二次創作小説(映像)※倉庫ログ

二章【青き英雄】 ( No.95 )
日時: 2016/02/07 21:18
名前: 敷島クルル ◆vhkHu4l20g (ID: QRmoI/Ul)

「全員揃ったわね。」
「…して、手筈はどのように?」

篝火が揺らめき夜も深まる頃合い。
既に多くの人間が眠りについており、昼夜休みのないクエスト受付のカウンターにも、怠慢かトイレか分からないが嬢の姿は見えない。
ただ分かるのはこの場には龍歴院入口を物陰から覗いている3人しかいないこと。

「シュート、ルカはいいのか?」
「言ったでしょナナちゃん、あの子は私達の仕事には関係ないの…あの子が寝てる間に終わらせて帰るわよ。」

「…ギルドナイトの権限を使えば閲覧は可能なのでは無いのですか?」
「出来るかもだけど、私がギルドナイトって分かれば連中が何をしてくるか分からないわ。。」
「…しかし忍び込んで盗み出すとは。」
「それしか方法がほんとにないのよ、夜なら警備は薄いし、それにこの時間に働いている人間は限られる。」
「…研究員や学者が殆どかと。」
「えぇそうね、9割は真面目に働いている職員よ、でも確実に残りの1割は存在するの。」


言わずもがな。
共通する答えが3人の脳裏に浮かぶ。

【シックバザル】、龍歴院に確実に潜む密猟グループ。

「ねねシュート、潜入だけならシュートだけでもいいんじゃないのか?」
「…ナナちゃんとアンタには有事に備えて欲しいの、昼間に潜入してきたけどどうしても入れない一画があって、そこが怪しい。」
「戦闘もあり得る、という事ですか?」
「そういう事ね、あちらもそんな大事にはしないだろうけど念のためね、ほら良くあるじゃない、いいとこまで潜入したのは良いけど深入りして敵に見つかる女スパイみたいな本。」
「…読んだことがありません。」

カイムのぼやきを無視してシュートが続ける。

「別に中じゃそわそわしなくて大丈夫よ、龍歴院は年中ハンターが出入りしてる、そこに昼夜の概念はないわ…流石に夜更けはあまり聞かないけれど。」
「…ならばどうして隠れている必要があるのですか。」
「ほら、雰囲気でるでしょ?」
「……。」

発見者に即応するための拳をため息と共に解く。

「流石に最深部というか、資料保管室は私が入る、アンタやナナちゃんに見られたら困るデータが入ってるかもだし。」
「そこは問題ないです、興味もありません。」
「そっ、じゃあ早速行動開始ね。」
「おおー!潜入だな!あてこういうの好きだぞ!…むぐっ!んんんっ!にーさん!何さ!強引なのは嫌われるぞ!」

大声でバカな事を叫ぶ口を塞ぐ。

建物を見上げる。
明かりに照らされた龍歴院は壮観とも不気味とも取れる存在感で門を開け放っている。

「…【シックバザル】を見付けたら?」
「殺しはだめ、というか接触は避けたいわね、それはまだ、この時じゃないわ。」
「…了解。」

二章【青き英雄】 ( No.96 )
日時: 2016/02/09 22:53
名前: 敷島クルル ◆vhkHu4l20g (ID: QRmoI/Ul)

第一印象は大理石に反響する自身の足音。
天井に吊るされた明かりが加工された大理石に反射し、宮殿を思わせる無駄のない県美さを脳裏に覚える。

次に感じたのは見た目の清潔さとは逆に、反響に反響を重ね、どこから聞こえてきてるのか分からない会話。
詳しく聞き取れないがモンスターの生態についての会話だということはなんとなく分かった。

