二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: cross×world ( No.39 )
日時: 2016/05/19 19:23
名前: 柊@6-1クリア! (ID: 0O230GMv)

第5話
それは朝、食事を終えた直後のことだった。

「稽古をつけてほしい?」

「俺と竜太にか?」

竜太と薬研は自分たちよりずっと背の低いしんのすけを見ながらそう聞き返した。しんのすけはこくこくと頷いている。

確かしんのすけは最年少の中で唯一戦うことを決めた勇敢な子どもだ。それ故に己を鍛えたいというのは当然の流れとも言えるだろう。

「ま、いいんじゃないか? 竜太も一晩休んで、傷もケガも治っただろう?」

隣にいた薬研が悩む竜太の背中を軽く叩く。彼の言う通り、たった一晩休んだだけにも関わらず竜太の体には傷一つなくなっていた。

ほとんどが驚いていたが、薬研や電たちはそれを当たり前だと言うように受け入れていた。

ちらりとしんのすけを見れば曇りのない瞳と目が合う。それに押され……竜太も頷く。

「早速稽古を始めたいところだが……まずしんのすけが使えそうな武器を見繕わないとな」

「短刀なら使えるかと。自分の短刀で素振りをさせましょうか」

「それはいいが、いきなり真剣は危険だろう。竹刀があればいいんだが……」

二人が頭を悩ませ、またちらりとしんのすけを見る。が、そこにしんのすけはいない。

驚いて目を見開いた瞬間、しんのすけのデレデレとした声が聞こえた。

「ねえねえルキナちゃ〜ん、オラ、今からおけいこするんだけど一緒にやらな〜い?」

「え、ええと……今から他の用事が……でも、頑張ってくださいね」

「頑張っちゃ〜う」

「……大丈夫か、あいつ」

「……どう、でしょうか」

ルキナに頭を撫でられてデレデレなしんのすけに、薬研と竜太はつい頭を抱えた。

Re: cross×world ( No.40 )
日時: 2016/05/19 19:28
名前: 柊 (ID: 0O230GMv)

少し時間は経ち、食堂。このはによって手入れされ、すっかり回復していた浦島はそこでお茶を飲んでいた。(ちなみに、このはは大事を取って部屋で休んでいる)

「……という訳で、ぼくらどうしたらいいのか……」

「うーん……」

目の前の四人の相談に乗りながら。

一人はカリアゲヘアとあまりに低めの背が特徴的なメガネの少年、ミツオ。着ている黄緑の制服は明らかに彼の身体のサイズに合っておらず、袖なんて余りに余っている。

一人はふんわりとした茶色の髪をした、これまたメガネの少年、キョウジュ。こちらは小型カメラが取り付けられたノートパソコンを大事そうに抱えている。

一人はツンツンとんがった黒髪の少年、スネ夫。彼の顔は失礼ながら狐を連想させ、ふと鳴狐のお供を思い出してしまったが浦島は何も言わないことにした。

最後の一人は最年少のうちの一人であるマサオ。思わず撫でくりまわしたくなる坊主頭は垂れ下がっている。

ミツオとキョウジュは戦いには参戦して協力したいが、自分たちにはそれほどの力がなく、足手まといになってしまうと。スネ夫とマサオは戦いたくはないけれど眠っているのも不安だと相談してきたのだ。

四人のそれぞれの気持ちは分かる。特にミツオとキョウジュの考えはかつて浦島も考えていたことがあったもので、その時、兄の蜂須賀と主の武雄の言葉がなければ今も悩んでいたかもしれない。

「まず、ミツオくんとキョウジュくん、だったよね? それなら、強くなれるように特訓すればいいんだよ! 俺も手伝うからさ!」

「それは……そうなんですけど」

「わたし、いいえ、わたしとミツオくんはお互いにバトルが苦手なんです」

「苦手、っていうと?」

「作戦を立てたりするのはいいんですが、身体が追いつかなくて……」

「あー……」

失礼ではあるが、浦島はついなるほど、と思ってしまった。

パッと見ただけでも、二人の体には必要以上の筋肉が付いているとは思えなかったからだ。おそらくこれはスネ夫とマサオにも言えることだろう。ちらりと二人を見れば彼らも同じような体つきをしている。無論、それぞれの年齢からすれば、だが。

