二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: cross×world ( No.61 )
日時: 2016/06/27 19:16
名前: 柊 (ID: ak9ikTR3)

第8話
とある世界、とある港。ザザァ、と鳴く海はとても穏やかに太陽の光を反射していた。

ああ、なんと素晴らしい景色だろう。普通ならそう思えた。そう、普通なら。

「……ぶち壊しですね」

「あはは……」

竜太の呟きに、マリオが苦笑いしている。そんな彼らの視線の先には……明らかに幽霊船としか思えない船が一隻。港にいる者もそれに慣れてはいてもそこまで近づきたくはないようで、さりげなく離れている。

竜太の後ろには、顔を青くしてガタガタ震える電やこのは、漁馬が。他にも一心と乱、山伏がいるが一心と乱は顔を青くしながらその船から目をそらし、山伏はポカンとしてしまっていた。唯一、目を糸にしたゲッコウガだけは無反応だったが。

それも無理もない反応だ。何故なら。

「よお久しぶりだな!」

船には、どこからどう見ても幽霊である生き物?の巨大な骨がいるのだから。

さて、少し時間を遡ろう。さりげなく乱が未だに決めあぐねていたメンバー全員を後方支援として残しておくことが決まった後日。

上記のメンバーがクレイジーハンドに呼び出されたのだ。

真亜空軍の存在が確認された世界から連絡があり、その世界へ行くことになったためだ。その世界、というのがマリオが住んでいた世界だった。

そこの真亜空軍はトロピコアイランド、という島にほど近い(と言っても双眼鏡などを使っても見えはしないほどの距離がある)島にいるらしく、マリオの知り合いにトロピコアイランドまで乗せてくれるという人物がいる、ということでここ、ゴロツキタウンの港に来ていたのだ。

「久しぶりだね、コルテス。早速なんだけど相談があるんだ」

「おう、あんたの頼みなら聞いてやる。で、後ろのは?」

骨ーーコルテスがそう言って視線を移すと電が短く悲鳴を上げ、漁馬は固まり、このはは泣き出した。

「やー!! おばけー!!」

「こら、このは」

こら、と言いながらも優しい声でこのはを抱き上げる竜太。このはからコルテスが見えないようにして背中を優しく叩き、宥める。

その間にもコルテスに対し、すみません、と頭を下げた。

「まあ今はこんなナリだしな。仕方ねえ」

「あはは……」

マリオはまた苦笑いしてから竜太たちの紹介をし始める。その最中にピリリ、と何かが鳴った。

竜太がこのはを下ろし、ポケットから小型の機械を取り出し、それに付いているボタンを押す。このははコルテスがまだ怖いのか近くにいた乱の足に抱きついた。

「こちら陣ノ内。どうかしたか?」

『こちら風間です。クレイジーさんから到着したかを確認するようにと』

「ああ。マリオさんの世界には到着したが、トロピコアイランドとやらにまではまだだ。
まあそれくらいはクレイジーさんも把握しているだろうが……」

『はい、了解です。トロピコアイランドの方に到着次第、連絡をお願いします。
ぼくらは引き続き、こちらで支援します』

「よろしく頼む」

『はい。せっかく乱さんがクレイジーさんを説得してくれましたから』

トオルの最後の言葉に微笑んでいると通信は切れた。ポケットに機械、もとい通信機をしまう。

「あっちは順調そう?」

「ええ。乱さんがせっかくクレイジーさんを説得してくれたのだから、と張り切ってます」

「……説得、うん、まあ、間違ってはないけど……」

乱がつい遠い目をする。確かにクレイジーハンドを説得したのは彼だ。説得、というよりは後方支援の大切さを説いてみただけなのだが。

しかし乱曰く「あの人ボクらより上位の神様なんだよね?」とつい疑問に思ってしまうほどすんなり説得できたのだそうだ。

Re: cross×world ( No.62 )
日時: 2016/06/27 19:21
名前: 柊 (ID: ak9ikTR3)

「クレイジーは神様の中でも、素直だからね」

コルテスとの話を終えたのか、マリオが話に加わった。

「どうもマスターがクレイジーを生み出したはいいけど過保護すぎだったみたいでね。数いる神様の中でもとても素直なんだ。
でも今はマスターがいないから、少しでも神様らしく振る舞おうとしているみたいだけど……」

