二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 一章【邂逅】 ( No.56 )
- 日時: 2017/01/26 11:22
- 名前: 敷島クルル (ID: BvdJtULv)
頭部への爆撃でめまいを起こしたのか、立とうとしても足が絡まり、その場で足掻くライゼクスに太刀、双剣、銃槍の連撃が見舞われる。
ガンナー達も好機を見逃さなかったのか、比較的剣士が少ない頭部や翼へ何発も弾丸が穿たれる。
「「ッッギシャァアアア!!!」」
だがそれでも相手は自然の息吹そのもの、飛竜である。
何事も無かったかのように、身体には幾重にも刻まれた攻撃の跡を残しておきながら悠然と剣士を構わずに飛翔する。
またあの攻撃か!
警戒したハンターの動きが乱れる。
四方八方に散らばり、これでは甲板どこに攻撃を放っても誰かしらに命中してしまう。
だが一か所だけハンターが居ない箇所を見つけ、駆ける。
それはライゼクス直下、逃げ惑うハンター達と反するようにライゼクスへと向かう。
空からの視線が俺を捉える。
不特定多数に攻撃が当たるのならば、俺一人に注意を向けさせた方が効率的だ。
身体が緊張でまともに動かないが、なんとか到着する。
あとは、この攻撃をどうにかやりすごせれば再び反撃の機会が必ず訪れる。
着地、それは森羅万象あらゆる物体、生物がかならず隙を生じさせる瞬間である。
武器をまともに扱えない自分がこの場に貢献できる唯一無二の手段、囮役。
衝撃に備える、無駄かもしれないが、受け身くらいは取る意気込みでなければ、あの威力、気絶は免れないであろう。
「「ゴギャァァアアアア!!!」」
————バシュシュン!!
「今だよ!にーさん!」
突如バリスタ特有の発射音が空を裂く。
不意を完全に突かれたライゼクスはその弾丸を避けることは敵わず、甲殻が集中していない下腹に深々とバリスタが穿たれる。
しかし、それでも急降下は続く!
バリバリィ!——、と稲妻が落ちたような衝撃音が耳を突き抜ける。
頭を庇いながら前方へダイブしたのが功を制したのか、脚爪は俺を捉えないまま、電光だけが身体を突き刺す。
「——ぐっ!」
鼻の奥からプチチ、と血管が焼き切れる音が聞こえる。
だが好機!!今を逃せば再び空に逃げられる、痛みに悶絶するのは後でもできるが、攻めるのは今しかない!
体勢を即座に立て直し、太刀を構える。
俺を見失ったライゼクスは背を向け、ゆらゆらと、電光迸る尻尾が目の前を揺れる。
「はぁっ!」
力任せの上段。
それは直撃せずに、尻尾の甲殻を一部欠くだけに終わる。
ライゼクスの赤い瞳が俺を捉える。
死が脳をよぎる。
動けない、それは絶対的な関係、捕食する側と捕食される側。
だがそれは一対一の場合、今自分の背中には自分より力あるハンターが大勢いてくれる。
「「グガゥ!?」」
ボウガンの弾が首、背中を掠め、ライゼクスが巨体を揺らす。
「兄ちゃんに続け!!」
「うぉおおおおおお!!!」
続いて俺の前に、先ほど吹き飛ばされたランスのハンターが壁になるように俺とライゼクスの間に立ちはだかる。
ライゼクスの咬み付きを巨大な盾でいなし、必殺の槍を眼前へと突き刺す、がそれを躱される。
その間に、双剣を携えた者が獣のごとき俊敏さで足元へと殺到し、切り上げ、切り下ろしを繰り出し、鮮血が舞う。
バリスタも直撃こそしていないが、何発もライゼクスをかすめる。
「「グシャァアアア…!」」
不利、だと感じたのだろう。
一鳴きしてからライゼクスは、一翼羽ばたかせ、遥か上空まで飛翔する。
また攻撃か!?と警戒するハンター達だが、雷光の如き一撃は繰り出されないまま、ライゼクスは雲海へと消えて行った。
- 一章【邂逅】 ( No.57 )