才能があれば即戦力として期待できそうではあったが先ほどの言葉からしておそらく才能もあるわけではないようだ。

つい、うぅん、と浦島が唸ると四人は顔を伏せた。

「……あっ! ねえ、四人とも得意なことない?」

「え、得意なこと、ですか?」

「あ、わたしは分析などが得意です」

「えー、と、いろいろあるけど一番はラジコンかな?」

「ぼ、ぼくはキョウジュくんが言った通り作戦を立てるのが得意です」

「じゃあそれを活かせばいいじゃん!」

Re: cross×world ( No.41 )
日時: 2016/05/19 19:33
名前: 柊 (ID: 0O230GMv)

キョウジュ、スネ夫、ミツオのえ? という声が重なる。この時、スネ夫はさらっと自分も戦いの頭数に入れられていることに驚いていたようだが。

マサオはまだ顔を伏せたままだ。

「キョウジュくんは敵の分析、ミツオくんはそれを元に作戦を立てて、スネ夫くんはえーと、らじこん? それっぽい武器をもらって戦えばいい!」

「……あ」

「確かに……」

「ちょ、ちょっと待ってよ! ぼくは戦うの嫌なんだよ!」

「ラジコンって、操作するだけですよね?」

「うっ」

ミツオの指摘にスネ夫は言葉を詰まらせる。そんな二人を後目に浦島はにこにこと笑っていた。

しかし相変わらず顔を伏せたままのマサオに気が付き、首を傾げる。

「どうしたの?」

「……浦島さんは、どうして戦おうと思ったの?」

「え?」

「浦島さんは戦える力がある、そう思うんだけど……なんで自分から痛い目に遭うの?
ぼくは、そんな力ないし、分かんないよ……」

「……主さんたちを、助けたいんだ」

浦島の言葉に、マサオが静かに顔を上げる。そうすればこちらをまっすぐに見つめていた浦島と目があった。

浦島は続ける。

「主さんだけじゃない。本丸のみんなや、兄ちゃんたちも捕まってるんだ」

「兄ちゃん?」

「うん。同じ虎徹で……あ、でも一番上の長曽祢兄ちゃんは贋作なんだけど、贋作とか真作とか関係なしで兄ちゃんは兄ちゃんだよ」

浦島が明るい笑顔で笑う。贋作、というのはマサオには分からなかったが、なんとなく血が繋がらない家族みたいなものなのかな、と考える。

家族。自分で導き出した単語にふと母を思い出す。

自分と顔のよく似た母。優しくて、いつも温かな料理を作ってくれて。

その母は? あの亜空軍に捕まっているだろう。

いや、捕まっているならまだいいものだ。もし、もしも……そう考えて、ゾッとした。

もしも、もう体が冷たくなっていたら? もう二度と動いてくれなかったら?

一度マイナスに向いた思考は浮き上がることなくどんどん沈んでいく。じわりと滲み出した視界はクリアになることなく歪んでいく。

「う、うええ……ママ、ママぁー!!」

とうとう、マサオは泣き出してしまった。いきなり泣き出したマサオに驚く三人を後目にわんわん泣きじゃくる。

ふいに、体が温かなものに包まれるのを感じた。見ようにも歪んだ視界は包んだものをはっきり写してはくれない。

微かに見えたのは優しい黄色だった。

「思い出しちゃったか。ごめんね、大丈夫だよ。
大丈夫、大丈夫。
きっと、マサオくんのお母さんは無事だよ」

マサオにとっては気休め程度の言葉だろう。けれどその気休め程度の言葉は温かく心にしみていき、涙をとめどなく溢れさせた。

涙も泣き声も止まらず、マサオはしばらく浦島の腕の中で泣き続けた。

Re: cross×world ( No.42 )
日時: 2016/05/19 19:38
名前: 柊 (ID: 0O230GMv)

山伏はいつもかぶっている宝冠を外し、行衣に身を包み、滝行をしていた。普段宝冠に隠された水色の短い髪は滝行によって濡れ、白い行衣も濡れてその身に刻まれた赤い模様が浮かび上がっている。

彼は精神統一のために閉じていた目を開き、ちらりと横を見てふ、と笑った。

「さて、そろそろ休憩としよう」

そう言えば横にいた少年たちは二人を除いて一目散に滝の下からザバザバ、という音を立てて出て行く。

「つめっ……てぇー!!」

いつもなら時代錯誤なリーゼントをした少年、カイトが叫ぶ。その横にいる、浅黒い肌に緑と、二筋金髪のなかなか奇抜な髪色をした少年、大河と普段は青いバンダナを頭に付けている少年、熱斗もガタガタと震えている。恰幅のいい少年、ジャイアンも同様だ。

