二次創作小説(映像)※倉庫ログ

二章【青き英雄】 ( No.111 )
日時: 2016/04/14 02:26
名前: 敷島クルル ◆vhkHu4l20g (ID: 9XXAAjqY)

至近格闘術、搦め手、暗器。

それらが瞬きの間に無数に飛び交う。
だが互いの身体に傷をつけることが敵わないのはなぜか。

「ふふっ。」
「………!」

唐突に両者が間合いを取る。

それ好機とシュートが投げナイフを女目掛けて投擲する、が視線を寄越すまでもなく首を軽くずらして避ける。


「お前には用は無いんだよ、餓鬼。」
「アンタに無くても私にはあるのよ。」
「…。」

だらり、と気怠そうに身体をシュートへと向ける。
警戒し、身体を強張らせるが攻撃をしてくるわけでもなく、ただ指がシュートの後ろを指しただけだった。

「…なによ。」
「船内の無関係な人間が死ぬぞ…?ギルドナイト。」
「ッッ!!」

迂闊だ、しまった。
そういう顔をシュートはしたのだろう。

なぜ目の前の【シックバザル】が自分の素性を知っているのか、脳裏によぎるがそんなことを考えている場合ではない。

今この状況に対応できているのはこの操縦室の自分達だけ。
船員達は警戒こそしてるものの、人殺しを生業としている奴らの襲撃に耐えれるはずもない。


「カイム!私は広間に戻るわ。」
「分かりました、それがいいでしょう。」


カイムの同調に白髪を揺らし、少女がシュートの手を取る。


「あてもシュートに付いてくぞ!」
「ああ。」


軽いやり取り。






だが1人、少年だけが事態を飲み込めずにいた。

明らかに動揺をしている。
それもそうだろう。ハンターとして訓練、同行をしたのに、密猟グループとの戦闘など予想していたわけがない、目の前で繰り広げられている人間対人間の、命のやりとりは少年の心を動揺させるのには十分だった。


「…シュートさん、ルカさんを安全な場所へ。」
「分かったわ。」


この場全員の判断だ。




「ルカくん、行くわよ。」



手を引かれるままシュートに連れて行かれる。
今にも泣き出しそうな顔は何を思っているのか。



「ミナトさん!!」
「…はい。」
「終わったら事情…説明してくださいね!」



目で答える。



少年と少女たちは広間へと、駆け出して行った。










「終わったかい?」
「何の真似だ。」
「邪魔者には退散してもらった方が好都合ってことさ。」
「…。」



同じ思考をしていた。
カイムにとってもこの展開は悪くは無い。

どこか無関係な人間に自分の戦いをみせるのは罪悪感があったからだ。



…その思考を読んだかのように女が陰鬱な笑みを浮かべる。



「…カイム、やっぱアンタまだこっちの人間だよ。」
「彼らの側に付いた覚えはないがお前の側に付いていた覚えもないな。」
「…ふふっ!やっぱ面白いよ!カイム!」


舌舐めずり。

地を蹴る音、金属音。

相対するカイムはどこか安堵を覚えながら戦いへと身を投じる。

二章【青き英雄】 ( No.112 )
日時: 2016/04/18 10:42
名前: 敷島クルル ◆vhkHu4l20g (ID: 9XXAAjqY)

通路を走る、走る。

真新しい血の匂い、何度嗅いでも慣れない死臭に思わずシュートが顔をしかめる。

「ーーーーーーーッッ」



———また一つ悲鳴。

悔しさが胸を焦がす、あの女からの忠告がなかったら自分はずっとあの場所で、あの女の相手をしていたであろう。
緊急事態を指揮する権限、義務を持ちながら何もできなかった。



