二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: cross×world ( No.82 )
- 日時: 2016/09/29 19:00
- 名前: 柊 (ID: 0O230GMv)
第12話
耳を劈くような警報音。それに顔を顰めながら竜太は片耳を塞いでいた。竜太の上着はなく、その下のミリタリーシャツが竜太の体を包んでいる。
「まったく、オレたちが侵入するまで警報音すらなかったとは……ザル警備にも程があるな」
「まあ、その分今までは楽じゃったきに。そう気にせんでも」
敵のアジトの警備がザルならザルで楽、と漁馬が少し遠回しに言う。確かに体力は温存するに限るから、別に不利だということではない。
遠くから足音が聞こえる。この警報音を聞いてようやく自分たちに気付いた者たちがこちらに集まるのが分かった。
その多さに動揺することなく、むしろ妥当な数だと考えながら竜太はすぐさま打刀を鞘から抜いた。他にも山伏や乱が抜刀し、漁馬、一心、マリオ、ゲッコウガが身構える。
リュカ、電、伊19、伊58、伊168、伊8、夕立、このははブラックスカル号で待機している。電、夕立は言うまでもなくあの戦闘での大破、中破が理由で、このはは残念なことに戦力外、その他の面々は二人の護衛としてだ。
竜太が通信機を取り出し、その先にいるであろうトオルに一言だけ告げた。
「戦闘に入る」
と。
- Re: cross×world ( No.83 )
- 日時: 2016/09/29 19:05
- 名前: 柊 (ID: 0O230GMv)
一方、ブラックスカル号。ここでも響く警報音に耳を塞いでいた電は目の前の島を見上げた。
島と言うには岩山ばかりで、ゴツゴツとしている。その表面に申し訳程度の苔や雑草が生えていて、頂上に不自然なほど綺麗に並んだ木々が微かに見えた。
この中で、竜太たちが戦っている。大破さえしていなければ、多少は手伝えたかもしれないのに。歯がゆい気持ちを表すように、電の手は自然と島に乗り込む前の竜太が貸してくれた上着を握り締めていた。
「大丈夫っぽい」
「え?」
唐突にした夕立の声にそちらを向けば、夕立は毛布を羽織りながら笑っていた。その後ろでは伊58たちが微笑んでいる。
「竜太は、ばみくんたちといつも稽古してたでしょ?
だから大丈夫っぽい! それに、今は刀剣男士のみんなだけじゃなくて、マリオさんたちもいるしこれで負ける方が難しいっぽい?」
「そうよ。それに竜太はあの提督の子どもなのよ?」
「心配するようなことは何もないでち、電!」
三人に言われて、電のざわついていた心が少しばかり落ち着いてきた。そうだ、まだ勝つと決まったわけではないが、負けるとも決まったわけではない。
はい、と笑顔で頷けば五人がほっとしたような笑みを浮かべる。その後ろで、慌てたようなリュカが周りを見渡していた。
「? リュカさん、どうかしましたか?」
「あ、あの、このはくん見ませんでしたか!?
