二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.131 )
- 日時: 2017/01/25 23:35
- 名前: 柊 (ID: /IDVKD3r)
第20話
剣が空気を切る。その剣はカイトに向けられていた。
「うおっ!」
カイトが何とか避ける。空振った剣はそのまま床へ落ち……小さなクレーターを作り出した。そのせいで飛んだ小さな床の破片はカイトを襲った。ダメージはそれほどない。
しかし、カイトも、熱斗やナガレも信じられなかった。テオの体には確かに筋肉が付いている。そうだとしても、これは異常と言えた。
テオは冷静に剣を引き抜く。
「どうした、まさかこれだけで怖気付いたとは言うまい」
片目の赤い瞳が、三人を捉える。
その瞳には揺らぎがなく、真っ直ぐに三人を見据えていた。
「……一体、何をすればこんな威力が……!」
「……何をすれば、か。別に、こんな力いらなかったんだがな……」
ぼそり、と呟かれた言葉は三人には聞こえない……はずだった。だがナガレだけは、微かにその声を聞き取っていた。微か、だから詳しい内容までは分からなかったが。
いずれにしても、勝てない訳ではない。むしろ、相手が生身であるならば勝機はいくらでもある。
それに、テオは右目を負傷しているようで白い医療用の眼帯をしている。そちらから攻めれば勝利を手にしやすいかもしれない。
だが周りは隠れるものなどない。ならば。
「二人とも、彼の気を逸らしてほしい」
「分かった」
カイトと熱斗が走り出す。カイトは拳で、熱斗はロックバスターでテオを攻撃し始めた。
テオが冷静に拳を受け止め、ロックバスターを最小限の動きで避けていく。しかし確実に気は逸れている。
ナガレは素早く、それでも自分の動きを悟られないように動く。右目側に、そしてテオに近づいて行く。
距離は徐々に縮まっていく。
テオが、剣を左手に持ち替えてロックバスターを弾いた。
ーー今だ!!
ナガレがライフルのストックを振り上げる。『スラッシャーヒット』の構え。
「バカが」
そんな冷たいテオの声とともにゴリ、と額に押し付けられたのは……銃。
避ける暇も、それを除ける暇もなく、テオが引き金を引いた。
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.132 )
- 日時: 2017/01/25 23:40
- 名前: 柊 (ID: /IDVKD3r)
ガゥン、と音が部屋に響く。衝撃にナガレの身体が吹き飛ばされた。
「ナガレっ!!」
「ぐ、ぅ……!?」
……死んではいない。かなりの衝撃はあったが、血も流れていなかった。
「今この空間は、お前らに致命傷を負わせることはない」
「どういうことだ!?」
熱斗が言えば、テオはちらりと見て口を開く。
「剣と銃。これですぐに致命傷を負われても困るのでな。
ただ、ダメージはしっかりと体に蓄積されていく。そうすれば内部から破壊されていく。
そうならないように精々足掻いてくれ」
そう言ってテオは銃をしまい、また剣を構える。
そして、また剣を振りかぶった。
ーーおかしい。
ナガレは何となく、ではあるが違和感を感じていた。
テオがここで自分たちを待ち受けていた理由。それは自分たちを倒す以外他ならないだろう。
だからこそ、テオの先ほどの言葉に矛盾を感じていた。
手っ取り早く倒すなら、致命傷を負わせた方が明らかに早い。なのにそれをむしろ避けるようにこの部屋全体にそんな不思議な細工を施した。
さらには、致命傷を負われても困ると言った。じわじわといたぶって楽しむ人間かとも思ったが、それなら三対一より一対一の方がやりやすいに決まっている。アームのことを知らなくとも、この部屋にそんな細工を施すことくらいは簡単なはずだ。
そもそも、敵の親玉であるタブーは何故そんな細工を許可したのか。謎が尽きない。
ーーだけど、これじゃあ、まるで。
……彼が、人を殺すことを嫌がっているように感じた。
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.133 )