「———ッ!!」


声もない悲鳴が耳をつんざく。
距離は近い、勘と経験で、現場が廊下を曲がったすぐ先だということを確信する。


投げナイフに力が籠もる。




「あっ、あの!シュートさん!」



少年の困惑を孕んだ声は耳に届かない。

予感通り船員に刺さったナイフを抜こうとしている【シックバザル】と相対。

相手がこちらを察知すると同時に鳩尾へと前蹴り。




「———ァハッッ!!???」



もんどり帰る男、スキンヘッドに黒装束のいかにもといった風貌の男の首にしっかりと刃を寝かせ。




「…!」



引き抜く。


ひん剥いた目は何かを叫びながら硬直した。






「ルカくんもう少し辛抱して、君は安全なところに避難させるから。」
「…あっ、あのっ!」
「ナナちゃん、あなたの耳で他はどこにいるか分かる?」



「シュートさんっっ!!!!」




予想だにしてなかった声に、思わず少年を見る。


「……なに?」






「皆さんが僕に何か事情を隠しているってことは分かりました、それとこの騒ぎが関係あることも。」



「…そうね。」


「正直言って…!僕は今足手まといです、こうしてこういった場面に出くわして怖いって思います。」


「…。」


「それでもっ!僕だけを安全なところに逃がさないでください!…僕だって皆さんの仲間です!!僕も皆さんと一緒に行かせてください!!」


「……。」



嬉しい、という感情と、何を生意気な。

そういった思いがシュートの胸を渦巻く。
だが少年を安全な場所へ届けるとは言ったが、この船内にそんな場所があるのかと自分自身で疑問を持つ。



「…。」


「お願いします!シュートさん!」



「いいわ、その代わり構ってる暇はないわ、もたついてるようなら置いてくわよ。」



「……!!あ、ありがとうございます!!」



「じゃあ、行くわよ!ルカ!」
「はいっ!!」

二章【青き英雄】 ( No.113 )
日時: 2016/04/20 00:56
名前: 敷島クルル ◆vhkHu4l20g (ID: 9XXAAjqY)

もう幾度目の邂逅か。
刃が、足刀が、武器と化した身体が何度交じり合ったか。

「いいよ…うん、やっぱカイム、アンタ最高だよっ!」
「…盛るな。」


蛇のようにうねる軌道の刃を悉く受けの刃で流す。
だが受けだけでは後退の一手。

カイムは壁に背を付け、あたれば首が吹き飛ぶ必殺の刃を二刀で防ぐ。

二刀と二刀、光を反射しない暗殺用のナイフ同士が凌ぎを削る。



「ここにあの男はいるのか?」
「おいおいカイム。今は他の奴の事は考えないでおくれよ。」
「…答えろ!」
「妬けちゃうね…全く!」


押していた重心のベクトルを瞬時に引き、女、ガウが繰り出す前蹴りを回りこんで避ける。

前蹴りは空を貫き壁へ深々と突き刺さる。



「…これで殺すと気持ちいいんだがね。」



ミシミシ、と音をあげて壁を壊しながら足を引き抜く。
つま先には暗器、仕込みナイフが光っている。


「この船をどうするつもりだ。」



操縦員は全員死亡。
ともなればこの船はどこへ向かうのか、空路を設定しなければ見知らぬ空域を彷徨うことになる。

それが奴らの狙いなのか、【シックバザル】の中に船を動かせる人間がいるというのか。


「船…あぁ、そういえばそんなこと何か言っていたな。」
「ふざけるな。」
「ほんとさ、任務の内容なんていちいち覚えちゃいない、船内の人間の殺し以外忘れたよ。」


幼い子供が知らない事実に困惑するように目の前の女も同じ様子を取る。
…道理が通じない。


「あぁ〜、思い出した、思い出したよ。」
「…?」
「呪われた空域がなんとか、そんなこと言ってたね。」
「もういい、貴様では会話にならない。」


丹田に力を込めて間合いを詰める。
牽制の薙ぎを右、左、斜めとガウに当たるか当たらないかで揺さぶる。

そこで本命の一撃を左からのナイフで繰り出す。



狙いは心臓。




「…ッッ!」



突然の一撃にガウの反応が遅れる。

だが獣じみた反射神経でナイフで軌道を逸らされる。



「じゃあね、カイム。」



突きを躱される。
それがどういった事態を招くのか。



お返しとばかりにガウの刃が空を裂きながら喉へと迫る。




「ルカさん、礼を言います。」
「…なに?」



前脚で踏ん張る。
右手のナイフを一連の動作でガウのナイフへと合わせる。


「…!」


ガウの刃を上にして、刃から刃へと渡る。


「…フッ!!」

体当たり。
行動不能には遠く及ばないがガウは大きく後退する。



「…今のは知らないね。」


ルカ、少年との立ち合いで彼が見してくれた接近術。


ガウが驚嘆の表情でこちらを見る。
…ダメージを負っている様子はない。









——————————————ッッッ!!!????






