二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 乗り込め!審神者さん ( No.14 )
- 日時: 2015/10/18 23:29
- 名前: 柊 (ID: 7H/tVqhn)
6:乱、頑張る。
——絶対怪しい!
叫びそうになるその口を必死で閉じる乱藤四郎は、目の前にいる審神者を睨み付けていた。その審神者は乱に睨まれているのを分かっているだろう。なんせ審神者は乱を見下ろしているから。
乱がこの審神者を怪しいと思うには少し遡る。
閉塞的な本丸は担当以外とは会議、または演練でしか他の審神者などに会うことはできない。たまに例外はあるが基本的にはそうだ。
今回、初めて演練に参加する乱は緊張しながらこの演練場に来ていた。普通の審神者なら力試しに参加するだけ、なのだが紅の本丸にいる刀剣男士は違う。本来の目的に加え、紅の本丸や数少ない本丸に与えられる任務は“ブラック疑惑のある審神者を見極め、政府に報告すること”。
始まる前にリストが渡され、該当する審神者をさり気なく見極める。ただ大抵はレア刀を持っていたからという妬みや、審神者同士のトラブルから通報される、というパターンだ。中には通報した側があわよくば持っていない刀剣男士を保護という形で引き取ろうとしていることもあり、審神者と刀剣男士をむやみに引き裂かないためにこのような制度が採用された。
問題がなさそうならば政府に白だと伝え、あるならば黒だと伝える。結果、多くの審神者に黒だと判断された本丸には抜き打ちで監査が入ることになる。
紅たちは重要な任務を担いながらこの演練に挑むのだ。
- Re: 乗り込め!審神者さん ( No.15 )
- 日時: 2015/10/18 23:34
- 名前: 柊 (ID: LkHrxW/C)
乱の緊張とは裏腹に、演練は順調に進んだ。主である紅は渡されたリストに白、と時折書き込む。それを見る度に乱はホッと息を吐いた。
そんな中、次の演練のために控え室へ行くとまだ紅の本丸にはいない兄弟の姿を見つけた。
「博多!」
博多藤四郎。過去二回大阪城の地下にいるとされていた乱の兄弟だ。残念ながら一回目は時間がなく、二回目はまったく見つけられなかったが。その間にも一度見つけられるチャンスがあったがお察しだ。
乱が上機嫌に声をかけると博多はゆっくりと振り向いた。そしてただ何を言うのでもなくにこり、と笑う。
「今日はよろしくね!」
「……」
こくり。そう一つ頷くと博多は審神者らしき人に呼ばれてそちらへ行ってしまった。
去り際に見えた審神者の顔はとても優しく、良い主に恵まれたんだな、と乱はまたホッとした。
「確か“じどうはんばいき”は〜……」
乱は紅からもらった小銭を片手に演練場の廊下を歩いていた。以前に買ってもらった“めろんそおだ”というキレイな緑色の飲み物が美味しくてここで買ったと聞き、その自動販売機を探して歩いているのだ。
すると、言い争うような声が聞こえてくる。何事かとそちらへ足を向ければ、審神者同士が何か揉めているようだった。
片方は先ほどの審神者。傍らにはおろおろしている博多と五虎退がいる。もう片方は髪をオールバックにし、目付きが悪く、顔に三つの傷があり審神者、というよりもヤの付く自由業をしていると言われた方がしっくり来るような男だった。
いったい何を言い争っているのか分からなかったが、傷の男が博多を指差し何かを言っている。もしかすると、あの男は他の審神者から刀剣男士を奪うつもりなのだろうか。
すると傷の男が博多の手首を掴んだ。ぎょっとして少し反応が遅れてしまった。
「やめ……」
『本丸ナンバー、***-****。本丸ナンバー、###-####。まもなく試合が始まります。
