二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.127 )
- 日時: 2017/01/23 19:32
- 名前: 柊 (ID: /IDVKD3r)
第19話
「す、すみません、いきなり取り乱して……」
「いやいや、構わんさ。突然何かに掴まれてどこかに連れて行かれることに恐怖を感じるのも無理はない」
「そうだぞ、恥じることなど何もない」
「はい……」
ルイージは長曽祢と三日月に挟まれて、顔を俯かせている。頬が少し赤いのは、先ほど見せてしまった取り乱した姿のせいだろう。
息を一つ吐き、ルイージはようやく顔を上げる。いつまでも過去を恥じていたって変わることなどない。正直しばらく三日月と長曽祢の顔を真正面からは見れないが(三日月は取り乱した時に子供にやるように「よしよし」と頭を撫でてきて、長曽祢に至っては受け止められて近くにいたからと縋ってしまったためである)それ以外の人々の顔なら何とか見られる。
そうして見てみれば、刀剣男士たちと合流した者、それから龍牙以外の人々の顔は不安に染まっている。無理もない。
長い間、ここに閉じ込められていたのだろう。それを何があったかは分からないが意を決して逃げてきたとは言え、不安というのはどんどん溜まっていくものだ。
その不安を取り除くには、自分がしっかりしなくては。ルイージが自分の頬をパチンと叩く。
「あの、ルイージさん、でしたよね?」
と、急に話しかけてきたのは白い髪の少年、五虎退だ。彼と目を合わせるために、ルイージは屈み込む。
「どうしたの?」
「その……もしかすると、あのからくりが貴方たちを連れてきた道、覚えてないかな、って……」
「え?」
「あの、皆さんは入り口からいきなり連れて来られたって聞きました。それなら、ここまでの道を辿れば、出られるんじゃないかなぁ、って……」
「ああ!」
すっかり混乱と恐怖で失念していた。覚えていれば、すぐとは言わずともスムーズに彼らを連れ出せたのに。
つい頭を抱えそうになると、薬研が口を開いた。
「それなら俺が覚えてるぜ、バッチリとな」
「本当ですか!?」
「ああ。幾分か余裕があったんでな」
薬研の言葉に全員が沸き立つ。中には早くここから出よう、と急かす者もいるが、それは苛立ちではなく出口が分かった喜びからか声は明るかった。
「よし、行くか!」
薬研を先頭に、全員は歩いていく。薬研の足取りは迷いがなく、皆に安心して着いていけると思わせた。
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.128 )
- 日時: 2017/01/23 19:37
- 名前: 柊 (ID: /IDVKD3r)
やはり、と言うべきか。出口までは相当距離がある。最初は浮かれ気味だった者もだんだんと静かになっていた。
「薬研兄さん、今どのくらいですか?」
「ようやく半分と言ったところだろうな」
それを聞いて何人かが息を吐いた。まだ出口に行けるという喜びがあるからいいが、さすがに憂鬱になってきたようだ。
ひやり、とした風が吹く。ふと薬研が横を向けば、少し離れた場所に大きな飛行船とその飛行船に乗せられていく人々が見えた。
「あ……!」
「なんと! 他にも捕まっている人々がいようとは!」
お供が大きな声を張り上げると薬研だけでなく全員がそちらを見た。
「飛行船……?」
「は、早く助けに行かないと……!」
五虎退が走り出そうとするのを骨喰が止める。
人々の周りにいるのは明らかに敵だろう。複数のプリムやそれ以外の敵の姿も見える。
外には隠れられそうな場所が何処もなく、すぐに出て行けば見つかってしまう。そうなれば袋叩きにされ、こちらにいる人々もまた捕まってしまうはずだ。
「あ」
しんのすけの声が、イヤに響いた。しんのすけの視線は飛行船に乗せられる人々に釘付けだ。
よく見てみれば、しんのすけが二人の男女を凝視していることが分かった。……どことなく、しんのすけに似ている気がした。
「父ちゃん、母ちゃん!」
次の瞬間、しんのすけは走り出していた。あまりに突然のことで、誰もがしんのすけを止めることはできない。
それでも薬研だけは、すぐに追いかけた。
もう少しで飛行船に乗せられそうだった二人はしんのすけの声に気付いたらしい。こちらを見て目を大きく見開き、しんのすけ! と名前を叫んだ。
何度も、何度も。敵に阻まれながらも必死に叫んでいた。
「父ちゃん、母ちゃーん!」
しんのすけも走っていく。距離が縮まっていく。