- 日時: 2015/12/19 02:50
- 名前: 敷島クルル (ID: QRmoI/Ul)
「ありがとな兄ちゃん!あんたがチャンスを救ってくれなかったらどうなってたか分からないぜ!」
「いえ、武具が心もとない自分が出来ることをやったまでです、皆さんのお蔭です。」
ライゼクス強襲の後すぐに目的地の龍歴院へと船は到着した。
あれほど騒がしかった船内は今は穏やかで、シュートさんを筆頭に船員たちがの事態の混乱収拾に努めてくれた。
俺はというとナナを待つため人目が多い、地上へ続く階段手前で待っているのだが、ハンターと会うたびに賞賛の声を頂く。
「よう兄ちゃん!無事だったか!」
「…はい、お蔭様で、そちらは?」
「突進には肝が冷えたがディアブロスの突進に比べりゃまだまだだったな!」
ハイメタ装備に身を包んだランスのハンター。
彼が俺とライゼクスとの間に入ってくれなければどうなっていたか分からない。
そのハンターが一礼して、地上へと向かう。
気が付けばあっという間だった。
ライゼクスが去った後も船に乗ったハンターが皆協力して再び襲撃がないか構えていた。
そこには、何故ライゼクスが現れたのか、そこに疑問を持つものはハンターの中にはおらず、ドンドルマ付近では会えない未知のモンスターに胸を躍らせていた。
胸に暖かなものを覚える。
ハンターとはどうしてああ自由に生きられるのだろう、純粋に。
もう姿が小さくなったランスのハンターを見送り、思う。
「あ、にーさん見つけた。」
「…、どこに行っていた。」
「中で怪我した人の手当てしてたんだよ、シュートと一緒に。」
ナナが無邪気な笑顔で隣に立つ。
近付きすぎ感は否めないが、指摘はしない。
「お疲れ様、ナナちゃん、カイム。」
「お疲れ様ですシュートさん。」
続いて薬草の香りを身に纏いながら彼女が船内の扉から出てくる。
「大人気じゃないの貴方、皆の噂よ。」
「…ありがたいです。」
予想だにしていない事態になってしまった。
今日船に乗っていたハンターが皆龍歴院に関係するハンターだったとしたら、ほとんどの人間から今さっき声を掛けられた。
これでは隠密行動も何もない。
龍歴院内部に存在する【シックバザル】、それを突き止めるために来たというのに。
…、これは失敗をした。
しかし疑問が浮かぶ。
俺はともかく、ライゼクスとの戦闘で目ぼしい活躍をしたのは他にも居たはず。
そもそも攻撃を加えていたのは俺以外ほとんどのハンターであって、俺にとってはそちらの方が驚愕に値する。
「にーさんがライゼクスからプレスを食らいそうになったときのバリスタ!あれ、あてがやったんだよ!」
「…。」
指でピースサインを作る少女。
…なるほど、道理で俺が動きやすかったわけだ。
「それとね!あてとにーさんとシュートが知り合いって言ったら皆びっくりしてた!」
「…、一つ聞くが、それは誰に話した?」
「手当した人、皆!」
俺の記憶が正しければ、それはハンター全員である。
つまりこいつは、他のハンターに俺とナナ、シュートさんが知り合いであるということを吹聴したらしい。
それは目立ちもする。
「あたしたちちょっとした有名人になっちゃったわね。」
「…そのようですね。」
何故かシュートさんも心なしかげんなりとした表情を浮かべる。
…、さて、これからどう行動するか。
———不意に風が吹き、顔を上げる。
「…。」
青空には多数の飛行船が停泊しており、耳を傾ければ人々の生活の声が聞こえる。
ハンター達はライゼクスの話題で盛り上がり、昼間だというのにジョッキを片手に踊っている者もいる始末だ。
…、悪くない。
今は考えるのはやめよう。
するべきことは休息を取ること。
ナナに目配せをして、階段を下りる。
寒冷期の寒冷地だというのに、龍歴院は活気に満ち、胸は尚も熱く、ここがドンドルマに劣らない狩猟の最前線だということを再認識した。
