二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: cross×world ( No.51 )
日時: 2016/05/26 08:04
名前: 柊 (ID: YrPoXloI)

第6話
昨日の騒動があって、まる子は乱に対し気まずさを感じていた。お茶会の空気を壊してしまったのもあるが、一番の理由は……。

「どう? 似合うかな?」

乱があの格好から、薬研たちのような服装に変えたのだ。フリルはなく、肩の部分は膨らんでいない。下もスカートではなく短パンになっている。(黒のオーバーニーだけはそのままだった)

髪は長いままだが、一つに纏めておりそれがしっぽのように揺れた。

とてもよく似合っている。似合っているのだが、あんなことがあった後だ。明らかにあの自分の言葉が原因だと分かり、ちょっとした言葉すら出てこない。

けれど、何も言わなくては彼は不安なままだろう。まる子はただ一回だけ頷く。すると乱はパァ、と顔を明るくし、ありがとう、と本当に嬉しそうに言った。

その後も、乱はまる子にべったりだった。彼女がたまえとともに居ても、だ。しかも、何かと彼女らの世話を焼いているようにも思える。

その乱の態度に、あのお茶会のメンバー以外は首を傾げていた。しかし、竜太や薬研と言った乱と同じ世界にいたメンバーは少しばかり顔を曇らせていた。

Re: cross×world ( No.52 )
日時: 2016/05/26 08:09
名前: 柊 (ID: YrPoXloI)

「はあ、どうしよう」

「あれ、まる子さん?」

ちょっと一人にしてほしい、と乱から離れたまる子は、庭に出ていた。

その庭の一角にある花畑で桜田ネネと電が話していたらしく、まる子の姿を見つけたネネが声をかけてきた。まる子がそちらへ視線を向けると……あの時、口論を繰り広げたハナ、カナ、モナ、しずか、それとたまえ以外で同意してくれたメイルが。

「ええ、と。どうしたの? こんなところで」

「今から、お茶会をしようと思って。もも子さんも良かったら」

電がにこり、と笑う。が、彼女とネネは昨日の出来事を知らない。このはを見ていたらしい。

あー、うー、とまる子が悩んでいる。と、ふとピーチたちがいないことに気付く。

「ぴ、ピーチさんやたまちゃんは?」

「ピーチさんたちは他の用事があって、たまえさんは今から来るはずなのです」

「そ、そっか」

ああ、せめてたまえが参加しなければ「たまえが参加しないなら」と断ることができただろう。だがその言い訳はもう使えない。

ちらりとハナたちを見れば彼女たちも気まずそうにしている。それはそうだ。昨日あれだけ口論しておいて、今日何もないように振る舞うことなんてできない。乱が何もないように振る舞っていたならまだできたかもしれないがあんな風に服装を変えてきたのだから無理に決まっている。

「……参加したら? 私、まだ話したいことあるの」

ハナの言葉にう、と何故か縮こまってしまう。トゲなんかないはずなのに、トゲがあるように感じてしまう。

電とネネが首を傾げる。

「何かあったのですか?」

「ええ、と」

「今日、乱くんが男の子の格好してたでしょ?
あれ、昨日彼女が「変だ」って言ったの」

「え? どうして変なの?」

ネネがさらに首を傾げた。しかし全員が驚いたように彼女を見る。

「だって、女の子だって男の子の格好をするでしょ? それにお芝居とかで女の人の格好をする男の人だっているじゃない。
どうして乱くんだけ変なの?」

そう言われてまる子はハッとした。が、乱のあの格好は芝居のためではない、と返そうとした時、またネネが口を開く。

「それにどんな服を着たって、その人の自由だと思うの。もちろん、似合う、似合わないはあるけど、それって人に言われるようなことかしら?」

……そこまで言われて、まる子は返そうとした言葉を失くした。

純粋な子ども故の、純粋な視線。時にそれは大人に気付かせることがある。

……きっと、あの言葉は乱を容赦なく傷つけたはずだ。謝らなければ。

まる子がそう考えた時。ヒュン、と音を立ててネネの髪が解けた。ネネがえ? と髪を触ると髪留めがなくなっている。

「あれ、あれ!?」

「い、いったいどうして」

メイルの戸惑った声にくくく、と笑い声がして全員が見るとそこには紫の猿がいた。猿の手のようなしっぽには、ネネの髪留めが握られている。

「あー!! ネネの!!」

ネネが叫ぶと猿はすぐさま逃げていく。全員で猿を追いかけるが猿がすばしっこく、捕まらない。とうとう門を出てすぐの森に入っていき、まる子たちもそこへ入って行ってしまった……。

Re: cross×world ( No.53 )
日時: 2016/05/26 08:14
名前: 柊 (ID: YrPoXloI)

少しして。乱は結局、いつもの格好をして庭を歩いていた。

「……」

落ち着きはするけれど、気分は沈んだまま。少し気分を切り替えよう、と目を瞑る。

ーー変なのよ、あんた!!

