二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.113 )
- 日時: 2017/04/30 02:23
- 名前: 柊 (ID: EVVPuNrM)
第17話
空に何羽もの鳥が舞う。空の下には家屋は疎らではあるがいくつか建っており、その中に一際目立つ大きな建物があった。
ここはカントー地方のマサラタウン。マサラタウンを一枚の葉が吹かれた風に乗って駆けていく。
「ここがマサラタウン、ですか」
そのマサラタウンの入り口に竜太たちはいた。竜太の他には薬研、カイトとナガレ、熱斗、ルイージ、ヨッシー、しんのすけ、そして中央館にいるピカチュウことトネールとあの傷だらけだったピカチュウがいる。
本当ならば電も来ると言っていたのだが、前回の深海棲艦との戦いでのダメージを考えて中央館に残らせた。彼女が無理しないよう、他の艦娘も中央館に残っている。このはは前回のようにまたこっそり着いてこられて守れる確証はないため、残らせた。
「しかし……前回のゴロツキタウンの港と言い、ぶち壊しだな、まったく」
竜太の視線の先は、マサラタウンの入り口からでも見える大きな要塞。壁にはいくつも配線のように白い光が通り、サイバーチックなイメージを持たせた。自然豊かなマサラタウンとはあまりにも対照的な雰囲気な上にその大きさで嫌でも目立つ。
先にここに調査に訪れたファイターによるとあの要塞は一晩で造られたものらしい。あんなにも立派な建物をたった一晩で造ったと聞かされ、竜太は一夜城を思い出すがあれらは実際には一夜じゃないと言われていることも思い出すが、それは今は関係ない、と頭を振った。
「そろそろファイアが来るはずだね」
ルイージの声におーい、と遠くから声がした。そちらを向けば帽子を被り、手を振る少年が一人。ファイターとしては『ポケモントレーナー』として登録されている少年、ファイアだ。
ファイアはこちらに駆け寄り、にこりと微笑む。
「こんにちは、ルイージさん!」
「こんにちは。元気そうで何よりだよ」
「へへ、ボクはポケモンたちがいればいつだって元気です!」
ファイアはそう言って腰に付けた二つのボールを撫でた。ボールの中にはゼニガメとフシギソウがいて、ファイアに笑顔を向けている。
「っと、確かキミたちが新しい仲間だよね?
ボクはファイア。ポケモントレーナーをしているんだ」
「陣ノ内竜太です」
「薬研藤四郎だ」
「オレは豪勝カイト、よろしくな!」
「ぼくは天野ナガレです」
「オレは光熱斗! よろしく!」
「うん、よろしく!」
ファイアがにこり、と笑う。ファイアは明るく、人懐こい性格なようだ。
ふと、ファイアの視界にピカチュウが映る。ピカチュウはじぃ、とマサラタウンを見つめていた。
「この子、確か……」
「うん、保護したピカチュウだよ。
トネールが連れて来たんだ……」
「このピカチュウはマサラタウン出身トレーナーさんのポケモンなんだそうです〜」
「そうだったんだ……けど、この子のトレーナーがこの世界にいるとは……」
「それは、どういうことだ?」
薬研が疑問を投げかけるとファイアはピカチュウから薬研に視線を移し、体も彼の方へ向けるた。
「実はこの世界、ポケモンがいる世界は結構特殊でね。
いくつかの平行世界があるんだ。中にはほとんどのポケモンが話す世界があって、その世界はピッピが凄いことになってるって聞いたなぁ……」
へえ、と誰かの口から零れる。
ピカチュウの耳がぴくりと動いた。
「ピカチュウ……?」
突然した声に驚いてそちらを見れば、一人の女性がピカチュウを凝視していた。
……彼女はずいぶんとやつれ、目の下には深いくまができている。
ピカチュウが走り出して女性に飛び込む。女性はそんなピカチュウを泣きながら抱き止めた。
「ああ……無事だったのね! 良かった、本当に……!」
「あ、あの」
「貴方たちが、この子を見つけてくれたんですね?