その四人とは対照的に、黒い長髪の少年、レイやかなり重力に逆らっている髪型をした褐色肌の少年、一心は静かに滝の下から出ていた。

岸にはルイージやドラえもんがタオルを持って待機し、トオルはただ滝行を行っていたメンバーを見ているだけだ。(それでも熱斗から預かったPETを持っている。その画面からはロックマンエグゼ(以下、ロックマン)が顔を覗かせていた)

「はい、ちゃんと体を拭いてね」

「風邪ひいちゃうといけないよ」

二人にタオルを渡された順に体を拭いていく。

山伏もそれらを受け取った。

「すまぬな」

「いえいえ。あ、良かったら温かい飲み物もありますからね」

ルイージが取り出したのは水筒。チャプン、と水音がしたのでそこに飲み物が入っているのが分かる。

それに反応したのは山伏ではなく、震えていた四人。すぐにルイージに駆け寄って行った。

急に集まってきた四人にルイージは慌てながらも水筒の中身を同じく持ってきていたであろう紙コップに入れて渡していく。その姿に世話焼きな脇差の兄弟、堀川国広を思い出す。

彼も夏には外で遊んだりする短刀や、畑などの内番をする男士たちが熱中症になってはいけないと冷たい麦茶などを配っていた。それでも頑なにボロボロの布を外さない打刀の兄弟、山姥切国広はよく熱中症寸前だったが……。

それを思い出していると偶然顔を見たらしいドラえもんが首を傾げる。

Re: cross×world ( No.43 )
日時: 2016/05/19 19:43
名前: 柊 (ID: 0O230GMv)

「どうかしましたか、山伏さん?」

「ん?」

「いや、なんか笑ってた気がするから」

ドラえもんからそう聞き、山伏は笑っていたのか、と口元を抑える。しかし、無理もないかもしれない、と思い直しその手をすぐに離した。

「ぬしらの姿を見て、兄弟を思い出してな」

「兄弟? 山伏のあんちゃん、兄弟いんのか!」

カイトの声にそちらを見れば、ルイージに群がっていた四人と、今飲み物をもらっているレイ、一心にその二人に飲み物を渡しているルイージ、トオルが山伏を見ている。

山伏が頷き、山姥切国広と堀川国広のことを話し始めた。

「うむ。一人は、なかなか卑屈でな。だがとても頼りになる。拙僧も何度助けられたことか。
もう一人は世話焼きで、少しばかり度が過ぎる時もあるがそれでも優しい男だ」

「へえー……オレにも姉ちゃんがいるんだけど、怒るとスッゲエ怖いんだよなぁ」

「カイトには姉ちゃんがいるのか! オレ様には妹がいるんだぜ、可愛くて自慢の妹だ!」

「カイトは知っとるけど、ワイには兄ちゃんがおるんや! いろいろあったけど、大好きな兄ちゃんや!」

「オレにも兄さんがいたんだ!」

カイト、ジャイアン、大河、熱斗が順に口を開く。……少しばかり、熱斗は寂しそうな顔をしていたがすぐに自慢の兄さんだぜ! と笑顔になる。

その言葉に「熱斗くんってば」とロックマンが笑った。

「ぼくも兄さんがいるから、その気持ちよく分かるなぁ。兄さんはぼくの自慢だよ」

「ぼくにも妹がいるんだ。ちょっと口うるさいけど、優しい妹だよ」

ルイージとドラえもんも優しい笑顔で言う。

「オレには兄弟はいないが、それに近い人がいる。まあ、ライバルのような存在でもあるんだがな」

「拙者には兄弟に近しい人間はいないが、市場城のみなが家族のようなものだ」

レイと一心も微笑みながら言う。

「……」

「あ、トオルくんは兄弟いる?」

ドラえもんが声をかけると、トオルは黙って顔を俯けて首を横に振った。そして口を開く。

「皆さんが戦うって決めたの、兄弟を助けるためですか」

その言葉に全員がトオルを見た。

彼は続ける。

「ぼくには分からないんです。ぼくは兄弟はいないけど、ママとパパがいます。
助けたいって思うけど、ぼくが戦ったところで結果なんて分かりきってる。だって何の力もない子どもだから。
はっきり言って、ほとんどの人がそうでしょう? 本当はただの子ども。それなのに、みんなぼくと違って自分で戦って助けようって……。
分からない、ぼくと皆さんの違いってなんですか。分からないよ」