- 一章【邂逅】 ( No.58 )
- 日時: 2015/12/22 02:14
- 名前: 敷島クルル (ID: QRmoI/Ul)
加工屋からハンマーを金板に打ち付ける音が晴天の下響き渡る。
龍歴院へと所属する手筈を済ますために受付嬢の元へ向かい、何かを確認されるかと身構えていたが、ものの数分でギルドカードに烙印を押され、予想とは裏腹にかなりの短時間で龍歴院所属として認定される。
正直、最悪数日手続きで拘束されることを覚悟しており、これからの時間どうするか決めあぐねていたところ、シュートさんからクエストの誘いがあった。
「見て見て!古代林よ!古代林!最近解禁されたばかりの新しいフィールドなのよ!」
「…は。」
「やるのは採取ツアーだから変に気張らなくてもいいし!」
「…はい。」
「ってカイム?貴方ハンターなりたてってのにこういうのは興奮しないの?」
「別段。」
「あてはワクワクするぞ!何か美味しいのある!?」
「あるわよー!特産ゼンマイってのがとんでもなく美味しいらしいわね!」
「おぉー!」
あまり龍歴院で他のハンターと関係を持つのは良くはないが、ここで変に断るのも余計な疑惑をかけられそうだ。
第一彼女がまだ【シックバザル】と関係を持っていないということは証明されていない。
考えていると、既に2人はフィールドへ続く門の前まで移動していた。
「あ、カイムって呼んじゃってるけどいいかしら?」
「構いません。」
「で、カイム、船での戦闘の事なんだけど。」
「はい。」
「あんた武器の扱い、下手っくそね。」
「「…………………………………………。」」
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古代林。
文字通り遥か古から変わらぬ生態が続く悠久の土地。
広大な面積を誇り、未だ全てが解明されていないそのフィールドはベースキャンプから見ても全貌が計り知れないほど広い。
キャンプには軽い研究施設が設けられており、同行した研究員が古代林で得たサンプルをその場で研究することも可能なようだ。
「…さっきの話の続きなのですがシュートさん。」
「何よ。」
「自分はハンターなりたてですので、どうか、武器の扱いをご教授できればと。」
「そうしたいのは山々だけど、あたしはライトボウガン、カイムは太刀でしょ、それは出来ないわよ。」
「そういうものでしょうか。」
「そういうものよ、それに聞くより身体に叩き込んだ方が早いわ、マッカォでも狩りましょ、見ててあげる。」
シュートさんが支給品ボックスに乱雑な状態で置かれた地図を拾い上げる。
「マッカォって小型の鳥竜種がいるんだけど、エリア5にいるらしいのよ、探索がてらとりあえずそこに向かうわよ。」
「分かりました。」
「はーい。」
地図が記す方向へ顔を向けるが…、困惑する。
ベースキャンプ事態は標高が高く、他のモンスターから見つかりにくい場所に設置しており、他のエリアを見渡すことは多少できるはずなのだが、一番手前に存在するはずのエリア1すら風景が見えない。
「…、シュートさん、大体どのくらい目的地まで時間がかかりますか?」
「う〜んそうね、私も古代林は初めてだから正確じゃないけど、エリア5まで、1時間くらい?」
「お散歩できるね!にーさん!」
「……………………。」
本来はこうしている時間も惜しいのだが、致し方ない。
遠くアプトノスの群れが水場で休息を得ている情景でも見て心を落ち着かせるとしよう。
- 一章【邂逅】 ( No.59 )
- 日時: 2015/12/20 23:07
- 名前: 敷島クルル (ID: QRmoI/Ul)
「あ、丁度いいわね、あいつ狩ってみなさい。」
