二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: cross×world ( No.20 )
日時: 2016/01/07 01:53
名前: 柊@あけましておめでとうございます (ID: P/XU6MHR)

第3話
「よし、これでも無いよりかはマシだろう」

「すまぬ」

あの後、このははマリオたちに抱えられて竜太が寝かされていた部屋へ運ばれ、他の者はそれぞれ割り当てられた部屋へ戻っていた。何人かは誰かの部屋に集まっているとは思うが。

薬研は浦島と山伏の二人を治療したいと医務室に来ていた。とは言えど、先ほど浦島はこのはが気になる、と出て行った。

治療が終わった上半身を軽く見て服を着直す。手入れはこのはが目を覚まして、ある程度安定してからになるだろう。そうなるとやれることはかなり制限される。

「あと、山伏の旦那。これを飲んでおいた方がいい」

「これは?」

「痛み止めだそうだ。俺たちに効くか分からないが、少なくとも毒にはならないだろう」

「ありがたい」

山伏は薬研から錠剤を受け取ると躊躇うことなくそれを口に含んだ。そのまま飲み込もうとする山伏に薬研が水を渡す。

それだけで意味が分かった山伏はそれも受け取り、水で薬を流した。

「して、先ほどの話は真か」

「ああ。正直、俺もいまいち信じきれなかったんだが、あの人たちのまっすぐな瞳を、魂を見て、嘘を言っているとは思えない」

「……となれば、主殿は敵の手中か」

「間違いない。俺がそれを見ているからな。
……多分、浦島も」

「……」

山伏は静かに目を閉じる。そして、そうか、と一言呟いた。

突如、破られることはないとされていた結界が謎の集団ーー真亜空軍に破られた時。本丸にいた全刀剣男士で斬りかかっていった。それにも関わらず、終始劣勢を強いられ、主を含めたほぼ全員が敵に連れ去られた。

普通ならば、勝てるのか、また負けてしまうのではないかと不安になるだろう。しかし、この山伏国広という刀剣男士は違った。

「拙僧もまだまだであるな。不意を打たれたと言え、あれほどあっさり敗れ去るとは……」

「山伏の旦那……」

「だが、諦めん! 敵の手中には主殿だけでなく、我が兄弟もいる。
諦めるなぞ、できん!」

山伏は力強く拳を握った。それで怪我に響いたのかぐぅ、と呻く。

薬研が少しだけポカンとして……小さく息を吐いた。そして、廊下に続くドアへ向かう。

「それなら、今は安静にしておけ」

そう言って、薬研は医務室を出た。

Re: cross×world ( No.21 )
日時: 2016/01/07 09:19
名前: 柊 (ID: P/XU6MHR)

「……らしくない、な」

ドアに寄りかかり、そう呟いた薬研は俯いている。その表情は暗い。

思い出したのは主が連れ去られるまさにその瞬間。運良く刀剣破壊を免れ、元の姿に戻ってしまった薬研が見たのはぐったりとした主が敵によって運ばれていくところで。体を持たなくなった薬研がどんなに叫んでも無意味で。あれほど後悔したことはない。

しかし正直なところ、薬研は諦めかけていた。あの敵には勝てない、負けてしまう、と。

それに対して山伏は諦めていなかった。強い目を持って諦めない、と言い切った。

いつもだったら自分もそう言い切っただろう。なのに今回は諦めてしまっていた。

……自分らしくない。

「……怖いんだろうな」

もしまた戦って負けて、折られてしまったら。そう思うと息もできなくなりそうだ。

兄弟たちや主に会えないまま折れてしまうなんて、嫌で。

怖くて。

だから薬研も悩んでいた。戦うべきか、否か。だが山伏の言葉を聞いてそれは決まった。

上げた顔には先ほどまでの表情はなく、晴れ晴れとしている。薬研はドアから離れて歩き出す。

「まずは、竜太たちから探すか」

Re: cross×world ( No.22 )
日時: 2016/01/07 02:07
名前: 柊 (ID: P/XU6MHR)

浦島はこのはが眠っているベッドの横に座っていた。目にはうっすらと涙が溜まり、時折ぐす、と鼻を鳴らしている。

「……守れなかった」

そう呟いた彼が思い出すのは、主が連れ去られるその直前。

あの場にいたのは重傷の自分と、同じく重傷の前田藤四郎。そしてところどころが己の血で汚れた、年老いた主。あの時にはもう自分たち以外は倒された後だったのかもしれない。

