二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: cross×world ( No.72 )
- 日時: 2016/07/20 23:12
- 名前: 柊 (ID: YnzV67hS)
第10話
「来た……? 何が来たんだい、ゆうちゃん」
「マルコさん……えと、私もよく分からない。けど、この島に何か悪いものが来てる、そんな気がするの……」
「何か、悪いもの?」
竜太の言葉に夕立が頷く。
ーーこんなことが、以前にもあった。あれは確か……。
竜太がおぼろげな記憶を引き出そうとした時。外から、轟音が響いてきた。
轟音に三人が驚いて外に飛び出す。
「なっ!?」
「ななな、何、あれは!?」
マルコの声に竜太は答えることができない。遠くにいるが、あの黒い体は間違いなく倒すべき敵、深海棲艦。
ほとんどが駆逐艦ではあるが、数が多すぎる。数多くの深海棲艦は何かに狙いを定めているのか、こちらに攻撃を仕掛けるようなことはなかった。
深海棲艦は、船を食らって生きる。だがまだ修理途中であろうブラックスカル号がわざわざ出向くとは思えない。となると、奴らが狙う“何か”は簡単に分かった。
「あ、あれ……? 電ちゃん!?」
今この島で唯一戦える艦娘、電。彼女以外あり得なかった。
電は小柄な体で次々襲い来る砲弾をかわし、身に付けた主砲などで確実に砲撃を当てている。
「電殿!?」
「い、いったい何じゃあいつらは!」
一心と漁馬の声に振り向くと、そこには二人以外にも山伏と乱、ゲッコウガ、マリオ、リュカにこのはもいた。
このはは深海棲艦の存在を見るや否や眉間にしわを寄せている。
「深海棲艦だ」
「深海棲艦……」
「戦っているのは電ちゃん一人!? 早く助けに……っ」
助けに行こう、そう言いかけてマリオは口を閉ざした。
電も深海棲艦も、海の上で戦っている。電だって艤装があるから浮いていられるだけで、マリオたちには海の上を行く術はない。
「ぼ、ぼくがPKフリーズで海を凍らせます!
その上を行って……」
「いや、ダメだ。それは時間がかかりすぎる……!!」
「ならどうすれば……!」
「リュカ、あそこに攻撃を届けられる?」
「遠すぎて難しいかと……。仮に届いても、コントロールできるかどうか……」
リュカが申し訳なさそうに言う。だが仕方のないことだ。もしこれで放って電に当たってしまえば電が危ない。
しかし、そうだとしてもあのまま電を一人で戦わせていいはずがない。どうにかあそこまで攻撃を届けられないか、マリオが必死にで考える。
どこか高いところから何かを投げる? いや、それこそ電に当たってしまうかもしれない。リュカの言った通り、海を凍らせてそこを走る? それも時間がかかる上に滑りやすい、得策とはあまり言えないだろう。
「どうすればいいんだ……!」
- Re: cross×world ( No.73 )
- 日時: 2016/07/20 23:17
- 名前: 柊 (ID: YnzV67hS)
「……」
夕立はただ海の上の戦いを見つめていた。あれを見た瞬間、夕立の体が奮いたつような感覚に襲われたのだ。
ーーあれが、艦娘の戦い。
まるでパズルのように、一つ一つの記憶のピースが集まっていく。
ーー『夕立、大丈夫かい?』
優しい声。その声の持ち主であろう黒髪の少女は微笑みながら聞いてくる。黒髪の少女は自分と同じように髪が跳ねていて、同じようなセーラー服を着ていた。
ーー『よぉーし、いっちばーん!』
元気な声。その声の持ち主であろう茶髪のショートの少女は笑顔で駆けていく。彼女の前には誰もおらず、確かに一番だ。彼女も、夕立と同じようなセーラー服を着ていた。
ーー『もう、 姉さんってばー』
明るい声。その声の持ち主であろう、白いツインテールの少女はクスクスと笑っていた。よく聞き取れなかったが、先ほどの少女が姉のようだ。彼女もまた、同じようなセーラー服を着ていた。
ーー『ま、待ってくださーい!』
幼めの声。その声の持ち主であろう、ピンクのサイドテール(よく見ると毛先は水色になっていた)の少女は慌てたように彼女らを追いかける。そして彼女もまた例外なく、同じようなセーラー服を。
彼女ら以外にも様々な少女や女性が浮かんでくる。それでも思い出せない。
「っ、思い、出さなきゃ……!」
思い出したい、ではない。思い出さなくてはいけない。そんな思いが夕立を焦らせていく。
「思い出さなきゃ、あの子……!」
思い出さなくては、どうなる?