「…は?」
「だから、あいつ、今木の実食べてる首長い奴。」
「…、シュートさん、初めての狩りにしては対象がデカすぎるかと…。」
「アンタあれね、肝っ玉小さいわね。」
「…。」
ベースキャンプを下りて少し道なりに進むと、エリア1に到着する。
肥沃な大地が既に広がっており、豊富な餌や水を求めて古代林のあらゆる生物がここに集まる。
この目の前の草食竜【リモセトス】たる首鳴竜もその内の一匹だ。
圧倒されるその巨体は食用としても需要が高く、種自体が比較的温厚な為、初心者が狩りを覚える為に狩猟されることが多い。
「…。」
「にーさん頑張ってー。」
見栄えの良い焼き目のついたこんがり肉を片手にナナが俺の後方から応援する。
「ナナちゃんは狩りは初めてじゃないんだ。」
「そうだよー、この武器は初めてだったけどね。」
得意げに背中に携えたツインダガーをシュートに見せる。
刀身は鋭く輝き、安価な武器だが、それでも狩りの為の武器だと見る者を実感させる。
カチャ——。
鉄刀を構え、対象と対峙する。
俺の事など眼中にないように、遥か高いところに位置する木の実を食べている。
狙いを定める。
「———ッッ!」
逆袈裟を後ろ足に見舞う。
突然の攻撃に特徴的な声が周囲に木霊する。
続いて振りかぶる形となった刀で切りおろす。
水風船のように、斬っている感覚が無いその肉体は、食用の肉の部分は多くの水分で占められており、調理をすると頬が落ちるほど美味だという。
巨体が音を立てて倒れる。
跳ね上がる水飛沫の中を走り、横たわる身体——首をめがけて上段。
抵抗なく寸断され、やがて活動が停止する。
————命を絶やす。
今、自分は目の前の生命を一つ滅ぼした。
徒に、斬った感触が未だ掌に残る。
「やるじゃない、合格よ合格。」
「…、シュートさん。」
「何よ、そんな暗い顔して。」
「自分の今の行為に何か意味はあったのでしょうか。」
鉄刀を鞘にしまう。
「何の罪も、ただ空腹を満たすためにこの場にいたこの竜を自分の勝手で殺す、この一連に何か意味はあったのでしょうか。」
「あるわよ。」
即答。
自分の罪悪感、いや違うな。
自分を守る価値観という偽善を語る俺に、目の前の、自分より遥か下の年を生きる少女があっけからんと答える。
「この竜が食べてたあの木の実、何か分かる?」
「…いえ。」
「あれは成長するととんでもない量の果実を実らすの、100じゃ効かないくらい、それも一つ一つがやたらでかいの。」
「…?」
「それをアンタが止めた、この意味わかる?」
「…、つまりあの果物が成長すればここにより多くのリモセトスが集う。」
「そういうことね、ついで言えばそれを狙う大型の生物もより増えることになるわ。」
ハンターとは自然と人間の調和。
その仕事の内には、自然環境の保護も入っている。
自分がした今の行為は、1の命を殺し、100の命を守る——、そういうことなのだろう。
「それでもアンタの中に罪悪感が残ってるなら、それは偽善よ。」
少女はきっぱりと告げる。
「…正直あまり良い気分ではありません。」
「そうね、命を自分達の都合で一方的に絶やすってことは気持ちよくないわ。」
「しかし、今のシュートさんの言葉の意味は分かりました、なんとか理解してみます。」
頭を下げる。
「ちょっ!やめてよね!アンタ私よりも年上なんだからシャキッとしてよシャキッと!」
わたわたと目の前の少女が慌てる。
仕方なく頭を上げる。
「…師匠。」
「誰が師匠じゃ!」
…、否定されてしまった。
「ともかく、肉をはぎ取って食べるわよ。」
「…、どこからですか。」
「どこでもいいわよ、アンタ神経質ね。」
「…。」
先ほどナナもこの位置から剥ぎ取っていたのを参考に最も脂肪が多いと思われる腹周りに剥ぎ取り用のナイフで切れ込みを加える。
