二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 二章【青き英雄】 ( No.80 )
- 日時: 2016/01/03 21:26
- 名前: 敷島クルル ◆vhkHu4l20g (ID: QRmoI/Ul)
「…。」
少年の額で太刀が止まる。
寸止めされた、情けを掛けられたのだろうと、瞬時に把握する。
「参りました…。」
少年の声に、道場入口で座りの見物をしていた教官が、「止め、勝負あり。」と2人を止める。
しかし、勝敗の結果に反して少年の顔は活気に満ち溢れていた。
試合終了と共に、カイムの元へと駆けだす。
「あ、あの!体術ですよね!あれ!初めて見ました!」
「…、はい。」
カイムは困惑する。
何故、こんなにも明るいのだろうか。
試合に負けたにも関わらず、何故こんなにも笑顔に満ち溢れているのか。
少年の目を見て、納得する。
あぁ、なんて真っ直ぐな目なのだろう、と。
そこには腕の優劣よりも、なんでも吸収したい、という貪欲な向上心を持つ輝く瞳。
カイムが長らく忘れていた、純粋な眼差し。
「ルカよ、この試合で分かっただろう?」
「…、分かりました。」
タオルをルカに投げつける教官。
「お前の戦いの常識など、まだまだ狭い、固定概念に縛られたお前の剣はなまくらにも劣る。」
「はい…。」
「さて、カイム君、と言ったかね。」
「…はい。」
「どうだ、このルカを貴方の旅に連れ添ってもらえんだろうか?」
「…。」
有り得ない。
とカイムは心の中で断言する。
そもそも試合の決着をつけたのは暗殺で用いる接近体術。
ハンターを目指す少年が身に着ける技術でもなければ、モンスターには必要すらないだろう。
そして自分はハンターではなく暗殺者、ハンターを目指す若者とは遠くかけ離れた存在である。
「申し訳ありませんが…。」
言い淀む。
少年を連れて行くのは、可能性としては0そのものだ。
「経歴を見るに、先日ハンターになりたての様子、どうかルカと一緒に腕を高めてはいかがか?」
無精髭をなぞり、教官がカイムを見据える。
しかしカイムの答えは変わるハズなど無い。
この村に訪れたのも、地元の人間とコミュニケーションを取り、情報収集を円滑に進める為。
村長の息子を暗殺者と同行させるなどあってはならぬ。
「お願いします!カイムさん!僕を連れて行ってください!」
…だがどうしてだろうか。
未だ否定の言葉を口には出せない。
ルカと呼ばれた少年の目はあまりにも似ている。
自分にはそれしかない、と知り、必死に縋り付く瞳。
俺は過去に見た事がある、知っている。
それを拒む術を、自分は持ち合わせていない。
「…分かりました、ルカ君の同行を認めましょう。」
帰ったら2人になんと説明しようか、と逡巡するカイムであった。
- 二章【青き英雄】 ( No.81 )
- 日時: 2016/01/05 17:37
- 名前: 敷島クルル ◆vhkHu4l20g (ID: QRmoI/Ul)
「ミナト=カイムさん、改めてよろしくお願いします!ルカ=ベルナ=ベリルです!」
「…。」
「これからは狩団長のミナトさんに付いていきます!ふつつかものですがよろしくお願いします!」
「………。」
頭に思考が回らない。
寒冷期の青空、冷えわたる冷気に脳の歯車が凍ったかのように動かない。
どうしてこうなった。
疑問が軽く100回ほどループしたのを最後にミナト=カイムの脳の活動が音を上げて停止した。
かろうじて2人のところに戻るというある種の帰巣本能が働いてくれたのか、思考は止まっても足は進んでいた。
「ミナト団長…、なんて呼べばいいですかね?自分狩団に入ったことがないので…。」
「…。」
「あぁっ!でもあれですよね!僕みたいな新参者が団長さんのお傍に居ちゃだめですよね!半径3メートルはキープします!」
「…あ。」
悩みの種が大通り中央を歩いていたはずが脇道に入ろうとしていたところでようやく外界からの音が耳に入っていないことに気付く。
「…ルカさん。」
「はい!なんでしょう!団長!」
子犬のように無邪気な笑顔を輝かせながら軽い足取りで俺の隣に並ぶ。
「…その、狩団長とは?」
「何を言ってるんですか!ミナトさん程の腕ならば狩団の長なのは当然ですよね!何人の狩団なんですか!100人ですか!?」
「…ルカさん、君の考えに間違いが3つあるのですが、ご指摘してもいいでしょうか。」
「あっ!はい!お願いします!」
「…まず一つ、自分は狩団長ではありません。」
「えぇっ!?」
「二つ目、狩団と呼べるかどうかは分かりませんが、現在同行している者は2人だけです。」
「えぇええっ!?」
「三つ目、そもそも自分はルカさんと同じく先日ハンターになったばかりです。」
「なんですとっ!!」
「ですので考え直すことをお勧めします。」
「…それでもミナトさんは凄い人です!武器を交えて確信しています!教官とは違った強さを持ってます!」
「…。」