- 日時: 2017/01/25 23:45
- 名前: 柊 (ID: /IDVKD3r)
剣の一閃、銃の一撃。それらが上手い具合に組み合わさって近付くことすらできない。
「くっそぉ!!」
「どうすればいいんだ……!!」
カイトと熱斗は息を切らせながらそう叫ぶ。しかし、諦めることを知らない二人は数撃ちゃ当たると言わんばかりにまた突撃していく。
牽制のようなリーチのある剣がまた振られる。突撃で勢いが付いてしまっていた二人は何とか避けるが、その隙に銃弾が熱斗に迫っていた。
咄嗟に熱斗がロックバスターで銃弾を撃ち落とす。
「バカの一つ覚えのように突撃ばかりだな。それで俺に勝てるとでも?」
明らかに挑発と分かるような言葉。しかし二人はそれでカッとなってしまえば相手の思う壺だと何とか冷静になる。
銃も剣も厄介だ。剣はリーチが長く、銃は遠距離での攻撃が可能。剣を避けられても銃が襲う。
何とか、どちらかを封じることができれば。
考えても考えてもいい案は浮かばない。弾切れを待てればいいが、それまでに倒されてしまったら意味がないしそもそもあとどのくらいで切れるのか、テオ以外には分からない。
『聞こえますか!?』
「! ミツオ!?」
突然、耳元に聞こえてきたのはミツオの声。しかしテオには聞こえていないようだ。カイトが熱斗とナガレを見れば、二人にも聞こえているようで驚いた顔をしていた。
『クレイジーハンドさんがちょっとヒーロー着に通信機能を付けてくれたんです! 熱斗くんにはロックマンを通じて話しかけてます!
キョウジュさんに分析してもらった結果、眼帯をしている右目側に対する反応は僅かにですが遅れがあるようなんです!』
「……だけど、さっきは」
『諦めないでください! 大丈夫、きっと何かあるはずです!』
何かある、そう言われてカイトはまた考えてみる。
僅かに遅れがあるなら、何とかしてその間に攻撃を当てられないだろうか。しかし先ほどナガレがそれを失敗してしまっている。
「……一瞬で、近くに移動できればな」
「……! それだ」
熱斗が、呟いた。
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.134 )
- 日時: 2017/01/25 23:50
- 名前: 柊 (ID: /IDVKD3r)
またもカイトが、今度はナガレと突撃してくる。
「またか。懲りない奴らだ……!」
熱斗は二人より少し遅れ、右目側へと移動している。……本当に懲りない。
テオの右目は、確かに見えない。しかしそれを補うかのように右耳の聴力が良くなった。それからは特に意識しなくとも足音でだいたいどれくらいの人数が、どれくらいの距離にいるか。それくらいは分かった。
だからさっきのナガレの奇襲も焦ることなく冷静に対処できたのだ。
今だって、熱斗の足音が聞こえる。
一度止まった、また歩き出した、また止まってこちらに。
冷静に聞きながら、ナガレが撃ち出すエネルギー弾を避け、カイトの拳を受け止めて流す。
それから剣を振るい、距離を置かせる。恐らく二人が近付いた頃、熱斗も剣が届く距離にいるだろう。
剣を構える。足音はまだ遠い。
手に力を込める。足音はまだ遠い。
体制を低くする。足音は……。
「!?」
唐突に、真横に足音を感じた。驚いてそちらを見れば、熱斗がロックバスターだった腕をソードに変えてそれを振り上げている。
「なーー」
あり得ない。確かに足音はまだ遠かったはずなのに。
ああ、でも。
これで。
ーーもう、人を苦しめないでいいのかな。
熱斗の驚きに見開かれた瞳には、ようやく解放された喜びに微笑む自分がいて。
ソードは、テオを斬りつけた。
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.135 )
- 日時: 2017/01/25 23:55
- 名前: 柊 (ID: /IDVKD3r)
テオが吹き飛ばされ、壁に身体をぶつけた。その衝撃でテオは激しく咳き込む。