肉の感触が生々しく、どろり、と未だ輝いている鮮血が溢れ出る。
だが、先ほどよりかは断然マシだ。
この行為には意味があった。
命を絶やすことで他の命を救う、知識ではあったが、こうして自ら実践することで、価値観が変わるのが実感できる。
人間を殺すこと、悪党を殺すこととは全く違う。
【殺す】という過程は同じでも、理由と結果がまるで異なる。
頼まれ、殺し、恨みを買う。
理解し、殺し、他の命を救う。
すなわち前者は終わらぬ復讐の輪廻。
後者は自然界の弱肉強食、食物連鎖という絶対の理。
———作業を終える。
「…出来ました。」
「アンタその1メートルは優に及ばない肉の絨毯を誰が食べるっての。」
「…。」
- 一章【邂逅】 ( No.60 )
- 日時: 2015/12/22 02:13
- 名前: 敷島クルル (ID: QRmoI/Ul)
「これは、確かに美味しいですね。」
リモセトスから剥ぎ取った生肉をシュートさんが持参していた肉焼きセットで調理し、一同は巨木の影で一段落着いていた。
「そうね!この調子なら何個でも食べれるわ!」
「シュート全部食べるなよ、太るぞ。」
「…ナナちゃんそれ以上喋るとお姉ちゃんただじゃ置かないわよ。」
「え?何?シュートのお肉がリモセトスの肉みたいにぶよぶよに、ブヨブヨした皮になるって?」
「誰が皮下脂肪フルフルじゃコラァ!!」
ツブテ弾をナナに向かって射撃するが、それをナナが走り回るように避ける、元気な事だ。
残った生肉をシュートさんの代わりにポーチへとしまう。
皮下脂肪がフルフル…上手いな…。
思わずにやつくと、その瞬間に座っていた木の根が爆ぜる。
「アンタも今失礼な事考えたでしょ!」
「…は、しかしシュートさんの場合は一般的な成人直前女性の肉付きと比べて胸部がやや貧弱ですので良く食べた方が良いかと自分は思います。」
「———なっっ!!」
赤面する少女。
何か可笑しなことを言ったのだろうか、彼女は身長はナナよりは一回り大きいが、一般的な女性の身長と比べるとやや小さい。
それに伴って胸部が幼く見える、そういった旨のつもりで言ったのだが。
「…、お年頃の女性は皆、胸部の悩みを抱えていると聞きます、さ、どうかシュートさん、自分の生肉を差し上げま———
言葉の途中で視界がぶれる。
何故だ?酒は飲んでいないはずだが。
目の前には軽弩を構えるシュートさん、銃口からは硝煙が立ち上っている。
その意味も知らぬまま俺の意識は深い闇へと落ちて行った。
- 一章【邂逅】 ( No.61 )
- 日時: 2015/12/23 01:44
- 名前: 敷島クルル (ID: QRmoI/Ul)
エリア1を離れ、未だ陽気な太陽が古代林を照らす。
しばらく歩いてはいるが、エリア5を示すベースキャンプの跡地はまだ視界で捉えていない。
「シュートさん、あと目的地までどのくらいですか?」
俺から少し離れた後方、ナナと並走しているシュートさんに問うが返事がこない。
代わりに返ってきたのは口をとんがらせ、俺から視線を逸らす態度。
頭の中を何故、という感情が支配しながらほぼ獣道と言っていい見た事も無いような草が生い茂った道を進むと、ついに見えた。
朽ちたベースキャンプ。
何者かの襲撃にあったのか、中が荒らされもはや拠点としては完全に成り立っていない。
「ん、にーさん、いるよ。」
ナナの声に、身体が硬直する。
自分の視界、耳では対象を捉えていない、が、確かに気配、とでも言うのだろうか。
夜盗の群れが荷車を狙っているような、その渦中にいるかのような感覚。
「私もマッカォってのと戦うの初めてだから、やろうかな。」
シュートさんが、グリップに多くの摩擦後を残しているヴァルキリーファイアを構える。
改めて見るが、恐るべき使い込みだ。