主はそれを微かながらに分かっていたのだろうか。彼は舌打ちをしながら自分と前田の名前を呼んでわざわざ元の姿に戻したのだ。

元の姿に戻ってしまえば、どんなに叫んでも手を伸ばしても彼に届くことはなく。

結局自分は、主が倒されて連れ去られるその時まで意識を保ってしまい、こうして後悔している。

「……オレが、もっと強かったら」

守れたかもしれない。主だけじゃなく、みんなを。そう考えては次々と襲いかかる後悔に潰されそうになっていく。

また涙が滲んで、浦島はまた、泣いた。

「こんなっ、こんな思い、するくらいならっ、折れたかった……!!
主さんを守って、折れたかったよぉ……!!」

「……うらしまにぃに」

「! このは……?
ちょ、ちょっと待ってて、今薬研くんを」

「おれちゃ、やー……」

「え……」

きゅう、と小さな手が浦島の手を掴む。その小さな手の力は弱いはずなのに、強く感じる。

「おれちゃ、や……。にぃに、いなきゃ、や……」

「このは……」

「だめー……」

今度は縋るように手を抱きしめる。そんなこのはを、浦島は優しく撫でた。

「うん、ごめんね。折れないよ。
折れないから、大丈夫」

「ほんと……?」

「本当だよ」

「よかったぁ……」

優しく微笑めばふにゃり、と笑いながらこのははまた眠った。その優しい微笑みのまま、浦島はつぅ、と一筋涙を流す。

けれどそれは、悲しみではなかった。

「……ありがとう、このは」

そう言い、浦島はこのはの頭をゆっくりと撫でた。

Re: cross×world ( No.23 )
日時: 2016/01/07 02:22
名前: 柊 (ID: P/XU6MHR)

「何だか大変なことになっちゃったね」

「ああ。歴史を守ってたらこんなことになるとはなぁ」

乱と厚は夜空が広がる屋上に来ていた。時間が過ぎるのは早く、空は暗く、いくつもの星が瞬き、月が淡く優しい光を放っている。

二人の目にはそんな月が写っていた。

「ところで厚はどうするの?」

「何がだ?」

「あの真亜空軍とかいうのと、戦うの?」

「当たり前だろ」

乱の問いに、厚は迷うことなく答えた。

あまりにあっさりとした答えに同意はしても予想外だった乱はきょとん、と厚を見ている。それに気が付いたのか厚は何だよ、と返す。

「いや、もう少し躊躇うかなぁ、って思っていたから」

「そりゃ少しはな。だけど戦わなきゃ負けたまま終わりだし、大将やいち兄たちも捕まったまま。
それだけじゃなく何もかもがよく分からねえやつらに奪われるんだ。
今まで俺たちが守ってきた、全てを。俺はそんなの、我慢できない」

「……そうだよね。そんなこと、ぼくだって嫌だよ。だけど、正直怖いんだ」

乱は自分の体を抱きしめる。

あの時、敵によって重傷を負わされた時。

彼は誰にも言わなかったが、まるで遊ぶかのようにじわじわといたぶられた。折られると思っていたが、今にして思えばあれは折る気などなかった。ある程度……それこそ自分が人の身を保てなくなるまで力を削れれば良かったのだろう。

その思惑通り、乱は人の身を保てなくなった。あの時、竜太が来ていなければどうなっていたか。それが容易に想像できてしまうのだから恐ろしい。

次に想像したのは、もしもまた同じようになったら、だ。いくら何でもそうタイミングよくまた助けが来るとは思えない。そうなれば……と考えてゾッとする。

小刻みに震える乱の頭を、厚の手がぽん、と撫でた。

「平気だって。ここにはあいつらとの戦い方を心得ている人たちがいる。
それに、今回は不意を突かれて多少の違いはあっても全員判断が遅れたり、逆に急ぎすぎたりしていた。今度から油断しなきゃいいんだ」

「厚……」

「だろ?」

厚は歯を見せてニッと笑った。見た目の年相応なその笑顔に、乱も自然と笑顔になる、

「……そうだね!」

「お。厚に乱。ここにいたのか」

「あ、薬研。山伏さんたちの様子は?」

「重傷なのは変わりないが、治療は終わった。相当な無茶さえしなけりゃそうそう折れることもない」

「そっか、良かった」

「ところで竜太は?
包帯を取り替えてやりたいんだが、見当たらないんだ」

「え、竜太なら……」

Re: cross×world ( No.24 )
日時: 2016/01/07 02:26
名前: 柊 (ID: P/XU6MHR)

「ほ、本当に大丈夫かい?」

「ええ。自分でも無理ない程度で済ませるので」

竜太はトレーニングルームに来ていた。電はここに来る前、マリオに案内してもらう前にこのはの様子を見に行くと別れたからすぐには来ないだろう。

心配そうなマリオをよそに竜太が上着の内ポケットに隠していた一振の短刀を取り出す。これは孫バカ……もとい、心配性な祖父が刀匠の妖精たちに打たせた無銘の短刀。短刀としても世に生まれたばかりで薬研たちのような付喪神は宿っていない。(ただし若干霊力が宿っているらしい)