トオルはそこで言葉を切った。

確かにトオルの言う通りかもしれない。山伏やルイージはともかく、他のメンバーは皆普通の子どもだ。実際のところ、何人か自分の世界の危機を救ってはいるが戦う手段がなければ本当にただの子ども。

なのに、ここにいるメンバーは皆戦うと決めた。最初は戦うのを躊躇していたレイとジャイアンも、タカオとのび太に説得され、そして自分の大切な人たちを助けるために戦うことを決めたのだ。

自分と、戦うと決めた者たちの違いが、トオルには分からなかった。

「……トオル殿、だったか」

「はい」

「無理に分かろうとせずとも良い」

山伏の言葉にトオルは顔を上げる。意外だ、と言わんばかりに目を見開いている。

てっきり、何故そうすると決めた理由を話され、説得されると思っていたから。

「人はみな、それぞれの考え、価値観を持つ。それらを全て理解し、受け入れることはとても難しい。いや、できぬのかもしれない。
無理にしようとしなくていいのだ」

そう言って笑った山伏は乱暴にトオルの頭を撫でる。それは今までされたことのない撫で方で、トオルはただされるがままになっていた。

Re: cross×world ( No.44 )
日時: 2016/05/19 19:48
名前: 柊 (ID: 0O230GMv)

中央館から少し離れた街。人で賑わうメインストリートには様々な露店が並んでいて、そこでは色とりどりの食材や花などが売られていた。

そのメインストリートから少し外れた憩いの広場で大量の食材が入った紙袋を降ろしてリンク、ヨッシー、フォックス、厚、大地、のび太、フクタが休んでいた。

「手伝ってくれてありがとう。でも良かったのか?」

「いいっていいって! それにこんな量、リンクさんたちだけじゃ持ち切れないだろ?」

厚の言う通り、一人一つ(ヨッシーは背中に乗せて四つほど)の大きな紙袋を抱えることになる。全員で持っても十はある紙袋をリンク、ヨッシー、フォックスで持てるとは思えない。実際、以前は往復していた。

「はは、確かにな……」

「ファルコンさんがブルーファルコンを出してくれれば、多少は楽なんですよ〜」

「ファルコンって、あの青い服着て、赤いヘルメットかぶった人なんだケド?」

特徴的な語尾で話すフクタにフォックスが頷く。まあ仕方ないんだけどな、と言いながら。

「仕方ないって、何でだよ?」

大地の言葉にリンクが答える。

「ファルコンの愛機、ブルーファルコンはレース用なんだ。だから普通荷物の運搬には使わないし、スピードが出過ぎることもある。
何より、ファルコンが許さないと思うしな」

「ファルコンさんって、レーサーなんですか?」

今度はのび太が問う。それにはヨッシーが答える。

「そうなんです〜。元の世界のエフゼロレースでは優勝の常連さんなんですよ〜」

「へえ、そいつぁす……」

すごい、そう言いかけた厚は急に顔をある方向に向けた。

その向けた先にはメインストリートから離れた細めの道に向けられている。

「ど、どうしたんだよ厚?」

「……あっちから声がする」

「え?」

「ここで荷物見ててくれ!」

「あ、おい! オイラも行く!」

「ぼ、僕も!」

「ぼ、ぼくも行くんだケドー!!」

「お、おいっ」

「待てリンク、荷物!」

「フォックス、ヨッシー頼む!」

「分かりました〜」

「ヨッシー!?」

Re: cross×world ( No.45 )
日時: 2016/05/19 19:56
名前: 柊 (ID: 0O230GMv)

細くて薄暗い路地。そこを駆ける少年が一人。十歳くらいの少年は黒い短髪に白いワイシャツ、黒のサスペンダーで黒の革靴を履き、紫の本を大切そうに抱えている。黒い瞳はただ前を見ていた。

