二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 乗り込め!審神者さん ( No.8 )
- 日時: 2015/09/11 23:34
- 名前: 柊 (ID: lrJDaE6x)
3:乗っ取り?なにそれ美味しいの?
とある本丸の女審神者は涙を堪え、唇を噛みしめた。目の前でイヤらしい笑みを浮かべる見習いに泣く姿を見られないように。
見習いの女の周りに立っているのは自分が顕現した刀剣男士たち。しかし彼らは誰一人と彼女のそばに寄ることはなく、見習いの周りで静かに審神者を見下ろしている。
それだけならばああ、彼らはその程度だったのだと割り切ることも可能だっただろう。しかし、彼らの表情を見てしまえば割り切ることなんて到底できなかった。
彼らは例外なく苦しそうな、悲しそうな表情を浮かべていた。それだけですぐに分かった。彼らは見習いが持っているであろう呪具によって操られているのだと。
元々なのか、見習いの使い方が悪かったのか、はたまたわざとなのかは分からない。分かりたくもない。いずれにせよ、体だけを操り精神を操らないとは残酷なことをするものだ。
彼らは言いたくもない罵倒の言葉を吐かされ、涙を流したくともそれすら許されずに苦しみも悲しみも吐き出すことができない。そして仕えたくもない女に仕えなくてはならない。
それを理解していても呪具がどこにあるかも分からず、見つけたとしてもきっとどうすればいいか分からないだろう。そんな無力な自分を審神者は呪いたくなった。
「さあ、審神者様。……いいえ、ただの一般人かしら?
ここから出ていきなさい。刀剣男士もそれを望んでいるわ」
……この女に、屈するしかないのか。そう思った審神者の目からぽろり、と一粒の雫が溢れた。
- Re: 乗り込め!審神者さん ( No.9 )
- 日時: 2015/09/12 02:16
- 名前: 柊 (ID: hbLXOO8r)
「ですぞー」
そんな気の抜けた声と共にいきなり襖が開いた。そちらを見て……審神者は呆気に取られる。
そこにいたのは赤い毛むくじゃら。赤い毛むくじゃらを中心に、色は違えど似たような毛むくじゃらが四人もいる。背も多少違う。
誰もが言葉を発さない中、赤の毛むくじゃらが動き出す。
「赤〇ック!」
「青ムッ〇」
「緑ム〇ク!」
「黄〇ック!」
「桃ムッ〇」
「我ら、ですぞ戦隊ムッ〇ンジャー!」
誰も伏せ字を統一しないことはさておき、自称〇ックたちはですぞー、とハモり始めた。心なしか桃は嫌そうな声だが。
「な、何よあんたたち!?
ここが誰の本丸だか分かってんの!?」
「分かっていますぞー。そちらのお嬢さんの本丸ですぞー」
「はあ? ああ、何も知らないのね。なら仕方ないから教えてあげる。
今日からここは私の本丸なの。審神者様から譲渡していただいたのよ」
見習いは〇ックたちをバカにし、嘲笑いながら言った。審神者がその言葉に噛みつくように怒鳴ろうとするが、赤〇ックの声に遮られる。
「いやはや、勘違いもここまで来ればむしろ立派ですぞー。あとめっちゃ暑いですぞー」
「勘違い? 何が勘違いだっていうのよ!!