ありがとうございます、ありがとうございます……!」
「あの、貴女は?」
「あ、ごめんなさい、私はハナコ。このピカチュウのトレーナー……サトシの母親です」
そういうハナコはピカチュウを抱きながらお辞儀をした。彼女の近くにある掲示板には、サトシ、という名前の少年の写真が貼られたポスターがある。
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.114 )
- 日時: 2016/12/26 20:40
- 名前: 柊 (ID: uEBl/Cwm)
「そう……じゃあ、その時、ピカチュウとサトシは一緒じゃなかったのね……」
「はい。お役に立てずに、申し訳ありません」
ハナコが気にしないで、と笑う。しかしその顔のやつれ具合などから彼女がサトシという息子をとても心配していることが分かって、つきりと心が痛んだ。
ピカチュウはハナコを心配そうに見上げている。近くにはバリヤードーーバリちゃんがいて、こちらもハナコを心配そうに見ていた。
「そのサトシって子は、いついなくなってしまったんですか?」
ナガレが聞くとハナコはそっと外を見た。その視線の先には、あの要塞がある。
「あの建物ができる、二週間くらい前だったわ。その時、サトシと一緒に旅をしていた女の子から連絡があったの。
サトシが夜になっても戻ってこないって。
それからずっとなのよ」
「そうだったんですか……」
「警察にも届けているんだけど、一向に見つからないの……」
「心配、ですよね……」
ファイアの言葉にハナコは寂しげに頷く。……たった一人の息子が突然消えて、彼女はどれほど悲しい思いをしたのだろう。
しん、と沈黙が流れる。声をかけるべきなのに、なんと声をかけていいのか分からなかった。
その沈黙を破ったのは、電話のベルの音だった。
ハナコが急いで電話を取り、相手と話し始める。だが、すぐに彼女の口から驚愕の声が上がり、彼女は電話を切ってリビングに駆け込む。
竜太たちが何かを聞く前にハナコがテレビを点けると、緊急ニュースが映っていた。
『突如、マサラタウン付近に建てられた要塞が赤く光り始め、何事かと見守っていた私たちですが、今はただ驚愕するしかありません!
あちらをご覧ください!』
キャスターの女性が指した方向へカメラが向く。そこには白い光が赤い光に変わった要塞。そして、その通路だろうか。そこでは何人かの人が何人もの人々を庇って戦っていた。
ズームによって彼らの顔がよく見えるようになる。
「なっ!?」
竜太が驚愕の声をあげ、目を見開く。薬研も同様に目を見開いていた。
『あの庇われている中にいる一人の少年は、行方不明になったサトシくんではないでしょうか!?』
「サトシ!」
ハナコが悲痛な声で画面越しに見える息子に叫ぶ。ピカチュウも悲しげな声で鳴いた。
……しかし薬研と竜太はそれどころではない。サトシと共に画面に映ったのは、自分たちの仲間だったから。
「……龍牙?」
「カイト、知り合いいたのか!?」
「ああ……大河の兄ちゃんだ!」
カイトとナガレも画面に釘付けになる。熱斗が竜太たちの様子にも気が付くと、カイトに聞いたように言葉を発した。
「竜太たちもか!?」
「ああ……」
薬研がテレビに近づき、一人の少年を指した。
「こいつは俺の弟の五虎退。こっちが骨喰藤四郎。兄だ。
この人が鳴狐。刀匠は違うが、同じ粟田口だ。
この人は長曽祢虎徹。浦島と蜂須賀の旦那の兄上。
そして、この人は三日月宗近。天下五剣に数えられる一振りで、かなりの強者だ」
五虎退と鳴狐が人々の前に立ち、それぞれの本体を構えている。骨喰、長曽祢、三日月は前線に立ち、次から次へと襲い来る敵を鋭い一閃で斬り捨てていた。
それでも敵の数は減ることはなく、むしろ増えているようにも見える。なんとなく分かっていたのだろうか。ある程度の距離の敵を殲滅し終えたらすぐに全員が奥へ逃げていく。
その中でも動かない少年ーーサトシが鳴狐に抱えられていた。
「助けに行かないと!!」
「ああ、すぐに向かおう!」
全員が立ち上がり、玄関へ向かう。リビングのテレビは、臨時ニュースを映し続けるままに。