「思い出して、あたしっ!」
刹那。
夕立の頭に、鋭い痛みが走った。
- Re: cross×world ( No.74 )
- 日時: 2016/07/20 23:22
- 名前: 柊 (ID: YnzV67hS)
「あぐっ!?」
「!? 夕立!?」
「ゆ、ゆうちゃん、どうしたんだい!?」
「う、ううう!」
必死に叫んでいるだろう竜太とマルコの声も、うすらぼんやりとしか聞こえない。それほどまでに、痛みがひどい。
どうして邪魔するの!? そう痛みに叫びそうになる。
ーー思い出したいの?
「……え?」
痛みの中、聞こえたのは自分の声。だけどいつとの声とは全く違う、冷え切った声だった。
ーー思い出しちゃダメ。怖い思いを思い出したいの? 苦しいのに? 思い出したくないから、封じたのに?
「どう、いう……」
ーーいいじゃない、別に。あの子がどんなことになろうと、どうにも……
「違、う……!
ダメ、なの、あの子、見捨てちゃ……!
あの子は、あの子は……!」
思い出そうとすればするほど、痛みが激しくなっていく。この痛みは、思い出すことを拒み、邪魔しているようだ。
きっと諦めればこの痛みも消える。けれど夕立はそれをするつもりはなかった。
「思い出して、思い出してあたしっ……!」
ーーダメ
「思い出さないといけないの……!」
ーーダメっ
「思い出さないと」
ーーダメっ!!
「電が、沈んじゃう!!」
- Re: cross×world ( No.75 )
- 日時: 2016/07/20 23:27
- 名前: 柊 (ID: YnzV67hS)
パキン、と何かが壊れた音がする。それと同時に夕立の頭に記憶が蘇っていく。
「ねえ、本当にいいの?」
「うん、行って、夕立」
「ごめんね、夕立にこんな……」
「大丈夫、大丈夫なんだけど……」
「大丈夫。私たちは何とかやり過ごすから」
「行ってください、夕立姉さん」
暗い暗い、海と建物の境。そこで夕立は艤装を付けて、海に出ることを渋っていた。
建物には、姉妹艦である艦娘の白露、時雨、村雨、春雨が。彼女らは艤装を付けておらず、夕立に優しい微笑みを向けている。
真亜空軍に捕らわれた彼女らは、何とか脱走を図った。しかしその途中で後期型であり同じ白露型駆逐艦娘の五月雨たちが捕まってしまい、五月雨たちが心配だと、夕立以外は残ることにしたのだ。
そして唯一脱走できる夕立が頼まれたのは、助けを呼ぶこと。ここの周辺に一つ島があるらしく、そこへ逃げて助けを呼んでほしいと頼まれたのである。
それは別に構わなかった。けれど、姉妹たちを残していくのがひどく不安で寂しくて……夕立は海に出れずにいた。
そんな夕立を、優しく白露が抱きしめる。
「大丈夫。夕立なら大丈夫。私たち、信じてるから」
「白露……」
「行って、夕立」
中から声が聞こえてきた。もう悩む時間すらない。
ゆっくりと離れていく、白露の温もり。滲んだ視界で四人を見つめて、夕立は海へと繰り出す。
「待ってて、絶対に助けに来るから……!」
夕立がそう呟き、海を走る。速度は最大。海を走る術のない真亜空軍に夕立を捕らえることはできない、そう、思っていた。
夕立の背後に突然立った水柱。驚いて振り返る。暗い島に、一つの白煙が上がっている。
「嘘……砲撃!?」
捕まえられないなら、沈めてしまえばいい。そう考えたのか。
だが。
「こんな暗い中、あたしを捕らえるなんて無理っぽい!!」
次々放たれる砲撃。それを夕立は見事にかわしてみせる。
「このまま逃げ切るっぽい!!」
叫んだ時。夕立の両隣に水柱が上がる。……夾叉弾。
