二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第一章【解放】 part1 ( No.1 )
日時: 2015/09/06 10:11
名前: Cam ◆qQ6wK6czCM (ID: UQ9rgOft)

 スカイリム南部、今日も雪が吹いていた。
 ツンドラ気候のこの地方では、雪は珍しいものではない。

 その道は、木々を分けるように先へと続いていた。その上を何台もの馬車が列をなして進む——その最後尾、彼女が乗せられたその馬車も、間もなく目的地付近へと突入した。


第一章【解放】


 リディアが意識を取り戻したのは、どこかへ向かう見知らぬ馬車の上だった。
 車輪が石を踏み、突然大きく馬車が揺れる。そこで彼女はようやく目を覚ました。
 ぼやける視界、目を擦ろうと手を持ち上げる。
(ん……?)
 その時、自分の手が縄で縛られていることに気付いた。
(え、何これは)
 まさかと思い自分の姿を確認してみると、見覚えのないボロボロの服を着せられているようだった。

 どういう事だ?これではまるで囚人みたいじゃないか。
 まだ頭が回らない状態だが、どうやらそうも言ってられない。彼女は慌ててあたりを見渡した。
 すると、自分の向かいに座っていた一人の男の姿が目に止まった。
 青い軽装の鎧に、いかにもと言った屈強な体つきをしたのノルド人だ。馬車の行き先を黙って見つめる彼は視線を感じたのか、ふとこちらに顔を向けた。彼の金色の髪が揺れる。
 男はリディアが目を覚ましたことに気付くと、愛想の良い、しかしどこかくたびれた笑みを浮かべ話しかけてきた。

「あぁ、あんた。やっと目を覚ましたのか」

 聞き覚えの無い声だ。はて、この男は何者なのだろうか。
 そもそも、まず自分はどういう状況にあるのか。

「ここは?」
「見ての通り、帝国軍の馬車の上だ」
 そう言ってどこか諦めたようにため息をつく。
「災難だったな。そっちのコソ泥や俺達と同じで、あんたも国境を通りかかったんだろ?」
「えーっと……そうだったかしら、ね」

 彼女は自分の身に何が起こったのか覚えていなかった。
 言われてみれば国境近くを歩いてたような、そうでもないような。
 思い出そうにも、 頭はズキズキ痛むし気分も悪い。
 彼女が何か思い出そうと唸っていると、斜め向かいの誰かが突然口を開いた。

「帝国はコイツ等”ストームクローク”を待ち伏せてやがったんだ。たまたま通りかかった俺達は、コイツ等の争いに巻き込まれちまったんだよ」

 また聞きなれない声が吐き捨てる様に話に割って入る。
 そちらに顔を向けると、自分と同じようにボロボロの服を着せらせた茶髪の男がいた。
 先ほど、金髪の彼が『コソ泥』と呼んでいた人物だろう。
 彼は心底ウンザリした様子で隣の男を睨む。

「そうさ、お前らストームクロークが出てくるまでスカイリムは良い場所だったんだ。帝国はいい感じにくつろげる場所だったからな。なのに、お前らが帝国に喧嘩を吹っ掛けたせいで今やスカイリムは戦争の真っただ中さ」

 この男の言っている事はもっともだった。
 タムリエル大陸の北、スカイリム——タムリエルの帝国が”タロス崇拝”を禁止した事をキッカケに、ここは内戦の真っただ中にあった。スカイリムの民族『ノルド』で編制られた反乱軍『ストームクローク』は、今帝国と内乱を起こしている。

 男は言葉を続けた。
「くそっ、帝国軍がお前たちを探してさえなければ、俺はとっくにあの馬をかっぱらって、ハンマーフェルにオサラバしてたんだ」
 そして、悔しそうに顔を歪めた彼はようやく彼女の方に顔を向ける。
「そこのアンタ、あんな所に居たのが間違いだったな。帝国が狙っているのはこいつらストームクロークだ」
「はは、これで俺たちは固く結ばれた”兄弟姉妹”ってな。なぁ?」
「……そういう事みたいね」
 冗談と皮肉の混ざった彼の言葉で、リディアはようやく自分の立場を自覚し始めた。
 どこかへ向かっていたストームクロークが通りかかった場所、そこで帝国軍は彼らを待ち伏せていた。そこにたまたま自分とこの男が居合わせた、そういう事らしい。つまり、自分たちはストームクロークと間違われ、彼らと共に拘束されたのだ。

「こいつは一体どうしたんだ?」
 その時、先ほどから話しっぱなしだった彼が唐突に話題を変えた。
 何事かと彼の方に顔を向けると、私の隣にいた男の方を見つめていた。その視線を追って彼女も隣に視線を移す。

 そこにいたのは、一人の男だった。金髪の彼や茶髪の男と同じノルドの男。彼もおそらくストームクロークの一人なのだろうが、どこか雰囲気が違っていた。その口は布で塞がれ、やけに厳重に縛られている……乱暴に縛られている自分たちとはどこか事情が違うようだ。
 彼は静かに目を閉じていた。どこか潔く、何かを待つように。
 この男、どこかで見たことがある気がする。
 リディアの疑問に答える様に、金髪の彼は口を開いた。


「言葉に気をつけろ。お前は上級王ウルフリック・ストームクロークと話をしているんだ」
「ウルフリック?あぁ、ウィンドヘルムの『首長』の」

 もちろん、リディアもその名前に聞き覚えがあった。
 そう、ウルフリック・”ストームクローク”。彼はウィンドヘルムの首長、そして——

「待てよ。アンタ確か反乱軍の……リーダーじゃなかったか? ち、ちょっと待てよ。この馬車はどこに向かってるんだ!? なぁ!」

 茶髪の彼はそう言うと顔を真っ青にした。
 反乱軍のトップが拘束され、敵である帝国軍の馬車にいる。
 それが何を意味するかなんて、考えるまでもなかった。


「さぁな。奴らがどこに行くつもりなのかは知らんが……”ソブンガルデ”が待っているんだ」


 ソブンガルデ、死んだノルドの英雄が集う場所。
 そう。この先に待っているのは、自分たちの『死』だ。