「…!?」
「……!?」





船が大きく揺れる。
同時に爆音、確実に船に何かが直撃したであろう煙が操縦室からの景色でうかがえた。




「…船を落とすつもりかっ!」
「そんな段取りじゃないはずだがね。」



船が傾く。


「貴様が指示を出せば部下は止まるのだろう。」
「そうだね、でもそれを言わすのはアタシじゃないよ。」
「…なに?」
「カイム…アンタがアタシに言わすのさっ!!」


この異常事態の中でもこの女は闘争しか興味が無いのかっ!

否応なく刃を刃で返す。
徐々に傾く船の中、頭に彼らが浮かぶ。




「………ナナ。」

二章【青き英雄】 ( No.114 )
日時: 2016/04/20 20:51
名前: 敷島クルル ◆vhkHu4l20g (ID: 9XXAAjqY)

どこから湧いてきたのか。
通路という通路、倉庫や果ては天井から【シックバザル】と思われる人間が広間へ殺到している。

【シックバザル】と思われる人間…身なりは船員のそれで、中には昼間に話した人間も居る。

すなわち船の搭乗者リストが【シックバザル】、もしくは息がかかっている者に書き換えられたか。


だがもう考えても仕方ない、ここの、ここに居る人間の顔は全て覚えた。
些細な仕草、クセは休憩している時にもう把握している。



「シュートさんっ…!」


若い男、返り血を浴びているが外傷は見られない。
熱心に荷物を運んでいた雰囲気が明るい青年だ。



「アンタ怪我は?」
「大丈夫です!でもっ!あの!」
「焦るのは分かるけど落ち着いて、何があったの?」
「こ、甲板に弟が!弟が襲われてるんです!」
「分かったわ、案内して。」


ナナちゃんやルカは2人1組(エレメント)で行動しているから問題はない。
ルカはともかくナナちゃんの戦闘能力ならこの程度のアクシデントは難なく対応できるだろう。


扉が開かれて外へ出る。



強風と雨が顔を打ちつける。
案内した青年は辺りを見回している。



「ユウヤーーー!!どこだ!ユウヤッッ!!」



返答はない。


甲板でも戦闘、戦闘というよりかは虐殺があったのだろう、辺りに血や乗員の死体が転がっている。




「シュートさん、自分はここをもう少し探します、シュートさんは裏側を見てくれませんか!?」
「分かったわ。」
「裏側の倉庫の地図渡しますね…!」



空は晴れる気配は無い。
無事な乗員は広間でナナちゃんやルカが守ってくれているから問題はないが、私の不安はそこではない。
この船がどこに向かっているか、それが不安材料だ。



男がポーチを探る。



「これですっ!」



真剣な眼差しでこちらを見据える。
差し出されたそれを掴もうと手を出す。



























————————————ナイフ。









突きを手刀で払い、手首を掴みひねり上げる。
続いて鳩尾に膝蹴り。







「悪いけど、言っとくわね。アンタ私を見付けた時からポーチを何度も目にしてたわ。」
「へっ…へへぇっ!!流石はギルドナイトだぁ、アンタみてぇな綺麗な嬢ちゃんをヤれるって思ってつい先走っちまったよぉ…!」
「…あんたら私の正体初めから知っていたの?」
「あぁ知っていたよ。」

臆面もなく答える。

「そう。」
「アンタみてぇなのが12人も居るんだろ…!へっ…へへぇ!」
「話長引かせようとしても無駄よ、爆薬の匂いが漏れてるわ。」
「…この風と雨、血の匂いの中で爆薬の匂いが分かるのか…へぇへへっ!ギルドナイトはやっぱり化けもn———


下卑た笑みを下げた身体を蹴り飛ばす。
フェンスに当たり、身体が可笑しな方向にひしゃげながら下へと落ちて行った。



程なくして嫌な音を孕んだ快音が響く。






「12人のギルドナイトね…。」




疑問が浮かぶ。
だがそれを決めるのはまだ早い、早計だと判断する。










————————————————————————————ッッッ!!!!