半分まで走ったくらいだろうか、飛行船の入り口から一人の青年が降りてきた。彼は黒い翼を広げ、二人の男女を隠してしまう。
ぞわり。青年の黒い翼を見た薬研に悪寒が走る。
スピードを上げて、何とかしんのすけに追いついてしんのすけを抱えるも、遅かった。翼がしなり、いくつもの羽が薬研たちに向かって飛ばされる。
ーーしんのすけだけは。
薬研がしんのすけを守るように抱きしめる。……折れることを、覚悟しながら。
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.129 )
- 日時: 2017/01/23 19:42
- 名前: 柊 (ID: /IDVKD3r)
「……?」
痛みはない。それどころか、何かに刺さったような感触すらも。
薬研が顔を上げれば、そこにはルイージがいた。彼の息は少し粗く、複数の切り傷が彼に付けられている。
彼の目の前の床は抉れ、到底飛び越えられそうにない大きさの穴が開いていた。
「大丈夫かい?」
「あ、ああ……ルイージの旦那は」
「少しだけ手間取ったけど、大丈夫だよ」
見れば、彼の足元にははたき落としたらしい多くの羽が。
そんな間にも、飛行船は全員を乗せて飛び立とうとしている。
「! 父ちゃん、母ちゃん!!」
「よせっ、こんな穴飛び越えられる訳ないだろう!!」
しんのすけが目の前の穴なんてないかのように飛び出そうとしたが、薬研に止められる。それでもジタバタともがき、何とかして飛行船へ駆け寄ろうとしていた。
しかし、体の小さな幼稚園児が細身とは言え自分より体の大きな薬研に敵うはずもなく。
飛行船は、徐々に要塞を離れて空高くへ飛んで行った。
後ろでは、どうやらファイアたちと合流したらしく、彼らの声が聞こえる。
しんのすけはそれを気にすることもなく、薬研の腕の中で呆然と飛行船を見つめ続けた……。
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.130 )
- 日時: 2017/01/23 19:47
- 名前: 柊 (ID: /IDVKD3r)
飛行船内。女性の泣き声が響いている。
「しんのすけ、しんのすけっ……!」
彼女は野原みさえ。名で分かるように、しんのすけの母親だ。
みさえに寄り添い、背を撫でているのは野原ひろし。しんのすけの父親で、みさえの夫。
みさえはしんのすけの名前を呼んで涙を流していた。ひろしはそんなみさえに上手い慰めの言葉もかけてやれないことに己の無力さを感じていた。
「野原さん……」
周りにいるのはネネやトオル、マサオの母親たち。狭苦しい船内の一室にはしんのすけたちが通う幼稚園の先生らや、まる子たちの家族、カイトの姉がいる。
誰もが、嘆き悲しむみさえに何の言葉もかけられずにいた。
「……そう嘆くだけのことでもないぜ?」
唐突に、一つの声がする。全員がそちらを見ると二人の男女。
一人は黒いスーツに身を包んだ美丈夫。服の上からでもその身体にしっかりとした筋肉が付いているのが分かった。
もう一人は同じように黒い服に身を包んだ美少女。彼女は彼女で服の上からでも見事なプロポーションだと言うのが分かる。
そして、彼らは写し鏡のように正反対の目に眼帯を付けていた。
「どうして、そう言えるの……」
みさえがかき消えそうなか細い声で言う。
……実の子どもを見つけられたのに、抱きしめてあげることもできなかった。そんな悔しさが、彼女に分かるというのだろうか。
そんなみさえの考えを分かっていたのか分からなかったのか、彼女は口を開く。
「確かあんたの子どもは二人だったな?
その内の一人の無事が確認できたんだ。それにこの軍団に捕らえられていた訳でもない。
……例え、抱きしめてやれなくてもそれだけでも充分喜ばしいことだろ?
あの子どものそばにいたやつらなら、きっと守ってくれるだろうしな。
……オレは、自分の子どもをどっちも見つけられてないんだ」
そう言われてハッとした。彼女は見た目こそ少女だが、立派な母親なのだ。
みさえが謝ろうとするのを、彼女の言葉が遮る。
「だけど、あいつらはオレと光忠の子なんだ。絶対に生きてる。絶対に捕まってなんかない」
彼女はそう言って微笑んだ。そうして美丈夫になあ! と声をかけた。
「そうだね。不安じゃないと言えば嘘になるけど……信じてるよ。
僕と天龍の子どもを。竜太と、このはを」
そうして二人はーー天龍型一番艦、天龍と燭台切光忠は自信を持って微笑んだ。
あの場に、竜太がいたことなど知らずに。
第19話-END-
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