二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.143 )
- 日時: 2017/02/25 13:07
- 名前: 柊 (ID: LIwDSqUz)
第22話
暗い一つの大部屋。そこに押し込められている子どもたちはわあわあ泣いている。
子どもたちは皆、辛うじて服の形にしただけのボロ布を着ていて、やつれていた。
どの子どもも、おとうさん、おかあさん、と泣いていた。
その部屋の奥には、ぐったりと座り込んでいる少年がいる。艶やかな黒髪を赤い髪紐で結っていて、黒い制服を纏っている。その腰には一振りの脇差が差されていた。
少年には痣が所々にあり、明らかに無事ではないことが分かる。
「……いちにい……みんな……」
少年はここに閉じ込められる前のことを思い出した。複数人の男に押さえ付けられた少年とその兄弟たちとは離れ離れに閉じ込められた。
兄弟たちは連れて行かれる中、必死に自分に手を伸ばしていた。少年のことを呼んでいた。
ーー守ってやれなかった
その後悔が、少年の心を締め付ける。
桃色の髪をした無邪気な弟は、大丈夫だろうか。こげ茶の髪をした生真面目な弟は、大丈夫だろうか。
何度も何度も後悔しては、少年はそれに押し潰されそうになっていた。
ガシャン、と音が鳴って部屋にほのかな光が入る。子どもたちの悲鳴が上がる。
またか。そう思って少年は重い体を起こす。
光を背に立っているのはここの全ての元凶。にたりにたりとした笑顔に怒りが湧くほどには少年はこの元凶を嫌っていた。
その元凶と少年はーー鯰尾藤四郎は正面から睨み合った。
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.144 )
- 日時: 2017/02/25 13:18
- 名前: 柊 (ID: LIwDSqUz)
のび太とマサオは首を傾げていた。メインストリートの様子に。
ここ、メインストリートにはちょくちょく手伝いとして買い物に来ることが多い。無論、他の人々と一緒ではあるが。
いつもならとても賑わっている。毎日お祭り騒ぎかと思ってしまうほどに。
しかし今日は妙に静かだった。周りの店はいつも通り開いているのに覇気がない。
「なんだか変な雰囲気だね……」
マサオが言えば、のび太も頷いた。だが二人にはその変が何なのか分からずにいた。
とにかく買い物を済ませよう、と二人はある店に立ち寄る。この店は食料品を取り扱い、安いのに質がいいため中央館の誰もが利用しており店の人は中央館の人を覚えているらしい。
現に、店の人は二人のことを見つけるとこんにちは、と声をかけてきた。
「今日も来てくれたのね、嬉しいわ。でも、キミは笛の音に気を付けてね……」
店の人はマサオを見ながらそう言う。二人がまたも首を傾げると何も知らないのかと彼女は理由を教えてくれた。
「最近、この近辺で小さな子どもが誘拐される事件が増えているのよ。その事件に巻き込まれた人が言うには、子どもは笛の音が聞こえる、行かなきゃ、と言ってふらふらとどこかへ消えてしまうそうなの。
肩とか掴んで止めようとしても子どもではあり得ない力で振り払って走ってしまうんだって。追いかけようとして気付かれるとまたあり得ない速さで走って振り切ってしまうそうなの。
それに基本的には夜中にいなくなってしまうらしくてね……」
「あ、もしかして……」
覇気がなかったのは、皆子どもが誘拐されてしまった人なのだろう。そう考えると、何だか何も言えなくなってしまって……店の人が「とにかく、笛の音には気をつけて」と言ってから二人は買い物を再開した。
これをみんなに報告しよう、そう決めながら買い物を終わらせ、共に来ていたリンクたちと合流するため、集合場所へと急いだ。
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.145 )
- 日時: 2017/02/25 13:17
- 名前: 柊 (ID: LIwDSqUz)
憩いの広場。ここも周りと同じようにあまり活気がない。それだけだというのに、景色は色褪せたように見える。
のび太とマサオが広場を見渡すと、広場の一角に人集りができていた。その最後尾にはリンクもいて、リンクはその人集りが注目している場所を凝視しているのが遠目からでも分かった。
「リンクさーん!」
「ん? ああ二人とも……買い物を終わらせてたんだな」
「はい。あの」
マサオがこの人集りは? と聞こうとした時、中央からパァン! と小気味いい音が鳴った。それについのび太とマサオもそちらを見るが、二人の身長ではとても人々の先を見ることができない。
「さあさあ! 採れたて新鮮な野菜や果物、もうすぐで完売するとよー!!」
「買うてってーなぁ」
聞こえてきたのは幼めな少年と少女の声だった。少年の声は人集りを悠々越えて、のび太たちにもはっきり聞こえる。対して少女の声は小さくはないが穏やかだ。