いつの間にかいなくなっちゃって、船内も見たんですけど……!」
「え、ええっ!?」
彼女らも慌てて周りを見渡すが、このはの小さな姿はどこにもない。
「……まさか」
電が見たのは、目の前の島。他の面々もさぁ、と血の気が引いた顔でそちらを見る。
この船内にいないなら、あとは一つ。
全員の目を盗んで、島内へ入ってしまったのだと言うこと。
- Re: cross×world ( No.84 )
- 日時: 2016/09/29 19:10
- 名前: 柊 (ID: 0O230GMv)
「もうっ、多すぎっ!」
乱がそう文句を言いながら目の前のプリムを斬りつける。黒い粒になっていくプリムを見、納刀しながら周りを確認した。
……誰もいない。どうやら、あの戦闘中にはぐれたようだ。いや、もしかするとはぐれるように誘導されていたのかもしれない。どちらにせよ早く合流するべきだろう。
とは言え、闇雲に探すのも得策とは言えないがこればかりは致し方ない。
幸い、乱は短刀。短刀男士は気配を察するのが得意な傾向にある。乱も例外ではない。無論今は誰の気配も感じないが、歩いているうちに感じるだろう。
そう考えながら歩こうとして……気が付いた。微かではあるが、前方から三つ、人の気配がすることに。
「人……?」
そういえば、他の世界からも連れ去られた人間がいると聞いていた。この気配の持ち主たちもそういう類の人間なのかもしれない。
ならば、と乱の行動は早かった。連れ去られた人間なら助けなくてはならない。気配の持ち主たちが中央館にいるメンバーの中の関係者である可能性はある。
運が良ければ、ここが島のどの辺なのかを教えてもらえるかもしれない。無論、それは低い可能性ではあるが。
乱が臆せず進んでいくと、広い部屋に出た。部屋はただ石でできただけの部屋であり、光もいくつかのロウソクによって確保している。形はおそらく正方体だろうか? 窓らしき物もなく、殺風景な部屋の中心には三人の老人が立っていた。
乱は彼らに話しかけようとして、止まった。彼らの手には、太刀と打刀が握られていた。
「えっ……!?」
戸惑った声が引き金のなったかのように、老人たちは抜刀して乱に襲いかかってきた。慌てて避け、距離を一気に取るが老人とは思えない速度でその距離を縮めてくる。
彼らの顔は苦しんでいた。
「まさか、操られてる!?」
しかもこの様子だと意識までは支配されていない。
ずいぶんと悪趣味だ。老体にとんでもない無理を強いている上に、殺しをさせようとしているのだ。……彼らの意識を保たせたまま。
乱が奥歯を噛み、抜刀する。せめて行動を不能にさせれば、操っている者も戦闘は無理だと諦めるだろう。
「ごめんね、ちょっとだけ我慢してっ!」
乱は自分が出せる最大の速さで老人たちに走り寄る。一番前にいる、頭部が寂しい老人が太刀を振り上げる。老人の口ははくはくと動いていた。
狙うは足。足さえ潰してしまえばすぐに終わる。老人には辛い思いをさせてしまうが、このまま殺しを経験させるよりかはよっぽどマシだ。たとえ恨まれても、乱は彼らにそれをさせる気はなかった。
太刀筋を見極め、それを避けつつ足を狙う。乱が、腕を動かす。きらめく銀は老人の足に吸い込まれるように向かっていった。
ーー捕らえた!
乱は、確信する。
「まる、こぉ!」
瞬間、貫くはずだった銀はびたりと止まり、乱が体ごと咄嗟に引くも、老人の太刀が肩をかすめた。
「カイト、逃げるんじゃ、カイトォ!」
「タカオ、逃げぃ、わしのことは放っておけ!」
「う、そ……!」
彼らは皆、乱を見ながら自分の孫であろう名前を叫び、逃げろと言う。幻術にかかっているのか。
しかし、乱はそちらではなく名前に驚愕を隠せない。
カイト、タカオ、そして、まる子。
中央館に残っている面々の名前。それが彼らの口から出たということは、示すことは一つしかない。
彼らは、三人の祖父であるということだ。
それだけなら正直に言ってしまえば、足を潰してしまえる。だが、乱は“ある約束”を交わしてしまっていた。それも、己の名にかけてしまっている。