構えて走る際に持つ、持ち手、トリガーの色褪せ。
驚くべきは、そこ以外は新品同様の輝きを放っており、彼女がどれだけ長く愛用していた軽弩か一目で分かる。
「ナナちゃん、気を付けてね、もしかしたら数が多いかも。」
「ありがと、ねーさんも気を付けてね。」
シュートに続き、ナナも背中のツインダガーを手慣れたように構える。
元は二振りのナイフを暗殺に使っていた為か、基本は見る感じではできているようで、彼女自身もリラックスした表情で、敵が迫るのを待つ。
「シュートさん、囲まれたら自分が先行します。」
「後ろから撃つかも。」
「…。」
冗談とも取れない声のトーンで返される。
太刀を構える。
飛行船の時と同じように、帯刀の構え、即座に反撃、攻撃が出来る崩しの型。
見よう見まねだが、理に適っていると感じたのはやはり、刀身の重量を身体全体で自然に分散出来ているからだ。
——「「ギギャォオウッ!!」」
身の丈以上の草葉の影から、現れた。
標的は自分、鋭利に伸びた爪が、今さっきまで俺が居た虚空を切り裂く。
追撃はない。
マッカォとは良く言ったもので、図鑑でみた小型鳥竜種骨格だが、目を引くのは緑鮮やかな鱗に覆われた体表と、火薬草のような色をした深紅の頭部。
軽い足取りで視線が再び俺を捉える。
——「「ッッギギャオオ!!」」
後方からも声。
目の前のマッカォと対峙しつつ様子をうかがう。
シュートさん、ナナ、それぞれに一匹ずつのマッカォが爪をぶらつかせながら牽制している。
…丁度いい。
真っ向のマッカォを捉える。
——上段、一文字。
必殺のそれを放つが、難なく避けられる。
からかうように、避けたマッカォが全身を使ったタックルを眼前目掛けて放つ、が、予備動作から見極め、後方へ下がる。
体勢が崩れる隙を逃さずに突きをマッカォ腹部へと放つ。
一撃で勝負を決めることよりも、こういった素早い手合いは搦め手の方が効率的だと判断。
筋繊維を突き破り、反対側から太刀の先端が見え隠れしている。
奇声を上げるマッカォを力任せに蹴り、太刀を強引に抜く。
人間なら立っていられない深手。
痙攣しつつも、痛みを感じていないかのように牙を向ける———その顔へと太刀を突き立てる。
二度ほどのビクンと身体を震わせるが、刃が脳にまで達しており、程なく力尽きる。
自分の予想以上に太刀を振るえたことに驚く。
なるほど…、モンスターも生き物、人間と同じく観察し、弱点を見付け、避けるのを前提に対峙すれば、この程度の相手なら遅れを取らない。
———シュートさん、彼女と目が合う。
それは不意にだった。
後方の様子を確認しようと振り返った、景色が回っている僅かな瞬間に、彼女は俺を見ていた。
船に乗った時のあの視線。
——「「ギギャオォ!」」
彼女へと迫る双牙など目に映っていないかのように、空中のマッカォへと銃口を突きつける。
空中の敵を捉えることが当たり前のように銃口が火を噴き、過剰火力を受けたマッカォは空中で跳ね飛ばされたかのように後方へ跳ねる。
「…。」
「……。」
視線が交わる。
虚空を見つめるような視線。
何かを確かめているかのような目線。
「よっと。」
シュートさんの更に後方。
ツインダガーでマッカォの喉元を掻っ切ったナナは、追撃といわんばかりにのたうちまわるマッカォを踏みつける。
手慣れた様子で顎から脳へと刃を突く。
「なんだー、あてが一番遅かったのか。」
血に塗れたツインダガーを気にせず背中へと納める。
こちらに近づいてくるナナなど気にしている余裕はない。
———シュートさんの右手がポーチへと伸びる。
- 一章【邂逅】 ( No.62 )
- 日時: 2015/12/23 17:32
- 名前: 敷島クルル (ID: QRmoI/Ul)
見えない指の動きを計算、あの間合いから繰り出されるもの…!
