二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: ポケモン 風変わりな旅道中 ( No.3 )
日時: 2016/08/08 12:55
名前: アーリア ◆IYbi.dCFgs (ID: 3qG9h5d1)

 朝日が昇り始めて3時間は経つが、寒いものは寒い。
 現時刻は午前9時、アルト地方の冬の朝は吹雪の後のように冷え込んでいた。
「あー、寒ィ……」
 凍える寒さに身を縮めるのは、ほぼ目を閉じた状態で歩く黒髪の少年。
 パーカーのポケットに手を突っ込み、背中を丸めながらノソノソと歩いていた。

 
 カインは寝起きが悪い。それゆえ朝が苦手だ。
 そのため、『普段の彼』を知る人物はこの状態の彼を見ると心底驚く。

「おっさん、いつもの」
「いらっしゃいま——あれ、カイン君?」

 現に、カインの母が世話になっているフレンドリィショップのおじさん、もとい店長でもこの有様だ。

「おはよう。珍しいね、今日は朝からなのかい。しかし、朝に弱かったとはねえ。普段の君からは想像もつかないよ」

 確かに、普段の『おつかい』は昼を過ぎてからだ。今日は昼からの都合が悪いらしく朝からやってきたわけだが、それにしても普段の自分と今の自分はそこまで違うのか。
 カインはぼんやりとそんなことを考えながら、母から渡されていたメモを渡した。
 店長はそれを確認すると、「少し待っててね」という言葉と共にバックヤードの方に引っ込んでいった。

 少々の時間ではあるが、手持無沙汰になった。
 暇つぶしにと、カインは適当に陳列棚に視線を向けていたが、その時ふと外が騒がしい事に気付く。
(朝っぱらから何だ?)

 露骨に怪訝な表情を浮かべながらも、少なからず外の騒ぎが気になった。……それが駄目だった。

 カインは何の気なしに外へと顔を出したのだが、目前に黒い影。
 ——ゴチン!
 次の瞬間、カインの脳裏に火花が散った。
 出会い頭にカインは向こうから走ってきた「黒い男」と衝突してしまったのだ。
 寝起きの重い体は弾かれ、カインは訳の分からぬまま後頭部を地面にぶつける。
「いっ……てぇ!?」
「ぐッ、邪魔なんだよガキ!」
 カインが視線を上げると、黒い——肩までの短いローブのようなものを被った——男が、頭を押さえながらヨロヨロと立ち上がるところだった。

 男の言葉にカインは男の言葉にカチンときた。出会い頭にぶつかってきたのはお前だろう、と。カインはそれを吐き出すように口を開こうとした。が、彼の手にふれた感触がそれを制した。カインが手元を見ると、男が持っていた物と思われるスーツケース。

「? 何だこれ」
「まっ……まてぇ〜〜〜ドロボウーーッ!!」

 カインがスーツケースを手にしたちょうどその時、遠くの方から何やら叫び声が聞こえた。視線をやると、息を切らしながら走ってくる白衣の男の姿。
 その姿を確認した「黒い男」はバツが悪そうに舌打ちをする。そしてカインの方に向き直ったかと思えば、腰に付けていた専用ベルトから「それ」を投げた。
「ちいっ、もう追いつきやがったか……いけっ、”ポチエナ”!!」
 すると、男の投げた「それ」——モンスターボールから、黒い毛並みのポケモンが飛び出した。そいつは低い唸り声をあげながらカインを睨む。
「!? ポケモン!?」
 突然目の前に現れた犬の姿をしたポケモン。ギョッとして仰け反るカインに追い打ちをかけるように、「黒い男」はポチエナに命令する。

「ポチエナッ、そのガキからスーツケースを取り返すんだ!”体当たり”!」
「……はあっ!?」

 思わずカインは声を上げた。
 言うまでもないと思うが、カインはポケモンを持っていない。つまりはピンチなのだ。
 カインは反射的に体を捻ってその攻撃を避ける、手にスーツケースを握ったまま。
(くそ、一体何だってんだ!?)
 体制を整え、改めて男と向き合ったカインは息をのむ。
 そして同時に思う、『どうして自分はこんな面倒事に巻き込まれているのか』と。

 自分はただいつものように、買い物にやってきただけなのだ。
 なのに、だ。店の外が騒がしいもので、気になって外に出てきてみればこの男にぶち当たられて。そして訳の分からないままポケモンに襲われて。


「……面白ェ」
 しかし、カインが逃げることは無かった。
 それどころか、カインは心底楽しそうに笑ってみせたのだ。



「上等だ!かかってきやがれ!」



 カインは挑発するように叫んだ!
 そして当然のように次の”体当たり”でスーツケースごと吹っ飛ばされたのであった。

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