二次創作小説(映像)※倉庫ログ

二章【青き英雄】 ( No.98 )
日時: 2016/02/21 13:23
名前: 敷島クルル ◆vhkHu4l20g (ID: QRmoI/Ul)

風が強く、夜を灯す明かりは今にも消えそうに揺らいでいる。

明滅する明かりで幻想的に小麦を思わせる髪を照らしながら、シュートさんが笑顔で前を見据える。

「面白いものが取れたわ、帰って読み込みましょ。」
「…はい。」
「う〜さびさび、早く宿に戻ろうよ。」

小動物のように身体を丸めたナナが我先にと宿へと向かう。




受付でいつもの感じの良い嬢から別の部屋を用意してもらい、部屋に入る。
木造の部屋はヒノキの心地の良い香りで満たされ、暖房が効いた部屋に入るや否やナナがベッドへと横たわる。

念のため付けられていないかを確認し扉を閉める。


「…それで、入手した書類は。」
「これね。」


外套から数枚の書類が出される。

「目ぼしいのだけ抜いてきたわ、まず最近の龍歴院へ入荷された素材のデータ、それに配備された人員の増減データ…それと。」


もう一枚を外套から出す。
今までの茶ばんだ色の、低質な紙ではなく、薄い水色の、ネコート様が持っているのを見た事がある程度の紙。

————即ち、重要書類。


「飛行船消失データと消失ポイント、それと周囲に生息しているモンスターの分布ね。」
「…。」


飛行船消失。
ポッケ村でネコート様が仰っていた不安要素。


「…【シックバザル】の仕業ですか。」
「それが妥当ね、消失している船の殆どは食材やモンスターの素材。」
「…事故を装い飛行船を襲撃していると。」
「その可能性が高いわね、…それと龍歴院に入荷されている物資の増加、人員強化も目につくけど、何か関係あるのかも。」

ふむ、と彼女が顎に手を添える。

「まだデータが足りないわね、また忍び込む…?いや、もう見れる書類は全部見た、聞き込み…?」

独り言をつぶやく。

…どうしたものか、龍歴院の現状など露にも興味もないが思った以上に【シックバザル】に関する資料が少なすぎる。



「乗りこめばいいんじゃない?」



———それは布団に丸まったナナから発せられた。


「…乗り込むだと?龍歴院を相手にするつもりは毛頭ない。」
「そうね、まだ証拠もないし強行手段は早いわね。」

「ん?あてが言ってることちがうぞ?」


毛布から手を伸ばし、指先が俺とシュートさんの間を指す。
そこには夜空、星々が輝いている。


「飛行船にさ、乗りこめばいいんだよ。」









二章【青き英雄】 ( No.99 )
日時: 2016/03/03 23:55
名前: 敷島クルル ◆vhkHu4l20g (ID: daUscfqD)

身を膨らませた雷鳥が人間の生活の残滓を漁りに朝早くのドンドルマの屋根に数羽止まっている。
【龍歴院】潜入から3日、シュートさんから得た情報で積み荷を乗せた飛行船へと搭乗する手筈を進めていた。

「ミナトさん!」

快活な声。

「…ルカさん、どうかしましたか。」
「それが…ナナさんが見当たらなくて、知りませんか?」
「…彼女は恐らく何処かで寝ています、探さなくて大丈夫ですよ。」
「分かりました!じゃあ自分作業に戻りますね!!」

所狭しと作業場を走り回る少年。
正直今回の任務に連れて行くのには迷いがあった。

消失された船の多くがモンスターの素材や食料物資の入った物、そこへ潜入し真相を確かめる。
何とも不明瞭で曖昧な任務、船内では【シックバザル】の人間が何かを起こす可能性もある。

危険なのは承知、だが少年は自分に付いてくると言ったのだ。
ならばその意思を汲み取る。


「…干し肉にパン、酒。」


運び出される荷物を確認し、書類に印を付ける。
シュートさんの計らい、…彼女のギルドナイトとしての職務の一環として、飛行船乗組員に編入することが出来た。

…本来ならばギルド本部の人間ではないと出来ない仕事のはずだが、そこに自分達をねじ込んでくれた彼女に感謝しよう。


「…。」
「………。」
「おい。」
「ひゃっ、ひゃい!!」


積み荷に隠れていたナナを見付ける。


「に、にーさん…なにさ!あてはちゃんと仕事してるよ!」
「頬にパンのカスが付いた人間の喋る言葉ではないな。」
「え、えぇとね〜、これはね!」





「…人間ではなかったな、モンスターだったな。」




ピシリ、と空気が止まるのを肌で感じる。
言葉を受けた少女の表情は、悲しみでもなく、怒りでもなく、ただ、受け入れていた。




「ごめんねにーさん、でも何してたらいいか分からなくて。」
「分からないなら今みたいに隠れていろ、それと積み荷にも手は出すな、バレても責任は取れん。」
「うへぇ!?あて朝から何も食べてないんだよ!」
「貴様だけではない、我慢しろ。」



心に冷たい物が落ちる。
俺を見つめる少女の目はいつも純粋で無垢で、そして感情がない。



「…貴様は有事が起こったとき働けばいい、それ以外は出てくるな、俺の迷惑だ。」
「うん、分かってる。」
「……。」



会話が終わる。

口を聞くのも憚るがコイツと話すと自分の使命を再確認できる。
…そしてそれはコイツも同じ筈だ。



袖に仕込んだナイフを握る。



今日、これを刺せる機会が来ることを願おう。