それだけではなく、テオの体に大きな切り傷ができている。たった一撃でテオが戦闘不能に陥ったと理解するには充分だった。
瞬間、全員の姿が元に戻り、全員が呆然とテオを見ていた。
「か、勝った……?」
「や、やったな熱斗! エリアスチール、だっけか。すげえな!」
「あ、ああ」
カイトの賞賛に、熱斗は素直に喜べずにいる。ちらりと見ればテオは肩で息をしていた。
ソードで斬りつける直前、確かにテオは微笑んでいた。その意味が理解できない熱斗は、ただ困惑するしかない。
しかしテオは生きている。何故微笑んだのかくらいは聞けるかもしれない。
熱斗が話しかけようとすると、彼らの耳に入ったのは耳をつんざくような爆発音だった。
「なっ!?」
「……ここは、俺が負けると自動的に爆発して消える仕組みになっている。巻き込まれたくはないだろう」
冷静に言い放つテオ。彼の言葉の後にブォン、という音が聞こえてそちらを見れば部屋の隅が光を放っていた。
「そこはワープゾーンになっている。それで外に出られる」
「お前は、どうするんだよ!?」
「俺も死ぬのはごめんだからな。お前らが出た後にでも使わせてもらうさ」
「なら一緒に……」
「はっ、バカなのかお前ら。敵に情けをかけてもらうくらいなら死んだ方がマシだ。それくらい分かれ。
ほら、行け」
テオの言葉に三人が顔を見合わせる。そうしている間にも、爆発音は響いている。
「……ぜってえ来いよ!!」
カイトがそう言って、ワープゾーンに入っていく。それに続いて熱斗も。
ナガレが入る前にテオを見た。
「待ってますから!」
ーーああ、本当に、バカな子どもたちだ。
ついさっきまで戦っていた敵だと言うのに、心配なぞして。
ナガレがワープゾーンを踏み、消えていく。まだ彼はこちらを見ている。
「……敗者に、生きる価値なんぞないに決まってるだろ、バカ」
そう呟いた言葉が聞こえていたのか、ナガレは目を見開き、こちらに手を伸ばした。けれどワープゾーンはそのままナガレを消してしまう。
爆発音が鳴り響き、部屋が揺れる中、ワープゾーンの起動を示していた光は、消えた。
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.136 )
- 日時: 2017/01/26 00:00
- 名前: 柊 (ID: /IDVKD3r)
「うわぁっ!」
「ナガレ!」
ナガレはすでに外にいた。見れば竜太たちやあの臨時ニュースに映っていた人々もいる。
「大丈夫か!?」
「う、うん。でも、彼が、テオが」
「まだ中に誰か残ってるのかい!?」
ルイージにナガレは頷く。そして真亜空軍の幹部、テオが中に残っていることを告げた。
「けど、あいつすぐに来るって」
「あの人、『敗者に生きる価値なんかない』って言ってた。多分、もうワープゾーンは使えないんだ!」
それを聞くや否や動いたのは、ファイアたちが助けたカイリキーだった。まだ爆発の収まらない要塞の固く閉ざされた扉を力任せにこじ開け、中へ入っていく。
カイリキーを追ったのは、鳴狐だった。
すぐにお供を近くにいたファイアに預け、軽やかな走りで鳴狐が中へ入っていく。
「あっ、ま、待ってください、鳴狐さん!」
五虎退も追おうとするが一際大きな爆発が起こる。悲鳴が所々から上がった。上から要塞の壁の瓦礫が落ちてくる。
このままここにいては巻き添えを食らってしまう。鳴狐が心配で堪らないがここにはいられない。
ナガレたちは、仕方なくその場を後にする。
「ヒトデマン、みずでっぽう!」
「アゲハント、サイコキネシスで瓦礫を止めて!」
カスミやハルカたちがポケモンと力を合わせて人々に瓦礫の被害が出ないようにしている。
「大丈夫かサトシ!」
「しっかりして!」
タケシとケンジがサトシを支え、デントとシトロンがそれぞれ自分のポケモンで襲い来る瓦礫を退けている。
「……あれ?」
……そんな中に、臨時ニュースに映っていた一人である三日月宗近はいない。その理由を知っているのはナガレたち三人以外だ。
しかし今聞くわけにもいかない。ナガレは崩れゆく要塞から逃げるしかできなかった。
