二次創作小説(映像)※倉庫ログ

【リベトラ読者企画】ルカ、古代林にて ( No.86 )
日時: 2016/01/09 16:18
名前: 敷島クルル ◆vhkHu4l20g (ID: QRmoI/Ul)

「あぁっ!!あった!ありましたよ教官!!」

下層へと進んで、どのくらい時間がかかったかの時間感覚も麻痺している中、エリア10にてついに群生している深層シメジを発見した。
居もしない教官に思わず叫んだけど、幸い声に反応するモンスターが居なくて良かった。
僕の声が虚しく反響する。

「5個だよね確か…一つ足りないや。」

エリア11は目と鼻の先、しかし時間がそろそろ危ない。
このエリアにないなら4つで勘弁してもらった方が…


…!


エリア中央に緑色で不気味に輝くキノコ。
深層シメジが特産キノコに交じっているのに気づく。


「やったぁー!!神様ありがとう!最後の一個だ!」


脈動している訳が分からない菌類に触らないように、丁寧に摘み取る。
色と形、どれを見ても今まで採取した深層シメジよりも不気味な緑色、美味しい証拠だ。


「…ッ!」


ベルダーアックスへ手をかける。

今確かにマッカォの断末魔が耳を突いた。
茂みからの声、地図にも載っていない獣道だ。

そういえば古代林最深部まで来たのにモンスターに今まで出会っていない。

マッカォをはじめとした鳥竜種は夜行性のはず、すでに活動を始めてもおかしくない時間帯なのに一匹も姿を現さない。


「…それどころか動物一匹見ていないような。」

ブナハブラの羽音すら聞こえてこない静けさに心が警鐘を鳴らす。
周囲に気を張り詰めるが、いよいよ何も聞こえてこない、野鳥のさえずりすら聞こえない古代林は極めて、そう、とても不気味だ。

何か有事があってからでは遅い、と判断して肉焼きセットを組み立てる。

スタミナを補給しなければ、逃げることもままならない。
リモセトスの脂身溢れる生肉に火をかける——————



「「ゴガアアアアァァァァァアアアア!!!!!!」」




何だ。
聞いたことも無いような声。

発したものから理性のかけらも感じないような轟音。

モンスター同士の争いならばどちらの声も聞こえてくるはず。

しかし不気味な物音しない古代林から一匹のみの声しか聞こえない、すなわち、声の主はモンスターと争っているわけでもない。
まるで縄張りなど関係ないというような横暴さが声の主から感じ取れる。

———そしてその声はすぐ後ろの茂みから聞こえたような気がして。



「ッッッッ!!!」




イビルジョー。


世界には、生物でありながら「天災」として恐れられる生物が存在する。
"大自然の最たる脅威"と定義される「古龍種」に定められたモンスター達である。
彼らは超常的な生態を持ち、それによって周辺の環境や生態系、
あるいは人々の生活に対しても大きな影響力を振りかざし、
出現が確認されただけで非常事態宣言や避難指示が出る場合があるほどの圧倒的な力を持つ。
しかし世界には、古龍種に分類されていないにも関わらず、
周辺の環境や生態系に多大な影響をもたらす、
或いは古龍種に匹敵するほどの力を持つとされるモンスターが複数確認されている。
ギルドはこれらのモンスターを総称して「古龍級生物」と呼ぶようになった。


目の前の生物は図鑑でしか見た事のない、暴食の悪魔。



暴食の権化たる特級の危険生物。
強大な大型モンスターであっても捕食対象とする上に、環境適応能力も極めて高く、
出現した地域一帯のモンスターを食らい尽くすことで生態系を崩壊させてしまう恐るべき存在である。
「全生態系にとって極めて危険な存在」という記述や
同じく古龍級のモンスターであるラージャンや古龍種であるキリンに襲い掛かったという
これらの報告からして、イビルジョーもまた古龍種に比肩する存在であると考えられる。



そして脳内の知識とは異なる点。

それは口から迸る龍属性のエネルギーに他ならない。


飢餓イビルジョー。


僕の目の前に口を開けて佇んでいるのは正に地獄から来た悪魔のようなモンスターだった。

【リベトラ読者企画】ルカ、古代林にて ( No.87 )
日時: 2016/01/11 11:49
名前: 敷島クルル ◆vhkHu4l20g (ID: QRmoI/Ul)

脚が動かない。

地面に根を生やしたかのように身体が言う事を聞かない。
逃げなきゃ。

逃げなきゃ殺される、理解しても身体は食物連鎖、弱肉強食の掟に準じており、思考だけしかまわらない。

「「ゴアアァァァアアアアッッ!!」」

「—————ッッッ!!!???」

耳が張り裂ける程の咆哮。
命の危険に手が反射的に耳へと当てられる。

それでも脳を揺らす大音響、耳を塞いでいる手が無ければこの身体が消し飛んでいただろう、と冗談なしに確信する。


虚空を見つめる深紅の瞳が軌跡を描いてこちらを捉える。


「え、ええと!モドリ玉!モドリ玉!」


地面に叩きつけて、周囲にいるであろうギルド所属のアイルーへ緊急事態を伝える。



「———なっ、えぇ!!??」


救援など寄越さないと言わんとばかりにイビルジョーの強靭な尾が僕の目の前を旋回する。
モドリ玉の煙も尻尾の風圧だけで消し飛んでしまった。


どうしよう、どうすれば、この場を乗り切れるか。


そこらに生えてる千年以上生きた大木よりも太いであろう尻尾を揺らしながら、ゆっくりとこちらへ近づく。



「あ、えぇと僕はまだ幼いし!小さいし!肉もないし!いや!筋肉はあるけど!まだまだこれから成長するからどうか見逃してください!」



目を瞑って懇願する。

モンスターに言葉が分かるはずもない、今の僕の姿はさも滑稽であろう。
それが通じたのかいつまで経っても食べられるような感触は感じない。
…おそるおそる目を開ける。



肉を、僕が焼こうとしていた肉を肉焼きセットごと食べている。



何をしているんだ僕は、と脳の意識を切り替える。
イビルジョーの食性は暴飲暴食、目の前に餌が放られたらとりあえず口に入れるくらいの食性なのだ。
それに目の前の個体は飢餓イビルジョー、もはや食欲は暴走状態といってもおかしくない。