息を切らせて走る少年が角を曲がって止まってしまう。前には壁。行き止まりだ。

「待てコラァ!」

「!」

少年が後ろを向けば明らかに良い人間ではない男たちが複数で追いかけてきていた。

壁は高く、周りに踏み台になりそうな物はない。

少年は壁が背中に着くまで下がったがそうしたところで無意味。すぐに追いついた男たちが唯一の道を塞いだ。

「ちょこまか逃げやがって……! おいガキ、このスーツどうしてくれんだ?
お前のせいで汚れちまったろうが!」

「あ、あなたたちがぶつかってきたんでしょう……!?
それに、ぼくは謝りました!」

「ああ!? 謝って済むならなあ、警察いらねんだよ!
おら、クリーニング代よこせ、そしたら許してやる!」

「お、お金なんかありません!」

「なら……ちょいと痛い目見てもらおうかぁ?」

そう先頭の男が言うと、周りの男たちがニヤニヤと笑い始める。

少年がぎゅ、と本を抱きしめた。そうして口を少し動かしーー。

「おーいこっちだ! こっちでチンピラが子どもに絡んでるんだ!」

「!! ちっ……行くぞ!」

男たちは声を聞くとすぐさま去っていった。

少年がぽかんとしていると、角からひょこり、と厚や大地たちが顔を覗かせる。

「おい、大丈夫だったか?」

「え、その声、さっきの……?
あ、あと大丈夫だよ」

「そうか、良かった!」

「それにしても、何であんな嘘吐いたんだよ」

「え、あれ嘘なの?」

少年が言うと厚がああ、と返した。

「大将がよく、何でもかんでもすぐ力で解決しようとするなってな。まあ、あれで逃げなきゃ実力行使してたけど」

拳を握って笑う厚に大地も笑い、のび太たちは苦笑いしている。

少年はまたぽかんとしてから、笑った。その笑顔は少年らしさがありつつも少女のような愛らしさがある。

「ふふ、面白い人たちだね。
助けてくれてありがとう。もう大丈夫だと思うから行くね」

「え、本当に大丈夫か?」

「家まで送って行くぞ?」

厚とリンクの言葉に大丈夫だよ、と言って少年は歩き出す。

「あ、ねえ、最後にいいかな?
きみたちの名前、聞きたいな」

「俺は厚藤四郎!」

「オイラは皇大地ってんだ!」

「兼丸フクタなんだケド」

「野比のび太だよ!」

「リンクだ」

「厚に大地にフクタ、のび太、リンクさん、ね。
ぼくは、トビアス・ランドルート。友達や家族からはよく「トビー」って呼ばれてるんだ。
本当にありがとう、また会えたらその時はよろしくね!」

少年ーートビーはにこりと笑って去っていく。厚たちはトビーが見えなくなるまで手を振り、憩いの広場まで戻っていった。

Re: cross×world ( No.46 )
日時: 2016/05/19 19:58
名前: 柊 (ID: 0O230GMv)

「そこ!! 休むんじゃないしんのすけ!!」

「うへぇ〜」

「あと二十!!」

中央館、庭。そこで竜太と薬研はしんのすけを始め、タカオ、マックス、ナガレ、ボーちゃんが竹刀で素振りしていた。

指南役の竜太は一緒に素振りをしながら手厳しく指示を飛ばす。

同じ素振りをしていたカイと漁馬は早くも薬研から実戦形式の稽古を受けていた。

「ほお、なかなかやるな」

「ふん」

「ヒーローバトルでも竹刀振り回しちょる、朝飯前じゃ!」

「それでも筋が良い。これならあいつらにも勝てるんじゃないか?」

一旦薬研たちが動きを止める。ちょうど素振りも終わったのか、竜太たちも手を止めている。

「薬研さん、素振り終わりました」

「そうか、なら……」

「あれ?」

突然した声に、竜太と薬研がそちらを向く。そこには青い髪をした美青年とその青年より濃い青い髪の筋肉質の青年が立っていた。

二人の腰には剣が差されている。

「貴方たちは確か……アイクさんと、マルスさん?」

「覚えていてくれたんだね、嬉しいよ」

「訓練か?」

「ああ。アイクの旦那とマルスの旦那もか?」

「うん。この時間にここで訓練するのが日課なんだ。いつもなら、ロイやメタナイト、リンクとかもいるんだけどね」

マルスがそう言う。その言葉と周りにいないことから、今日は違うのだと分かるが。

「リンクは買い出しに駆り出されて、メタナイトは他の人と訓練、ロイは今この中央館にはいないんだ」

「? スマッシュブラザーズの皆さんが今ここにいる訳ではないのですか?」

「そうだ。この世界にほど近く、真亜空軍の反応があった場所に何人かのファイターが調査に向かっている。
それと、ここのファイターとして登録されるはずだったヤツらもどこかの世界にいる。クレイジーハンドが今探しているから、分かったらその世界に行くことになるだろうな」