両本丸の審神者、及び刀剣男士は演練場の転送装置までお越しください。
繰り返します……』
放送を聞くと傷の男が舌打ちをして博多の手首を離す。そのまま傷の男は歩いていった。乱が博多たちに話しかけようとしたがふと呼ばれていた本丸ナンバーの内一つが自分の本丸のだと思い出し、不安ながらも来た道を戻る。
「(あれ、でも確か)」
あの傷の男も放送を聞いて博多の手首を離して歩いていった。おそらくそういうことなのだろう。
- Re: 乗り込め!審神者さん ( No.16 )
- 日時: 2015/10/18 23:39
- 名前: 柊 (ID: LkHrxW/C)
……その予感は的中し、今に至る。
『両本丸の審神者は結界の中へ』
機械的な女性の声がしてから紅と傷の男——審神者名、今様が結界の中へ入っていく。この結界は審神者が刀剣男士の攻撃のとばっちりを食らうのを防ぐための防護結界だ。
絶対に負けない、そう決意を固め、開始の声を合図に乱は弓兵に攻撃を命じた。
「乱ちゃん、そんなに泣くことはないよ。相手はぼくらより強かったんだ。むしろ一時的にでも有利に立てたことを誇るべきだよ」
今様が率いる部隊との演練は、こちらの惨敗だった。紅は悔しがって泣いている乱を慰めている。
他にも同じ紅の部隊、陸奥守や石切丸、御手杵、獅子王が慰めていて、長谷部は紅の代わりに役人に報告に行っている。乱が何とか涙を拭い、もう大丈夫、と声をかけた。
悔しいが、今様が率いていた刀剣男士はみな強かった。それはどうしようもない事実だ。だがいつまでもくよくよしていたって負けが勝ちに変わることなどない。
気持ちを改めて他の審神者同士の演練を見ようとモニターに目を向け、少しだけ後悔した。そこには今様と、優しそうな審神者が映っていたから。
優しそうな審神者の後ろにはあの博多と五虎退、それ以外に鶴丸国永、一期一振、加州清光、愛染国俊がいる。今様の後ろには先ほどと変わらない太郎太刀、岩融、山伏国広、和泉守兼定、にっかり青江、小夜左文字が。
『両本丸の審神者は結界の中へ』
その声がして、両審神者が結界の中へ入ろうとした、時だった。
パキン、と何かが割れる音がする。そちらを見れば、この演練場自体を覆っていたはずの結界にヒビが入っていて。
そこから、雪崩れるように歴史修正主義者たちが斬り込んできた。
- Re: 乗り込め!審神者さん ( No.17 )
- 日時: 2015/10/18 23:44
- 名前: 柊 (ID: l0i1WlFj)
周りがざわついたのが分かる。それどころか各国の演練会場から悲鳴が聞こえて全体に歴史修正主義者が襲撃してきたのだと分かった。
『緊急事態発生、緊急事態発生。演練中の審神者、及び刀剣男士はただちに演練を中止し、待機中の審神者、刀剣男士とともに避難地点Cに避難してください。
繰り返します、緊急事態発生、緊急事態発生……』
「みんな!」
全員が紅の声に反応して出入口へ走っていく。転送装置からはすでにあの二人が戻ってきていて同じように避難を始めた。
何とか廊下に出れば、様々な国に所属する審神者とその審神者に呼び起こされた刀剣男士たちが大混雑を起こしている。早く行けと怒号を上げる者、刀剣男士の名前を呼ぶ審神者、その逆で審神者を呼ぶ刀剣男士。
「参ったねこれは……!」
この演練は練度上げにもよく使われる。そのためにまだ練度が低いだろう刀剣男士も多くいた。
そうでなくともこの混雑している時を狙われたら練度が高くとも危ないかもしれない。
「……仕方ないね。むっちゃんとししくんは誘導に回って!
おてぎー、ぱ……石切丸は敵襲に備えて待機!
乱ちゃんはぼくの側を離れないようにね!
むっちゃん、ししくんは誘導が粗方終わったらぼくの端末に連絡、出ても出なくてもおてぎーと石切丸と合流して!
