二次創作小説(映像)※倉庫ログ

一章【邂逅】 ( No.66 )
日時: 2015/12/24 21:53
名前: 敷島クルル ◆vhkHu4l20g (ID: QRmoI/Ul)

日は既に落ち、炊事の煙が各所から立ち上る。
龍歴院では狩りを終えたハンター達が外で酒盛りや軽い宴を繰り広げている中、宿を見付け、受付を済ませる。

成人ほどの女性が愛想の良い対応で2階の部屋まで案内してくれ、重い疲労感を感じながら椅子に腰を落ち着かせる。

外の喧騒が意外にも心地よく、疲労に身を任せ瞼を閉じると飛行船での出来事、採取ツアーでの事が鮮明に頭に浮かぶ。

「…なんで私も同じ部屋なワケよ。」
「この方が情報交換及び今後の作戦を練るのに良いかと。」
「シュート!まくら投げしよ!まくら投げ!」

狭い室内にナナの声が良く響く。
それもそのはず、既に時間は深夜手前であり、龍歴院内部のこの宿はこの部屋、一人用の部屋以外は満席であった。

「ナナちゃんは良いけど!アンタと何で同じ部屋なのよ!」
「…何か問題でも。」
「ありよ!おおあり!何で今日知り合った男女が一つ屋根の下、朝を迎えなきゃならないのよ!」
「えへへー、シュート、3人だぞ。」
「そういう問題じゃないわよ!」
「え?3、さん…3P?」
「…アンタこの子になんてこと教えてんのよぉ!!」

瞼を閉じて疲労を少しでも取ろうとしていた顔面に枕が投げつけられる。
…難しい人だ。

「…何を言っているか自分には分かりませんが、夜は情報収集の為自分は席を立ちます、ご安心を。」
「えっ?あ、ごめんなさい、そういった…意味じゃないわよ、ほ、ほら!冗談よ冗談。」
「冗談だったのかー?」
「…ひょっとしてナナちゃんて、結構お盛ん?」
「…はい、自分もほとほと困っております。」

雑談を交えながら、頭の装備を外す。
これだけで存外解放された気分になる。

「【シックバザル】についての情報は道中お話しした通りです。」
「あたしも、お互い知ってる範囲はほとんど同じだったわね。」

道中飛行船で情報を共有しており、そこから得られた情報は俺達が持っている情報、すなわち。

——龍歴院内部に【シックバザル】の拠点があること。
——龍歴院全体の物資及び人員の入れ替え、増加の動きが活発であること。

今自分達が持っている情報はこれだけであった。

「自分は夜、怪しい人物が居ないか捜索を行います。」
「私は明日、ギルドナイトとしての手続きがあるから、それで少し抜けるわ。」
「あてはにーさんに付いてく!」

方針が決まった。
ほとんど個人プレイだが、相手の動きが分からない以上下手な動きは出来ない。
これが現状できうる手だろう。

「…シュートさん。」
「なによ、改まって。」
「ギルドナイト、ということは本当なのですか。」
「ほんとよ!信じられないなら明日摘発してもいいのよ?」
「…ご勘弁を。」

…ギルドナイト。
ギルドを守り、ハンター達を統括するためのギルド直属組織「ギルドナイツ」に任命された特殊なハンター。
表向きはギルド専属のハンター。しかしその実は対ハンター用ハンター。
モンスターではなくハンターを狩ると噂される存在。
主な業務は依頼主(王国や村、個人)との交渉、密猟者(非公式ハンター)の取り締まりや、未確認モンスターの情報収集などである。
裏の主な仕事は悪質なハンター(密猟常習犯や殺人を犯した者)の捜索・抹消。
各ギルド毎に設置されているが、最大でも12名までしかその称号を得る事は出来ない。
そのハードルは非常に高く、何かしらハンターとして飛び抜けた実力が必要とされ、
また非常時にはハンター達の指揮を執る必要もあるため、ある程度のリーダーシップも必要である。

「…貴女が。」
「不満?」
「いえ、そのような事は断じて、しかしギルドナイトになるには多くの年月と実績が必要なはず、失礼ですが自分より10歳ほど下の少女が務まる物でしょうか。」

俺の問いに、どこか遠い目をする。
微笑むような、儚いものをみつめるような。

「親のコネよ、ちょっと名のあるハンターだったの。」
「…成程、業務を受け継がれたのですね。」
「そ、ギルドナイトの仕事を一番間近で見て来たからね、ギルドにとっても新しいハンターからギルドナイト探すよりも手間が省けたんでしょ。」

ギルド内部の動きに乏しい自分だが何となく察する。
極秘依頼を数多く受けるギルドナイトになれる人物はそう多くない、それを探し当てるよりも現ギルドナイトの子供をギルドナイトそして育てた方が効率的ではある。

「親御さんは今、実家ですか。」
「…2人とももう居ないんだ。」

変わらない微笑み。
左手で美しい輝きを放つピアスを弄ぶ。

「…失礼しました。謝罪します。」
「いいのいいの、頭上げて!もう終わったことなんだから、ほら!ただでさえアンタ顔暗いんだからそんなことしてちゃ真っ黒になっちゃうわよ!」

しぶしぶ頭を上げる。
疲労感からかとんでもない事を口にしてしまった自分を殴りたい。

「あてもお母さんいないぞ!大丈夫!」
「えっ?ナナちゃん?」
「お父さんは見た事ないし、お母さんどっか行っちゃったし、だからシュート!大丈夫!あても一緒だぞ!」

予想していなかった横からの言葉にシュートさんが言葉を失う。
ナナを見て吹き出し、柔らかな、年相応な笑顔でこちらを向く。

「アンタ達、性格全く違うのに良い兄妹ね。」

「「兄妹じゃない(ぞ!)です。」」






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