ロイはその一人だ、とアイクの言葉に竜太もなるほど、と返す。

となれば、「待てて三日」というのはおそらく真亜空軍の反応があった世界から何らかの報告があったからなのだろう。なるべく早くその世界を真亜空軍の脅威から救いたいに違いない。

Re: cross×world ( No.47 )
日時: 2016/05/19 20:03
名前: 柊 (ID: 0O230GMv)

ふ、と薬研に視線を移すと薬研の視線は二人の剣に釘付けになっている。きっと同じ刃物として気になるのだろう。(余談だが、同田貫が一度夕飯の当番で厨に入った時に切れ味の良い包丁と張り合い、どういうわけか冷蔵庫を壊したことがあるらしい。無論、それ以来彼は厨に立ち入り禁止である)

その視線に気付いたのかマルスが薬研に話しかけた。

「良かったら見てみる?」

「! ああ!」

薬研の返答にマルスがくすりと笑い、その鞘から神剣ファルシオンを抜いた。日の光を受けて美しく光る。

マルスがアイクを見るとアイクも自分の剣、ラグネルを抜く。こちらも美しく光り、甲乙つけ難い。

「ほう。どっちも素晴らしいもんだな。
こんな剣と戦ってみたいもんだ」

「お前の剣でか?」

「ああ」

「……折れないか?」

そのアイクの言葉に薬研はきょとり、とする。

「ちょっと、アイク」

「はは、そりゃあまともに戦えば折れちまうだろうな」

「? どういうことだ」

「アイクの旦那、短刀にゃ短刀の戦い方ってもんがある。脇差には脇差の、太刀には太刀の、外つの国の剣には、外つの国の剣の戦い方が。
短刀がこんな立派な剣の戦い方に合わせれば簡単に折れちまうさ。
逆に言えば、短刀の戦い方に合わせたら剣は扱いづらいだろう?」

