二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: cross×world ( No.97 )
- 日時: 2016/11/20 00:16
- 名前: 柊@小烏丸入手 (ID: hBEV.0Z4)
第14話
「ぐぅっ……」
ポタ、ポタリ。床に赤い血が滴り落ちる。山伏には二筋の刀傷ができていた。
目の前には己の血で汚れた打刀と脇差を持つ二人……山姥切国広と堀川国広。山伏と同じ堀川派の刀剣男士だ。
何故二人が斬りかかってきたのか。山伏には分からなかった。しかし、二人のあの綺麗な瞳には光がない。操られているのか。
「山伏殿!!」
「なんじゃあいつら! 山伏殿、兄弟言うとったが……」
「あの二人が、山伏殿のご兄弟と申されるのか? ならば何故!!」
「平常心を保つのだ、一心殿」
「や、山伏殿……」
「兄弟は操られているのだろう。でなければ、兄弟がこのようなことを、するはずがない」
そうだ。あの二人は……真っ先に“子ども”を狙うような真似はしない。
ほんの一瞬、それでも兄弟を疑ったことを恥じる山伏は己を殴りたくなった。しかしそんなことをすればケガに響くのは間違いないし、そんな場合ではない。
二人を元に戻す。それが今この場で優先される。
山伏は漁馬と一心に共に戦うように言おうとする、が、それは微かに聞こえてきた足音によって、引っ込んでしまった。
「な、なんじゃこの足音……!」
「! あれは……!」
「!! プリム!」
廊下からまた大量のプリムが迫ってきている。この部屋には出入口は一つしかない。数から見て扉を閉めてもほんの数秒程度の時間稼ぎにしかならないだろう。
「……一心殿、漁馬殿。お主らはそちらを頼めるか」
「! し、しかし山伏殿!」
「カカカカカ! 何、気にすることはない」
確かに二対一は分が悪い。かと言ってこちらに迫ってくるプリムの大軍を一人で退けるには難しい。
ならば手負いでも戦いの経験が多くあり、その上で二人の戦いを見てきた自分が二人の相手をするのがいい……というのは、建前だ。
今の二人を見る度に、本丸が襲撃される前の二人を思い出す。
堀川はいつでも周りに対しての気配りを忘れない。戦場に出れば邪道な戦術を躊躇わなかったが、優しい刀だった。
山姥切はよく自分を卑下し、積極的に他者とも関わろうとしない。けれど周りをよく見ていて、危機に陥った仲間をいの一番に助けるのは彼だった。とても頼りになる、そんな刀だった。
そんな彼らを、自らの手で助けたいと思った。例えこの身が朽ち果てようと、助けたいと強く願った。
ひどく自分勝手な願いだ。山伏は己を笑う。
「ああ、平常心を保てておらぬのは、拙僧の方か」
山伏はそう呟いて、本体を鞘から抜いた。先ほどの斬撃で受けた傷によるヒビが少しだけ入っている。それでも強く輝く刃は、彼を表しているようだった。
二人がまた斬りかかってくるのを静かに見ながら、山伏は構えた。
- Re: cross×world ( No.98 )
- 日時: 2016/11/20 00:21
- 名前: 柊 (ID: hBEV.0Z4)
背後から聞こえる金属音、山伏の雄叫び。それを聞きながら一心はヒーロー着ーーウオザムライに身を包み、唯一の出入り口から次々と湧いて出るプリムたちを倒していた。
背後の金属音を聞くたびに、心が痛む。
ーー何故、兄弟で争わねばならないのだ。
一心は山伏たちと滝行をしていた時に、彼の兄弟である山姥切国広と堀川国広のことを聞いていた。自慢の兄弟だと。
しかしその自慢の兄弟は、何があったのかは分からないが操られ、山伏に刃を向けている。
一心に、兄弟と呼べる存在はいない。幼い頃から店の手伝いをしており、周りには自分よりもひと回りふた回り年上の男女ばかり。だがそれでも、一心には大切な存在で。
その人たちに刃を向けられたらとても正気ではいられない。あるいはショックで動くことすらできないだろう。
想像しただけでも心が壊れてしまいそうなのに、それに直面してしまった山伏はどれほどの痛みを抱えているのだろうか。
「一心殿」
「!」
いつの間にか、眼前に迫っていたプリムを漁馬が消滅させていた。無論それだけで倒し切れたわけではないが。
「すまぬ」
「いや、構わん。が、敵の前でぼうとしちょると、袋叩きに遭うきに。注意しとうせ」
「……ああ」
「……山伏殿なら心配なかろ」
「! しかし」
「気になるんは、山伏殿の兄弟ぜよ」
漁馬の言葉に一心は首を傾げる。山姥切国広と堀川国広は操られているのは明確なはずだ。
「気付かんか? さっき攻撃を仕掛けてきた時、どちらもどこか動きがおかしかった」
そう言われて、ハッとした。思い出してみれば、少し違和感を感じる。
まるで、怪我をした箇所を庇うような動きだった。