「そうだったんですか……」

竜太はふと、あることを思い出した。それは彼にとって忌まわしい記憶で……つい眉間にしわを寄せてしまっていた。

爪が手のひらに食い込む。しかしそれは竜太の手を優しく包んだ手によって解かれる。

「竜太」

優しい電の声がして、そちらを見た。彼女はまっすぐに竜太を見ている。

「……大丈夫。ここには、貴方に『ひどいこと』を言う人なんていないのです。
言われて嫌なことを言う人なんていないのです。
だから、ね?」

「……ああ。すまない。それから、ありがとう」

竜太が笑えば、電が少しだけ頬に赤みを帯びた微笑みを返してくれた。

「……えっと、いい雰囲気のところ悪いんだけどいいかな?」

マリオにそう言われて、二人はハッとし、顔を赤くしながら慌てて手を離し、竜太が咳払いをして話を促す。

それを見てマリオは「まあもう少しいちゃいちゃしててもいいよ?」とからかった。と、ほぼ同時に二人の顔が先ほどより赤くなる。

「い、いや、ちがっ!! い、電とはまだそんな……!!」

「そ、そうなのです! ま、まだそんな関係じゃなくて……!!」

「まだ? これからなるのかい?」

「〜〜っ!! あ、こ、コルテスさんとの交渉はどうでしたか!!」

「ありゃ、かわされちゃった。
いいって。今からトロピコアイランドに向かって、そこで調査していたリュカと合流してから向かうよ。
その島までコルテスが船で送ってくれるから、手段も問題ない。唯一問題とするなら、コルテスの船……あ、ブラックスカル号っていうんだけど、それだとかなり目立ってしまうんだよね」

それはどうにかならないから、仕方ないけど。そう言ってマリオは笑った。

「もし、護衛が必要そうな時は言ってほしいのです。私がやります!」

「え? でも、大丈夫かい? 一人なのに……」

「う……が、頑張るのですっ」

少し小声だったが、電の言葉にありがとう、とマリオは言う。そこでコルテスから早くしろ、と声がかかり、船に乗るためそちらを見ると……まだ乱がまだ乗っていない。

足元を見ればこのはががっしりとしがみついている。

「やー!! おばけやー!!」

「はぁ……」

竜太がため息を吐き、乱に歩み寄ってこのはを抱き上げる。そのままこのはを抱いたまま、竜太は船に向かう。

「おばけぇえ! やぁああ!!」

「兄ちゃんがこうしてやるから」

「うー、やー、やぁあ……」

「まったく……お前なら別に幽霊怖がる必要ないんだがな……」

「こあいー……」

「はぁ……」

竜太は普通に、このはは竜太に抱かれたまま目をキツく瞑って船に乗り込む。二人の後に恐る恐る電と乱が船に乗り、全員が乗り込んだことを確認すると船は港を離れた。

Re: cross×world ( No.63 )
日時: 2016/06/27 19:26
名前: 柊 (ID: ak9ikTR3)

波の音、カモメたちの鳴き声だけ。そんな海上で、竜太は船に乗り合わせたトロピコアイランド行きの乗客たちを見ていた。このははそんな竜太の腕の中で泣き疲れたらしく眠っている。

見事に全員男。中にはいかにも引きこもっていたであろう肌の白い男までいた。その男はついさっき船酔いしたとのことで船内にこもったが。

トロピコアイランドには様々な食材があるという。さらには財宝伝説があったともされていた。(乗客は知らないようだが、その財宝伝説の船がまさにこのブラックスカル号なのだが)ロマンや食材を求めているならまだ分からなくもない。

が、何か違う。彼らの話を遠巻きに聞いていた限りではあるが、ほぼ必ず“ゆうちゃん”という名前が登場するのだ。

「……いったいなんだって言うんだ」

「竜太」

「ああ、漁馬か。どうした?」

「ちっくとばかし空気を吸いにの。
それに、役には立たんと思うがこの乗客たちの目的が分かったき、伝えに来たぜよ」

「目的?」

竜太がそう単語だけ鸚鵡返しをして首を傾げると漁馬がそうじゃ、と頷いた。

「どうも、この船の船長であるコルテスの知り合いのマルコっちゅーんが今トロピコアイランドにおると」

「……」

マルコ、と聞いて思い浮かんだのは今中央館で与えられた資料のまとめに悪戦苦闘しているであろうまる子が浮かぶ。多分、ゼルダたちが手伝っているので大きな失敗はないと思うが。