では、さ……」
散、そう言おうとした紅の言葉は先ほどよりも大きい悲鳴に掻き消された。勢いよく全員がそちらを見れば、あの審神者が五虎退、博多とともに倒れている。人波によって倒れてしまったのだろう。幸か不幸か、周りに人はいなかった。
周りは自分たちが避難することに必死で、おそらく彼らに気付いていない。いや、気付いていても思うように助けに行けないのが現状だ。
彼らの背後から、赤い霊気を纏った太刀がゆらりと迫っている。それに気付いた審神者がすぐに立ち上がり五虎退と博多も立ち上がろうとして……審神者が、彼らを蹴倒した。
- Re: 乗り込め!審神者さん ( No.18 )
- 日時: 2015/10/18 23:50
- 名前: 柊 (ID: U2fmuc/y)
「えっ……」
「やっぱりあの審神者……!」
やっぱり。その言葉に乱はひどく動揺した。
あの審神者は、ブラック本丸を作り出した男だという疑惑をかけられていた。そしてその結果は黒。あんなに優しそうな男が。
だが次にはそんな動揺無くなっていて。乱はすぐに二人の元に駆けた。後ろから紅の自分を呼ぶ声がしたが気にしている暇も余裕もなかった。
人波を何とか抜けた頃には、太刀と二人の距離はもうそろそろで太刀が届く範囲だった。
「博多! 五虎退!」
「!!」
乱が駆け寄り、二人を立ち上がらせようとする。しかし腰が抜けてしまったのか二人は上手く立ち上がれないようだった。
そうしている内にも太刀はゆらり、ゆらりと近付いてきて……その刀を、振り上げた。
「あ……」
乱はその刀を見て悲鳴すら上げられない。それでも二人を守ろうと二人を抱きしめ、来るであろう激痛に耐えるためキツく目を瞑った。
その直後に聞こえたのは誰かのうめき声。それに驚いて振り向き、さらに目を見開いた。
「ぐっ、う……!」
「え、あ……」
そこにいたのは、今様だった。今様は刀を素手で掴み、太刀を逃がすまいとしている。赤い血が刀を伝って床に滴った。
「太郎っ!!」
名前だけ呼べば、今様の太郎太刀がその大きな刀を振るい、太刀を切った。太刀は呆気なく事切れ、ざらりとした粒子になって消えていく。
今様は手をそのままに立ち上がる。視線が向いているであろう先を見れば、歴史修正主義者がこちらに向かっていた。
「……ここの廊下は実に広いからな。大太刀だろうと薙刀だろうと存分に戦える」
今様の周りに、彼の刀剣男士が集う。彼らは皆抜刀している。
すぅ、と今様が息を吸う音がヤケに響く。
「全員に命ずる! 敵を根絶やしにしろ!!」
その言葉を合図に、全員が駆け出した。
- Re: 乗り込め!審神者さん ( No.19 )
- 日時: 2015/10/19 00:44
- 名前: 柊 (ID: 7H/tVqhn)
「ごめんなさい」
乱が頭を下げた相手は目を丸くしていた。
あの騒動は無事、今様の刀剣男士と紅の獅子王、陸奥守によって敵は一人残らず全滅し、片付いた。(なお、報告に行っていた長谷部はそれを聞いて切腹しそうだった)
騒動の後にあの審神者は捕まり、審神者の資格を剥奪、追放されたという。あの審神者は演練の度に連れていく面々にだけ手入れをして口封じの術をかけていた、と紅に聞いた。
そして乱は今様の姿を見て勝手に悪人だと判断したことを恥じ、反省して黙っていれば分からないのに謝罪している。
もちろん、まったく分からない今様は?マークを飛ばすばかり。乱は正直にそのことを話した。
「まあ、仕方ねえことだ。
オレはこんな顔だからそういうことは慣れている。
気にするな」
「で、でもっ」
「お前は自分たちの仕事をしようとしていただけだ。
ならむしろ疑ってかかるのは当然だろう。悪人面を疑ってばかりもあれだが、さっき話したような場面に遭遇して疑わないならとんだ平和ボケだ」
「……」
「ならオレが怒ったところでどうにもならない。ま、次からは資料見せてもらえ。
あのバカ、多分お前が心配で見せなかったんだろうからな」
「バカは酷いよ、いっちゃん」
聞き慣れた優しい声。その声の持ち主は乱の後ろからすっと乱の隣へ立った。いっちゃん、と呼ばれた今様は不機嫌になることもなくバカはバカだろ、と答えた。
「いいか、幼い見た目でもこいつらはオレたちよりずっと歳上だ。それを理解しろ。
だったら資料見せて手伝ってもらえばより正しい判断ができるはずだ」
「いっちゃんはいつも岩さんに手伝ってもらってるもんね」
「うちの岩融を岩さんと呼ぶな」
「羨ましいからレシピ教えろくださーい」
「薙刀レシピ。以上」
「やっても出なーい」
「知らん」
ごく普通な会話になり、さっきとは違う緩やかな空気が流れる。そんな二人を見て乱はくすりと笑った。
この今様という男が、紅と同じ役目を担った審神者だと知るのは本丸に帰ったあとの話である。
6:乱、頑張る。-END-
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