何かが迫ってくるような。
聞いたことのない風切り音。



音で判断して、広間の扉へと駆けだす。






次の瞬間、私が立っていた床。
この場合は船か、船が割れながら空に舞う。




「——ッ!?一体何よ!」



黒い、赤い雷を纏った熱線のような。
グラビモス種のそれの何倍も太い光線が空を貫く。





「今度は何よ!!」





この事実を船内に伝えねば。

船内へ戻る足を早める。







だが、どうしてか。
景色が遠のくばかり。







「ッッ!!」




目の前の、扉と自分の間の床が音を立てながら膨張している。

2射目と判断したときにはもう遅い。
私の身体は宙を舞っていた。

二章【青き英雄】 ( No.115 )
日時: 2016/04/22 22:41
名前: 敷島クルル ◆vhkHu4l20g (ID: 9XXAAjqY)

「そんな………、シュートさん…。」


聞いたことのない爆音。
何事かと外を見る。

相対していた【シックバザル】も攻撃をやめて外の様子を見る。


船が無いのだ。

扉から先の船が消えたのだ、割れて、下へと落ちていく。


いつか見たイビルジョーの口から漏れ出していた龍属性のエネルギーに似た光線が空へ突き刺さる。
そこだけから光が漏れ、威力の大きさが計り知れる。



「ルカー、ほら今チャンスだよ。」


反応が遅れる。
ナナさんは自分と同じように足を止めて外を見ていた【シックバザル】、男の頭蓋に刃を突き立てた。


物言わず絶命する。


この空間の中で誰よりも先に動いた、しかも殺した少女に【シックバザル】の目が、全て向けられる。



「ナ、ナナさん!今それどころじゃないですよ!シュートさんを探しに行きましょう!!あっ、あとどこかに逃げなきゃ…!そうだっ!脱出艇が船底にあるはずです!そこに皆さんを避難させましょう!」


「…。」


僕の問いには答えない。
だが表情を変えずに、首だけをこちらを向ける。



「シュートを探しにいくのは無駄、あと、あては別に逃げなくていいから、ルカだけそうして。」
「なっっ!?」



頭に血液が昇るのを感じる。


「今はこいつらを相手してる場合じゃないでしょう!!ナナさんおかしくなったんですか!?」
「……あはっ。」
「…!!」


変わらない表情で答える。

———いや、変わったものが一つある。

いつもの変わらない無邪気な笑み。
場面とマッチしない表情に空恐ろしさを覚える。


「シュートもこの船の人もどうでもいいよー、だけどね、こいつらだけは殺さないといけないんだ。」
「……ッ!?」


目が紅い。
ナナさんの瞳がうっすらと紅く染まる。


普通じゃない。


どこか本能的に察する。




「分かりました…僕は乗員を避難させます!ナナさん!片付けたら来てください!」




駆けだす。
隅の方で固まって自衛をしている乗員達が察して僕と合流をしようとする、が【シックバザル】の男が1人こちらへ掴みかかる。




「逃げないでよ…!」



男の顔が地面に落ちる。
頭を無くした身体が生前の命令を覚えたままよたよたとこちらへ歩いてきて程なく倒れる。




殺意の眼差しをしたまま絶命した頭が潰れる。

……ナナさんが狩猟用ブーツで踏み砕いた。




「次よそ見したらこの人みたいになるからね?」




紅い目で【シックバザル】、いや、僕らにもそう告げた気がした。
目線で乗員を促す。船内へ続く扉へ彼らを連れて廊下へと出た。





瞬間怒号。



狂乱した男達、【シックバザル】のメンバー達の恐怖が混じった雄叫びが扉の向こうから響き渡った。

二章【青き英雄】 ( No.116 )
日時: 2016/04/24 00:06
名前: 敷島クルル ◆vhkHu4l20g (ID: 9XXAAjqY)

「やめたよ。悪いねカイム殺してあげれなくて。」
「ガウ…。」


終ぞ両者致命傷を与えることなく距離が離れた矢先、ガウと呼ばれた長外套の女は心底つまらなそうにため息を吐く。

「こんなうるさい所で殺し合いなんてナンセンスじゃないか。」

長髪たなびかせ、踵を返す。
先は外だが、ガウは死なない、カイムの直感がそう告げた。


「待て!話を聞かせろぉ!!」
「…ふふ、急くな、すぐ私は会いに来る、それまでおあずけだ。」
「ガウッッ!!」


呼び止めるが姿はもうない。
追って下を覗くが、崩壊した船の断崖絶壁という表現が相応しいか。
人間が下りれる状態ではない。


「……ッッ。」


倒れ込む。
お互い致命傷は与えていない。

が、微々たるダメージの積み重ねが確実にカイムを蝕んでいた。

そもそもガウの戦術は大技をフェイクに獲物の手足を攻撃し機動力を奪ったところをじわじわと嬲るという戦術だ。

カイムはその泥沼に嵌っていたと言えよう。
戦いが長引いていたら倒れていたのは間違いなくカイムだ。



———————————ッッッ!!!!!!