それに気付いたのか漁馬は言いたいことは分かる、と言わんばかりの顔をする。

「でもそっちのまる子じゃのうて、なんちゅーか……マルコ・ポーロみたいな……」

「冒険家か?」

「そうそう! マリオ殿とも知り合いだとか。
そのマルコが、トロピコアイランドで宿屋の商売をしちょるらしい。飲食店も含めての。
そこの看板娘が“ゆう”で、その“ゆう”目当てに遠いトロピコアイランドに客が殺到、毎日大繁盛と」

「……本当に役には立たないな。だがこれでようやくスッとしたよ」

つまりこの乗客たちはその“ゆう”という娘目当てなのだろう。

きっと多くがトロピコアイランドに着くのを待ち切れない気持ちに違いない。

「しかし、これほどの男たちを夢中にさせるとは……相当可愛らしい子なのか、ゆうとやらは」

「ん? 竜太殿には電が」

「だからあいつとはそういう関係じゃない!!」

軽くからかわれただけだと言うのに顔が真っ赤になっている。そんな竜太に対し、漁馬は大笑いするだけだった。

Re: cross×world ( No.64 )
日時: 2016/06/27 19:31
名前: 柊 (ID: ak9ikTR3)

……カモメの声も消え、波の音しか聞こえなくなった夜。空は黒くとも月と星が白く輝き、柔らかな光が降り注ぐ。

誰もがマルコが(勝手に)増設した客室で深い眠りについている。起きているのは船長にして睡眠があまりいらないコルテスとその部下くらいのはずだ。

「……ん? なんだ? 妙に騒がしいような……」

コルテスがそう言い、振り返れば生前でも今でも手下である青い炎“エルモス”が浮いている。

「おめえ、外見てこい」

コルテスが短く伝えるとエルモスは頷いて消えた。外を見てくるだけなら一分とかからない。

その予想通りエルモスがすぐに戻ってきた。エルモスは見て分かるほどに慌てている。

外の様子を伝えるとコルテスがなんだと、と声を低くする。

「分かった、俺が出る。人の船を奪おうなんざナメた真似しやがって……!!」








「……ん……」

マリオはふと目を覚ました。どうも、外が騒がしい。目を擦り、いつもの帽子を手探りで探す。

目当ての物を見つけて被り、同室の山伏がまだ静かに眠っているのを見てから廊下に出る。外に繋がる階段まで歩いていく中、外は騒がしいのに中は嫌に静かだ。

それに嫌な予感がし、早足で階段に着くと外が妙に明るいことに気が付く。おかしい、外はまだ夜だし、デッキだけが明るいとはいったいどういうことなのか。

階段を駆け上り、ドアを開ければ……そこには赤い炎の化け物、バブルが乗客を襲っていた。

「なっ!? ば、バブル!?」

「っ、マリオさん!?」

「竜太!!」

見た先にいた竜太は数人の乗客と怯えて泣き続けるこのはを背に庇いながら、何とか残り少ない水でバブルを退けていた。しかし水に怯えて退くだけで数は減らない。

「こ、これはいったい!?」

「分かりません、オレも起きた時にはもう……っ!!」

「にぃに!!」

マリオに気を取られていた時に、竜太の左腕がバブルの攻撃で燃えてしまう。すぐに竜太が水をかけるが、火傷はしてしまっているだろう。

竜太に攻撃をしたバブルはまるで楽しいと言わんばかりに目を歪める。

バブルを竜太は忌々しげに睨みつけた。

「ゲッコウガは!? ゲッコウガなら起きないはずはないよ!」

「ゲッコウガは戦ってくれてはいるんですが、倒しても増えていてキリがないんです!」

その言葉の後すぐに、ゲッコウガの姿を見つける。ゲッコウガは“みずしゅりけん”などでバブルを倒しているがだいぶ長いこと戦っていたのか息が切れているようだ。

ゲッコウガの側では船長のコルテスが竜太よりも多くの乗客を庇いながら戦っていた。幽霊だから少なからず自分を省みない戦いをできる彼だが、キリもない相手に苛立ちを隠しきれないでいる。

加勢しようにも、バブルは炎そのもの。武器がなければまずこちらがダメージを受ける。昔の冒険でバブルと対峙したが、その時は武器はもちろん、不思議な力を発揮する“バッジ”があった。

