二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 【ポケモン】風変わりな旅道中 ( No.71 )
日時: 2016/11/01 08:09
名前: アーリア ◆IYbi.dCFgs (ID: lQjP23yG)

 エアームドで颯爽と現れた少女・ナナ。
 博士の娘だという彼女はカイン達に一礼した後、観察するような視線をカインに向けていた。

「ふーん、貴方がカインね。"あの"リーフさんの息子の」

 ナナは意味深にそう呟くと、突然ズイッとカインに顔を近づけてきた。
 流石のカインもこれにはたじろいだようで、思わず一歩足を後退させた。が、彼女はその距離さえもつめてきた。そしてジーッとカインの顔を見つめる。当のカインはどうしていいか分からずに苦笑いを浮かべていたが、間もなく一体何なんだと睨み返した。するとようやく満足したのか、ナナは顔を離した。
「へぇー。どんなものかと思っていたけど、思ったよりもできそうじゃん、貴方」
「……は?」
 腕を組むナナにカインは眉を潜めた。よくは解らないが、彼女の発言からどうも自分が下に見られている気がして、それがどうもカインの癪に障ったのだ。しかし、彼の怒気を含んだ声にナナが怯む様子は無かった。
 彼女はフフンと胸を張ると、むしろどこか自信満々な様子で口を開く。

「私は親の七光りでその人を見たりしない。リーフさんの息子だという事を抜きにしても、貴方が中々良いトレーナーになれそうだと思ったのよ!」
「はぁ」

 その言葉を聞いて、カインは苛立ち半分、呆れ半分といった様子だった。
 親の七光りという言葉をまさかあのシラカシ博士の娘が使うとは。
 コイツとはどうも気が合いそうにねえな、とカインは心の中で呟く。
 そして、そんな彼女に呆れているのはシラカシ博士も同じだった。

「当り前じゃないか。カイン君はブリーダーの助手として小さい時からずーっとポケモンと触れ合ってきたんだよ? もしかしたら、ナナよりもポケモンについて詳しいかもね?」

 その言葉を聞いて、「む」とナナは黙り込んでしまった。
 博士の言葉とナナの態度で何かを察したリーフは、頬に手を当てて嬉しそうに微笑む。
「フフ、そういう事ね? 母として嬉しいわ、博士の娘さんに目をかけてもらえるなんて」
「は? どういう事だよ」
「ちょっ、ちょっと! リーフさん! そんなんじゃないですから!」
 リーフの意図が分からずカインは聞き返すが、ナナは慌ててそれを遮った。
 すると、リーフの代わりに博士が眼鏡を中指で押し上げながら、どこかいらずらっぽく口を開く。

「カイン君はブリーダーのお仕事のお手伝いをしてるでしょ? ナナも僕の娘だし、研究所に出入りして熱心に勉強しているから、ポケモンの事で負けたくないんだよ。特に、同じ日にトレーナーになるライバルにはね」

「ライバル?」

 カインは博士の言葉を繰り返した後、ばつが悪そうにしているナナの方を見た。
「お前も今日からトレーナーになるのか」
「え……えぇ! そうよ!」
 カインの言葉で我に返ったナナは、再び偉そうに腕を組んで答えた。

「お父さんとの約束だったの。14歳になったらポケモンをプレゼントしてもらうってね!」

 ナナはどこか懐かしむように目を閉じる。
 そう、すべてのはじまりナナがずっと小さかった頃。博士のもとを訪れた赤い髪のトレーナーが連れていたポケモンに魅かれたのだという。凶悪そうな見た目と巨大な体——大きな顎顎を持った『怪獣』のようなポケモンだったとナナは語る。
 最初は怖くて泣き出してしまったそうだが、見た目とは裏腹に優しいポケモンで、泣いたナナを背中に乗せて遊んでくれたそうだ。

 赤い髪の彼が博士のもとに居たのは数日程度だったが、バトルの様子を見せてもらった時は彼のポケモンの強さにたいそう興奮したのだと言う。トレーナーのしつけが良かったのか、ポケモンもトレーナーを信頼しているようで、その時に初めてトレーナーに憧れたらしい。

