があんのか?」
「…それもそうね。」
水をかけられたことにより、少しだけ冷静になれたマグノリアは、ジャンの言葉に頷いた。
「まずはあの野郎をもう一度あのホーリーピラーと時空の羅針盤を使って、遠くに…未来に飛ばす。話はそれからでも遅くないだろうよ。」
「そうね。あいつはどうせ“死なない”し、もう一度遠い未来に飛ばしてしまいましょう!」
そう答えたマグノリアに、ジャンは頷いて着いていった。
しかし、彼らの意識からスッポリ抜け落ちていたことがあった。ここが“再現された”ルクセンダルクであることを。
■
確保者の言葉
十八人目:エインフェリア
エインフェリア
「一体、何が起こっているんだ…!? ディアマンテは現れるし、ホーリーピラーが…!」
- ゼツボウ-Beginning of the end- ( No.93 )
- 日時: 2016/01/24 22:37
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: UpVfKr/1)
「…。」
僕は一度ノートを閉じ、溜息をついた。
「ディアマンテが現れた事により、彼らに動揺が走った。そして、それは世界をも揺るがした。」
そう、このディアマンテこそ、彼女が死に、あの世界が滅ぶ要因となった。
こいつを誰が喚んだのか、そして、誰がこの逃走中を乗っ取ったのか。この時のみんなは分からなかった。
ただ一つ分かったのは…ここからが、本当の絶望の始まりだという事。
「ディアマンテが現れ、そして、新たなミッションが発動された。だけどこの時に、犠牲者が出てしまったんだ。」
息をのむ君を横目に、僕は再びノートのページを開く。
「…さぁ、ここからは笑いなんか一切ない…本当の“絶望”を…今、君に聞かせるよ。」
僕は、一つ深呼吸して、語り始める。
血塗られた悲劇を。悲しみの惨劇を…。