今はそのバッジもない。せめてかつての仲間であるバレルらがいればまた話も変わってくるのだがその仲間もいない。

このまま指を咥えて見ているしかないのか、マリオは悔しそうに拳を握る。

「はぁあっ!!」

「でりゃあ!!」

突然響いた叫び声。それと同時に現れる、水の衝撃波。

何が起こったのか理解できないマリオの前に、二つの人影が降り立った。

一人は青い侍のような誰か。手には巨大な包丁にも見える青い刀を持っている。

もう一人は武士のようだ。顔は剣道の面貌のようでありながら目しか見えない。手にはどこかサイバーチックな竹刀が握られている。

「大丈夫か、マリオ殿、竜太殿!」

「すまんの、ちっくとばかし遅れたぜよ!」

「その声……一心と漁馬かい!?」

「ああ! あとはこの『ウオザムライ』と」

「『カツオノブシ』に任せちょけ!」

Re: cross×world ( No.65 )
日時: 2016/06/27 19:36
名前: 柊 (ID: ak9ikTR3)

一心と漁馬の加勢により、戦況は一気にひっくり返った。二人の攻撃はどうやら水のようで、一撃で多くのバブルを倒していく。

かと言って竜太たちを狙わない敵はない。先ほどよりは少なくなったが、それでもまだ多いほどだ。

「う、うぅ〜……」

目を真っ赤に腫らしたこのはは鼻を鳴らしながら潤んだ目で竜太の足にしがみついている。こんな時でも布は外れていない。このはが不安から竜太を呼ぼうとした時。

目の前にバブルが現れた。

「……!!!! や……」

「このはっ!」

「やぁああ!! こないでーっ!!」

涙とともに放たれた言葉。瞬間、バブルは一気に船の外まで弾き飛ばされた。

「……え?」

「うわぁああああん!! こあいよぉ!! やぁあ!! こないでー!!」

このはの言葉とともにどんどん船上にいたはずのバブルが弾き飛ばされていく。しかもその先でバブルは消えている。

あまりに現実的ではなさすぎる光景にマリオも戦っていたメンバーも乗客も目を丸くしてこのはを見ていた。当の本人はわあわあ泣きながら竜太の足にがっしりしがみついたままだが。

「……え? これ、どうなって……?」

「……その。あの時、刀剣男士さま方を顕現したのはこのは。それは覚えていますよね?」

「あ、ああ、うん。覚えてるよ」

おそらくは薬研たちを顕現した時のことを言っているのだろう。あれはマリオが生きてきた中でも驚くべきことだ。忘れる方が難しいくらいに。

しかしあれが何の関係が? マリオが首を傾げると竜太はそのまま続ける。

「刀剣男士さまを顕現するにはまず霊力が必要なんですよ。で、このははじい様の霊力に似ている霊力で、膨大な量を持っています」

「う、うん? それが何の関係……」

「……今の、こいつの“言霊”ですよ。幼いからコントロールがまだ下手で、感情が爆発すると霊力も爆発的に放出されるんです。
で、今『来ないで』という言霊……まあ命令と言ってもいいかもしれません。対象であるバブルのみがそれに従わざるを得なくなり、やつらも無意識のうちに従い、何故かは分かりませんが消えたんでしょう。
こうなるから別に幽霊に怯える必要ないのに」

「え、えー……」

「わぁあああああん!!」

まだ泣きじゃくるこのはの涙で、竜太のズボンの裾が濡れている。それに気付いていながら竜太はため息を吐くにとどめた。

次第に船上を照らすのが月の光だけになり、薄暗くなっていく。騒ぎが治まればまだ多少の差はあれど乗客たちも落ち着き、船内へと戻っていった。

唯一コルテスだけがこのはを見ていたが竜太が大丈夫です、と声をかけるとその場から消えた。

「ははは……まさかこんな解決のし方があるとはね……」

マリオがつい苦笑いすると、いつの間にかあの変身? を解いて同じように苦笑いする漁馬と一心の姿が。

彼らもまた船内に戻っていく。

「……やはりあの程度ではダメだったか」

上空で、黒い羽を広げて飛んでいる一人の青年の姿に気付かぬまま。青年は背後に現れた裂け目に迷うことなく入る。

そのまま誰にも気付かれることなく、裂け目は月夜に消えていった。

月は、船と、その周りに浮かぶ無数の黒い羽を照らしていた。

Re: cross×world ( No.66 )
日時: 2016/06/27 19:41
名前: 柊 (ID: ak9ikTR3)