乱は、彼らの攻撃を避け続けるしかなくなってしまった。
- Re: cross×world ( No.85 )
- 日時: 2016/09/29 19:15
- 名前: 柊 (ID: 0O230GMv)
また島内のある場所。山伏は己を先頭に、一心と漁馬と歩いている。二人も後方を警戒しながら、足を進めていた。
彼らははぐれたことにいち早く気付いたのだが、プリムの猛攻により合流することが敵わなかった。このまま戻ったところで他の面々が戻っているとは限らない。ならばこのまま進んで誰かを見つける方がいいかもしれない、と彼らは前を進んでいる。
しかし、あれ以降不気味なくらいに気配すらしない。いくら何でも、島内すべてのプリムが襲いかかってきたとは思いがたいのだが。
「静かやき……。不気味ぜよ」
「うむ。見張りの一人や二人はいるかと思っていたのだが……」
どうやら二人も同じ考えを抱いていたらしい。せめて連絡手段さえあれば、竜太なりと連絡を取り合い、情報を聞くこともできたのだが。
この際、これも一種の幸運だと思いながら進むとするか。そう考え、また一歩踏み出し……立ち止まる。
一瞬、気配を二つ、微かに感じた。それだけならすぐに歩き出せたかもしれない。
自分と同じような霊力を感じたのだ。刀剣男士は基本、主の霊力を貰って顕現する。その際に受け取った霊力は一部例外を除けば変わることはない。つまり、そこにいけば仲間の刀剣男士に会えるはずだ。
「如何なされた?」
「この先に、同じ霊力を感じた。おそらくは拙僧の仲間の刀剣男士であろう」
「おお! そいつは運がえいのう」
漁馬の言う通りだ。てっきり閉じ込められているかと思ったが、逃げ出したのだろうか。まあ、それは会ってから聞くとしよう。
山伏たちはその気配に近づいていくように歩いていく。三つの足音しか響かぬ通路は彼ら以外に生きるものがいないような錯覚に陥らせる。
しばらく歩けば、一つの扉があった。警戒しながら開けると、そこは書庫のようだった。いくつもある本棚と、壁も使って収納されている本。そんな部屋の中心に、少年と青年が立っている。
「なんじゃ? あの二人……」
「……兄弟?」
山伏が呟くとほぼ同時に、彼らは斬りかかってきた。あまりに突然で、予想などできない出来事に一瞬反応が遅れた山伏は咄嗟に漁馬と一心の肩を掴んで後ろへ投げる。その時にはもう目の前に銀色が迫っていた。
- Re: cross×world ( No.86 )
- 日時: 2016/09/29 19:20
- 名前: 柊 (ID: 0O230GMv)
「……」
ゲッコウガはほとほと困り果てていた。先ほどの襲撃ではぐれ、おそらくはぐれたであろう場所まで戻ったのだが、誰も戻っては来ない。
それだけならまだいい。それだけなら。
「げこくん、だいじょーぶ?」
目の前には、何故かブラックスカル号に置いてきたはずのこのは。そのこのはが乗っているのは困惑した顔のメェークル。主にカロス地方に生息するポケモンだ。真亜空軍に巻き込まれてここに来てしまったのだろう。
ゲッコウガがこのはの言うことを理解できるがこのははゲッコウガが言うことを理解できない。せめて万能通訳とも言われるヨッシーがいればと思ってしまう。
ゲッコウガは短い鳴き声と共にため息を吐き出した。
その時だ。このはがピクリと体を揺らして突然ゲッコウガが出てきた通路とは違う方向を向く。
「! げこくん、やぎさんこっちー!!」
メェークルの背から降りたこのははぱたぱたと走って行ってしまう。
あまりに突然なことに咄嗟に反応できなかったゲッコウガとメェークルは慌ててこのはを追う。
この先に一体何があるというのか。それを聞きたくとも聞けないゲッコウガはとにかくこのはを捕まえることを優先させた。
だがかなりのスピードを誇るはずのゲッコウガも追いつけないスピードでこのはは走っていく。一体どんな育ち方をすればそうなるのか。
もはや成り行きで追ってきたメェークルも同じことを思っているらしく、チラチラとゲッコウガを見ていた。
- Re: cross×world ( No.87 )