「っ!」

それは、ここにはいないはずの女の声。“自分”に向けられなかったけれど、“自分”に向けられた言葉。それを思い出して、やはり着替えてこようと振り返り……息が止まる。

そこには、たまえがいたから。

「……っあ」

「み、乱くん」

「あ、え、と、ごめ、すぐ」

「あ、い、いいの! それより、昨日は」

「あれ、乱にたまえ?」

声に振り返ればそこには厚が。厚はいつものズボンに、黒のタンクトップを着ていた。汗が流れていて、何かしらトレーニングでもしていたのだろう。タンクトップは借りたに違いない。

「どうしたんだよ、こんなところで」

「ぼ、ボクは散歩」

「私は今からお茶会なんだけど、電ちゃんたちが見つからなくて……」

どこに行ったんだろう、とたまえが辺りをキョロキョロ見渡す。

「今日は外だったのか?」

「うん。あそこで花がたくさん咲いてるでしょ? あそこの中にテーブルがあるらしいからそこでお茶しようって」

「? あの隅でか?」

厚が見た先には花畑がある。薔薇や可愛らしいポピーなど、色とりどりの花が咲き誇り、遠目から見ても素晴らしい。

よく見ると奥の方に白く小さなテーブルが二つある。何人でかは分からないが少人数のお茶会にはもってこいの場所だろう。

「うん、あそこで」

「そうなのか……。でもあいつら、なんか紫の猿追っかけて外の森に入って行ったぞ?」

「……え? あ、厚、今なんて」

聞き間違いであってほしい。その乱の願いはあっけなく壊された。

「いや、門を出てすぐの森があるだろ? そこに入って……」

「……! な、なんで止めないの、厚のバカ!!」

乱がそう叫び、走っていく。背後からバカってなんだバカって! と厚が叫んでいたが気にしていられない。

ーー何があるか分からないから!

そのマルスの言葉だけが、乱の脳内で響き渡る。とにかく今はまる子たちを助けに行くため、乱は走った。

Re: cross×world ( No.54 )
日時: 2016/05/26 08:33
名前: 柊 (ID: YrPoXloI)

いくらなんでもおかしい乱の様子に厚は嫌な予感がし、たまたま近くを通りかかったファルコにそれを報告して、ファルコは慌てていた。その反応に嫌な予感が的中したか、と思わず舌打ちしそうになる。

「あそこはマスターハンドの管轄なんだが、今はいねえ。そうなると何が起こるか分からねえんだ!」

「え、で、でも、大丈夫ですよね!? だって」

「いや、一番考えられるのは敵がそこを占拠していることだ。もしそこで敵と遭遇していたら……」

「オレは全員に伝えてくる!
間違っても先に行こうとなんてするなよ!」

ファルコが走り去る。姿が見えなくなるまで見つめた厚はふとたまえを見た。

たまえは震えていた。メガネ越しに見える目には涙が溜まっている。

厚はしまった、と思った。いくら予想ができても言うべきではなかった、と。

ぽん、とたまえの頭に手を乗せて彼女の頭を撫でる。

「え」

「大丈夫だ。乱が追いかけたんだ。あいつはそんな簡単にやられるやつじゃない」

そう言ってから厚は門の方を見やった。乱は格好こそ少女でもれっきとした刀剣男士。さらに言うなら、練度もかなり上がっている。

……とは言え、彼は真亜空軍に対し恐れを抱いていた。恐怖心は余計に体力を削る。早めに見つけてやり、共に戦う方がいいだろう。

厚は眉間に皺を寄せながら、ファルコが戻ってくるのを待つしかなかった。

「あ、の。一つ、いい?」

「ん?」

厚がたまえを見ると、たまえは顔を伏せたまま、昨日のことを話し出す。すべて話し終えると、厚は怒ることもなくやっぱりか、と呟いた。

「やっぱり?」

「ああ。服装こそ変えなかったけど、同じようなことがあってな」

「そうなの?」

たまえが問うと厚が頷く。

「俺たちを率いる大将たち……審神者って言うんだけど、演練っていうもので乱がたまたま異性装が嫌いな審神者を見つけたんだよ。
その審神者が、乱がいることにも気付かないでそこの乱や次郎さんに「変だ」、「おかしい」、とか言ってたらしくて……その日から妙に大将の世話を焼くようになった。とは言え、大将はそこまで世話焼かれる人でもないし、すぐに気が付いたんだけどな」

「じゃあ……」

「……思い出したんだろうな、その時のこと」

たまえはまた黙り込む。頭の中では何てことを言ってしまったんだろう、と後悔ばかりが押し寄せる。

まさか、これほどまでに重大なことだったとは。

また微かに震えたたまえに気が付いたのか、厚は大丈夫、と言う。

「さっきも言っただろ。乱はそう簡単にやられやしない。
……ちょっと傷付けられたくらいで見捨てるほど、白状でもない」

そう厚が言えばたまえが彼を見上げる。

そして今度は森の方を見た。二人はファルコが戻るまで、そこを動かなかった。
第6話-END-
今回は少し短め。
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