二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.106 )
日時: 2016/12/01 22:37
名前: 柊@誕生日 (ID: EYuxdBgO)

第16話
とある真亜空軍アジト。一室で、テオはぼんやりとベッドに身を投げ出していた。右手は額に当てられ、表情は伺えない。

彼の側では瞑想をしているカイリキーがいた。

脳内で思い出されるのは先ほどのタブーとのやりとり。

ゴンババはテオの部下。もういないゴンババの失態の尻拭いをするべきはテオだ、と次のアジトでスマッシュブラザーズを倒すように命じられたのだ。

「……カイリキー」

消えそうなほどか細い声を聞き取ったカイリキーは閉じていた目を開き、テオを見た。テオは体勢を変えていない。

「……ごめんな」

気弱な声は常に凛と、そして冷酷に部下に向ける声とは全く違っている。

「お前まで、こんなことに巻き込んで」

カイリキーの視線が耐えられなくなったのか、あるいはただたまたまか、テオは背をカイリキーに向けて体を横にする。縮こまるその姿はまるで小さな子どもだった。

「嫌、だったよな。ごめんな。……なんで、こうなっちまったんだ。
オレたちはただ、姉ちゃんやリディたちと楽しく暮らして、オレとお前は、ポケモンや人を助けていたはずなのに。
なんで、なんでなんだよ。なんでオレたちなんだよ。
なんでオレたちがこんな目に遭わなきゃいけないんだよ……!」

テオの声は震えていた。小さく体が震え、時折ひぐ、と聞こえる。泣いているのは、見なくても分かった。

カイリキーはテオからつい目を逸らすと、いくつかの写真立てが目に入る。テオが制服を身に付けながらカイリキーと肩を組んで笑っている写真、テオがリディを抱きしめながら笑っている写真、テオ、リディの他に赤い髪の女性と黒い髪の少年が写っている写真。

そのどれも、テオは笑っている。

「……分かって、る。泣いても、何も変わらねえ。
けど拒否したら、リディたちが」

テオがそこまで言いかけて、ドアがノックされる音がする。テオが勢いよく起き上がり、袖で乱暴に涙を拭いた。

どうぞ、と声をかければそこにいたのは写真に写っていた赤い髪の女性だった。髪は短くされている。彼女は膝まである白衣を着て、中には縦縞のタートルネック、短めのレザースカートを履き、ロングブーツを履いている。スタイルは出てるところは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいるという、女なら誰もが羨むようなスタイル。その女性の顔つきは、どこかテオに似ていた。

「テオ、さっきタブーに呼ばれたって」

「あー、何でもねーよ。ちょっとした命令だから。気にすんなよ、姉ちゃん」

姉ーーレベッカは本当に? と眉をひそめたが本当、というテオの嘘にそれをやめた。

「それなら、いいんだけど」

「姉ちゃん、それだけか?」

「あ、そうそう。これ。ゴンババのとこ行った時、湿布無くしたって言ってたでしょ。
今度はさっさと貼っておきな?」

「お、ありがと。わざわざ届けてくれたのか」

「……だって、このアジトで完全に自由に動けるの姉弟の中だと私だけでしょ。
あんただってそこそこ動けるけど、基本的にはタブーの命令が下ったり、見回りだけじゃない」

「……うん」

「ね、テオ。必ずみんなでここを出よう。
そのために私、頑張るからさ。テオもその間、我慢してくれる?」

「分かってる。分かってるよ、姉ちゃん」

テオがそう言えば、レベッカは彼に歩み寄って頭を撫で、優しく抱きしめた。

離れる直前に、ごめんね、と小さく囁かれる。

ーーごめんねは、オレのセリフだよ。

声にしない呟きはレベッカには届かない。……それでいい。

じゃあね、とレベッカが作った笑顔で手を振り、テオも作った笑顔で手を振った。

ドアが閉じ、レベッカの足音が遠のく。完全に聞こえなくなったら、他の足音がして、その足音は部屋の前で止まり、ドアをノックした。

「いいぞ、入ってくれ」

そう声をかけると、次に入ってきたのは写真の黒い髪の少年。少年は白いワイシャツに、黒いサスペンダー、黒の革靴を身に付け、紫の本を、大事そうに抱えている。

その少年の肩には、エイパムが。

「何か用? 兄さん」

「ああ、急に呼び出して悪かったな。



トビー」

そこには、トビアス・ランドルートが立っていた。

Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.107 )
日時: 2016/12/01 22:42
名前: 柊 (ID: EYuxdBgO)

