二次創作小説(映像)※倉庫ログ

プロローグ ( No.36 )
日時: 2015/12/07 00:43
名前: 敷島クルル (ID: QRmoI/Ul)

「では、2人の未来を祝福しまして、HR6ジョージが乾杯の音頭を取らせていただきます!」

「「「「イェエーーーーイイィィ!!!!!!」」」」
「かんぱーーーーーい!!!!」
「「「「かんぱーーーーいい!!!!!」」」」


あの出来事から数日後、晴れて僕らの結婚式が執り行われた。
場所は考えに考え抜いて結局【ガルフレッド】
変に気取った場所でするより常連と騒いだ方が楽しいと2人で結論した。

「アオト!まさか店を継いだ挙句サクラちゃんとくっついちまうとはなぁ!!このぉ!!」
「よっ!!天下一の幸せ者!!」

誰が誰だか細かく把握していないが今日来てくれたお客全員見覚えがある。
開店以来ちょくちょく来てくれたハンターや、毎日のように入り浸るハンターが沢山いる。

事前の発表なしのサプライズの結婚式のはずが噂が噂を呼び、路地に座って酒を盛り始める人までいる始末。
こうなってはもう手が回る回らないの問題ではないので仕方なく前金を貰って酒を適当な場所にセットで置いている。

キッチンはというとマスター愛用の大きな鍋にサクラが大奮闘。
僕をサンドバックに普段鍛えていた腕力がここぞとばかりに発揮されている。

「マスター!!俺今度モノブロス討伐に挑んでくるぜ!!」
「おっ、ジョージお前に出来るのか?少し前までガミザミにびびってたじゃねぇかオメェ。」
「いつの話してんだよ!いいか?マスターから教えてもらったハンマー捌きであの角をへし折ってやる!」


マスターはというと店が始まるとカウンターの一番奥に座り、マスターと話したい人がそこらに密集している。
軽いハンター相談部屋みたいになっており、これも【新生ガルフレッド】の魅力に早くもなりつつなっている。

「アオトォ!こっちこいよぉ!どうやってサクラちゃん口説いたか教えてくれよぉ!」
「俺も気になるぞ!アオト!」

「教えてたまるか!どうせアンタら俺が何か言った後すぐ実践すんだろ!」

「「うん。」」

「素直かっ!!」


……僕はというと客のボケに対してツッコミを入れるという存在意義があまりないように思える、いや、本当に存在意義のない立ち位置に落ち着いている。
僕自身の権利のため、補足させてもらうと開店前の食材の仕入れと下ごしらえ、マスターがやっていた酒の手入れと食材の貿易ルートの確認など事務作業を行っている。