「……そうだな。あまりにも長さが違いすぎる」

「だからお互いにお互いの戦い方で戦いたいってことだ。まあ……」

瞬間。アイクの首にひやりとした感触がする。

目だけで首を見た。そこには。

『薬研藤四郎』が、薬研によって突きつけられていた。

「なっ……」

「負ける気はないが」

「薬研さん」

戒めるような竜太の声に薬研は刀を下ろし、納刀する。

金属音が響く。

「すごい……今、全く分からなかった……」

ナガレがついそんな言葉を零す。しかしそれは竜太、アイク、マルス以外の全員が考えていたこと。

あまりに早すぎたのだ。薬研が刀を抜き、アイクの首に当てるまでが。

「……薬研、だったか」

「ああ」

「さっきの言葉は撤回しよう。すまなかった」

「いいってことだ」

薬研もアイクもふ、と笑い合う。

マルスはほ、と息を吐き、ファルシオンを戻す。竜太もそれに気付き、マルスに歩み寄った。

そして話し掛けようとした時。

「何なら今から訓練を兼ねて戦ってみるか。
マルスと竜太も交えて」

「……え?」

「お、いいねぇ。言っておくが、竜太もなかなかのもんだぜ?
剣技は俺たち、刀剣男士仕込みだからな」

「ちょ、ちょっと」

いつの間にか巻き込まれた二人をよそに、薬研とアイクが盛り上がる。が、薬研と竜太はまだしんのすけたちの訓練がある。それを伝えようとするが、またも遮られた。

「おお、オラ、竜太おにいさんたちの姿を見て『さんきょう』にしたいゾー!」

「さんきょう?」

「それ、もしかして『参考』?」

「そうとも言う〜」

「そうとしか言わないネ……」

「しんのすけは面白いな!」

「けど、勉強には、なる」

「そうじゃのお! それに面白そうぜよ!」

「実際に戦っていた者だからな、学ぶことはあるだろう」

全員、止めるどころかやれ、と言わんばかりの盛り上がりだ。

さてどうしたものか、と竜太とマルスが頭を抱えた。

「……あれ、みんなどうしたの?」

そんな時、乱の声がした。玄関から出てきたであろう彼はどこか元気がない。

「乱さん、どうしたんですか? 元気がないみたいですが……」

「気にしないで。何でもないよ」

「あれ、確かキミ、さっきピーチ姫の部屋で女の子たちとお茶をしていたんじゃ……」

「……えへ、ちょっと抜け出しちゃった。このまま散歩してくるね。夕餉の時間には戻るから」

そう言い、門の方へ歩いていく。

「あ、外に出るなら近くの森には気を付けて!
あそこはマスターハンドの管轄なんだけど、今はいないから何があるか分からないから!」

「ありがとう、マルスさん。それじゃ、いってきまーす」

乱がひらひらと手を振ってまた歩き出す。竜太はその様子がどうしても気になったが、いつの間にか決まっていたタッグ戦によって追いかけることは叶わなかった。

Re: cross×world ( No.48 )
日時: 2016/05/19 20:08
名前: 柊 (ID: 0O230GMv)

門を出てしばらく歩いた乱は、はぁ、とため息を吐く。そして、視線を下に向ければ目に入るフリル付きのスカート。

「……はぁ」

また出たため息は、先ほどのお茶の時間を思い出させる。






ピーチからお茶の誘いを受けた乱はるんるん気分で彼女の部屋に向かっていた。元の世界がある程度平和だった時、同じ主に仕えていた刀剣男士が提督をしていた鎮守府の戦艦、金剛に誘われてよくお茶をしていた。

歌仙や鶯丸と共にする茶の時間も好きだったけれど、金剛たちが淹れてくれる紅茶も乱は好きでそれと共に食べるお菓子も好きだったしおしゃべりも好きだった。

あんなことがあってそれはできないかと思っていたのだが、そうでもないらしい。しかも他の異世界から来たメンバーもいると聞いて仲良くなれるかも、と楽しみになっていた。

ピーチの部屋に着き、ノックをすればどうぞ、と優しいピーチの声がする。

「お邪魔しまーす!」

「いらっしゃい、乱ちゃん。好きなところに……って言ってももう一つしか椅子空いてないの、ごめんなさい」

「いいのいいの!」

乱はまる子とメイルの間に座った。前にはゼルダやサムス、ロゼッタが。

ピーチが手ずから淹れた紅茶が目の前に置かれる。ふんわりと良い香りが乱の鼻をくすぐった。

そこからすぐに始まったお茶会は思い思いにおしゃべりを楽しみ、ピーチ手作りのお茶菓子や紅茶を堪能し、とても充実した時間だった。……あの一言があるまでは。

ふと乱が隣にいたまる子とその隣に座るたまえが話そうとしないことに気付いたのだ。

「ねえ、もも子ちゃんとたまえちゃん。一緒におしゃべりしようよ」

「……一つ、聞いていい?」

「うん? なぁに?」

「どうして、乱くんは男の子なのに女の子の格好してるの?
変だよ」

その言葉に、全員が固まった。乱も。

たまえは慌てているが内心思ってはいたのだろう。慌てても止めはしなかった。

「ちょっと、別に男の子でも似合っていればいいじゃない」

「私も、可愛いからいいと思いますぅ」

「世界での価値観の違いかもしれませんが、私もそう思いますよ」

「でもさ、乱くんの兄弟の薬研くんと厚くんはちゃんと男の子の格好なんだよ? ねえたまちゃん」

「えっ、あ……う、うん。そうだよね」

「そう言われれば、確かに……」

「私も可愛いって思う。気にしなくてもいいと思うわ」

ハナ、カナ、モナの言葉にも反論するまる子。たまえにも同意を求め、彼女はそれに賛成する。メイルも賛成するが、しずかはそれらに反論した。

そこから楽しかったお茶会は彼女たちの口論の場となってしまった。ピーチやゼルダたちはそれを窘めようとすると上手くいかない。

「……あ、あー、と。ボクのせいで、空気悪くしちゃったね。ボク、退席するからあとはみんなで仲良くお茶して!
じゃあ!」

乱はそう言って席を立ち、できるだけ早く部屋を出る。ピーチが止めてくれていたがあれ以上いても空気を悪くするだけだ。

部屋を出たあとは走ってそこを去り、玄関から外に出てあてもなく歩いている。

「……変、かぁ」

そう呟いて乱はまたスカートを見て、袖を見る。普通の乱藤四郎なら、あまり気にしないのかもしれない。

しかし、彼にはどうしても気にしてしまう原因があった。それが先ほどからぐるぐると頭の中を巡っている。

乱は、どうしよう、と呟いて橙色から黒に変わりそうな空を見上げた。
第5話-END-
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