……また、別の場所。

「じゃあな、穀潰しちゃん」

「……」

幼い体のありとあらゆる箇所に痣を作ったリディを嘲笑いながら男が出て行く。しばらくしてぐ、と何とか力を入れて起き上がる。

今回は完全に運が悪かった。というのも、最近体調が悪そうなるくたちをポケモンセンターで働いていた姉のレベッカに預けたばかりだった。だから、いつもは泣いてくれるるくたちもいない。

ふと、リディの目に短刀が目に入る。リディはその短刀に手を伸ばし、きゅう、と抱きしめた。

そうすると誰かが頭を撫でてくれる気がしたのだ。今だって心なしか頭に温かな物を感じている。

「ふ、うぇえ……」

泣いていたって変わらない。けれど抗う力を持たないリディはただ泣くしかできない。

しばらく声をあげて泣いていたリディは、ふと思い出した。何とかして自分を落ち着かせて、短刀を元に戻し、袖で乱暴に涙を拭う。

そうしてリディは牢と言っても差し支えない自室を出た。リディには御手杵らが閉じ込められている牢の監視の他に、もう一つ仕事を命じられている。

その仕事をするための部屋のドアを開ければ、そこには出せと言わんばかりに鳴き続けるポケモンたち。リディはこのポケモンたちの餌やりが仕事だった。

どうも、他の者が餌を与えても食べるどころか噛み付いてきそうな勢いで檻を揺らすというのに、リディが与えると大人しく食べるのだという。リディはその場面を見たことはないから、押し付けたいだけの嘘なのだろうと考えている。

入ってすぐ、右手にあるドアを開ければそこには大量のポケモンフード。これらを全てそれぞれの皿に開けて与える仕事を一人でこなさなくてはいけない。

リディは最初に皿にポケモンフードを開けてそれぞれの場所に配り歩くようにしていた。

これがあのビッパ、これがあのキャタピー……そう頭の中で整理していると奥から大きな鳴き声がする。それにびくりと震えた。

……確か、大きなポケモンを手に入れたと言っていた。恐らくはそのポケモンなのだろう。

リディは不安になりながらも、他のポケモンたちにポケモンフードを配り歩いた。

しかし配り歩くだけならそう時間もかからない。すぐに配り終えたリディはゆっくりと奥の部屋に歩いていく。

鳴き声はどんどん大きくなっていく。部屋のドアの前には、大きなポケモンフードの袋が。これがそのポケモンの一食らしい。

小さな体で何とかその袋を抱えて入っていく。それを一度横に置いて、ポケモンを見上げる。

……そこにいたのは、緑の体を持ち、龍のような……いや、龍そのものと言ってもいいポケモンだった。

「あなたは……レックウザ? 聞いたことないポケモン……」

ポケモンーーレックウザはじ、とリディを見下ろしている。その目は「ここから出せ」「これを外せ」と訴えていた。見ると、レックウザの体のところどころに体の自由を奪う拘束具が付けられている。

「……ごめんね。私には外せないの。
鍵がないの。力で外そうとしても私には力がないの。
それに……あなた一匹でも逃してしまえば……お兄ちゃんや、お姉ちゃんたちが、殺されちゃう」

ごめんね、ごめんね、と謝りながら袋を抱える。

レックウザは、ただ哀れな子どもを見つめるだけだった。

Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.108 )
日時: 2016/12/01 22:47
名前: 柊 (ID: EYuxdBgO)

ーーああ、退屈で死んでしまいそうだ!

とある者はそう思いながら頭の後ろで手を組んだ。金の瞳はじとりと何もない倉庫を睨んだ。

白い髪に白い肌。着ている着物もまた白一色。体は細く、儚げな青年は見た目に反し、性格はお茶目……というかイタズラ好き。そんな彼は自分の側にある刀ーー鶴丸国永そのものだった。