「ここはまだ入り口だから怪しまれることは無いだろうけど、最深部は別よ、気を付けて。」
「御意。」
「ぎょいー!」

廊下の幅はおおよそ10尺、昼間は研究員やハンターで溢れかえるであろう廊下もいまや貸切に等しい。

歩く、歩く。

ただ聞こえるのは自分の足音のみ。

やがて扉の前へとたどり着く。
重圧そうな扉、そう感じたのは今まで通り過ぎていた木製の扉と違って金属製の扉だったからであろう。


「……。」

先陣を切るシュートさんが目配せをする。
それはつまりここから先は何があるか分からない、ということ。

退路を脳内に浮かべる、往復。

「…。」

了解の意を彼女に返し、扉に手がかかる。

堅牢な扉は意に反して容易に開いた。
漏れ出したのは冷気、廊下が天井の明かりや研究員が居る部屋からくる暖房の暖気で温まっていたせいか身体が敏感にそれを察知する。

付けられていないか念のため後方を確認し素早く扉を閉める。





冷気に加え、明かりが無い。
保管された書物特有のカビの臭いをつんと鼻で感じ、ここが目的地なのだと把握する。


「…明かりが見当たらないわね。」
「あて閃光玉あるぞ?…って痛い痛い!冗談だってばにーさん!何か最近多いよこれ!」


緊張を欠いている口を黙らせる。
俺の手でアヒルのような口になっているナナはさておき、確かにこの暗がりではシュートさんの仕事もままならないだろう。

「…シュートさん、松明を持ってきましたが使いますか?」
「アンタ流石ね、でも火が無いのよね。」
「…火。」

迂闊。
有事に備えて松明を持ってきたまではいいが、確かに火が無くては松明の意味を為さない。

「廊下の天井の明かり貰うとか?」
「現実的じゃないわね、カイムに私が肩車しても届かないわよ。」
「シュート…ちっちゃいんだな。」
「どこ見て言った、おい、今どこ見て言ったコラ。」
「え?おっぱい。」
「キーーッ!!この小娘!!こっちが下手に出りゃ調子のって!!この!!」
「あはははっ!!シュート怒った!!」
「…五月蠅い。」

だとしても妙な話だ。
ここが書類保管庫だとしたら確実に明かりはあるはずだ。

「…ナナ、どこまで見える?」
「ん?うんとね、うっすらとしか見えないけど壁に臭いのが付いてる。」

臭いの…、アルコールランプか。

「その近くに火の種があるはずだ、灯せ。」
「うひ〜、苦手なんだよあの臭い間近で嗅ぐの。」
「やれ。」
「分かったよもう、に〜さんもひどいなぁ。」


指示に従い、暗がりの中ナナが移動する。
常人ならば見えなくともアイツならば問題はない。

程なくしてマッチの擦る音が聞こえる。



…。



だが一向に明かりが付く気配はない。


「…何をやってる。」
「に〜さん、マッチ折れちゃう…。」


………。

……………。

二章【青き英雄】 ( No.97 )
日時: 2016/02/17 14:57
名前: 敷島クルル ◆vhkHu4l20g (ID: QRmoI/Ul)

断続せず、外から風の音がする度に使い古された蝋燭の火は揺らぐ。
扉回りの警戒を俺とナナに任せ、シュートさんは手慣れた様子で書類を漁っている。

もう10分は経つ頃であろうか、今まではルーティン化された動作で書類を見ていた手がピタリと止まる。

「…目当ての物ですか?」
「……!」


聞こえていないようだ。
ストロボのような蝋燭の明かりが彼女に当たり、辛うじて見えた横顔からは深刻な表情を伺える。

「…求めていた物とは違うけど、面白いものが取れたわ。」
「?」

引き攣った笑みを浮かべて再び作業に戻る。

察し、隣でいびきをかいてるナナを叩き起こし、自分達も扉回りの警戒を進めた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「…。」

異変を感じたのはシュートさんが書類の束を元あった場所に戻そうとしていた頃。

廊下から微かに聞こえる足音。
倉庫の扉までの道は一本道しかなく、ここに入られるのも時間の問題だ。

「……。」

目配せ、彼女は数枚の書類を懐に仕舞い、ナナは部屋の火を消す。


一転して静まり返る室内、相変わらず聞こえる外の風の音。
それと自身の鼓動。

手刀を構える。


「…。」


足音が扉の前で止む。
しかし入ってくる気配は一向に無い。

しばらくして足音は再び廊下の奥に戻り小さくなっていった。



ナナからの頷きを合図に俺達は部屋を出た。