放たれるそれを右へと避ける。
風切り音を発しながらナイフは、俺の後方、巨木へと深く突き刺さっている。
…当たればどうなっていたか言うまでもないだろう。
「…、これはどういうことですか、シュートさん。」
「アンタ、やっぱただの新米ハンターじゃないわね。」
不敵に笑う彼女の手は再びポーチへと。
「確かに武器の扱いは初心者よ、けど、アクシデントと戦闘に関しては、初心者じゃないわよね?」
「…それは貴女も同じでしょう、貴女が飛行船で行っていた行為は明らかに対人戦闘を経験した者が放つ殺気。」
手に握られていたのは三枚のナイフ、大きさから察するに先ほどと同じ投合用だろう。
「それもお見通しってことね、アンタ何者?大人しくしとけば命は取らないわ。」
「【シックバザル】を知っているか?」
「ッッ!」
———彼女の顔に動揺が走るのを見逃さなかった。
一足で目前まで迫る。
前蹴りでナイフを捉える。
咄嗟の対応が遅れたのか、難なく金属音を響かせながらナイフがはじけ飛ばされる。
「——!!」
咄嗟に身を屈める。
彼女の右足が延髄へと鎌首もたげて空を斬る。
リオレイアの甲殻で守られた蹴りが見舞われなどしたら気絶どころではない。
反撃(カウンンター)、下から鳩尾へと掌底。
「ッッ!!」
今度は手応えを感じる。
続いて手刀をよろけた身体、首めがけて振るうが、両手で受け止められる。
「や、るじゃないの…!」
「…質問に答えろ、【シックバザル】の一員か?」
「そんなわけないじゃない…!アンタこそどうなの!何者よ!」
「…答える道理はない。」
無防備な下半身へと足払いをする。
均衡が崩れ、彼女の身体が空中で回転する。
「———ッッなっ!!」
俺の身体が地に伏せる。
脚で首を決められ、背中には彼女が伸し掛かっている。
落下を利用して、俺の首へと脚をかけ、そのまま巴投げの要領で寝技へと持ち込まれた。
「次はこっちが質問する番ね。」
首にかける力が大きくなり、頭が血液でパンクしそうになる感覚を覚える。
振りほどこうにも手も抑えられている。
「アンタ何者?アンタこそ【シックバザル】じゃないの?」
「——あっ…!かっ!」
違う!
そんなわけない!
叫ぼうと口を開いても出てくるのは僅かな空気。
この女、絞め殺す気か…!
「がっ…!あっ!……っっ!」
「どうなの!質問に答え—————
打撃音。
新鮮な空気が肺へと急速に供給され、思わずむせる。
俺を解放したのは、白髪の少女。
急所——頸椎を防具で強固になったつま先で容赦なく蹴り抜いた。
だが尚も手を緩めず、吹き飛ばされたシュートへ馬乗りになり、両手が細い首へとかかる。
…立ちくらみを何とかやり過ごし、状況を確認する。
ナナの目には明らかな殺意が伺え、赤い瞳が見開き、シュートを睨みつけている。
ギリギリ…、とこちらまで聞こえる締め付ける音。
対するシュートの目には涙が浮かび、何かを言おうとしてるが、声を出せるほど喉が開いていない。
…、このままでは。
「ナナ!…もういい、そのままじゃ死ぬぞ。」
「…、うん。」
蝋燭の火が風で消えるように、ふと、首へと掛けられた力が消え、解放する。
「げほっっ!がはっ!!ッッ!」
首が千切れていないか確認するかのように、両手で首を抑え、こちらを睨みつける。
「俺達は【シックバザル】ではないです、どうか信じて欲しい。」
咳き込みながらも、こちらを見る目は緩まない。
…が、しばらくして落ち着いたのか、肩で息をしながらゆっくりと上体を上げる。
「じゃあ、何よ、そのべらぼうな戦闘経験。」
「…殺し屋です。」
「………は?」