- 日時: 2016/09/29 19:25
- 名前: 柊 (ID: 0O230GMv)
竜太とマリオは、二人でただ静かに歩を進めていた。この二人も敵を撃退している途中ではぐれたことに気付き、全て倒し終わってすぐに来た道を戻ろうとしたのだ。
が、彼らが戻ろうとした時、降りてきた壁に退路が塞がれた。退路が塞がれては戻れはしない。……それに、この先にいるであろう何かがこちらへ来い、と誘われている気がする。
罠だ。そう分かっていても、もはや退路はない。無理矢理開けてもいいが一瞬だけ見えた壁の厚さを考えると相当な力を必要とする。ならば体力がまだあるうちに先へ行き、このアジトを治める者を倒した方がいいはずだ。
カツン、カツン、カツン。二人の靴音が廊下に響く。二人は周りを警戒しながら進む。しばらく進むと後ろから壁が降りる音と、どこかの壁が開く音がした。どうやら、二つの壁を同時に降ろしておくことはできないらしい。だからと言って戻ることもできないのだが。
「……静かだね」
「不意打ちはなさそうですね」
「……ねえ、竜太」
「はい?」
「……キミは、何者なんだい?」
マリオの唐突な質問に竜太はきょとんとした。何者、とは一体どういうことなのか。
黙る竜太にマリオは慌てて言葉を再度紡いだ。
「いや、竜太を敵のスパイだなんて疑ってはいないよ。でも……キミには普通の人間とは思えない部分があるだろう?」
そこまで言われてようやく理解した。竜太はただ静かに口を開く。
「それは、怪我の治りの早さのことですか」
マリオは頷いた。
竜太の怪我の治りの早さは異常だ。誰も注目していなかったが、あのバブルの襲撃によって負った火傷は綺麗になくなっている。
まるで、そこに火傷なんかなかったように。
「父親が人間ではない。それだけです。
母も一応人間とは違いますが、元々は人間です」
あっさりとそう答える。マリオがちらりと竜太の顔を見るが顔色一つ変わっていない。
「……それじゃあ、その。あまり気分は良くないかもしれないけど。
……出来損ないって、どういうことなんだい?」
正直、聞いてはいけないことだろう。それでも、マリオは彼の出来損ないという言葉が気になっていた。
ピクリと、竜太の体が反応を示す。
「それを聞いて、どうなりますか?
話せば、オレは出来損ないではなくなりますか?」
「え。あ、いや……ごめん、軽率だったね」
少しばかり低くなった声につい驚き、マリオが謝る。竜太もすみません、と謝った。
また、靴音がその場を支配する。しばらく歩けば、大きな扉が二人の前に現れる。
マリオの手が扉を押すと、そこはただ広い広い部屋だった。そして、その部屋に一匹、佇むドラゴン。
「なっ……ゴンババ!?」
「知っているんですか?」
「かつて、スターストーンという石を持っていたドラゴンだよ。でもどうして……ボクが倒したはずなのに」
「フェッフェッフェッ。久しいのぅマリオよ。
わらわはオヌシへの復讐のためにタブーの力を借り、この世界へ舞い戻ってきた!
オヌシを倒し、わらわはこの世界を征服してやるぞ! この世界のすべてはわらわの物、すべてはわらわに跪くのだ!」
ゴンババはそう言って高笑いをする。が、突然それがぴたりと止み、ゴンババがマリオと、その隣の竜太を睨む。
「そのためには、オヌシらを葬らねばなあ!」
ゴンババが雄叫びを上げる。そうして片足を上げて床に思い切り落とせば部屋は、否、アジト全体が大きく揺れた。
それを戦いの合図とするかのようにマリオと竜太も戦闘態勢を取る。
ゴンババはタブー、と言った。つまりゴンババも真亜空軍の一員と言っても過言ではないだろう。ならば倒すべき敵だ。
いや、そうでなかったとしてもゴンババはこの世界を征服する、と言った。そんなの、放ってはおけない。
「行くよ、竜太」
「はい、いつでも」
マリオは拳を握り、竜太は打刀を握ってゴンババへ飛びかかって行った。
第12話-END-
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