それが思い浮かび、回避に専念しようとした瞬間、後ろから音がする。
思わず振り向くとそこには、砲弾が、夕立に向かって。
轟音、激しい痛みと熱、自分の悲鳴。
そして最後に映ったのは、真っ暗な海の中だった。
- Re: cross×world ( No.76 )
- 日時: 2016/07/20 23:32
- 名前: 柊 (ID: YnzV67hS)
「そうだ、あたし……」
ようやく思い出した。自分は助けを呼ぶために逃げたこと。けれどそれはできず、轟沈しかけたことを。
沈んでいくのが怖くて。もう時雨たちと会えなくなるのが怖くて。
あの砲撃の衝撃もあって、記憶を封じてしまっていたのだろう。
夕立は再度、電を見た。何度か攻撃を食らったらしく、彼女の服も彼女もだんだんボロボロになっている。
ここで電を見捨てるなどという選択肢は、夕立になかった。
夕立は走り出し、直感のまま進む。後ろから竜太たちの声が聞こえたけれど、今は気にしている場合じゃない。
きっとその直感に従えば、あれがある。そんな確信を持ちながら走り続けた先にあるのは、倉庫。
息を切らせながら倉庫の、不用心にも鍵のかかっていないドアを開ける。そこにあったのは……夕立の艤装。誰かが整備したのだろうか、新品とは行かずとも、とても綺麗な状態を保っている。
分からない誰かに小さくありがとうを告げ、夕立は自分の艤装に触れた。
- Re: cross×world ( No.77 )
- 日時: 2016/07/20 23:37
- 名前: 柊 (ID: YnzV67hS)
「うぅ……!」
電はもう息も絶え絶えだった。周りには、最初に発見した時より数は減っているがそれでもまだ深海棲艦は圧倒的に多い。
対して電は弾がもうなくなる頃。燃料もごくわずかだろう。それでこれほどの深海棲艦を倒すには無理がある。分かってはいたことだ。
「……時間稼ぎくらいは、できたのかな」
ぽそりと唇から漏れた呟きは彼女以外には聞く者がいない。でもせめてもう少し、そう思い、足を動かす。
……電の視界が揺れ、体は海に倒れた。バランスを崩してしまったと理解するのに時間はかからず、すぐに体勢を立て直そうとした。
ガコン。その音を聞き、咄嗟に盾を構える。
弾の雨が、激しく降り始めた。
「きゃあああっ!!」
盾を通じて砲撃の衝撃が電の小さな体を襲う。あまりに激しい砲撃の音に、電の目に涙が滲む。
彼女の提督ーーつまり、竜太の父親の元にいた時は心優しい彼女を気遣い、遠征ばかりでここまで激しい戦闘はなかった。体の震えが止まらない。砲撃もまた、止む気配はない。
どうすれば。その一言が浮かんだ時、こぷり、と足元から音がする。ひやりとしたものを感じながら見れば、足が沈み始めていた。
「あ、あ……!」
浸水している。そう分かった時、電の頭は真っ白になった。……沈むまで、そう時間も掛からない。
「いやっ、いや、いやぁあっ……」
小さな悲鳴は音にかき消される。沈むのは覚悟していたはずなのに、いざその現実が突きつけられて沈みたくない、という気持ちが電を支配した。
助けて。誰にも届かない声は電の頭の中で淡く消えていく。
「えいっ!!」
聞き慣れた声。それと共に、砲撃が止んだ。近くからは水柱の上がる音が聞こえる。
一体何が、それを確認する暇もなく誰かに手を引かれて深海棲艦の間をすり抜けた。
「夕立……さん……」
「遅れてごめんね。ここからは、あたしに任せてくれて大丈夫っぽい!」
電の頬に、温かな雫が伝う。それを見る間もなく、ある程度距離を取った夕立は電を背中に庇った。
「ここからは、この白露型駆逐艦、夕立が相手よ!