「よおし、起きろ野郎共! トロピコアイランドに到着だ!」

そんなコルテスの声が、トロピコアイランドの到着と朝を告げる。我先にと乗客たちは船を降りていく。

竜太たちは乗客たちとは違ってゆったりと降りた。彼らに特に急ぐ理由はない。この島にだって調査で来ていたリュカと合流するために寄ったも同然なのだから。

「さて、リュカは……」

「あっ、マリオさん!」

幼く高い声がして、その声の持ち主が前方から走り寄ってきた。金髪で赤と黄色のシャツを着た少年。彼こそがこの島で調査していたリュカだ。

「リュカ、お疲れ様。それに久しぶりだね」

「はい! そちらの方々は事前にクレイジーハンドさんから伺った竜太さん、電さん、このはくん、一心さん、漁馬さん、乱さん、山伏さんですね?」

「初めまして、陣ノ内竜太です」

「じんのうちこのは!」

「電なのです!」

「海鳴一心と申す!」

「維新漁馬ぜよ」

「乱藤四郎だよ。よろしくね、リュカさん!」

「山伏国広と申す。よろしく頼む」

「はい、よろしくお願いします!
では皆さん、到着早々ですが早速行きましょう。亜空軍のアジト内はまだ掴めていませんが、集められるだけ集めた情報を行きながらでも……あ」

「どうかしたかい?」

「ごめんなさい、宿に忘れ物してきちゃったみたいで……取りに行きますね」

リュカがもう一度宿の方へ行こうとする。が、それを電が声をかけて止めた。

「あっ、あの! 私も行っていいですか?
少し、確かめたいことがあって……」

「え? いいですけど……」

電の“確かめたいこと”に首を傾げながらもリュカは頷く。

二人が宿の方へ歩いていく背中をしばらく見ていたが、先に船に乗って待っていようと思考を切り替え、全員が船の方を振り向いた。が、コルテスとエルモスがどこか気まずそうな顔をしている。

「どうしたの?」

「あー、ワリィ。どうやらあの襲撃でブラックスカル号がところどころやられちまってるらしい。すぐに修理はするが、明日までかかっちまうようなんだ……」

全員が思い出したのはあのバブルたちの襲撃。確かにバブルたちはたくさんいて、その上倒しても倒しても増殖していた。それで船に何の損傷もないはずがない。

かと言って竜太たちには亜空軍がアジトにしているであろう島に行く手段はない。(電を除けばだが)

「仕方ないね。今日はリュカのいた宿に泊まろうか」

マリオの言葉にまた全員頷き、リュカたちが向かった先へ向かう。その途中、漁馬があ、と声をあげた。

「襲撃と言えば、あの時のこのはは凄かったぜよ」

「うむ、まさか泣き声だけで敵を退かせるとは」

「もしかして、竜太も言葉一つでできたりして?」

マリオが冗談っぽく言う。しかしそれに乱と山伏が焦ったように竜太を見た。気付く者は、いなかったが。

「無理ですよ」

「え?」

「俺は、出来損ないなんで」

出来損ない。そう口にする竜太はどこか悲しそうだった。

まずいことを言ったか。すぐに気付いたマリオがまた口を開こうとして、宿の方で何か騒ぎがあることに気付く。

早足で駆け寄ると、そこには涙を流す電と、金髪の少女。少女の髪はまるで獣の耳のように跳ねている。その少女は電を見ておろおろしてしまっていた。

「い、電ちゃん、大丈……」

「夕立……?」

「え、し、知り合いなのかい?」

「はい、夕立は電と同じ艦娘です」

同じ艦娘、ということは電は彼女に再会できて、感極まって泣いてしまったのか。そう思っていた。

「元気そうだな、夕立」

「無事だったんだね!」

「無事で何より」

「ゆうねぇね!」

「え、えっ、と……」

竜太、乱、山伏、このはが少女ーー夕立に声をかけていく。しかし夕立の反応はあまり良くはない。

その理由は、すぐに分かった。

「ごめんなさい……貴方たち、誰……?」

夕立の、残酷な言葉によって。
第8話-END-
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