何度目の爆発だろう。
大方、船の燃料にでも引火したのだろう。

コントロールを失ったこの船はあとは落ちるだけだ。


下を見ると脱出艇が数隻遥か下に見える。


恐らくシュートさんかルカさんだろう。
薄れゆく意識でそうぼんやりと思う。

これから自分はどうなるのだろうか。




死。



死は最も恐れるべきことだ。
暗殺を生業としてきて命を軽視したことは決してないとカイムは確信している。

人の命を奪うという業の深さ。

いつも暗殺のあとは1人で震えていた。



そして今、死が自分に降りかかろうとしている。



「…。」



悪寒が走る。



「………死ぬのか。」


手が震える。
死ぬのが怖い、しかし人殺しがまっとうな最期を迎えられるとは考えていなかった。


誰にも看取られぬまま知らぬ地で何が原因で死ぬのかも分からないまま死ぬ。







悪党の最期には相応しいか。



自嘲気味に笑う。




「ははっ…はっ、あはは、はっはっはっは…!」



思えば救われない人生だったと自分でも思う。
俺に殺された人達は何の為に死んでいったのだろうか、ここでのたれ死ぬ俺の為に皆殺されたのか。



そんなわけはない。


頭では分かっているがこの状況、覆しようがない。
心が、身体が、状況が俺が生きることを拒否している。





————船が傾く。



するすると、徐々に、徐々に徐々に下に身体が引っ張られる。



嗚呼、ついに死ぬのか。



高高度からの落下は地面に激突する前にショック死するというのをどこかで聞いたことがあるが、それがふと脳裏をよぎる。
ショック死…まさか自分がそれで死ぬとは。



目を瞑る。



だがいつまで経っても身体が宙を舞う感覚が来ない。
なんだ、もう死んだのか、と思う。


目を開けるとそこはどんな世界か、興味を持って瞼を開ける。





「…にーさん。」
「…ナナ。」




少女が、細い腕で俺を引っ張っている。
よく見るとその腕は至る所に傷があり、少女の全身は返り血に染まっていた。



「…あて達、死ぬの?」
「…どうやらそうらしいな。」


そう言うと少女は何かを考えるように視線を逸らす。


「お前でも死は怖いか?」
「ううん、にーさんと一緒だから大丈夫だぞ?…でも。」
「でも?」
「お母さんに会えなかったなー。」

…。


悟ったような表情。


いや、悟っているのだ、こいつも迫っている死を受け入れる準備をしている。


「にーさん、あてって、にーさんの妹にそんな似てるのか?」
「…そうだな、瓜二つだ。」
「それ妹さん聞いたら怒るぞー。」
「ははっ…そうだな、何をしてくるか分からないからなアイツは。」
「…ぁ。」
「どうした。」
「にーさん、笑った。」


思わず自分の顔を触る。
笑う。

笑っていたのだ、今自分は。


そんな俺をナナはまじまじと見る。


「…なんだ。」
「けっっっっこーあれだね!…優しそうな顔になるんだねにーさん。」
「…失礼だな、…そういうお前はいつも笑ってばっかりだな。」
「にーさんと一緒だったからね。」
「…意味が分からん。」

「————にーさん!」


すとん、と少女が胸に飛びついてきた。

離す気力もなく、ただ受け入れる。

「どうした。」
「…あてっ、あてっ!!」
「…。」

「死ぬのが怖い!!怖いよぉ…!!」
「……!!」



どこか達観していたような少女。
境遇に恐れを抱き、避けていた節を確実に俺の中にはあった。


常人の神経をしていない、と俺の中で壁を作っていたが。


そんな少女が、今、俺の胸の中で泣いてる。


…そうか。


境遇がどうであれ、実態は幼い少女。
俺はそんなことも理解出来ていなかったのか。



優しく。
陶磁器に触るように触れる。



「死ぬときは一緒だ、今まですまなかったな。」
「ううん…!!ううん…!」



泣きじゃくる。

こういう最期も悪くないものだな、とそう思う。


目を瞑る。


今度こそ、次に目が覚めたときはどうかあの世の妹に会えたら、と思う。