「刃生に驚きは必要だ」と言う彼にはこの何もない倉庫は何の魅力も感じない場所。そこに長い間閉じ込められていた。いや、しまいこまれていた。

どうも扉の前には見張りがいるらしい。逃げ出そうにも難しいものがある。それに鶴丸は主の霊力を貰って顕現しなければただの刀。逃げ出す以前の問題だった。

今の状態では何も触れないし声を届けることもできない。あまりにも退屈なんでいっそ寝てしまおうか。そう考えて目を閉じた時、外からぐぇ、と間抜けな声が聞こえた。

「ん?」

再度目を開けると、なんと扉が徐々に開いているではないか。なんだなんだ、と見つめていると廊下が見えるだけで誰もいない。

まさか幽霊か? そんな驚きに満ちた存在に期待を膨らませると下からやけに可愛らしい声が……鳴き声が聞こえた。

そちらに視線を向けると、丸いピンクの生き物がいた。そのピンクの生き物には耳が生えており、緑色の大きな丸い目は釣り上げられている。

「……もしかしてこの鞠が? いやしかしそこまでの力は……」

失礼だな、と言わんばかりにそのピンク鞠は鳴いた。それに目を丸くし、パアア、と気分が高揚するのが分かった。

こちらの言葉を理解できるのも、そして自分が見えているのも、鶴丸には充分すぎる驚きだった。

「こいつは驚いた! キミは俺が見えるのか!」

そう言えばピンク鞠は意味が分からない、と言うように首というか体全体を傾げた。

「俺は霊力がなきゃ見えないのさ。ってことはキミには霊力があるんだな! まさか人間以外にもその霊力が……いや、そういえば主が人外の審神者もいると……」

「プリーン! どこ行ったにゃー!?」

「ん?」

新しく聞こえた声にまた鶴丸は廊下を見た。ピンク鞠がこっちだ、と告げたのか鳴いた。

すると軽い足音が聞こえ、ひょっこりと現れたのは二足歩行で額に小判を付けた白い猫だった。

「ここにいたのかにゃ、いきなり飛び……」

「うおお!? 猫が喋った!?」

「にゃにゃ!? なんにゃいきなり!」

「おお!? キミも俺が見えるのか!? 今日は驚きの連続だな!」

まさかまた自分が見える生き物がいるとは! さらにその生き物は喋るときた。鶴丸の気分は高揚しっぱなしだ。これは今までここで退屈な日々を過ごしていた自分への褒美か、そう思ってしまうくらいには。

そんな鶴丸をよそに、ピンク鞠はじぃ、と鶴丸を見つめている。もっとはっきり言うなら、彼の本体である『鶴丸国永』を。

ピンク鞠はぐい、と猫のヒゲを引っ張って何かを訴え出した。

「痛いにゃ痛いにゃ何する……にゃんとぉ!?
この刀を持っていく!? この刀なら充分武器になる!?
そりゃあそうだけど、振るうやつが……え?
この男を連れていけばいい? ……できるかにゃあ?」

「それはちょうどいい! ここから連れ出してくれるのはありがたい!
……が、そうなると俺の主を見つけてもらわないといけないな」

「? どういうことだ? と言ってるにゃ」

「おっと、キミはその生き物の通訳もできるのか。また驚いたぜ……。
まず、俺はこの刀そのもの。付喪神だ。今の状態じゃあ、何物に触れることもできやしない」

そう言って鶴丸は近くにあった箱に触れようとするが、すり抜けてしまう。それに二匹は目を丸くした。

「俺が肉体を再び手に入れるには主が必要だ。主に顕現してもらえなきゃ、ただの置物にしかならない。だが俺は主の居場所が分からん。
恐らくどこかに閉じ込められているんだろうが……ここからじゃ霊力も感じられない。
もしキミたちが主を見つけて助け出し、俺が顕現された時には協力は惜しまないつもりだ」

ピンク鞠は短い手を組んで考え始める。が、それもすぐに終わってまた猫のヒゲを引っ張った。

「痛いにゃいちいち引っ張るにゃ!!
なになに? それなら連れ出そう。顕現された時はそれまでの苦労分働いてもらう……だそうにゃ」

「ははっ、先ほどから思っていたが、キミは見た目に反してずいぶんと男前じゃないか!
ありがとう、この鶴丸国永、恩には報いるぜ」

「そりゃあ俺はオスだからな。それと名前はプリンだ。と言ってるにゃ。
あ、ニャーはニャースにゃ」

「その見た目で男なのか!? いやはや、本当に今日は驚きの連続だな……。
っと、ぷりんににゃーすだったな? よろしく頼むぜ」

そう言って鶴丸はにこりと微笑んだ。

余談ではあるが、鶴丸が持ち出された道中にて敵と遭遇し、プリンの強さに驚くとともに少し引いた鶴丸だった。
第16話-END-
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