次に取り出したのは背に隠していた打刀。こちらも短刀同様に刀匠の妖精たちが打った無銘のものだ。

どちらにもヒビは入っていない。それにホッとして、まずは打刀をしまう。

「マリオさん、お願いします」

「……分かったよ。でもダメだと判断したらすぐに中止だ。いいね?」

「はい」

マリオは部屋の中にある小さな部屋(そこにも扉があり、そちらからも入れるようだった)に入り、そこの機械のスイッチを押した。

その瞬間に、部屋の中は紫や黒が混ざり合ったような空間になり、宙に浮いた大きな足場とその上に小さな足場が三つ、とそれだけの部屋になった。下も上も限界がないように見える。しかし不自然に黒くなっている場所がある。

「(あそこに入った瞬間、“撃墜”されたことになる、だったか)」

先ほど聞いた説明を思い出し、短刀を構えた瞬間、宙なら紫色の“何か”が降り立ち、竜太に襲いかかった。

Re: cross×world ( No.25 )
日時: 2016/01/07 09:24
名前: 柊 (ID: P/XU6MHR)

竜太はそれに焦ることなくギリギリまで引きつけ、拳が目の前まで迫ると首だけを反らせて避ける。その勢いのまま、まだ接近する“何か”を短刀で斬りつければこちらの力が強かったのか、反対の方向に吹き飛ぶ。

そのまま倒れた“何か”に追撃するために足を動かした。ケガのせいか痛みが走ったがどうということはない。

短刀を横に薙ぐ。しかし距離を見誤ったのか刃が当たることがない……はずだった。

どういうことか、追撃は成功した。短刀からわずかな距離ではあったが衝撃波のようなものが出ていた気がする。一体それは何なのか、今は分からない。

とにかく、今は目の前の“何か”を撃墜することを優先しよう、と再度短刀を構え、“何か”に突き刺す。手応えこそなかったが相当なダメージを与えたのか“何か”は吹き飛び、黒いところに入った瞬間、火柱のようなものが上がった。

「(あれで撃墜か)」

そう短く考え、竜太は次に備える。

次の“何か”が現れた瞬間−−ブゥン、という音を立てて、元の部屋に戻ってしまった。

まさか一回だけで無理だと判断されたのか、と竜太がマリオの方を見て……少し、いや、かなり後悔した。そこには、明らかに怒った様子の薬研と電がいたから。

二人が小部屋から出てくると竜太の前に早歩きで来て立ち止まった。そして、短くこう言った。

「正座」

と。

Re: cross×world ( No.26 )
日時: 2016/02/14 01:13
名前: 柊 (ID: YrPoXloI)

あれから何時間経っただろう。いや、実際には何時間どころか一時間も経っていないけど。

マリオはそう考えながら目の前ですごい勢いで竜太を叱る電と薬研を見る。二人の前で正座している竜太は冷や汗をかき、顔が青い。そうなるのも無理はないが。

「ケガが治ってもいないのに何を考えてるんだ! あんな無理をして、治りが遅くなるぞ!」

「少しは自分を省みてほしいのです!」

「す、すみませんでした……」

あの二人の説教は、勘弁願いたいな。

そんなことを思いつつ、マリオはどうやって竜太にいつ助け舟を出そうかと考え始める。この部屋に入る前の凜とした少年はどこに行った、と言いたくなるほど今の彼は縮こまっていた。

下手なタイミングで出せば火に油を注ぐだけだ。慎重にならなくては。まさか世間では一応英雄で有名な自分がこの小さな子ども二人に(一人は多分自分より年上だが)に慎重なるとは思いもしなかった。

苦笑いしそうになる顔を何とか留め、タイミングを見計らう……が、そのタイミングなんて一瞬も見えない。さてどうしたものかと頭を抱えそうになるとトレーニングルームのドアが開く。

そちらに全員の視線が向いた。そこにいたのは山伏、厚、乱、このはを抱きかかえた浦島、そしてヨッシーだ。

「あ〜、良かったいました〜」

のほほんとした声に調子が狂いそうになる。だが今はそれが救いだ。なんせ今ので電と薬研の調子も狂ったのか、少し怒りが収まったらしい。

「どうしたの?」

「はい〜クレイジーハンドが、リュウタくんたちに会いたいと〜」

「クレイジーハンドって……ここにオレたちを連れてきた人物ですよね?」

竜太がそう問えばヨッシーは相も変わらない声ではい〜と答える。

「い、いつ、どこに行けば」

「もうすぐここに来ると思います〜」

ヨッシーの言葉と同時にパチン、と指を鳴らす音が聞こえる。その直後、何もなかったはずの部屋の上に巨大な手が現れた。

Re: cross×world ( No.27 )
日時: 2016/02/14 01:15
名前: 柊 (ID: YrPoXloI)