前の方では野菜や果物が売れているのか、次から次へとそれらを持って人集りから離れていく人やまいどー、という少年少女の声が聞こえる。二人が何とか覗き見ようと四苦八苦していると、もう一度小気味いいパァン! という音が響いた。
「はい、完売ー!!」
「買えんかった人、堪忍なー」
何人かが残念そうに息を吐きながら帰っていく。徐々になくなっていく人集り。その隙間から見えたのは、少し短めの金髪をした赤いメガネをかけた少年と、黒いショートの少女だった。
少年の手にはハリセンが握られており、先ほどの小気味いい音はあれから鳴っていたのだとすぐに分かる。のび太はふと少年の服を見て、あ、と小さく声を発した。
黒い服は、薬研たちと似ていた。
「ん? あ、すまんち。今日はもう売り切れたい。また明日来てほしか」
「あ、そ、それはいいんだけど、キミ……」
「どしたと?」
「お、お待たせしましたぁ!」
後ろから聞こえて来たのは五虎退の声だ。それにいち早く反応したのは、目の前の少年。
少年はきっとのび太たちの後ろにいるであろう五虎退の姿に目を丸くしている。少女もぽかん、と小さめではあるが口を開けていた。
振り向けばそこにいたのはやはり五虎退。その隣には鳴狐もいる。
「は、博多!」
「おお、これはこれは博多ではありませんか!! 博多も無事だったのですねぇ!」
「良かった。黒潮も、元気そう」
「五虎退! 鳴叔父さん!」
「ようやく見知った人に会えてホッとしたわ〜」
博多がハリセンを放って五虎退に抱きついた。五虎退はわぁ、と言うが何とか博多を抱きとめる。鳴狐は駆け寄ってきた黒潮の頭を優しく撫でていた。
「ああ、二人とも、のび太殿たちへの自己紹介を忘れてはいけませぬ!」
「のび太……ああ!」
博多がのび太たちを振り返る。先ほどの反応などから誰がのび太かは分からずとも、誰かがのび太であることは分かったようだ。
そうして手を腰に当ててニィッ、と歯を見せて笑った。
「俺の名前は博多藤四郎! 博多で見出された、博多の藤四郎たい」
少女も振り返り、にこりと穏やかに笑った。
「ウチは陽炎型駆逐艦の三番艦、黒潮や。よろしゅうな」
笑った二人にのび太たちも自己紹介してよろしく、と返す。
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.146 )
- 日時: 2017/02/25 13:22
- 名前: 柊 (ID: LIwDSqUz)
黒潮と博多がやってきたその日の夜中。外から風に乗るかのように優しい笛の音色が聞こえてくる。
その音色がし始めて、そこそこ。しんのすけの部屋に集まって眠っていたボーちゃん以外の四人はむくりと起き上がり、一斉にこう口にした。
「行かなきゃ」
と。
のろのろとベッドを降りて、頼りない足取りで部屋を出て行く。
少ししてからボーちゃんが起き上がると四人とは違いしっかりとした足取りで部屋から出て行った。
ある程度距離を開けて、そっとついて行く。四人はボーちゃんに気付いていないのか、まだ頼りない足取りだ。
途中で、もう一人ーーこのはが同じ足取りで四人に合流した。そのまま五人は玄関ホールへ出て行き、ドアの前で立ち止まる。
すると、ドアが自動的に開いて、五人は外へと出て行ってしまう。
「大変」
「あれ、どうしたの?」
ボーちゃんが声をかけられた方へ顔を向けるとそこにいたのは浦島とテオ。テオだけは透明な水の入ったコップを持っていた。
「みんなが、外に」
「え?」
「笛の、音」
「! あの話の……!」
「え、なんでボーちゃん平気だったの?」
浦島が聞くとボーちゃんは耳から何かを取り出し、手のひらに乗せて二人に見せる。手のひらには二つの耳栓。
「笛の、音が、危ないから」
「すごい用意周到だね……。とにかく、追いかけないと!」
「悪い浦島……俺が覚えていたら」
「仕方ないって!」
テオは顔を俯かせる。テオがこちら側に協力すると言ったはいいが、いざ真亜空軍側の情報を話そうとした時に記憶がおぼろげになってしまっていたことに気付いたのだ。
それでもこの世界にある「マージナ」という街に真亜空軍のアジトがあるという僅かな情報が得られたのだ。それから、この近辺にも何かがあったと。
明らかに笛の音はそれに関係しているはず。覚えていれば、とテオはひどく後悔していた。
だが後悔している間にも五人は遠くへ行ってしまう。
「俺が追いかけるよ! 多分、行くのはアジトだろうからそれっぽいところに着いたら、赤の狼煙をあげるね!」
「ああ!」
「できれば、蜂須賀兄ちゃんと長曽祢兄ちゃんには最初に知らせて欲しいんだ」
その名前を聞いて、思わずテオとボーちゃんは顔を強張らせた。
というのも、こちらに帰還してから蜂須賀と長曽祢の関係がギスギスしている上に蜂須賀は長曽祢を嫌っていたからだ。話しかけられたら無視こそしないが誰にも見せたことがないような冷たい態度で、周りも困惑してしまっていた。
そのことで何か起きるのではないかと考えていた。
「大丈夫、兄ちゃんたち何だかんだ仲良いんだよ?