「シルバーって名前だったかな。色んなトレーナーと戦うために旅をしてるって言っててさ、すごく強いの! あんなに強いポケモンに信頼されるトレーナーってそうは居ないよ!」

 少々鼻息を荒げながら、熱がこもった様子で拳を握るナナ。
「そうそう、その時見せてもらったバトルっていうのがリーフさんとの3本勝負でね! どっちもすごいの! あんな白熱したバトル見せられたらトレーナーに憧れないわけないもん!! ね、お父さん!」
「ま、まぁ確かに迫力はあったよねぇ……あのリーフちゃんに善戦するとは僕も思わなかったよ」
「えぇ、確かに中々強かったわね、彼」
 うんうん、と三人が揃って頷く。置いてけぼりのカインは首を傾げるしかなかった。
 そんなカインを見て、リーフは何か思いだしたように手を叩いた。
「あぁ、カインはあの時いなかったものね。お父さんと一緒に出掛けてたから」
「? そうなのか?」
「えぇ。”久しぶりの休暇はカインと遊ぶぞー!”って張り切ってたわねぇ。車飛ばして海に行くって言ってたわ」
「あぁ、あの時か」
 単身赴任とか仕事だとかでずっと家を空けているため父と出かけた記憶はあまりないが、それだけは覚えている。車の中で色々話をしたはずだが、海についたらホエルオーが浜に打ちあがっており、その印象が強くて何を話したのかはあいにく覚えてはいない。最終的にホエルオーを集まったトレーナー達と一緒に海に戻して1日が終わってしまったが、今となればあれも良い思い出だ。
「ポケモンを使えばひとっ飛びなのに、なぜか車がいいって聞かなくてね、あの人。まぁ、帰ってきたカインが楽しそうだったから良かったけど……あら? 何の話だったかしら?」
「何かポケモンバトルしたって話じゃなかったか?」
「そうだったわね。ふふ、ナナちゃん、あの時から”シルバー君みたいなトレーナーになるー!”ってずっと言ってるものね」
「えぇ! 私の憧れはシルバーさんよ。私もあの人みたいなトレーナーになるって決めたの!」
 目を輝かせてそう語るナナを見て、カインはナナに対しての考え方を少々改める必要があるな、と少し口端を釣り上げた。案外熱いところのある奴なんだな、と。そういうのは嫌いじゃない。
 カインがそんなことを考えていると、ナナはふと手を叩いた。

「話が反れたわね。父からポケモンを貰う約束をしてたって事は話したかしら」

 ナナは再び咳ばらいすると、再び説明口調で話し出した。
「まぁ、私がポケモンを貰う事になってたんだけどね。少し前にお父さんがリーフさんから相談を受けててね」
「……”相談”」
 カインはナナの言葉を繰り返すと、いつの間にか肩に乗っていたヒコザルに視線を移した。ヒコザルは何事かと「うきゃ?」と首を傾げる。カインの様子を見て、ナナは頷いた。
「お察しの通り、『息子(あなた)にポケモンをプレゼントしたい』って相談よ。お父さんが私の誕生日にって、あらかじめ3匹用意してた子がいるから、私がパートナーに決めた子以外の2匹のどちらかを貴方にプレゼントすることになったの」
「2匹? でも博士が持ってたのは3匹だったな」
 SW団と初めて遭遇した時、カバンの中から出てきたのは間違いなく3匹だったはずだ。
 あの時の事を思い出して、カインの頭に?マークが浮かぶ。
 すると、ナナはフフンと鼻を鳴らした。

「私は博士の娘だもの、がっつくような真似はしないわ、余裕を持たないとね。ま、そんなわけで。ポケモンの先輩として貴方に先を譲ってあげたの」
「あぁそう」

 前言撤回だ。やはりナナとは気が合いそうにない。
 カインは心底面倒くさそうに頭の後ろをかくと、深くため息をついたのだった。