「……え」

思わず声が漏れたのは誰だったか。そんなことを気にする間も無く、ほば全員が驚愕の声を上げた。

それにつられたのか、外にいた者がなんだなんだとトレーニングルームを覗き込む。竜太たちとほぼ同時に来た者はその手を見て言葉を無くし、逆にマリオたちのように元からいた者は「ああ、そりゃね」と言わんばかりの顔をしていた。

「て、手が浮いてる!?」

「カカカ! なかなかに不可思議であるなぁ!」

「いや、少しは動揺しましょうよ!? 山伏さん、どんと構えすぎですよ!?」

変わらぬ様子で笑う山伏にミツオがツッコミを入れる。しかしそれすら何ともないように山伏は笑った。

「……どうやって浮いているんだ?」

「いや、そこじゃねえだろ!」

薬研の疑問には厚がツッコミを入れた。

乱は電と抱き合って小刻みに震えている。

「やー!! おばけ、やーっ!!」

「わ、わ、あ、暴れないでよこのはー!」

このははと言えば泣きながら浦島の腕の中で暴れている。……思ったより、回復は早かったようだ。

「……そろそろ話していいか。進まなそうだ」

「あ、はい。どうぞ……」

竜太の返事を聞いて、クレイジーハンド、と呼ばれるらしい手は仕切り直すようにこほん、と咳払いをする。(その際、薬研が「どこに口があるんだ……?」と呟いていた)

「まず、竜太、電、薬研、厚、乱、山伏、浦島。戦いを決意してくれたこと、感謝する」

「え、何でそれを……」

「ある程度は見通せる。
他の者は迷っているようだが、じっくり考えてくれて構わない。平和な世界にいた者を無理やり戦わせるほど、非道ではない。
無論、戦わずとも放置などしないから安心しろ。この戦いが終わるまで、この屋敷にいて構わない。
とは言え、待てて三日だが……」

そのクレイジーハンドの言葉に大半がほっと息を吐いた。それならば気楽に考えよう、と。三日でも時間があるだけ充分だ。

「……では、戦わないと選んだ者はどうなりますか?」

「竜太?」

「あなたも言った通り、きっと大半が平和な世の生まれでしょう。それでいつ終わるかも分からない戦いにただ待つだけ、など精神的な苦痛を伴うでしょうね。
家族がいればまだ話は別かもしれませんが、こちらもまた大半の家族が敵の手中。……下手を打てば、精神をまともに保てなくなるのでは?」

「……そうだな。そうならないよう、戦わない者には眠っていてもらう」

Re: cross×world ( No.28 )
日時: 2016/02/14 01:22
名前: 柊 (ID: YrPoXloI)

眠っていてもらう。その言葉にざわついた。

一体どういう意味かと誰かが尋ねる前に竜太が続ける。

「眠っていてもらう、とは?」

「その言葉の通りだ。その者には戦いが終わるまで眠ってもらう。無論、終わった後は元の世界へ戻し、ここのこともあいつらのこともすべて長い長い夢だった。そう思うさ」

「……では、仮に敗北した場合は」

「……意識ないまま消えていけるんだ。まだ幸せだろう」

「き、消える!?」

まる子の驚愕した声が聞こえた。だが誰も彼女を見ない。いや、見る余裕がない。

消える。たった三文字の言葉が飲み込めなかった。

「負けてしまえばタブーは悪戯に世界を乱し飽きれば消す。飽きた玩具を捨てるようにな。
それを防ぐために最後に力を使って消す」

全員が沈黙する。

消える、なんて。

大半が体験などするはずもない事態に恐怖した。中には今にも倒れてしまうんじゃないかと思ってしまうほどに顔色が悪い者までいる。

誰もが言葉を発せずにいる中、一人の声がいやに響いた。

「カカカ! なれば、負けぬよう修行に励むとしよう!」

「や、山伏さん」

「ここで幾多とある未来の中の一つに尻込みしていても始まらぬこと。
……確かに、敵は強大であろう。しかし勝てぬ相手ではない!
なあ、クレイジーハンドとやら!」

ニッ、と山伏が歯を見せて笑う。その笑みは不安なんて一つもない、そんな笑みだった。

山伏にクレイジーハンドがああ、とはっきりと答えた。それに少しばかり、全員に希望が戻る。

しかしやはりすぐに答えは出ない。最初にクレイジーハンドが言った通り、三日後に全員答えを出すということになり、その日は解散した。
第3話-END-
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