ソロモンの悪夢、見せてあげる!!」
- Re: cross×world ( No.78 )
- 日時: 2016/07/20 23:42
- 名前: 柊 (ID: YnzV67hS)
夕立の声。それと共に深海棲艦が襲ってくる。夕立は深海棲艦に臆することなく突撃していった。
深海棲艦の砲撃や魚雷を華麗に避け、的確に自らの砲撃等を当てていく。今の夕立は改二、重巡並に重い一撃が次々深海棲艦を沈めていった。
しかし、夕立が狙うのは重巡リ級。他のイ級やロ級、ハ級がリ級への攻撃を引き受けていて思うように当たらない。……一刻も早く旗艦を沈めなくては、電が沈んでしまう。
対してリ級は確実に夕立を狙っている。避けてはいるが水しぶきでだんだん服が重くなってきた。とは言え、夕立と同じで焦っていない訳ではないようだ。
さすがと言うべきか。周りにいたイ級らは夕立によりもう数えられる程度にまで減らされていた。
「もうちょっと……!」
夕立が呟いた時だった。リ級が、主砲を放つ。しかしそれは夕立を大きく逸れている。
「どこ狙って……!」
逸れた弾は、まっすぐに向かう。
「あ……!」
電へと。
「電っ!!」
リ級はニタリと笑い、夕立は電の前に立ち塞がる。
夕立に、弾が命中した。
「あぁあああっ!!」
「夕立さんっ!!」
たった一撃。それだけなのに夕立は大きなダメージを負う。戦うことはできるだろうが下手をすれば電と同じように沈み始めてしまう。
リ級は勝利を確信したような顔で主砲を二人に向ける。ダメか、夕立が諦めかけた時。
突然、リ級に爆発が起こった。それがトドメとなり、リ級は沈んでいく。夕立も電も、魚雷や砲を放った訳ではない。一体何が起きたのか、二人も飲み込めずにいる。
次々と深海棲艦に起きる爆発。その爆発は確実に深海棲艦を沈めていく。
「え……?」
「い、一体……?」
最後の一隻が沈む。少し波は荒だっているが、穏やかな海が戻る。二人は呆然としていた。それでも夕立は電が沈まないように、電を支えている。
……二人の少し先に、泡がぷくぷくと現れては消えていく。その泡はどんどん近付いてきて、海に様々な色が浮かび……。
「ぷはーっ!!」
「大丈夫だったでちか?」
「えっ!?」
「潜水艦の皆さん……!?」
そこに居たのは、伊号潜水艦のメンバー。しかも彼女らと同じ鎮守府の艦娘だ。
赤い髪をポニーテールにした艦娘、伊168。桃色のショートの艦娘、伊58。青紫の髪(毛先に向かってピンクのグラデーションがかかっている)を独特のトリプルテールにしている艦娘、伊19。金髪をツインテールにした艦娘、伊8。この四名が、水中から顔を出した。
「どうしてここに? みんなも逃げてきたの?」
「それが、私たちはそうじゃないのよ」
「そろそろ資材貯めようってことでオリョールに出撃しようとして、あの襲撃があって四人で逃げていたら急に黒い穴に吸い込まれたの!」
「で、気が付いたらこの近海にいて……」
「幸い、出撃前で補給したばかりだったから燃料にも弾薬にも余裕があるし……四人でしばらくあの島の洞窟にいたでち」
「それで今日、妙に騒がしかったから来てみたら夕立たちを見つけた、ってこと」
「そうだったのですね……」
黒い穴。電にはそれに心当たりがあった。何せ彼女もそれに吸い込まれて中央館のある世界へ飛んだのだ。……だが、そうなると何故伊58たちは中央館ではなく、こちらの世界に飛ばされたのだろう? あの穴をクレイジーハンドが作ったのなら、四人をこちらに飛ばしてしまうはずはないのだが。
一度聞いてみる必要がある。そう考えながら、電は五人に声をかける。これから、あの襲撃をしてきた真亜空軍のアジトの一つに乗り込む、と。
それを聞いた五人は目を見開いて、すぐに一緒に行く! と答えた。その答えに断る理由はない。
電はにっこり笑ってありがとう、と答えた。
……余談だが、夕立にこれを話され、辞めることを宣言されたマルコは一瞬にして白くなったという。
第10話-END-
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