ポーチへ手を伸ばす。


深層シメジと間違えて採取したキノコを潰して生肉に破片を馴染ませる。
本来はすり鉢やちゃんとした環境でやらないとだけど場合が場合だ、手先が痺れるくらい、命があるだけマシだ。



調合したそれをイビルジョーに放り投げる。



肉の臭いを感じたのか、地面の土ごと放った生肉を喰らう。



——瞬間、巨体が硬直する。


わなわなと震えているイビルジョーはシビレ生肉を食べた所為で麻痺状態にある。

逃げるなら今しかない、と朽ちたシェンガオレンを伝って、なんとかエリアを後にした。

【リベトラ読者企画】ルカ、古代林にて ( No.88 )
日時: 2016/01/11 16:14
名前: 敷島クルル ◆vhkHu4l20g (ID: QRmoI/Ul)

「と、まぁこんなことがあったんですよ!教官!」
「…これは!深層シメジの刺身…うむ!美味である!どうだルカ!美味しいか!」
「はい!美味しいです!」

僕が道場へ帰るころには完全に夜。
月明かりを頼りになんとか命からがら帰還することが出来た。

僕の所為で夕飯が遅れるという危惧は杞憂に終わった、冷静に考えれば深層シメジのみの夕飯なんてあるわけない。
聞けば父さん、村長がいつも僕の世話をしてくれている教官を労って所有している牧場から取れた品を寄越してくれたそう。

それで軽い2人だけのパーティをやろうと、教官が考えてくれた。

そしてメインを飾る品は、僕が取ってきた深層シメジ。

断面が妖しく発光している薄い刺身がなんとも面妖なオーラを醸し出している。

「時にルカ!飢餓イビルジョーだがな、近々ギルドが精鋭ハンターの討伐隊を出すそうだ、お前がイビルジョーを発見してくれたからだぞ!」
「ありがとうございます!驕らずこれからも精進します!」
「うむ!」

教官が会話を終えかきこむように他の盛り合わせに箸を伸ばす。
前菜である鍋やら魚を食べた僕はお腹を休める為にその様子を見ている。

「…教官?そのキノコの盛り合わせはなんですか?」
「これはだな!万が一お前が失敗したときの為に今日!吾輩が採取したキノコだ!」
「流石です!教官!」
「ワッハッハ!」

豪快に塊のようなキノコを口に放り込む。

「深層シメジ初めて食べたんですけど、美味しいです!」
「だろう!ハンターとは自分で採取した素材を自分で食べることも出来る!それも魅力よな!」
「はい!」
「ガッハッハ!!」

豪快な笑い。

自分で採取した素材…。
今噛み締めている物が今日、僕が命を賭して採取した食べ物。

なんとも言い難い感動を胸に覚える。

…はやく。

「はやくハンターになってこういう生活をしたいです…!」

縁側から月を見上げる。
今この月をまだ見ぬ未知のモンスターも同じように見ているのだろう、そして僕は早くそのモンスターに出会ってみたい。


「…ッ!ガッハッハ!ッハッハ!」
「教官?」


さっきから教官の様子がおかしい。
どうしたんだろううずくまって。

「教官、笑い過ぎですよ、良いことでもあったんですか?」
「ハッハッハ!…いやなルカ!そこのキノコを食べてからどうも笑いが止まらんのだ!ワッハッハ!…ハッハ!」

教官が手を付けた皿を見る。
黄色や真っ赤なキノコ、果てには黄色と黒の斑模様のキノコまである。

……。

…………。

「ワライダケですよ教官これ!!!はやく吐きだして!!」
「ハッハッハ!!そうはいってももう飲み込んでしまったものは仕方ない!ガッハッハ!!」
「あ〜どうしよう!…あっ!とにかくお水!お水で胃を洗いましょう!」


とにかくでかい教官の笑い声が外にまで響く。
これでは恐らく村の人たちにも聞こえていることだろう。

もし心配して訪ねてきたらどう対応しようかと悩みながら台所へと足を進める。


—————ふと、風が吹く。




思わず外を、遠く月明かりに照らされている山岳を見る。
暖かい風、柔らかな風が一瞬僕を撫でた。



その感覚に、昔父さんから読ませてもらった村の伝承を思い出す。



……。【始まりの風、ベルナ】


龍歴院で名を馳せるハンターが皆、感じていたとされる噂話。
季節外れの暖かい風をその人は感じるのだという、そして、それは他の人は感じていない。


ただそれだけの根も葉もない伝承。



僕の思い違いかもしれないけど、今感じた温もり。



「…………何か、始まったらいいな。」



見つめていた山岳に、ふと話しかける。
僕のハンターライフはまだ始まってすらいない、その日が来るまで、僕はこの道場で頑張るんだ、と胸に決意を固める。