「ですので付いていきます!よろしくお願いします!」
どこまでも輝く瞳。
打算なく、自分が信じた道を疑わずに進む心を持っている。
こういった人間がハンターとなり、人々から尊敬されるのだろう。
幼さが残る顔立ちでも、その真摯な心意気につい自分を照らし合わせてしまう。
少年に繰り出した技は殺人術、至近戦(インファイト)での、狩りとはまったく関係ない技である。
少年は勘違いをもう一つしている。
狩りの腕は少年の方が何枚も上手だろう、教官といったあの男から約一年ハンターとして修業したのならそれは当然である。
磨けばどこまでも輝く才能を持っている。
反して自分達の集団はその場の利益だけで活動しているだけの、その場限りの集団。
目的はハンターとしての務めではなく、密猟グループの殲滅。
巻き込むわけにはいかないのは当然の事、【シックバザル】との戦闘もあり得、最悪命の危険もある。
「ミナトさん?」
疑うことを知らない無垢な目。
「ルカさん、自分の旅の目的は正直ハンター職とは離れた事を行います、貴方は後悔すると断言しますが、どうしますか。」
問いに逡巡する。
口を一度開きかけるも、俺の目を見て躊躇う。
少年は計っているのだろう、少年なりに俺の人間としての器を。
「…それでも!付いていきます!酷い人なら説明も無しに僕をコキ使います!でもミナトさんはちゃんと説明してくれましたよ!」
「…。」
「ミナトさんから沢山色んな事を吸収します!僕の心配は大丈夫ですよ!」
「…分かりました、そういう事なら。」
今の自分の心が分からなくなる。
少年を自分と付き添うことにして泣いているのか、それとも嗤っているのか。
どちらでもなく、ただ絶望しているのか。
一つ分かるのは、少年の瞳は曇りなき太陽のような目でこちらを見据えてくれていることだ。
- 二章【青き英雄】 ( No.82 )
- 日時: 2016/01/06 00:27
- 名前: 敷島クルル ◆vhkHu4l20g (ID: QRmoI/Ul)
「誰よその子。」
「あっあの!初めまして!ミナトさんの狩団に入ることになったルカ=ベルナ=ベリルです!よろしくお願いします!」
「珍しい、にーさんが誰か連れてくるなんて、あてはナナだよー。」
「よろしくお願いします!」
「…良く見れば可愛い顔ね、ちょっとアンタ!どこから誘拐してきたのよ!事と次第によっちゃ今ここでアンタを!」
…案の定、宿の一室は大混乱。
しかし、仕方ない。
決めてしまったものは仕方ない、ルカを俺の旅に付き添わせる。
これは決定事項だ、もう覆るものではない。
ルカが自分から離れるのを待つしかない。
などと考えているとシュートさん、彼女が俺の耳元まで顔を近づける。
「…アンタ、どういう要件かは詮索しないけど、目的に邪魔じゃないの?この子。」
「はい、自分もその可能性を考慮しました、任務の際はなんとか誤魔化すしかないかと。」
「不確定要素が多すぎるでしょ!」
一際大きい声。
ナナとルカが反応してこちらを見るが、何でもない、とシュートさんがジェスチャー。
再び凄みを利かせた声が耳元で囁かれる。
「…ただでさえ相手の尻尾も掴めてないのに、この子も増えるのは、…さすがに無茶よ。」
「無茶は承知です、しかし彼は自分と同じハンターになりたて、有事の際にも正真正銘ハンターの彼の存在は大きいかと。」
「…ギルドナイトの私は無闇に素性をばらす訳にもいかないし、アンタ達に至っては非合法ハンター、確かに何かあった時彼を囮にすればいいのね。」
あっけからんと答える。
囮、要は万が一俺とナナの素性がばれた場合、同じパーティを組んでいたルカに責任を押し付けて逃亡をすれば逮捕の可能性が少なくなる。
…もちろんそれは最後の手段となるわけだが。
「…でも一般のハンターに事故が起こるのは本意ではないわ、私もフォローしてみるけど、何かあっても知らないわよ。」
「それでいいです、ありがとうございます。」
顔が離れる。
意識を耳元から外界へと向ける。
「へぇ〜ルカの髪の毛の色あれだね、お米みたいな色だね。」
「お米って白じゃ…僕のはどちらかというと小麦色とか金色じゃ…あ、収穫前のお米ですね、なるほどそういう…、そういうナナさん髪の毛はほんとにお米みたいですね。」
「ほ〜…?美味しそうってこと?」
「お、おおお美味しそうってなんですか!僕はあれですよ!あくまで色の!」
「マセてるわねアンタ達。」
「シュートの髪の毛は美味しくなさそうな色だ、茶髪。」
「失礼ね、栗とかあるじゃないの。」
「栗!ほんとだ!シュートの髪の毛美味しそう!」
「えっちょっとナナちゃん、なんで涎垂らしながら近づいてくるのかな〜?…やっ!ちょっ!重い!しがみつくな!」
…頭が痛くなる光景だ。
会話の矛先が自分に向かない事を祈りながら、いつもの窓際の椅子に腰を落ち着かせる。
つい先日外から聞こえてきた宴のような賑わいがまさか自分が同行するパーティから聞こえるのはどうも妙な気分だった。