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.137 )
- 日時: 2017/01/26 00:06
- 名前: 柊 (ID: /IDVKD3r)
テオは、崩れゆく要塞の中、少しだけ過去のことを思い出していた。
あれは真亜空軍に入れられる少し前のこと。テオは夢だった仕事に就くことが決まった。レスキュー。それがテオの夢だった。
テオの部署は警察と連携をとって見回りなどもする、そんなところだった。
パートナーのカイリキーと時に喧嘩しながらも、人々を助ける。そして働いて稼いだお金を、世話になった孤児院へ寄付して。
そんな中でテオはある一匹のポケモンを見つけた。意地の悪いポケモンにでもいじめられたのかボロボロになっていたそのポケモンーーポッポに突かれながら手当て、世話してやり、ポッポが完治する頃にはポッポに懐かれ、そのポッポを新しく仲間に加えたりもした。
忙しくも充実した日々を送っていた。時に悲しいことも苦しいこともあったけれど、幸せで。
その幸せがあれば、何もいらなかったのに。
唐突にそれは壊された。他でもない、真亜空軍によって。
テオは実力を買われて真亜空軍のために戦わされた。姉のレベッカは実力と頭の良さを買われて戦いに加えて何やら実験をさせられていると聞いた。
弟のトビアスと妹のリディは、人質にされて。
……こんな苦痛、耐えられなかった。
家族を見捨てるなんて到底できない。けれどそのために他の人を犠牲にしたくない。
だから必死で誤魔化した。余計な犠牲が出ないように。
「タブー様のお言葉だ」そんな嘘を吐いてまで好き放題する下っ端たちを止めた。時に嘘ではなかったけれど。
今回だって、自分が負ければ要塞が爆破されると知っていたから人々を逃した。一部は真亜空軍が預かると言っていたから、もういないはずだ。
視界がボヤける。血を流し過ぎたか。
「ああ」
掠れた声が自然に喉から絞り出される。爆発音が近づいている気がする。
頬に、つぅ、と何かが伝う。
彼は意識を失う直前、無意識か、呟いた。
「死にたくない」
と。
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.138 )
- 日時: 2017/01/26 00:10
- 名前: 柊 (ID: /IDVKD3r)
ーーとある孤児院。
「院長せんせー」
「あら、どうしたの?」
「院長せんせー、泣いてるの?」
「え?」
院長先生、と呼ばれた老婆は自分の顔に触れる。するといつの間に流れていたのか、涙が手に触れた。
「あらやだ……どうしちゃったのかしら、わたし」
「また、お兄ちゃんたちのこと?」
一人の少女に聞かれ、老婆はそうね、と返す。
老婆はある日を思い出した。
謎の軍団がこの孤児院を攻めてきた時。彼女たちはなす術がなかった。怯えて泣きじゃくる子どもたちを背に隠してやるしかできなかった。
そこに駆け付けたのは、かつてこの孤児院にいた二人の姉弟。一人はレスキュー、一人は医者になった二人はそれぞれのパートナーと共に謎の軍団に立ち向かった。
優勢だった二人がその手を緩めたのは、老婆たちに敵のバズーカ砲と銃が向けられた時だ。
謎の軍団が老婆たちへの攻撃を一切せず、手を引く代わりに出した提案は真亜空軍へ二人が下ることだった。
老婆は必死で叫んだ。やめなさい、彼らを巻き込まないで、お願い。
一発の威嚇射撃。響く悲鳴。それに二人はパートナーを引っ込めた。
ーー分かった。私たちがあんたたちの部下になる。
ーーだからもうここを攻めるのはやめてくれ!
攻撃は止み、二人も、二人の弟妹もいなくなってしまった。
……わたしがもっと強ければ。あれ以来そんな後悔が老婆を取り巻く。
老婆はそっと天を仰いだ。
「どうか、いらっしゃるならば神様。彼らをお救いください。
彼らは、とても優しい子たちなのです……」
老婆は何も知らずに、ただ祈るしかできなかった。
第20話-END-
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