「こちらのナナと俺達は殺し屋です、仕事の関係で【シックバザル】を追って龍歴院まで来ました」
- 一章【邂逅】 ( No.63 )
- 日時: 2015/12/24 06:15
- 名前: 敷島クルル (ID: QRmoI/Ul)
「殺し屋…?」
俄かには信じられない、とでも言うような顔を浮かべる。
既に闘志は無いようで、腕を組み、いつもの調子で続ける。
「その殺し屋が【シックバザル】に何の用よ、そもそもアンタ達ホントにハンターなの?」
矢継ぎ早に質問しながら近づく彼女。
顔は俺の眼前へと迫る。
「【シックバザル】には依頼…組織幹部及び構成員の殺害の依頼が出ています。」
「…。」
視線が俺からナナへと移る。
…じろじろと下から上まで嘗め回すように見回す。
「ん?どした、何かついてる?」
「…ナナちゃんのこの雰囲気から騙されたけど、この子とんでもない怪力ね。」
「へへ!良く食べて良く寝てるからな!」
「…こんな子に不覚を取られたのね。」
頭に?を浮かべるナナ。
肩を落としたシュートさんの目線が再び俺へと戻る。
「龍歴院に忍び込む為に…ハンターに偽装したの?」
「…。」
しまった、喋り過ぎたか。
沈黙を通すが、それこそ肯定しているようなものだ。
「アンタ、私の正体気になってたわね、教えてあげよっか。」
「?」
そう言い、おもむろにポーチを漁り始める。
出された手に握られていたのは、拳大のプレート。
刻まれていたのは。
「———ッッ!!」
ハンターズギルドの紋章、それに加え騎士の紋様も刻まれてある。
実物を見るのは初めてだが、これは紛れもないギルドナイトの証。
…最悪の事態だ、ハンター偽装をまさか管理直下の人間に見つかるとは!
「あ、その顔焦ってる。」
「…俺達をどうする気ですか。」
「別に、どうもしないわよ。」
「…は?」
「私、今アンタに止められてなかったら死んでたしね、貸しよ貸し。」
しかし彼女は噂に聞くギルドナイトとは遥かに違った風貌。
彼女は自由奔放、とでもいうのか。
厳格な気品や知性、そういったものは毛ほどに感じない。
「それに私も【シックバザル】を追ってるのよ。」
「…事情はお察しします。数々のハンターズギルドへの襲撃、略奪。」
確かに【シックバザル】ほどの密猟グループともなるとギルドナイトが動いているのは当然だった。
しかし、まさか当の本人が目の前にいるとは。
「私たち、協力関係にならないかしら?」
…笑顔で、俺が受け入れることを当然のように告げられる。
確かにギルドナイトはハンターズギルドでも特権階級、龍歴院にも顔が効く。
【シックバザル】が龍歴院内部に居るのだとするのなら、彼女と行動を共にするのは理に適っている。
だが、急な申し出、何か裏がある可能性も否めない。
そもそも違法行為をしているのはこちらで裁く権利は彼女にある。
彼女に理がある取引だった、断れば通告され、承諾したとしてもいつ手に縄をかけられるか…。
「…、喜んでお願いいたします。」
「ありがと、じゃあ、お互いが持っている【シックバザル】の情報の交換からでいいかしら?」
握手を交わす。
…そうか、彼女も【シックバザル】を探していた身なのなら飛行船で誰かを密かに探していたのも納得がいく。
そして同じように彼女からしてみれば、俺達も怪しく見えたはずだ。
とどのつまり、俺達は誤解しあっていた、という訳か。
事情が分かれば愉快な事このうえない。
「ひとまず龍歴院へと戻り、宿かどこか休める場所に向かいましょう。」
「それ賛成ね、こんな何が潜んでるか分からない場所で話すのは確かに気味が悪いわ。」
「お!ご飯か!」