というかあんたですぞーって言ってれば〇ックだと思ってんの!? 暑いなら脱ぎなさいよ!」
さすがに審神者も後半の意見には同意してしまった。暑さにやっぱり耐えきれなかった〇ックたちが着ぐるみを脱ぎ、その姿を見せた。
「あ……」
審神者はその姿に……もっと言うなら、赤〇ックの姿に見覚えがあった。
「紅……様?」
「お久しぶりですね、こんちゃん」
そう言って微笑んだのは、確かにかつて演練で会った紅だった。
- Re: 乗り込め!審神者さん ( No.10 )
- 日時: 2015/09/13 16:41
- 名前: 柊 (ID: uT5MQLCg)
こんちゃんと呼ばれた審神者——紺碧は以前紅と演練で会ったことがある。その時、紅側は何故か全員揃って鼻眼鏡をかけていたために強く印象に残っていた。ついでにその鼻眼鏡を取ったら男にしてはずいぶんと愛らしい顔つきであるということも。
「な、何故」
「政府からこんちゃんの本丸が乗っ取られそうって聞いて。
だから来ました」
優しげな笑みで話す紅。その笑みが紺碧には眩しく見えた。
「なぁなぁ、そろそろだよな?」
「ん、ああ、そうだね」
黄〇ックこと獅子王の言葉に紅は懐中時計を取り出してそう言った。そしてまたにこりと笑い、見習いを見る。
何故かその笑みにゾッとしてしまう。先ほどと変わらない笑みであるはずなのに。
「見習いさん、あなたの呪具はなくなりました」
「は、なに、言って」
「いやはや、呪具を筆に埋め込むとはよく考え付くものだなぁ。それを与えられた部屋にでも持ち込めば滅多に分からんだろう」
青〇ックの着ぐるみを半分脱いだだけの三日月が笑いながらそう言った。その笑みも美しいはずなのに凍りそうなほど恐ろしかった。
ただし「天下五剣何してるの」という気持ちの方が勝った上、半分脱いでいない着ぐるみがやけに不釣り合いで恐怖は半分も感じられないが。
「ただ、礼儀正しい紺碧様だからこそ、あなたの呪具は壊されなかったようなものですが」
桃〇ックの着ぐるみをどこかにぶん投げた宗三左文字が言う。先ほどの声は嫌々だったが演練の時に鼻眼鏡を共にかけていたからノリは悪くないとは思うが。
廊下を歩いて石切丸と薬研が姿を現す。
「大将、呪具は石切丸の旦那が祓って燃やしておいたぜ。呪縛が解けるのにそう時間もかからないはずだ。
あと、持ち込んだらしい家具があまりにも悪趣味なんで焚き火にしちまった」
「あれ、薬研くんって炎苦手だよね? それから人様の物はいくら悪趣味でも勝手に燃やさないの」
「今その火で芋焼いてる」
「こんちゃん、バターありますか?」
「手のひら返すの早くありません!?」
- Re: 乗り込め!審神者さん ( No.11 )
- 日時: 2015/09/14 00:45
- 名前: 柊 (ID: DDShUS1b)
少しばかり口の端からよだれを垂らしている紅に思わずツッコミを入れてしまう。が、紅たちは焼き芋を楽しみにしているのかのほほんと会話し始めていた。
バターを付ける派と付けない派がちょっと言い争ったり、御手杵が自分のために多めに焼いてあると聞いて喜んでいたり。こんな状況でなければこちらも和んでいたところだ。
「っざけんじゃないわよ!
あんたっ、こんなんでただで済むと」
「済むと思ってますよ?
なんせあなたのお父様、逮捕されましたもん」
「……は?」
「だってあなたのことの隠蔽以外にいろいろやってたみたいですしおすし。あっ、おすしって言ったら食べたくなっちゃった……。
今日の夕餉お寿司ね」
「本当か!?」
「うん、特上頼もう。
薬研くん、そろそろ芋焼けたかな?」
「もう少しだろうな。
ああ、あと呪縛はもう解けてる頃じゃねえか?」
紅は放心状態になった見習いを放置し、夕食のことや芋のことを話す。そして紺碧と彼女の刀剣男士は薬研の言葉でようやく呪縛のことを思い出した。
そのまま普通に焚き火をしているであろう場所まで歩いて行こうとした紅が足を止めて、笑顔で紺碧に手招きをする。
「良かったら一緒に芋食べましょう。もちろん、刀剣男士様も」
ちら、と紺碧が見習いを見たが見習いはもう戦意喪失と言わんばかりに崩れ落ちていた。まあ確かに、呪具はともかく持ち込んだ家具を焚き火にされてその焚き火で芋を焼いていると言われたら崩れ落ちはしなくともちょっとどうしていいか分からない。
もし何か文句言われても応じないと思っていたが、家具のことに関しては素直に謝罪して弁償しようと心に誓った紺碧だった。
ちなみにこのあと焼き芋を全員で楽しく食べたそうな。
3:乗っ取り?なにそれ美味しいの?-END-
感想OKです…|ω・)