二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 九条天のお気に入り ( No.3 )
- 日時: 2016/01/28 22:32
- 名前: 結縁 ◆4sm6BVQPVk (ID: yxDSzo5A)
Episode2【勧誘】
そうして今に至るんだけど……。
思い返してみても、未だに状況が信じられない自分がいる。今をトキメク九条さんのお宅にお邪魔して、こうして話してるだなんて。
夢でないと言うなら、なんだと言うのだろうか。
「よし、大分髪は乾いたかな? 後は……着替えも必要だよね」
思考錯誤している間に、髪を拭き終えた九条さんが呟いて、そのまま濡れたタオルを手に、立ち上がる。
そのまま部屋の片隅にある、クローゼットに近づくと白いセーターを一着取り出した。
「これに着替えて。ボクは温かい飲み物を用意するから」
言うなりキッチンの方へ向かいそうになる九条さんを、私は慌てて呼び止めた。
「いえ、大丈夫ですので! それにもう帰らないと……」
タオルを借りただけでも悪いと思っているのに、まして衣類を借りるなんて、とてもじゃないけど出来ない。
ファンの方に知られたら九条さんの評判にも関わるだろうし……。
そう考えて遠慮したのだけど。
「帰るって、そんな透け透けの服で外歩くつもり?」
指摘されて自分の格好を改めて確認して……下着がくっきりと透けていた事に、ようやく気づいた。
「それはその……」
こんな姿を見られていたのかと思うと、羞恥心で可笑しくなってしまいそうだった。
「歩けないでしょ? そのままじゃ。だから大人しくボクの言うとおりにして」
黙り込む私に、九条さんは改めてズイっとセーターを突き出すと、言葉を続けた。
「ボクは向こうで待ってるから。着替えたら声掛けて、送って行くから」
それだけ言うと、部屋に私を残して九条さんは出て行ってしまった。
こうなってしまっては断ることも出来ないし、ここに長居するのもよくない。
私は覚悟を決めて、貸していただいたセーターへと袖を通す。ふんわりとした肌触りが心地よく、優しい香りがした。
「……お待たせしました」
着替える間、待っていてくれた九条さんに声を掛ける。すると短い返事の後、名前を聞かれた。
「そういえば、名前聞いてなかった」
「……神咲律です」
「律、ね。それじゃ行こうか」
名前を呼ばれた瞬間、時が止まったみたいな錯覚に襲われた。
こんなふうに呼ばれる日が来るなんて考えた事もなかったから、無意識に立ち止まってしまう。
そんな私に九条さんは嫌な顔一つせず、
「ほら、帰るんでしょ?」
そう言って笑った。
「はい……」
笑顔を見て、顔が熱くなるのを感じながらも、2人並んで外へ出た。
*
2人で暫く歩いて、公園の近くまで戻った辺りで、私は立ち止まる。
「あの、ここで大丈夫ですので」
口ではそう言ったものの、ここで別れるのを寂しく思ったりする。
けれど、話せた事だけでも奇跡的だったし、しっかりと考えなければならない事も出来たから。
「そう? それじゃ、いい返事待ってるから……」
「はい……考えてみます」
私の言葉を最後に九条さんは背を向けて歩き出す。その姿を見ながら帰りに九条さんから、持ち掛けられた内容を思い出していた。
勧誘の内容は……八乙女事務所に正式に所属してTRIGGERの曲を作って欲しいというものだった。
突然だったし、何故私にそんな事を頼むのか理解ができなかった。だから、深く考える事もせず、断ろうとしたんだけど。
その前に、「返事は急がないから、考えてみて」と言われて……連絡先まで交換してしまったという訳。
「どうしよう……」
あまりに突拍子の無い出来事に困惑しっぱなしで、簡単に答えが出るとは思えなかった。
「TRIGGERの曲を私が……?」
考えるだけでドキドキするし、そうなったら素敵だなと思う自分もいる。
だけど、同じくらいに私なんかの曲で本当にいいのかと思う自分もいて。
「……今度のTRIGGERのライブを見に行って、それで考えてみよう」
借りた服も返さなければならないし。何より、改めて彼等の歌を聞けば何かが分かる気がした。
そう考えて、今日は休もうと決める。だけど、こんな特別な事があった日に眠れるわけもなく……結局気がつけば朝になっていた。