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.115 )
- 日時: 2016/12/26 20:45
- 名前: 柊 (ID: uEBl/Cwm)
ーー疲れたな……
少年は朦朧とした意識の中、一つだけ思った。
旅をしている途中、珍しいポケモンに誘われるように森の中へ入り、そこで真亜空軍なる者たちに捕まった彼は、ある学者のような男にこう言われた。
お前は、ポケモンに好かれる体質。その体質を持つ人間がもう一人必要だった。ワタシの実験台となり、ポケモンたちをこの真亜空軍のために働かせろ、と。
ポケモンが大好きな少年はそれを拒んだ。ポケモンを道具のように扱うなど、彼には考えられないことだったから。
その答えが気に食わなかったらしい学者は、少年を柱に縛り付けて放置、時折、ストレス解消のために暴力を振るった。
少年は強かった。決して学者のあの誘いに首を縦に振らず、それどころか学者の目を盗んで相棒であるピカチュウを逃したのだ。
長きに渡る暴力。それを少年は耐え続けた。しかし……心はともかく、体は限界に近かった。ポケモンを利用してまで助かろうとは彼は思わない。けれど、もう疲れてしまっていた。
少年の目は光なく床を見つめている。
少年の耳に、聞き慣れたドアが開く音が届いた。
またか、そう思い、そっと目を閉じる。
「おや……こんなところに人の子か」
耳に入る声はあの学者の声ではない。穏やかな低い声だ。
足音がいくつか聞こえた後、視界に入るのは青い布。何とか少年が顔を上げる。
「なんと惨い……。どれ、この爺が今助けてやろうな」
そこにいたのは、目に三日月が浮かぶ美青年だった。
美青年は少々苦戦しながら少年の自由を奪っていた縄を解くと、そ、と少年の体を支えた。そしてにこりと笑む。
「どれほど耐えたのか、俺には分からない。けれど、よくぞ耐えたな。えらいえらい」
美青年に頭を緩く撫でられる。不思議と視界が滲み、頬にはつぅ、と何かが流れた。
「もう我慢せずとも良い。俺たちがここから連れ出してやろう」
なあ、と美青年が後ろに声をかける。そちらを見れば滲んだ視界には何人もの人がいた。
これは、少年ーーサトシが美青年ーー三日月宗近と出会った、臨時ニュースに映る少し前の話。
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.116 )
- 日時: 2016/12/26 21:01
- 名前: 柊 (ID: uEBl/Cwm)
要塞前。竜太たちはその扉の前にいた。
扉の前では熱斗がPETでロックマンに指示をしている。
扉は固く閉ざされており、どうにか侵入できないかと探していたところ、PETでロックマンなどのペットナビを送れる機器があったらしくそれを使ってロックマンが扉の鍵を解除するために電脳世界を動き回っているのだ。
「どうだ?」
『あと少しで解除できるよ! 思っていたより構造は簡単だったから』
「そうか、良かった」
熱斗が振り返って「あと少しだ」と言う。竜太たちの後ろには、複数人の少年少女がいた。
彼らは皆、かつてサトシと冒険をした仲間たち。カスミ、タケシ、ケンジ、ハルカ、マサト、ヒカリ、アイリス、デント。そして今、サトシと冒険をしているセレナ、シトロン、ユリーカだ。
セレナとユリーカは涙を流していて、シトロンは辛そうに顔を俯けている。そんな彼らをかつての仲間たちが慰めていた。
彼らはサトシの行方不明の報を聞いてハナコを心配し、マサラタウンにやって来たのだ。そして、臨時ニュースを聞いてこの場所まで来てくれた。
「よし、開くぞ!」
熱斗の言葉と共に、扉が開く。その瞬間、中から機械の腕がいくつも現れた。
全員の驚愕の声を物ともしないそれは、的確に竜太たちだけを捕らえて扉の中へ引きずり込んでいく。
慌ててタケシやケンジ、デントが手を伸ばしたがその手は届くことはない。
竜太たちは中へ引きずり込まれ、扉が閉まった瞬間にそれぞれ別の場所へと連れられて行った。
第17話-END-
今年最後の小説投稿になります。
来年もよろしくお願いします!