頼んだからね!」
そう言って浦島は颯爽と外へ駆け出していった。
任された二人は少し困惑しながらも走り出す。
- Re: cross×world【閲覧1000突破!】 ( No.147 )
- 日時: 2017/02/25 13:27
- 名前: 柊 (ID: LIwDSqUz)
中央館の中を走り、まずは蜂須賀の部屋へ、と考えていたテオとボーちゃんの考えは早々に無いものにされた。
食堂の中に、二人がいた。長曽祢がコップを持っているところを見ると長曽祢が水を飲みに来た時にたまたま同じ目的で蜂須賀が来たのだろう。
つい尻込みしそうになるも、浦島のことを考えてすぐに食堂へ飛び込んだ。
「大変だ!」
「笛の、音!」
「な、なんだ!?」
「笛の音……? まさかあの話のことかい?」
蜂須賀がそう聞き、ボーちゃんが頷く。そしてテオがその笛の音でしんのすけたちが外へ出たこと、浦島がそれを追いかけたことを話した。
「浦島が!?」
「……蜂須賀、お前は皆に伝えてくれ。俺が追いかける」
長曽祢の言葉に二人がぎょっとする。
ただでさえ長曽祢を嫌っている蜂須賀が、命令のようなことを言われ、その上で自分が溺愛する浦島を追いかけられないとなって長曽祢に食ってかかるのでは無いかと思ったから。
蜂須賀はちらりと長曽祢を見る。
「分かった」
その短い返事を聞くと、長曽祢と蜂須賀は走り出した。
あまりの短いやり取りと、予想とは違う蜂須賀の行動に二人は一拍遅れて蜂須賀を追いかけた。
「な、なあ、いいのか!?」
「いい、とは?」
「あの、そのー、長曽祢さんのこと、嫌ってるだろ?」
「……別に、あいつのこと自体は嫌ってはいないよ。あいつがいないから言うけれど、むしろ、あいつの実力は憧れているくらいだ」
蜂須賀の言葉に、ボーちゃんとテオが同時にえ、と溢した。蜂須賀は続ける。
「俺が嫌いなのは『虎徹の贋作』だ。誇り高き虎徹を汚すだけの者たちだからね」
「でも、長曽祢さん、その贋作」
「ああ。けれど……あいつには素晴らしいほどの実力があるんだ」
その蜂須賀の言葉に、ボーちゃんは何となく感じた。蜂須賀がああも冷たく当たるのは、彼自身の葛藤があってのことではないかと。
蜂須賀は、虎徹の名を汚す『虎徹の贋作』が嫌いだ。しかし、長曽祢はその贋作でありながらも蜂須賀が認め、憧れるほどの実力を持っている。尊敬したい存在が、素直に憧れることができるはずの存在が、嫌いだ。
そんなどうしようもない葛藤が、あの冷たい態度なのではないかと。
「でも、俺はてっきり蜂須賀が追うものかと。それに長曽祢さんの言葉にも従わねえのかなって」
「悔しかったけど、長曽祢のあの指示は的確だ。もし俺が行って浦島が憂き目にあっていたら何も考えずに敵に突っ込んでいく自信がある。
長曽祢もそこは心配ではあるが、あいつは新撰組局長の刀だ。頭に血が上っても冷静になるのも早いだろう」
それに、と蜂須賀は続ける。
「贋作と言えど、虎徹を名乗っているんだ。
相応の働きくらい、あいつには容易いさ」
ーー兄ちゃんたち何だかんだ仲良いんだよ?
その言葉が今なら分かる。
仲良くなかったら、こんな信頼できっこない。
ボーちゃんはくすりと笑いながら、二人とともに中央館の人々を起こしに向かった。
第22話-END-
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