「ほーら!アオト!早く料理運んでよ!」
「あ、ごめん!今行く!」


カウンターへと急ぐ。


その光景が酔った客にはとても刺激的だったらしく店内が大きな嬌声や羨む声に切り替わる。






「キスしろーーーーー!!!」




「誰だ今キスしろっていった奴出てこい!」

「キスしろー!」
「そうだキスしろキス!!」


「アオトー!キスしてー!!」
「客に紛れて叫んでんじゃねぇ!!」


キッチンのサクラに思わず突っ込む。
それがまた彼らを刺激させてしまった。
店内の怒号にも聞こえるそれは外まで響き、外の客もそれにつられてキスコールが巻き起こる。



「あらら、こりゃホントにしないと収まんないね。」
「誰のせいだ、誰の。」
「知らな〜い」


ぷいっとそっぽを向かれる。
そんな仕草すら今は愛おしい。


「サクラ。」


「ん?何?」


不意打ち気味に軽くキスをする。


瞬間、巻き起こる拍手喝采、【ガルフレッド】の狭い店が揺れるような叫びに包まれる。


「これで満足かお前ら!」

半ばヤケクソ気味になって連中に叫ぶ。
しかし僕の声は祝福の声や拍手の音にかき消され誰の耳にも届かない、こんなのありですか。


「アオト!」


キッチンから声、あ、そうだ、料理を運ぶんだった。
それを忘れていて振り返る。



「————ッッ」



身を乗り出しダイヴしてくるサクラ、支えないと顔面から床に突っ伏してしまうサクラを受け止める形でキャッチする。
そしてそのままキスをされる。


「「「「「ウオオオオォォォォォオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!」」」」」


店内が、外が、ドンドルマが局所的に季節外れの熱気を帯びる。

「にしし。」

サクラの顔を見る。
まったく、こんなバカな顔して、仕事する顔じゃねぇよそれ。




————サクラを抱き上げ、お姫様抱っこの形にする。




「ってうぇえっっ!!アオト!えっ!ちょっ!!」
「うるせぇ!いつもお前から恥かかされてんだ!今日はお前が恥をかけ!このまま店の外までいくぞ!!」
「えええぇぇぇえええ!!」


腕の中のお姫様の叫びを無視して店の外まで凱旋する。
中にはいつ準備したのか花吹雪まで用意してる祭り好きな客がいる。




幸せを噛み締めている最中、ふと空を見上げる。
太陽が天辺を指し、寒冷期に似つかわしくない晴れを演出している。




「この太陽、あの2人も見ているんだろうか。」
「見てるよ、きっと。」



僕とサクラは数日前に出会った奇妙な2人組を思い出していた。
祝福に包まれて、太陽を仰ぎながら。

プロローグ ( No.37 )
日時: 2015/12/07 00:45
名前: 敷島クルル (ID: QRmoI/Ul)

「ぶえくしっっ!!」

「にーさん汚いよ。」
「すまん、…おかしい、こんなにも暖かい日差しなのに何故…。」

アプトノスが率いる荷車の後ろに荷物と一緒に揺らされていた。
ドンドルマを経って早2日、未だ俺とナナは目的地まで半分、といった地点だ。

「はくちゅっ!」
「…。」
「なにさ、にーさん、そんな目で見ないでよ。」
「鼻水を取れ。」

ナナがハンカチで鼻をごしごしと拭く。
その後気持ちよさげに衣類の荷物袋へ後ろから倒れた。


「あーマスターがくれたミルクおいしかったなぁー。」
「…、そうだなまた行きたいものだ。」
「行く気ないくせにー」
「…黙れ。」

あの店とは関係を持ち過ぎた。
近年稀にみる善良な市民、久しぶりに人の温かさに触れた気がするあの感覚。
あれ以上いると自分の使命を忘れそうになってしまうほど客に対する愛に包まれていた。

「いいなー家族って」
「…、どうした急に。」
「アオトとサクラ結婚だってさー、マスターも父親みたいなもんだし。」

ごろごろと左右に寝返りをうつ同行人に若干疎ましさを覚える。

「…、お前でも家族が恋しいのか。」

「そりゃ恋しいさ、お母さん以外知らないんだから、にーさんはならなかったの?」

「どうだかな。」


釣られて後ろへと体重を預ける。
太陽は天辺を指し、鳶が輪を描いて空を散歩している。


このまま寝てしまうのも悪くない、と思いつつ意識だけ横に飛ばす。


「ベルナ村、と言ったか、あの男。」
「そだね、ベルナ村の龍歴院に拠点があるって。」
「…ベルナ村。」

未だ行ったことのない地域をぼんやりと想像する。
確か牧農が盛んな山岳地帯と聞いたが、どういったところか。

記憶の資料を頭の中で読み返しても、めぼしいものは思い出せなかった。
龍歴院、辺境のモンスター研究機関か、たしかにキナ臭い所ではある。


「そういえば、お前が飲んでいたミルクも確かベルナ村の…。」


「すぅー……、すぅー……。」


「…、ふん。」


目を閉じる。
繁殖期を予感させる若葉の香りが鼻を微かに通る。
そしてそのまま太陽の陽気からくる眠気に身を任せた。




——————————————————プロローグfin