「おそらく……捕らわれてからどれくらい経ったのかは知らんけんど、長い間酷い扱いを受けていたと考えられる。
……人を洗脳する方法、知っとるがか?」
「知らぬ……知りたくも、ない」
今の話の流れで、洗脳という単語。それによって一心はすんなりと漁馬が何を言いたいのか分かってしまった。
だから、聞こうとは思えなかった。
暴力は少なからず人に恐怖心を植え付ける。暴言は心を容赦なく斬り刻む。それら二つが合わさればどうなるか……大抵の人間は抵抗する気力を奪われる。
山姥切と堀川は付喪神。多少はそれらに耐性があるかもしれないが山姥切は卑屈な性格だと聞いた。先に山姥切がやられ、その次に堀川が。
どうにかなりそうな怒りの中、放つ攻撃はどうしてか強くなっていたような気がする。
- Re: cross×world ( No.99 )
- 日時: 2016/11/20 00:26
- 名前: 柊 (ID: hBEV.0Z4)
キン、ギィン。金属がぶつかる度に鋭く鳴く。山伏は今にも床に着きそうな足を踏ん張って立たせていた。
もはや染み込む場所などないと思ってしまうほどに赤く染まった服は汗も合わさって山伏の体を冷やしていく。
「くっ……」
目の前にいる山姥切と堀川は攻撃の手を緩めない。打刀と脇差が揃えば『二刀開眼』という技が使える。それを使い、山伏の力を確実に削ってきていた。
戦況を、ひっくり返すことができない。少しでもこちらに傾けることができればいいのだがそれすらも彼らは許さない。
少しでも考えれば、二人は容赦なく襲いかかってくる。
「兄弟……!」
山伏の苦しげな声に二人は何も反応を示さない。することは変わりない。
山姥切の一撃を受け止めれば堀川が他より斬りつける。堀川の一撃を受け止めれば山姥切が。
二人の攻撃に、ピシリ、ピシリとヒビが広がっていく。
またも山姥切が本体を振り上げた。
「兄弟、目を、覚ませっ」
鍔迫り合い。視界の端で、堀川が本体を振るうのが見えた。
「……れは……し……しょ……」
「ぼく……は……だ……」
「……!!」
二人が、何か囁くような声を出している。
それにようやく気付いた山伏は、咄嗟に堀川の脇差を素手で受け止めた。片手は、己の本体を握り、山姥切の本体を受け止めている。
……なのに、二人とも動揺する素振りを見せない。いや、これは……気づいていない。
山伏が片手で堀川の本体を握って、片手で山姥切の本体を己の本体で受け止めていること自体に。目の前で起こっていることに。
しかし力は入ってくる。ぐう、と呻きながら、山伏は二人の声に耳を傾けた。
「おれは……うつし……さいこうけっさくでも……しょせん、うつし……」
「ぼくは……だれなの……。だれの……つくった……かたななの……」
悲しみに満ちた声。それを聞いた山伏は目を見開き……二人を弾き飛ばす。
同じ方向に弾き飛ばされた二人は、ゆらりと体制を直し、まっすぐに刃を山伏に向けて突進してくる。
それを、山伏は、避けなかった。
- Re: cross×world ( No.100 )
- 日時: 2016/11/20 00:34
- 名前: 柊 (ID: hBEV.0Z4)
「がっ、は……!」
山伏の咳き込む声。それに振り向けば、一心は息を飲み、目を見開いた。
山伏を貫く、二つの銀。それらは彼の血で赤く光り輝いていた。
「山伏殿!!」
「来るでない!!」
「っ!!」
駆け寄ろうとした一心を、山伏の大きな声で遮る。そして、少しだけ後ろを見て「大丈夫だ」と呟いた。
微かに震える手を、何とか二人を抱きしめるように動かす。その間にも、二人は刃をさらに突きたてようとしている。
薄らと、二人の瞳に涙の膜が張っていた。
「山姥切、国広」
「……」
「お主は、誇るべき、国広の、最高傑作だ」
「っ……!」
「堀川、国広」
「……」
「お主は、誰であろうと、あの、和泉守兼定の、相棒だ。
誰にも、変えられぬ、真実だ」
「……きょう、だい……?」
ぽん、ぽん、と山伏の手が二人の背を叩く。二人の瞳から涙が溢れた。
ずるりと山姥切と堀川の本体が抜かれる。
「写しで、あったとしても、真贋、定か、でない、としても、それでも、
お主らは、拙僧の、自慢の、兄弟だ」
「あ、あ……あああっ……!」
「きょう、だい、きょ、だ、あ……!」
二人の手が、山伏の背に回される。二人がぼろぼろと涙を溢す。
部屋に、二人の泣き声が響き渡った。
「良かった……」
「さあ、一心殿。こっちもあと一息じゃ。ようやっと終わりが見えてきたぜよ」
「ああ」
ずいぶんと削られた体力。だが目の前にいる残り少ないプリムを倒すことはできる。
二人は、後ろにいる三人の邪魔をさせないためにそれぞれの武器を握り、プリムたちに攻撃を仕掛けていった。
第14話-END-
コメントOK